弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定を取消す。
     本件再審請求事件につき名古屋高等裁判所がした再審開始決定に対する
原審検察官の異議申立を棄却する。
         理    由
 本件特別抗告の申立理由は、末尾添付書面記載のとおりである。
 本件記録によれば、申立人Aに対する強盗殺人被告事件について、第一審名古屋
地方裁判所は、大正三年四月一五日、申立人を死刑に処する旨の判決を言い渡し、
これに対し申立人より控訴の申立があり、第二審名古屋控訴院は、同年七月三一日、
第一審判決を取消し申立人を無期懲役に処する旨の判決を言い渡し、申立人から更
らに上告の申立があつたが、同年一一月四日大審院において上告棄却の判決がなさ
れた結果、右第二審判決は同日確定し、申立人から現行刑訴法の施行後である昭和
三五年一一月二八日、右確定判決たる第二審判決を対象として本件再審請求がなさ
れ、名古屋高等裁判所は、昭和三六年四月一一日再審開始决定をしたが、原審検察
官からこれに対し現行刑訴四二八条二項に基づく異議の申立があつたので、同裁判
所は、同三七年一月三〇日、右異議申立を適法であると認め、再審開始決定を取消
し本件再審請求を棄却する旨の决定(以下これを原決定という。)をなし、これに
対し申立人から本件特別抗告の申立がなされたことが認められる。
 右事実によれば、申立人に対する前記強盗殺人被告事件は、旧旧刑訴法(明治四
二年法律九六号)の下において、その公訴の提起があり、且つ、終結した事件であ
ることが明らかである。
 ところで刑訴法については、その後順次法律の改正がなされたのであるが、旧旧
刑訴法に代つて施行された旧刑訴法(大正一一年法律七五号、大正一三年一月一日
施行)六一六条一項は、「本法ハ本法施行前ニ生シタル事件ニ亦之ヲ適用ス」と規
定し、また現行刑訴施行法(現行刑訴法と共に昭和二四年一月一日施行)は、三条、
三条の二所定の例外の場合を除き、その二条において、「新法施行前に公訴の提起
があつた事件については、新法施行後も、なお旧法及び応急措置法による。」と規
定している。そして右施行法二条にいう「新法施行前に公訴の提起があつた事件」
とは、昭和二三年一二月末日までに公訴の提起があつた事件をいい、その現に第一
審に係属中たると上訴審に係属中たるとを問わず、またその判決が確定し執行の段
階にあるものたると既に執行を終つたものたるとを問わず、すべてこれを含む趣旨
である。従つて、本件再審請求事件は、現行刑訴法施行後にその請求がなされたも
のではあるけれども、前記の如く現行刑訴法施行前に公訴の提起があつた事件に関
するものであるから、右施行法二条の定めるところにより、なお旧刑訴法及び日本
国憲法の施行に伴う刑訴応急措置法(以下単に応急措置法という。)によつて処理
されるべきものであつて、これに対し現行刑訴法が適用あるものと解すべきではな
い。
 しかして、旧刑訴法及び応急措置法は、現行刑訴四二八条二項に該当する規定、
即ち高等裁判所がした決定に対し更らにその高等裁判所に異議の申立をする制度を
認めていない。それ故、高等裁判所が、いわゆる旧法事件(本件の如き再審請求事
件等を含む。)についてなした決定に対しては、応急措置法一八条により特別抗告
をするは格別、異議の申立をすることは許されていないのである。このことは、高
等裁判所が、右決定をするに当り、前記施行法二条の規定により旧刑訴法を適用す
べきであつたにも拘らず、誤つて現行刑訴法を適用した場合においても、同様に解
すべきである。蓋し、かかる高等裁判所の誤つた法令適用によつて、法律によつて
いわゆる旧法事件とされたものが、いわゆる新法事件に転化すべき理由がないから
である。
 原決定が以上と見解を異にし、本件再審開始決定に対する原審検察官の異議申立
を適法と認めたのは、右施行法二条の解釈を誤つたものであり、原決定と同趣旨に
出でた昭和三四年(す)第二五七号第二小法廷決定は、これを変更すべきである。
 右に述べた如く、本件再審請求事件については、旧刑訴法及び応急措置法が適用
されるのであるが、最高裁判所は、抗告については、裁判所法七条二号の規定によ
り、応急措置法一八条のように訴訟法が特に最高裁判所に対しなし得るものと定め
ている抗告についてのみ、裁判権を有するものであることは、当裁判所の既に判例
(昭和二二年(つ)第七号、同年一二月八日第一小法廷決定、刑集一巻一号五七頁)
とするところであるから、原決定に対する本件特別抗告は、これを応急措置法一八
条による抗告と認め、以下これにつき判断する。
 抗告理由第一は、原決定の判例違反を主張する。
 しかし、応急措置法一八条は、判例違反を抗告理由として規定していないのみな
らず、同条による特別抗告については、現行刑訴四〇五条二号三号および四一一条
一号の準用のないことは、昭和二六年(し)第四七号同二八年六月一〇日大法廷決
定(刑集七巻六号一四一九頁)の既に判示するところである。されば、所論は、適
法な特別抗告理由に当らない。
 抗告理由第二の一は、原決定が法律の明文なくして本件再審開始決定に対する原
審検察官の異議申立を適法であると認めたのは、憲法三一条に違反すると主張する。
 しかし、応急措置法一八条は、「その決定において、法律、命令、規則又は処分
が憲法に適合するかしないかについてした判断が不当であることを理由とするとき
に限り」、特別抗告をなし得ることを規定しているところ、原決定は、所論原審検
察官の異議申立を適法と認めるについて、本件再審請求事件の再審開始手続に旧刑
訴法を適用しないで現行刑訴法を適用することが、所論憲法三一条に適合するかし
ないかということについては、何らの判断を示していないのであつて、このことは
原決定の判文上明らかである。
 原決定は、所論原審検察官の異議申立を適法と認めるに当り、本件再審請求事件
の再審開始手続については、現行刑訴施行法二条の規定を根拠として旧刑訴法及び
応急措置法を適用すべきであるとする見解を排斥し、その理由として、「現行刑訴
法は、基本的人権の保障を理念とする憲法のもとで、この憲法の精神を刑事訴訟手
続に移し、刑事被告人の保護、基本的人権の保障を図るため、特に旧刑訴法を大幅
に、そして根本的に改正して、できあがつたものである。従つて、旧刑訴法のもと
で公訴の提起された事件でも、現行刑訴法によることの特段の支障のない限り、現
行刑訴法により審判すると解することが、憲法の精神にも副う所以である。従つて
旧刑訴法のもとで公訴が提起され審判された事件であつても、これに附随する手続
で、現行刑訴法によることが格別の支障のない場合には、この附随する手続につい
ては、現行刑訴法によるものと解するのが相当である。云々。」と判示している。
これは、帰するところ、本件の如き再審請求事件の再審開始手続について旧刑訴法
及び応急措置法を適用することは、国民の基本的人権の保障を理念とする憲法の精
神に副わないものであり、これに反すると判示したものと解せられる。
 しかし、「新刑訴法を如何なる時から如何なる事件に適用するかは経過法の立法
に際して諸般の事情を勘案して決せらるべき問題で法律に一任されているものであ
る、従つて刑訴施行法二条が新法施行前に公訴の提起があつた事件については、新
法施行後もなお旧法及び応急措置法による旨を規定し新法を適用しないことにした
のは何等憲法に違反するものではない」ことは、昭和二三年(れ)第一五七七号同
二四年五月一八日大法廷判決(刑集三巻六号八四七頁)の既に判示するところであ
る。
 されば、原決定の前記憲法判断は不当で誤りであるというべく、所論は、右と異
なる理由を主張するけれども、原決定の取消を求めるその結論において正当なるに
帰し、本件特別抗告は結局その理由があり、原決定はこの点において取消を免れな
い。
 よつて、その余の抗告理由に対する判断を省略し、もつぱら右の理由により原決
定を取消し、本件再審開始決定に対する原審検察官の異議申立を不適法として棄却
すべきものとし、刑訴施行法二条、旧刑訴四六六条二項に従い主文のとおり決定す
る。
 この決定は、裁判官全員一致の意見によるものである。
  昭和三七年一〇月三〇日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    横   田   喜 三 郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    高   木   常   七
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    斎   藤   朔   郎

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