弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人谷本貞雄の上告理由一および二について。
 論旨は、DがEを上告人のため復代理人に選任した旨の原審の判断には、民法一
〇四条の解釈を誤つた違法があるという。原判決によれば、Dは上告人の委任を受
けて本件不動産を管理していたというのであるから、委任による代理人にあたるも
のというべく、したがつて、上告人のため復代理人を選任しうるためには、民法一
〇四条の規定により、上告人の承諾を得たか、または、右選任につきやむをえない
事由があつたことを必要とするものというべきところ、原判決の確定した事実関係
に照らせば、右要件のいずれをも充足する場合にあたらず、むしろ、Dとしては上
告人のため復代理人を選任しえない場合であつたとの疑いがないでもない。しかし、
また、原判示によれば、原審は、Dが原判示消費貸借契約を締結し、その担保のた
めに本件不動産に抵当権を設定し、または所有名義を移転するにつき、Eを上告人
の復代理人としてではなく、自己の代理人として選任したこと、EはDから付与さ
れた右代理権に基づき、あるいはこれを踰越して、被上告人の代理人Fとの間に本
件消費貸借契約ならびにその担保のための本件抵当権設定および所有名義変更手続
をしたこと、一方DのEに委任した前記消費貸借契約締結等の行為もまた当初の上
告人のための代理権を踰越したものであつたことをいう趣旨であることが窺えると
ともに、Eの行為のうちDから付与された前記代理権を踰越してなされた部分につ
いてDのため、Dの行為について上告人のため、いずれも民法一一〇条の表見代理
が成立すると判断したものと解しえないでもなく、右判断は、原審がその挙示の証
拠により確定した事実関係に照らして、肯認することができる。しかりとすれば、
Eのなした行為の効力はDに及び、ひいて上告人にその法律効果が生ずるのは当然
というべきである。したがつて、これと結論を同じくする原審の判断は、結局にお
いて正当に帰するから、論旨は採用することができない。
 同三について。
 論旨は、DがEを上告人の復代理人に選任したものとしても、Eにはなんら上告
人のための代理権がなかつたのであるから、原審には民法一一〇条および一一三条
の解釈適用を誤つた違法があるという。しかし、原審は、DがEを上告人の復代理
人に選任したのではなくて自己の代理人に選任した旨判示した趣旨と解しうること
は、前記説示のとおりである。したがつて、論旨は前提を欠くに帰し、採用するこ
とができない。
 同四について。
 論旨は、原審は、基本たる代理権となんら関連性のない行為について表見代理の
成立を認めた点において、民法一一〇条の解釈適用を誤つたものであるという。し
かし、民法一一〇条の規定は、代理人の行為がその代理権のある事項と関係がある
と否とにかかわらず適用があるものと解すべきことは、当裁判所の判例(昭和三〇
年(オ)第二八六号同三五年一二月二七日第一小法廷判決・民集一四巻一四号三二
三四頁参照)とするところである。したがつて、論旨は採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
 裁判官横田正俊は海外出張のため署名押印することができない。
         裁判長裁判官    下   村   三   郎

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