弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告は棄却す。
         理    由
 抗告人は「原審判を取り消す。本件相手方の申立は却下する。」との裁判を求め
た。その抗告理由は別紙記載のとおりである。
 抗告人の右主張の要旨は「元内地人であつた者でも平和条約の発効前に台湾人と
の婚姻によつて内地の戸籍から除籍せらるべき事由の生じた者は、現実に台湾の戸
籍に入籍したかどうかを問わず、台湾人として条約発効とともに日本の国籍を喪失
するものと解するのが相当である。相手方は昭和二三年五月一五日台湾人Aとの婚
姻届を大阪市北区長に提出し、その受理によつて右婚姻は法律上成立し内地の戸籍
から除籍された者である。
(ただ右届出は事実上台湾に送付できなかつたため夫の戸籍に登載する手続が未了
になつているに過ぎない)から、平和条約の発効とともに相手方は日本の国籍を失
つたものである。市(区)町村長は戸籍の届出が法令に違反しないことを認めた後
でなければこれを受理することができない。外国人等のごとく戸籍に記載すべきで
ない者についての就籍の届出は受理できない。相手方は日本の国籍を有せずこのこ
とは戸籍面上明らかである。従つて抗告人が本件就籍の届出を受理しないのは当然
である。就籍許可の審判は抗告人に対し相手方が日本人であることを認めなければ
ならない法律上の拘束力を有するものとは考えない」というにある。
 <要旨>しかしながら、市(区)町村長は戸籍法上の届出の受理、不受理を決する
に当つては、その届出が民法、戸籍法等に規定する法定要件を具備するかど
うかを審査し、届出に添附書類を要する場合には、届出事項が添附書類の記載と一
致するかどうかを審査する、いわゆる形式的審査権限を有するにとどまり、届出が
届出人の真意に出たものかどうか、届出事項が事実に一致するかどうか、添附書類
の記載が真実に合致するかどうかの実質的審査権限を有するものではなく、形式上
適法な届出は必ずこれを受理する外はなく、これについて不受理処分をなすことは
許されない。このことは戸籍法を通じて明らかなことである。戸籍の記載は身分関
係の公証目的とするから、それが適法であるはかりでなく、真実に合致することを
理想とする。けれども実質上の判断を市(区)町村長に委ねることは機構上適当で
はないし、また事実上不能でもあるから、実質的審査は市(区)町村長の権限と責
任の範囲外に置き、その審査は裁判機関に行わせる途を開いているのである。
 本件についてみるに、市(区)町村長は就籍の届出があつたときは、届書の記載
が戸籍法第一一〇条第二項の法定要件を具備するかどうか、添附された許可の審判
書の謄本の記載に届出事項が一致するかどうかを審査しなければならないが、審判
に示された事実の認定が真実に合致するかどうか、その法律上の判断が正当である
かどうかを調査検討し、もつて審判の不当を理由に就籍の届出を不受理にすること
は許されない。このことは市(区)町村長に実質的審査権限のないことの当然の帰
結であるが、なお少しく説明を加えよう。就籍は日本人であつて戸籍に記載のない
ものについてその記載をする手続であり、事の性質上届出事項の真実を担保させる
ため、法は裁判機関の関与を必須要件としているのである(戸籍法第一一〇条、第
一一一条)。就籍の許可審判は事件本人が日本人として戸籍に記載さるべきもので
あるかどうか、すでに戸籍に記載されていないかどうかの点について事実上及び法
律上の調査判断の結果なされるものである。本件許可の審判事件の記録(大阪家庭
裁判所昭和二八年(家)第一、三四五号)によれば同裁判所は必要な事実上の調査
をした結果、慎重な判断のもとに、許可の結論を出したことが認められる。相手方
が果して台湾人か、日本人であるかは、単なる自然的事実ではなく、困難な法律問
題の解決を通じて得られる認識であつて、抗告人の見解に従えば相手方は日本の国
籍を喪失した台湾人であり、原決定の論証を是とすれば日本人であつて本籍を有し
ない者ということになるのである。この相異なる意見のいずれが是か非かの点はし
ばらく措く。たとえ抗告人の右意見が正しいにせよ、本件許可審判によつて、相手
方は就籍の届出義務を負うていることの有権的な判断が与えられたのであり、抗告
人の意見によつて、その許可審判の判断の有権性を否定すべくもない。就籍の届出
には、届出期間及びその懈怠に対し過料の制裁を法が定めているし、本来戸籍に記
載さるべき者は就籍の手続をすべき義務を負うべきものというべきであるがら、就
籍の届出は、届出によつて身分関係の得喪変更を生ずる創設的届出ではなく、既成
の事実または身分関係についての報告的届出の性質を有するものであり、審判もし
くは判決された事項について、事後的に戸籍記載のため届出がなされるものであ
る。市(区)町村長がその届出の受理を拒否したとて既成の事実または法律関係が
否定される道理はなく、市(区)町村長は、適式な就籍の届出は、これを受理する
外はないのである。抗告人は相手方は日本の国籍を喪失した台湾人であり、このこ
とは戸籍面上明らかだという。しかし戸籍面上明らかなことは相手方が「Aと婚
姻、夫の氏を称する旨の届出、昭和二三年五月一五日大阪市北区長受付、同年六月
九日送付、中華民国台湾省a県b区cd号に新戸籍編製につき除籍」されたという
ことだけである。相手方が日本の国籍を喪失したというのは、平和条約の発効とと
もにそう解するのが相当であるという、抗告人の法律上の意見であつて、戸籍面の
記載ではない。従つて本件届出は戸籍の記載と符合しないということはないのであ
る。以上要するに市(区)町村長は就籍許可の審判の当否を実質的に審査する権限
はないものであつて、これと反対の見解に立つ抗告人の主張は採用できない。なお
抗告人等戸籍事務担当者は中央所管庁の通達回答を尊重し、これに一応拘束される
立場にあるが、管轄権のない裁判所がした許可でも、これに基く訂正申請は受理を
拒むべきでないとする大正九年六月二六日司法省民事局長回答第二一五六号、確定
判決による戸籍訂正の手続によるべき場合に、家庭裁判所が戸籍訂正の許可を与え
たときも、その許可に基く訂正申請は受理する外はないとする昭和二三年一〇月一
一日法務府民事局長回答民事甲第三〇九七号、すでに死亡した者については就籍は
許さるべきものではないが、もし就籍の許可があり、利害関係人から届け出たとき
は、これを受理すべきであるという昭和二五年九月四日法務府民事局長回答民事甲
第二四一六号がある。これらの回答によれば、市(区)町村長は、裁判の当否を問
題にして、届出の受理を拒み得ないという行政解釈が確立しているといえよう。
 そうすると、以上と同趣旨によつて、抗告人は相手方の就籍届出を受理しなけれ
ばならないとした原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないから、主文のとお
り決定する。
 (裁判長判事 藤田弥太郎 判事 神戸敬太郎 判事 平峯隆)

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