弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人原定夫の控訴趣意は末尾に添附した別紙記載のとおりでこれに対する当裁
判所の判断は、次のとおりである。
 第一点の一、について。労働基準法第百二十一条はいわゆる両罰主義を採用した
者であるところ、同条第一項は違反行為者として事業主のために行為した代理人、
使用人その他の従業者と規定し、法人の機関たる代表者で違反行為者である場合を
掲げていないので同条項の解釈上事業主が法人である場合にその機関たる代表者が
違反行為をした時には事業主を処罰することができないような外観を呈しているけ
れども、違反行為者が代表者である場合とその他の場合を区別すべき根拠がないば
かりでたく、同条第二項は事業主が法人である場合におけるその代表者が違反の計
画を知りその防止に必要な措置を講じなかつた場合、違反行為を知りその是正に必
要な措置を講じなかつた場合又は違反を教唆した場合においてはその代表者も行為
者として処罰する旨明定し、この場合においては法人の代表者は自ら違反行為をし
ないにもかゝわらず「行為者」として直接違反行為をした代理人、使用人その他の
従業者と共に処罰され、更に同条第一項の適用により事業主たる法人に対しても制
裁を及ぼすことを予期しているのであるから、更に一歩を進めて法人の代表者が直
接違反行為をした時は一層強い理由で法人を処罰する必要があり従つてこの場合に
法人を処罰することは当然言うを待たないこととしてこれを明示しなかつたものと
解するを相当とする。されば、原判決が直接違反行為をした被告会社代表者たる被
告人Aを処罰すると共に労働基準法第百二十一条第一項を適用して事業主たる被告
会社を屯処罰したのは正当であつて、法令適用の誤はない。論旨は理由がない。
 <要旨第一>第一点の二、について。労働基準法第二十四条違反の罪における保護
法益は個々の労働者の有する同条所定の方法による賃金支払請求権であ
るから、支払期日が同一であつても個々の労働者毎に、また同一労働者についても
各支払期日毎に一個の独立した賃料不払の罪が成立し、その間に包括一罪又は一所
為数法の関係が成立するものではなく、刑法第四十五条前段の併合罪の関係がある
ものと解すべきである。されば、原判決が原判示第一の罪について併合罪に関する
刑法の規定を適用したのは正当であつて、所論のように法令の解釈を誤つた違法は
ない。論旨は理由がない。
 <要旨第二>第一点の三、について。労働基準法第二十六条違反の罪における保護
法益は個々の労働者の有する法定の休業手当支払請求権であるから、各
労働者毎に独立した一個の休業手当不払罪が成立し、その間に刑法第四十五条前段
の併合罪の関係が成立して包括一罪又は想像的競合罪の関係は生じないと解すべき
である。されば、原判決が原判示第四の罪について併合罪に関する刑法の規定を適
用したのは正当であつて、法令適用の誤はない。
 第二点について。原判示事実は原判決挙示の証拠を綜合しこれを認定するに充分
であつて訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠を精査するに論旨一、に指
摘する事由により本件賃金の不払が被告人の責に離すべからざるものであることを
首肯せしめるに足る証拠が充分でなく、また論旨二、において主張するBは被告会
社が工員として雇入れたものてなく被告人Aが一時身元保護のため預かつたもので
あるとの事実を認めるに足る証拠も充分でなく、これらの点に関する原判決の示し
た判断け正当である。なお、仮に、本件労働者の勤務成績が多少不良であり、また
製品粗悪の一因が本件労働者の技能の拙劣未熟にあつたとしても、被告会社はこれ
に藉口して賃金の支払を免れることはできないと解すべきである。所論は要するに
原審の職権に属する証拠の取捨判断事実の認定を徒らに攻撃するに帰し、採用する
ことはできない。
 第三点について。所論に鑑み、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠を
精査し、本件犯罪の罪質犯情を検討するに、原審の科刑は相当であつて量刑不当の
点は認められない。論旨は理由がない。
 よつて、刑事訴訟法第三百九十六条に従い、主文のとおり、判決する。
 (裁判長裁判官 平井林 裁判官 久利馨 裁判官 藤間忠顕)

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