弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決を取り消す。
2本件を大津地方裁判所に差し戻す。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人の請求を棄却する。
第2事案の概要
1本件は,被控訴人が,控訴人とD,E,有限会社F及び有限会社G(以下,
順次「D「E「F」及び「G」といい,この4名を一括して「本件相被」,」,
告ら」という)を相手取り,不法行為に基づく損害賠償請求として,3億2。
525万9666円及びこれに対する平成15年3月31日(不法行為の最終
時点)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の(連帯)支
払を求めた事案である。
2被控訴人の主張した請求原因事実の要旨は以下のとおりである。
(1)被控訴人は,富山県内で自動車の解体,鉄・アルミインゴットの製造・
販売等を業とする会社である。
(2)控訴人は,D及びEと共謀して,被控訴人からコンサルタント報酬名下
に金員を騙取しようと企て,平成14年2月5日ころ,富山県中新川郡所在
の被控訴人車両総合センターにおいて,被控訴人の従業員Hに対し,被控訴
人の商品(I)につき,真実はJ株式会社に有価の資源として引き取られる
取引が継続的に実現される見込みが立っていないにもかかわらず,この取引
計画が確実なものであるかのように虚偽の説明をし,Hをしてその旨誤信さ
せ,同年3月20日,Fとの間に継続的な商品(I)売買契約を締結させる
とともにGとの間でコンサルタント契約を締結させた。
(3)控訴人は,上記コンサルタント契約により被控訴人からコンサルタント
報酬名下に平成15年3月31日までの間に,合計3億2525万9666
円を自己の指定する預金口座に振り込み送金させてこれを騙取し,被控訴人
に損害を生じさせた。
3原審の第1回口頭弁論期日(平成16年4月14日)において,D(Gの代
表者)は答弁書の陳述を擬制され,Eは答弁書を陳述し,FはE提出の答弁書
と同趣旨の主張をする旨陳述したが,控訴人は出頭せず,かつ,答弁書も提出
。,,していなかった原審受訴裁判所は控訴人を除く原審相被告4名については
続行期日を指定したが,控訴人については,弁論を終結して判決言渡期日を指
定した。
4原審は,控訴人について,第2回口頭弁論期日(平成16年5月10日)に
おいて,第1回口頭弁論期日に出頭せず,答弁書その他の準備書面も提出しな
かったことから,請求原因事実を明らかに争わないものとして,これを自白し
たものとみなし,請求を全部認容する原判決(調書判決)を言い渡した。控訴
,,。,人はこれを不服とし原判決の取消しと請求の棄却を求めて控訴したなお
控訴提起手数料(印紙)は149万7000円である。
5当審において,控訴人は,改めて訴状記載の請求原因事実の認否を行い,H
したがって被控訴人に対し詐欺を働いた事実はない旨の主張をしている。
第3当裁判所の判断
1事実経過
以下の各事実は,記録上明らかであるか,弁論の全趣旨により容易に認めら
れるものである。
(1)被控訴人が提出した本件訴状において,控訴人の現在の居所は大津市a
b番c号所在のK警察署留置場とされていた。
(2)原審受訴裁判所は平成16年3月18日本件第1回口頭弁論期日平,,(
成16年4月14日午後1時15分)の期日呼出状,訴状副本,答弁書催告
状,甲第1号証∼第5号証の3の写し(これらを一括して,以下「本件送達
書類」という)をK警察署長宛に送付し,これらは同月19日11時に従。
業者Lが受領することにより送達が完了したものと取り扱われた。
(3)しかしながら,本件第1回口頭弁論期日が実施されるまでに,控訴人が
本件送達書類をK警察署の係官から交付された事実はなかった。
(4)したがって,本件第1回口頭弁論期日は,控訴人がその存在を認識しな
いまま実施され,前記第2の3のとおり,控訴人を除く相被告については続
行期日が指定されたが控訴人の関係では弁論が終結され判決言渡期日平,,(
成16年5月10日)が指定された。そして,この期日も控訴人に告知され
ることはなく,同期日に,原判決の言渡がされた。
(5)原判決言渡後,K警察署長に宛てて第2回口頭弁論調書(判決)正本の
送達手続がとられたが「当署にはおりませんので受け取れません」との,。
理由で受取を拒絶され,訴状記載の控訴人肩書地であった大阪市d区ef丁
目g−h−iに再度送達が試みられたが,転居先不明でやはり送達がされな
かった。
(6)その後,大津地方裁判所刑事部書記官からの事情聴取により,控訴人の
現住所が「大分市jk丁目l−mMn号室」であることが判明した。
(7)控訴人は,平成16年5月20日17時,N郵便局窓口で自ら第2回口
頭弁論調書(判決)正本の送達を受けた。
(8)その後,K警察署が控訴人に本件送達書類を交付しなかったことについ
て,滋賀県は,手続に誤りがあったことを認め,控訴人に対し,慰謝料10
0万円と本件控訴手数料相当額を支払った。
2検討
,(「」(1)民訴法102条3項は刑事施設に収容されている者以下被収容者
という)に対する送達は刑事施設の長にすることを定めているが,その趣。
旨は,被収容者に対する通信監視の必要があることのほか,刑事施設収容前
の本来の住居所に送達すると,送達書類が被収容者の手に渡るのにかえって
日時がかかることが通常であるから,刑事施設の長に宛てて送達することが
最も迅速確実であって妥当であるとするところにあると解され,それは刑事
施設の長から本人に書類が確実に交付されることを当然の前提とするもので
ある。そうすると,刑事施設の長から本人に第1回口頭弁論期日の呼出状や
訴状副本等が交付されず,本人がその存在を認識しないまま同期日が実施さ
れ,直ちに弁論が終結されていわゆる欠席判決に至ったような場合は,同項
が本来予想していない事態であるということができるのであって,送達自体
を直ちに不存在又は無効と解することはできないとしても,被送達者に手続
保障の見地から看過しがたい不利益が生じる蓋然性があると認められる限
り,その審級の利益を確保する見地から,第1審の訴訟手続が法律に違反す
るものとして,事案を第1審に差し戻すことができるものと解するのが相当
である。
(2)しかるところ,本件は,被控訴人が,控訴人と本件相被告らに対し,こ
れらの者が共謀して犯罪行為(詐欺)を働いたとして共同不法行為責任を追
及する事案であって,その請求額は3億2525万9666円及びこれに対
する遅延損害金という巨額にわたる上,控訴人と本件相被告らとの間におい
て,詐欺行為の存在,これに対する関与の有無ないし程度等の点につき,各
人の主張や証拠関係が細部まで一致するとは限らず,場合によってはそれぞ
れの利害対立が生じる可能性も否定できないこと,本件相被告らの関係でも
これから人証調べが実施されるという状況であること,そうだとすると,こ
の人証調べに当事者として主体的に関与することは,控訴人にとって少なか
らぬ利益であり,上記1説示の事実関係のもとで,特段の落ち度がないこと
が明らかであるにもかかわらず上記利益を剥奪されることは裁判の公正を欠
くものであること,等の諸事情が認められる。そうすると,控訴人が第1審
の審理への実質的関与の機会を与えられないまま当審での審理を継続するこ
とは,控訴人にとって,手続保障の見地から看過しがたい不利益が生じる蓋
然性があるというべきである。
(3)そうすると,本件においては,第1審の手続が法律に違反するものとし
て,原判決を取り消し,なお審理を尽くさせるべく,これを第1審裁判所た
る大津地方裁判所に差し戻すことが相当である。
3結論
よって,民訴法306条,308条1項に従い,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官井垣敏生裁判官森野俊彦裁判官大島雅弘)

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