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平成20年8月28日判決言渡
平成19年(行ケ)第10327号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年7月15日
判決
1原告X
2原告X
原告ら訴訟代理人弁護士上谷清
同永井紀昭
同仁田陸郎
同萩尾保繁
同笹本摂
同山口健司
同薄葉健司
同石神恒太郎
同訴訟代理人弁理士永坂友康
同古賀哲次
被告特許庁長官鈴木隆史
指定代理人田川泰宏
同赤穂隆雄
同吉田耕一
同山本章裕
同小林和男
主文
1原告らの請求を棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2004−20552号事件について平成19年8月20日
にした審決を取り消す。
第2争いのない事実等(証拠を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。)
1特許庁における手続の経緯
原告らは,平成14年2月5日,発明の名称を「インターネットによる商
品の販売方法」(その後,「インターネット通信販売による商品の販売方
法」と補正された〔甲1,2〕)とする特許出願(特願2002−2862
2号。以下「本願」という。)をした。その後,原告らは,平成16年6月
21日付けの手続補正書(甲2)により,本願の願書に添付した明細書の記
載を補正(以下,この補正後の明細書を,図面と併せ,「本願明細書」とい
う。)する手続補正をしたが,同年8月31日付けの拒絶査定を受けたの
で,同年10月5日,これに対する不服の審判(不服2004−20552
号事件)を請求し,同年11月2日付けの手続補正書(甲5)により,本願
明細書の記載を補正(以下,この補正を「本件補正」といい,本件補正後の
明細書を図面と併せ「補正明細書」という。)する手続補正をした。
特許庁は,平成19年8月20日,本件補正を却下し,「本件審判の請求
は,成り立たない。」とする審決(以下「審決」という。)をし,同年9月
4日,その謄本を原告らに送達した。
2特許請求の範囲
(1)本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(
以下,この発明を「本願発明」という。下線部分は本件補正によって記載
が訂正された箇所又は記載が挿入された前後の箇所を示す。)。
「【請求項1】商品の販売元が彩色商品カタログを,インターネット
通信販売システムを介して宣伝し,この商品カタログのデジタル・デー
タを受信した消費者が自己のパソコンのモニタに表示された商品カタロ
グのデジタル画像を見て,その中から購買希望の商品を選択して,販売
元に注文することにより所望の商品を購入するインターネット通信販売
システムを介する商品の販売方法であって,
(イ)販売元が,少なくとも一つの彩色商品の見本画像と基準色画像を
組込んだ商品カタログを作成し,この商品カタログのカラー画像データ
をデジタル商品カタログとしてインターネット通信販売システムを介し
て消費者に宣伝し,
(ロ)このデジタル商品カタログを受信した消費者が,受信データをパ
ソコンのモニタにデジタル画像として表示し,
(ハ)この消費者が,パソコンを操作してモニタに表示された商品カタ
ログの基準色画像の色を自己が所有する印刷された前記基準色画像の色
に実質的に合致させ,同時に色が調整されたモニタ表示の商品カタログ
の彩色商品画像の中から所望の商品を選択して販売元に注文することを
特徴とするインターネット通信販売システムを介する商品の販売方
法。」
なお,審決(審決書23頁20行∼24頁2行)では,本願発明を次の
とおり分説しているが(以下,「本願発明の構成a)」などという。),
本判決においても,同分説に従う。
a)商品の販売元が彩色商品カタログを,インターネット通信販売シス
テムを介して宣伝し,この商品カタログのデジタル・データを受信し
た消費者が自己のパソコンのモニタに表示された商品カタログのデジ
タル画像を見て,その中から購買希望の商品を選択して,販売元に注
文することにより所望の商品を購入するインターネット通信販売シス
テムを介する商品の販売方法であって,
b)販売元が少なくとも一つの彩色商品の見本画像と基準色画像を組込
んだ商品カタログを作成し,この商品カタログのカラー画像データを
デジタル商品カタログとしてインターネット通信販売システムを介し
て消費者に宣伝し,
c)このデジタル商品カタログを受信した消費者が,受信データをパソ
コンのモニタにデジタル画像として表示し,
d)この消費者が,パソコンを操作してモニタに表示された商品カタロ
グの基準色画像の色を自己が所有する印刷された前記基準色画像の色
に実質的に合致させ,同時に色が調整されたモニタ表示の商品カタロ
グの彩色商品画像の中から所望の商品を選択して販売元に注文する
e)ことを特徴とするインターネット通信販売システムを介する商品の
販売方法。
(2)補正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(
以下,この発明を「本願補正発明」という。下線部分は本件補正による補
正箇所を示す。)。
「【請求項1】商品の販売元が彩色商品カタログのデジタル・データ
情報を,インターネット通信販売システムを介して送信し,この商品カ
タログのデジタル・データを受信した消費者が自己のパソコンのモニタ
に表示された商品カタログのデジタル画像を見て,その中から購買希望
の商品を選択して,販売元にその選択された商品の注文情報を送信する
ことにより所望の商品を購入するインターネット通信販売システムを介
する商品の販売方法であって,
(イ)販売元が少なくとも一つの彩色商品の見本画像と色変化尺度とし
ての基準色画像を組込んだ商品カタログを作成し,この商品カタログの
カラー画像データをデジタル商品カタログとしてインターネット通信販
売システムを介して消費者に送信し,
(ロ)このデジタル商品カタログを受信した消費者が,受信データをパ
ソコンのモニタにデジタル画像として表示し,
(ハ)この消費者が,パソコンを操作してモニタに表示されたデジタル
商品カタログの基準色画像の色を自己が所有する印刷された前記基準色
画像の色に実質的に合致させ,同時に色が調整されたモニタ表示のデジ
タル商品カタログの彩色商品画像の中から所望の商品を選択して,販売
元にその選択された商品の注文情報を送信することを
特徴とするインターネット通信販売システムを介する商品の販売方
法。」
なお,審決(審決書5頁23行∼6頁6行)では,本願補正発明を次の
とおり分説しているが(以下,「本願補正発明の構成a)」などとい
う。),本判決においても,同分説に従う。
a)商品の販売元が彩色商品カタログのデジタル・データ情報を,イン
ターネット通信販売システムを介して送信し,この商品カタログのデ
ジタル・データを受信した消費者が自己のパソコンのモニタに表示さ
れた商品カタログのデジタル画像を見て,その中から購買希望の商品
を選択して,販売元にその選択された商品の注文情報を送信すること
により所望の商品を購入するインターネット通信販売システムを介す
る商品の販売方法であって,
b)販売元が少なくとも一つの彩色商品の見本画像と色変化尺度として
の基準色画像を組込んだ商品カタログを作成し,この商品カタログの
カラー画像データをデジタル商品カタログとしてインターネット通信
販売システムを介して消費者に送信し,
c)このデジタル商品カタログを受信した消費者が,受信データをパソ
コンのモニタにデジタル画像として表示し,
d)この消費者が,パソコンを操作してモニタに表示されたデジタル商
品カタログの基準色画像の色を自己が所有する印刷された前記基準色
画像の色に実質的に合致させ,同時に色が調整されたモニタ表示のデ
ジタル商品カタログの彩色商品画像の中から所望の商品を選択して,
販売元にその選択された商品の注文情報を送信する
e)ことを特徴とするインターネット通信販売システムを介する商品の
販売方法。
3審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,下記(1)の理由により,本願補
正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないから,本件補
正は,平成15年法律第47号による改正前の特許法17条の2第5項で準
用する同法126条4項の規定に違反するので,特許法159条1項の規定
において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきで
あり(以下「理由(1)」という。),下記(2)の理由により,本願発明は,特
許を受けることができない(以下「理由(2)」という。),というものであ
る。
(1)理由(1)
ア特許法(以下「法」という。)29条1項柱書違反
本願発明は,専ら,人為的な取り決め及び人間の精神活動を伴う行為
にとどまり,情報処理装置を利用しているものの,その利用は,人為的
な取り決め及び人間の精神活動を伴う行為に関連した道具としての利用
にとどまるものであって,全体として自然法則を利用した技術思想では
ないから,法2条1項に規定する発明に該当せず,法29条1項柱書に
規定する要件を満たしていないので,特許出願の際独立して特許を受け
ることができない(以下「理由(1)ア」という。)。
イ法29条2項違反
本願補正発明は,本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9−
160527号公報(甲8。以下「引用例1」という。なお,審決書9
頁18行に「特開平9−160572号公報」とあるのは,「特開平9
−160527号公報」の誤記と認める。)に記載された発明(以下「
引用例発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることが
できたものであり,特許出願の際独立して特許を受けることができな
い(以下「理由(1)イ」という。)。
審決が,上記判断をするに当たり認定した引用例発明,本願補正発明
と引用例発明との一致点,相違点,出願前の周知技術の内容は,以下の
とおりである。
(ア)引用例発明
「業者が商品カタログのデジタルデータを,商品取引システムを介し
て送信し,商品カタログのデジタルデータを受信した利用者が利用者
の操作端末の表示装置に表示された商品カタログの商品イメージを見
て,その中から購入したい商品を選択して,ホストコンピュータにそ
の選択した商品発注用の電文をホストコンピュータに送信する商品の
取引方法において,
業者がデジタル化された商品カタログとして商品イメージを含む複
数の商品情報データと標準イメージを商品取引システムを介して利用
者に送信し,
前記デジタル化された商品カタログを受信した利用者は,受信した
前記デジタル化された商品カタログを操作端末21の表示装置3に表
示し,
利用者が,前記操作端末を操作して前記表示装置に前記標準イメー
ジの色調・濃淡を変化させたイメージを複数表示し,別途用意された
写真等と見比べて最も適切なものを選択することで求められる補正値
により色調や濃淡が補正された上で表示装置に表示された商品カタロ
グの商品イメージを含む商品情報の中から購入したい商品を選択し
て,ホストコンピュータに商品発注用の電文を送信する
ことを特徴とする商品の取引方法。」(審決書14頁19行∼34
行)
(イ)一致点
「商品の販売元が彩色商品カタログのデジタル・データ情報を,通信
手段を利用した販売システムを介して送信し,この商品カタログのデ
ジタル・データ情報を受信した消費者が自己のパソコンのモニタに表
示された商品カタログの商品のデジタル画像を見て,その中から購買
希望の商品を選択して,販売元にその選択された商品の注文情報を送
信することにより所望の商品を購入する通信手段を利用した販売シス
テムを介する商品の販売方法であって,
販売元が,少なくとも一つの彩色商品の見本画像および色調補正の
ための補正用画像情報を商品カタログとして通信手段を利用した販売
システムを介して消費者に送信し,
このデジタル商品カタログを受信した消費者が,受信データをパソ
コンのモニタにデジタル画像として表示し,
この消費者が,パソコンを操作してモニタに表示された補正用画像
と印刷された補正用画像とを比較することで,色が調整されたモニタ
表示のデジタル商品カタログの彩色商品画像の中から所望の商品を選
択して,販売元にその選択された商品の注文情報を送信する
ことを特徴とする通信手段を利用した販売システム」(審決書18頁
25行∼19頁6行)
(ウ)相違点
a相違点1
「本願補正発明では,『販売元』が消費者に送信する商品を選択す
るための情報として『少なくとも一つの彩色商品の見本画像』と『
色変化尺度としての基準色画像』を組み込んだ『商品カタログ』を
『作成する』のに対して,引用例発明では,そのような『商品カタ
ログ』を作成することについては記載されていない点。」(審決書
19頁9行∼13行)
b相違点2
「本願補正発明では,商品カタログの『カラー画像データ』を消費
者に送信するとしているのに対して,引用例発明では,どのような
形式で送信するか,特定していない点。」(審決書19頁15行∼
17行)
c相違点3
「本願補正発明では,販売元から消費者に商品カタログを送信する
際に用いられる通信手段としてインターネットを用いた通信販売シ
ステムを介しているのに対して,引用例発明では,『通信網』を用
いることは記載されているものの,インターネットを用いる点が記
載されていない点。」(審決書19頁19行∼22行)
d相違点4
「本願補正発明では,色の調整にあたり『モニタに表示された』基
準色画像の色を,『印刷された』基準色画像の色に合致させるよう
に消費者が操作することで,同時にモニタに表示されている商品カ
タログの彩色商品画像の色を調整するのに対して,引用例発明で
は,標準イメージの色彩および濃淡を変化させたもののなかから,
標準として用意された写真等とを目視で見比べて,適切なものを選
択することで『補正値』を求め,この『補正値』をパラメータとし
て表示しようとするイメージの色調や濃淡を補正するものである
点。」(審決書19頁24行∼31行)
(エ)周知技術
「基準色を示す画像が印刷等により表示された部材と,画面に表示
された基準色を示す画像とを目視で比較して,手動で一致させること
で色の調整を行う技術」(以下「周知技術1」という。)が周知であ
ることを,特開平11−19050号公報(甲9。以下「周知例1」
という。),特開2001−251523号公報(甲10。以下「周
知例2」という。)及び特開平10−173943号公報(甲11。
以下「周知例3」という。)により,また,「色の補正の対象となる
画像と基準色を示す画像を同時に表示させ,前記基準色を示す画像に
もとづいて色を調整することで,同時に表示されている画像の色を補
正する技術」(以下「周知技術2」という。)が周知であることを,
周知例1により,それぞれ認定した。
(2)理由(2)
ア法29条1項柱書違反
本願発明は,専ら,人為的な取り決め及び人間の精神活動を伴う行為
にとどまり,情報処理装置を利用しているものの,その利用は,人為的
な取り決め及び人間の精神活動を伴う行為に関連した道具としての利用
にとどまるものであって,全体として自然法則を利用した技術思想では
ないから,法2条1項に規定する発明に該当せず,法29条1項柱書に
規定する要件を満たしていないので,特許を受けることができない(以
下「理由(2)ア」という。)。
イ法29条2項違反
本願発明の構成事項をすべて含み,さらに他の事項を付加したものに
相当する本願補正発明が,前記(1)イのとおり,引用例発明に基づいて当
業者が容易に発明できたものであるから,本願発明も,本願補正発明と
同様の理由により,引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をするこ
とができたものであって,法29条2項の規定により特許を受けること
ができない(以下「理由(2)イ」という。)」という。)。
第3当事者の主張
1取消事由に関する原告らの主張
審決は,以下のとおり,①理由(1)に係る認定判断を誤って,本件補正を却
下した違法,②理由(2)に係る認定判断を誤って,本願発明について特許を受
けることができないと結論した違法があるから,取り消されるべきである。
(1)取消事由1(理由(1)に係る認定判断の誤り)
ア発明に該当しないとした判断(理由(1)ア)の誤り
審決は,本願補正発明が,法2条1項に規定する発明に該当せず,法
29条1項柱書に規定する要件を満たしていないと認定判断した。
しかし,以下のとおり,本願補正発明の構成a)ないしe)は,全体
として,ネットワークや通信システム等の技術的手段,すなわち,自然
法則を利用した要素からなるものであって,自然法則を利用した技術的
思想の創作に該当するから,審決の上記認定判断は誤りである。
(ア)本願補正発明の構成a)及びe)について
審決は,本願補正発明の構成a)及びe)について,「彩色商品カ
タログのデジタル・データ情報を送信しているのは『商品の販売元』
であって,前記『商品の販売元』は,その記載から人の組織であるこ
とは明らかであり,『パソコン』を利用して,商品カタログのデジタ
ルデータを受信し,パソコンのモニタに表示された商品カタログのデ
ジタル画像を見,購買希望の商品を選択し,販売元に商品の注文情報
を送信しているのは『消費者』であって,前記『消費者』は,その記
載から自然人であることは明らかである。」(審決書6頁10行∼1
6行)と認定した。
しかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。
本願補正発明の構成a)及びe)は,情報処理装置を利用したもの
であり,本願補正発明の構成a)の要素はいずれも,「インターネッ
ト通信販売システム」を構成する技術的手段である。本願補正発明
は,商品の販売方法に関するものではあるが,「インターネット通信
販売システム」における「色化け」の問題を解決するため,特別煩雑
な機器や手法を必要とすることなく,「モニタに表示されたデジタル
商品カタログ」の色を「彩色商品カタログ」の色に一致させるよう色
補正するようにした点に,その本質がある。通信情報処理システムの
一種である「インターネット通信販売システム」(あるいはそれを利
用した方法)では,「受信側」,「送信側」の双方が存在することが
必要であるところ,本願補正発明は,「インターネット通信販売シス
テム」に係るものであることをより明りょうにするため,通常使用さ
れる技術用語である「受信側」,「送信側」という用語に代えて,「
販売元」,「消費者」という用語を用いたものである。「販売
元」,「消費者」という用語を用いたことにより,本願補正発明の上
記本質が変わるものではなく,同発明が,人為的取り決めとなって,
自然法則を利用した技術的思想でなくなるというものではない。
(イ)本願補正発明の構成b)及びd)について
審決は,本願補正発明の構成b)について,「『一つの彩色商品の
見本画像と色変化尺度としての基準色画像を組込んだ商品カタログを
作成』および『この商品カタログのカラー画像データをデジタル商品
カタログとしてインターネット通信販売システムを介して消費者に送
信』とあるが,『商品カタログの作成』および商品カタログのカラー
画像データの消費者への『送信』は,いずれも人の組織である『販売
元』が行うものであり,人為的な取り決めおよび人間の精神活動を伴
うものである。さらに,前記画像に関わる物理的特性または技術的性
質に基づく情報処理を具体的に行うものでもない。」(審決書6頁2
1行∼28行)と認定し,本願補正発明の構成d)について,「『モ
ニタに表示されたデジタル商品カタログの基準色画像の色を自己が所
有する印刷された前記基準色画像の色に実質的に合致させ』,『同時
に色が調整されたモニタ表示のデジタル商品カタログの彩色商品画像
の中から所望の商品を選択し』,『販売元にその選択された商品の注
文情報を送信する』とあるが,これら『合致』,『選択』および『送
信』は,自然人である『消費者』が行うものであり,その記載から人
為的取り決めおよび人間の精神活動を伴うものであることは明らかで
ある。さらに,前記『モニタに表示されたデジタル商品カタログの基
準色画像の色』と『自己が所有する印刷された前記デジタル画像の基
準色画像の色』とを一致させるのは,その記載から自然人の『消費者
』が行うものであって,基準色画像の物理的性質または技術的性質に
基づく情報処理を具体的に行うものではない。そして,『同時に色が
調整されたモニタ表示のデジタル商品カタログの彩色商品画像』との
記載からも,『色が調整』されることは特定できるものの,『デジタ
ル商品カタログの彩色商品画像』の物理的性質または技術的性質に基
づく情報処理を具体的に行うものとも特定できない。」(審決書7頁
6行∼21行)と認定した。
しかし,審決の上記判断も,以下のとおり誤りである。
本願補正発明の構成b)及びd)は,送信者がデジタル化された彩
色商品カタログとこれと一体に組み込まれたデジタル化された基準色
画像を送信すると,両者がその送信過程で同時に同様な色彩変化をす
るという物理現象(自然現象)と,画面上でデジタル化された基準色
画像に基づいて色調整をすると,その基準色画像の色変化と同時に同
様にデジタル化商品カタログの色彩も変化するという現象(物理現
象),つまり,通信システムにおける色彩情報の送受信及びコンピュ
ータの画像処理の画面上において発生する,物理的ないしは技術上の
自然現象を活用する情報処理における技術的手段そのものである。
上記技術的手段が,販売元(送信側)あるいは消費者(受信側)で
実施されることが明示されたことにより,人為的取り決めとなり,あ
るいは,人間の精神活動を伴う行為にとどまるものとなるというもの
ではない。また,所望の商品を選択することに関しては,消費者の嗜
好が反映されることになるが,それを選択する手段は,コンピュータ
処理技術に属するものであって,技術的手段を組み合わせたものであ
るから,その主体が「消費者」と明示されたことにより,技術的手段
としての性格が変わるものではない。
したがって,本願補正発明が,人為的取り決めとなって,自然法則
を利用した技術的思想でなくなるというものではない。
(ウ)本願補正発明の構成c)について
審決は,本願補正発明の構成c)について,「『受信データをパソ
コンのモニタにデジタル画像として表示』とあるが,この『表示』は
自然人である『消費者』が行うものであり,その記載から明らかに人
為的な取り決めおよび人間の精神活動を伴うものである。さらに,前
記デジタル画像に関わる物理的性質または技術的性質に基づく情報処
理を具体的に行うものでもない。」(審決書6頁33行∼7頁1行)
と認定した。
しかし,本願補正発明の構成c)の「受信データをパソコンのモニ
タにデジタル画像として表示」することは,人為的取り決めでも,人
間の精神活動を伴う行為にとどまるものでもなく,技術的手段であ
る。この技術的手段の主体が「消費者」と明示されたことにより,技
術的手段としての性格が変わるものではないから,本願補正発明が,
人為的取り決めとなって,自然法則を利用した技術的思想でなくなる
というものではない。
イ進歩性がないとした判断(理由(1)イ)の誤り
審決は,以下のとおり,①引用例発明の認定を誤った結果,本願補正
発明と引用例発明との一致点の認定を誤って,両発明の相違点を看過
し,②周知技術の認定を誤り,本願補正発明と引用例発明との相違点に
ついての容易想到性の判断を誤った。
(ア)引用例発明の認定の誤り・一致点の認定の誤り・相違点の看過
審決は,以下のとおり,引用例発明の認定を誤った結果,本願補正
発明と引用例発明との一致点の認定を誤り,相違点を看過した。
a引用例発明の認定の誤り
(a)審決は,引用例発明を前記第2,3(1)イ(ア)のとおり認定し
た。
しかし,以下のとおり,審決の上記認定には誤りがある。
引用例1では,標準イメージは,補正値を得るために利用され
ることが記載されているにすぎず,商品カタログに組み込まれて
使用されることは記載されていない。すなわち,引用例1に
は,「商品イメージを含む複数の商品情報データと標準イメー
ジ」から構成された商品カタログが(商品情報データと標準イメ
ージとが,一体化された商品カタログ情報として),消費者に送
信されることは記載されていない。
したがって,審決が,引用例発明について,「業者がデジタル
化された商品カタログとして商品イメージを含む複数の商品情報
データと標準イメージを商品取引システムを介して利用者に送信
し,」(審決書14頁24行∼25行)との点を認定したのは,
誤りである。
(b)なお,引用例1には,CD−ROMに「商品情報データ」
と「標準イメージ」とが収蔵されていることが記載されている
が,両者は個別に蓄積されている。画面に複数画像を表示した場
合,指定した画像の色補正は可能であるが,その色補正は,他の
画像の色変化とは独立のものである。
また,引用例1における「標準イメージ」とは,色調や濃淡の
異なるイメージデータを複数生成して表示する際に用いられる任
意のイメージであり(段落【0022】∼【0024】参照),
本願補正発明にいう「基準色画像」に相当するものではない。
b一致点の認定の誤り・相違点の看過
(a)審決は,本願補正発明と引用例発明との一致点を前記第2,
3(1)イ(イ)のとおり認定した。
しかし,以下のとおり,審決の上記認定には誤りがある。
引用例発明では,前記a(a)のとおり,標準イメージは補正値
を得るために利用されているにすぎず,商品情報データと標準イ
メージとが,一体化された商品カタログ情報として,消費者に送
信されることはないから,引用例発明が,「販売元が,少なくと
も一つの彩色商品の見本画像および色調補正のための補正用画像
情報を商品カタログとして通信手段を利用した販売システムを介
して消費者に送信し,」(審決書18頁31行∼33行)との点
で,本願補正発明と一致するということはできない。
また,引用例発明における標準イメージは補正値を得るために
利用されるにすぎず,前記a(b)のとおり,本願補正発明にい
う「基準色画像」に相当するものではないから,引用例発明
が,「この消費者が,パソコンを操作してモニタに表示された補
正用画像と印刷された補正用画像とを比較することで,色が調整
モニタ表示のデジタル商品カタログの彩色商品画像の中から所望
の商品を選択して,」(審決書19頁2行∼4行)との点で,本
願補正発明と一致するということもできない。
(b)本願補正発明は,「基準色画像」と「彩色商品の見本画像」
の両者の「カラー画像データ」を「デジタル商品カタログ」とし
て同時に送信するものであって,「基準色画像」と「彩色商品の
見本画像」の両者を一つの画像ファイルとして画像ソフトの処理
対象上一体としたものであるのに対し,引用例発明は,「標準イ
メージ」を送信して補正値を得た後,「商品イメージを含む複数
の商品情報データ」を送信するものであって,「商品イメージ」
と「標準イメージ」とが画像ソフトの処理対象上一体とされたも
のでない点で相違する。
審決は,本願補正発明と引用例発明との上記相違点を看過した
ものである。
(イ)周知技術の認定の誤り・相違点の判断の誤り
審決は,以下のとおり,本願補正発明と引用例発明との相違点につ
いての容易想到性の判断の前提となる周知技術1,2の認定を誤り,
また,相違点1,3,4の各判断を誤った。
a周知技術の認定の誤り
(a)認定の手法について
審決は,本願補正発明における一体不可分の構成を区分し,そ
の区分に対応して,同一の文献である周知例1から周知技術1と
周知技術2とを分けて認定しているが,このような認定の手法は
誤りである。
(b)周知技術1について
審決は,「周知例1∼3の記載からみて,基準色を示す画像が
印刷等により表示された部材と,画面に表示された基準色を示す
画像とを目視で比較して,手動で一致させることで色の調整を行
う技術は,周知技術」(審決書17頁15行∼18行)であると
認定した。審決の上記認定は,基準色を示す画像が印刷等により
表示された部材と,画面に表示された基準色を示す画像とを目視
で比較して,手動で操作し一致させることにより,本来の色補正
対象画像と本願補正発明の「デジタル商品カタログの彩色商品画
像」の色の調整が行われる技術が周知であるかのような内容を含
むものである。
しかし,周知例1ないし3には,補正値を得て,その補正値を
適用して色補正をする技術が開示されているにすぎず,基準色を
示す画像が印刷等により表示された部材と,画面に表示された基
準色を示す画像とを目視で比較して,手動で操作し一致させるこ
とで色補正対象画像の色の調整を行う技術は記載されていない。
すなわち,本願補正発明は,「基準色画像」と「彩色商品画像」
を同時に変えるものであるが,周知例1ないし3に記載された技
術は,たとえ同時に表示された画像であるとしても,表示された
画像が同時に変わるものとはいえない。
(c)周知技術2について
審決は,「周知例1の記載からみて,色の補正の対象となる画
像と基準色を示す画像を同時に表示させ,前記基準色を示す画像
にもとづいて色を調整することで,同時に表示されている画像の
色を補正する技術は,周知技術」(審決書17頁19行∼21
行)であると認定した。
しかし,以下のとおり,審決の上記認定は誤りである。
周知例1においては,患者の横に配置した基準色見本部材68
の画像データは,患者の画像データから分離された上で,画面上
に基準色見本画像70bとして表示されるものと考えられ,両者
は連動していないから,基準色見本部材72と基準色見本画像7
0bの色調を調整しても,画面上の患者の色調を補正することに
はならない。また,周知例1では,基準色見本画像70aの存在
が前提となっているにもかかわらず,これがどのように生成され
るのか具体的な開示がない。このようなあいまいな周知例1に基
づいて,周知技術2を認定することはできない。なお,モニタに
表示された画像からその一部を分離して処理する技術は,本願出
願前に周知であった(甲15)。
被告は,周知技術2を裏付けるものとして,特開平5−176
352号公報(乙2),実願昭52−18211号(実開昭53
−113032号)のマイクロフィルム(乙3)を提出する。
しかし,乙2,3は,カラーディスプレイに表示された映像に
加えて赤,緑,黄色の三原色を表示させ,これを基準となる赤,
緑,青の光の3原色パターンと対比することにより,カラーマッ
チングさせることを開示するものの,単にカラーディスプレイの
発色機能を正常状態に保持するための技術的機構,方法が開示さ
れているにとどまるから,周知技術2の周知性を裏付けるものと
はいえない。
b相違点の容易想到性判断の誤り
(a)相違点1について
引用例1に,標準イメージと商品情報とがCD−ROMに記憶
されて提供されることが記載されているとしても,そのことか
ら,引用例発明において,インターネット通信システムによ
り,「デジタル化されたイメージを含む複数の商品情報」に「標
準イメージ」を組み込んだものを1つのデータとして利用者に提
供するようにすることが,当業者に容易に想到できたということ
はできない。CD−ROMに,「複数の商品情報」に加えて,「
標準イメージ」を記録保存することと,本願補正発明のよう
に,「販売元が少なくとも一つの彩色商品の見本画像と色変化尺
度としての基準色画像を組み込んだ商品カタログを形成し,この
商品カタログのカラー画像データをデジタル商品カタログと」す
ることは,技術的意義を異にする。
また,引用例1,周知例1ないし3,乙2ないし6には,本願
補正発明の基本的技術思想に係る,インターネット通信販売シス
テムを介する商品の販売方法において,「販売元が少なくとも一
つの彩色商品の見本画像と色変化尺度としての基準色画像を組込
んだ商品カタログを作成し,この商品カタログのカラー画像デー
タをデジタル商品カタログとしてインターネット通信販売システ
ムを介して消費者に送信し」,「パソコンを操作してモニタに表
示されたデジタル商品カタログの基準色像の色を自己が所有する
印刷された前記基準色画像の色に実質的合致させ,同時に色が調
整され」ることは,何ら記載・示唆されていない。
したがって,相違点1に係る本願補正発明の構成は,当業者が
容易に想到できた事項であるとはいえない。
(b)相違点3について
引用例1に,通信手段として公衆回線網を利用する構成が記載
され,本願の出願当時,通信手段としてインターネットが普及し
ていたとしても,特定第二者間の通信システムに関する引用例発
明において,通信手段として不特定多数者間の通信システムを利
用した「商品取引システム」を用いて本願補正発明と同様の利用
者と業者間の情報のやり取りを,インターネットを利用した「商
品取引システム」を介して行うようにすることが,当業者におい
て容易に想到できたということはできない。
したがって,相違点3に係る本願補正発明の構成は,当業者が
容易に想到できた事項であるとはいえない。
(c)相違点4について
引用例発明は,色補正値を得ることを基本的な技術的思想とし
ているのであり,本願補正発明の色補正手段とは異なるから,本
願補正発明のように,商品画像と一体となった基準色部分を色補
正することにより商品画像を色補正する手段を採用することにつ
いての示唆はない。
したがって,相違点4に係る本願補正発明の構成は,当業者が
容易に想到できた事項であるとはいえない。
(2)取消事由2(理由(2)に係る認定判断の誤り)
審決は,本願発明が,法2条1項に規定する発明に該当せず,法29条
1項柱書に規定する要件を満たしていないと認定判断した。
しかし,審決には,以下のとおり誤りがある。
すなわち,本願発明の構成a)ないしe)は,本願補正発明の構成a)
ないしe)と,前記第2,2における下線部分が異なるのみで,本質的な
構成上の違いはないから,前記(1)アと同様の理由により,本願発明の構成
a)ないしe)は,全体として,ネットワークや通信システム等の技術的
手段,すなわち,自然法則を利用した要素からなるものであって,自然法
則を利用した技術的思想の創作に該当するので,審決の上記認定判断は,
誤りである。また,審決には,前記(1)イと同様の理由により,本願発明と
引用例発明との対比及び判断における誤りがある。
2被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がな
い。
(1)取消事由1(理由(1)に係る認定判断の誤り)に対し
ア発明に該当しないとした判断(理由(1)ア)の誤りに対し
本願補正発明の構成a)及びe)では,「インターネット通信販売シ
ステム」,「パソコン」,「パソコンのモニタ」という情報処理装置が
用いられているものの,その内容は,「商品の販売方法」に関し,「イ
ンターネット通信販売システム」,「パソコン」,「パソコンモニタ」
を商品の購入もしくは販売のための単なる道具として用いて,「商品の
元」が「彩色商品カタログのデジタル・データ」を送信し,この「商品
カタログのデジタル・データ」を受信した「消費者」が,「商品カタロ
グのデジタルデータ」を見て,その中から購入希望の商品を選択して,
販売元にその選択された商品の注文情報を送信することにより「所望の
商品を購入する」という,一連の経済活動のための手順として人為的な
取り決めのみを特定したにすぎず,全体として自然法則を利用したもの
ではない。
本願補正発明の構成b)では,商品の販売のための一工程として,1
つの彩色商品の見本画像と色変化尺度としての基準色画像を組み込んだ
商品カタログのカラー画像データをデジタル商品カタログとして消費者
に送信するが,これは「販売者」という人もしく人の組織が主体となっ
て行う販売行為であって,専ら商品の販売のための人為的な取り決め及
び人間の精神活動を伴う行為である。また,本願補正発明の構成d)で
は,モニタに表示されたデジタル商品カタログの基準色画像の色を自己
が所有する印刷された基準色画像に実施的に合致させ,同時に色が調整
されたモニタ表示のデジタル商品カタログの中から所望の商品を選択
し,注文情報を送信するが,これは「消費者」という人が,商品の注文
のためのツールとしてモニタを用いて,その五感に依存して,消費者自
身の目で,色を見比べて,色を合わせ,さらに商品を選択し注文すると
いう行為について,「販売者」が「消費者」にルールとして求めること
を規定するものであって,専ら商品の販売のための人為的な取り決め及
び人間の精神活動を伴う行為である。
本願補正発明の構成c)は,人間の精神活動を伴う行為そのものであ
る。
したがって,本願補正発明では,情報処理装置が用いられているが,
動作の主体は人間であって,情報処理装置の使い方も商品の販売に関す
る人為的な取り決め及び人間の精神活動のみを利用したものであり,こ
の点において自然法則を利用した技術的思想の創作とはいえない。
イ進歩性がないとした判断(理由(1)イ)の誤りに対し
(ア)引用例発明の認定の誤り・一致点の認定の誤り・相違点の看過に
対し
a引用例発明の認定の誤りに対し
引用例1に,「業者がデジタル化された商品カタログとして商品
イメージを含む複数の商品情報データと標準イメージを商品取引シ
ステムを介して利用者に送信し,」(審決書14頁24行∼25
行)との点が記載されていることは,審決が認定したとおりであ
る。
b一致点の認定の誤り・相違点の看過に対し
(a)原告らは,引用例発明の認定の誤りを前提として,一致点の
認定の誤りを主張するが,前記aのとおり,審決における引用例
発明の認定に誤りはなく,一致点の認定にも誤りはない。
なお,審決は,引用例発明の「標準イメージ」と本願補正発明
の「基準色画像」とが一致すると認定したものではなく,両者
は,概念として共通する点があるものの,相違すると認定した上
で,その相違点について判断している。
原告らの主張は,審決を正解しないものであり,失当である。
(b)本願補正発明の「商品カタログ」について,補正明細書の請
求項1には,「少なくとも一つの彩色商品の見本画像と色変化尺
度としての基準色画像を組込んだ」と記載されているにすぎず,
また,「送信」についても,「商品カタログのカラー画像データ
をデジタル商品カタログとしてインターネット通信販売システム
を介して消費者に送信」すると記載されているにとどまり,例え
ば,商品カタログの一つのページに「彩色商品の見本画像」と「
基準色画像」を組み込むなどの記載はないから,「彩色商品の見
本画像」と「基準色画像」が同時に送信されることは,何ら記載
・示唆されていない。
なお,仮に本願補正発明において「彩色商品の見本画像」と「
基準色画像」が同時に送信されるものと解したとしても,審決
は,相違点4の判断において,引用例発明に,「色の補正の対象
となる画像と基準色を示す画像を同時に表示させ,前記基準色を
示す画像にもとづいて色を調整することで,同時に表示されてい
る画像の色を補正する技術」(周知技術2)を用いることは当業
者が容易に想到できた事項であるとしており,引用例発明に周知
技術2を適用すれば,商品カタログの「商品イメージ」と「標準
イメージ」が同時に表示されるようになることは自明であるか
ら,「商品イメージ」と「標準イメージ」を送信する際に同時に
送信するようにすることも,当業者からみれば単なる設計的事項
にすぎないというべきであって,審決の結論に影響するものでは
ない。
(イ)周知技術の認定の誤り・相違点の判断の誤りに対し
a周知技術の認定の誤りに対し
(a)認定の手法について
刊行物に複数の技術が記載されていれば,当然,複数の技術を
認定できる。したがって,審決における周知技術の認定の手法が
誤りであるとする原告ら主張は失当である。
(b)周知技術1について
審決は,周知例1ないし3の各記載から,色の調整のために「
基準色を示す画像が印刷等により表示された部材と,画面に表示
された基準色を示す画像とを目視で比較して,手動で一致させ
る」点に着目して,周知技術1を認定したが,その認定過程及び
内容に不合理な点はない。
なお,原告らが主張するように,周知例1ないし3には,色補
正のための補正値を求める技術も開示されているが,周知例1に
は,補正値によって,画像データではなく,直接現在表示してい
る画面の表示色を調整することが記載されており,また,周知例
2,3で求められた「補正値」は,「色補正対象画像」の色の補
正に用いられるものであるから,審決の認定を左右するものでは
ない。
(c)周知技術2について
周知例1の記載(段落【0019】,【0021】,【002
4】,【0026】,【0027】,【0037】,【0043
】など)に示されるとおり,周知例1の「患者18」と「基準色
色見本部材68」とは,撮像装置により同時に撮像されることに
より,「患者の画像」及び「基準色見本画像70b」が含まれる
画像信号となる。そして,両者は分離されることなく,カラー画
像表示装置48にカラー画像として表示され,また,一つの映像
信号として,「表示画像色調調整装置56」及び「送信画像色調
調整装置60」により色調整されることが記載されている。な
お,映像信号の中から一部を分離して処理することは,技術的
に,不可能とはいえないとしても,困難である。
また,乙2,3にも,「色の補正の対象となる画像と基準色を
示す画像を同時に表示させ,前記基準色を示す画像に基づいて色
を調整することで,同時に表示されている画像の色の補正をする
技術」が開示されている。
したがって,審決における周知技術2の認定に誤りはない。
b相違点の容易想到性判断の誤りに対し
(a)相違点1について
引用例1における「標準イメージ」とは,CD−ROMとし
て「商品カタログ」が提供された場合に「商品情報」と同じCD
−ROMに記憶され,「商品情報」のイメージの表示に先立っ
て,イメージの色調や濃淡を決める補正値を求めるために「標準
イメージ」を表示するものであって,「商品カタログ」の「商品
情報」のイメージの表示に付随して用いられるものである。そし
て,「商品情報」を「公衆網を経由して提供されるもの」である
とした場合にも,当該「標準イメージ」は,「商品カタログ」
の「標準イメージ」の表示に付随して用いられるものであるか
ら,「商品情報」及び「標準イメージ」を,利用者に送信する際
に,一体として送ることは自然であり,引用例発明において,利
用者に送信する際に,一体として送るようにすることは,当業者
からみれば単なる設計的事項にすぎない。
(b)相違点3について
インターネットを利用した通信販売システムは,乙4ないし6
に示されるように,周知である。また,引用例発明は,色の調整
に当たり,「標準イメージ」を用いており,「基準色画像」を用
いるものではないが,このことによって,引用例発明の通信手段
としてインターネットを利用するようにすることが困難になるも
のでもない。そして,審決は,色の調整方法の違いについて,相
違点4として判断しており,この判断に誤りがないことは,後記(
c)のとおりである。
(c)相違点4について
原告らの主張は,審決の引用例1の記載内容の認定が誤りであ
ることを前提とするものであるが,審決の認定に誤りがないこと
は,既に主張したとおりであるから,原告らの主張は失当であ
る。
(2)取消事由2(理由(2)に係る認定判断の誤り)に対し
前記(1)と同様の理由により,審決に原告ら主張に係る誤りはない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(理由(1)に係る認定判断の誤り)に対し
(1)理由(1)イに係る認定判断の誤りについて
当裁判所は,本願補正発明が法2条1項に規定する発明に該当しないと
した審決の判断を正当とするものではないが,事案にかんがみ,まず,原
告ら主張の取消事由1のうち,進歩性がないとした判断(理由(1)イ)の誤
りの有無について検討する。
ア引用例発明の認定の誤り・一致点の認定の誤り・相違点の看過につい

原告らの主張は,要するに,引用例1には,CD−ROMに「商品情
報カタログ」と「標準イメージ」が収蔵されているものの,単にCD−
ROM情報として個別に蓄積されているにすぎず,本願補正発明のよう
に,「基準色画像」と「彩色商品の見本画像」の両者の「カラー画像デ
ータ」を「デジタル商品カタログ」として一つの画像ファイルとして画
像ソフトの処理対象上一体としたものではなく,複数の画像の色を同時
に補正できる技術の開示はないという点を前提とするものである。
そこで,以下,この点について検討する。
(ア)引用例1の記載
a引用例1(甲8)には図面とともに次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,カラーのイメージデータを
表示することが可能な表示装置において,特に,イメージデータ
の色調や濃淡を補正する機構を備えたものに関する。
【0002】
【従来の技術】従来より,CD−ROM等に格納されたイメージ
データをパーソナルコンピュータ(PC)等の表示装置に表示す
ることが行われている。しかし,ディスプレイの特性により,イ
メージデータの色調や濃淡が正しく表示されないことがある。P
C等の表示装置においては,調整つまみの操作により表示画面の
輝度とコントラストを調整することはできるが,赤,緑,青の三
原色のそれぞれの構成,すなわち,表示色の色調を調整すること
はできないのが通常である。また,カラーテレビの受像機のよう
に色調を調整できる表示装置を使用した場合であっても,表示し
たイメージデータを見て,正しい色調に調整することが必要とな
る場合が多い。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】このため,従来の表示装置で
は,利用の形態によっては,以下のような解決すべき課題があっ
た。例えば,業者から受け取ったCD−ROM化した商品カタロ
グに格納されたイメージデータを消費者が自宅のPC等の表示装
置に表示して商品の選択を行う商品取引システムが普及しつつあ
る。
【0004】こうしたシステムを利用して商品を注文した場合,
商品選択の際にPC等の表示装置に表示された商品イメージと,
実際に配送されてきた商品の間で,色彩や質感が異なったものと
感じられることがあり,注文した消費者に不満を抱かせることが
多かった。
【0005】
【課題を解決するための手段】上述した課題を解決するため,本
発明は,イメージデータのカラー表示が可能な表示装置における
イメージデータの色調・濃淡の補正表示方式において,イメージ
データの色調や濃淡についての補正を指示する手段と,前記指示
された補正値に基づき,イメージデータの色調および濃淡に関わ
る情報を演算する手段と,前記演算の結果から色調や濃淡の異な
るイメージデータを複数生成して表示する手段と,前記表示され
た複数のイメージデータのうち,最適なイメージデータを選択す
る手段と,選択された前記イメージデータの色調および濃淡に関
わる情報を記憶しておく手段とを備え,新たなイメージデータを
表示する際には,前記記憶された情報に基づき色調および濃淡を
補正して表示することを特徴とする。」
「【0017】図5は色調・濃淡選択イメージの一例を示す説明
図である。なお図5においては,RGBの各値を同じ値だけ変化
させたもの,すなわち濃淡を変化させたイメージを用い,図面上
ではハッチングの間隔で濃淡の変化を表すものとする。また,太
線で描かれている枠を選択枠として,この選択枠内のイメージが
現在選択されているイメージであるとする。
【0018】利用者は,この表示を見ながら,標準として別途用
意された写真等と見比べて,最も適切なものを選択する。選択に
は,制御用コントローラ6を使用して行う。図6は制御用コント
ローラ6の機能の一例を示す説明図で,ここでは,ゲーム機のコ
ントロールパッドを例に説明する。
【0019】例えば,「左矢印」ボタンを押すと左に選択枠が移
動し,「右矢印」ボタンを押すと右に選択枠が移動するようにす
る。また,「決定」に割当てられたボタンを押すと,このとき選
択枠で囲われているイメージが選択されたことになる。ここで,
図5に示す状態で「決定」ボタンが押されると,「−1」のイメ
ージが選択されることになる。なお,この制御用コントローラ6
の機能は,パーソナルコンピュータのキーボードやマウス等でも
実現可能である。
【0020】そして,プロセッサ1はこの選択された−1の値を
不揮発性メモリ7に格納する。この値が表示する表示装置3と取
り込んだ時のイメージの差であり,その差を補正するパラメータ
となる。以降,イメージを表示するときに,プロセッサ1はこの
値を不揮発性メモリ7から読み出して,この値をパラメータとし
て表示しようとしているイメージの色調や濃淡を補正する演算を
行い,表示装置3に色調や濃淡を補正したイメージを表示する。
なお,図5では濃淡を変化させたイメージを表示することとした
が,同様の機能で色調を補正するための値を決定することもでき
る。色調の調整であれば,例えば赤に対してのみ演算をすること
により,「赤っぽい」イメージを生成し,赤に関する色調整を行
うことができる。
【0021】図7は色調・濃淡選択イメージの他の例を示す説明
図であり,この図7のようにイメージ表示を2次元にして,各軸
で演算するパラメータを変化,例えば横は赤を変化させ,縦は青
を変化させるように表示し,表示されているイメージの中から最
適と思うものを選択するようにすれば,一度の複数のパラメータ
を決定することができる。
【0022】図8は上述した第1の実施の形態の色調・濃淡補正
表示機能の論理ブロック図である。商品情報がCD−ROMに格
納されているものとすると,プロセッサ1は,セットされたCD
−ROMからまず標準イメージを取り込む。この標準イメージに
対して,プロセッサ1は,イメージ演算部1aでサンプル作成用
のパラメータを用いて色調や濃淡を補正する演算を行い,表示装
置3に標準イメージに対して色調や濃淡を段階的に少しずつ変化
させたイメージを並べて表示する。ここでの演算および表示は,
図5で説明した1つのパラメータを求めるためのもの,あるいは
図7で説明した複数のパラメータを求めるためのもののどちらで
も可能である。
【0023】利用者はこの表示を見て,制御用コントローラ6を
操作して最適と思うイメージを選択する。そして,プロセッサ1
は選択されたイメージの色調や濃淡を決める補正値を不揮発性メ
モリ7に格納する。以降,このCD−ROM内のイメージを表示
するときには,CD−ROMから商品情報の中のイメージを取り
込むと,プロセッサ1は不揮発性メモリ7から補正値を読み出
し,イメージ演算部1aでこの補正値をパラメータとして表示し
ようとしているイメージの色調や濃淡を補正する演算を行い,表
示装置3に色調や濃淡を補正したイメージを表示する。
【0024】以上説明したように,本発明の第1の実施の形態の
色調・濃淡補正表示機能によれば,標準イメージに対して色調や
濃淡を段階的に少しずつ異ならせたイメージを並べて表示して,
この中から最適と思われるイメージを選択させることで,色調や
濃淡の補正値を得ることとしたので,表示装置の特性や調整に影
響されず,正しい色調や濃淡で商品情報を表示することができ
る。」
「【0035】
【発明の効果】以上説明したように,本発明は,標準イメージ
と,この標準イメージに対して色調や濃淡を段階的に少しずつ異
ならせたイメージとを並べて表示し,これらの中から最適と思わ
れるイメージを選択させることで補正値を得て,この補正値を記
憶しておくことで,以降商品情報のイメージを表示する際には,
この記憶した補正値をパラメータとして色調および濃淡を補正し
たイメージを表示することができ,表示装置の特性や調整に影響
されず,正しい色調や濃淡で商品情報を表示することができる。
【0036】また,表示の毎の調整を行う必要がなく,操作が簡
単になる。」
b上記aの各記載によれば,引用例1には,①複数の商品情報(商
品カタログのイメージデータ)と商品の標準イメージがCD−RO
Mに格納され,②利用者の表示装置のプロセッサがCD−ROMか
ら標準イメージを取り込んで,表示装置に表示し,③次に,利用者
が,この表示を見ながら,標準として別途用意された写真等と見比
べて最も適切なものを選択すると,色調・濃淡の補正値が表示装置
のメモリに格納され,④以降,このCD−ROM内の商品カタログ
のイメージを表示する場合は,プロセッサがメモリから補正値を読
み出し,表示装置に色調・濃淡を補正したイメージを表示すること
が記載されており,いったん補正値が設定されると,CD−ROM
のイメージは,この補正値に基づいて色調・濃度が補正された上で
表示されることが理解できる。
(イ)本願補正発明
aこれに対し,本願補正発明では,商品画像の色補正については,
本願補正発明の構成d)において,「この消費者が,パソコンを操
作してモニタに表示されたデジタル商品カタログの基準色画像の色
を自己が所有する印刷された前記基準色画像の色に実質的に合致さ
せ,同時に色が調整されたモニタ表示のデジタル商品カタログの彩
色商品画像の中から所望の商品を選択して,」と規定されている。
bそして,補正明細書(甲5)の発明の詳細な説明には,色補正の
具体的な手段については,次のように記載されている。
「【0019】
このデジタル商品カタログを自己のパソコンで受信し,モニタ
にデジタル画像としてこの商品カタログを表示した消費者は,そ
の中に組み込まれたRGB基準色画像(デジタル画像)(図3)
の色が自己の所有する印刷RGB基準画像と目視によって実質的
に合致するように前記公知の手法で色補正し,この色補正によっ
て同時に色補正されたデジタル画像(商品カタログの婦人服)の
中から,特定の商品を選択して,販売元に発注(選択した商品の
注文情報を送信)した。」
「【0012】
最近コンピューター画像処理技術が急速に発展し,自己の所有
するパソコンのモニタに表示されたデジタル画像色の単純な補正
が一般家庭でも容易に出来るようになった。従って,本願発明の
場合でも,自己の所有するパソコンのモニタに表示された基準色
対応のデジタル画像の色を自己が所有する印刷基準色画像(販売
元で使用したものと同じ)の色と比較して色の相異が目視で明瞭
に認識された場合に,公知の手法,例えば公知の画像処理コンピ
ュータプログラム(例えばAdobe社PhotoshopLE-J(登録商
標))を用いた色補正処理によって,モニタ表示の基準色画像(
デジタル画像)の色を自己が保有する印刷基準色画像の色と実質
的に合致するように補正すれば,前記デジタル画像と共に表示さ
れている商品のデジタル画像の色も補正されるので,色品質を重
視した商品の選択が効率的に高い精度で可能となる。」
c補正明細書の前記a及びbの各記載を総合すれば,本願補正発明
は,モニタに表示された商品カタログの基準色画像の色と自己が所
有する印刷された前記基準色画像の色とを目視で比較し,両者を実
質的に合致させることにより,同時に商品カタログのデジタル画像
を補正するものであると解される。つまり,本願補正発明では,モ
ニタ上で,基準色画像と商品カタログのデジタル画像とが,同時に
同じ補正値に基づいて色補正されるものである。
(ウ)検討
a前記(ア)及び(イ)によれば,引用例発明の「標準イメージ」は,
商品を選択するための商品画像情報の「色調補正のための補正用画
像情報」であり,引用例発明と本願補正発明とは,商品カタログの
複数のデジタル画像を同じ補正値に基づいて色補正をして表示する
という補正の方法について,相違する点はない。
もっとも,引用例発明では,補正値を設定した後に,CD−RO
Mからデジタル画像を順次読み出し,色補正をした上で表示するよ
うにしているのに対し,本願補正発明では,複数のデジタル画像を
表示した状態で,設定した補正値により同時に色補正をしている点
において,相違する。
bところで,審決は,本願補正発明と引用例発明との相違点の一つ
として,相違点4(前記第2,3(1)イ(ウ)d)を認定し,その容易
想到性の判断において,次のとおり説示している。
「そして,この色の調整技術を採用した場合に,前記周知技術2
に示すように色の補正の対象となる画像と基準色を示す画像を同
時に表示させ,前記基準色を示す画像にもとづいて色を調整する
ことで,同時に表示されている画像の色を補正する技術もまた周
知であることを考慮すれば,引用例発明においても前記商品情報
のデジタル化されたイメージと前記基準色を示す画像を同時に表
示させ,前記基準色を示す画像にもとづいて色を調整すること
で,同時に表示されている前記商品情報のデジタル化されたイメ
ージの色を補正するようにすることも当業者が容易に想到できた
事項である。」(審決書21頁2行∼9行)
そうすると,審決は,引用例発明では,補正値を設定した後に,
CD−ROMからデジタル画像を順次読み出し,色補正をした上で
表示するようにしているのに対し,本願補正発明では,複数のデジ
タル画像を表示した状態で,設定した補正値により同時に色補正を
している点について,これを相違点として認定した上で,その容易
想到性について判断している。
(エ)まとめ
そうすると,審決が,本願補正発明と引用例発明との相違点を看過
した旨の原告らの主張は,採用することができない。
なお,原告らは,引用例発明の認定の誤り,本願補正発明と引用例
発明との一致点の認定の誤りとして,縷々主張するが,いずれも審決
の結論に影響するものとは認められない。
イ周知技術の認定の誤りについて
原告らは,審決における周知技術1,2の認定に誤りがあると主張す
る。
しかし,以下のとおり,原告らの主張は失当である。
(ア)周知技術1の認定の誤りについて
a周知例1について
(a)周知例1(甲9)の各記載(図面を含む。)によれば,周知
例1記載の技術は,患者を撮像し,その映像を遠隔地のカラー画
像表示装置に表示させる場合に,患者に対する照明,カラー撮像
装置の側の色感度のばらつきやその経時変化,色調節装置の設
定,カラー画像表示装置の側の発色のばらつきやその経時変化,
色調整装置の設定などにより,表示色が影響される結果,カラー
画像表示装置に表示される患者の皮膚の色がずれてしまい,正確
に再現されないという問題意識の下,カラー映像表示装置48に
基準色見本画像70a,70bを表示させ,少なくともこれらの
いずれか一方と,比較のために用意した基準色見本部材72とを
対比し,カラー画像表示装置の表示画像色調性装置56あるいは
60を手動で操作して,基準色見本部材72の基準色見本と略一
致させることにより,色ずれを解消するものであることが理解で
きる。
そして,患者側に配置する基準色見本部材68は,カラー画像
表示装置48の表示範囲(画像)の右下位置に基準色見本画像7
0bとして表示されるように配置されるものである(段落【00
24】参照)。
このように,カラー画像表示装置上の表示位置がちょうどよい
位置になるように,患者の横に配置する基準色見本部材68の位
置が調整されるのであるから,患者と基準色見本部材68は,一
体のものとして撮像・表示されるものと考えるのが,自然かつ合
理的である。
したがって,周知例1の色補正装置においても,患者の画像と
同時表示された状態で,基準色見本画像70bと基準色見本部材
72を手動で色合わせすることにより,同時に色補正がされるも
のということができる。
(b)周知例1に関する原告らの主張に対して
まず,原告らは,①周知例1において,基準色見本画像70b
と基準色見本部材72との関係のみを取り出すことは許されな
い,②周知例1では,患者の画像部分と基準色見本画像が分離さ
れていることは明りょうである,③モニタに表示された画像から
その一部を分離して処理する技術は,本願出願前に周知であった
などと主張する。しかし,周知例1においては,患者側に配置さ
れた基準色見本部材68を患者とともに撮像してカラー画像表示
装置48に表示される基準色見本画像70bと,基準色信号に基
づいてカラー画像表示装置48に表示される基準色見本画像70
aは,別個のものとして説明されている。そして,基準色見本画
像70bについては,患者の画像と同時表示された状態で,基準
色見本画像70bと基準色見本部材72を手動で色合わせするこ
とにより,同時に色補正がされるものと理解できることは,前記(
a)で検討したとおりである。
また,原告らは,審決が同一の周知例1に基づいて,周知技術
1と周知技術2を認定した点に誤りがあると主張する。しかし,
同一文献であっても,複数の技術内容を把握できる場合には,そ
れぞれの技術内容を開示するものとして,認定の基礎とすること
は妨げられない。
さらに,原告らは,周知例1の記載があいまいであると主張す
る。しかし,周知例1に,患者の画像と同時表示された状態で,
基準色見本画像70bと基準色見本部材72を手動で色合わせす
ることにより,同時に色補正を行う技術が開示されていること
は,前記のとおりであり,周知例1には,少なくとも上記の技術
的思想を実施し得る程度の開示があるというべきである。
以上のとおり,周知例1についての原告らの主張は,採用の限
りでない。
b周知例2及び周知例3について
(a)周知例2(甲10)の各記載(図面を含む。)によれば,周
知例2には,基準色画像Zと,これを予めスキャナで読み取って
メモリに格納したものをモニタに表示させたデジタル画像Zと1
を,目視で対比し,コンピュータを操作してモニタ表示の色デー
タ(明度,コントラスト,彩度,色バランス)を調整することに
より,コンピュータ画像処理システム間で画像の伝達を行う場合
の画像色の不一致の問題を解決する技術が開示されていると認め
られる。
(b)周知例3(甲11)の各記載(図面を含む。)によれば,周
知例3には,ハードコピー14の画像12のカラーパッチ12a
と,これと測色基準色空間で一致する測色値を有し,CRT(画
面)上に表示されたカラーパッチ20aとを,目視で対比し,手
動で色調を変化させながら,色の見えの不一致を補正する技術が
開示されていると認められる。
(c)前記(a)及び(b)によれば,周知例2,3には,「基準色を
示す画像が印刷等により表示された部材と,画面に表示された基
準色を示す画像とを目視で比較して,手動で一致させることで色
の調整を行う技術」(周知技術1)が開示されているといえる。
c以上のとおり,審決が,周知例1ないし3を例示して,周知技術
1を認定したことに誤りはない。
(イ)周知技術2の認定の誤りについて
a被告は,周知技術2を示すものとして,審決が例示した周知例1
のほかに,乙2,3を指摘するので,これらを踏まえて検討する。
(a)乙2について
乙2には図面とともに次の記載がある。
「【0002】
【従来技術】テレビ,OA機器,ホームオートメーション等に
使用される,カラーディスプレイの色合い調整は,従来,(
A)その時点で画面に表示されている映像の中で,色の合わせ
易いものに合わせて,憶測で調整するか,(B)テストパター
ンを表示させて,色模様の相互の関係から感覚に頼って調整し
ていた。ところが,(A)の方法では全くの当て推量であ
り,(B)の場合も的確に調整出来る保証はなく,テストパタ
ーンを表示させる手段・方法も考える必要があった。また,特
に,近時,多用される様になったカラー液晶ディスプレイにお
いては,「ブライト」や「コントラスト」を調整した場合で
も,色合いが変わるので,適正な調整が困難な場合もあって,
適正簡便に色合い調整出来る方法が望まれていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記事情に鑑みて提案される
本発明は,当て推量や感覚に頼ることなく,適正簡便に色合い
調整の出来るカラーディスプレイ装置を提供することを目的と
している。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成する為に提案さ
れる請求項1に記載の本発明は,画面に表示されるカラーを色
合わせする調整スイッチを有したカラーディスプレイ装置にお
いて,上記画面には,赤,緑,青の光の3原色パターンを表示
させるようにするとともに,その画面の外側には,赤,緑,青
の光の3原色基準パターンを配置した構成とされている。」
「【0006】
【実施例】以下に,図面を参照して本発明の実施例を説明す
る。図1は,請求項1に記載の本発明によるカラーディスプレ
イ装置の一例であるカラー液晶ディスプレイ装置10の外形斜
視図の例で,図において,13はカラー液晶画面,11はカラ
ー液晶画面13の画面外に配置された赤,緑,青の光の3原色
基準パターン,12はカラー液晶画面13に通常の映像に加え
て合成表示された赤,緑,青の光の3原色パターン,14は3
原色パターン12の色合いを調整する色合わせ調整スイッチで
ある。図2は,上記のカラー液晶ディスプレイ装置10の構成
例図で,図1と同一のところは同じ符号を付してある。図にお
いて,24,は受信チャネルを選択し,その信号を増幅して中
間周波信号に変換するチューナ,23は,チューナ24からの
中間周波信号を増幅して,映像信号を取り出すVIF増幅映像
検波部,22は,VIF増幅映像検波部からの映像信号を調整
して,画像の明るさとコントラストを調節する輝度・色度信号
処理部,25は,カラー液晶画面13を駆動する為に,輝度・
色度信号処理部22からの映像信号を増幅すると共に,3原色
信号を取り出して,そのばらつきを補正する映像出力部,26
はカラー液晶画面13の横方向の走査駆動を行うX駆動回路,
27はカラー液晶画面13の縦方向の駆動を行うY駆動回路,
21は光の3原色パターン信号を出力する3原色パターン出力
部である。この様な構成のカラー液晶ディスプレイ装置10の
色合わせの方法を説明する。カラー液晶画面13には,3原色
パターン出力部21から常時,赤,緑,青の3原色パターン1
2が出力されているが,輝度・色度信号処理部22と映像出力
部25の調整具合いによって,3原色パターン12に3原色基
準パターン11からずれが生じていると,3原色パターン12
を3原色基準パターン11に合わせる様に,色合わせ調整スイ
ッチ14で調整を行う。尚,3原色パターン12と3原色基準
パターン11の配置と形状は,図1に示したものに限らず,両
者が比較出来る配置と形状であれば良い。また,3原色パター
ン出力部21から出力される3原色パターン信号は,予め3原
色基準パターン11を撮影して記憶させておいても良いし,電
子的に発生させても良い。」
上記各記載によれば,乙2には,画面に,「通常の映像」に加
えて「3原色パターン12」を合成表示し,色合わせ調整スイッ
チ14で,「3原色パターン」を「3原色基準パターン11」に
合わせるように調整することにより,画面に同時に表示されてい
る「通常の映像」の色調を調整することが開示されていると認め
られる。
(b)乙3について
乙3には図面とともに次の記載がある。
「カラーテレビ受像機においては,その再生画面の色相を任意
に調整できるようにされているが,逆にこのように任意に調整
できると,正しい色相がわからず,その正しい色調に調整でき
ないことがある。
このため,本考案においては,色相の調整時,再生画面の一
部にカラーバーが映し出されると共に,その色相が再生画面と
一体に変化し,従つて色相調整が簡単,かつ確実にできるよう
にすると共に,その場合,新たに生じる問題点を解決しようと
するものである。」(明細書1頁13行∼2頁3行)
「従つて画面(7S)の部分(7C)には,電圧Er∼Ebに
よつてカラーバーが映し出される。そしてこの場合,部分(7
C)のうち,期間Tmに対応する上半分の部分(7U)では,
電圧Er∼Ebは所定の一定レベルなので,これに対応して
赤,緑,青のカラーバーが映し出される。また期間Tnに対応
する下半分の部分(7D)では,電圧Er∼Ebのレベルが上
述のような関係にあるので,可変抵抗器R11がヒューセンタ
ーにあるときには,部分(7U)のカラーバーと同様に,赤,
緑,青のカラーバーが映し出されるが,可変抵抗器R11をヒ
ューセンターからまわすと,これにつれて部分(7D)のカラ
ーバーの色相は変化する。
すなわち,可変抵抗器R11を操作すると,これにつれて再
生画面(7S)の色相が変化すると共に,この色相変化に対応
して部分(7D)のカラーバーの色相が変化する。しかし,部
分(7U)のカラーバーの色相は変化しない。
従つて部分(7U)のカラーバーの色相を基準として,これ
に部分(7D)のカラーバーの色相が一致するように色相調整
を行えば,このとき,再生画面(7S)の色相は正しいものと
なる。あるいは,部分(7U)のカラーバーの色相を基準とし
て部分(7D)のカラーバーの色相を調整することにより再生
画面(7S)の色相を任意の好みの色相に調整できる。」(明
細書6頁18行∼8頁3行)
上記各記載によれば,乙3には,「再生画面(7S)」と「カ
ラーバー(7D)」を同時に表示し,「可変抵抗器R11」
で,「カラーバー(7D)」の色相を基準となるカラーバー(7
U)に合わせるよう調整することにより,画面に同時に表示され
ている「再生画面(7S)の色相を調整することが開示されてい
ると認められる。
(c)上記(a)及び(b)によれば,乙2,3には,「色の補正の対
象となる画像と基準色を示す画像を同時に表示させ,前記基準色
を示す画像にもとづいて色を調整することで,同時に表示されて
いる画像の色を補正する技術」(周知技術2)が開示されてい
る。周知例1の記載内容及び乙2,3によれば,周知技術2が周
知であることが認められる。
b以上のとおり,審決における周知技術2の認定に誤りはない。
(ウ)容易想到性判断の誤りについて
a相違点1について
原告らは,相違点1に係る本願補正発明の構成は,当業者が容易
に想到できた事項であるとはいえないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告らの主張は失当である。
引用例発明においても,複数の商品情報(商品カタログのイメー
ジデータ)と商品の標準イメージがCD−ROMに格納され,これ
らの情報は通信回線を介して利用者に提供されるものであること
は,既に検討したとおりである。そして,「デジタル化されたイメ
ージを含む複数の商品情報」に「標準イメージ」を組み込んだもの
を1つのデータとして利用者に提供するかどうかは,通信販売にお
ける単なるサービスの仕方の問題であって,当業者が適宜行うこと
ができる設計的事項にすぎないというべきである。
したがって,相違点1に係る本願補正発明の構成は当業者が容易
に想到できたというべきであり,これと同旨の審決の判断に誤りは
ない。
b相違点3について
原告らは,相違点3に係る本願補正発明の構成は,当業者が容易
に想到できた事項であるとはいえないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告らの主張は失当である。
インターネットを利用した通信販売システム自体は,本願出願時
に周知であったと認められるところ(乙4∼6,弁論の全趣旨),
そもそも,引用例1(甲8)に記載された技術は,「ディスプレイ
の特性により,イメージデータの色調や濃淡が正しく表示されない
ことがある」との問題意識の下(段落【0002】参照),画面に
表示される商品カタログのイメージを色補正するものであり,この
ような問題は,通信手段が公衆回線網かインターネットかで異なる
性質のものではないと考えられる。
補正明細書(甲5)を見ても,通信手段にインターネットを用い
たことによる技術的課題が指摘されているわけではなく,むし
ろ,「この色化けの原因はモニタの設置場所(照明の影響),製造
会社の相違にもよるが,微細ではあるがシステムを構成する機器の
色関連性能の相違によるものと理解されるが,更に販売元を受信先
での色認識に関する個人差も影響している。」(段落【0004
】)と記載されているように,インターネット特有の問題でないと
されていることが理解できる。
したがって,相違点3に係る本願補正発明の構成は当業者が容易
に想到できたというべきであり,これと同旨の審決の判断に誤りは
ない。
c相違点4について
原告らは,相違点4に係る本願補正発明の構成は,当業者が容易
に想到できた事項であるとはいえないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告らの主張は失当である。
前記アで検討したとおり,引用例1に記載されたイメージデータ
の色調・濃淡の補正表示方法と本願補正発明の色補正方法とは,商
品カタログの複数のデジタル画像を同じ補正値に基づいて色補正し
て表示する点では変わるところがないというべきであって,両者が
相違するのは,引用例1に記載された方法では,補正値を設定した
後に,CD−ROMからデジタル画像を順次読み出し,色補正をし
た上で表示するようにしているのに対し,本願補正発明では,複数
のデジタル画像を表示した状態で,設定した補正値により同時に色
補正をしている点である。
そして,「基準色を示す画像が印刷等により表示された部材と,
画面に表示された基準色を示す画像とを目視で比較して,手動で一
致させることで色の調整を行う技術」や,「色の補正の対象となる
画像と基準色を示す画像を同時に表示させ,前記基準色を示す画像
にもとづいて色を調整することで,同時に表示されている画像の色
を補正する技術」が,本願の出願前の周知技術であったことに照ら
せば,相違点4に係る本願補正発明の構成は,技術的には何ら見る
べきものがあるとはいえず,単なる色補正のタイミングの問題とい
うべきであって,当業者が適宜行うことができる設計的事項にすぎ
ないというべきである。
これと同旨の審決の判断に誤りはない。
ウまとめ
以上のとおり,本願補正発明は引用例発明に基づいて当業者が容易に
発明をすることができたとした審決の認定判断に誤りはなく,理由(1)イ
に係る認定判断の誤りをいう原告ら主張は理由がない。その他,原告ら
は,縷々主張するが,いずれも理由がない。
(2)小括
したがって,審決が本件補正を却下した点は,理由(1)アの当否について
検討するまでもなく,これを是認することができる。
2取消事由2(理由(2)に係る認定判断の誤り)について
(1)理由(2)イに係る認定判断の誤りについて
原告らは,審決は,本願補正発明と同様の理由により,本願発明と引用
例発明との対比及び判断を誤ったと主張する。
しかし,前記1(1)と同様の理由により,原告らの上記主張は理由がな
い。
そして,本願発明の構成は,本願補正発明の構成中の「彩色商品カタロ
グ」,「基準色画像」,「商品カタログ」に関する「デジタル・データ情
報」,「色変化尺度としての」,「デジタル」との各限定がなく,本願補
正発明における「送信」,「選択された商品の注文情報を送信」との構成
を上位概念である「宣伝」,「注文」としたものであるから,本願発明
は,本願補正発明を包含するものということができる。
そうすると,本願発明は,本願補正発明と同様に,引用例発明に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたというべきであり,これと同旨
の審決の認定判断に誤りはなく,理由(2)イに係る認定判断の誤りをいう原
告ら主張は理由がない。
(2)小括
したがって,審決が本願発明は特許を受けることができないと結論した
ことは,理由(2)アの当否について検討するまでもなく,これを是認するこ
とができる。
3結論
以上によれば,原告らの本訴請求は理由がないから,これを棄却すること
とし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官齊木教朗
裁判官嶋末和秀

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