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平成16年(行ケ)第268号審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成17年2月14日
判決
原      告   エイディシーテクノロジー株式会社
訴訟代理人弁理士足 立   勉
被      告   特許庁長官小川 洋
指定代理人   片 岡 栄 一
 江 畠   博
 高 橋 泰 史
 涌 井 幸 一
 宮 下 正 之
主文
     1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 原告の請求
 特許庁が不服2001―23652号事件について平成16年5月12日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
 本件は,原告が,後記本願発明の特許出願をしたところ,拒絶査定を受け,こ
れを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされた
ため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯(当事者間に争いがない)
 原告は,昭和63年6月6日に出願した特許出願(特願昭63-13867
9号)を分割した特許出願(特願平10-58567号)をさらに分割した特許出
願(特願平11-108025号)をもう一度分割して,平成12年6月2日,特
許庁に対し,発明の名称を「番組表示装置および番組表示方法」とする発明につき
出願した(特願2000-166127号。以下「本願」という。)ところ,特許
庁は,平成13年11月21日,拒絶の査定をした。
 そこで,原告は,同13年12月28日,拒絶査定不服審判の請求をした
(不服2001―23652号。以下「本件審判」という。)ところ,特許庁は,
平成16年5月12日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下
「本件審決」という。)を行い,その謄本は,同16年5月25日,原告に送達さ
れた。
2 特許請求の範囲
 平成14年1月24日付け手続補正書(甲3)により補正された明細書の請
求項3の記載は,下記のとおりである(以下,この発明を「本願発明」とい
う。)。

「少なくともテレビ放送の各番組内容とその開始時刻とその終了時刻とその放
映チャンネルとを含む情報を外部から取り込み,
 該取り込まれた上記情報から,電源を投入した日の各チャンネルのテレビの
番組内容を取り出して,チャンネルの違い毎に縦もしくは横の内の1方向に並べて
画面に表示するとともに,
 電源を投入した日の,取り込まれた上記情報中の同一チャンネルの番組内容
を,その放送順に,上記1方向と垂直な方向に上記画面に並べ,且つ各番組内容の
放送時間に応じた長さで表示し,
 上記画面に表示された番組内容の中のある番組内容を,他の番組内容と識別
可能に表示し,
 使用者の指示を受けると,該識別可能に表示させる番組内容を変更すること
により,別の番組内容を識別可能に表示し,
 該指示が,所望の番組を設定するものであると,上記識別可能に表示された
箇所に対応する番組内容を所望の番組として設定し,
 翌日の番組内容の一部を出力させるための指定を受けると,上記情報の中か
ら,翌日の番組内容の一部を出力し,
 上記表示される番組表の領域を更新する
 ことを特徴とする番組表示方法。」
3 本件審決の理由の要旨
 本件審決は,下記のとおり,本願発明は特開昭61-227486号公報
(甲8。以下「引用例1」という。),特開昭55-63185号公報(甲14。
以下「引用例2」という。),特開昭63-54884号公報(甲13。以下「引
用例3」という。)及び特開昭62-60377号公報(甲16。以下「引用例
4」という。)に記載された各発明(以下,「引用発明1」等という。)並びに周
知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許
法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

(1) 本願発明と引用発明1との対比
(一致点)
 少なくともテレビ放送の各番組内容とその開始時刻とその放映チャンネル
情報から,各チャンネルのテレビの番組内容を取り出して,画面に表示するととも
に,
 上記情報中の同一チャンネルの番組内容を,その放送順に,縦の方向に上
記画面に並べ,表示する,
 番組表示方法。
(相違点a)
 テレビ放送の番組情報の取り込みに関し,本願発明においては,テレビ放
送の各番組内容とその開始時刻とその終了時刻とその放映チャンネルとを含む情報
を外部から取り込むものであるのに対し,引用発明1においては,番組終了時刻を
も含むテレビ番組情報を外部から取り込むことについて特に示されていない点。
(相違点b)
 テレビの番組内容の画面表示に関し,本願発明においては,電源を投入し
た日の番組内容を表示するものであるのに対し,引用発明1においては,番組表示
セットスイッチがONされた時刻以降の番組名称(内容)を表示するものである点。
(相違点c)
 番組内容の表示の仕方に関し,本願発明においては,番組内容をチャンネ
ルの違い毎に縦もしくは横の内の1方向に並べて画面に表示するとともに,同一チ
ャンネルの番組内容を,その放送順に,上記1方向と垂直な方向に上記画面に並
べ,且つ各番組内容の放送時間に応じた長さで表示し,上記画面に表示された番組
内容の中のある番組内容を,他の番組内容と識別可能に表示し,使用者の指示を受
けると,該識別可能に表示させる番組内容を変更することにより,別の番組内容を
識別可能に表示し,該指示が,所望の番組を設定するものであると,上記識別可能
に表示された箇所に対応する番組内容を所望の番組として設定するものであるのに
対し,引用発明1においては,このことについて示されていない点。
(相違点d)
 本願発明においては,翌日の番組内容の一部を出力させるための指定を受
けると該番組内容の一部を出力表示し,表示される番組表の領域を更新するもので
あるのに対し,引用発明1においては,このことについて示されていない点。
(2) 判断
ア 相違点cについて(相違点a,b,dについての判断は省略)
 引用発明1は,テレビの番組内容を同一チャンネルの番組内容を放送順
に縦方向に画面に並べて表示するものである(第2図を参照)が,一般には,むし
ろ,テレビ番組内容を放映チャンネル毎に時刻情報とともに放送時間に応じた長さ
で放送順に並べて表形式で表示するのが普通である〔新聞等のテレビ番組欄を想起
されたい。また,特開昭61-113379号公報(甲20)(特に,第4図を参
照。このような番組表を画面上に表示して所望の番組を(予約)設定するものであ
る。),及び,実願昭56-56229号(実開昭57-170166号公報)の
マイクロフィルム(甲23)を参照。〕。
 しかるところ,引用例2,3には,チャンネル番号枠と時刻枠とからな
るマトリックス状の表示選択領域を画面上に映出するテレビ受像機が開示されてお
り,これらにおいては,番組予約設定したい領域を指示することによりその領域の
表示(色)を変えて他の領域と識別可能に表示し,使用者の指示によりその領域に
対応する番組を所望の(予約)番組として設定することができるよう構成されてい
ることが認められる。
 したがって,引用発明1においても,上記周知のもののように,テレビ
番組内容を放送局(放映チャンネル)毎に時刻情報とともに放送時間に応じた長さ
で放送順に並べて表形式で画面上に表示し,引用例2,3に記載されたもののよう
に,番組(予約)設定したい領域を指示することによりその領域を(着色等させ
て)他の領域と識別可能に表示しその領域に対応する番組を(予約)設定すること
は当業者が容易に想到できたものである。
イ 効果について
 そして,本願発明の奏する効果は,各引用例及び上記周知技術から当業
者が十分に予測可能なものであって,格別のものとはいえない。
(3) むすび
 以上のとおりであって,本願の請求項3に係る発明(本願発明)は,引用
発明1ないし4及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができ
たものと認められるので,特許法29条2項の規定により特許を受けることができ
ない。したがって,本願は,その余の請求項について論及するまでもなく,拒絶す
べきものである。
第3 原告が主張する本件審決の取消事由
1 取消事由1(除斥事由のある審判官が関与した手続の違法―特許法139条
5号違反)
 本件審決に関与した審判官3名のうち,A審判官(以下「A審判官」とい
う。)は,本願について原告が平成13年9月21日付けでなした手続補正の申出
を却下する平成14年7月2日付け決定(甲4),及び原告が同14年1月24日
付けでなした手続補正の申出を却下する同14年7月2日付け決定(甲5)につ
き,いずれも原告が提起した補正却下決定の取消訴訟(東京高等裁判所平成14年
(行ケ)第408号,同第409号)において,当事者である特許庁長官の指定代
理人であった。したがって,同審判官は,特許法139条5号にいう「事件の当事
者の代理人」であったというべきである。
 すなわち,
(1) 特許法139条5号所定の「事件」とは,本件審判事件だけに限定され
ず,本件審判に係る特許出願である本願についてされた補正却下決定の取消訴訟事
件も含むと解すべきである。その根拠としては,①裁判官の除斥について定める民
訴法23条において,「事件」とは,裁判の公正を担保する趣旨から広く解すると
されている(甲25)ところ,特許法139条5号においても,審判の公正を担保
するため,同様に考えるべきであること,②本願についての補正却下決定取消訴訟
は,本件審判と密接な関係を有し,しかも,その判決は,本件審判の審決に重大な
影響を及ぼすものであること,③特許法において,審判のみを意味する場合には
「審判事件」という用語を用いているが,139条5号では,あえて「事件」とい
う異なる用語を用いていること,④特許法139条6号は,「審判官が事件につい
て不服を申し立てられた査定に審査官として関与したとき」との除斥事由を規定し
ているところ,この規定ぶりによれば,「事件」という用語は,審判だけではな
く,同一の出願についての査定も含んでいると解されること,が挙げられる。
(2) 上記のとおり,補正却下決定取消訴訟も,拒絶査定不服審判と同一の「事
件」に含まれると解すべきである以上,上記訴訟の当事者である特許庁長官は,自
己の利害の有無にかかわらず,特許法139条5号における「事件の当事者」に当
たる。
 また,特許庁長官は,補正却下決定取消訴訟において,補正却下の妥当性
を主張する立場にあったところ,補正却下が妥当であると出願は拒絶される可能性
が高いから,結局,特許庁長官は,補正却下決定取消訴訟において,出願の拒絶の
可能性を高める主張をする立場にあったのであり,言い換えれば,特許庁長官は,
「特許の成立を阻止しようとする者」であったから,このような立場にある特許庁
長官は明らかに「事件の当事者」に当たる。
(3) 拒絶査定に対する審判において審決をした審判官が,審決取消訴訟が提起
され審決が取り消されて特許庁において再び審理が行われる場合に,その事件に審
判官として関与することが可能であっても,前の審決に関与した審判官と,補正却
下決定取消訴訟の被告である特許庁長官の指定代理人であったA審判官とを同視す
ることはできない。
2 取消事由2(進歩性の判断の誤り―一致点の誤認・相違点の看過)
 本件審決は,本願発明と引用発明1との一致点を,「少なくともテレビ放送
の各番組内容とその開始時刻とその放映チャンネル情報から,各チャンネルのテレ
ビの番組内容を取り出して,画面に表示するとともに,上記情報中の同一チャンネ
ルの番組内容を,その放送順に,縦の方向に上記画面に並べ,表示する,番組表示
方法。」と認定する。
 上記認定は,複数の放送局の番組表示を,放送局ごとに区別して画面に表示
するということである。しかしながら,引用例1の第2図において画面に表示され
ているのは,「Kプログラム」という1つの放送局名の番組表示のみである。ま
た,引用例1には「本発明によれば,テレビ受像器本体又はアダプター構成にて選
局した放送局の今後の番組が画面自体に写つし出される」(2頁左上欄7~9行
目)と記載されている。つまり,引用発明1は,予め選局した1つの放送局のみに
ついて,番組表示をするものである。
 したがって,本件審決は,上記下線部を一致点として誤認し,相違点を看過
したものである。
3 取消事由3(進歩性の判断の誤り―相違点cの判断の誤り)
 本件審決は,相違点cについて,「引用発明1においても,上記周知のもの
のように,テレビ番組内容を放送局(放映チャンネル)毎に時刻情報とともに放送
時間に応じた長さで放送順に並べて表形式で画面上に表示し,引用例2,3に記載
されたもののように,番組(予約)設定したい領域を指示することによりその領域
を(着色等させて)他の領域と識別可能に表示しその領域に対応する番組を(予
約)設定することは当業者が容易に想到できたものである。」と判断したが,誤り
である。
 すなわち,
(1) 引用発明1における番組等の表示形式を,新聞のテレビ欄等のような周知
のものに置き換え,その上でさらに引用発明2,3を適用するというような進歩性
の判断手法は,引用発明1を恣意的に変化させて新たな発明を創作した上で,これ
を主引用発明として容易想到性を判断していることになり,不当である。このよう
な手法は,特許庁の審査基準(甲26)にも反するものである。
(2) 引用発明1は,予め選択された1つの放送局のみの番組を表示することを
前提としているのであるから,新聞等のテレビ欄のような,複数の放送局の番組を
表示する周知の番組表形式を適用することはできない。
(3) 引用発明1に引用発明2,3を適用することはできない。
 すなわち,引用例2,3には,チャンネル番号枠と時刻枠とからなるマト
リックス状の表示選択領域が記載されているが,このマトリックス状の表示選択領
域において,チャンネル番号枠と時刻枠とにより形成される各コマの開始時刻及び
終了時刻は,予め固定されたものであり,チャンネル番号枠と時刻枠とにより形成
される各コマごとに設定を行うものである。
 したがって,引用例2,3に記載されているマトリックス状の表示領域を
引用発明1に適用し,マトリックスの各コマにそれぞれ1つの番組表示をしようと
すると,番組の実際の開始時刻や終了時刻は,○時ちょうど,○時30分,○時5
5分等様々であるため,番組の開始時刻や終了時刻を正確に表示することができな
くなってしまい,「見たい番組の予定が即座に見ることができスムーズな選局が可
能となる」という引用発明1の目的を達成することができなくなってしまう。
 また,上記のように,番組の実際の開始時刻や終了時刻が,マトリックス
状の表示領域の各コマの途中であると,コマごとに設定を行い,その設定したコマ
においてテレビのスイッチをONにしたり,番組の録画を行う場合に大きな不都合
が生じてしまう。このように,引用発明2,3を引用発明1に適用しようとする
と,予め固定されたコマ単位でしか設定を行うことができなくなることにより,使
用者の使い勝手が非常に悪くなってしまう。
(4) 引用発明1における番組等の表示形式を,新聞のテレビ欄等のような周知
のものに置き換えても,引用発明2,3を適用することはできない。
 すなわち,新聞のテレビ欄等のような周知の番組表では,多くの場合,1
つのコマの中に複数の番組が記載されている。例えば,9時00分から9時54分
までの番組と,9時54分から10時までのニュース番組とは,9時から10時ま
での1つのコマに記載されている。したがって,引用発明1における番組等の表示
形式を,新聞のテレビ欄等のような周知のものに置き換え,その上で引用発明2,
3を適用すると,1つのコマを選択した場合,そのコマに含まれる複数の番組が同
時に選択されてしまうことになり,使用者の使い勝手が非常に悪くなってしまう。
第4 被告の反論
 本件審決の判断に誤りはなく,原告の主張する本件審決の取消事由には理由が
ない。
1 取消事由1について
 補正却下決定取消訴訟と拒絶査定不服審判とはいわゆる続審の関係にはな
い。また,拒絶査定不服審判で争われるのは,審査における拒絶査定が妥当である
かどうか,あるいは,本件特許出願が最終的に拒絶されるものであるかどうかであ
るのに対して,補正却下決定取消訴訟における争点は,手続補正を要旨変更である
として却下したことが妥当であるかどうかであって,争点が異なる。したがって,
両者が,同一の事件に含まれるということはできない。
 また,補正却下決定取消訴訟の被告は,特許庁長官とされている(特許法1
79条)が,特許庁長官は,自己の利害のために特許の成立を阻止しようとする者
ではないから,特許法139条にいう「事件の当事者」ということはできない。そ
して,補正却下決定取消訴訟の被告である特許庁長官の指定代理人が,関連する拒
絶査定不服審判事件を担当したとしても,審判の公正が確保されないということは
ない。
 そして,現行法においては,拒絶査定に対する審判において審決をした審判
官は,審決取消訴訟が提起された後に審決が取り消されて特許庁において再び審理
が行われる場合にも,その事件に審判官として関与することが可能である。すなわ
ち,前の審決に関与した審判官は,後の審理において除斥原因があるとはされてい
ない。前の審決に関与した審判官と,審決取消訴訟の被告である特許庁長官の指定
代理人であった審判官とに格別違いはないから,後者についても,前者と同様に,
除斥原因はないと解される。補正却下決定取消訴訟の被告である特許庁長官の指定
代理人であったA審判官についても,同様である。
 したがって,A審判官には,特許法139条5号に規定する除斥原因はな
い。
2 取消事由2について
 本件審決が,本願発明と引用発明1との一致点を,「少なくともテレビ放送
の各番組内容とその開始時刻とその放映チャンネル情報から,各チャンネルのテレ
ビの番組内容を取り出して,画面に表示するとともに,上記情報中の同一チャンネ
ルの番組内容を,その放送順に,縦の方向に上記画面に並べ,表示する,番組表示
方法。」と認定したのは,単に,ユーザが選択した「各(個々の)放送局のテレビ
の番組名称を取り出して放送局名毎に(個別に)…表示する」,言い換えれば,
「放送局個々に画面に表示する」という意味であることは明らかであり,それ以上
の意味はない。そして,複数の放送局の番組表示を放送局毎に区別して画面に表示
することについては,本件審決が,本願発明と引用発明1との相違点cとして挙げ
ている。したがって,原告の主張する一致点の誤認・相違点の看過はない。
3 取消事由3について
 本件審決は,単純に,引用発明1に引用発明2,3を直接適用するとしたも
のではなく,一般に,テレビ番組内容を放映チャンネル毎に時刻情報とともに放送
時間に応じた長さで放送順に並べて表形式で表示するのが周知であることを考慮す
ると,引用発明1においても,上記周知のもののように,テレビ番組内容を放送局
(放映チャンネル)毎に時刻情報とともに放送時間に応じた長さで放送順に並べて
表形式で画面上に表示し,引用発明2,3のように,番組(予約)設定したい領域
を指示することによりその領域を(着色等させて)他の領域と識別可能に表示しそ
の領域に対応する番組を(予約)設定することは,当業者が容易に想到できたもの
である,としたものである。
 引用発明1は,選局のために,現時刻以後のテレビ番組の予定を表示する装
置に関するものであり,上記周知技術及び引用発明2,3は,共に,テレビジョン
の番組予約(選局プログラム)装置に関するものであり,いずれもテレビ番組の選
局操作に関連する技術である点で共通するということができる。したがって,引用
発明1に上記周知技術,引用発明2,3を組み合わせることには,技術上何らの困
難性(阻害要因)もないというべきである。
 したがって,相違点cについての判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(除斥事由のある審判官の関与)について
 特許庁における手続の経緯は,前記第2の1のとおりである(当事者間に争
いがない)。原告は,本件審決に関与したA審判官には,本願についての補正却下
決定の取消訴訟において,被告である特許庁長官の指定代理人であったから,本件
審決には,特許法139条5号違反の瑕疵がある旨主張するので,この点について
検討する。
 証拠(甲1ないし7)によれば,平成16年5月12日付けでなされた本件
審決には,A審判官が審判長として関与していること,一方,本願に関し原告が平
成13年9月21日付けでなした手続補正の申出を却下する被告の決定,同じく原
告が平成14年1月24日付けでなした手続補正の申出を却下する被告の決定に対
し,いずれも原告が東京高等裁判所に対し,特許庁長官を被告としてその取消しを
求める行政訴訟を提起した(同庁平成14年(行ケ)第408号,第409号)と
ころ,いずれも平成15年9月29日に判決が言い渡された同訴訟事件において,
A審判官が指定代理人として関与していたことが認められる。
 ところで,特許法139条は,審判官が除斥されるべき事由を列挙し,その
一つとして原告が主張する「審判官が事件について当事者,参加人若しくは特許異
議申立人の代理人であるとき又はあったとき。」(平成15年法律第47号による
改正前の5号)を定めている。同条は,審判官が事件や当事者と特殊な関係にある
ためその事件を担当することが審判の公正と信頼からみて適当でないときに,審判
の公正を保つためその審判事件の審理から除斥されることを定めたものであるが,
同条5号にいう「事件」とは,前記のような趣旨によれば,当該審判事件及びそれ
に先行する審査手続の対象たる事件をいうと解するのが相当である。
 そして,A審判官は,前記のとおり前記各訴訟事件の被告指定代理人になっ
たにすぎず,本件審判請求や,その前審たる拒絶査定審査に,代理人として関与し
ているわけではないから,A審判官に同条5号の除斥事由があるということはでき
ない。
 原告は,特許庁長官が同号にいう「当事者」である旨を主張するが,前記の
ような特許法139条の趣旨からすると,同長官を当事者と解することはできない
(特許法137条1項は,特許庁長官が,各審判事件の合議体を構成すべき審判官
を指定しなければならない旨定めているところ,仮に,原告主張のような解釈を採
れば,審判官が「当事者」によって指定されるという極めて不自然な事態となって
しまう)。
 原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(進歩性の判断の誤り―一致点の誤認・相違点の看過)について
 原告は,引用発明1は,予め選局した1つの放送局のみについて番組表示を
行うものであるから,本件審決は,一致点のうち「各チャンネルの」の部分を誤認
し,相違点を看過したものである旨主張するので,この点について検討する。
(1) 引用例1(甲8)には,「第2図は第1図の番組表示処理部2で処理され
た内容が,テレビ受像機1に写し出される画面表示例の一例である。この例では,
放送局名3と番組表示セットスイッチ6とがONとされた時刻以降の番組名称表示5
とそれに対応した時刻表示4が写し出される。この写し出された内容は例えばある
時間(例えば5秒後)自動的に消え,通常のテレビ画面にもどるようになってい
る。」(2頁右上欄9~16行)との記載があり,これに第2図の記載を併せれ
ば,引用発明1が,予め選局した1つの放送局のみについて番組表示を行うもので
あることは,明らかである(引用例1には,複数の放送局の番組内容を表示するこ
との記載はない。)。
(2) 本件審決は,本願発明と引用発明1との一致点を,「少なくともテレビ放
送の各番組内容とその開始時刻とその放映チャンネル情報から,各チャンネルのテ
レビの番組内容を取り出して,画面に表示するとともに,上記情報中の同一チャン
ネルの番組内容を,その放送順に,縦の方向に上記画面に並べ,表示する,番組表
示方法。」であると認定しているが,これが複数の放送局の番組を表示する点を認
定したものであるかどうかは,上記認定自体からは必ずしも明らかではない。
 しかしながら,本件審決は,相違点cとして,「番組内容の表示の仕方に
関し,本願発明においては,番組内容をチャンネルの違い毎に縦もしくは横の内の
1方向に並べて画面に表示するとともに,同一チャンネルの番組内容を,その放送
順に,上記1方向と垂直な方向に上記画面に並べ,且つ各番組内容の放送時間に応
じた長さで表示し,上記画面に表示された番組内容の中のある番組内容を,他の番
組内容と識別可能に表示し,使用者の指示を受けると,該識別可能に表示させる番
組内容を変更することにより,別の番組内容を識別可能に表示し,該指示が,所望
の番組を設定するものであると,上記識別可能に表示された箇所に対応する番組内
容を所望の番組として設定するものであるのに対し,引用発明1においては,この
ことについて示されていない点。」を認定している。
 そうすると,複数の放送局の番組内容を表示することの有無は,相違点c
として認定されているから,本件審決の一致点の認定は,やや明確性を欠くもの
の,そこで認定されているのは,単に,「同一チャンネルの番組内容を,その放送
順に,縦の方向に画面に並べ,表示する」ことと解される。したがって,本件審決
の一致点の認定に格別誤りはなく,相違点の看過もないというべきである。
(3) 以上のとおり,原告の取消事由2の主張も理由がない。
3 取消事由3(進歩性の判断の誤り―相違点cの判断の誤り)について
 原告は,本件審決の相違点cについての判断は誤りである旨主張するので,
この点について検討する。
(1) 特開昭61-113379号公報(甲20)には,「このシステムでは,
番組予約をする場合,端末器4の利用者は,加入者宅に送られてくる番組表を見る
(第4図参照)。」(2頁左下欄4~6行)と記載されると共に,第4図の番組表
が記載され,また,実願昭56-56229号(実開昭57-170166号公
報)のマイクロフィルム(甲23)には,「テレビ等の番組表」として,第2図の
ものが記載され,さらに,周知の新聞,雑誌等のテレビ番組欄も考慮すれば,本願
出願日以前に,テレビ番組内容を放映チャンネル毎に時刻情報とともに放送時間に
応じた長さで放送順に並べて表形式で表示することが,周知であったと認められ
る。
(2) 引用例2(甲14)には,「テレビジョン受像機の選局プログラム装置」
について,「本発明の選局プログラム装置は第1図乃至第3図に示すように構成さ
れている。第1図はテレビジョン受像機の画面である。そして選局プログラム時に
は画面1上にタイム表のパターン2つまり時間-ポジションチャートが現われる。
この例では横軸に時(1日分),縦軸にポジション番号(チャンネル番号)(0~
13)をとっている。そして,プログラムを入力するには,例えば8~9時,1ポ
ジション,9~11時,3ポジション,11~12時,オフ(OFF)とするに
は,第2図に斜線にて示してある位置に1コマずつ第3図(a)(b)に示すライ
トペン3を当てて記憶させる。」(2頁右上欄3~15行)と記載されると共に,
画面表示例として第1図,第2図が記載されている。
 また,引用例3(甲13)には,「番組予約装置」について,「この発明
に係る番組予約装置は,装置本体に接続されたテレビジョン受像機の画面に,少な
くともチャンネル番号枠と時刻枠とからなるマトリックス状の着色選択領域を映出
させるためのマトリックス状領域発生用の読み出し専用メモリと,上記マトリック
ス状の各領域ごとに対応して設けられて番組予約情報が書き込まれたメモリと,上
記着色選択領域のうちの所望領域が指定された際,この領域を着色表示させるとと
もに,この着色領域に対応するメモリ内容を読み出させる制御手段とを設けたもの
である。」(2頁左下欄17行~右下欄7行),「上記テレビジョン受像機(2)
の画面(101)には,上記ROM(6)により,第3図に示すように横軸方向の
チャンネル番号枠,すなわちプリセット可能なチャンネル数と同数の1~12まで
のチャンネル番号枠(15a)と縦軸方向の時刻枠,たとえば毎整時毎の枠(15
b)とからなるマトリックス状の着色選択領域(15)が映出されるようになって
いる。この例では毎整時の枠(15b)はさらに15分毎の枠(150b)に細分
割されている。」(3頁右上欄1~9行)と記載されると共に,画面表示例として
第3図が記載されている。
 これらの記載によれば,引用例2及び3には,チャンネル番号枠と時刻枠
とからなるマトリックス状の表示選択領域を画面上に映出するテレビ受像機であっ
て,番組予約設定したい領域を指示することによりその領域の表示(色)を変えて
他の領域と識別可能に表示し,使用者の指示によりその領域に対応する番組を所望
の予約番組として設定することができるものという発明が記載されていると認めら
れる。
(3) そうであれば,予め選択した1つの放送局の番組内容を,その放送順に,
縦の方向に画面に並べ,表示するという引用発明1の番組表示方法(前記1のとお
り)に,引用発明2又は3に示されたように,マトリックス上の表示選択領域を画
面上に映出して番組予約したい領域を指示することにより予約番組の設定を行う設
定方法を適用する場合は,上記(1)認定の周知事項を考慮して,まず,テレビ番組内
容を放送局(放映チャンネル)毎に時刻情報とともに放送時間に応じた長さで放送
順に並べて表形式で画面上に表示するようにした上で,引用発明2又は3に示され
た上記設定方法を適用することは,当業者が容易に想到することができたこととい
うべきである。したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(4)ア これに対し,原告は,本件審決の進歩性の判断手法は,引用発明1を恣
意的に変化させて新たな発明を創作した上で,これを主引用発明として容易想到性
を判断していることになり,不当である旨主張する。
 しかしながら,引用発明の適用に際して,その発明の属する技術分野に
おける周知技術や技術常識を考慮することは,当業者であれば当然に行うこととい
うべきであるから,原告の上記主張は理由がない。なお,原告の指摘する特許庁の
審査基準(甲26)においても,「論理づけに最も適した一の引用発明を選び,請
求項に係る発明と引用発明を対比して,請求項に係る発明の発明特定事項と引用発
明を特定するための事項との一致点・相違点を明らかにした上で,この引用発明や
他の引用発明(周知・慣用技術も含む)の内容及び技術常識から,請求項に係る発
明に対して進歩性の存在を否定し得る論理の構築を試みる。」(13頁1~5行)
と,進歩性判断に際して周知・慣用技術を考慮することが明記されている。
イ また,原告は,引用発明1は予め選択された1つの放送局のみの番組を
表示することを前提としているのであるから,複数の番組を表示する表形式を適用
することはできない旨主張する。
 しかしながら,引用発明1においても,選択された放送局の番組情報だ
けでなく,複数の放送局の番組情報を表示した方が視聴者の選択に都合がよい場合
が多いことは明らかであるから,当業者が,引用発明1をもとにして,複数の放送
局の番組情報を表示することを想到することは何ら阻害されないというべきであ
る。したがって,原告の上記主張も理由がない。
ウ さらに,原告は,①引用発明2,3は,チャンネル番号枠と時刻枠とか
ら形成される各コマの開始時刻及び終了時刻が予め固定されたもので,各コマごと
に設定を行うものであるから,引用発明1に引用発明2,3を適用することはでき
ない旨や,②新聞のテレビ欄等のような周知の番組表では,多くの場合,1つのコ
マの中に複数の番組が記載されているから,引用発明1の番組表示形式を,上記周
知のものに置き換えても,引用発明2,3を適用することはできない旨主張する。
 しかしながら,番組情報を取り出して画面表示する引用発明1におい
て,引用発明2,3のようにチャンネル枠と時刻枠から構成されるコマ単位の番組
設定方法を採用する場合,テレビ番組内容を放送時間に応じた長さで放送順に並べ
て表形式で表示するという前記(1)認定の周知技術を考慮すれば,各コマの長さを番
組の放送時間に関係なく設定するのではなく,むしろ,各コマの長さを放送時間に
応じた長さに設定することは,当業者が容易に想到し得ることというべきである。
したがって,各コマの長さを番組の放送時間に関係なく設定することを前提とする
原告の上記主張は,その前提を欠き理由がない。
(5) 以上のとおりであるから,原告の取消事由3の主張も理由がない。
4 結論
 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決を
取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって,原告の本訴請求は理由がないから棄却し,主文のとおり判決する。
  
       東京高等裁判所知的財産第1部
     裁判長裁判官 中  野  哲  弘
    裁判官   青  柳     馨
          裁判官沖  中  康  人

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