弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 抗告人の抗告理由は、抗告人の提出した別紙抗告状の抗告理由記載のとおりであ
り、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 抗告人は、債権者が執行力ある正本に基づいて、配当要求の申立をしたときは、
その後既存の強制競売申立の取下があつた場合に、開始決定を受けた効力を生ずる
ものと主張する。
 <要旨>しかし、右のように強制競売手続が取消された場合に開始決定を受けた効
力を生ずるのは、債権者が民事訴訟法第六百四十五条第二項に基づいて、強
制競売を申立てこれが執行記録に添付された場合に限るものであり、したがつて、
執行力ある正本を有する債権者でも、強制競売の申立をせず、単に同法第六百四十
六条に基づいて配当要求の申立をしたに過ぎない場合には、既に開始した競売手続
が取り消されても、開始決定を受けた効力を生ずるものでないことは、民事訴訟法
第六百四十五条、第六百四十六条の規定上明かなところである。
 これに対し、強制競売の申立により配当要求の申立をしたものとみなされる場合
であると、通常の配当要求の申立をしたに過ぎない場合たるとを問わず、常に既存
の競売手続が取消された場合には、開始決定を受けた効力を認めるのが相当だとな
す論者は、(一)我が国のように執行につき平等主義を採る法制の下においては、
既に差押若くは開始決定があつた以上、執行力ある正本を有する他の債権者は改め
て差押若くは開始決定を繰返す要なく、単に配当要求をすれば足りるのであるか
ら、再度の執行を申立てたことにより配当要求の効力を生ずる場合と、単に通常の
配当要求を申立てた場合とにより、異別の取扱をするのは公平を失する。(二)有
体動産の執行手続においては執行力ある正本を有する債権者の配当要求は照査手続
(民事訴訟法第五百八十六条、第五百八十七条)によらなければならないから、既
存の差押が取消さるれば右配当要求者のために差押の効力が生ずるし、債権その他
の財産権に対する執行手続において、執行力ある正本による債権者の配当要求には
既存の差押が取消された場合に差押の効力を生ぜしめている。(民事訴訟法第六百
二十条)しかるに不動産及び船舶の場合だけ執行力ある正本を有する債権者の通常
の配当要求に差押の効力を認めないのは、動産、債権その他の財産権と、不動産船
舶の執行手続とに一貫せざる不合理を生ずるばかりでなく、民事訴訟法第六百二十
条第三項の規定は、一般に配当要求の申立には、既存の差押若くは競売手続が取消
された場合に差押若くは開始決定の効力があることを定めたものと解するのが相当
であるから、債権その他の財産権の執行ばかりでなく、不動産に対する執行手続に
おいても、執行力ある正本により通常の配当要求をした債権者のために、開始決定
を受けた効力を生ずるものといわねばならない。ということをその理拠としている
ようである。
 しかしながら、(一)民事訴訟法第六百四十五条第二項の強制競売の申立をし
て、これを記録に添付された場合と、通常の配当要求の申立をしたに過ぎない場合
とを区別せず、等しく既存の競売手続が取消された場合に開始決定を受けた効力を
生ずるものだとするならば、何人と雖も、複雑な強制競売の申立をなすの煩を避
け、より簡易な形式で事足りる通常の配当要求の申立だけに止めるであろうことは
自明であつて、かくては民事訴訟法第六百四十五条第二項の規定は全く空文に帰す
ることとなる。(二)執行力ある正本を有する債権者の配当要求の申立が有体動産
や債権その他の財産権の執行手続の場合と、不動産船舶の執行手続の場合とに、そ
の効力において差異があるのは、それ等自体の性質上の差異から生ずるものであつ
て、民事訴訟法第六百二十条第三項の規定は債権その他の財産権の執行手続におい
て執行力ある正本を有する債権者の配当要求に(既存の差押が取消された場合)差
押の効力があることを定めたものに過ぎないから、これを不動産船舶の強制競売手
続における配当要求の申立に準用若くは類推することはできない。(三)もつと
も、執行力ある正本を有する債権者の有体動産執行手続における配当要求の申立
は、照査手続によらなければならない(したがつて、執行力ある正本を有する債権
者の通常の配当要求の申立は許されない。民事訴訟法第五百八十九条参照。但し反
対説もある。)との見解に立ち、且つ前記民事訴訟法第六百二十条第三項の法意か
らして、不動産船舶の強制執行手続における執行力ある正本を有する債権者の配当
要求の申立も、民事訴訟法第六百四十五条第二項の形式にしたがつて、強制競売の
申立をすることを要し、通常の配当要求の申立は許されないと解することができる
ならば、債権者が通常の配当要求の申立をして来た場合には右第六百四十五条第二
項の形式によらしめるよう補正させる余地があるけれども、同条竝びに右第六百四
十六条第五百八十六条乃至第五百八十九条第六百二十条の各条文を比較するなら
ば、そのように、通常の配当要求の申立を禁じているとの解釈は困難であり、通常
の配当要求の申立と、右第六百四十五条第二項の執行の申立による配当要求申立と
の二つの途が与えられているものと解するの外はない。しかして、右の如く二つの
途を与えたのは、不動産に対する強制競売の申立は有体動産又は債権その他の財産
権に対する執行の申立に比し手続が複雑であり、費用もかさむところから、債権者
によつては単なる配当要求だけで(したがつて万一既存の執行手続が取消された場
合に開始決定の効力が生じなくとも)満足するものもあることを予想してのことで
ある。
 以上の次第であるから、本件抗告人の配当要求の申立は既存の強制競売申立の取
下により効力を喪失したものと解するので、原決定が抗告人の本件異議の申立を棄
却したのは、結局相当であり、本件抗告は理由がない。
 よつて、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条、第八十九条を適用し、主文
のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 桑原国朝 裁判官 二階信一 裁判官 秦亘)

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