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判決言渡平成20年2月13日
平成18年(行ケ)第10490号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年2月6日
判決
原告ザ・レジェンツ・オブ・ザ・ユニバー
シティ・オブ・カリフォルニア
訴訟代理人弁理士中村静男
同渋谷健
同森島なるみ
被告特許庁長官
肥塚雅博
指定代理人冨永みどり
同鵜飼健
同徳永英男
同内山進
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2001−9191号事件について平成18年6月20日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,米国法人である原告が国際特許出願の方法により名称を「クローン
化グルタミン酸デカルボキシラーゼ」(CLONEDGLUTAMICACIDDECARBOXYLASE
)とする発明につき特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不
服として審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたので,その
取消しを求めた事案である。
争点は,請求項1∼11からる本願のうちその1項及び6項である本願発
明1及び6が,下記引用例1∼3に記載された発明との関係で進歩性(特許法
29条2項)を有しているかどうかである。
①引用例1:BandC「CharacterizationoftheProteinPurifiedwith
MonoclonalAntibodiestoGlutamicAcidDecarboxylase」The
JournalofNeuroscience,Vol.8,No.6,1988p.2123-2130(以
下,この発明を「引用発明1」という。)
②引用例2:Dほか「Identificationofthe64Kautoantigenin
insulin-dependentdiabetesastheGABA-synthesizingenzyme
glutamicaciddecarboxylase」Nature,
Vol.347,1990.Sep.13,p.151-156(以下,この発明を「引用発
明2」という。)
③引用例3:Eほか「64000Mrautoantibodiesaspredictorsof
insulin-dependentdiabetes」THELANCET,Vol.335,1990
Jun.,p.1357-1360(以下,この発明を「引用発明3」とい
う。)
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,上記名称の発明(発明者:A外2名)につき,1990年(平成
2年)9月21日の優先権(米国)を主張して,1991年(平成3年)9
月23日に国際特許出願(PCT/US91/06872,WO92/05
446。以下「本願」という。)をし(特願平3−518259号),平成
4年5月20日に特許法184条の4に基づき日本国特許庁に翻訳文を提出
した(国内公表〈特表平5−503220号〉は平成5年6月3日。甲11
はそこに記載された明細書。請求項の数38)。
その後,原告は,平成12年4月10日付けで明細書を補正した(以下
「本件補正」という。請求項の数11。甲12)が,平成13年2月26日
拒絶査定を受けたので,平成13年6月4日付けで不服の審判請求を行っ
た。
特許庁は,上記請求を不服2001−9191号事件として審理した上,
平成18年6月20日,「本件審判の請求は,成り立たない」との審決を
し,その謄本は平成18年6月30日原告に送達された。
(2)発明の内容
本件補正後の特許請求の範囲は,上記のとおり請求項1∼11から成り,
そのうち請求項1及び6は下記のとおりである(以下,請求項1の発明を
「本願発明1」,請求項6の発明を「本願発明6」という。これらを総称し
て「本願発明」ということがある。)。

「【請求項1】以下の(a)−(c)のいずれかから選択されるタンパク
質をコードするcDNA:
(a)図2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)図3に示すアミノ酸配列からなるタンパク質;
(c)図2又は図3に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ
酸が欠失,置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなる(a)もしくは
(b)由来のタンパク質であって,かつグルタミン酸デカルボキシラーゼ
活性を有するタンパク質。
【請求項6】図2又は図3に示すアミノ酸配列からなるGADに対す
65
る自己抗体のためのエピトープを少なくとも1個有する,アミノ酸配列を
有するポリペプチドをコードするcDNA配列から本質的になるcDNA
配列。」
なお,図2は別紙1(図2A∼2C)のとおりであり,図3は別紙2(図
3A∼3D)のとおりである。
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別紙審決写しのとおりである。その理由の要点は,
本願発明1及び6は,引用例1∼3に記載された発明に基づいて容易に
発明することができたから,特許法29条2項により特許を受けることが
できない,というものである。
イなお,審決は,本願発明1に含まれる「図2に示すアミノ酸配列からな
るタンパク質をコードするcDNA」と引用発明1との一致点及び相違点
を次のとおり認定している。
〈一致点〉
いずれもラット由来のGADに関連するタンパク質に関する発明である

〈相違点〉
本願発明1は,GAD活性が確認された「図2に示すアミノ酸配列から
なるタンパク質」をコードするcDNAであるのに対し,引用発明1に
は,ラットGAD関連タンパク質については,その部分アミノ酸配列が記
載されているものの,GAD活性を有することについて示唆されるに留ま
り,そのようなGAD関連タンパク質をコードするcDNAについては記
載されていない点
ウまた,審決は,本願発明6と引用発明1との一致点及び相違点を次のと
おり認定している。
〈一致点〉
いずれもラット由来のGADに関連するタンパク質に関する発明である

〈相違点〉
本願発明6は「図2又は図3に示すアミノ酸配列からなるGAD65に
対する自己抗体のためのエピトープを少なくとも1個有する,アミノ酸配
列を有するポリペプチドをコードするcDNA配列から本質的になるcD
NA配列」であるのに対し,引用発明1には,そのようなcDNAが記載
されていない点
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決の認定判断には,次のとおり誤りがあるから,違法
として取り消されるべきである。
ア取消事由1(引用発明1は引用発明としての適格性を欠く)
引用例1(甲1)の表2(Table2)に記載のラットGADのアミノ酸
配列97個のうち,96個が正しいものであったことは認める。
しかし,これらの96個のアミノ酸は連続していないというよりもむし
ろ,間に散らばった不確定のアミノ酸によって,そしてメチオニンの位置
での臭化シアン開裂による配列の中断によって,より小さいストレッチに
分けられていることに注意すべきである。
引用例1のラットGAD部分アミノ酸配列の最も長いストレッチの中に
は,ネコGADアミノ酸配列と同じ配列を有する長いストレッチがあ
67
る。GADと異なる遺伝子を見つけようとするならば,これらの領域を
67
プローブとして用いることは避けなければならない。ネコGADと異な
67
る残りのアミノ酸配列領域は非常に短く,必要になるであろうプローブに
おいて必要な縮退が特に与えられた核酸プローブを設計するためには最適
とはいえない。さらに,アミノ酸の違いが,種の違いのみによるものか否
かは本願優先日(1990年[平成2年]9月21日)当時知られていな
かったのであり,配列の違いは単なる誤りであるかもしれなかった。ラッ
トGADの全アミノ酸配列の決定を報告したLほか「RatBrain
67
GlutamicAcidDecarboxylaseSequenceDeducedfromaClonedcDNA」
JournalofNeurochemistryVol.54,No.2,1990,P.703-705(甲7)に
も,ラットGADのアミノ酸配列と引用例1に開示された59kDaラ
67
ットGAD部分アミノ酸配列との「諸相違はタンパク質配列決定に内在す
る可能性が大きい」(704頁右欄5行∼6行,訳文は原告準備書面(2)
の1頁及び原告の平成18年2月27日付け上申書8頁による)という記
載があり,配列決定におけるアーティファクトによって不一致となってい
るのではないかと示唆されているように,引用例1に開示された59kD
aのラットGAD部分アミノ酸配列自体が信頼できるものであるとの確証
は,本願優先日当時の当業者には無かった。
したがって,引用発明1は引用発明としての適格性を欠いている。
イ取消理由2(本願発明1及び6は引用発明1から容易に発明することが
できたものではない)
(ア)本願発明1について
審決は,「ラット脳由来のcDNAライブラリーを構築し,ラットの
59kDタンパク質の部分アミノ酸配列とネコGADのアミノ酸配列間
で保存された領域(記載事項(a3))を基に縮重プライマーを調製
し,該cDNAライブラリーをスクリーニングすることにより,ラット
脳由来のGADをコードするcDNAをクローニングすることは,当業
者が容易に想到し得ることである。また,これにより得られたcDNA
がGADの全長をコードするものでなかった場合でも,さらに,本願優
先日前における周知技術であった5’末端側又は3’末端側のDNA配
列を決定するRACE法等の手法を適用して,全長cDNAを得るこ
と,及び,常法によりその配列を解析し,コードするアミノ酸配列を特
定すること及び,それがコードするGAD関連タンパク質がGAD活性
を有することを確認することは,当業者にとって格別な困難性を有する
ものとも認められない。」と判断している(6頁5行∼17行)。
しかし,この判断は,本願優先日(1990年[平成2年]9月21
日)当時の技術水準に照らすと,次のとおり誤りであり,本願発明1は
引用発明1から容易に発明することができたものではない。
a引用例1の発表より後に,本願発明者らによって解明されたこと
であるが,GADにはその分子量によって区別され得るGAD及び
65
GADが存在し,これらはそれぞれ別の遺伝子によってコードされ
67
ている(本願明細書[甲11]6頁17行∼最終行)。引用例1に開
示されたラットの59kDタンパク質がラットGADであり,これ
65
と対比して並べられているネコGADがネコGADであることも引
67
用例1の発表後に明らかになった事実である。
ところが,1980年代の半ばから終わりには,GADが単一の遺
伝子によってコードされているのか,又は1より多い遺伝子によって
コードされているのかという問題については答えが出ないままであっ
た。少なくとも二つの理由,すなわち,当時の文献の水準及び1より
多い遺伝子の存在を支持するデータが継続して欠如していたことか
ら,この問題に答えることは困難であった。
本願発明者らは,単一GAD遺伝子仮説を支持するか又は否定する
実験データを得るために,低及び高緊縮条件を用いて多数の実験を行
った。本願発明者らは,≦30%ミスマッチ,ハイブリダイゼーショ
ン(サザンブロット及びスクリーニング)で,高緊縮と低緊縮とを比
較し,第2の遺伝子の証拠は無いことを繰り返し見い出した。これら
のデータから,本願発明者らは,第2のGAD遺伝子が存在するな
ら,それは,70%未満の同一性であり,低緊縮ハイブリダイゼーシ
ョンを用いて検出又は単離することはできないと結論付けた。
したがって,引用例1に報告されたラットペプチド配列(部分アミ
ノ酸配列)が実際のところ何を示しているのか当時は不明だったので
ある。
BとCが1987年7月に引用例1を発表してから,1991年に
本願発明者らが論文でGADとGADのクローニングを報告する
6765
まで4年が経過している。4年間は非常に長い期間である。ラットG
ADcDNAを特定することが当業者に容易であったならば,引用
65
例1を発表したBとCが彼ら自身でGADとGADをクローニン
6765
グする実験を行ったであろう。
本願発明者らが1989年に発表した論文においても,ヒト及びラ
ットのGADは,ただ一つの遺伝子であると記載されている(甲8の
1[F,GandA「TWOFORMSOFGLUTAMATEDECARBOXYLASE(GAD),WITH
DIFFERENTN-TERMINALSEQUENCES,HAVEDISTINCTINTRANEURONAL
DISTRIBUTIONS」SOCIETYFORNEUROSCIENCE
ABSTRACTS,VOLUME15,1989,P.487]及び甲8の2[G,
H,FandA「IMMUNOCYTOCHEMICALSTUDIESUSINGANEWANTISERUM
AGAINSTBACTERIALLYPRODUCEDFELINE
GLUTAMATEDECARBOXYLASE」SOCIETYFORNEUROSCIENCEABSTRACTS,
VOLUME15,1989,P.488])。
本願発明者らは,1990年に,二つのGAD遺伝子に関する論文
を,雑誌「SCIENCE」に投稿したところ,59kD及び63kDのG
ADタンパク質は,二つの遺伝子の存在によるものではなく,異なる
スプライシングによって説明されると「SCIENCE」がまだ考えていた
ために,最初は掲載を拒絶された(甲13[本願発明者の一人である
Iの宣誓書])。
Jらは,マウスにおいて第2のGAD遺伝子を見い出していたが,
それは偽遺伝子であった(甲6[Jほか「SequencesHomologousto
GlutamicAcidDecarboxylasecDNAArePresentonMouseChromosomes
2and10」GENOMICS6,1990,P.115-122])。このことは,引用例1
に関して大きな疑問を投げかけるものであった。引用例1に開示され
たラットGAD部分アミノ酸配列は本当に機能性遺伝子を示している
のか,又は単にJによるマウスで見い出されたものの,ラットにおけ
る同等物ではないかという疑問であった。
Lらの研究(甲7[Lほか「RatBrainGlutamicAcid
DecarboxylaseSequenceDeducedfromaClonedcDNA」Journalof
NeurochemistryVol.54,No.2,1990,P.703-705])は,彼らの研究に
よって得られたラットGADクローンが,引用例1によって報告され
たものとよく一致し,違いは技術的な問題であることを示唆してい
る。しかし,当時Lらは理解していなかったが,Lらがクローニング
していたのはラットGADだったのである。甲7によってラットG
67
ADの全アミノ酸配列が解明されたからといって,甲7の著者も述
67
べているとおり,引用例1の部分アミノ酸配列決定に誤り(アーティ
ファクト)があったかもしれないという認識が当業者にはあったので
あるから,「59kDaのラットGADは,ネコGADのオーソログ
ではなく,異なる型であること」が,本願優先日前に明らかであった
とはいえない。
本願優先日の周辺に公表された,GADに関する論文は,いずれも
GADには全く言及していない(甲15∼19)。また,糖尿病関
65
連団体(diabetescommunity)の研究室は,初期に研究室を解散し
た。
b引用例1(甲1)には,「59kDaタンパク質は,高い程度で,
ネコGAD(Fら,1986;Kら,1987)に対するcDNAによってコ
ードされたタンパク質の推定されたアミノ酸配列と配列相同性を有し
ている。従って,これらのタンパク質は,共通の祖先からラット及び
ネコのへの進化の間に分岐した単一遺伝子の生成物であるか,又は両
方の種で見出される遺伝子の密接に関係するセットのメンバーである
かのいずれかである。」旨の記載がある(2129頁左欄28行∼4
2行,訳文は原告準備書面(1)の9頁による)。このように,引用例
1は,GADは1個又は2個の遺伝子によってコードされていると,
二つの選択肢があることを述べている。しかし,引用例1が報告した
データからは,これら二つの可能性のいずれであるかを決定すること
はできなかった。引用例1は,引用例1で報告したデータを考慮すれ
ば,どのようにしてこれが解明できるのかについては述べていなかっ
た。
cその後すぐに,本願発明者らは,単一GAD遺伝子仮説を試験する
別の方法がないだろうかと考え始めた。
本願発明者らが直面した問題は次のとおりであった。すなわち,報
告されているネコcDNAとラットタンパク質の間の違いは「実在」
なのか,又はこれらの違いは,単にラット又はネコの種の違いとペプ
チド配列決定における誤りの総和なのだろうか,さらに,これをどの
ように検証することができるだろうかということであった。
再度の第2のGAD遺伝子を明らかにするための低緊縮ハイブリダ
イゼーション実験は,繰り返し失敗に終わったので,本願発明者ら
は,観察された違いが第2のGAD遺伝子を示しているのか否かを直
接試験できる別の何かを試さなければならないことを認識した。
そこで,本願発明者らは,縮退プライマーをPCRに用いて同じ種
の中の関連する遺伝子をクローニングすることを考えた。しかし,こ
の実験には,次のような困難があった。
第1に,この実験を成功させるためには,ポリメラーゼ鎖延長のた
め,cDNAにアニーリングさせられるだけの,十分な濃度の正しい
オリゴヌクレオチド,又は正しいものに近いオリゴヌクレオチドが必
要であった。しかし,この実験のために用いるプライマーはかなり縮
退していたために,増幅された生成物を生産することができなかっ
た。
第2に,本願発明者らは,ネコGADのラット同等物のゲノム構造
又は潜在的な第2のGAD遺伝子のゲノム構造を知らなかった。
もし,いくつかの大きなイントロンがあったなら,PCR生成物の
長さは効率的に増幅できないほどに大きくなるため,否定的な結果を
もたらしたであろう。
また,1980年代終わりには,配列決定分析の前にPCR生成物
をクローニングする必要があったので,得られた任意のPCR生成物
をどうやってクローニングするかという問題もあった。設計されたプ
ライマーに内在する制限部位が目的とするcDNAに内在していて,
クローニングのために選択した酵素が,想定される第2GAD遺伝子
の内部に存在する特異的な配列を切断してしまえば,想定される第2
の遺伝子は排除されることになる。
第3に,一旦増幅が起きれば,縮退は非常に広範に及ぶため「キナ
ーゼ化された(kinased)」オリゴヌクレオチドスクリーニングによ
る陽性シグナルを得ることはできないので,引用例1の配列を肯定的
に選択する方法(GADと異なる領域を同定し,そしてこの異なる
67
領域を含むcDNAをクローニングするためのPCRプライマーを設
計するために,引用例1に開示されたラットGAD部分アミノ酸配列
を用いること)はなかった。
転写率,又はGAD及びGADをコード化するmRNAの安定
6567
性の違いによって,タイプの異なるノイズが生じ得る。GADとG
67
ADの発現濃度が大きく異なっていたり,安定性が異なっている場
65
合には,ゲル電気泳動によるノイズ除去は役に立たない。それらのノ
イズ集団(theirprevalence)における種類の違いは簡単に100∼
1000倍になったであろう。1990年代の初期には,単一遺伝子
の配列決定はいまだ非常に困難で費用のかかる仕事であった。そのこ
ろは,単一遺伝子の配列決定は,大学院生の卒業論文が大部分を占め
ており,せいぜい10∼20個のクローンを配列決定したものであっ
た。この時点で,GADの存在が否定的であったならば,より多く
65
のcDNAクローンの配列決定を続けるために必要な時間,費用及び
努力を費やすことが正しいと判断することは難しかった。
そこで,本願発明者らは,引用例1のラットGAD部分アミノ酸配
列とネコGADアミノ酸配列の間で異なっている領域をプローブと
67
して用いるのではなく,ネコGADアミノ酸配列と類似の引用例1
67
のラットGAD部分アミノ酸配列の領域に対応する,ネコGAD由
67
来の配列をプローブとして用い,ネコオーソログにハイブリダイズし
ないものはすべて第2GADを示すという考えを持って,「否定的選
択(negativeselection)」により,ネコGAD同等物をスクリーニ
ングした。多くの「的はずれの」PCR由来の増幅産物があるので,
このような否定的選択は難しいことが周知である。
しかし,上記の考え(否定的選択)の何度かの繰り返し試行の後,
本願発明者らは,二つの異なる配列集団を同定することに成功した
(本願明細書[甲11]記載の実施例1は,否定的選択そのものでは
ないが肯定的選択も使用していない。複合的な方法を用いたものであ
る。)。
しかし,まだ,これらの二つの同定された配列集団のうちのいずれ
かが発現された偽遺伝子である可能性があった。本願発明者らは,続
いて,cDNAライブラリーをスクリーニングし,ネコGAD及びラ
ットGAD(上記同定された二つの配列集団のうちのネコGADと密
接に配列されたもの)とは全く異なる配列に対する全長のクローンを
得た。この新たな配列は,ラットGAD(上記同定された2つの配列
集団のうちのネコGADと密接に配列されたもの)に対するヌクレオ
チド配列と65%類似であった。
次に,本願発明者らは,第2のGAD遺伝子を確かにクローニング
したことを証明する必要があった。本願発明者らが同定した新たな配
列と引用例1の間の配列アラインメントを観察しても,本願発明者ら
が第2のGAD遺伝子をクローニングしたか否かを検討することには
ならないからである。そこで,本願発明者らは,下記の実験を行っ
た。
①上記で得られた新たなラットcDNAによるサザンブロットを行
った。これは,ネコGADプローブによって認識されない,全体と
して異なるセットのバンドを明らかにした。これにより,新たなラ
ットcDNAが上記同定された二つの配列集団のうちのネコGAD
と密接に配列されたものの遺伝子から誘導されたものでなく,異な
る遺伝子から誘導されたことが証明された。
②新たなラットcDNAを用いたノーザンブロットによって,ネコ
GADのプローブによって以前には認識されなかった別のバンドを
検出した。これは,サザンブロットからの結論と辻褄の合うもので
あった。
③新たなラットcDNAを用いた全長のタンパク質発現によって,
化学量論量のグルタミン酸塩をGABAに変換するタンパク質を生
産した。したがって,本願発明者らは,ラットGADをコードする
第2のGAD遺伝子をクローニングした。その分子量の計算値は,
∼6万5000であったので,本願発明者らはそれをGADと命
65
名した。
d以上のとおり,本願発明者らによって用いられたラットGAD(ラ
ットGAD)を単離する方法は,決して自明なものではなく,創意
65
に富んだものであった。引用例1の配列はこのクローンを同定するの
に,用いなかったし,用いることができなかったのである。
本願発明者らは,2007年(平成19年)6月25日に,PubMed
を用いて期間を区切った文献検索を行ったところ,「low+
hybridization+cloning」に関する1985年から1990年の時間
枠での検索によって,411件の論文がヒットした。しかし,
「degenerate+primer+PCR+cloning」に関する1985年から1
990年の時間枠でのPubMed検索では,たった4件の論文しかヒット
せず,これは前者と比べて100倍少ない。また,「mixed+
primer」でPubMed検索をすると,1985年1月1日から1990年
9月21日の時間枠では,26件の論文がヒットしたが,この中に
は,本願発明者らが採用した方法に関するものは1件もなく,「本願
優先日時点でのcDNAのクローニングに関する周知技術」が存在し
たことを示すものもなかった。このことは,本願優先日当時におい
て,縮退プライマーPCRクローニングの「周知技術」を用いて本願
発明をすることが容易であるということがいかに不合理であるかを証
明している。
本願発明者らが,ラットGADcDNAのクローニングを完了し
65
たのは,本願の図4のラットGADとヒトGADのアミノ酸配列
6565
の比較を行った日付「1990年8月22日」(本願の図4A[甲1
1]には,「1992年8月22日」と記載されているが,本願の基
となっている国際出願の国際公開公報WO92/05446号[甲2
3]のFFIG.4Aには「AUGUST22,1990」(1990年
8月22日)と記載されているから,上記の「1992年8月22
日」がタイプミスであることは明らかである。)より前であり,実際
には1989年の6月∼8月の時間枠で行った実験によってである。
クローニングの技術は,1991年付近を境に大きく変わっており,
1991年以前は,縮退PCR研究は極端に難しかった。本願発明に
おける決定的なPCRを含む実験は1991年より十分前に始められ
ていたのである。
e審決が,RACE法等を用いて,部分アミノ酸配列からGADの
65
5’末端を得ることができたと推測しているなら,正確ではない。な
ぜなら,RACE法では,一つの特異的なプライマーしか使用せず,
それ以外のプライマーは非特異的(すなわち,Gの鎖)であるため,
目的とする5’末端を検出し,続いてクローニングするためには,目
的とする遺伝子に特異的なネスト化されたプライマーが必要であると
ころ,本願発明の場合には,多数の縮退プライマーを用いることにな
り,RACE法による解析は不可能であったからである。
fなお,被告は,「本願発明をすることが容易である」ということが
何を意味するかを明らかにしていない。分子生物学者であれば,「容
易である」とは,縮退PCRクローニングによってどうやって関連遺
伝子をクローニングするかに関する詳細な標準操作手順書が書けるこ
とにあると定義するであろう。標準操作手順書とは,公開論文の単な
る「材料及び方法」の項程度のものでないことは明らかである。標準
操作手順書は,全ての機能性の問題,又は「バグ(bugs)」を除去す
るために,多くの研究者によって十分に開発され試験されたプロトコ
ール(protocol:実験計画書)である。このようなプロトコールが作
成できる段階でのみ,その操作が「容易である」と考えられる。しか
るところ,縮退プライマーPCRを用いて遺伝子をクローニングする
ためのそのような詳細なプロトコールは1990年又はそれ以前には
無かったのである。
被告は,縮退の「通常」の程度が何かを述べていない。「通常」と
いう語句は,その技術が非常に頻繁に用いられており,公表論文又は
周知の事実のいずれかによって「通常」の範囲が存在することを意味
する。本願発明者らは,1990年又はその付近でPCRクローニン
グにおけるプライマーの縮退に関する「通常」の程度の定義を見い出
すことはできなかった。
gまた,被告は,後記3(2)ア(ア)のとおり,乙10(GREGORIOGILほ
か「MultipalGenesencodenuclearfactor1-likeproteinsthat
bindtothepromoterfor3-hydroxy-3-methylglutaryl-coenzymeA
reductase」ProceedingsoftheNationalAcademyofScienceofthe
UnitedStatesofAmerica,Vol.85,1988,p.8963-8967)及び乙11
(CHENGCHILEEほか「GenerationofcDNAProbesDirectedbyAmino
AcidSequence:CloningofUrateOxidase」Science,Vol.239,1988,
p.1288-1291)に基づく主張をするが,次のとおり,これらの証拠に
よって本願発明1が容易になし得たとすることはできない。
(a)乙10及び11は,cDNAをクローニングするRT−PCR
の一般的な方法を記載している。これらの乙号証と本願発明1の異
なる点は,乙号証では曖昧でないアミノ酸配列の非常に長いストレ
ッチを有する高度に精製されたペプチドを用いた(乙11の
「Fig.1」の(B)及び乙10の「Fig.1」参照)のに対し,本願発明
1では,GADと異なる引用例1の配列の領域は非常に短く,G
67
ADを直接にクローニングするのに使用することが難しかった。
65
本願発明者らは引用例1のラットGAD部分アミノ酸配列中のネコ
GAD(ネコGAD)と一致している,より長いストレッチを用
67
いた。そして,本願発明者らは得られたGADではないcDNA
67
に対するクローンをスクリーニングした。
(b)乙10及び11における縮退のレベルは非常に低い。
乙11では,センス及びアンチセンスプライマーは,いずれも3
2種のプライマーの混合物であった。乙10に関しては,センスプ
ライマーは,8種のプライマーの混合物であり,アンチセンスは1
2種のプライマーの混合物であった。乙10及び11では,縮退の
レベルが非常に低いので,完全に相補的な配列の有効濃度は非縮退
プライマーを用いたPCRを完成させるのと実質的に同等であろ
う。本願発明1はこのようなケースではなかった。本願発明1で
は,センスプライマーが6144種類のプライマーの混合物であ
り,アンチセンスプライマーが4096種類のプライマーの混合物
であった。明らかに,本願発明1における縮退のレベルは,実験の
成功からはかけ離れている程に高かったのである。
(c)生じるPCR生成物の予想される長さが分かっているなら,実
験の不確実性は非常に小さい。乙10及び11では,生じるPCR
生成物の長さが,塩基対のレベルまで正確に分かっていた。これに
対し,本願発明1はこのようなケースではなかった。引用例1の部
分アミノ酸配列は,CNBr(臭化シアン)断片であり,したがっ
て,本願発明1で用いたのは,ネコGAD(ネコGAD)から演
67
繹されたアミノ酸配列と一致しているアミノ酸配列の断片であった
(甲1のTable2参照)。具体的に言えば,本願発明1において用
いた二つの縮退プライマーは,隣接していないアミノ酸配列から得
られたものであり,前方のプライマーは,ヌクレオチド711でネ
コcDNAと一致している断片から,そして他方は,ヌクレオチド
1713でネコcDNAと一致している異なる断片から得た。した
がって,本願発明者らは,「第2の」GADの二つのプライマーの
間のヌクレオチドの長さを知らなかった。本願発明者らが知ってい
たのは,当時存在していたGAD(後にGADと呼ばれるように
67
なった)の長さだけだった。本願発明者らは乙10及び11が享受
した確実性を享受できなかった。
(d)プライマーの縮退及び配列類似性を有する他のcDNA(例え
ば,関連するデカルボキシラーゼ類)を原因とする大抵の場合のよ
うに,本願発明者らが複数の増幅されたバンドを得たなら,どのバ
ンドを調べるべきだったのか。不純物である他のデカルボキシラー
ゼ類だけでなく,GADの複数のスプライス形態が存在し(現在
65
では,GAD及びGADの複数のスプライス形態が存在するこ
6567
とが知られている),それによって多数の異なるPCR生成物が生
成されたらどうなるか。もしGADの転写物のGADの転写物
6567
に対する割合が1:1000であったらどうなったのか。これらの
疑問があることからすると,被告の主張は,あまりにも簡単に割り
切り過ぎている。
(e)以上に,単一のGAD遺伝子であると信じられていたという重
要な事実と相まって,乙10及び11によって本願発明1をなすこ
とが容易であったということはできない。
(イ)本願発明6について
上記のとおり,引用例1に示されたラット部分アミノ酸配列から全長
のラットGADを得ることは容易ではなかった。その上,任意のその
65
ような部分アミノ酸配列中の6∼10個のアミノ酸の一続きのつながり
(stretch)を,簡単に選択しても,抗体に対するエピトープが存在す
ることは保証されないであろう。
引用例1においては,タンパク質を精製するためにGAD−1抗体が
使用されているが,GAD−1抗体はPEVKEK領域の外側のエピトープを
認識する。また,GAD−1抗体が,GAD及びGADからなるヘ
6567
テロ二量体のうちの一方の形態に完全に特異的であるのか,又はGAD
の複合形態又は関連するタンパク質(例えば,GADと配列が類似して
いる,DOPAデカルボキシラーゼ及び芳香族酸デカルボキシラーゼ等
の他のデカルボキシラーゼ類)をも認識するのかについては本願優先日
当時知られていなかった。
したがって,本願発明6は,当業者が引用発明1から容易に発明をす
ることができたものではない。
ウ取消事由3(本願発明1及び6の格別の効果の看過)
(ア)GADとGADは,異なる酵素的動力学,細胞内分布を有して
6765
おり,特にGADはI型糖尿病における自己免疫応答の主たる標的で
65
ある点でGADとは異なっている。現在,組換えGADは,I型糖
6765
尿病の前糖尿病状態である自己抗体を検出するため及び(GADを発
65
現する)インスリン生産性細胞に対する免疫学的耐性を誘導するために
設計された免疫治療のために用いられている。これに対し,GADは
67
自己免疫応答の主たる標的ではなく,それ故,免疫学的耐性を誘導した
り,I型糖尿病を導く自己免疫を予防することに関しては有用ではな
い。
(イ)GADcDNAの格別の効果は,次のとおり,本願明細書(甲1
65
1)に記載されている。
実施例2の「B」は,GADとGADが二つの別個の遺伝子によ
6765
ってコード化されていることを示している。実施例2の「E」は,GA
DのmRNA及びGADのmRNAの発現がニューロンのクラスに
6567
よって異なることを示している。実施例2の「C」では,GADcD
65
NAが酵素的に活性なGADをコード化しており,そしてその酵素的に
活性なGADが,グルタミン酸塩をGABA及びCOに変換する効
652
67
果を示し,外因性のピリドキサールリン酸(PLP)に対してGAD
とは異なった反応を示している。実施例の「F」では,GADとは異
67
なる無細胞系分布を有することを示している。
実施例3は,GADとGADとの免疫学的挙動の違いを明らかに
6567
している点で特に重要である。実施例3のBには,「更に別の実験(結
果を示さず)では,IDDMの危険がある患者2人(DA,DC)から
の血清は,組み換え法で生産されたS−GADを免疫沈降させる
35
65
が,一方組み換え法で生産されたS−GADは,患者DAの血清の
35
67
みによって認識された(そしてこれはS−GADよりも弱い)こと
35
65
を示した。」(本願明細書[甲11]31頁6行∼9行)と記載されて
いる。このGADとGADの間の違いは,実施例3の最後に強調さ
6567
れており,GADがIDDMを予測するための診断ツールとしてどれ
65
だけ有用性が高いかが述べられている。すなわち,「実際に症状がでる
前に医師がIDDMを診断できるということは,疑いもなくインシュリ
ン治療が必要となるまでの時間がおおいに伸びる結果となる。このよう
な免疫アッセイの感度は,膵臓のβ−細胞に存在するGAD形を表すヒ
ト由来の組み換えGADを用いて改良されるであろう。」(本願明細
65
書[甲11]33頁20行∼23行)ということである。
(ウ)本願明細書中には示されていないが,その後の検討によって,I型
糖尿病患者の自己免疫応答は,主にGADに向けられていることが確
65
認されている。
(エ)したがって,GADではなく,GADに対する自己抗体に関す
6765
る検査はI型糖尿病の前診断(prediagnosing)及びI型糖尿病とII
型糖尿病とを区別するのに有用である。GADに対する自己抗体を検
65
出するキットについては,本願明細書(甲11)8頁末行∼10頁下2
行に記載されており,そのようなキットは現在欧州及び米国で商業的に
販売されている。
さらに,本願明細書(甲11)10頁末行∼13頁10行には,GA
Dがどのように治療的に与えられ,自己反応性免疫応答を刺激又は
65
ブロックできるかが記載されている。GADではなく,GADが
6765
6765
自己免疫の標的であるため,臨床試験は,GADではなくGAD
を用いている。
(オ)審決は,引用例2(甲2)における相対分子量64000(64
K)の膵島β細胞自己抗原,及び引用例3(甲3)における64000
Mr(64KA)の膵島細胞タンパク質(以下,これらをまとめて「6
4K自己抗原」と呼ぶ)がGADであることを当然の前提として本願
65
発明の効果を判断している。しかし,本願優先日前においては64K自
己抗原が2種類存在することが知られているGADのうちのいずれであ
るのかは明らかではなかった。本願発明によってGADの全アミノ酸
65
配列が明らかになって初めてGADと同じものであることが確認で
65
き,さらに,2種類存在することが知られていたGADのうち,GAD
ではなくGADこそがIDDM診断の指標として有用であることが
6765
明らかになったのである。
(カ)審決は,後知恵によって本願発明の効果を認定したものであり,以
上のような本願発明1及び6の格別の効果を看過している違法がある。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。
3被告の反論
(1)取消事由1に対し
ア引用例1に記載される三つの断片ごとに分けて,引用例1のラットGA
Dのアミノ酸配列と,それに対応する本願発明1のラットGADのアミ
65
ノ酸配列を相同な領域が対応するように並べて比較してみると,下記の
(i)∼(iii)のとおりである。ここでは,引用例1において空白になってい
る位置は,1アミノ酸分の空白「」をあけて記載する。
(i)断片1
引用例1のラットGADVLAADLTSTANTNTYEIAPVFVLLEYV
W
本願のラットGADGLAADWLTSTANTNMFTYEIAPVFVLLEYV
(ii)断片2
GMM
引用例1のラットREIIGWPGGSDGIFSPGGAISNYAMLIARYKMFPEVKEKG
GAD
本願ラットGADREIIGWPGGSGDGIFSPGGAISNMYAMLIARYKMFPEVKEKGM
(iii)断片3
引用例1のラットGADSRLSKVAPVIKARMEYGTTVYQPGDKNFFR
MMSLV
本願のラットSRLSKVAPVIKARMMEYGTTMVSYQPLGDKVNFFR
GAD65
イ上記アの比較によると,引用例1において決定された97個のアミノ酸
残基のうち,本願発明1のラットGADと明らかに異なっているアミノ
65
酸は,「断片1」の一番最初のアミノ酸が引用例1では,「V」である
が,本願では「G」である,この1個のみである。
これについては,原告が提出した本願発明者が発表した文献である甲5
(IandA「TheStructualandFunctionalHeterogeneityofGlutamic
AcidDecarboxylase:AReview」NeurochemicalResearch,Vol.16,No.3,
1991,p.215-226)においても,引用例1に記載されたアミノ酸97個のう
ち96個がラットGADと一致していることが記載されており(220
65
頁左欄11行∼17行),引用例1のラットGADと本願のラットGAD
のアミノ酸配列が1個だけ異なるということは,本願発明者自身も認め
65
ていることである。
そして,アミノ酸配列決定技術において,この程度の決定の誤りは,よ
くあることであるし,この1アミノ酸の違いは解析対象となったラットの
個体間の差によるものである可能性もある。また,引用例1(甲1)の表
2(Table2)をみると,唯一の相違であった1番目のアミノ酸を含む最
初の領域は,ネコとラットにおいて連続して保存性が高い領域ではないか
ら,1番目のアミノ酸を含む領域の配列から縮退プライマーを作製するこ
とは,通常,当業者は行わないことである。したがって,この部分のアミ
ノ酸の相違は,引用例1に基づく本願発明1の容易性に影響を与えないも
のである。
ウ上記アの比較によると,引用例1のラットGADのアミノ酸配列におい
て,空白で示された位置(上記比較では,「」で示した。)は,すべて
本願のラットGADにおいてそれに対応する数のアミノ酸が存在するこ
65
とから,引用例1のアミノ酸配列における空白の数は,すべて正確であ
る。
エ本願の実施例1において,GADクローニングのためのプライマー設計
の基となるネコ及びラットGADの共通配列についての記載において,引
用例1を参照文献として挙げられていること(甲11[明細書]の13頁
下3行∼14頁2行)からすると,出願人自身も引用例1に記載された配
列を本願発明1のcDNAのクローニングに用いたことは明らかである。
オ以上のことからすると,引用例1は引用発明として適格性を欠くもので
はなく,引用例1を主引例として本願発明1の進歩性を判断した審決の認
定及び判断に誤りはない。
(2)取消事由2に対し
ア本願発明1について
(ア)引用例1の記載に基づいて本願優先日(1990年[平成2年]9
月21日)当時の周知技術を用いてラットGADをコードするcDNA
をクローニングすることができる
a本願優先日(1990年[平成2年]9月21日)当時におけるc
DNAのクローニングに関する周知技術を立証するために,乙8(鈴
木信太郎「混合プライマーを用いたPCR法の応用」実験医学Vol.8,
No.9(増刊)1032頁∼1036頁[1990年6月発行])及び
乙9(結城惇「新しいクローニング法:PCRとIPCR」Cell
Science,Vol.6,No.5,370頁∼376頁[1990年8月発行])
を提出する。
乙8には,相同な蛋白質のcDNAをクローニングする方法とし
て,既知のアミノ酸配列を比較検討して,1組の良く保存されている
アミノ酸配列に対応するすべての可能なヌクレオチド配列を含むプラ
イマーを用いて,mRNAより合成したcDNAをPCR法により増
幅し,増幅したDNAをベクターにサブクローニングし,増幅したD
NAをプローブとしたスクリーニングを行うことにより,目的のクロ
ーンを得て,得られたクローンのシークエンシングを行い,ヌクレオ
チド配列及びアミノ酸配列を決定すること,及び,得られたDNA
は,スクリーニング用プローブとして使用できることが記載されてい
る。
乙9には,タンパク質のアミノ酸配列をもとにクローンを得る方法
として,アミノ酸配列から推定される多数のオリゴヌクレオチドの混
合物をPCRの系に加えて,cDNAライブラリーの中に探索してい
る特定のクローンが入っているかどうかを検定し,もし探索している
塩基配列が増幅されたら,この増幅産物をプローブとして使い,クロ
ーンを拾い出すことにより,cDNAのクローニングができることが
記載されている。
乙8及び9に記載されるように,同じ機能を有する複数のタンパク
質において,該タンパク質間において保存されたアミノ酸配列が得ら
れた場合,同様の機能を有する新たなタンパク質をコードするcDN
Aを得ることを目的として,その保存アミノ酸配列を基に縮退プライ
マー,すなわち,該アミノ酸配列をコードすることが可能なすべての
ヌクレオチド配列を含む混合プライマーを調製し,それを用いて,対
象となる組織等から調製したcDNAをPCR法により増幅し,増幅
したDNAをプローブとして,cDNAライブラリー等をスクリーニ
ングすることにより,目的のタンパク質のcDNAを得ることは,本
願優先日当時における周知技術であった。
さらに,この周知技術を用いて,目的タンパク質のcDNAを得た
周知例として,乙10(GREGORIOGILほか「Multipalgenesencode
nuclearfactor1-likeproteinsthatbindtothepromoterfor
3-hydroxy-3-methylglutaryl-coenzymeAreductase」Proceedingsof
theNationalAcademyofScienceoftheUnitedStatesofAmerica,
Vol.85,1988,p.8963-8967)及び乙11(CHENGCHILEEほか
「GenerationofcDNAProbesDirectedbyAminoAcidSequence:
CloningofUrateOxidase」Science,Vol.239,1988,p.1288-1291)を
提出する。
乙10には,レダクターゼプロモーター因子タンパク質A及びBに
おいて一致するアミノ酸配列を基に作製された縮退プライマーを用い
て,cDNAを鋳型としてPCR法により増幅し,増幅されたDNA
をプローブとして,cDNAライブラリーをスクリーニングして,レ
ダクターゼプロモーター因子タンパク質BのcDNAをクローニング
したことが記載されている。
乙11には,ブタ尿酸オキシダーゼのアミノ酸配列を基に作製した
縮退プライマーを用いて,cDNAを鋳型としてPCR法により増幅
し,増幅されたDNAをプローブとして,cDNAライブラリーをス
クリーニングして,尿酸オキシダーゼのcDNAをクローニングした
ことが記載されている。
b引用例1(甲1)には,表2に示したラットとネコGADの比較に
おいて,「比較的長い一致した配列が存在し,12アミノ酸残基のも
のが1つ,10アミノ酸残基のものが1つ,8アミノ酸残基のものが
1つ,5アミノ酸残基のものが1つであった」ことが記載されている
(2126頁右欄25行∼27行,訳文[乙1]1頁)。
通常,縮退プライマーの設計の基となるアミノ酸配列は,5∼7残
基である(乙8の1033頁左欄2行)から,引用例1に記載された
保存アミノ酸配列は,プライマーを作製するために十分な長さの領域
を少なくとも四つ開示しているものである。PCR法は,部分配列に
基づいてプライマー対を設計すれば,各プライマー間のDNA配列が
どのようなものであるかにかかわらず,プライマー対間のDNA配列
を増幅できるのであるから,未知のギャップがあるか否かは,目的の
配列が得られるか否かと無関係である。
このようにGADについてラットとネコの種間において5アミノ酸
以上の長さをもって保存されたアミノ酸配列を開示する引用例1の記
載に接した当業者は,上記の本願優先日当時の周知技術を適用して,
すなわち,両者で一致した配列を基に,GADをクローニングするた
めの縮退プライマーを作製して,ラット脳由来のcDNAを対象にし
てPCR法によりGADcDNA断片を増幅し,得られたcDNA断
片をプローブとして,cDNAライブラリーをスクリーニングして,
ラットGADのcDNAを得ることを容易に想到するものである。
本願の実施例1におけるラットGADcDNAのクローニング手
65
法は,このような周知技術を採用したにすぎないものであって,本願
明細書をみても,ラットGADcDNAのクローニングのための格
65
別な工夫が示されているわけでもない。
したがって,本願優先日当時の技術水準では,引用例1に記載され
ているような部分的なアミノ酸配列であって,しかもその中にいくつ
かの未知のギャップを含むものを手がかりに全長のアミノ酸配列を得
ることはできないとする原告の主張は失当であり,引用例1の記載に
基づいて,本願優先日当時の周知技術を用いてラットGADをコード
するcDNAをクローニングすることは,当業者が容易に想到し得る
ことであるとした審決の判断に誤りはない。
(イ)引用例1に記載されたラットGADをコードするcDNAを得よう
とすることには以下に述べるように動機付けがあり,PCR法を用いる
ことによって容易に引用例1に記載されたラットGADをコードするc
DNAを得ることができた
aGADの由来となる遺伝子の数とは無関係に引用例1に記載された
ラットGADをコードするcDNAを得ようとする動機付けがある
(a)本願優先日前の技術的状況
本願優先日前のGADに関する技術的状況については,甲5に記
載されているように,複数の研究グループが,哺乳類の脳から精製
されたGADは,電気泳動により大小二つのバンドに分かれること
を確認していることから,哺乳類の脳には,分子量が異なる大小二
つの型のGADが存在していることは明らかになっていた(甲5の
217頁右欄下13行∼下1行)。これらは後に,その分子量か
ら,「GAD」と「GAD」と命名されるものである。
6765
1986年に,ネコの脳由来の一つのGAD(以下,これを「ネ
コGAD」という。)を,本願発明者であるAらが,抗体スクリー
ニング法を用いてクローニングした(甲5の218頁左欄下1行∼
右欄2行)。この「ネコGAD」のcDNA配列及び推定アミノ酸
配列は,乙2(K,FandA「GlutamicAcidDecarboxylase
cDNA:NucleotideSequenceEncodinganEnzymaticallyActive
FusionProtein」TheJournalofNeuroscience,Vol.7,No.9,1987,
p.2768-2772)において発表された。このAらが得た「ネコGA
D」は,後にその推定分子量から大きい方の型である「GAD」
67
と呼ばれることになるものである(甲5の219頁左欄下23行∼
16行)。
1987年に,Lらの研究グループは,ラット脳由来のGADc
DNAを抗体スクリーニング法によりクローニングした(甲5の2
19頁左欄1行∼3行)。このラット脳由来のGADcDNA配列
は,1990年2月に発行された甲7において発表された。また,
別のグループは,Aらの「ネコGAD」cDNAをプローブとし
て,マウス由来のGADcDNAをクローニングした(甲5の21
9頁左欄3行∼5行)。このマウス由来のGADcDNA配列は,
1990年3月に発行された乙12(J「Molecular
ほか
Identificationofthe62kdFormofGlutamicAcid
DecarboxylasefromtheMouse」EuropianJournalof
Neuroscience,Vol.2,No.3,1990,p.190-202)において発表され
た。
そして,上記の「ネコGAD」,ラット及びマウス由来のGAD
は,同一性が90%以上と高いものであって,共通のGAD遺伝子
を祖先とするもの,すなわち,オーソログであって,二つの型のう
ち,推定分子量が6万7000の大きい方であるGADをコードす
るものである(甲5の219頁左欄6行∼12行)。
このように,二つの型が存在するGADのうち,一方の型のGA
DのcDNA,すなわち,後に「GAD」と命名される型のcD
67
NAは,本願優先日前には,ネコ,ラット及びマウス等の複数の種
において既にDNA配列及びアミノ酸配列の決定がなされていた。
そして,二つの型のGADの由来となる遺伝子の数は,単一であ
るのか,それとも複数であるのかという学術的な議論もまた当業者
の関心事項であった。
(b)引用例1の記載事項
引用例1(甲1)は,「ネコGAD」のcDNAがクローニング
された後の1988年に発行された。
引用例1について審決が記載事項(a1)として認定した箇所に
は,次の事項が記載されている。
「GAD−1免疫親和性カラムは,ラット脳ホモジネートの細胞質
分画からGAD活性を濃縮された画分を得るために使用された。最
も濃縮された画分は,ニワトリ脳からのものと区別がつかない一連
のタンパク質を含んでいた。最も顕著なバンドは明らかに59kD
aの分子量を有するものであった。他のバンドとして,63kDa
と55kDaを中心とする一連の約3つのバンドが存在した。ラッ
ト脳の膜分画からの精製は,似た図を示す。59kDaと63kD
aタンパク質は明瞭に存在し,より少ない量で低分子量成分が存在
した。HPLCにより自然な形のままでこれらのバンドを分離する
すべての試みは失敗した。59kDaタンパク質は,予備的SDS
−PAGEによって単離され,臭化シアンによる切断により断片化
された。配列分析によると,このタンパク質はネコのGADcDN
A(Fetal.,1986;Ketal.,1987)(被告注:「ネコGAD」
のcDNA)と強い相同性を有していることを示し,これは,酵素
的に活性なGADをコードしていることを示している。」(212
9頁左欄15行∼31行,訳文[乙1]1頁∼2頁)
また,引用例1には,下記の事項が記載されている。
「A氏と共同研究者は,ネコGADのcDNAをクローニング
し,配列決定をした(Fetal.,1986;Ketal.,
1987)。59kDaタンパク質とネコGADcDNAの関係を理解
するために,59kDaタンパク質を予備的SDS−PAGEによ
り精製した。第4図は,この精製工程を経て得られた精製59kD
aタンパク質を示す。このタンパク質のN末端は,ブロックされて
いることがわかったため,アミノ酸配列を決定するために,このタ
ンパク質は臭化シアンにより切断され,切断されたペプチドは逆相
HPLCにより分離された。12ペプチドのピークを配列決定し
た。これらのうち,4つは,完全に又は部分的に重複するものであ
ったが,8つはユニークな配列を有していた。ネコcDNAから推
定されるタンパク質配列と,ラット59kDaタンパク質からの配
列の間には,強い相同性があることがすぐに明らかになった。推定
ネコ配列とともに得られた該タンパク質配列を比較したデータを表
2に示す。配列決定されたすべてのペプチドは,少なくとも部分的
に相同性を有するものである。配列決定されたペプチドは,長さで
計97個のアミノ酸残基である。それらを推定ネコ配列の3つの隣
接したセクションと共に比較した。比較した配列において,97ア
ミノ酸のうち68個が一致した。さらに,比較的長い一致した配列
が存在し,12アミノ酸残基のものが1つ,10アミノ酸残基のも
のが1つ,8アミノ酸残基のものが1つ,5アミノ酸残基のものが
1つであった。29個の一致しないアミノ酸残基のうち,17個
は,単一の塩基置換によりできる可能性があるものであった。」
(2126頁右欄6行∼29行,訳文[乙1]1頁)
上記記載によると,引用例1は,ラット脳からGADを精製する
と現れる63kDaと59kDaの大小2つのバンドのうち,小さ
い方である59kDaタンパク質の一部のアミノ酸配列を決定し,
上記のAらによる「ネコGAD」のアミノ酸配列と比較したとこ
ろ,「ネコGAD」アミノ酸配列と一部一致する配列を有するもの
の,異なる配列をも含むものであって,97個のうち,29個のア
ミノ酸残基は,「ネコGAD」cDNAとは異なるものであったこ
とが記載されている。甲5によると,両者の相同性は70%である
(219頁左欄下1行∼右欄8行)。
そして,引用例1の著者は,既知の「ネコGAD」と59kDa
のラットGADアミノ酸配列に差が生じる原因について,引用例1
において下記のように考察している。
「59kDaラットタンパク質とネコタンパク質間の相同性は,3
つの可能な方法によって説明することができる。最初は,これら
は,ネコとラットの両方において,GADをコードする一つの遺伝
子であって,2つのタンパク質の相違の全ては,進化の多様性によ
るものであるという仮定である。2つめの可能性は,それぞれの種
は単一の遺伝子をもっており,選択的スプライシングのパターンで
いくつかのmRNAが生じるというものであって,したがって,ネ
コcDNAとラット59kDaタンパク質は,単一遺伝子の選択的
スプライシングの経路を示すものであるというものである。最後
は,GAD又はGAD様タンパク質は複数の遺伝子が存在して,ネ
コcDNAとラット59kDaタンパク質は,関連性はあるが,異
なる遺伝子の産物であるというものである。これらの選択肢の中か
ら一つを選ぶには,該免疫精製したタンパク質および対応するcD
NAのさらなる解析が必要である。」(2129頁左欄31行∼4
4行,訳文[乙1]2頁)
以上の記載事項を整理すると,引用例1の著者は,
①59kDaのラットGADは,「ネコGAD」と祖先を共通に
するオーソログ(同じ型)であって,「ネコGAD」とのアミノ
酸配列の相違は進化の多様性によるものである。
②59kDaのラットGADは,「ネコGAD」の型とは異なる
もう一方の型のタンパク質である。その場合は,二つのGADの
由来となる遺伝子は,
α単一遺伝子であって,二つのGADは,選択的スプライシン
グにより生じるものである。
β別々の遺伝子であって,二つの型のGADはそれぞれの遺伝
子から生じるものである。
という三つの仮説をたてている。
しかし,本願優先日(1990年[平成2年]9月21日)前に
67
は,既に,ラットにおける「ネコGAD」の型に相当するGAD
型は,Lらによりクローニングされ,甲7において発表されたか
ら,ネコとラット由来のそれらの相同性は,95%と高いものであ
ることは,わかっていた。したがって,引用例1に記載の59kD
aのラットGADは,「ネコGAD」のオーソログではなく,異な
る型であること,すなわち,上記①の可能性がないことは本願優先
日前には既に判明していたのである。
そして,上記②の場合には,上記②αの場合でも,上記②βの場
合でも,次のとおり,二つの型のGADにそれぞれ対応した,二つ
の異なるmRNAが生じている。
α単一遺伝子由来である場合(上記②αの場合)
遺伝子は一つで,そこからmRNAが転写された後,選択的ス
プライシングが起きて,2種類のmRNAが生じ,それぞれが,
タンパク質へと翻訳され,2種類のGADが生じる。
β二つの遺伝子由来である場合(上記②βの場合)
二つの型のGADに対する遺伝子がそれぞれに存在し,この二
つの遺伝子がそれぞれmRNAへと転写されて2種類のmRNA
が生じ,それぞれがタンパク質へと翻訳され,2種類のGADが
生じる。
(c)本願優先日当時,GADの由来となる遺伝子が単一の遺伝子で
あるか,二つの別の遺伝子であるかのいずれであっても,二つの型
のGADに対応するmRNAが二つ存在することは,上記(b)で述
べたとおりである。
したがって,GADの由来となる遺伝子の数に関する議論はさて
おき,当業者であれば,一方の型のcDNAが取得されているので
あれば,もう一方の型についても,そのcDNAを得て,DNA配
列を決定しようとすることは,自然な発想である。
そして,両者の型のGADのcDNAが得られれば,それらをプ
ローブとして用いたサザンブロット法(ゲノム遺伝子断片を対象と
した核酸プローブによる検出方法であって,ゲノム上の遺伝子の数
を調べることができる方法,乙13[松橋通生,大坪栄一監訳「ワ
トソン・組換えDNA」81頁∼82頁(昭和63年3月25日第
3刷発行)丸善株式会社])などの周知技術により,自ずと単一遺
伝子であるのか,二つの遺伝子であるのかという学術的な問題の結
論を得ることができるのである。
さらに,上記(b)のとおり,引用例1には,この問題の結論を得
るために,記載されたラットGADに対応するcDNAを得ること
が示唆されている(2129頁左欄41行∼44行)。
以上のように,どちらの仮説が真であるかにかかわらず,当業者
であれば,まずは,引用例1に記載のラットGADのcDNAを得
ようと発想するのであって,GADは単一の遺伝子由来であると考
えられていたという原告の主張は,引用例1に記載のラットGAD
のcDNAを得ようとする自然な技術の流れを妨げるものではな
い。
(d)原告は,Jらにより偽遺伝子の存在が報告されていたから,引
用例1で示されたものも偽遺伝子の産物である可能性があったと主
張する。
しかし,甲6(Jほか「SequencesHomologoustoGlutamicAcid
DecarboxylasecDNAArePresentonMouseChromosomes2and10」
GENOMICS6,1990,P.115-122)で偽遺伝子として推定されているM
GAD8Aは,ゲノム配列から得られたものであり,イントロンを
欠く等の理由で「processedpseudogene」(プロセッシングされた
偽遺伝子)と判断されている(117頁右欄5行∼10行)。しか
し,「processedpseudogene」は,mRNAが逆転写によりcDN
A化し,ゲノムに再挿入されて生じるものと考えられており,一般
にプロモーター配列を失うため,転写活性を失うものである(乙1
4[松原謙一,中村桂子,三浦謹一郎監訳「ワトソン・遺伝子の分
子生物学第4版」662頁∼663頁(1988年9月10日発
行)株式会社トッパン])。したがって,引用例1に記載された,
mRNAへ転写され,さらにタンパク質へと翻訳されているラット
GADが偽遺伝子の産物であるとは,当業者であれば考えないもの
である。また,原告は,引用例1のタンパク質が偽遺伝子の産物で
あるという合理的な根拠を示したわけでもなく,Jらの報告した遺
伝子が偽遺伝子であったという1例があったからといって,当業者
が引用例1に記載されたアミノ酸配列をGADcDNAのクローニ
ングに利用することを妨げるものではない。
また,原告は,ラットのGADcDNAをクローニングした甲
67
7(Lほか「RatBrainGlutamicAcidDecarboxylaseSequence
DeducedfromaClonedcDNA」JournalofNeurochemistryVol.54,
No.2,1990,P.703-705)をあげ,甲7においてクローニングされた
ラットGADのアミノ酸配列と引用例1のアミノ酸配列が異なる理
由として,引用例1はアミノ酸配列決定を誤ったものであることを
示唆している旨主張している。
しかし,甲7をみると,Lらが決定したラットGADアミノ酸配
列と,引用例1の配列との違いについて,「アミノ酸の配列決定に
内在する可能性が大きい(withthedifferencesmostlikelybeing
inherentinproteinsequencing.)」(704頁左欄下4行∼右欄
6行)と,アミノ酸配列決定が誤りがあったかもしれないことを示
唆しているにすぎないものであって,引用例1に記載されたアミノ
酸配列が誤りであることを示す合理的な根拠を示したものではない
から,引用例1に記載されたアミノ酸配列をGADcDNAのクロ
ーニングに利用することを妨げるほどの事情があったということは
できない。
なお,甲7でLらが得たラットGADは,Aらによる「ネコGA
D」と95%と高い同一性を有するものであって(703頁左欄要
約[Abstract]7行∼9行),当業者はLらが得たラットGADは
「ネコGAD」と同じ型であることは容易に予測できることであ
る。そして,実際にLらのラットGADは,GAD型であって,
67
引用例1の59kDaのラットGADとは異なる型であったのだか
ら,両者のアミノ酸配列が相違するのは当然のことであって,結
局,甲7における示唆の方が間違っていたのである。
さらに,原告は,引用例1には,どのようにして,GADの由来
となる遺伝子が単一の遺伝子であるか,二つの別の遺伝子であるか
を解明できるのかについて記載されていないと主張しているが,引
用例1には,ラットGADのcDNAをクローニングすることが必
要であることが記載されている。そして,引用例1に記載されたG
ADcDNAを得る手法は当業者が容易に想到することであって,
得られたcDNAを用いて,周知の技術により遺伝子の由来に関す
る二つの仮説を解明することもまた容易であることについては,下
記のbにおいて詳しく述べるとおりである。
b本願優先日当時の周知技術を考慮すれば,PCR法を用いることに
よって容易に引用例1に記載されたラットGADをコードするcDN
Aを得ることができた
(a)本願の縮退プライマーの縮退の程度は,通常の範囲である
原告は,「プライマーはかなり縮退していた」と主張しているの
で,実際にそうであるかについて検討する。
本願明細書(甲11)において,2セットの縮退プライマーの設
計の基となったアミノ酸配列は,センス側が「YEIAPVFV」及び,ア
ンチセンス側が「FPEVKEKG」である(甲11の13頁下3行∼14
2行及び図1)。
本願明細書には用いた縮退プライマーの数については記載されて
いないので,プライマーの設計の基となったアミノ酸配列に基づい
て,計算してみると,以下のとおりである。
センスプライマーYEIAPVFV
2×2×3×4×4×4×2×4=3×2=6144個
11
アンチセンスプライマーFPEVKEKG
2×4×2×4×2×2×2×4=2=2048個
11
これらの数は,PCRによる増幅が不可能となるほど縮退してい
るものではない。
前記乙8には,縮退プライマーに含まれるオリゴヌクレオチドの
数に関して,「プライマーに含まれるオリゴヌクレオチド配列の組
み合わせの数であるが,Gouldらは2の組み合わせを含んでいる
18
プライマーも働いたとしているし,われわれの経験でも2な
13∼14
ら十分働くようである,従って,20b(7アミノ酸)前後のプラ
イマーを用いる限り,組み合わせの数はほとんど問題にはならない
ものと考えられる。」と記載されている(1032頁右欄21行∼
27行)。
したがって,本願の縮退プライマーは,PCRによる増幅が行え
ない程に縮退したものではなく,PCR法の適用に疑問をもたせる
ような事情はない。
(b)cDNAのクローニングにおいて,イントロンの存在は,無関
係である
原告は,「いくつかの大きなイントロンがあったなら,否定的な
結果をもたらしたであろう」と主張する。
しかし,あるタンパク質のcDNAのクローニングを目的として
いる場合,PCR法により増幅する対象として,目的の細胞や組織
由来のcDNAを用いることは当然であって,イントロンを含むゲ
ノムDNAを対象とすることは考えられない(乙8の1033頁右
欄下10行∼下8行及び図1,前記乙9の372頁左欄21行∼2
5行)。
cDNAは,遺伝子から転写されたmRNA前駆体からイントロ
ンの部分が切断されて生成した成熟mRNAに相補的な配列のこと
であって,イントロンが既に除去されたものであるから,cDNA
をPCR増幅の鋳型とした場合に,原告の主張するような問題は存
在しない。
したがって,原告の主張は当を得ないものである。
(c)縮退プライマーの5’末端における制限酵素の選択は当業者に
とって通常の創作能力の発揮である
原告は,「クローニングのために選択した酵素が,想定される第
2GAD遺伝子の内部に存在する特異的な配列を切断してしまえ
ば,想定される第2の遺伝子は排除されることになる。」と主張す
る。
本願優先日(1990年[平成2年]9月21日)当時,プライ
マーの設計時にプライマーの5’末端に出現頻度の低い制限酵素認
識配列を入れておき,このプライマーにより増幅を行った後,該制
限酵素認識配列を切断する制限酵素により当該末端を整えてPCR
生成物をベクターにクローニングすることは周知技術であった(乙
8の1033頁左欄11行∼13行及び図1,乙9の373頁左欄
21行∼33行及び図2,乙15[猪子英俊「PCR法の発展とそ
の医学応用」Biotherapy,Vol.4,No.6(1990年6月発行)11
03頁∼1113頁]の1109頁左欄「5.塩基配列」)。この
際,当該制限酵素処理により,PCR生成物が途中で切断されてし
まう場合には,他の制限酵素認識部位の付加を試してみればよいの
であって,このようなプライマーに付加すべき制限酵素認識配列の
選択は,当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲である。
本願明細書(甲11)の実施例をみると,用いたプライマーは末
端に「SstI及びHindⅢ(5’末端オリゴ)SstI及びS
stⅡ(3’末端オリゴ)」の制限酵素認識配列を付加したもので
あって,PCR生成物を「HindⅢ/SstI」制限酵素で消化
されたベクターにクローニングすることが記載されていることから
(14頁2行∼11行),本願の実施例の方法はこの周知技術を用
いたものである。本願明細書の実施例において使用された制限酵素
「SstI」,「SstⅡ」及び「HindⅢ」は,当該技術分野
において一般的に用いられている制限酵素であって,当業者であれ
ば,これらの制限酵素を選択することは,普通に行うことである。
そして,本願明細書をみても,これらの制限酵素の選択に格別の困
難があったということも確認できない。
したがって,原告の上記主張は,失当である。
(d)PCR増幅されたPCR生成物から容易にGADcDNAを
65
得ることができた
乙16(MICHAELSTRATHMANNほか「DiversityoftheG-protein
family:Sequencesfromfiveadditionalαsubunitsinthe
mouse」ProceedingsoftheNationalAcademyofScienceofthe
UnitedStatesofAmerica,Vol.86,1989,p.7407-7409)には,縮
退プライマーを用いて,cDNAをPCR法により増幅し,得られ
たPCR生成物をベクターにクローニングしてから,すべてのクロ
ーンの塩基配列決定を行うことにより新たなGタンパク質のメンバ
ーを五つ見い出したことが記載されている。
乙17(ANDREWF.WILKS「Twoputativeprotein-tyrosinekinases
identifiedbyapplicationofthepolymerasechainreaction」
ProceedingsoftheNationalAcademyofScienceoftheUnited
StatesofAmerica,Vol.86,1989,p.1603-1607)には,縮退プライ
マーを用いて,cDNAをPCR法により増幅し,得られたPCR
生成物をベクターにクローニングしてから,すべてのクローンの塩
基配列決定を行うことにより,新たなチロシンキナーゼファミリー
のメンバーを二つ見い出したことが記載されている。
乙16及び17に記載されるように,PCR生成物をベクターに
クローニングした後,複数のクローンから目的のものを選択すると
いう手間をかけずに,すべてのクローンの塩基配列決定を行うこと
は,本願優先日前における周知技術であった。
この周知技術を考慮すれば,本願の場合も,当業者は,PCR生
成物をベクターにクローニングした後に,すべてのクローンの塩基
配列決定を行うことを容易に発想するものである。そうすれば,乙
16及び17と同様に,PCR生成物に含まれる二つの型のGAD
cDNAのうち,既知の型とは異なるDNA配列からなるGADc
DNA,すなわち,GADcDNA配列を有するPCR生成物を
65
容易に見つけることができる。
そして,そのようにして得られたGADcDNA配列を有する
65
cDNA断片を,GADcDNAをクローニングするためのプロ
65
ーブとして用いて,ラット脳関連のcDNAライブラリーをスクリ
ーニングし,GADcDNAを得ることは,当業者が容易に想到
65
し得ることである。
(e)原告が主張する「否定的選択」を用いることも容易である
原告は,多くの「的はずれの」PCR由来の増幅産物があるの
で,ネコオーソログにハイブリダイズしないものはすべて第2のG
ADを示すという考えを持って「否定的選択」をすることは難しい
ことが周知である旨主張する。
しかし,PCR生成物を電気泳動にかけて,予想される大きさの
バンドを分離し,DNAを抽出することは,本願優先日前における
周知技術であった(乙8の1034頁右欄11行∼13行,乙9の
373頁右欄下1行∼374頁左欄6行)。
PCR法において,プライマー−ダイマーによる的はずれな生成
物ができることは,あたりまえのことで,そのような生成物は極端
に短いから,上記周知技術であるPCR増幅後に行う電気泳動によ
り簡単に排除できるものである。
したがって,的はずれな生成物ができることは,「否定的選択」
が困難であることの根拠にはならない。
そして,電気泳動により,そのような明らかに目的物ではない副
産物を除いたPCR生成物は,二つの型のGADである可能性が非
常に高いものに候補が絞られている状況である。
この場合,すでに一方の型のGAD(GAD)のcDNA配列
67
は知られていたわけであるから,当業者であれば,既知のGADc
DNAとハイブリダイズする陽性コロニーは,それと同じ型であっ
て,ハイブリダイズしない陰性コロニーは,もう一方の型のGAD
であることは容易に予測できることである。とすれば,GADc
67
DNAをクローニングしようとすれば,陽性コロニーから得られた
cDNA配列を使用し,引用例1に記載された59kDaのラット
GADcDNAをクローニングしようとすれば,陰性コロニーから
得られたcDNA配列を使用することは当然のことであり,このよ
うにハイブリダイズしない陰性コロニーを選択することにより,引
用例1に記載されたGADのcDNAクローンの候補を絞ろうとす
ることは,当業者が容易に想到することである。
以上のとおり原告が主張する「否定的選択」は,困難性のある
手法ではない(乙18[松橋通生,大坪栄一監訳「ワトソン・組換
えDNA」74頁∼76頁(昭和63年3月25日第3刷発行)丸
善株式会社])。
(f)ノーザンブロット法及びサザンブロット法により本願発明1の
ラットGADは「ネコGAD」とは異なる遺伝子から誘導された
65
ことを証明すること及びタンパク質を発現させてその酵素活性を確
認することは容易である
ラットGADcDNAが得られれば,それと既知のGADc
6567
DNAを用いて,サザンブロット法などの周知技術(乙13)によ
り,それらの由来となる遺伝子の数を決定することは,当業者が容
易になし得ることである。その結果,二つのGADの由来となる遺
伝子の数に関する学術的な議論が解明できて,二つの遺伝子由来で
あることが証明されたことは,ラットGADcDNAという物質
65
自体に係る発明の効果として,評価できることではない。
また,酵素活性を確認した点については,GADcDNAが得
65
られたのであれば,それを発現させて,その機能を確認すること
は,当業者が普通に行うことである。その結果,引用例1における
ラット脳由来の59kDaタンパク質は酵素的に活性なGADであ
るという示唆のとおり,ラットGADがGAD酵素活性を有する
65
ことが確認されたにすぎず,これをもって格別の効果ということは
できない。
(ウ)得られたcDNAがGADの全長をコードするものでなかった場合
でも,RACE法等の手法を適用して,全長cDNAを得ることができ

前記乙15には,一方の端の塩基配列が不明の時,ターミナルデオキ
シヌクレオチジルトランスフェラーゼによるdA又はdGの3’末端へ
の付加により,この人工的なアンカープライマーと既知のプライマーと
の組み合わせでPCR反応を行い,塩基配列が不明な領域を含む特異的
な遺伝子の増幅を行うことができることが記載されている(1105頁
右欄「3.AnchoredPCR」及び図4)。
乙19(MICHAELA.FROHMANほか「Rapidproductionoffull-length
cDNAsfromraretranscripts:Amplificationusingasingle
gene-specificoligonucleotideprimer」ProceedingsoftheNational
AcademyofScienceoftheUnitedStatesofAmerica,Vol.85,1988,
p.8998-9002)は,本願明細書(甲11)において,GADの残りの
65
5’末端をクローニングするために行った「アンカー(anchored)PC
R」の参照文献として記載された文献であって(15頁10行∼13
行),完全長cDNAクローンを得るための効率的なクローニング法で
あるRACE法が記載されている。
乙15及び19に記載されるように,本願優先日前において,目的の
cDNAの全長が得られなかった場合は,「アンカーPCR」法(RA
CE法も含む)により,5’末端側又は3’末端側の未知のcDNA配
列を決定することは,周知技術である。
審決は,「また,これにより得られたcDNAがGADの全長をコー
ドするものでなかった場合でも,さらに,本願優先日前における周知技
術であった5’末端側又は3’末端側のDNA配列を決定するRACE
法等の手法を適用して,全長cDNAを得ること…は,当業者にとって
格別な困難性を有するものとも認められない。」(6頁11行∼17
行)と判断しているが,これは,RACE法に用いるプライマーとし
て,縮退プライマーを用いることを述べたものではなく,PCR法を適
用したクローニングにより得たcDNAが全長でなかった場合には,R
ACE法などの周知の方法により,5’末端や3’末端のDNA配列を
得ることも容易にできることを述べたものである。
イ本願発明6について
本願発明6は,「エピトープを少なくとも1個有する,アミノ酸配列を
有するポリペプチドをコードするcDNA配列」というものであるから,
エピトープのみをコードするcDNA配列に係るものでなく,エピトープ
を「有する」アミノ酸配列を有するポリペプチド,すなわち,全体のアミ
ノ酸配列のうちにエピトープに相当する配列を最低一つ含んでいるポリペ
プチドをコードするcDNAに係るものである。
原告は,「引用例1に示されたラット部分アミノ酸配列から全長のラッ
トGADを得ることは容易ではなかった。」と主張するが,上記アで述
65
べたとおり,本願発明1のラットGADの全長をコードするcDNA
65
は,当業者が容易に取得することができたのであるから,原告のこの主張
は誤りである。また,エピトープはたかだか,6∼10アミノ酸残基の長
さであって,本願発明6は,そのような6∼10アミノ酸配列を有するポ
リペプチドをコードするcDNAを対象としているのであるから,そのよ
うなcDNAを得るためには,上記ア(ウ)で述べたような完全長を得るた
めにRACE法などの周知技術を適用するまでもなく,PCR法により増
幅した断片をプローブとして,GADcDNAのある程度の長さの配列
65
を得れば,その中にはエピトープをコードする配列が含まれる蓋然性は非
常に高いものであって,完全長cDNAと比べると,より容易に取得でき
るものである。
また,原告の「任意の部分アミノ酸配列中の6∼10個のアミノ酸の一
続きのつながりを,簡単に選択しても,抗体に対するエピトープが存在す
ることは保証されないであろう。」との主張は,その意味が不明確である
が,クローニングしたラットGADの完全長cDNAがコードするアミ
65
ノ酸配列から任意の6∼10個のアミノ酸を選択してもエピトープが存在
するかどうか保証されないことを意味しているのであれば,本願発明6
は,エピトープのみをコードするDNAに係るものではないから,そのよ
うな主張は当を得ないものである。上記したように,GADの完全長c
65
DNAは容易に取得できるものであって,その中には必ずエピトープが含
まれるものである。
さらに,原告は,「引用例1によって提供されたラット部分アミノ酸配
列にはアミノ酸自体の誤り及びギャップの誤りがあったから,選択された
6∼10個のアミノ酸の一続きのつながり自体が正しいものであるという
保証すら無かった。」と主張する。この主張が,引用例1に記載されたア
ミノ酸配列から,任意に選択された6∼10個のアミノ酸配列に,自己抗
体に対するエピトープが存在するかどうか保証されないこと,すなわち,
引用例1のアミノ酸配列がエピトープを含むかどうかわからないことを主
張しているのであれば,引用例1の部分アミノ酸配列は,自己抗体に対す
るエピトープを含むものである。すなわち,本願出願後に原告により出願
された特願平4−158195号は,平成14年5月2日付で拒絶査定が
なされ,これに対して不服審判請求がなされ,不服2002−15239
号として特許庁における審理に付されたが,その審理の際,原告自身が平
成18年10月2日付で提出した回答書(乙22)において,GADに
65
おける,特定の自己抗体に対するエピトープの一つがPEVKEKアミノ
酸配列であることを主張している(2頁下7行∼下5行及び4頁8行∼2
4行)。このPEVKEKアミノ酸配列は,まさに,引用例1に記載され
たラットGADアミノ酸配列のうち,二つめのペプチド断片の37番∼4
2番のアミノ酸配列に相当するものである。
したがって,本願発明6の自己抗体のためのエピトープを有するアミノ
酸配列をコードするcDNAは,引用例1の記載に基づいて容易に調製で
きるものである。
(3)取消事由3に対し
ア本願発明1の効果である,GADがIDDM診断の指標となること及
65
びIDDM予知マーカーとなることについては,引用例2及び引用例3の
記載事項に基づいて,当業者が容易に予測できるものである。その理由
は,審決6頁下4行∼7頁23行記載のとおりである。
イまた,原告は,GADcDNAは,組換えGADを生産することが
6565
できるという効果を主張する。
しかし,あるタンパク質をコードするcDNAを得ようとする主たる目
的の一つは,当該タンパク質を遺伝子工学技術により大量に産生するため
であることは,当該技術分野における技術常識であることを考慮すれば,
原告の主張する効果は,当然のことであって,格別な効果と評価できるよ
うなものではない。
ウ原告は,本願明細書中には示されていないが,その後の検討によって,
I型糖尿病患者の自己免疫応答は,主にGADに向けられていることが
65
確認されている旨を主張している。
しかし,出願時の明細書に記載されておらず,その後に明らかになった
知見は,出願時点において発明者がなした技術的貢献であるとはいえ
ず,それに基づき本願発明の顕著な効果を主張することは,進歩性の規
定の趣旨からみて,許されないというべきである。
(4)なお,審決では,引用例1の記載に基づいて,プライマーによるPCR
増幅による手法でGADcDNAのクローニングは容易であることを述べ
65
たが,他の周知の手法により,引用例1に記載された事項に基づいて,GA
DcDNAをクローニングすることも,次のとおり容易である。
65
ア引用例1(甲1)には,59kDaのラットGADに特異的に結合する
抗体であるGAD−6抗体が記載されている(2126頁右欄下8行,右
欄下2行∼下1行及び第5図[Fig.5])。
ところで,本願優先日前には,cDNAの発現ライブラリーを抗体を用
いてスクリーニングすることにより,所望のcDNAを取得するという抗
体スクリーニング法は周知技術であった(乙23[松橋通生,大坪栄一監
訳「ワトソン・組換えDNA」86頁∼87頁(昭和63年3月25日第
3刷)丸善株式会社])。
そして,GADにおいても,Aらによる「ネコGAD」及び甲7のラッ
トGADは抗体スクリーニング法によりクローニングがなされたもので
67
ある。
引用例1において,59kDaのラットGADに特異的に結合すること
ができるGAD−6抗体の記載に接した当業者であれば,上記周知技術を
考慮して,このGAD−6抗体を用いて,ラット脳由来のcDNAの発現
ライブラリーを抗体スクリーニングを行うことにより,59kDaのラッ
トGADをコードするcDNAを取得することを容易に想到するものであ
る。
イまた,本願明細書(甲11)には,「真核性GADポリペプチドをコ
65
ードする特異的DNA配列の作製は各種の方法を用いて実施できる。」
(4頁11行∼12行)と記載されており,その具体的な方法の一つとし
て,「GADに対する抗体を用いて,少なくとも1個のエピトープを有
65
するGADペプチドに対して,cDNAライブラリーを間接的にスクリ
65
ーニングすることができる(BandC,J.Neurosci.,8:2123,1988)。」
(5頁22行∼24行)と記載されている。ここで引用された「BandC
,J.Neurosci.,8:2123,1988」とは,まさしく引用例1のことである。こ
のように,本願発明者自身も,引用例1に記載された抗体を用いて,抗体
スクリーニング法によりGADをクローニングすることができるという
65
認識があった。
ウしたがって,本願発明1のラットGADのcDNAは,引用例1に記
65
載された抗体を用いた抗体スクリーニングによっても,容易に得られるも
のである。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2本願発明の意義について
(1)本願の本件補正後の「特許請求の範囲」請求項1には,前記第3の1
(2)の記載があるほか,本願明細書(甲11)には次の記載がある。
ア背景技術
「インシュリン−依存性真性糖尿病(insulin-dependentdiabetes
mellitus:IDDM;I型糖尿病)は,最も普遍的な代謝性疾患の一つで
ある。アメリカ合衆国では,IDDMはおよそ300から400人に1人
の割合で見られ,疫学的研究によると,この疾患は増加していることを示
唆している。この疾患は膵臓のインシュリン生産性β−細胞の自己免疫破
壊の結果生じる。更に特定すれば,この疾患の始まる前段階は,リンパ球
が膵臓の(ランゲルハンス)島細胞に浸潤し,β−細胞を選択的に破壊す
る,”インスリティス”という状態を特徴とする。典型的なIDDMの過
血糖症は,インシュリン−生産性β−細胞の少なくとも80%がうしなわ
れた後に,初めて現れる。残りのβ−細胞は引きつづく数年間に破壊され
る。
インシュリン治療によって大半のIDDM患者は普通の生活を送ること
ができるが,この補充は不完全なものであって,代謝恒常性を完全に元に
戻すものではない。従って,目,腎臓,心臓,及びその他の器官の機能低
下に至る深刻な合併症が,インシュリン治療を受けているIDDM患者に
は多い。このために,β−細胞破壊の開始時と,実際にインシュリン補充
が必要となる時(即ち,β−細胞の80%が破壊されたとき)との開の潜
伏期間を伸ばすこと(例えば,免疫抑制剤の投与によって)が極めて望ま
しい。従って,β−細胞破壊の開始を決定する診断テストがあれば,医者
が潜伏期間を伸ばすための免疫抑制剤を投与することができ
(Silversteinetal.,NewEnglandJournalofMedicine,319:599-604,
1988),それによってインシュリン補充による副作用の開始を遅らせるこ
とができる。
IDDM患者の多くは,64kD分子(Baekkeskovetat.,J.Clin.
Invest.79:926-934,1987;Atkinsonetal.,Lancet,335:1357-1360,
1990),島細胞細胞質(ICA)分子又は島細胞表面(ICSA)分子
(Bottazzoetal.,Lancet,1:668-672,1980),或いはインシュリン
(Palmeretal.,Science,222:1137-1139,1983;Atkinsonetat.,Diabetes,
35:894-898,1986)に対する抗体を含む血清を有している。Atkinsonとそ
の共同研究者ら(Atkinsonetal.,Lancet,335:1357-1360,1990)は,ヒト
血清中における64kD分子に対する抗体の存在が,IDDM症状が実際
に起きる始まりについての,最も初期でかつ最も信頼できる指標であるこ
とを示した。
最近になって,Baekkeskovとその共同研究者らは,64kD分子と,グ
ルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)とは幾つかの共通の抗原エピト
ープを有しており,従ってこれらは同じものであるか,或いは非常によく
似た分子である,ということを確立した。この同定は重要な発見ではある
が,GADの分子生物学に関する知識が未知である限りは,この情報をI
DDM予知の診断法として用いることは極めて厄介であり,かつ限定され
ている。結果として,大量の64kD分子,又は64kD分子と抗原的に
実質的に同一なGAD分子をクローニングし,次いで量産することができ
れば,IDDM予知のための診断キットの開発が可能となろう。本発明
は,かかる結果を達成するための手段を提供する。」(1頁下13行∼2
頁下3行)
イ発明の要約
「本発明は,組み換えDNA手法を用いて真核性GADポリペプチド
65
の生産が可能であり,かつGADポリペプチドを自己免疫疾患の患者の
65
診断及び治療に用い得るという知見に基づいてなされた。特定すれば,ク
ローン化真核性GADポリペプチドを,インシュリン依存性真性糖尿病
65
(IDDM)を有する患者,或いは有する危険性のある患者の診断に用い
ることに関する。
本発明の主な利点は,天然の真核性GADポリペプチドをその他の真
65
核性非GADポリペプチドから分離する際に,その単離に関して生じる
65
問題を回避しつつ,天然源から精製したものに対応する真核性GADポ
65
リペプチドの容易な生産源を当業界に提供することである。その他の真核
性非−GADポリペプチドが存在しないことは,GADポリペプチド
6565
と特異的に反応する抗体のみを検出する試験システムの開発が可能となる
ので,重要である。
宿主細胞中にある真核性GADポリペプチドを提供する他の利点は,
65
そうすることによって天然源から現在実際に得られているよりも,はるか
に大量のポリペプチドを得ることが可能となることである。その結果,本
発明のポリペプチドを用いてIDDMのような自己免疫疾患を有する患者
をより正確に分類することが可能となるばかりでなく,診断システムに使
用するための商業的に使用可能な量のGADポリペプチドを提供するこ
65
とも可能となる。」(2頁下1行∼3頁16行)
ウ発明の詳細な説明
(ア)「本発明者による研究により,GADとGADとは別々の遺伝
6567
子でコードされ,例えば,共通のゲノム性配列が転写後,又は翻訳後に
修飾されることによって生産されるのではないことが明白に確立され
た。GADとGADとが別々の遺伝子によってコードされることを
6567
示す証拠には以下のものが含まれる:(a)GAD及びGADcD
6567
NAの間の正確に一致する部分の最大の連続した配列は,たった17ヌ
クレオチドの長さである,(b)GAD及びGADからのcDNA
6567
は,低い緊縮調節(stringencycondition)下で(2.0xSSC,
0.01%SDS,23℃)お互いにクロスハイブリダイゼーションし
ないし,またお互いのmRNAともクロスハイブリダイゼーションしな
656767
い,そして(c)GAD及びGADcDNAは,それぞれGAD
及びGADをコードする単離したゲノム性クローンとクロスハイブリ
65
ダイゼーションしない。」(6頁17行∼下1行)
「本発明のcDNA配列は本質的に全てのヒト又はラットGAD分
65
子をコードするものであるので,これからcDNAの小さいポリペプチ
ド断片,又はヒト又はラットGADに対する自己抗体のための少なく
65
とも1個のエピトープをコードする対応するcDNA配列を調製し,サ
ブクローニングし,そして発現させることは今や日常的なことである。
次いでクローン化ポリペプチド上にこのようなエピトープが存在するこ
とを,例えばGADに対する自己抗体を有する患者からの血清を用い
65
て確認できる。このような小さいペプチドの例としては,GADのN
65
−末端からの最初の約100アミノ酸がある…。このアミノ酸配列には
本質的にGADが欠けている。」(8頁19行∼下2行)
67
「キットを使用するに当たって使用者がしなければならないことは,
測定可能であるが,未知の量の検出されるべきGADに対する自己抗
65
体を含む,あらかじめ測定した量の検出用サンプルと,第1の容器中に
存在するあらかじめ測定した量の担体結合したGADと,第2の容器
65
中に存在するあらかじめ測定した量の検出可能な標識化第2抗体とを容
器に加えることである。若しくは,検出不能な標識化GADを容器に
65
付けて提供し,これにサンプルと,検出可能な標識化第2抗体とを加え
ることもできる。適当な時間インキュベーションした後,免疫複合体が
形成され,これを上澄み液から分離し,免疫複合体又は上澄み液を,放
射能カウントするか,又は酵素基質を加えて発色させるなどによって検
出する。」(10頁15行∼23行)
「本発明の組み換えGADポリペプチドは,GADに対する自己
6565
免疫応答を有する患者の治療に用いることもできる。このような治療
は,例えば,組み換えGADポリペプチドを投与することによって実
65
施できる。このような投与には非標識化又は標識化GADポリペプチ
65
ドを用いることができる。非標識化GADポリペプチドを用いるのが
65
有利な場合には,例えば,免疫応答を刺激するには小さすぎるが,自己
免疫応答の継続を束縛したりブロックしたりするには十分大きい断片の
形でGADポリペプチドを投与する。例えば,GADをエピトープ
6565
−サイズのペプチド(典型的には5−12アミノ酸の長さ)に酵素的に
消化して,自己免疫疾患を有する患者の体液中,又は免疫細胞の表面上
に存在するFab結合部分に結合させる。
或いは,本発明の組み換えGADポリペプチドは,治療剤で標識し
65
て投与することができる。これらの治療剤は本発明のGADポリペプ
65
チドと直接又は間接にカップリングさせることができる。間接的カップ
リングの一例はスペーサ一部分を用いることである。このスペーサ一部
分は可溶性又は不溶性であることができ(Dieneretal.,Science,
231:148,1986),ターゲット部分でGADポリペプチドから医薬の放
65
出をできるように選択される。免疫治療用に本発明のGADポリペプ
65
チドとカップリングすることができる治療剤の例としては,医薬,放射
性同位体,レクチン,及び毒素がある。
本発明のGADポリペプチドと結合することができる医薬には,マ
65
イトマイシンC,ダウノルビシン,及びビンブラスチンのような古典的
に医薬と呼ばれていたものを含む。」(10頁下1行∼11頁20行)
(イ)実施例1(「GADのクローニング及び発現」「A.組み換えD
65
NA手法」)
「GAD及びGADに特異的なcDNAプローブを得るために,
6567
Chirgwinetal.,Biochemistry,18:5294,1979の方法を用いて,成熟ラ
ットの脳から,グアニジンインチオシアネート−セシウムグラジエント
によって,全RNAを抽出した。BethesdaResearchLaboratories
(BRL)による実験書を用いて,ポリ(A)RNAをオリゴdTセルロー
ス上で精製した。ポリd(N)−mers(Pharmacia)をプライマー

として用いた以外は,指示された条件を用いて,MMLV−逆転写酵素
(BRL)を用いて一本鎖合成を行った。このcDNA−RNA混合物
を65℃で15分間加熱して不活性化して,−20℃に貯蔵した。PC
Rのためには,サンプルの1/50を反応物100μlに加えた。ネコ
(cDNAから)(Ketal.,J.Neurosci.,7:2768,1987)及びラット
(ペプチドから)(BandC,J.Neuroscio,8:
2123.1988)GAD(図1)の下線を施した共通のアミノ酸配列をコー
ドするために変性(degenerate)オリゴヌクレオチドを合成した
(AppliedBiosystems)。各変性オリゴヌクレオチドの5’末端配列
は,SstⅠ及びHindⅢ(5’末端オリゴ)又はSstⅠ及びSs
tⅡ(3’末端オリゴ)のいずれかによって認識されるDNA配列の1
本鎖を含む。これらのプライマーを用いて,Gouldetal.,Proc.Nat1.
Acad.Sci.,USA,86:1934,1989に記載されたように,生じたcDNA鋳型
のポリメラーゼ鎖反応によって選択的増幅を行った。PCR産物をHi
ndⅢ/SstⅠで二重消化されたBluescriptSKベクター
(Stratagene)にサブクローニングし,DH5(BRL)に形質転換し
て,標準法(Maniatisetal.,Mo1ecularCloning:ALaboratory
Manual,Co1dSpringHaborLaboratory,Co1dSpringHabor,NY,1989)
によってプレートした。
ネコGADに特異的な5’−P末端標識化オリゴヌクレオチドで
67
32
コロニーハイブリダイゼーションを行った(Ketal.,
J.Neurosci.,7:2768,1987)。ニトロセルロースフィルターを50℃で
15分洗浄した以外は,文献(Wallaceetal.,inGuidetoMo1ecular
CloningTechniques;Bergeretal.,Eds.inMethodsofEnzymology;
Abelsonetal.,Eds.AcademicPress,Inc.SanDiego,432-442,1987)
記載のようにして,オリゴヌクレオチドの末端標識,ハイブリダイゼー
ション条件,及び洗浄条件を実施した。ハイブリダイゼーションで陽性
及び陰性であったコロニーを個々に取り上げて,Terrific液体培地中で
一夜成長させた(Tartofetal.,Focus,9:12,1987)。煮沸法
(Maniatisetal.,Mo1ecularCloning:ALaboratoryManual,Co1d
SpringHaborLaboratory,Co1dSpringHabor,NY,1989)を用いてDNA
を単離し,0.2NNaOHで鋳型を変性し,SephacrylS400ス
パンカラム(Pharmacia)で精製した。変性された二本鎖鋳型の配列決
定は,T7−シークエンスキット(Pharmacia)を用いて,鎖−末端法
(Sangeretal.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,74:5463,1977)によって行っ
た。
図1に示すように,PCRで生じたラットGAD及びGADcD
6567
NAをプローブとして用いて,標準的手法(Maniatisetal.,Mo1ecular
Cloning:ALaboratoryManual,Co1dSpringHaborLaboratory,Co1d
SpringHabor,NY,1989)によって,S.Heinemann(SalkInstitute)から
供与されたラムダZAP(Stratagene)ラット海馬ライブラリーをスク
リーニングした。2400ヌクレオチドのGADcDNA(最大クロ
65
ーン)を単離して,Stratageneに記載するよう”ザッピング
(zapping)”によってサブクローニングした。手元に既にあった3.
6767
2kbのラットGADcDNAクローンよりも小さいラットGAD
65
cDNAを得たら,より大きなcDNAの配列決定を行った。GAD
及びGADについて両方の方向にExoⅢ削除(Henikoff,Gene,
67
28:351,1984)を行って,鋳型を調製し,上記のようにして配列決定を
行った。ライブラリースクリーニングにおいて単離された元のcDNA
クローン中には現れていなかったGAD及びGADmRNAの残り
6567
の5’末端をクローニングするために,アンカー(anchored)PCRを
行った(Frohmanetal.,Proc,Natl.Acad.Sci.USA,85:8998,
1988)。これらのクローンの配列決定を行ったところ,GAD又はG
65
ADmRNAのいずれも,フレーム中に元のcDNAクローンの開始
67
コドンであると以前に同定されたものと共に,更に別の開始コドン(A
UG)をなんら含んでいないことが明らかとなった。」(13頁15行
∼15頁17行)
(ウ)実施例2(「クローン化GADの特徴」)
65
「A.ノーザンブロットハイブリダイゼーション」には,ノーザンブ
ロットハイブリダイゼーションによってGAD及びGADcDNA
6765
は2個の異なるmRNAに由来することを確認したことが記載されてい
る。(15頁下9行∼16頁11行)
「B.GAD及びGADのゲノム性ハイブリダイゼーション」に
6765
は,GAD及びGADが別々の遺伝子に由来する可能性を調べるた
6765
めに,GAD及びGADの両方のcDNAを,ゲノム性DNAを含
6765
むDNAプロットとハイブリダイゼーションしたところ,異なるサイズ
のゲノム断片とハイブリダイズしたこと,GADとGADcDNA
6567
との同一のヌクレオチド配列のうち最大の連続した配列は,たった17
6765
ヌクレオチド塩基の長さであること,したがって,GADとGAD
とは2個の異なる遺伝子によってコードされていることが記載されてい
る(16頁12行∼17頁8行)。
「C.GAD及びGADの酵素的比較」には,GAD及びGA
676567
Dの活性におけるPLP(ピリドキサールリン酸)の効果を比較する
65
研究を行ったところ,「…GAD又はGADを含むバクテリア溶菌
6567
物は[1−C]−グルタミン酸と,GABA及びCOとの変換を
1414

触媒する。PLPは,GADよりもGADの酵素活性を刺激する。
6765
このより大きな刺激は多分,Martin及びその共同研究者
(Martin,Ce11.Mo1.Neurobiol.,7:237,1987)が提唱した不活化サイク
ルを通して,GADがより速く循環することを示している。このより
65
速い循環は,invivoで存在するapo−GADのプールに,G
ADがより貢献していることを示している(Milleretal.,Brain
65
Res.Bull.,5(Suppl.2):89,1980)。従って,invivoではPLP
は,GAD活性よりもGAD活性をより制御していると考えられ
6765
る。」(19頁下15行∼下7行)と記載されている。
「D.GAD及びGADの免疫学的同定」には,「ラット脳中の
6567
GADの低分子量及び高分子量形は,それぞれGAD及びGADc
6567
DNAの産物と,抗原的にまた大きさ的に同じものである。その結果,
ラット脳中の2つのGADは,GADとGADである。このデータ
6567
から,既に報告されているタピア(Tapia)によるPLP−依存性GA
Dと,PLP−非依存性GAD(Bayonetal.,J.Neurochem.,29:519,
1977)は,それぞれGAD及びGADと分子的に同じものである,
6567
と結論付けることができる。」(21頁4行∼9行)と記載されてい
る。
「E.脳組織中のRNAにおけるGAD及びGADの分布」に
6567
は,その場での(insitu)ハイブリダイゼーションを用いて,
小脳のRNAにおけるGAD及びGADの分布を決定するための実
6567
験を行ったところ,「全ての神経性細胞タイプにおいて,GADmR
67
NAレベルの方が大きい。insituでのハイブリダイゼーション
における観察は,小脳中の非依存性GAD活性に対するPLPの依存率
は,試験した脳領域中で最も低いものの一つである,という従来の知見
(Nitsch,J.Neurochem.,34:822,1980;Denneretal,
J.Neurochem.,44:957,1985;Itohetal.,Neurochem.Res.6:
1283,1981)と一致している。更に,表2に示すように,GADmR
67
NAに対する量は,プルキニエ>ゴルジⅡ>籠>星細胞の順であり,一
方GADに対する量は,ゴルジⅡ>プルキニエ>籠>星細胞の順であ
65
る。このようにGAD及びGADmRNAの発現はニューロンのク
6567
ラスによって異なる。つまり,全GAD活性に対するそれぞれの貢献度
が,いかにGABA生産が制御されているかに影響している。」(23
頁下11行∼下1行)と記載されている。
「F.GAD及びGADの無細胞系配置」には,GAD及びG
656765
ADの分布をS及びシナプトソーム無細胞分画において評価したと
672
ころ,「…どちらの分画にも等量のGADが存在することを示してい
67
る。S分画は神経膠(及びその他の非ニューロン性)の細胞質ゾルタ

ンパク質と,ニューロン細胞とを含んでいるので,GADの濃度は,
67
神経末端よりもニューロン細胞体部における方が大きいに違いない。こ
れとは対照的に,GADの濃度はSよりもシナプトソームにおける
652
方が大きい。これらの無細胞分画実験は,GADとは対照的に,神経
65
末端よりもニューロンの細胞体部において,はるかに大きいGAD分
67
画が存在することを示唆している。従って,免疫組織化学的研究におけ
るのと同様に,無細胞分画化は,GAD及びGADが異なる無細胞
6567
分布を有していることを示している。」(24頁下6行∼25頁3行)
と記載されている。
(エ)実施例3(「臨床標本中のGAD自己抗体の検出」)
「…IDDMの危険があるか,或いはIDDM患者の(5例のうち)
4例の血清は,コントロール患者の血清よりも,有意に大量のヒト脳抽
出物の酵素的に活性なGADと結合している。更に,患者のうちの1人
からの血清は前−IDDM時期に採取されており,従ってGADに対す
る自己抗体はIDDM症状の発病前に存在していたことになる…。
更に別の実験(結果を示さず)では,IDDMの危険がある患者2人
65
(DA,DC)からの血清は,組み換え法で生産されたS−GAD
35
を免疫沈降させるが,一方組み換え法で生産されたS−GADは,
35
67
65
患者DAの血清のみによって認識された(そしてこれはS−GAD
35
よりも弱い)ことを示した。またそれ以後の研究で,神経病の合併症を
有するIDDM患者の血清中には,GADよりもGAD自己抗体の
6567
力価が大きいことが見いだされた(ここでは示さず)。
患者DAの血清を用いる別の研究において,ヒト膵臓小島細胞で生産
される特異的ポリペプチドを認識する抗体の存在が示された。結合ポリ
ペプチドの電気泳動分析によって,他の研究者によって以前にヒトID
DM(Baekkeskovetal.,Nature,298:167-169,1982)及び動物モデル
(Baekkeskovetal.,Science,224:1348-1350,1984;Atkinsonet
al.,Diabetes,37:1587-1590,1988)で示されたような,64kDの成
分に対する自己抗体の存在が明らかとなった。GADを認識するが,
65
GADは認識しない,GAD−6モノクローナルで,或いはバクテリ
67
アで生産されるGADでこれらの血清をあらかじめ吸着させると,6
65
4kDの膵臓ポリペプチドを血清が認識する能力が失われる。従って6
4kDの自己抗原に対する自己抗体によって認識されるエピトープがG
AD中に存在し,このことは該自己抗原がGADであることを示唆
6565
している。GADの予測される値を調査するために,IDDMの臨床
65
的発現の発病前の患者から血清を採取して,このGADに対する自己
65
抗体を調べた。」(31頁1行∼下1行)
「…12標本中の9標本(75%)はS−GADと免疫反応性で
35
65
あった。更に,2人の患者(JA及びVC)はこの条件下でGADと
67
免疫反応性であったが,GADとは免疫反応性でなかった。従って,
65
組み合わせると,これらの患者の血清の12例中,11例(91%)に
GAD及びGADに対する自己抗体が存在した。このことは,GA
6567
Dに対する自己抗体はGADに対する自己抗体よりも一般的である
6567
が,アッセイにおいて両方の組み換えGAD(GAD及びGAD)
6567
を用いると,IDDMをより広く予測できるようになることを示唆して
いる。これらの血清についての以前の試験(Atkinsonetal.,Langet,
335:1357-1360,1990)は,12例のうちの11例,又は92%がヒト膵
臓小島細胞からのS−64kD分子と免疫反応性であることを示して
35
いる。64kD分子に対する検出可能な自己抗体を含むが,GADに
65
対する自己抗体は含んでいない血清は,64kD分子にとって最低の力
価(又は”1”)を含む血清であった。従って,ここで得られた誤りの
ネガティブはこのアッセイの感度が低いために起きたことである。更
に,このアッセイは,64Kに対してネガティブな1人の患者(BR)
においてIDDMを予測している。
これらの結果は,ヒト膵臓のβ−細胞中に同定された64kD分子
は,ラットGADとサイズ及び抗原性が同一であることを示してい
65
る。更に,IDDM発病前の患者から採取した血清は,GADに対す
65
る自己抗体を含んでいる。結論として,GAD組み換え分子は,ID
65
DM予測の診断手段として非常に有用である。実際に症状がでる前に医
師がIDDMを診断できるということは,疑いもなくインシュリン治療
が必要となるまでの時間がおおいに伸びる結果となる。このような免疫
アッセイの感度は,膵臓のβ−細胞に存在するGAD形を表すヒト由来
の組み換えGADを用いて改良されるであろう。」(33頁1行∼下
65
3行)
(2)以上の(1)の記載によると,本願発明1について,①血清中における64
kD分子に対する抗体の存在が,インシュリン−依存性真性糖尿病(IDD
M,I型糖尿病)の症状が実際に起きる始まりについての,最も初期でかつ
最も信頼できる指標であるところ,64kD分子とグルタミン酸デカルボキ
シラーゼ(GAD)とは,いくつかの共通の抗原エピトープを有しており,
これらは同じものであるかあるいは非常によく似た分子であるので,GAD
分子をクローニングし,次いで量産することができれば,IDDM予知のた
めの診断キットの開発が可能になること,②本願発明1は,「(a)『ラッ
トGADのアミノ酸配列(別紙1)からなるタンパク質』,(b)『ヒト
65
GADのアミノ酸配列(別紙2)からなるタンパク質』,又は,(c)『
65
(a)もしくは(b)のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が
欠失,置換もしくは付加された(a)もしくは(b)由来のタンパク質でか
つGAD活性を有するタンパク質』をコードするcDNA」というものであ
るところ,この発明は,GADとGADとが別々の遺伝子でコードされ
6567
ていることを見い出し,ラットとヒトのGADのDNA配列及び対応する
65
アミノ酸配列を特定したものであること,③GADポリペプチドは,ID
65
DM予知のための診断のみならず,IDDMの治療に用いることもできるこ
と,以上の事実が認められる。
3取消事由1(引用発明1は引用発明としての適格性を欠く)について
(1)引用例1(BandC「CharacterizationoftheProteinPurifiedwith
MonoclonalAntibodiestoGlutamicAcidDecarboxylase[グルタミン酸デカ
ルボキシラーゼに対するモノクローナル抗体により精製されたタンパク質の
特徴付け]」TheJournalofNeuroscience,Vol.8,No.6,1988
p.2123-2130,甲1)には,次の記載がある。
ア「GADが重要な機能を有することは以前からわかっていたが,この酵
素の構造や細胞内での分布に関する主要な疑問点はまだ解明されていな
い。GADは,最初に出発材料としてマウス脳を使用して,Robertsとそ
の共同研究者によって幅広く精製された(Wuetal.,1973)。ほとんどの
精製された分画のSDS−PAGEは,15から118kDaの範囲の分
子量を有する7つのタンパク質バンドを含んでいた(Wu1976)。これらの
データに基づいて,GADは,15kDaタンパク質のホモマルチマーか
らなることが提案された。その後,GADは,ラットの脳からWuとその共
同研究者によって精製された。最も広く精製された物質は,40と80k
Daのポリペプチドで構成されていた(Denneretal.,1987)マウスから
精製されたそれらと,これらのタンパク質との関係は,研究されていな
い。Spinketal.(1985)は,ブタ脳から精製されたGADは,60kDa
の単一のポリペプチドであることを提唱した。最近,Legayet
al.(1987a,b)は,59と63kDaのタンパク質を沈殿させる,ラット脳
GADのモノクローナル抗体について述べている。このように,文献によ
って提唱されているGAD構造には,大きな不一致がある。」(2123
頁右欄3行∼22行,訳は審決3頁7行∼21行)
イ「GADの構造が解明できることを期待して,我々はGAD−1モノク
ローナル抗体で認識されたタンパク質について研究した。59kDaタン
パク質は,精製され,部分的に配列決定された。」(2124頁左欄1行
∼3行,訳は審決2頁下2行∼3頁1行)
ウ「A氏と共同研究者は,ネコGADのcDNAをクローニングし,配列
決定をした(Fetal.,1986;Ketal.,1987)。59kDaタンパク質
とネコGADcDNAの関係を理解するために,59kDaタンパク質を
予備的SDS−PAGEにより精製した。第4図は,この精製工程を経て
得られた精製59kDaタンパク質を示す。このタンパク質のN末端は,
ブロックされていることがわかったため,アミノ酸配列を決定するため
に,このタンパク質は化シアンにより切断され,切断されたペプチドは

逆相HPLCにより分離された。12ペプチドのピークを配列決定した。
これらのうち,4つは,完全に又は部分的に重複するものであったが,8
つはユニークな配列を有していた。ネコcDNAから推定されるタンパク
質配列と,ラット59kDaタンパク質からの配列の間には,強い相同性
があることがすぐに明らかになった。推定ネコ配列とともに得られた該タ
ンパク質配列を比較したデータを表2に示す。配列決定されたすべてのペ
プチドは,少なくとも部分的に相同性を有するものである。配列決定され
たペプチドは,長さで計97個のアミノ酸残基である。それらを推定ネコ
配列の3つの隣接したセクションと共に比較した。比較した配列におい
て,97アミノ酸のうち68個が一致した。さらに,比較的長い一致した
配列が存在し,12アミノ酸残基のものが一つ,10アミノ酸残基のもの
が一つ,8アミノ酸残基のものが一つ,5アミノ酸残基のものが一つであ
った。29個の一致しないアミノ酸残基のうち,17個は,単一の塩基置
換によりできる可能性があるものであった。」(2126頁右欄6行∼2
9行,訳は乙1の1頁5行∼21行)
エTable2(表2)には,ネコGADcDNAから推定されるGADアミ
ノ酸配列とラット59kDaタンパク質の部分アミノ酸配列との比較が記
載されており,両者において保存されているアミノ酸は,実線により囲ま
れている。Table2(表2)の脚注には,「Ketal.(1987)」,「ネコ
cDNA配列のブレークは,最初のアミノ酸の最初の塩基の番号を付した
垂直線により示した。」及び「タンパク質配列における空白の位置は,ペ
プチド配列決定において,それらの位置のシグナルが欠失(absence)し
ていたことによるものである。」(訳は乙1の1頁23行∼24行及び2
6行∼27行)の記載があり,Table2(表2)には,上記「最初のアミ
ノ酸の最初の塩基の番号を付した垂直線」が3本記載され,その番号とは
「711」,「814」,「1713」である。
オTable2(表2)において,ネコGADアミノ酸配列とラット59kD
aタンパク質の部分アミノ酸配列において,実線により囲まれた,5アミ
ノ酸以上の長さで保存されている配列は,次のとおりである。
(ア)ネコcDNAの塩基番号「711」で始まる領域で,6アミノ酸
の次に「LTSTANTN」(8アミノ酸残基),さらに2アミノ酸
の次に「TYEIAPVFVL」(10アミノ酸残基)
(イ)ネコcDNAの塩基番号「814」で始まる領域で,12アミノ
酸の次に「DGIFSPGGAISN」(12アミノ酸残基),さら
に11アミノ酸の次に「FPEVK」(5アミノ酸残基)
(ウ)ネコcDNAの塩基番号「1713」で始まる領域にはない。
上記3つの領域で,他に,実線により囲まれた,4アミノ酸残基が重複
する箇所が1,3アミノ酸残基が重複する箇所が5,2アミノ酸残基が重
複する箇所が3,1アミノ酸残基が重複する箇所が8ある。合計の重複
は,8+10+12+5+4+15+6+8=68アミノ酸残基である。
カ「GAD−1免疫親和性カラムは,ラット脳ホモジネートの細胞質分画
からGAD活性を濃縮された画分を得るために使用された。最も濃縮され
た画分は,ニワトリ脳からのものと区別がつかない一連のタンパク質を含
んでいた。最も顕著なバンドは明らかに59kDaの分子量を有するもの
であった。他のバンドとして,63kDaと,55kDaを中心とする一
連の約3つのバンドが存在した。ラット脳の膜分画からの精製は,似た図
を示す。59kDaと63kDaタンパク質は明瞭に存在し,より少ない
量で低分子量成分が存在した。HPLCにより自然な形のままでこれらの
バンドを分離するすべての試みは失敗した。59kDaタンパク質は,予
備的SDS−PAGEによって単離され,臭化シアンによる切断により断
片化された。配列分析によると,このタンパク質はネコのGADcDNA
(Fetal.,1986;Ketal.,1987)と強い相同性を有していることを示
し,これは,酵素的に活性なGADをコードしていることを示してい
る。」「59kDaラットタンパク質とネコタンパク質間の相同性は,3
つの可能な方法によって説明することができる。最初は,これらは,ネコ
とラットの両方において,GADをコードする一つの遺伝子であって,2
つのタンパク質の相違の全ては,進化の多様性によるものであるという仮
定である。2つめの可能性は,それぞれの種は単一の遺伝子をもってお
り,選択的スプライシングのパターンでいくつかのmRNAが生じるとい
うものであって,したがって,ネコcDNAとラット59kDaタンパク
質は,単一遺伝子の選択的スプライシングの経路を示すものであるという
ものである。最後は,GAD又はGAD様タンパク質は複数の遺伝子が存
在して,ネコcDNAとラット59kDaタンパク質は,関連性はある
が,異なる遺伝子の産物であるというものである。これらの選択肢の中か
ら一つを選ぶには,該免疫精製したタンパク質および対応するcDNAの
さらなる解析が必要である。」(2129頁左欄15行∼44行,訳は乙
1の1頁下7行∼2頁下1行)
「Ketal.(1987)によると,ネコGADcDNAは,66kDaのタ
ンパク質をコードする。われわれの抗体を使って免疫沈殿させた59kD
aの相同体と,予想されている分子量の間に矛盾があるのは,種の違いや
タンパク質がゲル上で異常な移動を示すこと,又は,生合成の際のタンパ
ク質分解で除去された配列が存在していることによるものであろう。」
(2129頁左欄44∼50行,訳は審決2頁下9行∼下5行)
(2)以上の(1)の記載と乙2(K,FandA「GlutamicAcidDecarboxylase
cDNA:NucleotideSequenceEncodinganEnzymaticallyActiveFusion
Protein[グルタミン酸デカルボキシラーゼのcDNA:酵素的に活性な融
合タンパク質をコードする核酸配列]」TheJournalofNeuroscience,
Vol.7,No.9,1987,p.2768-2772)によると,引用例1(甲1)は,ラット脳
ホモジネート又はラット脳の膜分画から,GADに対するモノクローナル抗
体GAD−1の免疫親和性カラムを用いて,GAD活性を有するタンパク質
を集め,これが,顕著なバンドとして59kDaのもの,他のバンドとして
63kDaのものを含むことを確認し,この59kDaタンパク質を部分的
に配列決定し,既に上記乙2によって配列が知られていたネコGADcDN
Aから導かれるアミノ酸配列と比較したもので,比較した三つのセクション
の計97個のアミノ酸のうち,68個が一致し,この中には,12アミノ酸
残基,10アミノ酸残基,8アミノ酸残基,5アミノ酸残基といった,一致
した比較的長い配列があることを見い出し,両者に強い相同性があると結論
付けたものである。そして,この相同性について引用例1(甲1)は,三つ
の可能性,すなわち,①ネコとラットの両方において,GADをコードする
一つの遺伝子であって,二つのタンパク質の相違は,進化の多様性によるも
のである,②それぞれの種は単一の遺伝子をもっており,選択的スプライシ
ングのパターンでいくつかのmRNAが生じた,③ネコcDNAとラット5
9kDaタンパク質は,関連性はあるが,異なる遺伝子の産物である,とい
う可能性を挙げ,この解明のために,免疫精製したタンパク質及び対応する
cDNAのさらなる解析が必要であると述べている。
引用例1(甲1)は,以上のとおり,ラット59kDaGADの部分的な
アミノ酸配列を特定して,それを既知のネコGADcDNAから導かれるア
ミノ酸配列と比較し,それらは,異なる遺伝子の産物である可能性があると
述べているから,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識
を有する者)に対し,ラット59kDaGAD全体のアミノ酸配列及び対応
するcDNAを解析する動機付けとなるということができる。本願明細書
(甲11)には,前記2(1)ウ(ア)のとおり,「ネコ(cDNAから)(K
etal.,J.Neurosci.,7:2768,1987)及びラット(ペプチドから)(Band
C,J.Neuroscio,8:2123.1988)GAD(図1)の下線を施した共通のアミ
ノ酸配列をコードするために変性(degenerate)オリゴヌクレオチドを合成
した(AppliedBiosystems)。」との記載があるところ,ここで「Ket
al.,J.Neurosci.,7:2768,1987」は,引用例1に引用されている乙2に当た
り,「BandC,J.Neuroscio,
8:2123.1988」は引用例1に当たるから,本願発明の発明者も引用例1に基
づいてプライマーを設計している。
そして,引用例1(甲1)の上記記載から周知技術を用いてラット59k
DaGAD全体のアミノ酸配列及び対応するcDNAを解析することができ
たことは,後記4で判断するとおりである。原告は,GADと異なる遺伝
67
子を見つけようとするならば,ラット59kDaGADアミノ酸配列とネコ
GADアミノ酸配列が同じ配列である部分をプローブとして用いることは
67
避けなければならないが,ラット59kDaGADにおいてネコGADと
67
異なるアミノ酸配列領域は非常に短いと主張する。しかし,後記4のとお
り,PCR法を用いれば,引用例1(甲1)の上記記載から周知技術を用い
てラット59kDaGAD全体のアミノ酸配列及び対応するcDNAを解析
することができたと認められるのであって,ラット59kDaGADにおい
てネコGADと異なるアミノ酸配列領域が短いことは,この認定を左右す
67
るものではない。
なお,甲7(Lほか「RatBrainGlutamicAcidDecarboxylaseSequence
DeducedfromaClonedcDNA[クローン化したcDNAから演繹されたラット
脳グルタミン酸デカルボキシラーゼ配列]」JournalofNeurochemistry
Vol.54,No.2,1990,P.703-705)は,引用例1(甲1)に記載のラット59
kDaGADの部分アミノ酸配列と甲7が特定したラットGADのアミノ酸
配列の違いについて「諸相違はタンパク質配列決定に内在する可能性が大き
い」(704頁右欄5行∼右欄6行,訳は平成19年2月27日付け原告上
申書8頁下7行∼下6行)と記載されている。しかし,甲7には,上記記載
以上に引用例1に記載されたアミノ酸配列が誤りであることを示す合理的な
根拠が示されているものではなく,かえって,甲7によると,甲7が特定し
たラットGADのアミノ酸配列は,乙2に記載されたネコGADのアミノ酸
配列とはかなり似ているが,引用例1(甲1)に記載されたラット59kD
aGADアミノ酸配列とは異なるところが多くあり,このことは,ラット5
9kDaGADは,ラットGADやネコGADとは異なる遺伝子の産物であ
る可能性を想起させるものである。また,甲7には,「現在は,脳GADに
対するcDNAクローンと配列データが利用可能なので,Legay等(1986)
が報告した,60及び63kDのGAD2種の起原と意味を明らかにするこ
とや,Spink等(1985)が特徴を明らかにした動力学的に異なるGADの3
つの形態を研究することに役立つであろう。」(705頁左欄下14∼下9
行,訳は上記上申書8頁下4行∼下1行)との記載もあって,複数種あると
されるGADの相互の関係は未解明であるとされているのであり,上記のと
おり本願発明の発明者が引用例1に基づいてプライマーを設計していること
をも考慮すると,甲7の上記記載は,引用例1(甲1)はラット59kDa
GAD全体のアミノ酸配列及び対応するcDNAを解析する動機付けとなる
との上記認定を左右するに足りるものということはできない。
したがって,引用発明1は引用発明としての適格性を欠いているとの原告
の主張は理由がない。
4取消事由2(本願発明1及び6は引用発明1から容易に発明することができ
たものではない)について
(1)本願優先日(1990年[平成2年]9月21日)当時の技術水準
ア乙8(鈴木信太郎「混合プライマーを用いたPCR法の応用」実験医学
Vol.8,No.9(増刊)1032頁∼1036頁[1990年6月発行])に
は,次の記載がある。
(ア)「いろいろな研究を進めていく過程において,既知の蛋白質に相同
な蛋白質のcDNAを必要とすることがしばしば起こる。このため,こ
れまでにいくつかの方法が考案され用いられてきたが,いずれも一長一
短があった。これに対し,最近一組の良く保存されているアミノ酸配列
に対応したプライマーを用いるPCR法が盛んに利用されるようになっ
てきた。この方法の最大の特色は,アミノ酸配列に対応するすべての可
能なヌクレオチド配列を含むプライマーを用いる点にある。従って,原
理的には用いるアミノ酸配列に誤りがないかぎり目的のcDNAを必ず
増幅できることとなり,非常に強力な方法であるといえる。」(103
2頁左欄下7行∼右欄5行)
(イ)プライマーの作製
「初めにプライマーに関する注意点を二,三述べておきたい。通常P
CR用のプライマーとしては20b前後のオリゴヌクレオチドが多く用
いられているが,条件を適当に選べば15∼17bの短いオリゴヌクレ
オチドでも十分使用可能である。プライマーとして最も大事な点は3’
末端付近の配列が正確なことである。これに対し,5’末端付近のミス
マッチは多少許される。このため,アミノ酸配列に多少あいまいな点の
ある場合は,この部分を5’末端付近においた長めのプライマーを用い
ると良い。そうすれば,たとえアミノ酸配列に誤りがあったとしても,
うまく働いてくれることが期待できる。2つのプライマーの3’末端に
相補的構造があるとプライマーダイマーが作られるので避けねばならな
い。次に,プライマーに含まれるオリゴヌクレオチド配列の組み合わせ
の数であるが,Gouldらは2の組み合わせを含んでいるプライマーも
18
働いたとしているし,われわれの経験でも2なら十分働くようで
13∼14
ある。従って,20b(7アミノ酸)前後のプライマーを用いる限り,
組み合わせの数はほとんど問題にはならないものと考えられる。
本法を用いるにはまず既知のアミノ酸配列を比較検討することによ
り,良く保存されている部位または良く保存されていることが十分期待
できる部位から,先に述べた点を考慮しながら次のようなアミノ酸配列
を選び出す。
(a)アミノ酸5∼7残基の配列で,プライマーの3’末端に対応する
アミノ酸配列に誤りを含んでいる可能性が低いこと。この時,1つの部
位に複数のアミノ酸を対応させても良い…。
(b)2つの配列間の距離は現在のPCR法の能力から考えて,アミノ
酸約300残基以下が望ましい(最大でも1000残基以下)。
次に,コドン表をもとに,得られたアミノ酸配列に対応する混合プラ
イマーのヌクレオチド配列を決定する。この時,プライマーの5’末端
に出現頻度の低い制限酵素のリンカー配列を加えておくと,サブクロー
ニングの際の手間を省くことができる。」(1032頁右欄8行∼10
33頁左欄13行)
(ウ)鋳型DNAの調製
「鋳型DNAはmRNAより合成したDNAを用いるのが一般的であ
る。もちろん,cDNAライブラリーより調製したDNAを流用するこ
とも可能である。」(1033頁右欄下10行∼下8行)
(エ)PCR
「われわれはPCRを次のような標準的条件下で,市販の自動反応装
置を用いて行っている。」(1034頁左欄3行∼4行)として,標準
的条件が記載されている。
「ここで述べた条件は増幅するDNAの長さがおよそ1kb以下であ
る場合を対象としたものであるが,もし,これ以上の長いDNAを増幅
したい場合はDNAの合成時間を延ばしたり,ヌクレオチド濃度を増や
したりといろいろ実験条件を変更する必要がでてくる。しかし,現在の
PCRの技術では2kb以上の長いDNAを効率よく増幅することは一
般的にいって容易ではないので,初心者は避けた方が無難であろう。」
(1034頁右欄2行∼9行)
(オ)サブクローニング
「このようにして増幅したDNA標品はアガロース電気泳動にかけて
予想される大きさのバンドを分離し,DNAを抽出する。用いるアガロ
ースは通常の市販品で十分である。また,DNAの抽出法は一般に用い
られているいずれの方法でも良い。
次に,得られたDNAを制限酵素で処理した後,フェノールで処理,
エタノール沈殿でDNAを回収,それぞれのベクターにサブクローニン
グする。
ここで多くの人が経験する大きな問題は,増幅したDNAをうまくベ
クターにサブクローニングできないことである。…一般に,目的とする
DNAは増幅した標品中に比較的多量に含まれていることが期待でき
る。従って,増幅したDNAをプローブとしたプラークハイブリダイゼ
イションによるスクリーニングを行うことが効果的である。なお,サブ
クローニングの方法して,リンカーを用いるよりブラントエンドを用い
た方が効率が良いという研究者がいることから,問題の生じた場合はこ
の方法を試みられるのもよかろう。また,用いるアガロースによっては
制限酵素がうまく働かないこともあるので,特別のアガロースを用いた
り,電気泳動と酵素処理の順序を入れ替えることも効果的であるかもし
れない。われわれは主にM13ファージベクターを用いているが,pG
EM等のプラスミドベクターを用いても良い。」(1034頁右欄11
行∼1035頁左欄14行)
(カ)結果の検討および問題点
「最後に,常法に従って得られたクローンのシークエンシングを行
い,ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を決めて既知のアミノ酸配列
と比較し,相同性を検討する。この際,プライマー配列を指標にして結
果を解析するのが便利であるが,しばしばこの配列が欠損しているので
注意すること…。
このようにして得たDNAの多くは非常に短いものであるが,
Northernやスクリーニング用プローブとして十分使用できる。目的に応
じて使用されたい。
本法を応用する上で最大の問題は,目的とするmRNAの含量がほか
の相同なmRNAに較べてかなり低い場合,または,たまたま関連のな
いDNAが比較的大量に増幅されるような場合,増幅したDNA中にお
ける目的とするDNAの含量はかなり低くなっているため,このような
クローンの分離が難しいことにある。本法は多くの組み合わせの数を含
む混合プライマーを用いているので,このような例はしばしば起こるよ
うである。…
ここで述べた方法はかなり平均的なもので,必ず一定の結果が期待で
きるという無難な方法といえる。」(1035頁左欄下3行∼1036
頁左欄2行)
(キ)その他への応用
「本法は原理から明らかなように,一般のcDNAクローニングにも
応用が可能である。もし,近接した2つのアミノ酸配列が判明している
のであれば直接本法を流用できる。また,1つのアミノ酸配列だけがわ
かっている場合でもいくつかの方法が考えられる。もしそれがC末端付
近にあるのであれば,mRNA3’末端のpolyAに対応したオリゴ
dTを一方のプライマーとして用いることにより応用できる。同様に,
N末端付近のアミノ酸配列が判明している場合は,cDNAの3’末端
に人工的にdG鎖等を付加することにより,本法の応用が可能となる
(anchoredPCR)。」(1036頁左欄8行∼18行)
イ乙9(結城惇「新しいクローニング法:PCRとIPCR」Cell
Science,Vol.6,No.5,370頁∼376頁[1990年8月発行])に
は,次の記載がある。
(ア)「PCRはクローニングを単純で,しかも短時間で行われるように
しただけではない。1個の細胞に相当するDNAさえあれば,ゲノム当
り1コピーの遺伝子を増幅できるという,従来のクローニングではなし
得なかった遺伝子操作を可能にした。
しかし,PCRで増幅できるDNAの長さは2kbまでで,通常1k
b以下の領域を指定して増幅する。」(370頁右欄22行∼29行)
(イ)PCRとIPCR
「PCRは,20bp以上の塩基配列の判明している二ヶ所の間を増
幅する方法…である…。
PCR法では,二本鎖DNAの+鎖に対応するプライマーと−鎖に対
応するプライマーとの間をDNAポリメラーゼで合成させる。」(37
1頁左欄4行∼10行)
「PCRでDNA断片を増幅するためには,2つのプライマーに対応
する,鋳型DNA上の2ケ所の塩基配列が判明していることが必要にな
る。」(371頁右欄10行∼12行)
(ウ)タンパク質のアミノ酸配列をもとにクローンを得る方法
「…アミノ酸に対応する遺伝コードは,1つでないため,アミノ酸配
列から推定されるメッセンジャーRNAの塩基配列は多数にのぼる.こ
の中1つの塩基配列のみがクローン化しようとする遺伝子と対応する
が,アミノ酸配列から推定される多数のオリゴヌクレオチドの混合物を
PCRの系に加えると,この中鋳型DNAと完全に一致するオリゴヌク
レオチドがプライマーとして最も有効に作用する。PCRでもIPCR
でも2本のプライマーを使用するので,このプライマー効率は倍化さ
れ,目的とするDNA断片が優先的に増幅される。アミノ酸配列は最低
5つのアミノ酸の配列がわかれば,この方法によってcDNAのクロー
ニングができる。
5つのアミノ酸から推定される,塩基配列は,100をこえる。この
混合物をプライマーとしてDNA増幅系に加えるので,プライマーが相
補的な塩基配列を正しく認識するのに最適な温度条件を設定することが
とくに重要となる。
cDNAライブラリーの中に探索している特定のクローンが入ってい
るかどうかを上記の方法で検定し,もし探索している塩基配列が増幅さ
れたらこの増幅産物をプローブとして使い,クローンを拾い出す。
λgt11ライブラリーをスクリーニングする場合,10ケ程度ま
12
でのファージ粒子を100μlのPCR反応液中で検定できるので,1
0に1ケの独立クローンがあるとして,1クローン当り10ケまでの
66
鋳型DNAを反応液中に入れることができる。
増幅されたDNA断片には,非特異的な断片も含まれているので,さ
らにベクターに組み込んで純化する。ベクターに組み込む前に,ゲル電
気泳動でDNAを分画したほうが純化しやすい。」(372頁左欄3行
∼右欄1行)
(エ)試験管内で増幅したDNA断片のベクターへの組み込み
「…増幅したDNA断片がベクターへ組み込まれる方向を特定するた
めに,制限酵素認識配列を5’末端につけた合成ポリペプチドをプライ
マーとしてDNAの増幅を行うこともできる。増幅されたDNA断片は
対応する制限酵素で両端を切断し,ベクターに組み込む。この時,プラ
イマーの制限酵素認識配列の5’側にGGあるいはCTCをつけると…
制限酵素による切断が効率的に行われる。プライマーの5’側の制限酵
素認識配列とGGないしはCTCは鋳型DNAと一致しなくても増幅反
応を阻害しないが,3’側は鋳型DNAと完全に相補性を持つようにプ
ライマーの配置を決めることは重要である。」(373頁左欄21行∼
33行)
(オ)増幅過程での複製の誤り
「クローニングに関連する増幅反応のエラーは,
(1)プライマーが鋳型DNAを誤って認識して,ねらいとする領域以
外の部分を増幅してしまうこと,
(2)DNAの複製過程で,誤った塩基を取り込むこと,の2つがあげ
られる。
(1)は,特異性の高いプライマーを選択し,PCRサイクルでのプラ
イマーのアニーリングの温度を最適条件に調節して解決する。また,プ
ライマーアニーリングとDNA合成の時間は必要最小限にして,誤った
プライミングによるDNA合成を抑制する。また,プライマーの量とD
NA合成酵素の量も少なく抑えることが,誤りを抑制するポイントとな
る。…
cDNAの場合にはタンパク質の分子量とアミノ酸配列から,増幅産
物の長さが推定出来るので,増幅されたDNA断片の長さを電気泳動で
正確に判定することで,上記のような誤認は避けることができるが,さ
らにサザーン法で,2つのプライマー間の配列が増幅産物上に含まれて
いることを確認する。」(373頁右欄18行∼374頁左欄6行)
ウ乙15(猪子英俊「PCR法の発展とその医学応用」Biotherapy,
Vol.4,No.6[1990年6月発行]1103頁∼1113頁)には,次の
記載がある。
(ア)「…PCR(polymerasechainreaction)法は,目的とする遺伝子
領域を標的として100万倍以上増幅させることができる。」(110
3頁左欄4行∼7行)。
(イ)PCR法の原理とその発展例
aStandardPCR
「StandardPCR法は,図1のように注目している標的遺伝子領域
の両端の塩基配列に相当するオリゴヌクレオチド(17∼23塩基)
を合成し,DNAポリメラーゼのプライマーとして使用する。2つの
プライマーは,DNA二本鎖の互いに異なる鎖に相当する塩基配列か
ら合成するが,検索したいDNA配列の変異あるいは遺伝的多型性領
域が両プライマー間に位置するように工夫する。図1に示したように
遺伝子DNAと2つのプライマーを混ぜた後,まず95℃で1分間熱
処理によりDNA二本鎖を一本鎖に分離,変性させる。続いて,55
∼62℃で2分間プライマーと鋳型となる遺伝子DNAのアニーリン
グを行い,プライマーをDNA上の標的遺伝子領域に結合させる。そ
の後,72℃で2分間TaqDNAポリメラーゼ…により,プライマ
ーからのDNAの伸長,合成を行い,これで1サイクルを終了する。
ここまでの操作で標的遺伝子は2倍増幅されるはずである(図2)。
このサイクルを20∼35回繰り返すことにより,約100万倍標的
遺伝子は増幅される。ここで耐熱性のTaqDNAポリメラーゼを用
いるという卓抜なアイデアにより,従来の大腸菌DNAポリメラーゼ
IKlenowフラグメントを用いた場合には1サイクル,すなわち95
℃の変性と55∼60℃のアニーリングごとに失活するKlenowフラグ
メントを補給するという面倒な操作が不要となり,自動機械化が可能
となった。増幅できる遺伝子領域の大きさは,いまのところ最長3∼
5kbまで可能であるが,200∼300bp前後が最も効率よく増
幅されるようである。」(1104頁左欄11行∼1105頁左欄8
行)
bNestedPCR
「StandardPCR法で,特に長い領域を増幅した場合にみられる現
象であるが,misprimingによる非特異的な増幅バンドが検出される
場合,すなわち特異的なバンドのみを増幅させるために1回目のPC
R反応の後,増幅される領域内に相当する別の新しい両方のプライマ
ー,あるいは片一方のみを新しいプライマーに代えて2回目のPCR
反応を行う(図3)。この方法はnestedPCRと呼ばれ,5’末端c
DNAの増幅,塩基配列の決定,制限酵素による切断…などの特異的
にな領域のみの増幅が要請されるような場合に有用な方法である。」
(1105頁左欄10行∼右欄4行)
cAnchoredPCR
「増幅したい領域のプライマーとして用いるべき一方の端の塩基配
列が不明の時,ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラー
ゼ(TdT)によるdAまたはdGの3’末端への付加,あるいはT
4DNAリガーゼによるオリゴマーの付加など人工的塩基配列を賦与
した後,この人工的なAnchorプライマーと既知のプライマーとの組み
合わせでPCR反応を行い,特異的な遺伝子増幅を行う(図4)。特
に3’末端が一本鎖の場合には(たとえば一本鎖cDNAが適当な制
限酵素で3’突出物を作製した場合),TdTによるdA(dG)の
付加反応のほうが簡単に行える利点がある。」(1105頁右欄6行
∼1106頁左欄1行)
(ウ)PCR反応産物の解析
「PCR反応後増幅DNAについて直接塩基配列を決定するか…,M
13あるいはpUCベクターなどにサブクローニング後常法に従って塩
基配列を決定する。後者の場合あらかじめプライマーに適当な制限酵素
部位を導入しておけばサブクローンの操作が簡便化される…。」(11
09頁左欄下21行∼下15行)
(エ)基礎医学への応用
「…PCR反応により100万倍に増幅されたDNAはクローニング
32
の必要がなく,直接塩基配列の決定が可能である。すなわち,増幅後
Pで標識したプライマーと大腸菌DNAポリメラーゼIKlenowフラグメ
ント,逆転写酵素,T7DNAポリメラーゼまたはTaqDNAポリメ
ラーゼを用いたDideoxy(Sanger)法により,シングルコピーの遺伝子
であってもDNA配列を決定できる。しかし…このdirect-sequencing
はしばしば非特異的なバンドなどを生じることがあるので,M13やp
UCベクターなどにサブクローンする…」(1110頁右欄下4行∼1
111頁左欄8行)
エ乙18(松橋通生,大坪栄一監訳「ワトソン・組換えDNA」74頁∼
76頁[昭和63年3月25日第3刷発行]丸善株式会社)には,次の記
載がある。
「ある特定のcDNAプラスミドをもつ大腸菌の同定.pBR322を
ベクターとして作製したcDNAライブラリーを大腸菌に形質転換法で入
れる。生じたコロニーはレプリカしたニトロセルロースフィルター上に移
すことができる。まず,ニトロセルロースの膜を大腸菌のコロニーに接し
て寒天プレートの上におく。フィルターをはがすときコロニーの中の細胞
の大多数はプレートに残るが,いくらかはフィルター上へ移行する。した
がって,フィルター上のパターンとプレート上のコロニーパターンは等し
い。次いで,ニトロセルロースをNaOHで処理し,菌体を溶菌するとと
もにDNAを変性する。フィルターを真空オーブンで乾熱し,DNAをニ
トロセルロースフィルターに結合させる。精製したcDNAあるいはmR
NAのプローブをPで標識しフィルターとハイブリダイズさせる。プロ
32
ーブと相同な配列を含む組換えプラスミドをもつコロニーがそれとハイブ
リッドを形成し,オートラジオグラフィーで解析すると目印の標識を与え
る。レプリカのフィルター上で標識の現れたコロニーの位置をマスタープ
レートと比較し,コロニーを釣り上げ,増殖させる。」(76頁の「図6
・7」の説明部分)
オまた,PCR法の適用例については,次のようなものがある。
(ア)乙10(GREGORIOGILほか「Multipalgenesencodenuclearfactor
1-likeproteinsthatbindtothepromoterfor3-hydroxy-3
-methylglutaryl-coenzymeAreductase[3−ヒドロキシ−3−メチル
グルタリル−コエンザイムAレダクターゼのプロモーターに結合する核
因子1様蛋白質をコードする多重遺伝子]」Proceedingsofthe
NationalAcademyofScienceoftheUnitedStatesofAmerica,Vol.85,
1988,p.8963-8967)には,レダクターゼプロモーター因子タンパク質A
及びBにおいて一致するアミノ酸配列を基に作製された縮退プライマー
を用いて,cDNAを鋳型としてPCR法により増幅し,増幅されたD
NAをプローブとして,cDNAライブラリーをスクリーニングして,
レダクターゼプロモーター因子タンパク質BのcDNAをクローニング
したことが記載されている。
(イ)乙11(CHENGCHILEEほか「GenerationofcDNAProbesDirected
byAminoAcidSequence:CloningofUrateOxidase[アミノ酸配列で導
かれたcDNAプローブの作成:尿酸オキシダーゼのクローニング]」
Science,Vol.239,1988,p.1288-1291)には,ブタ尿酸オキシダーゼの
アミノ酸配列を基に作製した縮退プライマーを用いて,cDNAを鋳型
としてPCR法により増幅し,増幅されたDNAをプローブとして,c
DNAライブラリーをスクリーニングして,尿酸オキシダーゼのcDN
Aをクローニングしたことが記載されている。
(ウ)乙16(MICHAELSTRATHMANNほか「DiversityoftheG-protein
family:Sequencesfromfiveadditionalαsubunitsinthemouse[G
蛋白質ファミリーの多様性:マウスの5つのさらなるαサブユニットの
配列]」ProceedingsoftheNationalAcademyofScienceofthe
UnitedStatesofAmerica,Vol.86,1989,p.7407-7409)には,縮退プ
ライマーを用いて,cDNAをPCR法により増幅し,得られたPCR
生成物をベクターにクローニングしてから,すべてのクローンの塩基配
列決定を行うことにより新たなグアニンヌクレオチド結合調節タンパク
質(Gタンパク質)のメンバーを五つ見い出したことが記載されてい
る。
(エ)乙17(ANDREWF.WILKS「Twoputativeprotein-tyrosinekinases
identifiedbyapplicationofthepolymerasechainreaction[ポリメ
ラーゼ連鎖反応の適用により同定された2つの推定されるタンパク質チ
ロシンキナーゼ]」ProceedingsoftheNationalAcademyofScienceof
theUnitedStatesofAmerica,Vol.86,1989,p.1603-1607)には,縮退
プライマーを用いて,cDNAをPCR法により増幅し,得られたPC
R生成物をベクターにクローニングしてから,すべてのクローンの塩基
配列決定を行うことにより,新たなタンパク質チロシンキナーゼ(PT
K)ファミリーのメンバーを二つ見い出したことが記載されている。
カ以上のア∼オの記載によると,本願優先日(1990年[平成2年]
9月21日)当時,①既知のタンパク質のアミノ酸配列をもとに,5∼
7アミノ酸残基の二つの配列を選び,コドン表をもとにそのアミノ酸配
列に対応するすべての可能なプライマーのヌクレオチドを決定し,この
すべての可能なプライマーの混合物を用いて,mRNAから調製したc
DNAを鋳型DNAとして,目的のcDNAを増幅させ,このようにし
て増幅したDNAを適宜分離してベクターにサブクローニングし,これ
を増幅させたDNAをプローブとしてスクリーニングして,目的のcD
NAを得る方法は,「PCR法」の応用ないし変性として,一般的に用
いられていた周知の方法であること,②PCR法により十分な量のDN
Aが得られれば,これの塩基配列を決定することも,通常のことであっ
たこと,③また,PCR法によって増幅したDNAをベクターにサブク
ローニングした後,すべてのクローンの塩基配列決定をすることも行わ
れていたこと,④増幅したい領域のプライマーとして用いるべき一方の
端の塩基配列が不明の時には,AnchoredPCR法が用いられること,⑤
クローニングの方法としてコロニーハイブリダイゼーションが周知の方
法であったこと,以上の事実が認められる。
(2)前記2(1)ウ(イ)の本願明細書(甲11)の記載によると,本願発明1に
おいて,GAD(引用例1記載のラット59kDaGAD)のアミノ酸配
65
列及び対応するcDNAを解析した手法は,①成熟ラットの脳から全RNA
を抽出し,逆転写酵素を用いて一本鎖合成を行う,②引用例1(甲1)に引
用されている乙2記載のネコGADのアミノ酸配列と引用例1(甲1)記載
のラット59kDaGADのアミノ酸配列が共通する部分のアミノ酸配列を
コードするオリゴヌクレオチドを合成し,末端に「5stⅠ及びHind
Ⅲ」(5’末端オリゴ)又は「SstⅠ及びSstⅡ」(3’末端オリゴ)
の制限酵素認識配列を付加し,これをプライマーとして,PCR法を行い,
その結果得られた産物をベクターにサブクローニングし形質転換する,③乙
2記載のネコGADに特異的な5’−P末端標識化オリゴヌクレオチドで
32
コロニーハイブリダイゼーションを行い,ハイブリダイゼーションで陽性及
び陰性であったコロニーを個々に取り上げて,液体培地中で一夜成長させ,
DNAを単離し,配列決定を行う,④PCR法で生じたラットの2種類のG
ADcDNAをプローブとして用いて,ラムダZAPラット海馬ライブラリ
ーをスクリーニングし,サブクローニングした後,配列決定を行う,⑤5’
末端をクローニングするために,アンカー(anchored)PCRを行う,とい
65
うものであると認められる。そうすると,本願発明1において,GAD
(引用例1記載のラット59kDaGAD)のアミノ酸配列及び対応するc
DNAを解析した手法は,上記(1)で認定した一般的に用いられていた方法
によったもので,当業者が容易に想到することができる程度のものであると
認められる。
また,前記2(1)ウ(ウ)の本願明細書(甲11)に記載されているとお
り,GAD及びGADcDNAが2個の異なるmRNAに由来すること
6765
を確認することが行われているが,このうち,ノーザンブロットについて
は,上記(1)ア(カ)に記載があるなど,本願優先日(1990年[平成2年
]9月21日)当時周知の方法であったと認められ,その他,GAD及び
67
GADcDNAが2個の異なるmRNAに由来することを確認することに
65
ついて困難な点があったとは認められない。
(3)原告の主張に対する補足的判断
ア原告は,引用例1(甲1)からは,本願発明1のGADcDNAの取
65
得は容易でなかったとして,①本願優先日(1990年[平成2年]9月
21日)当時,GADの由来となる遺伝子の数が未解明であったこと,②
本願発明者らが1989年に発表した論文においても,ヒト及びラットの
GADは,ただ一つの遺伝子であると記載されていること(甲8の1・
2),③本願発明者らは,1990年に,二つのGAD遺伝子に関する論
文を,雑誌「SCIENCE」に投稿したところ,最初は掲載を拒絶されたこと
(甲13),④Jらは,マウスにおいて第2のGAD遺伝子を見い出して
いたが,それは偽遺伝子であったこと(甲6),⑤Lらの研究(甲7)
は,彼らの研究によって得られたラットGADクローンが,引用例1によ
って報告されたものとよく一致し,違いは技術的な問題であることを示唆
していること,⑥1987年7月に引用例1が発表されてから,1991
年に本願発明者らが論文でGADとGADのクローニングを報告する
6765
までには4年が経過していることを主張する。
しかし,上記①については,引用例1(甲1)が,当業者に対し,ラッ
ト59kDaGAD全体のアミノ酸配列及び対応するcDNAを解析する
動機付けとなることは,前記3(取消事由1)で判断したとおりであり,
かつ,引用例1に周知技術を適用して,ラット59kDaGAD全体のア
ミノ酸配列及び対応するcDNAを解析することができたことは,上記
(2)のとおりであって,GADの由来となる遺伝子の数が未解明であった
ことは,これらの認定を左右するものではない。
上記②については,甲8の1(F,GandA「TWOFORMSOFGLUTAMATE
DECARBOXYLASE(GAD),WITHDIFFERENTN-TERMINALSEQUENCES,HAVEDISTINCT
INTRANEURONALDISTRIBUTIONS[N−末端配列が異なるグルタミン酸塩デカ
ルボキシラーゼ(GAD)の2つの形態は,異なるニューロン内分布を有
する]」SOCIETYFORNEUROSCIENCE
ABSTRACTS,VOLUME15,1989,P.487]」及び甲8の2(G,
H,FandA「IMMUNOCYTOCHEMICALSTUDIESUSINGANEWANTISERUM
AGAINSTBACTERIALLYPRODUCEDFELINEGLUTAMATEDECARBOXYLASE[細菌に
よって製造されたネコグルタミン酸塩デカルボキシラーゼに対する新たな
抗血清を用いた免疫細胞化学的研究]」SOCIETYFORNEUROSCIENCE
ABSTRACTS,VOLUME15,1989,P.488)は,いずれも本願発明者を共著者に含
んでいるところ,甲8の1には「ヒト及びラットのゲノムは,ただ1つの
GAD遺伝子を含む…」(487頁右欄下14行,訳は原告平成19年2
月27日付け上申書9頁7行)などと記載され,甲8の2には,「これら
の知見は,大きい方のGADポリペプチドが細胞体中に存在し,そしてそ
れは小さい方の形態に変換されて,軸索末端に濃縮されるという仮説を支
持している。」(488頁23行∼26行,訳は上記上申書10頁1行∼
3行)と記載されている。しかし,本願発明者らが後に発表した甲5(I
andA「TheStructualandFunctionalHeterogeneityofGlutamicAcid
Decarboxylase:AReview」NeurochemicalResearch,Vol.16,No.3,1991,
p.215-226)や甲13(本願発明の発明者の一人であるIの宣誓書)の記
載に照らすと,本願発明者らが,1989年当時,ヒト及びラットのGA
Dはただ一つの遺伝子であることについて確証を有していたわけではない
と認められるのであるから,甲8の1・2の記載も,前記3及び上記(2)
の認定を左右するものではない。
上記③については,甲13には,GAD遺伝子が単一のものである旨の
論文を掲載を雑誌に拒否されたことが記載されている(3頁下13行∼下
6行,訳は上記上申書[甲13に関するもの]4頁18行∼25行)もの
の,上記③に沿う事実の記載はなく,この事実を認めることはできない。
上記④については,甲6(Jほか「SequencesHomologoustoGlutamic
AcidDecarboxylasecDNAArePresentonMouseChromosomes2and10[グ
ルタミン酸デカルボキシラーゼcDNAと相同な配列がマウスの染色体2
及び10に存在する]」GENOMICS6,1990,P.115-122)には,マウスにお
いて,第2のGAD遺伝子を見い出したが,それは偽遺伝子であったこと
が記載されている。しかし,それは,同論文の著者らが見い出した遺伝子
が偽遺伝子であったというにとどまるから,やはり前記3及び上記(2)の
認定を左右するものではない。
上記⑤については,甲7は,前記3(2)で判示したとおりであって,前
記3及び上記(2)の認定を左右するものではない。
上記⑥については,1987年7月に引用例1が発表されてから本願優
先日(1990年[平成2年]9月21日)までは,3年余りであるが,
そのような期間があるからといって直ちに本願発明1の進歩性を認めるこ
とはできない。
イ原告は,縮退プライマーをPCRに用いて同じ種の中の関連する遺伝子
をクローニングする実験について,①実験のために用いるプライマーはか
なり縮退していたために,増幅された生成物を生産することができなかっ
た,②本願発明者らは,ネコGADのラット同等物のゲノム構造又は潜在
的な第2のGAD遺伝子のゲノム構造を知らなかったから,もし,いくつ
かの大きなイントロンがあったなら,PCR生成物の長さは効率的に増幅
できないほどに大きくなるため,否定的な結果をもたらした,③設計され
たプライマーに内在する制限部位が目的とするcDNAに内在していて,
クローニングのために選択した酵素が,想定される第2GAD遺伝子の内
部に存在する特異的な配列を切断してしまえば,想定される第2の遺伝子
は排除されることになる,④引用例1の配列を肯定的に選択する方法はな
かった,⑤1990年代の初期には,単一遺伝子の配列決定はいまだ非常
に困難で費用のかかる仕事であった,と主張する。
上記①については,本願発明の実施例(甲11の図1)のように,引用
例1(甲1)の表2に示された,一致した比較的長い配列から,10アミ
ノ酸残基の部分から8アミノ酸の部分を選び,5アミノ酸残基の部分に3
アミノ酸残基をつなげて8アミノ酸の部分を選んだ場合でも,被告が主張
1111
するとおり,それぞれ,6144個(3×2個)と2048個(2
個)であり,上記(1)ア(イ)記載の「2」個よりも十分小さいから,
13∼14
縮退PCRクローニングの適用が困難なほど縮退が大きいということはな
い。
上記②については,PCR法において,鋳型DNAは,mRNAより合
成したDNA又はcDNAライブラリーより調製したDNAを用いる(上
記(1)ア(ウ))から,イントロンは既に除去されており,イントロンは問
題にならない。また,ネコGADのラット同等物のゲノム構造又は潜在的
な第2のGAD遺伝子のゲノム構造を知らないと,PCR法によってラッ
ト59kDaGAD全体のアミノ酸配列及び対応するcDNAを特定する
ことができないとも認められない。
上記③については,制限酵素認識配列を末端に付加して使用すること
は,PCR法において周知の技術であった(上記(1)ア(イ),イ(エ),ウ(
エ))のであり,クローニングのために選択した酵素が,想定される第2
GAD遺伝子の内部に存在する特異的な配列を切断するのであれば,適宜
他の制限酵素認識配列を試すなどすればよいと考えられるから,この点
も,PCR法を用いることができない理由にはならない。
上記④については,上記(2)の本願明細書(甲11)の実施例記載の方
法は,否定的選択と肯定的選択を組み合わせて用いており,肯定的選択を
用いることができなかったとはいえない。
上記⑤については,本願発明に費用や時間がかかることがあったとして
も,そのことは直ちに本願発明の進歩性を基礎付けるものではない。
ウ原告は,①本願発明者らは,PubMedを用いて期間を区切った文献検索を
行ったところ,「degenerate+primer+PCR+cloning」に関する198
5年から1990年の時間枠でのPubMed検索では,たった4件の論文しか
ヒットせず,「mixed+primer」でPubMed検索をすると,1985年1月
1日から1990年9月21日の時間枠では,26件の論文がヒットした
が,この中には,本願発明者らが採用した方法に関するものは1件もな
い,②クローニングの技術は,1991年付近を境に大きく変わってお
り,1991年以前は,縮退PCR研究は極端に難しかった,③縮退プラ
イマーPCRを用いて遺伝子をクローニングするための詳細なプロトコー
ルは1990年又はそれ以前には無かった,④本願発明者らは,1990
年又はその付近でPCRクローニングにおけるプライマーの縮退に関する
「通常」の程度の定義を見い出すことはできなかった,と主張する。
しかし,本願優先日(1990年[平成2年]9月21日)当時,PC
R法がその応用ないし変性も含めて周知技術であったことは,上記(1)認
定のとおりであって,原告の上記の各主張は,この認定を左右するもので
はない。学術的な意味でのプロトコールや「定義」の存否と特許法におけ
る進歩性の判断とは異なるものである。
エ原告は,上記(1)エ(ア)(イ)の乙10及び11と本願発明1の異なる点
65
について主張するが,上記(2)のとおり,本願発明1において,GAD
(引用例1記載のラット59kDaGAD)のアミノ酸配列及び対応する
cDNAを解析した手法は,一般的に用いられていた周知な方法によった
もので,当業者が容易に想到することができる程度のものであると認めら
れるのであり,乙10及び11と本願発明1の違いは,この認定を左右す
るものではない。
(4)したがって,本願発明1は引用発明1から容易に発明することができたも
のということができる。
5取消事由3(本願発明1及び6の格別の効果の看過)について
(1)引用例2(Dほか「Identificationofthe64Kautoantigenin
insulin-dependentdiabetesastheGABA-synthesizingenzymeglutamic
aciddecarboxylase」Nature,Vol.347,1990.Sep.13,p.151-156,甲2)に
は,次の記載がある。
相対分子量64000(64K)の膵島β細胞自己抗原は,インシュリ

ン依存糖尿病(IDDM)の進行に関係する自己抗体の主要な標的であり,
抑制神経伝達物質であるGABA(γ−アミノ酪酸)の生合成酵素であるグ
ルタミン酸デカルボキシラーゼとして同定された。」(151頁左欄1行∼
8行,訳は審決3頁下12行∼下9行)
「珍しいが深刻な神経疾患であるスティッフマン症候群(SMS)のほと
んどの患者は,GABA分泌ニューロンに対する自己抗体を有している。グ
ルタミン酸からGABAを合成する酵素であるグルタミン酸デカルボキシラ
ーゼ(GAD)は,主な自己抗原である。驚いたことに,GABA分泌ニュ
ーロンに対する自己抗体に陽性であるほとんどすべての患者は,膵島細胞質
抗原にも陽性であることが,膵臓部位の免疫蛍光によって示され,そしてか
なりの割合でIDDMを有している。GADは選択的に中枢神経系のGAB
A分泌ニューロンにおいて発現している。ニューロン以外では,GADは膵
臓β細胞において高いレベルで見つかっている。脳には,少なくとも2つの
GADアイソマーがあり,SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によりそ
れらの移動性に差があることが解析されている。それらの分子量は,59−
66Kであるといわれている。
IDDMは,SMSと頻繁に関連する自己免疫疾患であり,GADと64
K自己抗原の性質のいくつかは似ていることから,我々は,それらは同じタ
ンパク質であると仮定した。ここで,我々は,IDDMの64K自己抗原は
膵臓β細胞におけるGADと同じであることを示す。」(151頁右欄14
行∼152頁左欄8行,訳は審決3頁下7行∼4頁9行)
「我々はまず,ラット脳GADに対する羊の抗血清であるS3血清と,G
AD抗体に陽性なSMS患者からの血清は,ラット膵島からの64K自己抗
原を免疫沈降するかどうか評価した。我々は,部分的に64K抗原に富ん
だ,[35S]メチオニン標識ラット膵島分画を使用した。GAD抗体に陽
性の血清(抗GAD血清)は,IDDM血清によって免疫沈降される64K
α/β自己抗原と同じSDS−PAGEにおける移動性を有する[35S]
メチオニン標識タンパク質のダブレットを免疫沈降した。抗64K血清と抗
GAD血清によって認識されるタンパク質が同じものであるかどうか評価す
るため,抗GAD血清によって免疫沈降の結果生じた上清は,抗64KID
DM血清によって再び沈降させた。同様に,抗64KIDDM血清によっ
て免疫沈降の結果生じた上清を,再び抗GAD血清で沈降させた。その結
果,抗GAD血清と抗64k血清はそれぞれ,定量的に,血清の他のグルー
プによって認識されるタンパク質を除去した。抗GAD血清と抗64K血清
は,完全な交差反応性を示し,64Kタンパク質はラット膵島のGADと同
じタンパク質であることが強く示唆される。」(152頁左欄10行∼右欄
1行,訳は審決4頁11行∼25行)
「抗GAD血清と抗64KIDDM血清は,ラット膵島由来の同じタン
パク質を認識する。」(152頁Fig.1[図1]注釈1行∼2行,訳は審決
4頁下9行∼下8行)
「抗64K抗体は,脳と膵島由来のGADを免疫沈降する。」(153頁
Fig.2[図2]1行,訳は審決4頁下7行)
(2)引用例3(Eほか「64000Mrautoantibodiesaspredictorsof
insulin-dependentdiabetes」THELANCET,Vol.335,1990Jun.,
p.1357-1360,甲3)には,次の記載がある。
「インシュリン依存性糖尿病の進行に関連して,64,000Mr(64
KA)の膵島細胞タンパク質の自己抗体の存在を検査をした。…IDDの臨
床的発症前の75ヶ月の28患者を詳細に調べたところ23人において64
KAは同定された。これらの23人の64KA陽性プレ糖尿病被験者のう
ち,5人はICAに陰性であり,10人はIAAを欠乏している。64KA
は,34才以前に糖尿病になる人々において,最もその前兆となるものであ
る。数人において,64KAは他の自己抗体が出現する前に同定された。こ
れらの発見は,64KAは,早期にそして有益なIDDの予測マーカーであ
るかもしれないことを示唆している。」(1357頁左欄1行∼20行,訳
は審決4頁下4行∼5頁5行)
(3)上記(1)(2)の記載によると,将来,糖尿病を発病する患者は,GADで
ある分子量64Kの膵島β細胞自己抗原又は膵島細胞タンパク質に対する,
自己抗体をもっているということができるから,GADを用意できれば,患
者が自己抗体をもっているかどうかを容易に検査できることは,当業者に自
明である。
引用例1(甲1)には,ネコGADとラットGADについて記載されてい
るものの,ヒトGADについては,記載されていない。したがって,引用例
1から出発してアミノ酸配列及び対応するcDNAが解析されたラットGA
Dが,直ちにヒトの診断に有用かどうかは,必ずしも自明ではない。しか
し,引用例1に記載されたラット59kDaGADも,GAD(グルタミン
酸デカルボキシラーゼ)であることに変わりはないから,引用例1から出発
してアミノ酸配列及び対応するcDNAが解析されたラットGADが,ヒト
のIDDMの診断又は予知に使用できることは,当業者が予測できる範囲の
事項と認められる。また,前記2(2)のとおり,本願明細書(甲11)に
は,本願発明のGADポリペプチドをIDDMの治療に用いることも記載
65
されているが,これについても格別の効果とは認められない。
(4)原告は,GADとGADは,異なる酵素的動力学,細胞内分布を有
6765
しており,特にGADはI型糖尿病における自己免疫応答の主たる標的で
65
ある点でGADとは異なっている,と主張する。
67
前記2(1)ウ(ウ)(エ)のとおり,本願明細書(甲11)においては,GA
DとGADが二つの別個の遺伝子によってコード化されていることを初
6765
676565
めとして,GADとGADの違いについて記載され,最後に,GAD
がIDDMを予測するための診断ツールとして有用性が高いことが述べられ
ている。しかし,GADがIDDMを予測するための診断ツールとして有用
であることは,上記のとおり,引用例2(甲2)及び引用例3(甲3)で述
べられていたのであり,本願明細書(甲11)に記載されている効果をもっ
て顕著な効果ということはできない。
なお,本願出願後の後の検討によって,I型糖尿病患者の自己免疫応答
は,主にGADに向けられていることが確認されたとしても,そのこと
65
は,本願明細書(甲11)には記載されていないから,これを考慮すること
ができない。
(5)したがって,本願発明1に格別な効果があるとは認められない。
6結論
以上のとおり,本願発明1についての原告主張の取消事由はいずれも理由が
ないから,本願発明6について判断するまでもなく,原告の請求は理由がな
い。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官澁谷勝海
(別紙省略)

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