弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人阿河準一の上告理由第一点について。
 借家法の適用のある建物賃貸借については、昭和一六年法律第五六号による同法
の改正により第一条の二が創設され、賃貸借の解約申入につき正当事由の存在を必
要とすることになったので、右改正により、建物賃貸借の解約申入に制限が加えら
れたことは否定できない。しかし期間の定めのない建物賃貸借は、「正当事由」さ
え存在すれば何時でも解約申入によりこれを終了させることができるのであって、
期間の到来まで解約の余地のない長期賃貸借(民法第六〇二条の期間をこえる賃貸
借)とは異なるから、前記借家法の改正後においても、期間の定めのない建物賃貸
借は民法第三九五条の短期賃貸借に該当すると解するのが相当である(大判・昭和
一二年(オ)八五九号、同年七月一〇日判決、民集一六巻一二〇九頁参照)。けだ
し、かく解しても、抵当権の実行により建物を競落した者が賃貸借の解約申入を為
す場合においては、民法第三九五条の短期賃貸借制度の趣旨は、前記「正当事由」
の存在を認定する上において極めて有力な資料とすべきであるから、前記のように
解しても抵当権の不当な犠牲において賃借権を保護することにはならないからであ
る。そして、賃貸借の登記がなくても、賃貸家屋の引渡がなされた以上、右賃貸借
をもって抵当権者(競落人)に対抗しうると解するのが相当であるから(前掲判決
参照)、本件建物賃貸借が民法第三九五条の短期賃貸借にあたるとした原審の判断
は正当である。所論は、独自の見解に立って原判決を非難するに帰し、採用できな
い。
 同第二点について。
 本件建物賃貸借が民法第三九五条の短期賃貸借に該当し、従って、右賃貸借を抵
当権者(競落人)に対抗しうると解する以上、競落人たる上告人は、競落による所
有権移転とともに、右賃貸借の賃貸人たる地位を承継するのであるから、旧賃貸人
に差入れられた敷金に関する法律関係は、旧賃貸人に対する賃料の延滞のないかぎ
り、前記賃貸人たる地位の承継とともに、当然、旧賃貸人から上告人に移転すると
解するのが相当であり、所論のごとく、敷金返還請求権のみ競落人に承継されない
と解するのは正当でない。原判決に所論の違法はなく、所論は、独自の見解に立っ
て原判決を非難するに帰し、採用できない。
 よって、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官奥野健一の意見ある外、
裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 裁判官奥野健一の意見は次のとおりである。
 民法三九五条は、同法六〇二条の期間を超えざる短期の賃貸借に限り、抵当権の
登記後に登記されたものであつても、抵当権者に対抗し得る旨を規定する。そして、
所謂期間の定めのない賃貸借が右の短期の賃貸借に該当するか否かは、一律に断ず
ることはできない。けだし、期間の定めのない賃貸借でも、右六〇二条の期間を超
える場合もあり、然らざる場合もあり得るからである。また、期間の定めのない賃
貸借は当初より右六〇二条の期間を超ゆる期間を定めた賃貸借でないから、所謂長
期の賃貸借に当らないことはいうまでもない。そこで期間の定めのない賃貸借は少
なくとも、右六〇二条の期間の限度においては右三九五条に定める所謂短期の賃貸
借として抵当権者に対抗せしめても、右三九五条の趣旨に反するものとはいえない
から、その範囲において期間の定めのない賃貸借は、右三九五条に定める短期の賃
貸借に当るものと解するのが相当である。若し苟も期間の定めのない賃貸借であれ
ば右六〇二条の期間経過後でもすべて右の所謂短期の賃貸借に該当すると解するこ
とは、結果において民法六〇二条の期間を超える長期の賃貸借を抵当権者に対抗せ
しめることになるから、右三九五条の趣旨に反することになり、不当である。
 本件家屋の賃貸借は、期間の定めのない賃貸借であるが、民法六〇二条の三年の
期間経過前に当事者の合意解除により消滅したというのであるから、本件賃貸借は
抵当権者及び競落人に対抗し得るものというべきである。従って、原審の判断は結
局正当であり、論旨は理由がない。
 なお、昭和三五年(オ)第三四五号、昭和三七年七月二〇日第二小法廷判決(最
高裁判所裁判集民事六一号七一一頁)における私の補足意見を引用する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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