弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人君野順三の控訴趣意は末尾に添附した別紙記載のとおりで、これに対する
当裁判所の判断は、次のとおりである。
 第一点について。原判決挙示の証拠を綜合すれば原判示第一乃至第三の事実を認
定するに充分であつて、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠を精査する
にその間事実の誤認は認められない。而して原判示によれば、被告人はA村議会議
員選挙に際し立候補し、自己の当選を得る目的を以て、B等数名の選挙人に対し三
回に亘り自己のため投票並に投票取纒の選挙運動を依頼しその報酬として一人前約
金百十円乃至百三十六円に相当する飲食の饗応をなしたというのであるから、たと
い、所論の如く、被告人から飲食の饗応を受けたB等数名の選挙人が被告人と親族
の関係にありしかも進んで選挙参謀に加わるべき立場にあつて、右の饗応が被告人
を村議会議員候補者に推薦するための会合或いは情報交換、選挙対策協議のための
集合の席上においてなされたものとしても、いやしくも、議員候補者が自己の当選
を得る目的を以て選挙人に対し自己のため投票並に投票取纏の選挙運動を依頼しそ
の報酬として前示金額程度の飲食の饗応をすることは選挙の公正を害するに至るか
ら、これを単純な社交的儀礼として不問に附することはできない。されば、原判決
が被告人の原判示第一乃至第三の所為に対し公職選挙法第二百二十一条第一項第一
号を適用処断したのは相当であつて、所論のような法令適用の誤は認められない。
論旨は要するに、原判決の採用した証拠の一部を捉えて独自の見解を立て、原判決
が適正になした証拠の取捨判断、事実の認定及び法律判断を徒らに批難するに帰
し、到底採用できない。
 <要旨>第二点の(イ)について。公職選挙法第二百二十一条第一項第五号にいわ
ゆる選挙運動者には議員候補者の為に投票取纒方の依頼を受けた者を包含し
その者において右の依頼を承諾したと否とを問わないと解すべきは同法条の法意殊
に同法条が交付の申込をも処罰していることに徴し疑を容れないところである。と
ころで、原判決は被告人は「C方において選挙運動者たる同人に対し自己のため投
票取纒方を依頼し」と判示しているから、Cが被告人の選挙運動者であることは原
判文上明らかである。論旨は理由がない。
 第二点の(ロ)について。原判決の措辞は簡略に過ぎ、杜撰にそしりを免れない
けれども、原判示第四の事実を挙示の証拠と対照して読めば、原判示選挙に立候補
した被告人は自己の当選を得る目的を以てC方において選挙運動者たる同人に対し
自己のため投票取纒方を依頼し同人に託して他の選挙人数名に供与せしめる意味に
てその投票報酬に充てるべき金五千円を同人に交付した事実を認定判示したもので
あることが認められるから、結局所論のような理由不備の違法はない。論旨は理由
がない。
 よつて、刑事訴訟法第三百九十六条に従い、主文のとおり、判決する。
 (裁判長裁判官 平井林 裁判官 久利馨 裁判官 藤間忠顕)

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