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平成20年8月28日判決言渡
平成19年(行ケ)第10416号審決取消(特許)請求事件
口頭弁論終結日平成20年7月17日
判決
原告三和シヤッター工業株式会社
同訴訟代理人弁理士稲葉滋
被告サンユウテック株式会社
同訴訟代理人弁理士光田敦
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2006−80249号事件について平成19年11月6日にした
審決中「特許第3677615号の請求項1,3,5に係る発明についての特許,
を無効とする」との部分を取り消す。。
第2事案の概要
本件は,原告が「防火シャッター」とする名称の発明について特許権を有して,
いるところ,その請求項1,3及び5に係る発明についての特許を無効とする旨の
審決を受けたことから,その請求人である被告に対し,審決の取消しを求めた事案
である。
争点は,後出の本件特許発明のうち請求項1,3及び5に係る発明が,実願昭5
0−13169号(実開昭51−95245号)のマイクロフィルム(甲2)に記
載された発明(以下,審決を引用する場合を含め「甲2発明」という)及び特開。
平7−328138号公報(甲3)に記載された発明(以下,審決を引用する場合
を含め「甲3発明」という)並びに防火シャッターの技術分野における周知技術。
との関係で進歩性(特許法29条2項)を有するかどうかである。
1特許庁における手続の経緯
三和ホールディングス株式会社(当時の商号三和シヤッター工業株式会社。以下
「三和ホールディングス」という)は,平成10年4月24日,名称を「防火シ。
ャッター」とする発明につき特許出願をし,平成17年5月20日に設定登録を受
(,。「」。)。けた特許第3677615号請求項の数5以下本件特許という甲8
これに対し,平成18年11月29日,被告から本件特許のうち請求項1,2,
3及び5に係る発明につき特許無効の審判請求がされ,同請求は,無効2006−
80249号事件として特許庁に係属した。
三和ホールディングスは,平成19年2月16日付けで訂正(以下「本件訂正」
という)請求をした(甲9。。)
特許庁は,平成19年11月6日「訂正を認める。特許3677615号の請,
求項1,3,5に係る発明についての特許を無効とする。特許3677615号の
請求項2に係る発明についての審判請求は,成り立たない」との審決をし,その。
謄本は,同月16日,三和ホールディングスに送達された。
,,,三和ホールディングスは平成19年10月1日に分割され分割された原告が
,()。本件特許を承継し同年11月27日付けで本件特許の移転登録が行われた甲1
2特許請求の範囲
,(,,本件訂正による訂正後の請求項13及び5以下本件訂正後の請求項につき
「本件請求項1」などという)に係る発明(以下,審決を引用する場合を含め,。
それぞれ「本件訂正発明1」などという)の内容は,次のとおりである。。
【請求項1】
建物開口部上方に収納されたシャッターカーテンが,該開口部の左右両側に立設
したガイドレールに案内されながら下降して該開口部を全閉する防火シャッターに
おいて,該シャッターカーテンは,カーテン上方部を占める金属製スラットとカー
テン下方部を占める耐火シートから構成され,前記カーテン下方部を占める耐火シ
,,ートの上端を前記カーテン上方部を占める金属製スラットの下端に止着してなり
前記ガイドレールには,開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位の溝幅
を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成されてお
り,降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても,耐火シートを
持ち上げることで脱出可能としたことを特徴とする防火シャッター。
【請求項3】
該耐火シートの左右両端部には係止部材を設けると共に,前記開口部全閉時にお
いて該耐火シートに対応する部位を,耐火シートを受け入れる前記幅細部と該係止
部材を受け入れる幅広部とからなる溝部から構成したことを特徴とする請求項1に
記載の防火シャッター。
【請求項5】
耐火シートの下端には可撓性を有する座板を設け,降下するシャッターカーテン
の下方に挟まれた場合に,全座板重量が挟まれた人体に作用しないようにしたこと
を特徴とする請求項1乃至4いずれかに記載の防火シャッター。
3審決の理由
審決の内容は,別紙審決のとおりである。
(1)審決のうち,本件訂正発明1,3及び5を無効とすべきであるとした部分
の理由の要旨は,本件訂正発明1,3及び5は,甲2及び3発明に開示された公知
の技術並びに防火シャッターの技術分野における周知の技術から,いずれも,当業
者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により
特許を受けることができないから無効とすべきものである,というものである。
(2)審決が認定する本件訂正発明1と甲2発明との一致点及び相違点2は,次
のとおりである。
ア一致点
「建物開口部上方に収納されたシャッターカーテンが,該開口部の左右両側に立
設したガイドレールに案内されながら下降して該開口部を全閉する防火シャッター
において,該シャッターカーテンは,カーテン上方部を占める金属製スラットとカ
ーテン下方部を占めるシートから構成され,前記カーテン下方部を占めるシートの
上端を,前記カーテン上方部を占める金属製スラットの下端に止着してなり,前記
ガイドレールには,開口部全閉時において金属製スラットが当接して該シートに対
応する部位への該金属製スラットの下降を阻止するストッパが形成された防火シャ
ッター(20頁4∼11行)」
イ相違点2
「ストッパの構成に関して,本件訂正発明1が『ガイドレールには,開口部全,
閉時において耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製のスラットの厚さよ
りも小さい寸法を有する幅細部が形成され』てなるのに対し,甲2発明は,ガイド
()『』レールシャッターレールの高さの中間に溝の深さの半分位のシャッター止め
を固着してなるものである点(20頁18∼22行)」
第3原告主張の審決取消事由
審決は,以下のとおり,①本件訂正発明1の認定を誤り(取消事由1,②甲3)
発明の認定を誤り(取消事由2,③本件訂正発明1と甲2発明との一致点,相違)
点2の認定を誤り(取消事由3,④同相違点2の判断を誤った(取消事由4)結)
果,本件訂正発明1,3及び5が,甲2及び3発明に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたとの誤った判断をしたものであるから,取り消されるべきであ
る。
1取消事由1(本件訂正発明1の認定の誤り)について
(1)本件請求項1には,次の構成要件AないしDが記載されている(甲9。以
下,この原告の主張に沿って,各部分につき「構成要件A」などという。,。)
(構成要件A)建物開口部上方に収納されたシャッターカーテンが,該開口部の
左右両側に立設したガイドレールに案内されながら下降して該開口部を全閉する防
火シャッターにおいて,
(構成要件B)該シャッターカーテンは,カーテン上方部を占める金属製スラッ
トとカーテン下方部を占める耐火シートから構成され,前記カーテン下方部を占め
る耐火シートの上端を,前記カーテン上方部を占める金属製スラットの下端に止着
してなり,
(構成要件C)前記ガイドレールには,開口部全閉時においてガイドレールの該
耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法
を有する幅細部が形成されており,
(構成要件D)降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても,
耐火シートを持ち上げることで脱出可能としたことを特徴とする防火シャッター。
(2)審決は,本件請求項1のうち「前記ガイドレールには,開口部全閉時にお
いて該耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さ
」(「」。)い寸法を有する幅細部が形成されておりとの記載以下構成要件Cという
「」,「」のうちの溝幅を狭めてを溝部の奥側の幅に対して開口側の幅を狭めたもの
と解釈している。
また,審決は,構成要件Cが,一義的に「ガイドレールには,開口部全閉時にお
いて金属製スラットが当接して該シートに対応する部位への該金属製スラットの下
降を阻止するストッパ(19頁末1行∼20頁2行)であると認定する。」
さらに,審決は「本件訂正発明1の奏する作用効果についてみても,甲2発明,
及び甲3発明に開示された公知の技術並びに防火シャッターの技術分野における周
知の技術から予測可能なものであり,格別なものとはいえない(25頁11∼1。」
4行)と認定判断する。
しかし,以下の(3)ないし(5)のとおり,これらの認定等には誤りがある。
,。(3)構成要件Cはガイドレールの溝幅を高さ方向に異ならしめたものである
ガイドレールの溝幅とはシャッターカーテンの端部に接触して案内する部分ガ,(
イドレールの機能を発揮する部分)の幅である。そして,通常,溝幅は,溝部で最
も幅狭の部分の幅を指すものである。
本発明のシャッターカーテンの上方部位は,金属製スラットから構成されるもの
であるため,ガイドレールにおいて金属製スラットの両端部を案内する部位は金属
製スラットの両端部を受け入れる寸法の溝幅を備えていることが大前提であり,ま
た,金属製スラットの厚さがシートの厚さよりも大きいことは当業者にとって自明
な事項である(甲13の建築工事標準仕様書・同解説,甲14の三和ホールディン
グス作成の重量シャッター技術資料。)
したがって,構成要件Cは「前記ガイドレールには,開口部全閉時においてガ,
イドレールの耐火シートに対応する部位の溝幅を,開口部全閉時においてガイドレ
ールの耐火シートに対応する部位以外の部位(すなわち,金属製スラットに対応す
る部位)の溝幅(すなわち,金属製スラットの両端部を受け入れる寸法の溝幅)か
ら狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成されてお
り」の意味である。
()(「」。)本件訂正請求書甲9に基づく訂正後の明細書以下本件明細書という
の【0011】には「ガイドレール5の耐火シート7(シャッターカーテン下方,
部)に対応する部位には第二ガイドレール部材50が設けてあり,既設のガイドレ
ール5の溝幅を狭めるようにしている」と【0019】には「第二ガイドレー。,,
ル部材50を設けることで既設のガイドレール5の溝幅を,耐火シート7に対応す
るように細幅に改修する工程と各記載されており第二ガイドレール部材50細」,(
幅部を形成する部材である)によって,既設のガイドレール5(鋼製スラット3a
を受け入れる溝幅を備えている)の溝幅を狭めることが記載されている。本件明細
書等(甲8,9)の【図1(以下,挙示の図面については別紙のとおりである。)】
には,既設のガイドレールの断面図が【図2】には,溝幅を狭めた部分のガイド,
レールの断面図が示してある。
したがって,審決において『溝幅を狭めて」を「溝部の奥側の幅に対して開,「,
口側の幅を狭めたもの」と解釈している』点は誤りである。
なお溝部の奥側の幅に対して開口側の幅を狭めたものは本件特許公報甲,「」,(
)。,8の請求項3に規定したガイドレールの構成に近いものである同請求項3には
「ガイドレールの溝部を耐火シートを受け入れる幅細部と該係止部材を受け入れる
幅広部」という記載があるが,これは,溝部内に異なる幅の部分(すなわち,一方
の幅が広く,他方の幅が狭い)があることを意味するものであり,溝幅を狭めてな
る幅細部の奥側に当該幅細部よりも幅が大きい幅広部があるのであって,構成要件
Cの上記解釈と矛盾するものではない。
(4)構成要件Cは,一義的にストッパの構成を限定するものではない。
,,,構成要件Cがストッパとしての機能を有し得ることは認めるが構成要件Cは
ガイドレールの構成を限定するものであって,一義的にストッパの構成を限定する
ものではないのである。
本件訂正発明1において,降下するシャッターカーテンが開口部閉鎖状態で停止
,,する手段については何ら限定されていないのであって一般にシャッターにおいて
開口部全閉時まで降下させたシャッターカーテンをそこで停止させることは大前提
であるところ,停止させる手段としては,周知技術を含む幾つかの技術手段が知ら
れている。これらの技術手段は,本件請求項1のうちの構成要件A(建物開口部「
上方に収納されたシャッターカーテンが,該開口部の左右両側に立設したガイドレ
ールに案内されながら下降して該開口部を全閉する防火シャッターにおいて)の」
記載に内在されているものであって,本件訂正発明1において,構成要件C以外の
手段から構成される停止手段が排除されるものではない。
本件請求項4が「シャッターカーテン自重降下時に,最下位にある金属製スラ,
ットが該幅細部の上端に当接することで金属製スラットからなるカーテン上方部の
荷重をガイドレールが負担するようにした」と記載されているのに対して,構成要
件Cは「シャッターカーテン自重降下時に,最下位にある金属製スラットが該幅,
細部の上端に当接することで金属製スラットからなるカーテン上方部の荷重をガイ
ドレールが負担するようにした」ことまでは限定していない。
また,本件明細書【0011】には,第一の実施の形態に関して「第二ガイド,
レール部材50の上端縁をシャッターカーテン上方部の下端の鋼製スラット3aの
ストッパとして機能させてもよい」と記載されており,必ずしも,第二ガイドレー
ル部材50の上端縁がシャッターカーテン上方部の下端の鋼製スラット3aのスト
ッパとして機能しなくてもよいことが示唆されている。
第一の実施の形態では,鋼製スラットの一部を削除してシートを取り付けるもの
であり,改修後のシャッターカーテンの高さに変化はないので,改修前のシャッタ
ーカーテンの寸法が開口部を閉鎖するだけの寸法に設計されていれば,第二ガイド
レール部材50(細幅部)の上端縁がシャッターカーテン上方部の下端の鋼製スラ
ット3aのストッパとして機能しなくても,シャッターカーテンがさらに下降する
ことはない。例えば,シャッターカーテンが降下しきった状態で,金属製スラット
。,の下端が幅細部の直上に近接するようにシャッターを設計することもできるまた
他の停止手段を採用することも可能であり,このような事項は,本件訂正発明1の
構成要件Aに内在されている。金属製スラットの下端が幅細部の直上に近接した状
態で,停止手段によってシャッターカーテンの降下が停止するような設計も可能で
ある。
本件訂正発明1は,構成要件Cの構成以外の構成からなる停止手段を採用するこ
とを排除するものではなく,構成要件Cが他の主停止手段と併用されたような場合
には,通常の降下時には他の主停止手段によってシャッターカーテンの降下が停止
し,主停止手段が作動しなかったような非常時においてのみ構成要件Cがストッパ
(安全装置)として機能する態様もあり得る。
したがって,審決において「本件訂正発明1の構成要件Cが一義的に『ガイド,
レールには,開口部全閉時において金属製スラットが当接して該シートに対応する
部位への該金属製スラットの下降を阻止するストッパ』であると認定している」点
は誤りである。
(5)本件訂正発明1の奏する作用効果が予測可能でない。
ア本件訂正発明1は,構成要件Cという構成を採用することで「開口部全閉,
時の防煙性能の向上」と「安全性の向上」という二つの作用効果を奏するものであ
る。
構成要件Cを採用することによって,開口部全閉時において耐火シートの幅方向
両端の気密性(防煙性能)を向上させることができる。
この作用効果は,明細書には記載されていないが,開口部全閉時において耐火シ
ートの幅方向両端の気密性(防煙性能)を向上(ガイドレールの溝幅を狭めない場
合と比較して)できることは,構成要件Cから推論できる作用効果である。
本件訂正発明1は,構造物の発明であって,化合物等の発明のように構成からで
はその作用効果が推論できないようなものではなく,本件訂正発明1の構成,明細
書及び図面の記載から当業者が推論できる作用効果を主張しているものである。出
願人の主張する効果が推論できれば,明細書に記載されていなくても進歩性判断に
参酌してよいことは認められている(東京高裁平成9年(行ケ)第198号平成1
0年10月27日判決。)
イさらに,本件訂正発明1は,構成要件Cを採用することで,ストッパとして
(【】,【】,【】)。の機能を持ち得るという作用効果がある001100140016
ストッパとしての機能には二つの意味がある。
,。第1は構成要件Cがシャッターの主停止手段を構成するという作用効果である
例えば,本件発明の第二の実施の形態では「シャッターカーテン3の自重降下,
時には,鋼製スラット3aの下端が第二ガイドレール部材50の上端縁に当接する
ことで,それより下方に降下することがなく,一方,座板40を備えた耐火シート
7は第二ガイドレール部材50によって形成された溝部に案内されながら床面まで
降下する【0016】と記載されている。第二の実施の形態では,既設の鋼製シ。」
ャッターカーテンの下端の座板を取り外してシートを取り付けるものであり【00
15,既設のシャッターカーテンの寸法の大部分を残したまま耐火シートを取り】
付けることから,改修後のシャッターカーテンの寸法が開口部の高さよりも大きく
なるため,第二ガイドレール部材50の上端縁がシャッターカーテン上方部の下端
の鋼製スラット3aのストッパとして機能することで鋼製シャッターカーテンが床
面まで降下してしまうことを防止している。
第2は,本件訂正発明1が構成要件C以外の構成からなる停止手段(例えば,甲
3発明に記載されたようなリミットスイッチや開閉機のブレーキによる停止手段)
を採用した場合に,当該停止手段が何らかの理由で作動しなかったような場合であ
っても,構成要件Cによって,金属製スラットがさらに降下することが防止される
ので,構成要件Cは,第2のストッパ,すなわち安全装置として機能し得るもので
ある。構成要件Cが安全装置として機能することで,他の停止手段を採用した場合
に,万一,停止手段が作動しなかった場合であっても,構成要件Cによって金属製
スラット部の降下を確実に止めることができるのであって「万が一人間が下降す,
るシャッターカーテンと床面との間に挟まれたような場合であっても,自力で脱出
することができるような防火シャッターを提供する」という本件発明の目的におい
て,この作用効果は有用である。構成要件Cが安全装置として機能する点は,本件
明細書には記載されていないが,本件訂正発明1の構成,明細書及び図面の記載,
本件訂正発明1の出願時における技術常識から当業者が推論できる作用効果を主張
しているものである。出願人の主張する効果が推論できれば,明細書に記載されて
いなくても進歩性判断に参酌してよいことは認められている(前掲東京高裁平成1
0年10月27日判決。)
ウガイドレールの溝幅を部分的に狭めたというシンプルな構成を採用すること
で,同時に二つの作用効果(防煙性能の向上,安全性の向上)が得られることは,
甲2発明及び甲3発明に開示された公知の技術並びに防火シャッターの技術分野に
おける周知の技術から予測可能な作用効果ではない。
したがって,審決の「本件訂正発明1の奏する作用効果についてみても,甲2発
明及び甲3発明に開示された公知の技術並びに防火シャッターの技術分野における
周知の技術から予測可能なものであり,格別なものとはいえない」との認定は誤。
りである。
2取消事由2(甲3発明の認定の誤り)について
(1)審決は,甲3発明につき「建物開口部上方の天井部に配設した巻取り軸に,
巻上げ巻戻し自在に巻着した防煙シート3が,その左右の端縁部が該開口部の壁面
の天井7から床面8にかけて設けられたガイドレール5に挿入されてこれに沿って
,,,下降して該開口部を全閉する巻取式可動たれ壁において該防煙シート3は断熱
耐火性を有した巻き取り可能な可撓性シート材料から構成され,前記ガイドレール
5には,開口部全閉時において該防煙シート3に対応する部位の溝幅を狭めて幅細
,,部が形成されており該防煙シート3の左右両端部には係止金具6を設けると共に
前記開口部全閉時において該防煙シート3に対応する部位を,防煙シート3を受け
入れる前記幅細部と該係止金具6を受け入れる幅広部とからなる溝部から構成し
て,防煙シート3が降下するとき或いは火災により生ずる風圧により防煙シート3
が煽られてガイドレール5からの脱離を防止するようにし,さらに,防煙シート3
の下端には座板4を設け,火災側の熱及び煙が非火災側に移動するのを防ぎ安全な
防火並びに防煙区画を確保することができる巻取式可動たれ壁」であると認定した
(19頁4∼17行。)
また,審決は,甲3発明につき「図3をみると『ガイドレール5』の縦方向に,,
『屈曲部5a』を設けたことにより,開口部全閉時の『防煙シート3』に対応する
部位における『ガイドレール5』の溝幅を狭めて『防煙シート3』の左右の端縁部
を受け入れる『幅細部』が形成され,該『幅細部』の奥側に『防煙シート3』の左
右両端部に設けた『係止金具6』を受け入れる『幅広部』が形成されていることは
明らかであるから」とした(18頁33行∼末行。)
さらに,審決は,甲3発明における甲2のストッパに対応する構成については一
切言及していない。
(2)甲3におけるガイドレールに関する記載について
甲3においてガイドレールに言及する記載は「防煙シート3は,断熱,耐火性,
を有した巻き取り可能な可撓性シートで構成され,シートの上部は巻取り軸1に巻
き上げ,巻き戻し自在に取り付けられ,シートの下部には重錘の役目を果たす開口
。,,幅ほぼ一杯の幅を持つ座板4が固着されているまた防煙シートの左右端縁部は
建物の開口部壁面に固定されているガイドレール5の溝に挿入して昇降するように
なっている。なお本防煙シートのガイドレールは,従来の防可動たれ壁用レールと
異なり,天井7から床面8まで設けられている。符号6は防煙シートの座板の上面
両端よりに固定した係止金具を示し,ガイドレールの縦方向に設ける屈曲部5aと
互いに係合しあって,シートが降下するとき或いは火災により生ずる風圧により防
煙シートが煽られてガイドレールから脱離するのを防止する。なお前記脱離防止金
具は図示実施例の位置以外に防煙シートの左右に,所定間隔に取り付けることがで
きる【0013】のみである。。」
(3)甲3発明に,溝幅を狭めたガイドレールが開示されていないこと
ガイドレールの溝幅とはシャッターカーテンの端部に接触して案内する部分ガ,(
イドレールの機能を発揮する部分)の幅である。通常,溝幅は,溝部で最も幅狭の
部分の幅を指すものである。なぜなら,溝部で最も幅狭の部分が,シャッターカー
テンの端部に接触して案内する部分であるからである。典型的なガイドレールの構
成では,溝部の開口側の溝幅がシャッターカーテンの端部に接触する部分であるこ
とから,ガイドレールの溝幅は,溝部の開口側の溝幅を指すのであって,溝部の底
側の寸法を意味するものではない(甲13の建築工事標準仕様書・同解説,甲14
の三和ホールディングス作成の重量シャッター技術資料。)
甲3発明において,ガイドレールの溝幅は,甲3の図3における5a−5a間を
指す。
甲3の図3に示すガイドレールは,開口側の溝幅に比べて奥側が幅広になってい
るありふれた一般的なガイドレール(甲11の「三和シヤッター総合カタログシャ
ッター編'92/9343頁のグリルシャッター用レール129頁のガイドレール露」,〔
出型,甲14の「三和の重量シャッター技術資料」20頁のガイドレール〔グリ〕
ルシャッター用,甲15の「文化シヤッター・シャッター製品カタログ1996」1〕
5頁のガイドレール〔埋込み型,甲16の「鈴木シャッター工業株式会社・重量〕
シャッターカタログ」7頁のガイドレール〔グリル用)を開示するにすぎず,ガ〕
イドレールの溝幅を狭めた点は開示されていない。甲3において,ガイドレールの
溝幅について言及する記載はなく「幅細部」という記載もない。,
甲3は,全体がシートからなるシャッターカーテンを開示するものであって,甲
3発明のガイドレールの溝幅は高さ方向(シャッターカーテンの昇降方向)に一定
であり,甲3発明に,ガイドレールに溝幅を高さ方向に異ならしめるという技術思
想はない。
溝幅を狭めるためには,狭める前の溝幅がなくてはならないところ,甲3には,
「溝幅を狭める」構成は開示されておらず,審決がいう,甲3発明の「前記ガイド
レール5には,開口部全閉時において該防煙シート3に対応する部位の溝幅を狭め
て幅細部が形成されており(19頁8∼10行)との点については記載されてい」
ない。
審決に記載された「防煙シート3を受け入れる前記幅細部と該係止金具6を受け
入れる幅広部とからなる溝部から構成して(19頁12,13行)は,仮にいう」
ならば,本件訂正前の請求項3の構成「溝部を耐火シートを受け入れる幅細部と該
係止部材を受け入れる幅広部とから構成した」に近いものであって,構成要件Cと
は関係がない。
したがって,甲3に「前記ガイドレールには,開口部全閉時において該耐火シー
トに対応する部位の溝幅を狭めて幅細部が形成されている」点が開示されていると
する審決の認定は誤りである。
なお,審決の相違点2の判断において,甲3につき「前記ガイドレールの幅細,
部は,シャッターカーテンの全下降経路である天井から床面にかけて設けられるも
のではあるものの(23頁22,23行)と記載されており,審決では,本件訂」
正発明1における「溝幅を狭めて」の解釈を誤った結果として,甲3発明の認定を
誤っており,甲3発明においてガイドレールの溝幅が高さ方向全体にわたって一定
であることを示唆しているものと解釈できる。
(4)甲3発明における停止手段
審決は,本件訂正発明1と甲2発明との相違点2を,ストッパにおける相違点で
あると位置付けるとともに,この相違点2につき,甲2に甲3を組み合わせること
で容易想到としている。
しかしながら,審決では,甲3発明におけるストッパに対応する構成については
一切言及されていない。
ここで,甲3発明の【請求項1】には「建物の天井部に配設した巻取り軸に防,
煙シートを巻上げ巻戻し自在に巻着し,シート左右の端縁部がガイドレールに挿入
されて該レールに沿って防煙シートを昇降させるようにした巻取式可動たれ壁であ
って,防煙シートは,断熱,耐火性を有した巻き取り可能な可撓性シート材料をも
って形成し,煙感知器または熱感知器の作動信号に基づいて開閉機のブレーキを開
放し,防煙シートを自重で垂直に下降させて建物の開口部を半閉,または全閉ある
いは予め設定された停止位置でシートを停止する操作回路と,該シートの位置を検
出する検出器(リミットスイッチ)と,該検出器の検出信号に基づいて巻取り軸を
制動する開閉機のブレーキとを具備したことを特徴とする巻取式可動たれ壁」が。
,【】,「,記載され0016には図5は本発明の巻取式可動たれ壁の配線図であって
図中20は制御装置,21は通常開閉操作用の巻き上げ,停止,巻き下ろしの3点
押しボタンスイッチである。またLSは上限リミットスイッチ,LS1,LS2,
LS3はシートの停止位置を規定するリミットスイッチであり,防煙シート3がそ
れぞれ図示を省略した煙感知器及び熱感知器からの信号で天井面から50∼80c
mの高さ(半閉位置)h1,または床面から30∼50cmの高さh2(避難用)
に降下したとき及び全閉位置に達したとき,これを検出して電磁ブレーキ10を作
動させて防煙シートの下降を停止する」と記載されている。。
このように,甲3には,シートが全閉位置まで降下した時にリミットスイッチの
検知信号に基づいて巻取シャフトの回転を停止させることでシートの降下を停止さ
せる停止手段が開示されている。
すなわち,甲3は,甲2のストッパに対応する停止手段としては,リミットスイ
ッチからの検知信号に基づいて巻取シャフトの回転を停止させることでシートの降
下を停止させる手段を専ら開示しており,甲3発明のガイドレールには機械的にシ
ートの降下を停止させるストッパは開示されていないのであって,甲3に接した当
業者に対して,甲3発明が,ガイドレールの形状に特徴を持たせることでストッパ
を構成し得るという着想の契機になることはない。
(,)3取消事由3本件訂正発明1と甲2発明との一致点相違点2の認定の誤り
について
(1)審決は,本件訂正発明1と甲2発明との一致点の認定として「甲2発明の,
『シヤツターレール(9)には,その高さの中間に溝の深さの半分位のシヤツター止
め(8)を固着し』と,本件訂正発明1の『ガイドレールには,開口部全閉時におい
て該耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい
寸法を有する幅細部が形成され』とは『ガイドレールには,開口部全閉時におい,
て金属製スラットが当接して該シートに対応する部位への該金属製スラットの下降
を阻止するストッパが形成され』である点で技術的に共通するから・・・前記ガ,
イドレールには,開口部全閉時において金属製スラットが当接して該シートに対応
する部位への該金属製スラットの下降を阻止するストッパが形成された防火シャッ
ター」の点で一致(19頁末から5行∼20頁11行)するとした。」
また,審決は,本件訂正発明1と甲2発明との相違点2の認定として「ストッ,
パの構成に関して,本件訂正発明1が『ガイドレールには,開口部全閉時におい,
て耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸
法を有する幅細部が形成され』てなるのに対し,甲2発明は,ガイドレール(シヤ
ツターレール)の高さの中間に『溝の深さの半分位のシヤツター止め』を固着して
なるものである点(審決20頁18∼22行)とした。」
(2)構成要件Cが一義的にストッパを限定するものではないこと
しかしながら,本件訂正発明1では「ガイドレールには,開口部全閉時におい,
て金属製スラットが当接して該シートに対応する部位への該金属製スラットの下降
を阻止するストッパが形成され」までは記載されていないのであって,構成要件C
がストッパとしての機能を持ち得ることは認めるものの,構成要件Cはガイドレー
ルの構成を限定するものであって,一義的にストッパの構成を限定するものではな
い。
一般に,シャッターにおいて,開口部全閉時まで降下させたシャッターカーテン
をそこで停止させることは大前提であって,停止させる手段としては周知技術を含
む幾つかの技術手段があり,これらの技術手段は,本件訂正発明1に内在されてい
るのであって,本件訂正発明1において他の停止手段(ストッパを含む)が排除さ
れるものではなく,構成要件Cがストッパの構成そのものであると位置付けられる
ものではない。
甲2のシャッター止めがストッパそのものであるのに対して,本件訂正発明1の
構成要件Cは,ガイドレールの構成であり,ストッパとして機能し得るという作用
効果を奏するものであるが,防煙性能の向上といった他の作用効果も奏するもので
あり,さらには,本件訂正発明1は,構成要件C以外の構成からなる停止手段を排
除するものではない。
したがって,構成要件Cは一義的にストッパを限定するものとして,甲2のシャ
ッター止めと対応させた点は誤りである。
(3)構成要件Cがガイドレールの構成であること
構成要件Cは,ガイドレールの構成であって,一義的にストッパの構成を限定す
るものではない。
したがって,相違点2は「本件訂正発明1が『ガイドレールには,開口部全閉,,
時において耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも
小さい寸法を有する幅細部が形成され』てなるのに対し,甲2発明において,ガイ
ドレールの溝幅についての記載は一切ない」と認定するべきであり,審決における
相違点2は誤りである。
4取消事由4(本件訂正発明1と甲2発明との相違点2に係る判断の誤り)に
ついて
(1)審決は,①「甲3発明には・・・少なくとも『建物開口部上方に収納さ,,
れたシャッターカーテンが,該開口部の左右両側に立設したガイドレールに案内さ
れながら下降して該開口部を全閉する防火シャッターにおいて,該シャッターカー
テンは,耐火シートから構成され,前記ガイドレールには,開口部全閉時において
。』該耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて幅細部が形成された防火シャッター
との技術が開示されているものと認められ,これによれば,前記ガイドレールの幅
細部は,シャッターカーテンの全下降経路である天井から床面にかけて設けられる
ものではあるものの,開口部全閉時において耐火シートに対応する部位の溝幅を狭
めて幅細部を形成することが,防火シャッターの技術分野において公知の技術と云
うことができる(23頁14∼26行)とする。。」
また,審決は,②「そして,甲3発明は『防煙シート3を受け入れる前記幅細,
部と該係止金具6を受け入れる幅広部とからなる溝部から構成して,防煙シート3
が降下するとき或いは火災により生ずる風圧により防煙シート3が煽られてガイド
レール5からの脱離を防止するようにし,また『火災側の熱及び煙が非火災側に』,
』,移動するのを防ぎ安全な防火並びに防煙区画を確保することができるものであり
ガイドレールの幅細部の構成により,防煙シートの幅方向両端の気密性(防煙性)
を向上させるものと云うことができる(尚,本件明細書中には,耐火シートの幅方
向両端の気密性(防煙性)を向上させる旨の記載はない)から,甲2発明におけ。
る『シヤツターレール(ガイドレール)の高さの中間に固着した『溝の深さの半』
分位のシヤツター止め(金属製スラットのシートに対応する部位への下降を阻止』
するストッパ)の下方部における構成,即ち,開口部全閉時におけるシートに対応
する部位の構成に,甲3発明に開示された上記公知の技術を適用し,その際に,幅
細部を金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有するものとして形成して,上記
相違点2として摘記した本件訂正発明1の『ガイドレールには,開口部全閉時にお
いて耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい
寸法を有する幅細部が形成され』との構成を想起することは,当業者が格別の技術
的困難性を要することなく容易になしえたものと云わざるをえない(23頁27。」
行∼24頁8行)とする。
(2)しかしながら,上記(1)①につき検討するに,前記2の取消事由2に記載し
たとおり,甲3発明には,ガイドレールの溝幅が高さ方向に一定のありふれたガイ
ドレールが開示されているのであって,ガイドレールの溝幅を高さ方向に部分的に
狭めたという意味における「溝幅を狭めた幅細部」については一切記載されておら
,,「」,「」,「」,ずまた幅細部幅細溝幅を狭めるという記載も一切ないのであって
審決における「前記ガイドレールには,開口部全閉時において該耐火シートに対応
」。する部位の溝幅を狭めて幅細部が形成されたという甲3発明の認定は誤りである
したがって「前記ガイドレールの幅細部は,シャッターカーテンの全下降経路,
である天井から床面にかけて設けられるものではあるものの,開口部全閉時におい
て耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて幅細部を形成することが,防火シャッ
ターの技術分野において公知の技術と云うことができる」という認定は誤りであ。
る。
(3)ア次に,上記(1)②について検討するに,審決は「ガイドレールの幅細部の
構成により,防煙シートの幅方向両端の気密性(防煙性)を向上させるものと云う
ことができるから」とするが,甲3発明には「幅細部」という記載はなく,審決が
意図する幅細部は,奥側の幅に対して開口側の幅が狭いという意味として理解され
るものであり,この構成はガイドレールとしてありふれた構成である。
甲3においては,ガイドレールの溝幅(図3における5a間の間隔)がどの程度
の寸法であるかについては全く記載されておらず,また,どのような場合に比較し
て防煙シートの幅方向両端の気密性(防煙性)を向上させるのかについては,甲3
の記載からは不明である。防煙シートの幅方向両端の気密性(防煙性)の程度は,
溝部の開口側のガイドレールの溝幅(甲3の図3における5a間の間隔)とそこに
受け入れられた防煙シートとのクリアランスによって決定される。例えば,ガイド
レールの溝幅がX㎜のガイドレールにおいて防煙シートの幅方向両端の気密性防,(
煙性)は溝幅X㎜によって決定されるのであって,溝部の奥側の幅がX+20㎜で
あるか,あるいは,X+30㎜であるかは,防煙シートの幅方向両端の気密性(防
煙性)の向上と関係ない。甲3発明につき,ガイドレールの溝部において,開口側
の幅が狭く,奥側の幅が広いという構成は,シャッターカーテン幅方向端部に設け
たフックを係止させる点では有利な構成であるが(甲13の建築工事標準仕様書・
同解説237頁の耐風型,防煙シートの幅方向両端の気密性とは関係ないもので)
ある。
イ上記(1)②について更に検討するに,審決は「甲2発明における『シヤツタ,
ーレール(ガイドレール)の高さの中間に固着した『溝の深さの半分位のシヤツ』
』()ター止め金属製スラットのシートに対応する部位への下降を阻止するストッパ
の下方部における構成,即ち,開口部全閉時におけるシートに対応する部位の構成
に,甲3発明に開示された上記公知の技術を適用し,その際に,幅細部を金属製ス
ラットの厚さよりも小さい寸法を有するものとして形成して,上記相違点2として
摘記した本件訂正発明1の『ガイドレールには,開口部全閉時において耐火シート
に対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅
細部が形成され』との構成を想起することは,当業者が格別の技術的困難性を要す
。」()ることなく容易になしえたものと云わざるをえない23頁36行∼24頁8行
とする。
しかしながら,甲2には,シャッターレール(ガイドレール)についての具体的
な記載は全くなく,甲3発明には,高さ方向全体にわたって溝幅が一定のありふれ
,,たガイドレールが記載されているだけであるから甲2及び甲3に接した当業者が
甲2に記載のシャッターレール(ガイドレール)の一部に,甲3に記載されたあり
ふれたガイドレールを適用するという契機はないものといえる。
甲3においては,ガイドレールの溝幅(図3における5a間の間隔)に言及する
,,記載は一切なく図3にはありふれた形状のガイドレールの断面が記載されており
甲3の2には溝幅が高さ方向に一定のガイドレールが記載されており,甲3発明に
は,ガイドレールの溝幅を高さ方向に部分的に異ならしめるという技術思想は全く
ないのであって「前記ガイドレールには,開口部全閉時において該耐火シートに,
対応する部位(ガイドレールの高さ方向のある部位)の溝幅を狭めて幅細部が形成
された」点は,甲3には一切開示されていない。
甲3発明では,シャッターカーテン全体がシートから構成されており,審決に記
載された「開口部全閉時において該防煙シート3に対応する部位」は,結局は,単
にガイドレール全体を指しているにすぎないのであって,ガイドレールの高さ方向
である選択された部位を意味するものでない。
甲3には「前記ガイドレール5には,開口部全閉時において該防煙シート3に,
対応する部位の溝幅を狭めて幅細部が形成されており」というような記載はなく,
ガイドレール全体を「開口部全閉時において該防煙シート3に対応する部位」とし
てとらえることは,甲3から導かれるものではなく,本件訂正発明1の記載内容を
知った上で,その内容を甲3に求めようとした事後分析である。審決における「即
ち,開口部全閉時におけるシートに対応する部位の構成に,甲3発明に開示された
上記公知の技術(前記ガイドレールには,開口部全閉時において該耐火シートに「
対応する部位の溝幅を狭めて幅細部が形成された防火シャッター」を指していると
解釈できる)を適用し」という解釈は,本件訂正発明1の文言を知った上で相違点
2に係る構成を後から論理付けしようとするものであって,失当である。
甲3には,溝幅が一定のありふれたガイドレールが開示されているにすぎず,甲
3発明には当業者が本件訂正発明1の構成要件Cの契機となる構成は一切なく,甲
2に記載のシャッターレール(ガイドレール)の一部にありふれたガイドレールを
適用するという論理付けがない。
構成要件Cで特定されたような「高さ方向に部分的に溝幅を異ならしめたガイド
レール」は甲2,甲3にも記載されておらず,そのような構成は一般的なガイドレ
ールの構成ではない特殊な構成であって,したがって,甲2,甲3に基づいて,本
件訂正発明1の構成要件Cの「前記ガイドレールには,開口部全閉時においてガイ
ドレールの耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて幅細部が形成されており」の
構成に容易に到達することはできない。
本件訂正発明1の構成要件Cには,さらに「幅細部が金属製スラットの厚さより
も小さい寸法を有する」点が限定されており,甲3において,ガイドレールの溝幅
(図3における5a間の間隔)がどの程度の寸法であるかについては全く記載され
ておらず,ましてや,ガイドレールの溝幅が金属製スラットの厚さよりも小さい寸
法を有する幅細部であるとの記載は一切ないのであって,構成要件C,すなわち,
「開口部全閉時においてガイドレールの耐火シートに対応する部位が金属製スラッ
トの厚さよりも小さい寸法の溝幅からなり(幅細部,開口部全閉時において金属)
製スラットに対応する部位が金属製スラットの厚さよりも大きい寸法の溝幅からな
る」との構成に容易に到達することはできない。
したがって,相違点2に係る構成を,甲3記載のガイドレールに基づいて,本件
訂正発明1に変更,改変することは当業者にとって容易ではない。
ウ本件訂正発明1は,構成要件Cを備えたことによって「開口部全閉時の防,
煙性能の向上」と「安全性の向上」という二つの作用効果を奏するものである。ガ
イドレールの溝幅を部分的に狭めたというシンプルな構成を採用することで,同時
に二つの作用効果が得られることは,甲2発明及び甲3発明に開示された公知の技
術並びに防火シャッターの技術分野における周知の技術から予測可能な作用効果で
はない。
エ仮に,本件訂正発明1の構成要件Cがストッパの構成であると認定されるも
のとしても,相違点2につき,甲3発明を用いて本件訂正発明1に変更,改変する
ことは当業者にとって容易であるとはいえない。
審決は,相違点2につき「ストッパの構成に関して,本件訂正発明1が『ガイ,,
ドレールには,開口部全閉時において耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金
』,属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成されてなるのに対し
甲2発明は,ガイドレール(シヤツターレール)の高さの中間に『溝の深さの半分
位のシヤツター止め』を固着してなるものである点(20頁18∼22行)と認」
定した上,ストッパの構成における相違点2の判断として,相違点2を埋めるため
に甲3発明を用いている。
しかしながら,審決には,ストッパの構成として甲3発明を甲2発明に組み合わ
せるという論理付けが一切されていない。
甲3には,降下するシートの停止手段として,電気的に巻取シャフトの回転を止
めることでシートの降下を停止させる停止手段が専ら開示されており,降下するシ
ートを直接機械的に止めるストッパについては記載されておらず,ましてや,ガイ
ドレールの構成に特徴を持たせてストッパを構成する点については全く開示も示唆
もされていない。
甲3において,係止金具が耐火シート端部の抜け止めとして機能するためには,
ガイドレールの溝内の奥側に係止金具が収まるスペースがあり,溝幅が係止金具が
抜け出ないような寸法を備えていればよいのであって,甲3に開示された「係止金
具によるシート端部の抜け出しを防止するガイドレール」を,甲2において実現し
ようとした時に,甲2のシャッターレール(ガイドレール)をそのまま用いれば十
分である場合もあり得るのであって(甲2にはガイドレールの溝部の具体的な構成
は一切開示されていないが,開口側の溝よりも奥側が広い形状を備えたガイドレー
ルは一般的である,甲2のシャッターレール(ガイドレール)が備えている溝幅。)
を変更することに直ちにつながるものではなく,また,溝幅が金属製スラットの厚
さよりも小さい寸法である必然性もない。
また,たとえ高さ方向に異なる2種類のガイドレールを接続する構造を採用した
,,としても直ちにガイドレールの溝幅が高さ方向で異なる構成となるわけではなく
むしろ,ガイドレールの主たる機能がシャッターカーテンをスムーズに開閉案内す
ることであることを考えれば,高さ方向の全長にわたり同一の溝幅とするのが設計
の通例である。したがって,甲3に開示された「係止金具によるシート端部の抜け
出しを防止するガイドレール」を,甲2において実現しようとした時には,当業者
であれば溝幅を変更するのではなく,溝部の奥側の寸法や形状の設計変更で対応す
るか,あるいは,溝幅全体を設計変更することで対応するものと考えられる。
さらに,甲2発明に,甲3の公知の技術を適用する際にも,スラットを停止する
ストッパを必ず考慮するのであれば,甲2にストッパが開示されているのであるか
ら,単に,甲2のゴムシートに代えて甲3の耐火シートを用いるだけで済むのであ
り,甲3には,ガイドレールの溝幅を変えてストッパとして機能させるという構成
は一切開示されていないのであるから,ガイドレールの構成に特徴を持たせたスト
ッパを用いるという技術思想に容易に到達することはないのである。
(4)したがって,仮に本件訂正発明1の構成要件Cがストッパの構成であると
認定したとしても甲3発明には当業者にとって本件訂正発明1の構成要件Cガ,,「
イドレールの溝幅を高さ方向に異ならしめることでストッパを形成する」の契機と
なる構成は一切ないのであって,相違点2に係る構成を,甲3発明を用いて本件訂
正発明1に変更,改変することは当業者にとって容易であるとはいえない。
5本件訂正発明3及び5について
そして,本件訂正発明3及び5は,本件訂正発明1に従属する請求項に係る発明
であって,本件訂正発明1は,甲2及び3発明に開示された公知の技術並びに防火
シャッターの技術分野における周知の技術から,当業者が容易に発明をすることが
できたものではないのであるから,本件訂正発明3及び5も,甲2及び3発明に開
示された公知の技術並びに防火シャッターの技術分野における周知の技術から,当
業者が容易に発明をすることができたものではない。
第4被告の反論
次のとおり,原告主張の取消事由1ないし4はいずれも理由がない。
1取消事由1(本件訂正発明1の認定の誤り)について
(1)本件明細書等(甲8,9【0011】の「・・・幅細部50aと・・・幅)
広部50bとから構成されており・・・」との記載並びに図2,4及び6には,,
ガイドレールの耐火シートに対応する部位の溝部が幅広部と幅狭部とから構成され
ている点が記載されており,これらの記載を参酌して,審決が,本件訂正発明1に
ついて「ガイドレールには,開口部全閉時において該耐火シートに対応する部位,
の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成さ
れ(19頁36行∼末行)ているとの構成を認定した点には何ら誤りはない。」
原告は,審決につき,ガイドレールの溝幅を高さ方向に異ならしめたものである
ことを認定していない誤りを主張するが,構成要件Cは,ガイドレールの耐火シー
トに対応する部位の溝部の構成を規定するものであるから,その溝部の構成を認定
すればよいのであって,原告の上記主張は理由がない。
(2)また,審決は,本件明細書【0011】の幅細部50aと幅広部50bと
から構成された溝部を形成する「第二ガイドレール部材50の上端縁をシャッター
カーテン上方部の下端の鋼製スラット3aのストッパとして機能させてもよい」と
の記載【0015】の「幅細部50aは鋼製スラット3aの厚さよりも小さい寸,
法を有する」との記載,図2,4及び6などの記載からみて,構成要件Cはスト。
ッパとして機能する構成であることを認めた上で甲2発明との共通点としてガ,,「
イドレールには,開口部全閉時において金属製スラットが当接して該シートに対応
する部位への該金属製スラットの下降を阻止するストッパが形成され(19頁末」
行∼20頁2行)である点で技術的に共通するとしているのであって,構成要件C
はガイドレールの構成を限定するものではないという認定をしていないし,また,
一義的にストッパの構成を限定するとか,構成要件Cがストッパそのものであると
いう認定はしていない。
そして,原告においても,構成要件Cによるストッパの作用効果を強調し,本件
訂正発明1の作用効果が予測可能ではない論拠としているとおり,構成要件Cはス
トッパとして機能する構成は明らかであり,構成要件Cの有するストッパとしての
機能は本件訂正発明1において極めて重要である。
(3)原告は,本件訂正発明1は,構成要件Cの構成以外の構成からなる停止手
段を採用することを排除するものではなく,構成要件Cが他の主停止手段と併用さ
れたような場合には,通常の降下時には他の主停止手段によってシャッターカーテ
ンの降下が停止し,主停止手段が作動しなかったような非常時においてのみ構成要
件Cがストッパ(安全装置)として機能する態様もあり得る,と主張する。
しかしながら,本件訂正発明1の構成要件又は本件明細書中に,構成要件Cがス
トッパとしての機能を有する構成であることを明らかに排除しているという記載が
あるならばともかくとして,そのような記載はなく,むしろ,本件明細書【001
1】には,構成要件Cに相当する構成がストッパとしての機能を有する構成である
ことが明記されているのであるから,構成要件Cは,ストッパとしての機能を有す
る構成であることは明らかである。
また,原告が主張する「主停止手段が作動しなかったような非常時においてのみ
()。」,構成要件Cがストッパ安全装置として機能する態様もあり得るとの態様は
,,本件明細書には全く記載されておらず仮に手続補正書で明細書に加えるとすると
明らかに新規事項に相当し,補正が認められない内容である。したがって,原告の
上記主張は,本件訂正発明1及び本件明細書に基づかない主張であるといえる。
さらに,仮に,原告が主張するような上記態様があり,構成要件Cが非常時のみ
ストッパとして機能するとしても,本件訂正発明1の特徴である開口部密閉時に金
属製スラットを停止させ人間に当たらないようにしたり,自力で脱出できるように
するなどの安全目的を達成するために,構成要件Cはストッパとしての機能を有す
ることが明らかである。
(4)本件訂正発明1の作用効果について
ア原告は,構成要件Cという構成を採用することで「開口部全閉時の防煙性,
能の向上」の作用効果を奏するものであると主張する。
しかし,原告も「この作用効果は明細書には記載されていない」と主張するとお
りであり,本件明細書には,構成要件Cの構成により何故,耐火シートの幅方向両
端の気密性(防煙性能)の作用効果が向上するのか等の関係は記載されておらず,
まして,構成要件Cによる気密性(防煙性能)について,格別顕著な特有の作用効
果が生じるなどの記載もない。
一方,甲3の【0007【0013【0020】などには,防火,防煙につ】,】,
いての構成,作用効果の記載があるから,ガイドレールの幅細部の構成により,防
煙シートの幅方向両端の気密性(防煙性)を向上させるものということができる。
そうすると,原告が主張するような推論できる程度の気密性(防煙性)の向上と
いう程度の気密性(防煙性)においては,甲3発明の作用効果と同等である。
したがって,気密性(防煙性)についてみれば,甲2に,幅狭部を有するガイド
レールを備えた甲3発明を適用すれば,予測可能であり,本件訂正発明1の作用効
果は格別なものとはいえないという,審決の作用効果についての判断には,何らの
誤りはない。
イ原告は,構成要件Cを採用することで,ストッパとしての機能を持ち得ると
いう作用効果があり,このストッパとしての機能には,①シャッターの主停止手段
を構成するということと,②構成要件C以外の構成からなる停止手段を採用した場
合に,当該停止手段が作動しなかったような場合に第2のストッパ(安全装置)と
して機能し得るものであると主張する。
しかし,審決は,構成要件Cがストッパとしての機能を有する構成であるから,
その構成において甲2発明と共通しているという認定をしているものであって,原
,。告主張の上記二つの意味があったとしても何ら審決を覆すに足りるものではない
さらに,上記②の第2のストッパ(安全装置)として機能し得るという構成につ
いては,本件明細書のどこにも記載されていない。すなわち,原告主張の構成要件
C以外の構成からなる主停止手段(リミットスイッチや開閉機ブレーキ)などは,
どこにも記載されていない。また,構成要件C以外の構成からなる停止手段が機能
しないときに,構成要件Cが安全装置として機能するという主停止手段と安全装置
(第2のストッパ)としての停止手段を組み合わせた構成等も本件明細書には一切
記載されていない。
さらにまた,構成要件Cが,主停止手段に対して安全装置(第2のストッパ)と
して機能する点が,出願時の技術常識から当業者が推論できる程度のものというの
であれば,金属製スラットを床面上方で停止する主停止手段の構成自体が当業者の
技術常識であることを前提とすることとなり,本件訂正発明1は,それ自体は当業
者の技術常識の範囲内のものとなり,新規性がなく,少なくとも進歩性がないもの
ということになる。
2取消事由2(甲3発明の認定の誤り)について
甲3の【0013】及び図3には,防煙シートのガイドレール5に,防煙シート
の係止金具と係合する屈曲部5aが設けられ,火災により生ずる風圧により防煙シ
ートが煽られてガイドレールから脱離することを防止する構成が開示されており,
この構成から甲3には防煙シート3の左右の端縁部を受け入れてガイドする幅,,「
細部」に相当する構成と,防煙シート3の左右両端部に設けた係止金具6を受け入
れる幅広部に相当する構成が開示されているから審決が甲3についてそ「」,,,「
して『符号6は防煙シートの座板の上面両端よりに固定した係止金具を示し,ガイ
ドレールの縦方向に設ける屈曲部5aと互いに係合しあって,シートが降下すると
き或いは火災により生ずる風圧により防煙シートが煽られてガイドレールから脱離
するのを防止する。なお前記脱離防止金具は図示実施例の位置以外に防煙シートの
左右に,所定間隔に取り付けることができる(記載事項(e)との記載を参照。』)
しつつ,図3をみると「ガイドレール5」の縦方向に「屈曲部5a」を設けたこ,
とにより,開口部全閉時の『防煙シート3』に対応する部位における『ガイドレー
ル5』の溝幅を狭めて『防煙シート3』の左右の端縁部を受け入れる『幅細部』が
形成され,該『幅細部』の奥側に『防煙シート3』の左右両端部に設けた『係止金
具6』を受け入れる『幅広部』が形成されていることは明らかであるから(18」
頁28行∼末行,と認定した点に誤りはない。そして,審決は,このような認定)
の上で,甲3につき「前記ガイドレール5には,開口部全閉時において該耐火シ,
ート3に対応する部位の溝幅を狭めて幅細部が形成されており(19頁8∼10」
行)と認定したものである。
また,甲3発明がストッパを構成し得る着想の契機となるか否かは,甲3に記載
されている幅細部を備えたガイドレールを甲2に適用することで,ストッパの構成
は容易に想到できるという容易性の判断の要素であり,甲3の記載事実の認定の誤
りとは関係ないことであって,審決の認定には,誤りはない。
したがって,取消事由2は理由がない。
(,)3取消事由3本件訂正発明1と甲2発明との一致点相違点2の認定の誤り
について
(1)審決は,本件明細書【0011】などの記載並びに図2,4及び6などの
記載を参酌して,構成要件Cはストッパとしての機能を有する構成であることを認
めているのであり,構成要件Cが,ガイドレールの構成ではないとか,防煙性能の
向上などの作用がないとか,一義的にストッパの構成を限定する(構成要件Cはス
トッパそのものとする)との認定はしていない。。
そして,本件訂正発明1と甲2発明の対比において,上部の金属製のスラットと
下部の防火シートとからなる防火シャッターにおいて,金属製のスラットの降下を
停止するストッパを設けた構成で一致するから,審決の「シャッターカーテンは,
カーテン上方部を占める金属製スラットとカーテン下方部を占めるシートから構成
され,前記カーテン下方部を占めるシートの上端を,前記カーテン上方部を占める
金属製スラットの下端に止着してなり,前記ガイドレールには,開口部全閉時にお
いて金属製スラットが当接して該シートに対応する部位への該金属製スラットの下
降を阻止するストッパが形成された防火シャッター(20頁6∼11行)で一致」
するとした一致点の認定に誤りはない。
(2)また,審決は,①本件訂正発明1の構成要件Cがストッパとして機能する
構成であることから「ガイドレールには,開口部全閉時において金属製スラット,
が当接して該シートに対応する部位への該金属製スラットの下降を阻止するストッ
パが形成され(20頁9∼11行)を甲2発明との一致点とし,②「本件訂正発」
明1が『ガイドレールには,開口部全閉時において耐火シートに対応する部位の,
溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成され』
てなるのに対し,甲2発明は,ガイドレール(シャッターレール)の高さの中間に
『溝の深さの半分位のシャッター止め』を固着してなるものである点(20頁1」
8∼22行)を,相違点2と認定したのであり,この審決の認定に誤りはない。
(3)したがって,取消事由3は理由がない。
4取消事由4(本件訂正発明1と甲2発明との相違点2に係る判断の誤り)に
ついて
(1)審決は,本件訂正発明1と甲2発明とを対比し,上記3のとおり,一致点
及び相違点2を認定した上で,この相違点2は,甲2発明に甲3記載の公知の技術
を適用することで当業者が格別の技術的困難性を要することなく容易になし得たも
のといえるとした。
(2)審決における相違点2の判断は,次のとおり,その論理付けの過程で何ら
の誤りもない。
すなわち,審決は,甲3について「前記ガイドレールには,開口部全閉時にお,
いて該耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて幅細部が形成された防火シャッタ
」(),,ー22頁9∼11行との技術が開示されているとしたがこの審決の認定は
上記2で述べたとおり誤りがない。
そこで,審決は「開口部全閉時において耐火シートに対応する部位の溝幅を狭,
めて幅細部を形成することが,防火シャッターの技術分野において公知の技術と云
うことができる(23頁23∼26行)としたのである。。」
,【】,【】,,,そして甲3の00070013などには防火防煙についての構成
作用効果の記載があるから,審決は「ガイドレールの幅細部の構成により,防煙,
シートの幅方向両端の気密性防煙性を向上させるものと云うことができる2()」(
3頁32∼33行)としたもので,この審決の認定に誤りはない。
ところで,甲2発明も,防火,防煙を目的とするものであるから,甲3発明は,
甲2発明と,技術分野において,また防火,防煙という目的において共通である。
したがって,当業者が甲2発明におけるシャッター止めの下方部における開口部
全閉時におけるシートに対応する部位の構成に,甲3発明に開示された上記公知の
技術を適用する動機付けは十分ある。
その際,甲2発明は,シャッター降下の際に,ストッパであるシャッター止め部
で上部のスチールシャッター(金属製スラット)を停止させ,下部のシートに挟ま
れても安全であるという特徴を有するものであるから,その特徴を生かすために,
金属製スラットを停止させるストッパを設けることを考慮することは当然である。
ところで,甲3記載のガイドレールには,防煙シートが煽られても係止金具が抜
けないように,しかも,金属スラットより厚さの薄いシートの両端部に接触するよ
うにしてガイドする間隔の幅細部が設けられていることが明らかであり,この幅細
,,,部の幅は防煙シートの端部に接触して防煙シートを案内する部分の幅すなわち
防煙シートの端部に接触して案内する程度の幅である。
そして,金属製スラットの厚さ(金属板の板厚ではなく,上下の金属製スラット
が連結される部分など含めたスラットの奥行きの寸法。甲11の「三和シヤッター
総合カタログシャッター編'92/93」129頁のB6K形の表,甲13の建築工事標
準仕様書・同解説53頁表5.7では「高さ」と称している)が防煙シートの厚さ,。
より大きいことは,当業者にとって自明な事項である。
このような当業者にとって自明な事項からすると,金属製スラットの厚さより,
甲3記載のガイドレールに形成された防煙シートを案内する細幅部の寸法が小さい
とみるのが自然であり,仮にそうでないとしても,金属製スラットの厚さより細幅
部を小さい寸法を有するように形成することは当業者に容易に想起し得るところで
ある。
したがって,甲2発明における開口部全閉時におけるシートに対応する部位の構
成に,甲3発明に開示された上記公知の技術を適用するに際し,ガイドレールのシ
ートを案内する幅細部が,金属製スラットの厚さより小さい寸法を有するように形
成し,金属製スラットの降下が停止されるストッパとして機能させることは,当業
者であれば容易に想到できたことといえる。
(3)以上によれば,相違点2につき,審決が「甲2発明における『シャッター,
レール(ガイドレール)の高さの中間に固着した『溝の深さの半分位のシャッタ』
ー止め(金属製スラットのシートに対応する部位への下降を阻止するストッパ)』
の下方部における構成,即ち,開口部全閉時におけるシートに対応する部位の構成
に,甲3発明に開示された上記公知の技術を適用し,その際に,幅細部を金属製ス
ラットの厚さよりも小さい寸法を有するものとして形成して,上記相違点2として
摘記した本件訂正発明1の『ガイドレールには,開口部全閉時において耐火シート
に対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅
細部が形成され』との構成を想起することは,当業者が格別の技術的困難性を要す
ることなく容易になしえたものと云わざるをえない(23頁36行∼24頁8。」
行,とした判断には何ら誤りはない。)
5本件訂正発明3及び5について
そして,本件訂正発明1は,甲2発明及び3発明に開示された公知の技術並びに
防火シャッターの技術分野における周知の技術から当業者が容易に発明をすること
ができるものであるから,本件訂正発明1に従属する請求項に係る発明である本件
訂正発明3及び5も,甲2及び甲3発明に開示された公知の技術並びに防火シャッ
ターの技術分野における周知の技術から,当業者が容易に発明をすることができた
ものといえる。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(本件訂正発明1の認定の誤り)について
(1)審決が,本件請求項1の構成要件C(前記ガイドレールには,開口部全閉「
時において該耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さより
も小さい寸法を有する幅細部が形成されており」との記載)のうちの「溝幅を狭め
て」を「溝部の奥側の幅に対して開口側の幅を狭めたもの」と解釈したことの誤,
りをいう主張について
ア原告は,審決の上記解釈の誤りをいい,構成要件Cは「前記ガイドレール,
には,開口部全閉時においてガイドレールの耐火シートに対応する部位の溝幅を,
開口部全閉時においてガイドレールの耐火シートに対応する部位以外の部位(すな
わち,金属製スラットに対応する部位)の溝幅(すなわち,金属製スラットの両端
部を受け入れる寸法の溝幅)から狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を
有する幅細部が形成されており」の意味であると主張する(なお,下線部は,請求
項1における構成要件Cに係る部分に明記されていないものである。。)
イそこで,以下検討する。
(ア)構成要件Cの「幅細部」の意味については,請求項1に規定されていない
が,本件明細書(甲9)には,次の記載がある。
「0010】図2,図3は本発明の第一の実施の形態に係り,図2は本発明に【
係る(改修後の)シャッターの概略側面図およびガイドレールの断面図を示してい
る。シャッターカーテン30は,その上方部が鋼製スラット3aから構成されてい
ると共に,その下方部は耐火シート7から構成されており,耐火シート7の下端に
は座板40が設けてある。耐火シート7の上端は,シャッターカーテン幅方向に延
出するフラットバー8を介して,シャッターカーテン上方部の下端の鋼製スラット
3aに止着されている。フラットバー8はスラット3aの凹部内(見込内)に配設
してあり,フラットバー8の長さ方向両端が良好にガイドレール5内にまで延出で
きるようになっている」。
「0011】耐火シート3からなるシャッターカーテン下方部の幅方向左右両【
端には上下方向に所望間隔を存して複数の係止部材9が設けてある。ガイドレール
5の耐火シート7(シャッターカーテン下方部)に対応する部位には第二ガイドレ
,。ール部材50が設けてあり既設のガイドレール5の溝幅を狭めるようにしている
第二ガイドレール部材50によって形成される溝部は,耐火シート7を受け入れる
幅細部50aと係止部材9を受け入れる幅広部50bとから構成されており,係止
部材9を幅細部50aより大きな寸法に形成することで,耐火シート7の抜けを防
止してる。また,第二ガイドレール部材50の上端縁をシャッターカーテン上方部
の下端の鋼製スラット3aのストッパとして機能させてもよい」。
「0014】図4は本発明の第二の実施の形態に係り,改修作業は,▲1▼既【
設の鋼製スラット3aからなるシャッターカーテン3の下端の座板4を取り外す工
程,▲2▼既設のガイドレール5に対してストッパを兼ねる第二ガイドレール部材
50を取り付ける工程,▲3▼座板40を備えてなる耐火シート7を鋼製スラット
3aからなるシャッターカーテン3の下端に締結する工程とからなる」。
「0015】図4に示すものが第一の実施の形態と大きく異なる点は,座板4【
を取り外すだけで,既設のシャッターカーテン3をそのまま利用するという点にあ
る。第二ガイドレール部材50は,開口部下端から所定高さH(例えば1m)まで
に延出するように設けられ,その基本的な構成は第一の実施の形態と同様である。
第二ガイドレール部材50によって既存のガイドレール5内に形成される幅細部5
0aは鋼製スラット3aの厚さよりも小さい寸法を有する。また,耐火シート7は
所定高さHに対応する上下寸法を有する」。
「0016】したがって,シャッターカーテン3の自重降下時には,鋼製スラッ【
ト3aの下端が第二ガイドレール部材50の上端縁に当接することで,それより下
方に降下することがなく,一方,座板40を備えた耐火シート7は第二ガイドレー
ル部材50によって形成された溝部に案内されながら床面まで降下する。自重降下
時の鋼製スラット3aによる荷重は第二ガイドレール部材50が支えるため,万が
一人間が降下するシャッターカーテンの下方に挟まれた場合であっても,座板重量
の負担だけで済むので,自力で脱出することができる・・・」。
「0019】図6は本発明の第四の実施の形態に係り,改修作業は・・・▲3【,
▼第二ガイドレール部材50を設けることで既設のガイドレール5の溝幅を,耐火
シート7に対応するように細幅に改修する工程(c)とからなる」。
「0020】鋼製スラット3aと耐火シート7との締結手段,改修後のガイド【
レールの構成,耐火シート7の抜け止め手段については第一の実施の形態のものと
同様である。このものでは,実質的にシート状の防火シャッターとなるので,第一
の実施の形態と同様に,シャッターカーテンが吊られた状態となる。したがって,
,,万が一人間がシャッターカーテンの下に挟まれても座板の重量のみの負荷で済み
自力で脱出が可能であり,脱出後も防火性能は確保される」。
(イ)そして,上記【0011】によれば「ガイドレール5の耐火シート7(シ,
ャッターカーテン下方部)に対応する部位には第二ガイドレール部材50が設けて
あり,既設のガイドレール5の溝幅を狭めるようにしている。第二ガイドレール部
材50によって形成される溝部は,耐火シート7を受け入れる幅細部50aと係止
部材9を受け入れる幅広部50bとから構成され」ると,また,上記【0015】
によれば「第二ガイドレール部材50によって既存のガイドレール5内に形成さ,
れる幅細部50aは鋼製スラット3aの厚さよりも小さい寸法を有する」と記載さ
れており,これらによれば,構成要件Cの「幅細部」とは,ガイドレールの断面を
見たときに,既設のガイドレール5に第二ガイドレール部材50を設置することに
よって,相対的に幅が広くなっている溝部の奥側の部分と狭くなっている溝部の開
口側の部分が存在することになることを前提に,単に,その幅が狭くなっている部
分を指していると認めることができる。
(ウ)そうすると,構成要件Cの「溝幅を狭めて」とは,まさに溝部の幅広部で
ある奥側の幅に対して幅細部である開口部の幅を狭めたことをいうことになるか
ら,構成要件Cにつき,同様の解釈をした審決に誤りはなく,原告の上記主張は採
用できない。
なお,原告は,構成要件Cは,ガイドレールの溝幅を高さ方向に異ならしめるこ
とをいうものであって,溝部の奥側の幅に対して開口側の幅を狭めたものをいうも
のではないと主張する。しかしながら,上記のとおり,本件請求項1及び本件明細
書にその旨の記載があるとは認められない上に,原告の主張によれば,ガイドレー
ルの断面を見たときに,ガイドレールの幅が溝深さ方向に変化のないものも含まれ
ることになり,上記のとおりの幅細部に対する幅広部が存在するという本件明細書
の記載が考慮されないことになり,本件明細書の記載と符合しないから,採用する
ことができない。
(2)審決が,構成要件Cが一義的に「ガイドレールには,開口部全閉時におい
て金属製スラットが当接して該シートに対応する部位への該金属製スラットの下降
を阻止するストッパ」であると認定したことの誤りをいう主張について
ア原告は,構成要件Cがストッパとしての機能を有し得ることは認めるが,構
成要件Cはガイドレールの構成を限定するものであって,一義的にストッパの構成
を限定するものではなく,本件訂正発明1において構成要件C以外の手段から構成
される停止手段が排除されるものではないと主張する。
イところで,仮に構成要件Cのガイドレールに形成される幅細部が一義的にス
トッパの構成を限定するものではないとしても,同幅細部がストッパの機能を有す
ることは原告も認めるところである。
そして,甲2発明は「建物開口部上方に配された天袋(1)に巻取りして昇下降す,
るよう設けられたシャッターカーテンが,該開口部の左右両側に立設したシヤツタ
ーレール(9)に案内されながら下降して該開口部を全閉する防煙を主とした防火シ
ヤツターにおいて・・・前記シヤツターレール(9)には,その高さの中間に溝の深,
さの半分位のシヤツター止め(8)を固着し,ゴムシート(3)及びシヤツター枠(7)か
らなるゴムシート部の高さを足面からシヤツター止め(8)上面の高さより若干短め
になし,ゴムシート部のシヤツター巾をシヤツターレール(9)のシヤツター止め(8)
で浅くした巾に合わせたものとし,開口部全閉時において,ゴムシート(3)の上端
はシヤツター止め(8)で止まった接続枠(6)によりその位置よりも下降せず(審決」
18頁9∼21行)というものであり(原告も争わない事実,甲2発明における)
「シャッター止め(8)」はストッパの機能を有するものである。
そうすると,甲2発明の「シャッター止め(8)」と構成要件Cのガイドレールに
形成される幅細部とが,ともにストッパ機能を有していることを前提に,審決が,
「甲2発明の『シヤツターレール(9)には,その高さの中間に溝の深さの半分位の
シヤツター止め(8)を固着し』と,本件訂正発明1の『ガイドレールには,開口部
全閉時において該耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製スラットの厚さ
よりも小さい寸法を有する幅細部が形成され』とは『ガイドレールには,開口部,
全閉時において金属製スラットが当接して該シートに対応する部位への該金属製ス
ラットの下降を阻止するストッパが形成され』である点で技術的に共通するから,
両者は『・・・前記ガイドレールには,開口部全閉時において金属製スラットが,
当接して該シートに対応する部位への該金属製スラットの下降を阻止するストッパ
が形成された防火シャッター」の点で一致(19頁34行∼20頁11行)する。」
と認定したことに誤りはない。
ウそうすると,本件訂正発明1と甲2発明との一致点の認定に誤りがあるとの
原告の主張は採用することができない。
(3)審決が「本件訂正発明1の奏する作用効果についてみても,甲2発明及び,
甲3発明に開示された公知の技術並びに防火シャッターの技術分野における周知の
技術から予測可能なものであり,格別なものとはいえない」と認定判断すること。
の誤りをいう主張について
ア開口部全閉時における耐火シートの幅方向両端の気密性(防煙性能)の向上
について
(ア)開口部全閉時において耐火シートの幅方向両端の気密性を向上させること
ができることについては本件請求項1に規定されておらずまた本件明細書甲,,,(
9)にも記載されていない。原告は,本件明細書にその記載がないことを認めた上
で,これは,構成要件Cから推論できる作用効果であると主張する。
(イ)そこで検討するに,確かに,技術常識として,開口部全閉時の耐火シート
の幅方向両端において,ガイドレールの溝幅を狭めない場合と比較して,ガイドレ
ールの溝幅を狭めるような構成を採れば,通気が阻止されることになり,その気密
性(防煙性能)が向上することが期待できるということができる。そして,そのよ
,,,うな構成とはシートと溝壁との間隙をより小さくするような構成部分すなわち
ガイドレールの「幅細部」がそれに相当するものということができる。
一方,甲3の明細書によれば「0007】本発明は・・・その目的とすると,【,
ころは,室内で火災が発生した場合に室内の煙感知器の作動に連動して可動たれ壁
が天井面から下方に突出して,煙が他の隣接区域に移動ないし拡散するのを一時的
にストップさせ,かつまた室内所要部の周辺温度が上昇した場合は,熱感知器の作
動に連動してその可動たれ壁を床面に近接するまで降下して,火災側の熱及び煙が
非火災側に移動するのを防ぎ,安全な防火並びに防煙区画を確保することができる
巻取式可動たれ壁を提供するものである「0013・・・符号6は防煙シー。」,【】
トの座板の上面両端よりに固定した係止金具を示し,ガイドレールの縦方向に設け
る屈曲部5aと互いに係合しあって,シートが降下するとき或いは火災により生ず
る風圧により防煙シートが煽られてガイドレールから脱離するのを防止する・・。
・「0020【発明の効果】本発明たる防煙たれ壁は,火災時の火熱に耐える」,【】
耐火構造になっているうえ,火災時に床面に近接するまで降下するので,火災側の
熱及び煙が非火災側に移動するのを防ぐことができる。すなわち建物内で火災が発
生した場合に室内の煙感知器の作動に連動して可動たれ壁が天井面から下方に突出
して,煙が他の隣接区域に移動ないし拡散するのを一時的にストップさせ,かつま
た室内所要部の周辺温度が上昇した場合は,熱感知器の作動に連動してその可動た
れ壁を床面に近接するまで降下して,火災側の熱及び煙が非火災側に移動するのを
防ぎ,安全な防火並びに防煙区画を確保することができる・・・」と記載されて。
いる。また,甲3の【図3】において別紙のとおり「幅細部」の構造がみられる。
したがって,甲3発明において,開口部全閉時(可動たれ壁を床面に近接するまで
降下させたとき)における「幅細部」の構造による作用効果として,耐火シートの
幅方向両端の気密性(防煙性能)を向上させることが想定されているということが
できる。
(ウ)そうすると,本件訂正発明1における開口部全閉時において耐火シートの
幅方向両端の気密性を向上させることができるとの作用効果は,甲3でも想定され
ているものであり,格別なものとはいえないとした審決の判断に誤りはない。
イストッパとしての機能を持ち得るという作用効果について
(ア)原告は,本件訂正発明1が構成要件Cを採用することで,ストッパ機能と
して二つの意味を有すると主張する。
しかし,原告主張のストッパ機能のうちの安全装置としての機能(本件訂正発明
1が構成要件C以外の構成からなる停止手段を採用した場合に,当該停止手段が何
らかの理由で作動しなかったような場合であっても,構成要件Cによって金属製ス
ラットがさらに降下することが防止されること)については,本件訂正発明1にも
本件明細書にも,構成要件C以外の構成から成るリミットスイッチや開閉式ブレー
キなどの主停止手段は何ら記載されておらず,また,構成要件C以外の構成からな
る停止手段が機能しないときに,構成要件Cが安全装置として機能するという組合
せの構成も何ら記載されていないものであって,上記機能を本件訂正発明1の作用
効果として考慮することはできない。
(イ)なお,原告は,構成要件Cが安全装置として機能する点は本件明細書には
記載されていないが,本件訂正発明1の構成,明細書及び図面の記載,本件訂正発
明1の出願時における技術常識から当業者が推論できる作用効果であると主張す
る。しかしながら,仮に,本件訂正発明1や本件明細書に記載がないにもかかわら
ず,出願時における技術常識から当業者が推論できるものであったとするならば,
甲2発明においてシャッター止め(8)以外の停止手段を採用することも当時の技術
常識であったといえることになり,その場合,同シャッター止め(8)もまた他の停
止手段が何らかの理由で作動しなかった際の安全装置として機能するものといえる
ことになり,結局,原告が主張する安全装置としての作用効果は,甲2から予測し
得る範囲内のものといわざるを得ないことになるから,いずれにしても,原告の上
記主張は失当である。
2取消事由2(甲3発明の認定の誤り)について
(1)原告は,取消事由2として,審決が,本件訂正発明1と甲2発明との相違
点2をストッパにおける相違点であると位置付け,この相違点2につき,甲2に甲
3を組み合わせることで容易想到であるとするが,甲3には,シートが全閉位置ま
で降下した時にリミットスイッチの検知信号に基づいて巻取シャフトの回転を停止
させることでシートの降下を停止させる手段が専ら開示されており,甲3発明のガ
イドレールには機械的にシートの降下を停止させるストッパは開示されていないか
ら,甲3に接した当業者に対して,甲3発明がガイドレールの形状に特徴を持たせ
ることでストッパを構成し得るという着想の契機になることはないと主張する。
(2)甲3の【0013】及び図3には,防煙シートのガイドレール5に,防煙
シートの係止金具と係合する屈曲部5aが設けられ,火災により生ずる風圧により
防煙シートが煽られてガイドレールから脱離することを防止する構成が開示されて
おり,この構成から,甲3には,防煙シート3の左右の端縁部を受け入れてガイド
する「幅細部」に相当する構成と,防煙シート3の左右両端部に設けた係止金具6
「」,「,を受け入れる幅広部に相当する構成が開示されておりガイドレール5には
開口部全閉時において該耐火シート3に対応する部位の溝幅を狭めて幅細部が形成
されて(審決19頁8∼10行)いると認められる。」
この事実を基に,審決は「甲2発明における『シヤツターレール(ガイドレー,』
ル)の高さの中間に固着した『溝の深さの半分位のシヤツター止め(金属製スラ』
),ットのシートに対応する部位への下降を阻止するストッパの下方部における構成
即ち,開口部全閉時におけるシートに対応する部位の構成に,甲3発明に開示され
た上記公知の技術を適用し,その際に,幅細部を金属製スラットの厚さよりも小さ
い寸法を有するものとして形成して,上記相違点2として摘記した本件訂正発明1
の『ガイドレールには,開口部全閉時において耐火シートに対応する部位の溝幅を
狭めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成され』との構
成を想起することは,当業者が格別の技術的困難性を要することなく容易になしえ
たものと云わざるをえない(23頁36行∼24頁8行)としたものであって,。」
これは,甲2発明におけるシャッター止め(ストッパ)の下方部における構成,す
なわち,開口部全閉時におけるシートに対応する部位の構成に,甲3記載の技術を
適用することは容易想到であるという判断をしたものであって,ストッパの構成そ
のものとして甲3の技術を適用しているものではない。
(3)したがって,原告の主張は,審決の判示するところを正解しないものであ
り,採用することができない。
(,)3取消事由3本件訂正発明1と甲2発明との一致点相違点2の認定の誤り
について
(1)構成要件Cが一義的にストッパを限定するものではないという主張につい

原告の主張は,甲2のシャッター止めがストッパそのものであるのに対して,本
件訂正発明1の構成要件Cはガイドレールの構成であって,ストッパとして機能し
得るという作用効果を奏するほか,防煙性能の向上といった他の作用効果も奏する
ものであること,さらには,本件訂正発明1は,構成要件C以外の構成からなる停
止手段を排除するものではないこと,したがって,構成要件Cにつき,一義的にス
トッパを限定するものであるとして,甲2のシャッター止めと対応させた点は誤り
である,というものである。
しかしながら,前記1(2)のとおり,構成要件Cのガイドレールに形成される幅
細部が一義的にストッパの構成を限定するものであるか否かにかかわらず,ストッ
パとしての機能を有する構成要件Cのガイドレールに形成される幅細部と甲2のシ
ャッター止めと対応させることに誤りがあるとはいえない。
また,甲2が防煙性能の向上という効果を奏しないからといって,上記ストッパ
としての機能につき,構成要件Cのガイドレールに形成される幅細部と甲2のシャ
ッター止めとを対応させることが誤りとなるものでもない。
さらに,原告も,構成要件Cのガイドレールに形成される幅細部がストッパにも
なることを認めているのであって,本件訂正発明1が構成要件C以外の構成からな
る停止手段を排除しないということと,同幅細部と甲2のシャッター止めとが対応
することとは関係がないといえる。
(2)構成要件Cがガイドレールの構成であるという主張について
,,「,原告は本件訂正発明1と甲2発明との相違点2としては本件訂正発明1が
『ガイドレールには,開口部全閉時において耐火シートに対応する部位の溝幅を狭
めて金属製スラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成され』てなるの
に対し,甲2発明において,ガイドレールの溝幅についての記載は一切ない』と認
定するべきである,と主張する。
しかしながら,前記1(2)のとおり,構成要件Cのガイドレールに形成される幅
細部はストッパの機能をも有するものであるから,これと甲2発明におけるストッ
パの機能を有するシャッター止めとを対比し,本件訂正発明1と甲2発明との相違
点2として,審決が「ストッパの構成に関して,本件訂正発明1が『ガイドレー,
ルには,開口部全閉時において耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて金属製ス
ラットの厚さよりも小さい寸法を有する幅細部が形成され』てなるのに対し,甲2
発明は,ガイドレール(シヤツターレール)の高さの中間に『溝の深さの半分位の
シヤツター止め』を固着してなるものである点(20頁18∼22行)と認定し」
たことに誤りはなく,原告の主張は採用することができない。
4取消事由4(本件訂正発明1と甲2発明との相違点2に係る判断の誤り)に
ついて
(1)まず,原告は,甲3発明には,ガイドレールの溝幅が高さ方向に一定のあ
りふれたガイドレールが開示されているのであって,ガイドレールの溝幅を高さ方
向に部分的に狭めたという意味における「溝幅を狭めた幅細部」については一切記
載されておらず,また「幅細部「幅細「溝幅を狭める」という記載も一切な,」,」,
いのであって,審決における「前記ガイドレールには,開口部全閉時において該耐
火シートに対応する部位の溝幅を狭めて幅細部が形成された」という甲3発明の認
定は誤りであるとし,したがって,審決における「前記ガイドレールの幅細部は,
シャッターカーテンの全下降経路である天井から床面にかけて設けられるものでは
あるものの,開口部全閉時において耐火シートに対応する部位の溝幅を狭めて幅細
部を形成することが,防火シャッターの技術分野において公知の技術と云うことが
できる」という認定は誤りである,と主張する。。
しかしながら,前記1(1)のとおり,本件訂正発明1における構成要件Cの「溝
幅を狭めて」とは,溝部の幅広部である奥側の幅に対して幅細部である開口部の幅
を狭めたことをいうものであるところ,甲3発明に係る上記審決の認定部分も,こ
のような構成要件Cのガイドレールに形成された幅細部と対比し,甲3発明におい
ても,ガイドレールの断面をみたときの「開口部全閉時において該耐火シートに対
応する部位の溝幅を狭めて幅細部が形成され」ていることをいうものであって,そ
もそも,ガイドレールの溝幅を高さ方向に部分的に狭めたという意味における「溝
幅を狭めた幅細部」について述べたものではなく,原告の上記主張は,審決の内容
を誤解するものであって,前提を欠くものとして失当である。
(2)ア原告は,審決が甲3発明につき,ガイドレールの幅細部の構成により,
防煙シートの幅方向両端の気密性(防煙性)を向上させるものということができる
としたことにつき,ガイドレールの溝部において,開口側の幅が狭く,奥側の幅が
広いという構成は,シャッターカーテン幅方向端部に設けたフックを係止させる点
では有利な構成であるが,防煙シートの幅方向両端の気密性とは関係ないものであ
ると主張する。
しかしながら,気密性の点についていえば,前記1(3)アのとおり,本件請求項
1に規定されておらず,また,本件明細書(甲9)にも記載されていないものであ
って,ただ,技術常識として,耐火シートの幅方向両端において,ガイドレールの
溝幅を狭めるような構成を採れば気密性(防煙性能)の向上が期待できるというも
のである。そして,前記1(3)アのとおり,甲3発明においても同じような幅細部
構造を有するものであるから,開口部全閉時における「幅細部」の構造による作用
効果として,耐火シートの幅方向両端の気密性(防煙性能)を向上させることが想
定されているといえるものである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イまた,原告は,甲2にはシャッターレール(ガイドレール)についての具体
的な記載は全くなく,甲3発明には高さ方向全体にわたって溝幅が一定のありふれ
,,たガイドレールが記載されているだけであるから甲2及び甲3に接した当業者が
甲2に記載のシャッターレール(ガイドレール)の一部に,甲3に記載されたあり
ふれたガイドレールを適用するという契機はないものといえる,などと主張する。
しかしながら,甲2発明は防火シャッターに関するものであり,また,甲3発明
は,耐火シートで構成された可動たれ壁に関するものであって,これらは,いずれ
も,防火シャッターという同一技術分野に属するものである。そして,防火シャッ
ターの構成要素であるガイドレールにおける耐火シート対応部分につき,全面的に
耐火シートを使用する場合である甲3の幅細部の溝幅を適宜設定したガイドレール
の構成を採用することを当業者に断念させるような特段の事情が認められないこと
からすると,甲2に記載のシャッターレール(ガイドレール)の一部の耐火シート
対応部分に,甲3に記載されたガイドレールを適用するという契機がないというも
のではない。
ウさらに,原告は,本件訂正発明1につき,ガイドレールの溝幅を部分的に狭
めたというシンプルな構成を採用することで,同時に「開口部全閉時の防煙性能の
向上」と「安全性の向上」という二つの作用効果が得られることは,甲2発明及び
甲3発明に開示された公知の技術並びに防火シャッターの技術分野における周知の
技術から予測可能な作用効果ではない,と主張する。
しかしながら,前記1(3)アのとおり,本件訂正発明1における「開口部全閉時
の防煙性能の向上」は甲3でも想定されているものであり,他方,同イのとおり,
原告主張に係る「安全性の向上」は本件訂正発明1の効果として存在するとみるこ
とができないものであるから,原告の上記主張は採用することができない。
エまたさらに,原告は,甲3には,降下するシートを直接機械的に止めるスト
ッパについては記載されておらず,ましてや,ガイドレールの構成に特徴を持たせ
,,てストッパを構成する点については全く開示も示唆もされていないことから仮に
本件訂正発明1の構成要件Cがストッパの構成であると認定されるものとしても,
相違点2につき,甲3発明を用いて本件訂正発明1に変更,改変することは当業者
にとって容易であるとはいえない,と主張する。
しかしながら,前記2(2)のとおり,審決は,甲2発明におけるシャッター止め
(ストッパ)の下方部における構成,すなわち,開口部全閉時におけるシートに対
応する部位の構成に,甲3記載の技術を適用することは容易想到であるという判断
をしたものであって,ストッパの構成そのものとして甲3の技術を適用しているも
のではないのであるから,原告の上記主張は前提を欠くものとして失当であるとい
わざるを得ない。そして,前記イのとおり,甲2における防火シャッターの構成要
素であるガイドレールにおける耐火シート対応部分につき,全面的に耐火シートを
使用する場合である甲3のガイドレールの構成を採用することを当業者に断念させ
,()るような特段の事情が認められず甲2に記載のシャッターレールガイドレール
の一部の耐火シート対応部分に,甲3に記載された幅細部の溝幅を適宜設定したガ
イドレールを適用することは容易想到であるということができるものである。
5以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件訂正発明1
は,甲2及び3発明に開示された公知の技術並びに防火シャッターの技術分野にお
ける周知の技術から,当業者が容易に発明することができたものであるといえる。
,,。そして本件訂正発明3及び5については原告は独立した取消事由を主張しない
そうすると,原告の本訴請求は理由がないから,棄却されるべきである。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
本多知成
裁判官
田中孝一
(別紙)
〔甲3〕
〔甲8〕

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