弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人菊池信男、同鈴木芳夫、同浦野正幸、同竹田博輔、同高村一之、同大
田黒昔生、同藤宗和香、同山諸剛二、同藤井康夫、同菅野隆、同月原進、同田中正
春の上告理由について
 国税徴収法(以下「徴収法」という。)二二条一項は、納税者が他に国税に充て
るべき十分な財産がない場合において、その者がその国税の法定納期限等後に登記
した質権又は抵当権を設定した財産を譲渡したときは、納税者の財産につき滞納処
分を執行してもなおその国税に不足すると認められるときに限り、その国税は、そ
の質権者又は抵当権者から、これらの者がその譲渡に係る財産の強制換価手続にお
いて、その質権又は抵当権によって担保される債権につき配当を受けるべき金額の
うちから徴収することができる旨を定め、同条五項は、右譲渡に係る財産に対して
強制換価手続が行われた場合に、税務署長が、同条一項の規定により徴収すること
ができる金額の国税につき、執行機関に対し、交付要求をすることができる旨を定
めているところ、右財産に対する強制換価手続が不動産競売手続である場合には、
右交付要求は、執行裁判所が民事執行法に基づいて定めた配当要求の終期までにし
なければならず、右配当要求の終期後にされた場合には、国は、当該不動産の売却
代金から配当を受けることができないと解するのが相当である。けだし、徴収法二
二条五項所定の交付要求は、前記質権者又は抵当権者が配当として受けるべき金額
に対し、国税の特別徴収権能を認めたものではあるが、同法八二条に定める交付要
求と同じく、税務署長が自ら強制換価手続を行って租税債権の徴収を図るためのも
のではなく、すでに他の執行機関による強制換価手続が進行している場合に、その
手続に参入して債権の満足を得ようとするものであるから、このような場合には、
特段の法令の定めがない限り、当該強制換価手続の手続上の制限に従うべきである
と解されるからである。
 これを本件についてみるに、原審の確定した事実によれば、(一) 被上告人は、
昭和五八年六月七日、訴外D住宅ローン株式会社に対し、住宅ローン保証保険契約
に基づいて一五二四万一六八六円を支払ったことにより、訴外Eに対し同額の求償
債権を取得し、かつ保険代位により同人所有に係る第一審判決添付の別紙物件目録
記載一ないし五の不動産(以下「本件不動産」という。)を目的とする第一審判決
添付の別紙担保権・被担保債権・請求債権目録記載の抵当権(千葉地方法務局船橋
支局昭和五二年五月二五日受付第二五七〇二号設定登記)の移転を受けたが、右抵
当権は上告人のEに対する所得税の法定納期限等後に設定登記されたものであると
ころ、(二) 本件不動産がその後Eから訴外Fに譲渡され、(三) 被上告人の申立
により千葉地方裁判所が本件不動産の競売開始決定をし、(四) 市川税務署長が、
右競売事件の配当要求の終期である昭和六〇年四月二一日より後の同年五月一三日
付けで、同裁判所に対し、Eに対する前記所得税合計一五五八万一七八八円につい
て徴収法二二条五項による交付要求をしたというのであり、前記説示に徴すれば、
同税務署長のした交付要求は、前記配当要求の終期後にされたことが明らかである
から、上告人は右交付要求によって本件不動産の売却代金から配当を受けることが
できないものである。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができ、
原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    四 ツ 谷       巖
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    橋   元   四 郎 平

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