弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 本件抗告事由は「原決定のいうように、本件においてA又はBより民事訴訟法第
五百十九条に基く執行力ある調停調書正本の下付申請がまだなされていないことは
記録上明であるが、もしその申請があつてから忌避の申立をしても時すでに遅く、
承継執行文は即時に交付され直ちに強制執行によつて事案は根本的に終了するので
ある。本件忌避申立は諌早簡易裁判所昭和二十八年(ハ)第五七号事件と不可分一
体であるからこれを両断して判断することは許されない。よつて原決定は不当であ
るからこれが取消を求めるため抗告を申立たものである」というのである。
 <要旨>しかし、忌避の制度は裁判の公正を確保するため事件を担当する裁判官又
は書記官を当該事件の職務執行から排除する制度であるから、現に裁判所に
繋属していない事件について忌避の申立をすることは許されない。もつとも事件に
よつては、裁判所に事件が繋属して後忌避の申立をする暇のないこともあり得るこ
とは所論のとおりである。しかし裁判所に繋属前の事件について忌避の申立を許す
ときは忌避権濫用の弊を生ずるのみならず、忌避の原因の有無は当該事件の当事者
及び内容とも関連し、しかも将来繋属すべき事件の当事者及び内容は忌避申立人の
予想に従つてこれを予断することはできないから、忌避の裁判もなし得ないことに
なろう。
 もともと忌避の制度はすでに述べたとおり、裁判の公正確保という司法上の公益
のために認められたものであつて、当事者の保護は少くもこの制度の主たる目的で
はなく、ただ裁判の公正如何がひいて当事者の保護に影響を及ぼすため当事者に忌
避の申立権を認めたに過ぎない。しかるに特殊の裁判を除き、裁判に対し不服があ
る当事者は異議又は上訴により権利の保護を求めることができるのであるから、裁
判所に繋属前の事件について忌避の申立をすることが許されないとしても、当事者
の保護に欠ぐるところはないわけである。
 本件忌避申立は抗告人主張の承継人による執行力ある和解調書正本付与申請事件
につき諌早簡易裁判所判事Cに裁判の公正を妨ぐべき事情ありとして同裁判官の忌
避を申立たものであるが、右申請事件はいまだ同裁判所に繋属してないことは記録
上明らかであつて抗告人もまた認むるとおりであるから、本件忌避申立は前示の理
由により不適法として却下すべきものである。
 よつてこれと同趣旨の原決定は相当であつて本件抗告は理由がないから、抗費用
の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 竹下利之右衛門 裁判官 小西信三 裁判官 岩永金次郎)

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