弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1本件申立てをいずれも却下する。
2申立費用は申立人の負担とする。
理由
第1申立ての趣旨及び理由
別紙記載のとおりである。
第2当裁判所の判断
1前提事実
本件疎明資料によれば,以下の各事実が一応認められる。
(1)当事者
ア申立人は,介護保険法(以下「法」という。)による居宅介護支援事業
等を営むことを目的とする特例有限会社である。
イ相手方は,佐賀市その他の市町で組織され,地方自治法252条の17
の2に基づいた佐賀県事務処理の特例に関する条例2条に基づき,介護事
業所の指定,指定取消等を行う権限を有している特別地方公共団体のうち
の広域連合である。
(2)申立人の営む介護支援事業等
ア申立人は,佐賀県又は相手方から,平成16年から平成18年にかけて,
法41条1項の規定による①指定居宅サービス事業者(○長寿○号,○総
○号,○総○号),②指定居宅介護支援事業者(○総○号)の指定を受け,
平成18年に,法53条1項の規定による③指定介護予防サービス事業者
(○総○号,○総○号,○総○号)の指定を受けた。
イ申立人は,佐賀市αにおいて,①指定通所介護事業所・指定介護予防サ
ービス事業所A(以下「A」という。)を開設して,日帰りの通所介護サ
ービスを提供しており,同施設の建物内には,法の適用のない宅老所であ
る有料老人ホームBを併設しており,Aの利用者が同所に居住している。
申立人は,佐賀市βにおいて,②指定通所介護事業所・指定介護予防サ
ービス事業所C(以下「C」という。)を開設して,日帰りの通所介護サ
ービスを提供しており,同施設の建物内には,③指定居宅介護支援事業所
D(以下「D」という。),④指定特定施設E(以下「E」という。)の
ほか,法の適用のない宅老所である有料老人ホームFを併設している。
(3)本件申立てに至る経緯
ア相手方は,平成20年7月1日付けで,申立人に対し,要旨下記の内容
の聴聞(以下「本件聴聞」という。)を実施する旨通知した。
(ア)予定されている不利益処分(以下全体を「本件処分」という。)の
内容
①Aにおいて,法41条1項の規定による指定居宅サービス事業者の
指定(○総○号)の取消し及び法53条1項の規定による指定介護予
防サービス事業者の指定(○総○号)の取消し
②Dにおいて,法46条1項の規定による指定居宅介護支援事業者の
指定(○総○号)の取消し
③Cにおいて,法41条1項の規定による指定居宅サービス事業者の
指定(○総○号)の取消し及び法53条1項の規定による指定介護予
防サービス事業者の指定(○総○号)の取消し
④Eにおいて,法41条1項の規定による指定居宅サービス事業者の
指定(○長寿○号)の取消し及び法53条1項の規定による指定介護
予防サービス事業者の指定(○総○号)の取消し
(イ)聴聞の期日平成20年7月9日午後3時(後に同年7月22日
に変更された。)
(ウ)聴聞の主宰者相手方事務局長G
イ相手方は,平成20年7月22日及び同年8月11日,申立人に対し,
本件聴聞を実施し,同日,本件聴聞を終結した。
(4)本案訴訟の提起と本件申立て
申立人は,平成20年8月22日,当庁に本件処分の差止めを求める本案
訴訟(当庁平成▲年(行ウ)第▲号)を提起し,同日,本件処分の仮の差止め
を求める本件申立てをした。
2判断
(1)本案訴訟の適法性について
ア処分のがい然性について
(ア)仮の差止めの申立てが適法であるためには,本案訴訟である差止め
の訴えが適法な訴えとして提起されていることが必要であると解される
ところ,差止めの訴えの訴訟要件として,行政庁が一定の処分又は裁決
をするがい然性が認められることが必要であると解される。
(イ)これを本件についてみるに,本件処分のうち,A及びDに関する処
分については,処分の前提となる聴聞手続が終結しており,相手方が当
該処分をするがい然性が認められるが,C及びEに関する処分について
は,相手方が,本件申立ての審理において,当該処分を行う予定はない
旨明確に主張していることからすれば,相手方が当該処分をするがい然
性は直ちに認められず,他にこれを認めるに足りる的確な疎明はない。
(ウ)したがって,本案訴訟のうち,C及びEに関する処分の差止めを求
める部分は,処分のがい然性を欠く不適法な訴えというほかないから,
本件申立てのうち当該部分に関する申立ても,本案訴訟としての適法な
差止めの訴えの提起を欠き,不適法である。
イ処分がされることにより重大な損害を生ずるおそれについて
行訴法37条の4第1項は,差止めの訴えは,一定の処分又は裁決がさ
れることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り,提起するこ
とができる旨規定しているから,同要件の検討も必要であるが,本件申立
ては,仮の差止めを求めるものであるから,同法37条の5第2項の「償
うことのできない損害を避けるため緊急の必要」の要件を充足する必要が
あり,同要件は,上記の同法37条の4第1項の要件より加重されている
から,本件においては,同法37条の4第1項の要件の判断はひとまず措
き,まず同法37条の5第2項の要件を先に判断することとする。
(2)償うことのできない損害を避けるため緊急の必要の要件について
ア行訴法37条の5第2項が「償うことのできない損害を避けるため緊急
の必要」があることを要求している趣旨は,処分の仮の差止めが,具体的
な行政処分がされる前にされるものであり,しかも,処分の差止めの訴え
に係る本案判決の前に,裁判所が仮に行政庁が具体的な処分をすべきでな
いことを命ずる裁判であり,本案訴訟の結果と同じ内容を仮の裁判で実現
するものであることから,そのような救済に相応しい高度の緊急性を要求
したものであると解される。
このような趣旨からすれば,「償うことのできない損害を避けるため緊
急の必要」があるといえるためには,ひとたび違法な処分がされてしまえ
ば,当該私人の法律上保護された利益が侵害され,その侵害を回復するに
後の金銭賠償によることが不可能であるか,これによることが著しく不相
当と認められることが必要であり,損害を回復するために金銭賠償による
ことが不相当でない場合や,当該損害がその処分又は裁決の取消しの訴え
を提起して行訴法25条2項に基づく執行停止を受けることにより避ける
ことができるような性質・程度のものであるときは,上記緊急の必要性は
認められないというべきである。
イそこで,以上の観点から,A及びDに関する処分について,申立人に上
記の意味における「償うことのできない損害を避けるための緊急の必要」
があるといえるかどうかを検討する。
(ア)Aに関する処分がされると,同事業所が行っている日帰り通所サー
ビス事業ができなくなるが,法の適用のない宅老所である「有料老人ホ
ームB」自体の営業ができなくなるものではないから,同所の入所者が
施設から直ちに退去を余儀なくされるものではないし,本件の審理にお
いて,相手方が,取消処分には数か月の猶予期間を設ける予定である旨
主張していることからすれば,猶予期間のうちに,近隣地区における同
様の事業所の利用に移行することが不可能であるとまでは認め難い。
(イ)Dに関する処分がされると,申立人におけるケアプランの作成,給
付管理票の作成等の居宅介護支援事業自体が困難になるが,法の適用の
ない宅老所である「有料老人ホームF」自体の営業ができなくなるもの
ではないから,同所の入所者が施設から直ちに退去を余儀なくされるも
のではないし,CやEの事業自体ができなくなるものでもない。また本
件の審理において,相手方が,取消処分には数か月の猶予期間を設ける
予定である旨主張していることからすれば,猶予期間のうちに,近隣地
区における居宅介護支援事業の事業所の利用に移行することが不可能で
あるとまでは認め難い。
(ウ)申立人においては,相手方から上記処分がされた後であっても,そ
れが認容されるかどうかはともかく,同処分の取消し又は無効確認を求
める訴えを提起するとともに,同処分について執行停止の申立てをする
手続も保障されている(行訴法25条,38条3項)。
ウ以上の諸事情を総合考慮すると,A及びDに関する処分がされることに
より申立人が被る損害は,当該処分の取消しの訴えを提起して行訴法25
条2項に基づく執行停止を受けることにより避けることのできるような性
質,程度のものであるといわざるを得ない。
もっとも,上記処分がされることにより申立人に生じるおそれのある社
会的評価ないし信用の低下による損害は,その性質上,必ずしも上記処分
の取消しの訴えを提起して執行停止を受けることにより避けることのでき
る損害とはいえないが,金銭賠償による回復が不可能である損害とまでは
認め難いというべきである。
さらに,申立人における前記事業内容からすると,上記処分がされたと
しても,上記処分の取消しの訴えを提起して執行停止を受けるまでの間に,
直ちに経営上重大な損害が生じるおそれがあるとも認め難い。
エしたがって,本件申立てのうち,A及びDに関する処分についての部分
は,行訴法37条の5第2項にいう「償うことのできない損害を避けるた
めの緊急の必要」の要件を欠き,理由がない。
(3)結論
以上によれば,本件申立ては,その余の要件について検討するまでもなく,
いずれも不適法ないし理由がないから,これを却下することとする。
よって,主文のとおり決定する。
平成20年12月1日
佐賀地方裁判所民事部
裁判長裁判官神山隆一
裁判官一木文智
裁判官内山裕史

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