弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人本間大吉の上告趣意一の(一)(二)について。
 所論は、原判決が善意無過失の第三者であるA漁業株式会社所有の底曳網一篠を
中型機船底曳網漁業取締規則二七条二項により、その占有者である被告人らから没
収した第一審判決を是認したのは、右会社の所有権を不法に侵害し且つ何ら法律に
定める手続によらないで、同会社を処罰し、また同会社の裁判をうける権利を奪つ
たもので、憲法二九条、三一条、三二条に違反するというのであつて、要するに他
人の所有権を対象として違憲を主張するものである。
 しかし、訴訟において、他人の権利に容喙干渉し、これが救済を求めるが如きは、
本来許されない筋合のものと解するを相当とするが故に、本件没収の如き事項につ
いても、他人の所有権を対象として基本的人権の侵害がありとし、憲法上無効であ
る旨論議抗争することは許されないものと解すべきである。されば、本件没収につ
いて所論違憲のかどありとする論旨は結局理由なく、採用のかぎりではない。
 同二について。
 所論は量刑不当の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 よつて、刑訴四一四条、三九六条により主文のとおり判決する。
 この判決は、論旨一の(一)(二)につき、裁判官小谷勝重、同島保、同河村又
介、同入江俊郎、同池田克、同河村大助、同奥野健一の反対意見および裁判官垂水
克己、同下飯坂潤夫、同高木常七の補足意見があるほか裁判官全員一致の意見によ
るものである。
 裁判官入江俊郎の反対意見は、次のとおりである。
 わたくしは、弁護人本間大吉の上告趣意一の(一)(二)に対する多数意見の判
示には反対である。所論違憲の主張は刑訴四〇五条の適法な上告理由に該当するも
のであり、そして本件第三者没収が憲法三一条に違反するとの論旨は、結局におい
て理由あるに帰し、原判決はこの点において破棄、差戻を免れないものと考える。
その理由とするところは、当裁判所昭和三五年一〇月一九日言渡、昭和二八年(あ)
第三〇二六号事件の判決におけるわたくしの反対意見を引用する。
 また所論中、本件第三者没収が憲法二九条違反を主張する点は、昭和二六年(あ)
第一八九七号、昭和三二年一一月二七日大法廷判決、刑集一一巻一二号三一三二頁
以下の趣旨に従い、本件第三者没収にかかわる物については、その所有者たる第三
者において本件犯罪行為が行われることをあらかじめ知つており、その犯罪行為が
行われた時から引きつづきその物を所有していた場合に限り没収のなされるもので
あると解すべきところ、原審の確定した事実関係の下においては、未だこの点に関
する審理を尽したものと認められず、本件第三者没収が憲法二九条に違反するとの
論旨は結局において理由あるに帰する。されば、原判決はこの点においても、破棄
差戻を免れない。なお、所論は、憲法三二条違反をいうが、本件第三者没収が執行
せられた場合において、右第三者が、これを違憲、違法として没収執行の行政処分
に対していわゆる抗告訴訟を提起するか、または、所有権に基づく民事訴訟を提起
することは可能であつて、原判決は何らこれを否定したものではないから、この点
に関する違憲の主張は、前提を欠くものであつて、採るを得ない。
 裁判官小谷勝重、同島保、同河村又介、同池田克は、裁判官入江俊郎の右反対意
見に同調する。
 裁判官河村大助の反対意見は次のとおりである。
 昭和九年七月二五日農林省令二〇号中型機船底曳網漁業取締規則二七条二項中「
犯人の……所持する漁獲物、製品、漁船及漁具は之を没収することを得」との規定
は、第三者所有物の没収につき合理的な帰責事由を定めず、かつ告知、審問及び防
禦に関する法定手続条項を欠くものであるから、憲法三一条に違反するものであり、
従つて同条に基いて第三者所有の物件を没収した第一審判決及びこれを認容した原
判決は違憲であるから、破棄を免れない。その理由の詳細は昭和二八年(あ)第三
〇二六号の大法廷判決に付した私の意見を引用する。
 裁判官奥野健一の反対意見は次のとおりである。
 本件中型機船底曳網漁業取締規則二七条二項は、犯人の所持する第三者の所有物
件を没収する場合に、当該第三者に告知、審問、意見弁解および防禦権行使の機会
を与えることなくして、これをなす趣旨の規定であると解するから憲法三一条、二
九条、一四条に違反するものというの外なく、これに基いて第一審判決が第三者で
あるA漁業株式会社所有の物件を没収したことは違憲であり、これを是認した原判
決もまた違憲であると認められるから共に破棄を免れない。なお、これに関する理
由の詳細については、昭和二八年(あ)第三〇二六号事件の当裁判所の判決におけ
る私の反対意見を引用する。
 裁判官垂水克己および同下飯坂潤夫の補足意見は、いずれも当裁判所昭和二八年
(あ)第三〇二六号事件の判決において述べたとおりであるから、ここにこれを引
用する。
 裁判官高木常七の補足意見は次のとおりである。
 弁護人本間大吉の上告趣意一の(一)(二)について。
 中型機船底曳網漁業取締規則二七条二項は、中型機船底曳網による漁業取締の必
要に鑑み設けられた規定であり、同漁業による犯罪を防止しその取締の万全を期す
ることによつて公共の福祉を確保するため、当該犯罪に密接な関連をもつ物件につ
き、それがひとり犯人に属する場合だけでなく、犯人以外の者に属する場合でも一
応これを没収し得ることを定めたものであつて、規定自体として憲法に違反するも
のでないこと、しかし右規定にもとづく「犯人以外の者に属する物」の没収は実質
的にみて保安または予防処分の一種として理解さるべきものであること、それゆえ
その者がその犯罪に全く無関係である場合は、その者は自己の善意を主張してその
物の返還を要求することができ、かりにその犯罪に無関係でなかつたとしても、当
該訴訟に関与もさせられずして没収の言渡があつた場合は、たといその判決が確定
しても、その者はこれに対し、手続の違法を主張してその執行を拒み、もし敢て執
行を受けた場合は、刑訴四九七条によつてその物の還付を要求する等救済を受ける
権利を有すること、しかしこれらの権利はその本人に固有なものであつて、他人を
してこれに代らしめ得るものでなく、況んやその他人がこれを恰も自己の権利に属
するものの如くに心得て行使し得べき筋合のものではないこと等、わたくしの補足
意見は、当裁判所昭和二八年(あ)第三〇二六号事件の判決において述べたとおり
であるから、ここにそれを引用する。
 検察官 村上朝一、同斎藤三郎公判出席
  昭和三五年一〇月一九日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    高   橋       潔
            裁判官    高   木   常   七
            裁判官    石   坂   修   一

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