弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人等の負担とする。
         理    由
 弁護人宮崎梧一の上告趣意について。
 所論は刑法九八条及び同法一〇二条は囚人が拘束からの離脱を求める天賦の人権
を侵害するものであつて憲法一一条に違反するものであり、かかる違憲の諸条規を
適用した第一審判決をそのまま是認した原判決は結局違憲の判断をした違法がある
と主張するのである。しかし憲法は理由があれば被疑者が拘禁され抑留されうるこ
とを認め且犯罪による処罰の場合には犯人に肉体的拘束が加えられることを是認し
ている。(憲法三四条、三一条)従て所論未決若しくは既決の囚人が拘禁の苦痛を
免れようとする衝動から逃走するのは、憲法が保障する自由を回復する行為ではな
い。なぜならば未決、既決の囚人がその身体の自由を制限されている場合には法律
の定める手続によらなければ右自由を回復しえないものだからである。そしてかか
る囚人の自己逃走を処罰するために設けられた前記刑法規定は公共の福祉を保持す
るために自由の制限を認めたものであつて、所論のごとき違憲のかどは認められな
いから論旨は採用できない。
 被告人Aの上告趣意について。
 所論は結局量刑不当の主張であるから刑訴四〇五条所定の理由にあたらない。
 よつて刑訴四〇八条、一八一条一項に従い主文のとおり判決する。
 以上は裁判官栗山茂の少数意見を除く他の裁判官一致の意見である。
 裁判官栗山茂の少数意見は次のとおりである。
 国会は国の唯一の立法機関であつて、それを組織する職員は裁判官と等しく憲法
を擁護し尊重する義務を負うものであるから、かかる国会の立法行為はもともと憲
法に適合しているという強い推定を受ける性質のものであることは三権分立を国政
の基礎とする建前から自ら明らかである。と同時に憲法上立法権の専断的行使を抑
制(チェツク)する一方法として裁判所は訴訟の形式においてだけ違憲法律の審判
ができることになつているのである。これを通俗に司法の優位と呼んだからといつ
て憲法上の機関として司法権が立法権に優位するのではないから、裁判所は争訟が
ないのに(争訟がないということは当事者から違憲性の主張がないということと同
じである。)法律が憲法に適合するかしないかについて調査をしてその意見を表示
する権限までも含むものではない。されば裁判所は当事者から法律の違憲性につい
て主張がないにもかかわらず、性質上適憲性が推定されている法条を解釈適用する
に当つて、一々該法条が適憲であるかどうかを判断した上で事案を処理しなければ
ならないものではない。なる程裁判官も憲法を擁護し尊重する義務があるから理論
上は事案処理のために適用すべき法条の違憲性が極めて明らかな場合はかかる法条
の適用を拒絶することもできると云えるけれども、もともと裁判官自ら違憲な法律
であると考えても訴訟にならない限り違憲法律審査権を行使することができないと
同じように、そして裁判所としては訴訟に伴つて当事者から法律の違憲牲の主張が
あるから事案処理上やむをえず(違憲性の審判それ自体というよりは事案の審判の
ためである。)その主張に審判権を及すに過ぎないものであるから、訴訟において
当事者の主張がない限り、刑訴三九二条二項の規定にかかわらず、裁判所は、職権
発動による違憲法律の審査は右審査権の本質からして厳に避くべきものと考える。
 上述の考え方からして、私は当事者においても違憲法律の主張は訴訟の早い段階
からさるべきものと思う。即ち第一審で違憲法律の主張をしなければ、少くとも第
二審で刑訴三八〇条による主張をしなければならないものと考える。控訴裁判所は
控訴趣意書に包含されている事項を調査すればよいから、その中に第一審判決の適
用法条の違憲性の主張がなければ第二審判決の審判の対象となりえないことは明ら
かである。いかに違憲法律の主張でも控訴審で主張されず従つてその判断を経てい
ない事項について最高裁判所に不服の申立ができようはずがないのである。されば
本件論旨のような原審で主張もせず(原審では単に量刑不当の主張をしたにとどま
る。)上告するために案出したような違憲法律の主張は不適法な上告趣意たるをま
ぬがれない。然るに多数意見は本件論旨について判断を与えた上棄却しているので
あるから、本件上告を適法としたことは明らかである。ただ如何なる理由で適法な
上告としたかについては明示するところがないが、これを適法とするからには或は
原審で主張しなくても上告趣意書に初めてかかる主張があればよいとしているか、
然らずんば下級審が当事者からの主張がなくとも所論刑法の条規を適憲なものと判
断して適用しているという前提に立つているかである。しかし違憲法律の争につい
ては当裁判所が第一審裁判所となれるという特に法律の定めがない限りかかる解釈
は誤りであり又下級審で本事案を審判するに当つて所論刑法の適条を多数意見と同
じ線で違憲でないと判断したかどうかは不明であるばかりでなく、ただ漫然と右諸
条規を適憲であると判断したとすると、さような理由のわからない独断的な判断は
違憲法律の審査としての判断ということは到底できないものである。両者いずれも
裁判所による違憲法律審査の本質に戻る考え方と断ぜざるをえない。
 以上の理由で多数意見には同調することができないから、本件は不適法な上告論
旨として排斥すべきものと思料する。
  昭和二六年七月一一日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    眞   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎

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