弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人東谷隆夫、同額田洋一、同額田みさ子の上告理由第一点及び第三点に
ついて
 一 原審が適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 上告人は、貴金属の販売、加工等を目的とする株式会社であるが、平成元年
七月六日、顧客らから請け負ったダイヤモンド一個及び赤色石一個の枠加工をD工
芸ことDに下請させ、右ダイヤモンド等をDに対して送付した。
 2 Dは、加工を終えた右ダイヤモンド等(以下「本件宝石」という。)を被上
告人がE便の名称で取り扱っている宅配便を利用して東京都台東区所在の上告人の
もとに送付するため、平成元年七月二三日、本件宝石を入れて荷造りした箱(以下
「本件荷物」という。)を被上告人の代理店である千葉県館山市所在のF株式会社
に引き渡した。被上告人は、宅配便につき、標準宅配便約款(昭和六〇年運輸省告
示第四〇〇号)に従った約款(以下「本件約款」という。)を定めていた。そして、
本件約款においては、運送人が荷物の運送を引き受ける時に、送り状を荷物一個ご
とに発行し、これに荷送人はその氏名、荷物の品名及び価格等を、運送人は運賃の
ほか、損害賠償の額の上限である責任限度額等をそれぞれ記載するものとし(本件
約款三条)、被上告人は、右の責任限度額を三〇万円と定め、送り状の用紙に「お
荷物の価格を必ずご記入ください。E便では三〇万円を超える高価な品物はお引受
けいたしません。万一ご出荷されましても損害賠償の責を負いかねます。」との文
言を印刷し、また、ダイヤモンドなどの宝石類等は引受けを拒絶することがある旨
を定め、Fにおいてもこの旨を記載した注意書を掲示していた。ところが、荷送人
であるDは、送り状の依頼主欄及び届け先欄には所定の事項を記入したが、品名欄
及び価格欄には記入しなかった。ちなみに、宅配便を取り扱う他の貨物運送業者も、
一般的に、標準宅配便約款に従ってそれぞれの約款を定め、荷物の滅失等の場合に
おける責任限度額を二〇万円から四〇万円とし、宝石類については引受けを制限し
ていた。
 3 本件荷物は、Fが受け付け、被上告人のF支店千葉ターミナル事業所にトラ
ックで運ばれ、同所で仕分けされた後、被上告人のG支店東京中央ターミナルに専
用車で配送されたが、その後所在が分からなくなった。本件荷物が紛失した原因は
不明である。
 4 上告人は、加工の注文をした各所有者に本件宝石を返還することができなく
なったことから、各所有者に対してその価格の全額、合計三九四万一九〇〇円を賠
償した。
 5 Dは、上告人の設立当初から約一六年間にわたって、主として上告人の仕事
だけを下請してきたところ、上告人とDとの間では、互いに宝石を送付するに当た
って各貨物運送業者の宅配便を利用し、上告人からDに対するものだけでも年間約
八〇回に及んでいた。Dが被上告人の宅配便を利用して上告人に宝石を送付するの
は本件が四回目であり、上告人もDが本件荷物を被上告人の宅配便を利用して送付
することをあらかじめ容認していた。
 二 本件訴訟において、上告人は被上告人に対し、(1)本件宝石について各所
有者に全額を賠償したことにより、各所有者の被上告人に対する不法行為に基づく
損害賠償請求権を取得したことを理由として計三九四万一九〇〇円、(2)上告人
が取得できなくなったダイヤモンドの加工代金相当額一五万円、(3)弁護士費用
五〇万円の合計四五九万一九〇〇円及び遅延損害金の支払を求めている。
 三 よって検討するに、本件の事実関係の下においては、上告人が被告人に対し
本件運送契約上の責任限度額である三〇万円を超えて損害賠償を請求することは、
信義則に反し、許されないものと解するのが相当である。その理由は、次のとおり
である。
 1 宅配便は、低額な運賃によって大量の小口の荷物を迅速に配送することを目
的とした貨物運送であって、その利用者に対し多くの利便をもたらしているもので
ある。宅配便を取り扱う貨物運送業者に対し、安全、確実かつ迅速に荷物を運送す
ることが要請されることはいうまでもないが、宅配便が有する右の特質からすると、
利用者がその利用について一定の制約を受けることもやむを得ないところであって、
貨物運送業者が一定額以上の高価な荷物を引き受けないこととし、仮に引き受けた
荷物が運送途上において滅失又は毀損したとしても、故意又は重過失がない限り、
その賠償額をあらかじめ定めた責任限度額に限定することは、運賃を可能な限り低
い額にとどめて宅配便を運営していく上で合理的なものであると解される。
 2 右の趣旨からすれば、責任限度額の定めは、運送人の荷送人に対する債務不
履行に基づく責任についてだけでなく、荷送人に対する不法行為に基づく責任につ
いても適用されるものと解するのが当事者の合理的な意思に合致するというべきで
ある。けだし、そのように解さないと、損害賠償の額を責任限度額の範囲内に限っ
た趣旨が没却されることになるからであり、また、そのように解しても、運送人の
故意又は重大な過失によって荷物が滅失又は毀損した場合には運送人はそれによっ
て生じた一切の損害を賠償しなければならないのであって(本件約款二五条六項)、
荷送人に不当な不利益をもたらすことにはならないからである。そして、右の宅配
便が有する特質及び責任限度額を定めた趣旨並びに本件約款二五条三項において、
荷物の滅失又は毀損があったときの運送人の損害賠償の額につき荷受人に生じた事
情をも考慮していることに照らせば、荷受人も、少なくとも宅配便によって荷物が
運送されることを容認していたなどの事情が存するときは、信義則上、責任限度額
を超えて運送人に対して損害の賠償を求めることは許されないと解するのが相当で
ある。
 3 ところで、本件の事実関係によれば、本件荷物の荷受人である上告人は、品
名及び価格を正確に示すときは被上告人又はその他の貨物運送業者が取り扱ってい
る宅配便を利用することができないことを知りながら、Dとの間で長年にわたって
頻繁に宅配便を利用して宝石類を送付し合ってきたものであって、本件荷物につい
ても、単にこれが宅配便によって運送されることを認識していたにとどまらず、D
が被上告人の宅配便を利用することを容認していたというのである。このように低
額な運賃により宝石類を送付し合うことによって利益を享受していた上告人が、本
件荷物の紛失を理由として被上告人に対し責任限度額を超える損害の賠償を請求す
ることは、信義則に反し、許されないというべきである。
 4 以上に検討したところによれば、上告人の被上告人に対する損害賠償の請求
は、一個の荷物の紛失を理由とする以上、責任限度額である三〇万円の限度におい
て認容すべきものであるとした原審の判断は、是認するに足り、原判決に所論の違
法はない。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は採用するこ
とができない。
 同第二点及び第四点について
 原審が適法に確定した事実関係の下においては、本件荷物の紛失について被上告
人に重大な過失があったものということはできないとした原審の判断は、正当とし
て是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する
証拠の取捨判断、事実の認定を非難し、独自の見解に立って原判決を論難するか、
又は原判決の結論に影響しない点をとらえてその違法をいうものであって、採用す
ることができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    遠   藤   光   男
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    井   嶋   一   友
            裁判官    藤   井   正   雄
            裁判官    大   出   峻   郎

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