弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人伊達秋雄、同松本一郎の上告理由第一点について。
 論旨は、訴外Dの本件不動産処分の権限が昭和二八年一一月二五日を終期とする
ものであつた旨および被上告人側から訴外Dに対してなされた原判示期限延長の承
諾が同訴外人の無権代理行為追認の効力を生ずるものではなかつた旨の原審の判断
は、経験則に違反し、審理不尽、理由不備の違法を犯したものであるという。
 しかし、被上告人側から訴外Dに対して本件不動産処分の権限を付与するにあた
つて右両者間になされた契約(乙一号証による契約)の内容および右契約がなされ
た経緯について原審の認定した事実ならびに右訴外人が被上告人側に対して原判示
のとおり期限の延長を懇請した事実に照らせば、右訴外人と被上告人との間におい
ては昭和二八年一一月二五日の到来と共に右訴外人の本件不動産処分の権限を消滅
させる約であつた旨の原審の判断は、是認し得なくはなく、同訴外人において右処
分をなしうる期間が二〇日間であつたとしても、右判断が経験則に違反するものと
はいえず、原審の判示するところ以上にさらに所論特殊事情を判示すべき必要は認
められない。また、原審の確定するところによれば、被上告人側の訴外Dに対する
原判示期限延長の承諾は、上告人が本件不動産処分の代理権消滅後になした原判示
売買の事実を知つてなされたものでなく、また、右承諾にあたつては目的不動産の
一部が除外され、かつ、処分最低金額も変更されて、その旨の契約書(乙二号証)
が当事者間に作成されたというのであるから、右承諾に無権代理行為追認の効力を
認めなかつた原審の判断は相当であり、右判断に経験則違反があるとはいえない。
論旨は、独自の見解を交えつつ、原審の適法にした判断を非難するに帰し、採用す
るに足りない。
 同第二点について。
 論旨は、原判決には、単独行為である無権代理行為の追認について停止条件を付
しうるものと判断した点において、追認ならびに条件の法理を誤解した違法がある
という。無権代理行為の追認が単独行為であることは、論旨指摘のとおりであるが、
単独行為であつても、相手方に特に不利益を与えない場合には、条件を付すること
が許されるのである。そして、原審の確定したところによれば、被上告人側は訴外
Dに対して、同訴外人が原判示の経過によつて訴外Eに本件不動産売買代金の内金
名義で交付した三〇万円を除いた残額を約定期限である昭和二九年三月二五日まで
に支払えば、無権代理行為たる訴外Dが上告人との間になした右不動産売買契約を
追認する旨約したというのであり、右条件付追認は、訴外Dに対してなされたもの
であつて、上告人に対してなされたものとは解せられないのであるから、上告人は、
右追認によつて当然に不利益な拘束を受けるものではない。のみならず、訴外Dに
対する関係においても、被上告人側は同訴外人が約定期限内に残代金を支払えば前
記売買契約を追認する旨約したというのであるから、右条件を付したことは同訴外
人に対してなんら不利益を与えるものではない。従つて、本件停止条件付追認の効
力を是認した原判決になんらの違法はないから、論旨は採用し得ない。
 同第三点および第四点について。
 論旨は、原審には、訴外Dの代理権消滅に関する上告人の善意ならびに代理権あ
りと信ずるについての上告人の過失の有無につき、挙証責任の分配を誤つたか、或
は採証の法則を誤つた違法があるという。しかし、原審は、その挙示の証拠により
認定した原判示各事実関係を綜合して、第三者たる上告人において訴外Dの代理権
消滅の事実を知らなかつたとしても過失があつたと判断しており、右認定判断は首
肯するに足りるところであつて、その過程に所論経験則に反する点を認め得ない。
従つて、同訴外人につき表見代理の成立を否定した原審は正当であり、所論は、ひ
つきよう、判決に影響のない説示部分を非難するに帰し、採用するに足りない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎

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