弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 特許庁が、同庁昭和五九年審判第八九五七号事件について、平成二年八月二三
日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた判決
一 原告
主文同旨
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
 被告は、「コンピューターワールド」の片仮名文字を横書きにしてなり、指定商
品を第二六類「新聞、雑誌」とする商標登録第一六四八九七五号商標(昭和五六年
二月一三日出願、昭和五八年四月一五日商標出願公告(商公昭五八―三五四二九
号)、昭和五九年一月二六日登録。(以下「本件商標」という。))の商標権者で
あるところ、原告は、昭和五九年五月七日、被告を被請求人として商標登録を無効
とすることについて審判を請求した。
 特許庁は、同請求を同年審判第八九五七号事件として審理した上、平成二年八月
二三日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年
一〇月二四日、原告に送達された。
二 本件審決の理由の要点
1 本件商標の構成、指定商品、本願商標登録出願の日及び設定登録の日は、一の
とおりである。
2 原告(審判請求人)は、「第一六四八九七五号商標の登録は、これを無効とす
る。審判費用は被告(被請求人)の負担とする。」との審決を求め、その理由を次
のように述べ、証拠方法として審判事件甲第一号証ないし同甲第七号証(技番を含
む。)を提出している。
(一) 原告は、「COMPUTERWORLD」なる世界的に著名な名称のコン
ピューターソフトウエアに関する新聞の発行者であり、米国で登録第八五七〇六六
号の商標「COMPUTERWORLD」を有しているものである。
(二) 原告が使用する商標「COMPUTERWORLD」(以下「引用商標」
という。)は、コンピューターソフトウエアに関する記事を掲載した新聞として一
九六七年(昭和四二年)に米国で創刊され、以後、わが国を含めた世界各国に広く
販売されているもので、
本件商標の出願日(昭和五六年)以前には、わが国では既にその商標は周知の商標
となっていたものである。
(三) したがって、本件商標は、商標法第四八条第一項第一号に該当し、無効と
されるべきものである。
3 被告(被請求人)は、「本件審判請求は、却下する。又は、本件審判請求は、
成り立たない。審判費用は原告の負担とする。」旨の審決を求め、その理由を次の
ように述べている。
(一) 原告は、本件商標の登録には、商標法第四八条第一項第一号の無効事由が
存する旨主張するが、当該商標法第四八条第一項第一号の内いずれの無効事由に該
当するものであるか明確に記載されていない。したがって、請求の理由が明確にさ
れない本件審判請求は却下されるべきである。
(二) 原告提出のいずれの証拠書類(審判事件甲第一号証ないし同甲第七号証)
をみても、これによって本件商標の出願前にわが国において引用商標が周知であっ
たとすることができない。
 商標が周知であるとするには、あくまで国内の需要者を対象として考えなければ
ならない商標法のもとにおいて、本件商標は、その登録出願前に本件商標と類似す
る引用商標が日本国内において商品「新聞」について周知であったとする原告の主
張は、提出された証拠によって立証されているとは到底考えられない。
 以上のように、原告提出のいずれの証拠書類をもってしても、引用商標は、新
聞、雑誌に使用され、わが国において本件商標の登録出願前に取引者需要者間に広
く認識され、周知となっていたものということはできない。
 したがって、原告が主張する理由は不当なものである。
4 まず、本件審判請求は却下されるべきであると被告が主張しているので、この
点について判断する。
 原告は、本件審判請求において、本件商標は商標法第四八条第一項第一号に該当
し、無効になるべきであると主張しているが、本件商標登録が前記条項のうちのい
ずれの無効事由に該当するものであるか特定していない。しかしながら、請求書に
記載された請求の趣旨及びその理由全体からみて、
原告は本件商標が商標法第四条第一項第一〇号の規定に違反して登録されたもので
あることを本件商標の登録無効の理由にしているものと判断するのが相当である。
 また、原告が主張する商標法第四八条第一項第一号は、同法第四六条第一項第一
号とすべきところ、誤記したものとみられるものである。
 してみれば、本件審判の請求の理由は明確にされているものといえるから、単に
無効事由の法条の明記がないこと、あるいはその誤記の点のみを捉え、本件審判請
求はこれを却下すべきであると主張する被告の理由は採用しえない。
5 そこで、原告の引用商標の周知性に関する主張については、これは商標法第四
条第一項第一〇号の主張をしているものと解して審理する。
 原告は、引用商標が本件商標の登録出願前よりわが国において周知のものであっ
たと主張し、証拠方法として審判事件甲第一号証ないし同甲第七号証を提出してい
るので、各甲号証を順次検討する。
 審判事件甲第一号証は「COMPUTERWORLD」の文字よりなる商標がア
メリカ合衆国において登録されていることを示すのみであり、該商標の周知性につ
いては何らふれていない。
 審判事件甲第二号証、同甲第三号証(購読者による証明書)は、引用新聞の購読
者によるわずか二通の証明書にすぎず、その証明内容についてもいかなる事実に基
づき立証しているのか明らかでなく、これをもって引用商標が本件商標の登録出願
前にわが国において周知であったと認めることはできない。
 審判事件甲第四号証及び同甲第五号証(雑誌新聞総かたろぐ)は、コンピュータ
ー関係の雑誌名を列挙したものであって、引用商標についての記述は全くなく、引
用商標がわが国において周知であったかどうかとは直接関係のないものである。
 審判事件甲第六号証(昭和四八年一月一〇日付「電波新聞」)では「米国でもっ
とも権威あるといわれる「コンピューター・ワールド紙」」との記述があるとして
も、これをもって引用商標がアメリカ合衆国において周知なものであると認めるこ
とができないばかりでなく、同号証は引用商標がわが国において周知であることに
ついては何らふれていない。
 さらに、審判事件甲第七号証(雑誌記事)は、アメリカ合衆国にコンピュータ
ー・ワールドなる専門誌が存在することをうかがわせ、同誌の読者がわが国におい
ても存在することをうかがわせるとしても、これのみをもって引用商標がわが国に
おいて周知であったと認めることはできない。
 以上みてきたように、審判事件甲各号証によってわが国において引用新聞の読者
が存在したことが認められるとしても、審判事件甲各号証にはわが国における引用
新聞の発行の事実又はその発行部数、引用商標の使用開始時期、使用期間、使用地
域、宣伝広告の方法、回数及び内容等、引用商標が実際に盛大に使用されていたこ
とを具体的に明らかにするものはなく、また、引用商標が外国で周知であること、
商品が多数国に輸出されていること等を証するものもなく、他に、引用商標が本件
商標の登録出願前にわが国において周知であったと認めるに足りる証拠はない。
 さらに、職権をもって調査するも、引用商標が本件商標の登録出願前にわが国に
おいて周知なものであったという事実を発見することができなかった。
 してみれば、引用商標は他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間
に広く認識されている商標ということはできない。
6 したがって、本件商標が引用商標と類似するところがあるとしても、本件商標
は、商標法第四条第一項第一〇号の規定に違反してその登録がされたものというこ
とができないから、同法第四六条第一項第一号の規定によりその登録を無効とすべ
きでない。
三 本件審決を取り消すべき事由
 本件審決は、本件商標の登録出願当時、引用商標がわが国において周知であった
のに、引用商標は他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認
識されている商標ということはできないと認定を誤った結果、本件商標は、商標法
第四条第一項第一〇号の規定に違反して登録がされたものということはできず、そ
の登録を無効とすべきでないと判断を誤った違法があるから取り消されなければな
らない。
 即ち、わが国で現実にそれほど使用されていなくても、外国での使用により周知
となった結果、わが国の取引者、
需要者にも広く認識されている商標は、わが国で周知の商標として保護されるべき
である。
 本件商標の登録出願日である昭和五六年二月一六日より前の昭和五五年以前にお
いては、アメリカのコンピュータ関連技術は日本のそれよりも遥かに進んでおり、
原告の発行する新聞「COMPUTERWORLD」を始めとするアメリカの新聞
や雑誌の記事を日本語に翻訳した記事を掲載した雑誌等を日本のコンピュータ関係
者が購読していたことが、甲第二〇号証ないし甲第二六号証に示されている。即
ち、「ピコ」(甲第二〇号証)、「機械工業海外情報」(甲第二一号証)、「海外
電気通信」(甲第二二号証)、「JECCコンピューター・ダイナミック・レポー
ト」(甲第二三号証)に、「COMPUTERWORLD」の記事の翻訳が多数掲
載されていて、日本のコンピューター関係者は、これらの多数の記事が原告の新聞
「COMPUTERWORLD」から提供されていると認識できたものである。
 「COMPUTERWORLD」の記事の翻訳が掲載された右のような雑誌は一
万部以上販売されており、アメリカから日本へ直接送られ販売された英字新聞「C
OMPUTERWORLD」の部数を加えると、「COMPUTERWORLD」
の記事を掲載した新聞雑誌の販売部数は、一万部を遥かに越えていた。昭和五五年
当時のコンピューター関係者は数万人であったから、右の新聞雑誌の一万部以上の
販売部数は、コンピューター関係者にとって引用商標「COMPUTERWORL
D」が周知であることを証明するのに十分である。
第三 請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因一及び二は認め、同三は争う。本件審決の認定判断は正当であり、
原告主張の取消事由はない。
二 原告の発行する新聞「COMPUTERWORLD」の昭和四九年ないし昭和
五四年の日本における販売実績は、年間一一九部ないし一九三部程度であり、この
程度の部数をもって周知性があるとは認められない。
 原告発行の「COMPUTERWORLD」の、日本における購読需要者として
予想される者は、コンピューターのハードのメーカー、ソフトのメーカー、
これらの販売業者、各種ユーザーと業種的にも広範囲に及び、しかも、対象となる
コンピューター自体の機種も広範囲にわたることよりして、その数は相当多数であ
ると推計される。これに対し、現実の日本における原告の新聞「COMPUTER
WORLD」の販売部数は、前記のとおり極めて少ないのであるから、たとえ大型
コンピューターのハードの開発研究や、特定の分野の一部の者がたまたまその名を
知っていたとしても、それをもって周知ということはできない。
三 商標法第四条第一項第一〇号に定められる不登録事由としてのいわゆる周知商
標とは、日本国内における使用により、日本国内において、世人に使用者の商標と
して認識された商標をいうものと解しなければならない(明治四二年法第二条第五
号の解釈について大審院大正三年五月一二日判決(大審院民事判決録二〇輯三八二
ページ)参照)。
 右にいう「商標の使用」とは、本質的には、商標法第二条第三項に定められた
「使用」の定義に相当する行為であり、本件商標の指定商品である「新聞、雑誌」
について具体的にいえば、商標を付した新聞、雑誌を日本国内で定期的に製作、製
造、発売し(外国事業者が外国で製作、製造する新聞、雑誌の場合は、日本国内に
発行拠点を設け)、組織的な販売網を形成して、当該新聞、雑誌を、定期的に、相
当な期間にわたり日本国内の相当広範囲の地域の需要者層に向け、供給を継続する
ことを要するものである。
 原告は、商標「COMPUTERWORLD」の日本国内での使用の概念を誤解
し、第三者である日本国内の各種情報機関の発行する情報誌の中に掲載されている
記事情報の情報源(出典表示)として外国で発行された雑誌類の名称が記載されて
いる事実をもって「商標の使用」にあたるとの誤った解釈を前提として、第三者発
行の雑誌類を多数証拠として提出しているが、その前提自体が失当であり、原告の
主張は理由がない。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本件審決の理由の要点)
は当事者間に争いがない。
二1 成立について当事者間に争いのない甲第七号証によれば、原告は、一九六八
年九月一七日、アメリカにおいて、商業新聞につき一九六七年六月一四日に使用を
開始した「COMPUTERWORLD」という商標について商標登録を得たこと
が認められる。
2 成立について当事者間に争いのない甲第一八号証の一、二及び甲第一九号証の
一、二によれば、原告は、一九六七年(昭和四二年)以来、アメリカで前記「CO
MPUTERWORLD」を表題とする週刊新聞を発行していること、同紙の一九
七四年(昭和四九年)後半の有料発行部数は約六万二四〇〇部ないし六万五九〇〇
部で、同年一一月六日号の有料発行部数六万五九二八部の内アメリカ、カナダ以外
の国(日本を含む)での販売数は二六五二部であったこと、同紙の一九七九年(昭
和五四年)後半の有料発行部数は約九万九三〇〇部ないし一〇万五四〇〇部で、同
年一一月五日号の有料発行部数一〇万四三三四部の内アメリカ、カナダ以外の国
(日本を含む)での販売数は四二九二部であったことが認められる。
3 成立について当事者間に争いのない甲第一七号証及び弁論の全趣旨によれば、
被告の発行する「電波新聞」は、一九七八年(昭和五三年)九月発行の「雑誌新聞
総かたろぐ」では、日刊で発行部数が一九万六〇〇〇部とされ、電気、電波、電
子、電信等の分野の有力な新聞であることが認められ、成立について当事者間に争
いのない甲第六号証によれば、右被告発行の「電波新聞」昭和四八年一月一〇日号
一面の中央に、五段を費やして同社が同年にスタートさせる四大企画を紹介した記
事の中で、「COMPUTERWORLD」紙を、「米国でもっとも権威あるとい
われる『コンピューター・ワールド』紙」と紹介していたことが認められる。
4 前記甲第一七号証、成立について当事者間に争いのない甲第二〇号証の一ない
し二八、甲第二七号証及び甲第二八号証によれば、株式会社コンピューター・エー
ジ社がわが国で発行する週刊雑誌「ピコ」は、情報産業界を対象に内外の業界関係
ニュースをファイル可能なカード形式で要約収録する他、コンピューター関連の記
事を登載するもので、
一九七八年(昭和五三年)九月発行の「雑誌新聞総かたろぐ」では、発行部数が五
一〇〇部とされていること、右「ピコ」の一九七〇年(昭和四五年)六月一日号
(○号)から一九七二年(昭和四七年)一二月一一日号(一三〇号)までの間に発
行された二八の号に、「COMPUTERWORLD」の記事の要約が一件ないし
一一件登載され、その各々にその記事の出所として「COMPUTERWORL
D」の紙名が明示されていたことが認められる。
5 成立に争いのない甲第二一号証の一ないし五四及び甲第二九号証ないし甲第三
一号証によれば、財団法人機械振興協会経済研究所がわが国で発行する月刊の「機
械工業海外情報」は、世界の主要な新聞、雑誌から機械工業関連の記事の抄訳、解
説等を登載するもので、機械工業関係の業界団体、学会、企業からなる同協会の賛
助会員、特別会員に配布され、有料購読、寄贈を含め、昭和五五年三月当時八〇〇
部以上が領布されていたこと、右「機械工業海外情報」の昭和五一年一月から昭和
五五年一二月までの間に発行されたほとんどの号に、「COMPUTERWORL
D」の記事の要約が数件登載され、その各々にその記事の出所として「Compu
trwld」の略号とそれが「COMPUTERWORLD」を示す旨が明示され
ていたことが認められる。
6 成立に争いのない甲第二二号証の一ないし六五及び甲第三二号証によれば、財
団法人電気通信総合研究所がわが国で発行した「海外電気通信」は、世界の新聞、
雑誌の電気、電子、通信関連の記事の索引、記事の抄訳、解説等を登載する月刊誌
で、電気、電子、通信関係の企業、団体からなる同研究所の会員に配布されていた
こと、右「海外電気通信」の昭和五〇年一月号から昭和五五年一二月号までの間に
発行された六五にわたる各号に、「COMPUTERWORLD」の記事の表題程
度の要約が記事索引として数件以上登載され、その各々にその記事の出所として
「COMPUTERWORLD」の紙名が明示されていたことが認められる。
7 成立に争いのない甲第二三号証の一ないし一五、甲第二六号証、
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二四号証の一ないし四及
び甲第二五号証によれば、日本電子計算機株式会社がわが国で発行した季刊誌の
「JECCコンピューター・ダイナミック・レポート」の昭和四八年四月号から昭
和五三年一〇月号までの内の一五にわたる各号には、海外のコンピューター関連の
記事引用文献あるいは海外の新聞、雑誌の記事に基づくコンピューター関係の日誌
的記録の出典の一つとして、「COMPUTERWORLD」が一号当たり一回な
いし数回摘示されていたこと、財団法人日本情報処理開発センターがわが国で発行
した「情報処理ニュース」の昭和四六年九月号から昭和四七年七月号までには、海
外のコンピューター関連の記事の紹介として、「COMPUTERWORLD」の
記事の要約が計五件紹介され、その各々にその記事の出所として「COMPUTE
RWORLD」の紙名が明示されていたこと、同じく財団法人日本情報処理開発セ
ンターが昭和四七年四月にわが国で発行した「海外の情報産業」には、海外のコン
ピューター関連の記事の紹介として、「COMPUTERWORLD」の記事が紹
介され、その記事の出所として「COMPUTERWORLD」の紙名が明示され
ていたこと、社団法人日本電子工業振興会がわが国で発行した「電子工業月報」の
昭和五三年八月号には、海外のコンピューター関連のニュースの紹介として、「C
OMPUTERWORLD」の記事の要約が紹介され、その記事の出所として「C
OMPUTERWORLD」の紙名が明示されていたことがそれぞれ認められる。
三1 ところで、商標法第四条第一項第一〇号所定の「他人の業務に係る商品を表
示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」とは、わが国において商
標として使用された結果「他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間
に広く認識され」るようになった商標をいうだけではなく、主として外国で商標と
して使用され、それがわが国において報道、
引用された結果わが国において「他人の業務に係る商品を表示するものとして需要
者の間に広く認識され」るようになった商標を含むものと解するのが相当である。
 その理由とするところは、次のとおりである。即ち、商標法第四条第一項第一〇
号に定める要件が商標登録拒絶事由、商標登録無効事由とされた立法趣旨には、商
品の出所の混同を防止することが含まれることが明らかである。そして、この立法
趣旨からみれば、主として外国で商標として使用され、それがわが国において、価
値のある商品、権威のある商品を表示する商標として報道、引用された結果、わが
国において「他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識さ
れ」るようになった商標と、わが国において商標として使用された結果「他人の業
務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識され」るようになった商
標とを区別して、前者の商標またはこれに類似する商標の登録を認めることによる
商品の出所の混同を容認する理由はない。また、同号には、「他人の業務に係る商
品を表示するものとして需要者の間に広く認識され」るに至った原因を後者にのみ
限定する文言もない。
 さらに、右条項にいう、「他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の
間に広く認識されている商標」とは、わが国において、全国民的に認識されている
ことを必要とするものではなく、その商品の性質上、需要者が一定分野の関係者に
限定されている場合には、その需要者の間に広く認識されていれば足りるものであ
る。すなわち、その需要者において商品の出所の混同が生じてはならないからであ
る。
2 本件についてこれを見ると、前記二1、2認定の事実によれば、原告は、昭和
四二年以降アメリカで商標「COMPUTERWORLD」を表題とした週刊新聞
を発行し、その有料発行部数は、昭和四九年後半で約六万部強、昭和五四年後半で
約一〇万部前後であったが、アメリカ、カナダ以外の国(日本を含む)での販売数
は右各時期において、二六〇〇部余及び四二〇〇部余であり、その中の日本での販
売数は不明であるが、さらに少数であったものと認められ、他に、
原告の商標「COMPUTERWORLD」が、そのわが国での使用のみによって
わが国において「他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認
識され」るようになったものと認めるに足りる証拠はない。
 しかし、前記二3認定のとおり、被告が発行する「電波新聞」昭和四八年一月一
〇日号の第一面の、同年の同社の四大企画を紹介する記事の中で、「COMPUT
ERWORLD」紙を、「米国で最も権威あるといわれる『コンピューター・ワー
ルド』紙」と紹介していることと、「電波新聞」は、その分野におけるわが国の有
力な新聞であり、自社の企画を紹介する記事の中であっても、ことさらに虚偽の記
載をするものとも認められないこととを勘案すれば、当時「COMPUTERWO
RLD」紙が、アメリカのコンピューター関連の情報紙として、少なくとも最も権
威があるものの一つであると認識されていたものと認められる。
 また、前記二4ないし7認定のとおり、昭和四五年頃から昭和五五年頃までの間
に、「COMPUTERWORLD」紙の記事の要約、表題等が、わが国で発行さ
れた海外のコンピュータ関連のニュースを紹介する雑誌、刊行物に頻繁に紹介さ
れ、それらの紹介記事には出典として「COMPUTERWORLD」紙の名が明
示されていたことによれば、それらの雑誌、刊行物の執筆者、編集者によって、
「COMPUTERWORLD」紙が、アメリカのコンピュータ関連の情報紙とし
て権威があるものの一つであると認識されていたものであること、それらの雑誌、
刊行物の読者は、記事の出典としてしばしば引用される「COMPUTERWOR
LD」を認識し、記憶する機会があったことが認められる。
 また、コンピューターが、そのハードウェア、ソフトウェア、関連機器を含め、
アメリカで、開発、企業化され発展して来たものであり、従来、わが国のコンピュ
ーター、その関連機器、ソフトウェア等の製造、販売関係の企業、技術者、コンピ
ューターを利用する企業、技術者は、アメリカにおけるコンピューターをめぐる情
報に大きな関心を払って来たことは当裁判所に顕著な事実であるところ、
これらの事実によれば、それらの企業の関係者、技術者のアメリカのコンピュータ
ー関連の情報紙についての認識は、前記のわが国の「電波新聞」やコンピューター
関連のニュースを紹介する雑誌、刊行物の執筆者や編集者の認識と大差はない者も
多かったものと推認され、また、そうでない者も、前記のような雑誌、刊行物の
「COMPUTERWORLD」紙の記事の要約等に接し、専門知識を有する者
が、企業活動、専門分野に関する情報を得ようとする場合であるだけに、記事その
ものばかりではなく、その出典についても関心を払うことが多いことから、「CO
MPUTERWORLD」紙の名称を認識、記憶した者が相当あったものと推認さ
れる。
 以上の事実によれば、遅くとも昭和五六年二月一三日の本件商標の登録出願の前
までには、アメリカのコンピューター関係の情報紙の一つとして「COMPUTE
RWORLD」紙の名称が、その商品の性質上予測されるわが国内の需要者であ
る、わが国のコンピューター、その関連機器、ソフトウェア等の製造、販売関係の
企業の関係者、技術者、コンピューターを利用する企業の関係者、技術者に広く認
識されていたものと認められる。
 もっとも、「COMPUTERWORLD」がアメリカにおいて原告が登録を有
する「商標」であることがそれらの者に広く認識されていたものとは認めるに足り
る証拠はないが、特定の者が商品として発行する新聞の名称として広く認識されて
いたことは明らかであり、他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間
に広く認識されていた商標に当たると解することができる。
3 被告は、商標法第四条第一項第一〇号所定のいわゆる周知商標とは、日本国内
における使用により、日本国内において、世人に使用者の商標として認識された商
標をいうものと解しなければならないとの解釈を前提に、引用商標は周知とはいえ
ない旨主張するが、右解釈自体採用できないことは、前記1のとおりである。
 また、被告は、「COMPUTERWORLD」紙の日本における購読需要者層
として予測される者は相当多数であるのに、
「COMPUTERWORLD」紙の日本における販売実績が少数であることか
ら、引用商標には周知性がない旨主張するが、右2に認定判断した事実関係のもと
では、「COMPUTERWORLD」紙の販売実績が少数であることから引用商
標が周知でないとすることはできない。
4 したがって、「COMPUTERWORLD」は、本件商標の登録出願前に、
他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていた商標
に当たるものであるのに、本件審決が、引用商標が他人の業務に係る商品を表示す
るものとして需要者の間に広く認識されている商標ということはできないとし、本
件商標と引用商標との同一性、類似性について検討することなく、原告の審判請求
は成り立たないとした認定判断は誤りである。
四 よって、本件審決に所論の違法があるとしてその取消を求める原告の本訴請求
は正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法
第七条、民事訴訟法第八九条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 元木伸 西田美昭 島田清次郎)

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