弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士熊谷誠、同平川巴、同大森正樹の上告理由は別紙のとおりであ
る。
 上告理由第一点について。
 原判決の確定するところによれば、被上告人東京国税局長がした本件審査決定の
通知書には、棄却の理由としては、「貴社の審査請求の趣旨、経営の状況、その他
を勘案して審査しますと、芝税務署長の行つた青色申告屈出承認の取消処分は誤り
がないと認められますので、審査の請求には理由がありません。」と記載されてい
たというのである。
 法人税法三五条五項(昭和三七年法律六七号による削除前)が、審査決定の書面
に理由を附記すべきものとしているのは、訴願法や行政不服審査法による裁決の理
由附記と同様に、決定機関の判断を慎重ならしめるとともに、審査決定が審査機関
の恣意に流れることのないように、その公正を保障するためと解されるから、その
理由としては、請求人の不服の事由に対応してその結論に到達した過程を明かにし
なければならない。ことに本件のように、当初税務署長がした処分に理由の附記が
ない場合に、請求人の請求を排斥するについては、審査請求書記載の不服の事由が
簡単であつても、原処分を正当とする理由を明らかにしなければならない。このよ
うに考えるならば、前記、本件審査決定の理由は、理由として不備であることが明
白であつて、この点に関する原判示は正当である。このことは、請求人が棄却の理
由を推知できる場合であると否とにかかわりのないものと解すべきである。
 しかるに原判決は「審査決定の当否を審査する訴訟においては審査決定の結論が
違法であるか否かに基いてこれを維持すべきか否かを決すべきであつて、審査決定
に附してあつた理由が不備であるということだけで、審査決定を取り消すことは許
されないものというべきであろう。」とし、上告人の審査決定の取消を求める本訴
請求を棄却しているのである。しかし、法律が審査決定に理由を附記すべき旨を規
定しているのは、行政機関として、その結論に到達した理由を相手方国民に知らし
めることを義務づけているのであつて、これを反面からいえば、国民は自己の主張
に対する行政機関の判断とその理由とを要求する権利を持つともいえるのである。
従つて、原判決のいうように、審査決定に対する不服の訴訟において、当事者が、
審査請求に際しての主張事実、決定に際しての認定事実等に拘束されないという一
事をもつて、理由附記に不備のある決定を取り消すことがゆるされないということ
はできない。換言すれば、理由にならないような理由を附記するに止まる決定は、
審査決定手続に違法がある場合と同様に、判決による取消を免れないと解すべきで
ある。
 しかし、本件の場合は、上告人は芝税務署長がした原処分の取消をも訴求してお
り、その理由がないことは、原判示のとおりであり、上告人も本件上告において取
消処分の内容については何等の不服も述べていないのである。審査請求も、結局は、
上告人に対する青色申告書提出承認の取消処分の取消を求める趣旨である以上、上
述のような理由附記の不備を理由に、本件審査決定を取り消すことは全く意味がな
いことというべきであろう。けだし、本件決定を取り消し、東京国税局長が、あら
ためて理由を附記した決定をしても、すでに青色申告提出承認の原取消処分の違法
でないことが本判決で確定している以上、決定の取消を求める訴においても、裁判
所はこれと異なる判断をすることはできないからである。
 以上の理由により、原判決が、上告人の審査決定の取消請求を棄却したのは結論
において正当であり、論旨は理由がないことに帰する。
 同第二点について。
 論旨は、原判決が、本件青色申告書提出承認取消処分の通知書に日附の記載のな
いことは、処分の取消事由にはならないとしたのを非難するのである。
 しかし、原判決が説明するように、日附の記載は取消処分の通知の要件と解すべ
きではなく、通知はその日附いかんにかかわりなく、到達したときに効力を生ずる
ものと解すべく、本件通知が昭和三〇年六月一日に到着したことについて当事者間
に争がない以上、日附の記載がなかつたという一事をもつて、右取消処分を違法と
はいえない。青色申告書提出が承認されている以上、更正処分には理由を附記する
を要することは論旨のとおりであるが、本訴は更正の適否に関する訴訟ではないか
ら、所論の点は、原判決の当否に関係がない。
 以上説明するように、論旨はすべて理由がないから本件上告は棄却すべきものと
し、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官奥野健一、同山田作
之助の少数意見あるほか、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
 裁判官奥野健一、同山田作之助の少数意見は次のとおりである。
 被上告人東京国税局長がした本件審査決定の通知書に記載されている棄却の理由
が、法人税法三五条五項に要求されている審査決定の理由として不備であることは
多数意見の判示のとおりであり、原判決の上告人の審査決定の取消を求める本訴請
求を棄却している理由も是認できないことはまた多数意見のとおりである。従つて
原判決を破棄し右被上告人のした審査請求の棄却決定はこれを取り消すべきもので
ある。
 そして本件審査決定が取り消され、被上告人東京国税局長が改めて審査決定をす
る場合に本件青色申告提出承認の取消処分も不当又は違法として取り消される可能
性が全然ないとは断定できないのであるから、本件審査決定を取り消す意味が全く
ないとはいえない。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介

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