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平成26年6月27日判決言渡
平成23年(行ウ)第370号法人税更正処分取消等請求事件
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1麹町税務署長が原告に対し平成21年10月29日付けでした,原告の被合
併法人である株式会社A(以下「A」という。)の平成20年1月29日から
同年4月30日までの事業年度(以下「平成20年4月期」という。)の法人
税に係る更正をすべき旨の請求(以下「本件更正の請求」という。)に対する
更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)を取
り消す。
2麹町税務署長が原告に対し平成22年3月31日付けでした,①Aの平成2
0年4月期の法人税の更正の処分(以下「平成20年4月期更正処分」とい
う。)のうち所得の金額がマイナス17億2998万2665円を超え,翌期
へ繰り越す欠損金額が17億2998万2665円を下回り,納付すべき税額
がマイナス2億0139万3906円を超える部分及び②平成20年4月期更
正処分に係る過少申告加算税の賦課決定の処分(以下「平成20年4月期賦課
決定処分」といい,これと平成20年4月期更正処分とを併せて以下「平成2
0年4月期更正処分等」という。)を,いずれも取り消す。
3麹町税務署長が原告に対し平成22年3月31日付けでした,原告の平成2
0年1月1日から同年12月31日までの連結事業年度(以下「平成20年1
2月連結期」という。)の法人税の更正の処分(以下「平成20年12月連結
期更正処分」といい,平成20年4月期更正処分と平成20年12月連結期更
正処分を併せて以下「本件各更正処分」といい,本件各更正処分と平成20年
4月期賦課決定処分を併せて以下「本件各更正処分等」という。)のうち連結
所得の金額がマイナス282億8814万7654円を超え,翌期へ繰り越す
連結欠損金額が282億8814万7654円を下回る部分を取り消す。
第2事案の概要等
1事案の要旨
(1)ア原告は,平成20年12月連結期から連結納税の承認を受けている持株
会社であり,同年5月1日,原告を合併法人とし,Aを被合併法人とする
吸収合併(以下「本件合併」という。)をしたため,同社の平成20年4
月期の法人税の申告及び納税の義務を承継した。
イ(ア)原告は,①Aが発行済株式の100%を引き受け,英国領ケイマン諸
島(以下「ケイマン」という。)に本店を有するものとしケイマン法を
準拠法として設立された日本国内に支店を有する外国法人であるBが租
税特別措置法(平成20年法律第23号による改正前のもの。以下「措
置法」という。)66条の6第1項及び租税特別措置法施行令(平成2
0年政令第161号による改正前のもの。以下「措置令」という。)3
9条の14第1項にいう特定外国子会社等(以下単に「特定外国子会社
等」という。)に該当するものとして,Aの平成20年4月期の法人税
の確定申告をしたが,②その後,Bが同社の平成19年4月1日から同
年12月31日までの事業年度(以下「B平成19年12月期」とい
う。)においてAに係る特定外国子会社等に該当しなかったとして,A
の平成20年4月期の法人税に係る本件更正の請求をした。
(イ)麹町税務署長は,①本件更正の請求に対し,更正をすべき理由がな
い旨の本件通知処分をするとともに,②Aの平成20年4月期の法人税
につき,BがB平成19年12月期においてAに係る特定外国子会社等
に該当し,特定外国子会社等の「課税対象留保金額」(措置法66条の
6第1項)の益金の額への算入漏れがあるなどとして,平成20年4月
期更正処分等をした。
ウ①原告は,平成20年12月連結期の連結所得の金額の計算につき,原
告がAの平成20年4月期における翌期へ繰り越す欠損金額を承継したも
のとして,平成20年12月連結期の法人税の申告をしたところ,②麹町
税務署長は,平成20年4月期更正処分を前提に,欠損金額の損金の額へ
の算入額が過大であるとして,平成20年12月連結期更正処分をした。
(2)本件は,原告が,①特定外国子会社等の範囲について定める措置令39条
の14第1項1号の規定は,措置法66条の6第1項のいわゆる柱書きの規
定による委任の範囲を超える無効なものである,②B平成19年12月期に
おいて,Bは国内源泉所得(法人税法141条1号,143条)のみを有し
ていたものであるところ,いわゆる外国子会社合算税制の趣旨,これに関す
る措置令の規定の内容等に照らせば,○ア特定外国子会社等の国内源泉所得は,
措置法66条の6第1項の「課税対象留保金額」には該当せず,○イまた,B
は同期においてAに係る特定外国子会社等に該当しないものというべきであ
り,○ウさらに,少なくとも本件事案に限っては,同税制に関する措置法及び
措置令の規定を限定解釈し,同期におけるBにはこれらの規定は適用されな
いものと解すべきであるなどと主張して,本件通知処分及び本件各更正処分
等(これらを総称して以下「本件各処分」という。)の各取消し(ただし,
平成20年4月期更正処分につき取消しを求める範囲は,前記第1の2①の
とおり。)を求める事案である。
2関係法令等の定め
別紙1(関係法令等の定め)に記載のとおりである(同別紙において定めた
略称は,以下においても用いることとする。)。
3前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがないか,当事者に
おいて争うことを明らかにしない事実である。以下「前提事実」という。)
(1)原告等
ア原告は,米国法人であるCのいわゆる100%子会社であり,金融商品
取引法に規定する金融商品取引業等を営む外国会社の株式を有することに
より,当該会社の事業活動を支配・管理することを目的とする株式会社で
ある。
イAは,平成14年2月18日,その子会社であるD株式会社(以下
「D」という。)が有していたいわゆる政策保有株式の一部を譲り受ける
ための法人として,その発行済株式の100%を引き受け,ケイマン法を
準拠法とし(乙7),ケイマンを本店の所在地とするBを設立した。そし
て,Dは,同年3月末,その有していた政策保有株式(時価約317億円,
簿価約463億円)を,A及びB(E支店)に売却した。
なお,Bは,その設立時から東京にのみ支店を有しているところ,ケイ
マンに所在する同社の本店に実態はなく,上記の政策保有株式の管理はE
支店において行われており,同社の全ての資産,負債及び損益は,E支店
に帰属している(乙6,7)。また,Aは,B平成19年12月期終了時
においてもBの発行済株式の全部を有していた(乙10)。
(2)BによるB平成19年12月期の法人税等の納付等
アBのB平成19年12月期の所得の金額は,385億8167万050
8円であったところ,同社は,平成20年1月22日,200億円を配当
する旨の決議をし,同月25日,Aに対し,上記200億円を配当(以下
「本件配当金」という。)として支払った。
イBは,平成20年2月6日,B平成19年12月期の本邦における法人
税,法人住民税及び法人事業税につき,前記アの385億8167万05
08円を同期の所得の金額(この金額を以下「本件所得」という。)とし
て確定申告をし(甲4の1・2),同月29日,上記の法人税等として合
計178億1406万4000円(法人税115億2640万6300円,
法人住民税23億9672万9800円,法人事業税38億9092万7
900円)を納付した(上記法人住民税及び法人事業税の納付につき弁論
の全趣旨)。
(3)原告とAとの合併等
ア原告は,平成20年1月29日,Aとの間で,原告の完全親会社である
Cの普通株式を交付するものとする株式交換(いわゆる三角株式交換)を
し,これにより,Aは,原告の完全子会社となった。また,Aは,同日,
原告を連結親法人とする連結法人に属することとなった。
イ原告は,平成20年5月1日,原告を合併法人とし,Aを被合併法人と
する吸収合併(本件合併)をし,同社の平成20年4月期の法人税の申告
及び納税の義務を承継した。
(4)確定申告等
アAの平成20年4月期の法人税について
(ア)原告は,平成20年7月30日,BがAに係る特定外国子会社等に該
当するものとして,別表1中の「原告被合併法人(株)A平成20年
4月期」の表の「①確定申告」欄記載のとおり,Aの平成20年4月期
の法人税の確定申告をした。同申告に係る確定申告書(甲5の1。以下
「平成20年4月期確定申告書」という。)の別表十七(二)(特定外
国子会社等に係る課税対象留保金額又は個別課税対象留保金額の計算に
関する明細書)には,課税対象留保金額として7億6760万6508
円(本件所得385億8167万0508円を「未処分所得の金額」
〔措置法66条の6第1項〕とし,それから前記(2)イの法人税等の額
である178億1406万4000円及び本件配当金の額である200
億円を控除した金額)と記載され,その別表四(所得の金額の計算に関
する明細書)においては,上記の課税対象留保金額が益金の額に加算さ
れている。
(イ)原告は,平成21年7月31日,BはB平成19年12月期において
Aに係る特定外国子会社等に該当しなかったとして,別表1中の「原告
被合併法人(株)A平成20年4月期」の表の「②更正の請求」欄記
載のとおり本件更正の請求をした。
イ原告の平成20年12月連結期について
原告は,平成21年6月1日,原告がAの平成20年4月期における翌
期へ繰り越す欠損金額を承継したものとして,別表1中の「原告F
(株)平成20年12月連結期」の表の「⑩確定申告」欄のとおり,原
告の平成20年12月連結期の法人税の確定申告をした(同申告に係る確
定申告書〔以下「平成20年12月連結期確定申告書」という。〕は甲
6)。
(5)本件通知処分及び本件各更正処分等の経緯等
ア麹町税務署長は,原告に対し,平成21年10月29日付けで,別表1
中の「原告被合併法人(株)A平成20年4月期」の表の「③通知処
分」欄記載のとおり,本件更正の請求に対して更正をすべき理由がない旨
の本件通知処分をした。
イ麹町税務署長は,原告に対し,平成22年3月31日付けで,①特定外
国子会社等に係る課税対象留保金額の加算漏れ等を理由として,別表1中
の「原告被合併法人(株)A平成20年4月期」の表の「⑥更正処分」
欄記載のとおり平成20年4月期更正処分等をするとともに,②分割前事
業年度等の欠損金額の損金の額への算入額が過大であること等を理由とし
て,別表1中の「原告F(株)平成20年12月連結期」の表の「⑪
更正処分」欄記載のとおり平成20年12月連結期更正処分をした。
ウ本件通知処分及び本件各更正処分等についての異議申立てないし審査請
求,これらについての決定ないし裁決の経緯は,別表1(ただし,各表中
の前記ア及びイにおいて言及した各欄を除く。)記載のとおりである。
(6)本件訴えの提起
原告は,平成23年6月10日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な
事実)。
4本件各更正処分等の根拠及び適法性に関する被告の主張
別紙3(争点に関する当事者の主張の要点)中に被告の主張の要点として摘
示されているもののほか,別紙2(本件各更正処分等の根拠及び適法性に関す
る被告の主張)に記載されているとおりである(これらの別紙において定めた
略称は,以下においても用いることとする。)。
5争点
(1)本件訴えのうち本件通知処分の取消請求に係る部分についての訴えの利益
の有無(争点1)
(2)特定外国子会社等の範囲について定める措置令39条の14第1項1号の
規定が措置法66条の6第1項の柱書きの規定による委任の範囲を超える無
効なものであるか否か(争点2)
(3)Bの国内源泉所得が措置法66条の6第1項にいう「課税対象留保金額」
に該当するか否か(争点3)
(4)B平成19年12月期においてBがAに係る特定外国子会社等に該当する
か否か(争点4)
(5)本件の事案に限って外国子会社合算税制に関する措置法及び措置令の規定
を限定解釈し,B平成19年12月期におけるBについてはこれらの規定が
適用されないものと解すべきであるか否か(争点5)
6争点に関する当事者の主張の要点
別紙3(争点に関する当事者の主張の要点)に記載されているとおりである。
第3当裁判所の判断
1本件訴えのうち本件通知処分の取消請求に係る部分についての訴えの利益の
有無(争点1)について
(1)被告は,①総額主義の下では,通知処分の取消訴訟における審理の対象は,
税額全体であって,通知処分の取消訴訟と増額更正処分の取消訴訟とは,審
理の対象が重なり合い,これらの処分を別々の訴訟で争わせると,同一の納
税義務についての裁判所の判断に矛盾・抵触が生ずるおそれがある,②通知
処分が申告税額の減少の理由の有無についてのみに関わるのに対し,増額更
正処分は,納付すべき税額全体に関わり,申告税額を正当でないものとして
否定し,これに増額更正を加えて税額の総額を確定するものであって,増額
更正処分の内容は通知処分の内容を包摂する関係にあるといい得るから,通
知処分と増額更正処分が相前後してされた場合は,通知処分が増額更正処分
に吸収され,増額更正処分のみが取消訴訟の対象となると解すべきであるな
どとして,本件訴えのうち本件通知処分の取消請求に係る部分については,
訴えの利益を欠く旨主張する。
(2)納付すべき税額の確定の手続について申告納税方式によるものとされる国
税においては,納付すべき税額は,納税者のする申告によって確定すること
が原則とされ(通則法16条1項1号),納税者においてその申告に係る既
に確定した税額を減少させるためには,税務署長等に対して更正の請求をし,
その請求に係る課税標準等又は税額等についての調査により上記申告に係る
税額を減少させる更正の処分(以下「減額更正処分」という。)がされるこ
とを要するのであって(同法23条),上記の調査によっても更正をすべき
理由がない旨をその請求をした者に通知する処分(通知処分)は,納税者の
更正の請求に対して税務署長等がその請求において理由とされたところをも
って減額更正処分をすることを拒否する応答をするものであって,これがさ
れることを通じ,納付すべき税額が申告により既に確定したとおりであるこ
とが確認される意味を持つものということができる(なお,税務署長等が更
正の請求がされたことを契機として当該請求において理由とされたところと
は別の事由に基づき職権により減額更正処分をする場合については,ひとま
ずおく。)。一方,税務署長等が申告に係る税額を増加させる更正の処分
(増額更正処分)をした場合においては,納税者の納付すべき税額は当該増
額更正処分により改めて確定されるが(同法16条1項1号等参照),納税
者が更正の請求の手続(同法23条1項参照)を執ることなくその取消しを
求めることができるのは,当該増額更正処分に係る税額のうち納税者の申告
に係る税額を超える部分のみである(同法29条1項参照)。このように,
増額更正処分と通知処分とは,内容を異にし別個の効果を有する処分であり,
関係法令を見ても,それぞれについて個別に審査請求ないし訴訟の対象とす
ることを妨げる明文規定は見当たらず,また,通知処分がされた後に増額更
正処分がされた場合において,通知処分が増額更正処分に吸収される旨を定
めた規定や,納税者が増額更正処分についての審査請求やその取消しの訴え
の中で,増額更正処分のうち納税者の申告に係る税額を超える部分のみなら
ず,上記申告に係る税額と更正の請求に係る税額との差額部分についても,
併せて当然に取消しを求めることができる旨を定めた規定も見当たらない。
そうすると,納税者において,後にされた増額更正処分のうち納税者の申告
に係る税額と更正の請求に係る税額との差額部分を争うためには,通知処分
について適法に不服申立てをした上で適法にそれの取消しの訴えを提起する
ことが必要とされるものというべきであるから,本件訴えのうち本件通知処
分の取消請求に係る部分について,訴えの利益を欠くということはできない。
被告が指摘する同一の納税義務についての判断の矛盾・抵触という問題につ
いては,不服申立てに関しては,併合審理によって対処するものとされてお
り(同法104条),訴訟に関しても,同様に,請求の併合(行政事件訴訟
法13条等)ないし口頭弁論の併合(同法7条,民事訴訟法152条1項)
によって対処することが可能であるところ,不服の利益の消長をめぐって訴
訟においては不服申立てにおけるのと異なる取扱いをするのを相当とする根
拠となるべき法令の規定は見当たらず,上記の点をもって既に述べたような
当裁判所の判断を左右するものとはいえない。
以上のとおりであって,争点1に関する被告の主張は,採用することがで
きない。
2外国子会社合算税制の概要
(1)措置法66条の6第1項等の定め
ア措置法66条の6第1項は,内国法人に係る特定外国子会社等が,各事
業年度において,適用対象留保金額を有する場合には,その適用対象留保
金額のうち課税対象留保金額に相当する金額を,その内国法人の収益の額
とみなして当該内国法人の一定の事業年度の所得の金額の計算上,益金の
額に算入する旨を定めている。
そして,特定外国子会社等とは,同項の規定による委任に基づき定めら
れた措置令39条の14第1項において,①法人の所得に対して課される
税が存在しない国又は地域に本店又は主たる事務所を有する外国関係会社
(同項1号)及び②その各事業年度の所得に対して課される租税の額が当該
所得の金額の100分の25以下である外国関係会社(同項2号)をいう
ものとされている。
イ一方,措置法66条の6第4項は,同条1項及び3項の規定は,同条1
項各号に掲げる内国法人に係る同条3項に規定する特定外国子会社等がそ
の本店又は主たる事務所の所在する国又は地域において固定施設を有する
ものである場合(同条3項参照)であって,各事業年度においてその行う
主たる事業が同条4項各号に掲げる事業のいずれに該当するかに応じ当該
各号に定める場合に該当するときは,当該特定外国子会社等のその該当す
る事業年度に係る適用対象留保金額については,適用しない旨を定めてい
る。
(2)外国子会社合算税制の趣旨及び目的
ア外国子会社合算税制は,いわゆるタックス・ヘイブン(軽課税国)にそ
の本店等が所在する外国法人で我が国の法人又は居住者により株式又は出
資の保有を通じて支配されているとみなされるものの留保所得をそれらの
我が国の株主のいわゆる持分に応じてその所得に合算して課税するという
ものである(甲12)。その目的は,タックス・ヘイブンにある子会社等
で我が国の株主により支配されているようなものに我が国の株主が所得を
留保し,我が国での税負担を不当に軽減することを規制することにあり,
特定外国子会社等の適用対象留保金額のうち株主の持分に応じて計算され
る課税対象留保金額を「収益の額とみなして」これを合算して課税すると
いう課税方法が採用されているのは,株主たる内国法人又は居住者に係る
課税対象留保金額が,通常であれば当該内国法人又は居住者に対する剰余
金の配当等として支払われるべき性質のものであり,株主は子会社等にそ
うさせるだけの支配力を有しているにもかかわらず,子会社等が剰余金の
配当等を全くあるいはわずかしかせず,留保所得を蓄積しているところに
税の回避を推認し得るという考え方の表れであるとされている(乙8)。
そして,ある国又は地域がタックス・ヘイブンに該当するか否かについ
て,外国子会社合算税制の導入時においては,昭和53年大蔵省告示第3
8号により,タックス・ヘイブンに該当する国又は地域が具体的に指定さ
れていた(乙9。いわゆる軽課税国指定制度)が,平成4年の税制改正に
おいて,税の回避に利用されやすい課税上の措置を講ずる国があとを絶た
ず,諸外国の税制改正のめまぐるしい動きを漏れなく適時適切に把握する
ことは非常に困難となってきたことから,上記のような軽課税国指定制度
は廃止され,個々の外国関係会社ごとに,特定外国子会社等に当たるか否
かを判定することとされたものである(甲13)。
このように,措置法66条の6第1項の規定は,内国法人が,法人の所
得に対して課される税の負担がないか又は本邦におけるそれに比して著し
く低い国又は地域に子会社を設立して経済活動を行い,当該子会社に所得
を留保することによって,我が国における税の負担を回避しようとする事
例が生ずるようになったことから,課税要件を明確化して課税執行面にお
ける安定性を確保しつつ,このような事例に対処して税負担の実質的な公
平を図ることを目的として,一定の要件を満たす外国会社を内国法人に係
る特定外国子会社等と規定し,これが適用対象留保金額を有する場合に,
当該内国法人の有する株式等に対応するものとして算出された一定の金額
を当該内国法人の所得の金額の計算上益金の額に算入することとしたもの
ということができる(前掲最高裁平成19年9月28日第二小法廷判決,
前掲最高裁平成21年10月29日第一小法廷判決参照)。
イ一方,特定の内国法人に係る特定外国子会社等に該当する外国法人であ
っても,独立企業としての実体を備え,その所在する国又は地域において
事業活動を行うことにつき十分な経済合理性がある場合にまで上記の取扱
いを及ぼすとすれば,当該内国法人の海外進出を不当に阻害するおそれが
あることから,措置法66条の6第4項は,特定外国子会社等の事業活動
が固定施設を有し実体を備えていることなど経済合理性を有すると認めら
れるための要件を法定した上,これらの要件が全て満たされる場合には同
条1項の規定を適用しないこととしたものである(前掲最高裁平成21年
10月29日第一小法廷判決参照)。
(3)課税対象留保金額の計算
課税対象留保金額は,概要,まず内国法人に係る特定外国子会社等の「未
処分所得の金額」を計算し,それから法人所得税の額等を控除して「適用対
象留保金額」を計算した上で,これに当該内国法人が有する株式の割合を乗
じて計算される。
ア未処分所得の金額(措置法66条の6第2項2号)
未処分所得の金額とは,特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく
所得の金額につき,法人税法及び措置法による各事業年度の所得の金額の
計算に準ずるものとして政令で定める基準により計算した金額を基礎とし
て政令で定める調整を加えた金額をいう(措置法66条の6第2項2号)。
そして,上記の政令で定める基準により計算した金額は,原則として,特
定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額について,一定の
「本邦法令の規定」の例に準じて計算した場合に算出される所得の金額等
により計算することとなるが(措置令39条の15第1項),これにかか
わらず,当該特定外国子会社等の「本店所在地国の法令」の規定により計
算した所得の金額により計算することも認められている(同条2項)。
なお,内国法人に係る特定外国子会社等の各事業年度につき控除対象配
当等の額がある場合には,措置法66条の6第2項2号に規定する政令で
定める基準により計算した金額は,上記のいずれかの方法により計算した
金額から,当該控除対象配当等の額を控除した残額とするものとされてい
る(措置令39条の15第3項)。
イ適用対象留保金額(措置令39条の16第1項)
適用対象留保金額は,特定外国子会社等の各事業年度の未処分所得の金
額から,当該各事業年度において納付をすることとなる法人所得税の額及
び当該各事業年度を基準事業年度とする剰余金の配当等の額の合計額を控
除した残額である。
ウ課税対象留保金額(措置令39条の16第2項)
課税対象留保金額は,前記イの適用対象留保金額に,当該特定外国子会
社等の当該各事業年度終了の時における発行済株式等のうちに当該各事業
年度終了の時における当該内国法人の有する当該特定外国子会社等の請求
権勘案保有株式等の占める割合を乗じて計算した金額である。
(4)二重課税の調整
前記(1)により,内国法人に係る特定外国子会社等の課税対象留保金額に
相当する金額を当該内国法人の所得の金額の計算上益金の額に算入した上で
課税がされた場合において,その合算の対象とされた所得に対して当該特定
外国子会社等の本店等の所在する国等で税が課されていれば,いわゆる二重
課税が生ずることとなる。その調整をするため,以下のア及びイのとおり,
課税対象留保金額等に係る外国法人税の額の控除及び課税済留保金額の損金
算入に関する規定が設けられている。
ア課税対象留保金額等に係る外国法人税の額の控除
(ア)措置法66条の7等
措置法66条の7第1項は,内国法人に係る特定外国子会社等の所得
に対して課される外国法人税の額のうち,課税対象留保金額に対応する
ものとされる部分の金額を,当該内国法人が納付する控除対象外国法人
税の額とみなして当該内国法人の納付すべき法人税の額の計算に当たり
外国税額の控除(法人税法69条)をすることができる旨を定めている。
そして,当該控除対象外国法人税の額とみなされる特定外国子会社等
の課税対象留保金額に係る外国法人税の額は,課税対象年度の所得に対
して課される外国法人税の額に,当該課税対象年度に係る適用対象留保
金額と当該適用対象留保金額の計算上控除される剰余金の配当等の額と
の合計額のうちに当該内国法人に係る課税対象留保金額の占める割合を
乗じて計算した金額(当該金額が当該課税対象留保金額を超える場合に
は,当該課税対象留保金額に相当する金額)とされている(措置令39条
の18第1項)。
なお,措置法通達66の6-20は,措置法66条の7第1項及び措
置令39条の14第2項1号に規定する外国法人税の額には,特定外国
子会社等が法人税法138条又は所得税法161条に規定する国内源泉
所得に係る所得について課された法人税,所得税及び法人税法38条2
項2号に掲げるものの額を含めることができる旨を定めている。
(イ)法人税法69条
法人税法69条1項は,内国法人が各事業年度において外国法人税を
納付することとなる場合には,控除限度額を限度として,控除対象外国
法人税の額を当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する旨を
定めている(ただし,繰越控除限度額があるときは,その繰越控除限度
額を限度として,その超える部分の金額を当該事業年度の所得に対する
法人税の額から控除し〔同条2項〕,繰越控除対象外国法人税額がある
ときは,当該控除限度額から当該事業年度において納付することとなる
控除対象外国法人税の額を控除した残額を限度として,その繰越控除対
象外国法人税額を当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する
〔同条3項〕こととなる。)。
イ課税済留保金額の損金算入(措置法66条の8等)
特定外国子会社等の課税対象留保金額に相当する金額の益金の額への算
入の規定(措置法66条の6第1項)の適用を受けた内国法人が,当該特
定外国子会社等から剰余金の配当等の支払を受けた場合は,課税済留保金
額に相当する金額は,課税対象留保金額から充てられたものとして計算し
た金額に相当する金額を限度として,当該内国法人の所得の金額の計算上,
損金の額に算入するものとされている。
ウ二重課税の調整の趣旨
前記ア(ア)及びイの課税対象留保金額等に係る外国法人税の額の控除及
び課税済留保金額の損金算入に係る規定は,外国子会社合算税制の適用に
より発生する二重課税の調整をするものである。
すなわち,①前記ア(ア)は,それに相当する金額が内国法人の益金の額
への算入の対象となる課税対象留保金額に対して既に外国法人税が課され
ているとすると,同一の所得に対して外国法人税と我が国の法人税とが二
重に課される(経済的な意味において二重課税が生ずる)こととなるので,
この二重課税の調整を外国税額の控除の制度の方式によりすることとした
ものであり,これは,外国子会社合算税制の対象となる内国法人が特定外
国子会社等を利用しなかった場合とほぼ等しい税負担となるように調整す
ることを意図したものと解される(前掲最高裁平成21年10月29日第
一小法廷判決参照)。②また,前記イは,上記のように課税対象留保金額
に相当する金額が内国法人の益金の額への算入の対象とされ,当該内国法
人に対して我が国の法人税が課されている場合において,その金額を原資
とする特定外国子会社等からの剰余金の配当等があったときには,それに
ついても法人税が課され,同一の所得に対して我が国の法人税が二重に課
されることとなるので,この二重課税の調整を過去10年以内に当該内国
法人の益金の額に算入された金額の一部を逆に損金の額に算入するという
方式によりすることとしたものである(甲12)。
3Bの国内源泉所得が措置法66条の6第1項にいう「課税対象留保金額」に
該当するか否か(争点3)について
(1)措置法66条の6第1項等の規定の文理解釈について
ア(ア)前記2(3)のとおり,措置法66条の6第1項所定の「課税対象留保
金額」の計算の基となる特定外国子会社等の「未処分所得の金額」とは,
特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき,法人
税法及び措置法による各事業年度の所得の金額の計算に準ずるものとし
て政令で定める基準により計算した金額を基礎として政令で定める調整
を加えた金額をいうものとされ(措置法66条の6第2項2号),上記の
政令で定める基準により計算した金額は,原則として,特定外国子会社
等の各事業年度の決算に基づく所得の金額について,一定の「本邦法令
の規定」の例に準じて計算した場合に算出される所得の金額等により計
算することとなるが(措置令39条の15第1項),これにかかわらず,
当該特定外国子会社等の「本店所在地国の法令」の規定により計算した
所得の金額により計算することも認められるものとされている(同条2
項)。
(イ)一般に,「決算」とは,一定の期間における収入,支出,損益等の
全ての実績を明らかにして予算と対比することをいい,決算の際に作成
される帳簿書類(総勘定元帳における各勘定)等には,当該企業に関わ
る全ての取引が記録されることからすれば,措置法66条の6第2項2
号及び措置令39条の15第1項にいう「特定外国子会社等の各事業年
度の決算に基づく所得の金額」とは,特定外国子会社等の各事業年度の
全ての所得(いわゆる全世界所得)の金額を指すと解するのが,その文
言上,最も素直である。
(ウ)措置法66条の6第2項2号において,内国法人に係る特定外国子会
社等の未処分所得の金額が「法人税法及び措置法による各事業年度の所
得の金額の計算に準ずるものとして政令で定める基準により計算した金
額を基礎」とするものと定められているのは,当該内国法人の益金の額
に算入するものとする金額の計算は基本的には我が国の税法における所
得の金額の計算の基準に従って統一的に行うことが望ましいとの考え方
に立つものと解され,措置令39条の15の規定もこれを前提として定
められたものと解される。
そして,①特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額
について,「本邦法令の規定」の例に準じて計算する場合(同条1項)
には,同項1号に掲げられている法人税法22条等の規定の例に準じて
その計算がされるところ,このような計算の方法が「法人税法及び措置
法による各事業年度の所得の金額の計算に準ずるもの」として措置法6
6条の6第2項2号の規定の想定するものに含まれることは明らかであ
る。そして,措置令39条の15第1項1号に掲げられている法人税法
22条等の規定は,それらの内容に照らせば,課税所得等の範囲等に関
する同法第1編第3章の規定(そこでは,内国法人に対しては,各事業
年度の所得〔これが各事業年度の全ての所得を指すことは明らかであ
る。〕について,各事業年度の所得に対する法人税を課するものとされ
ている。同法5条〕)や,同法第2編第1章第1節第1款中の内国法人
の法人税の課税標準に関する同法21条の規定を前提として,内国法人
の所得の金額の計算の方法を定めるものであると解されるのであって,
措置令39条の15第1項1号は,特定外国子会社等の「未処分所得の
金額」にその国内源泉所得が含まれることを前提とするものということ
ができ,上記のとおり同項の定める計算の方法が措置法66条の6第2
項2号の規定の想定するものに含まれることからすれば,同号の規定も
また特定外国子会社等の「未処分所得の金額」にその国内源泉所得が含
まれることを前提としたものということができる。②一方,特定外国子
会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額について,当該特定外国
子会社等の「本店所在地国の法令」の規定により計算する場合(措置令
39条の15第2項)についても,「本邦法令の規定」の例に準じて計
算する場合との間で著しいかい離が生じないような一定の調整を加える
計算の方法を採るものとされており,このような手法もまた措置法66
条の6第2項2号の規定の許容するところであると解されものであって,
特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額について,当
該特定外国子会社等の「本店所在地国の法令」の規定により計算する場
合においてもまた,特定外国子会社等の「未処分所得の金額」にその国
内源泉所得が含まれることが前提とされているものというべきである。
以上に述べたところも,前記(イ)において述べた措置法66条の6第
2項2号の規定の文言に着目しての解釈を補強するものということがで
きる。
(エ)そして,措置法,措置令等の関係法令の規定を見ても,措置法66条
の6第2項2号の定める未処分所得の金額から特定外国子会社等の国内
源泉所得が除かれる旨を定めたものは見当たらない。
イこの点,原告は,①「未処分所得の金額」を定義する措置法66条の6
第2項2号の「決算に基づく所得の金額」との文言からは,それにどの範
囲の所得が含まれるのかを一義的に明らかにすることはできない,②同号
の「法人税法及び措置法による各事業年度の所得の金額の計算に準ずるも
のとして政令で定める基準により計算した金額」の文言は,それ自体「未
処分所得の金額」の範囲を定めるものではなく,その計算方法を定め,そ
の具体的な計算方法を政令に委任するものであり,法人税法において「所
得の金額の計算の方法」には課税所得の範囲を定める同法の規定は含まれ
ないから,措置法66条の6第2項2号の「法人税法及び措置法による各
事業年度の所得の金額の計算に準ずるものとして政令で定める基準により
計算した金額」を,法人税法の課税所得の範囲を定める規定を準用すると
いう意味に解することはできない,③上記①及び②のとおり「未処分所得
の金額」に特定外国子会社の全世界所得が含まれることが文理上一義的に
明らかとはいえないから,特定外国子会社等の国内源泉所得を課税対象留
保金額に含めない旨の明文規定のないことは,課税対象留保金額に国内源
泉所得が含まれることの根拠とはならないなどと主張するが,前記アにお
いて述べたところに照らし,採用することができない。
ウなお,原告は,いわゆる土地譲渡益重課制度に関する措置法63条の規
定を例示して,租税法律主義(課税要件法定主義)に照らし,同法66条
の6第1項が「同一所得」に対して法人税を加算して課税することを規定
するのであれば,同法63条と同様に,特定外国子会社等の課税対象留保
金額が既に法人税法の外国法人税に関する規定によって法人税の課税対象
とされている場合については,当該課税対象留保金額に対しては法人税法
の規定にかかわらず同法66条の6第1項に従って合算課税の対象とする
旨を,「法人税法の規定にかかわらず」などの文言を用いて明確に規定し
なければならないなどとも主張するが,措置法等の規定の文言上,同項に
いう「課税対象留保金額」に特定外国子会社等の国内源泉所得が含まれる
ことは明らかであるから,いわゆる二重所得に対する調整がされない限り,
原告のいう第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】が生ずることは,
措置法等の規定それ自体から明白であって,同法63条のような規定がさ
れていないとの一事をもって,同法66条の6第1項等の規定が租税法律
主義(課税要件法定主義)に反するなどとはいえないものというべきであ
る。原告の上記の主張は,採用することができない。
(2)原告の主張する趣旨解釈によれば外国子会社合算税制に関する法令の規定
を整合的に理解することができ,これらの法令の規定については,特定外国
子会社等の国内源泉所得が課税対象留保金額に含まれないことを前提とする
ものと解すべきである旨をいう原告の主張について
ア原告は,以下のとおり,原告の主張する趣旨解釈によれば外国子会社合
算税制に関する法令の規定を整合的に理解することができ,これらの法令
の規定については,特定外国子会社等の国内源泉所得が課税対象留保金額
に含まれないことを前提とするものと解すべきである旨を主張する。
(ア)外国子会社合算税制に関しては,第1の二重課税【外国課税所得・合
算利益間】及び第2の二重課税【合算利益・配当間】を調整するための
仕組みが法令上設けられている(措置法66条の7,66条の8等)一
方,第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】を調整するための規
定は置かれていない。同税制の制定当時に,特定外国子会社等の国内源
泉所得が課税対象留保金額に含まれることが前提とされていたとすれば,
第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】が生じ得ることは容易に
想定することができたはずであり,これを調整する規定が法令に置かれ
たはずであって,第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】につき
何ら手当てがされていないのは,同税制が特定外国子会社等の国内源泉
所得を合算課税の対象としていないことを示すものにほかならない。
(イ)被告は,措置法通達66の6-20の定めるとおり,第3の二重課税
【国内源泉所得・合算利益間】は,外国税額の控除に関する措置法66
条の7及び法人税法69条の規定により調整される旨主張するが,これ
らの規定にいう「外国法人税」の定義(法人税法施行令141条1項)
に照らせば,それに我が国の法人税,所得税及び法人住民税が含まれな
いことは文理上一義的に明らかであって,これらを「外国法人税」に含
ませることができるとする措置法通達66の6-20は違法無効なもの
である。特定外国子会社等の国内源泉所得が内国法人に対して課される
法人税における合算課税の対象に含まれないとの趣旨解釈によれば,第
3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】が生ずることはないから,
措置法66条の7にいう「外国法人税」についても,それを文理どおり
に解釈すれば足りることになる。
(ウ)①措置法66条の6第1項の柱書きの「本店又は主たる事務所の所在
する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担が本邦にお
ける法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いもの」と
の文言は,文言解釈では一義的にその意味内容を確定することのできな
いものであり,②同項の委任を受けて制定された措置令39条の14の
文言上は,同条1項2号にいう「その各事業年度の所得」には国内源泉
所得も含まれると解するのが素直である一方,同条2項2号イにいう
「外国法人税」の額に我が国の法人税等は含まれないから,同条1項1
号と2号とでは,上記①の措置法66条の6第1項の柱書きの文言の解
釈につき異なる立場が採られ,両者は矛盾しているのであって,同項並
びに措置令39条の14第1項2号及び2項の規定は,文言解釈ではそ
の意味内容を一義的に理解し難いものである。
そして,同条1項2号の規定は,「『税の負担』の割合=租税/所得
≦25/100」と数式化することができ,これが論理的に意味を成す
のは,○ア分母及び分子がいずれも「全世界」を基準とする場合か,○イい
ずれも「外国のみ」を基準とする場合のみであるところ,同号及び同条
2項の規定において定義される「税の負担」の割合を上記②の文言解釈
に依拠して上記と同様に分数で表すと「外国法人税/全世界所得=外国
法人税/国外源泉所得+国内源泉所得」となって,論理的に意味のない
割合が算出されてしまう一方,外国関係会社が国内源泉所得を有してい
ない場合のみにこの数式を適用するのであれば,上記○イと同じ割合が算
出されることになり,原告の主張する趣旨解釈によれば,上記①及び②
のとおり文言解釈ではその意味内容を一義的に理解し難い措置法66条
の6第1項及び措置令39条の14の規定を合理的に理解することがで
きる。
(エ)特定外国子会社等の国内源泉所得が課税対象留保金額に含まれるとす
ると,措置令39条の18第8項の規定は「国内源泉所得」である所得
を「国外源泉所得」に変換するという意味を持つことになるところ,法
律による具体的な委任がないのに政令によってそのような変更を行うこ
とは,租税法律主義(特に課税要件法定主義)の要請の下では,違法無効
と考えられる一方,同項について,特定外国子会社等の「国内源泉所
得」は合算対象所得に含まれないとの解釈を前提として規定されたもの
であると理解すれば,もともと「国外源泉所得」であったものを「国外
源泉所得」として扱うことを規定しているという意味しか持たず,上記
のような問題は生じない。この点も,同項が特定外国子会社等の「国内
源泉所得」が合算対象所得に含まれないことを前提とするものであるこ
との証左である
イ(ア)しかしながら,前記(1)において述べたとおり,措置法66条の6第
1項所定の「課税対象留保金額」の計算の基となる特定外国子会社等の
「未処分所得の金額」を定義する同条2項2号等の規定においては,そ
れに特定外国子会社等の「国内源泉所得」が含まれることが前提とされ
ているものというべきである。この点と比較すると,原告の主張する諸
点は,外国子会社合算税制に関する法令の規定について,特定外国子会
社等の国内源泉所得が課税対象留保金額に含まれないことを前提とする
ものと解すべき十分な根拠となるものとはいい難いものというべきであ
る。
(イ)また,前記(ア)の点をおくとしても,以下のとおり,原告の主張する
諸点は,やはり,外国子会社合算税制に関する法令の規定について,特
定外国子会社等の国内源泉所得が課税対象留保金額に含まれないことを
前提とするものと解すべき十分な根拠となるものとはいい難いものとい
うべきである。
a仮に,原告が前記ア(ア)及び(イ)のように主張するとおり,外国子会
社合算税制に関する法令に第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益
間】を調整するための規定が置かれていない(措置法通達66の6-
20の定めが法令に反する違法無効な通達であり,第3の二重課税
【国内源泉所得・合算利益間】が外国税額の控除に関する措置法66
条の7及び法人税法69条の規定により調整されるとはいえない)と
しても,そのことから,同税制に関する法令の規定が特定外国子会社
等の国内源泉所得が課税対象留保金額に含まれないことを前提として
定められたことが論理必然的に導かれるものではなく,これらの点は,
前記アの原告の主張を基礎付ける決め手となるものとはいい難い。
b措置法66条の6第1項の柱書き及び措置令39条の14の規定が
文言解釈ではその意味内容を一義的に理解し難いものであり,また,
同条1項1号の規定と同項2号及び同条2項の規定とが矛盾したもの
であるということができないことは,後記4(1)において述べるとお
りであって,前記ア(ウ)のような原告の主張は,その前提を欠くもの
である。
c措置法66の7第1項の規定は,内国法人に係る特定外国子会社等
の課税対象留保金額に相当する金額を当該内国法人の所得の金額の計
算上益金の額に算入して課税がされた場合,その合算の対象とされた
所得に対して当該特定外国子会社等の本店等の所在する国等において
課税がされていると経済的な意味において二重課税が生ずることから,
その調整をするために設けられたものであるところ,その方法として
用いられる外国税額の控除の制度における控除限度額の計算という極
めて技術的かつ限定された場面において,前記ア(エ)において原告が
主張するような事態が生じ得るとしても,そのことの一事をもって,
措置令39条の18第8項本文の規定が上記のような措置法66の7
第1項の規定の趣旨に反し,その委任の範囲を逸脱したものであると
まではいうことはできず,また,措置令39条の18第8項本文の規
定が,前記ア(エ)の原告の主張のような意味しか持たないのであるな
らば,そのような規定をあえて置く必要性に乏しく,特定外国子会社
等の国内源泉所得が課税対象留保金額に含まれるからこそ,同項本文
のような規定が置かれたものとも解し得るのであって,原告の上記ア
(エ)の主張は,その前提を欠くものというべきである。
(ウ)以上のとおりであるから,前記アのような原告の主張は,採用するこ
とができない。
(3)外国子会社合算税制の趣旨・目的に照らせば特定外国子会社等の国内源泉
所得は課税対象留保金額に含まれないものと解すべきである旨をいう原告の
主張について
ア原告は,措置法通達66の6-20の定めは,法令に反する違法無効な
通達であって,第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】が外国税額
の控除に関する措置法66条の7及び法人税法69条の規定により調整さ
れるとはいえず,外国子会社合算税制に関する法令に第3の二重課税【国
内源泉所得・合算利益間】を調整するための規定が置かれていないとした
上で,特定外国子会社等の国内源泉所得が課税対象留保金額に含まれると
すると,第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】が調整されないた
め,外国子会社合算税制の趣旨・目的や所得の一回的課税の原則に反する
不合理な結果が生ずるなどとして,特定外国子会社等の国内源泉所得は課
税対象留保金額に含まれないものと解すべきである旨も主張する。
イしかしながら,前記(1)において述べたとおり,措置法66条の6第1
項所定の「課税対象留保金額」の計算の基となる特定外国子会社等の「未
処分所得の金額」を定義する同条2項2号等の規定においては,それに特
定外国子会社等の「国内源泉所得」が含まれることが前提とされているも
のと解されるのであって,それにもかかわらず上記の「課税対象留保金
額」に特定外国子会社等の国内源泉所得が含まれないとの原告の主張する
ような解釈をしなければならないのは,そのような限定解釈をしなければ,
措置法66条の6第1項の規定の法律の定めとしての有効性それ自体を認
めることができないような場合,すなわち,同規定につきいわゆる合憲限
定解釈を要するような場合に限られるものというべきである(本件におい
て租税公平主義との関係を指摘するなどする原告の主張も,そのような観
点から,同項所定の「課税対象留保金額」の範囲について限定解釈をすべ
きであるとする趣旨を含むものとも解し得るところである。)。
ウ(ア)租税は,国家が,その課税権に基づき,特別の給付に対する反対給付
としてではなく,その経費に充てるための資金を調達する目的をもって,
一定の要件に該当する全ての者に課する金銭給付であり,憲法は,民主
主義国家にあっては,国家の維持及び活動に必要な経費は主権者たる国
民が共同の費用として代表者を通じて定めるところにより自ら負担すべ
きであるとの見地の下に,国民がその総意を反映する租税立法に基づい
て納税の義務を負うことを定め(30条),新たに租税を課し又は現行
の租税を変更するには,法律又は法律の定める条件によることを必要と
している(84条)ものであるが,憲法自体は,その内容について特に
定めることをせず,これを法律の定めるところに委ねている。そして,
租税は,今日では,国家の財政需要を充足するという本来の機能に加え,
所得の再分配,資源の適正配分,景気の調整等の諸機能をも有しており,
租税負担を定めるについて,財政・経済・社会政策等の国政全般からの
総合的な政策判断を必要とするばかりでなく,課税要件等を定めるにつ
いて,極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかであって,租
税法の定立については,国家財政,社会経済,国民所得,国民生活等の
実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的,技術的な判断
に委ねるほかはなく,裁判所は,基本的にはその裁量的判断を尊重せざ
るを得ないものというべきである(最高裁昭和55年(行ツ)第15号
同60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁参照)。
(イ)以上のような前提に立って外国子会社合算税制に関する法令の規定を
見ると,①措置法66条の7第1項にいう「外国法人税」は,法人税法
69条1項に規定する外国法人税をいうものとされ,同項において,
「外国法人税」とは,外国の法令により課される法人税に相当する税で
政令で定めるものをいうものと定義され,法人税法施行令141条1項
は,法人税法69条1項に規定する外国法人税は,外国の法令に基づき
外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準として課される
税とする旨を定めているのであって,これらの規定の文言に照らすと,
措置法通達66の6-20にいう「特定外国子会社等が…国内源泉所得
に係る所得について課された法人税,所得税及び措置法38条2項2号
に掲げるもの」が同法66条の7第1項にいう「外国法人税」に含まれ
ないことは明らかというべきであり,②また,同項の規定による委任に
基づき定められた措置令39条の18第8項ただし書において3分の1
ルールが採用されているのは,外国において非課税とされ,又は軽課税
とされる所得から生ずる控除限度額を利用して,別の外国において高額
で課された外国税額が控除されてしまうという問題(控除余裕枠の彼此
流用の問題)に対応するためであるところ,措置法通達66の6-20
にいう「特定外国子会社等が…国内源泉所得に係る所得について課され
た法人税,所得税及び措置法38条2項2号に掲げるもの」についてそ
のような問題が生ずることは考え難いことからしても,同法66条の7
第1項にいう「外国法人税」について,措置法通達66の6-20の定
めのような解釈をすることはできないものというべきである。第3の二
重課税【国内源泉所得・合算利益間】が外国税額の控除に関する措置法
66条の7及び法人税法69条の規定により調整されるとの被告の主張
は,その前提を欠くものといわざるを得ない。
(ウ)しかし,外国子会社合算税制から生ずるいわゆる二重課税の調整をど
のようにするかは,前記(ア)に述べたような立法府の政策的,技術的な
判断によって大きく左右される問題であり,そのことは,原告が強調す
るいわゆる所得の一回的課税の原則との関係が問題となる場面において
も異なるものではないものというべきである(そもそも,原告のいう
「所得の一回的課税の原則」もまた,そのような立法府の政策的判断に
基づいて採用されているものである。)。
そして,①措置法等の定める外国子会社合算税制(我が国のタック
ス・ヘイブン対策税制)は,特定外国子会社等に所得を留保して我が国
における税の負担を免れることとなる内国法人に対しては当該所得に係
る一定の金額を当該内国法人の所得の金額の計算上益金の額に算入して
課税することによって税負担の実質的な公平性を追求しつつ,特定外国
子会社等の事業活動が経済合理性を有すると認められる場合をその適用
の対象から除外し,かつ,それが適用される場合であっても所定の方法
による外国法人税の額の控除を認めるなど,全体として合理性のある制
度ということができるものというべきこと(前掲最高裁平成21年10
月29日第一小法廷判決参照。なお,原告は,同判決の他の部分の判示
も併せて引用するなどして,原告の主張する3種類の二重課税の問題が
全て解消されない限り,同税制それ自体の合理性を肯定することができ
ないかのように主張するが,同判決がそのような前提に立つものでない
ことは,同判決においていわゆる二重課税を調整するための規定として
具体的に掲げられているのが措置法66条の7第1項のみであることな
どに照らし,明らかというべきである。),②第3の二重課税【国内源
泉所得・合算利益間】の問題が生ずるのは,特定外国子会社等が国内源
泉所得を有する場合のみであるところ,特定外国子会社等に該当する外
国関係会社がある内国法人においては,特段の事情のない限り,多かれ
少なかれ我が国における税の負担を回避することを考慮してそのような
外国法人を置いているものと推認するのが相当であり,特定外国子会社
等に国内源泉所得があるというのはまれなものと考えられ,そのような
事態までを想定した規定が設けられていないことが一概に不合理である
とまではいい難く,また,そのような例外的な事態に対処するために,
法令の規定についてその文理を離れて一般的に限定解釈をすべきともい
い難いものというべきこと,③第3の二重課税【国内源泉所得・合算利
益間】において問題となっているのは,特定外国子会社等に該当する外
国法人と内国法人という別個の法人に対して課される税の関係であり,
これらについて「同一の所得」に対する課税との評価をするか否かそれ
自体も,立法政策に係る問題であるというべきことなどを併せて考慮す
れば,前記(イ)の点をもって,措置法66条の6第1項所定の「課税対
象留保金額」に特定外国子会社等の国内源泉所得が含まれないとの限定
解釈をしなければならないものとまではいい難く,本件において,他に
そのような限定解釈を要することを基礎付けるべき事情は見当たらない。
(4)小括
以上のとおりであって,争点3に関する原告の主張は,採用することがで
きず(なお,前記(1)~(3)に具体的に掲げた以外の争点3に関する原告の主
張についても,これまで述べたところに照らして,採用することができない
ものというべきである。),措置法66条の6第1項所定の「課税対象留保
金額」には,特定外国子会社等の国内源泉所得も含まれるものと解するのが
相当である。
4特定外国子会社等の範囲について定める措置令39条の14第1項1号の規
定が措置法66条の6第1項の柱書きの規定による委任の範囲を超える無効な
ものであるか否か(争点2)及びB平成19年12月期においてBがAに係る
特定外国子会社等に該当するか否か(争点4)について
(1)特定外国子会社等の範囲について定める措置令39条の14第1項1号の
規定が措置法66条の6第1項の柱書きの規定による委任の範囲を超える無
効なものであるとの原告の主張について
ア原告は,①措置法66条の6第1項の柱書きにおける「本店又は主たる
事務所の所在する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担
が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低い
もの」との文言が文言解釈によっては一義的にその意味内容を確定するこ
とのできないものであるとの前提に立った上で,②同項の規定の委任を受
けて制定された措置令39条の14第1項の規定を見ると,措置法66条
の6第1項の柱書きの「税の負担」について,○ア措置令39条の14第1
項1号では「本店又は主たる事務所の所在する国又は地域における」もの
に限定されているのに対し,○イ同項2号及び同条2項においては,「本店
又は主たる事務所の所在する国又は地域における」税の負担のみならず,
それ以外の国又は地域における税の負担も含むものとされており,両者に
おいては,措置法66条の6第1項の柱書きの「本店又は主たる事務所の
所在する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担」との文
言の解釈につき矛盾する立場が採られているところ,外国子会社合算税制
の趣旨・目的に照らせば,同項の柱書きの「税の負担」とは上記○イの立場
を前提とするものというべきであるから,措置令39条の14第1項1号
は,措置法66条の6第1項の規定による委任の範囲を超える無効なもの
というべきであるなどと主張する。
イしかし,措置法66条の6第1項の柱書きにおける「本店又は主たる事
務所の所在する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担が
本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いも
の」との文言は,外国関係会社の本店等の所在する国等において,当該外
国関係会社の所得に対して課される税の負担が,我が国における同様の税
の負担に比して著しく低いものを意味すると解するのが,その文言上,最
も素直であるものというべきであって,前記ア①の原告の主張は,採用す
ることができない。
そして,同項の規定の趣旨・目的は,内国法人が,法人の所得に対して
課される税の負担がないか又は本邦におけるそれに比して著しく低い国又
は地域に子会社を設立して経済活動を行い,当該子会社に所得を留保する
ことによって,我が国における税の負担を回避しようとする事例が生ずる
ようになったことから,課税要件を明確化しつつ,このような事例に対処
して税負担の実質的な公平を図ることにあるところ,外国関係会社の本店
又は主たる事務所が措置令39条の14第1項1号にいう「法人の所得に
課される税が存在しない国又は地域」に所在する場合が,措置法66条の
6第1項の柱書きにおける「本店又は主たる事務所の所在する国又は地域
におけるその所得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に
対して課される税の負担に比して著しく低いもの」に該当することは,そ
の文言上も,上記のような同項の規定の趣旨・目的からも,明らかという
べきであって,措置令39条の14第1項1号の規定は措置法66条の6
第1項の柱書きの規定による委任の範囲内のものであるということができ
る。原告は,同項の規定の趣旨・目的に照らせば,同項にいう「税の負
担」は前記ア②○イの意義のみに解すべきである旨を主張するが,外国子会
社合算税制に関する規定は同項及び措置令39条の14第1項1号だけで
はなく,同税制に関する他の規定と相まって上記の趣旨・目的が達成され
るべきことも考慮して特定外国子会社等の範囲を定めることもまた措置法
66条の6第1項の規定の許容するところと解されるのであって,原告の
上記の主張は,採用し難い。
なお,措置法66条の6第1項の柱書きの定める「本店又は主たる事
務所の所在する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担が
本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いも
の」は,一定の幅のある概念であることが明らかであって,前記のような
同項の規定の趣旨・目的に照らせば,措置令39条の14第1項1号とは
異なる観点から特定外国子会社等の範囲を定める同項2号及び同条2項の
規定もまた,措置法66条の6第1項の規定による委任の範囲内のものと
いうべきである。措置令39条の14第1項1号と同項2号及び同条2項
とが矛盾するなどという原告の主張は,文理上明らかな上記のような概念
の幅を考慮しない議論というほかなく,採用することができない。
(2)B平成19年12月期においてBがAに係る特定外国子会社等に該当する
か否かについて
ア前提事実(1)イのとおり,Bは,平成14年2月にAを唯一の株主とし
ケイマン法を準拠法として設立され,同地域内に本店を有する外国法人で
あり,また,Aは,B平成19年12月期終了時においてもBの発行済株
式の全部を有していたものであるから,Bは,Aの外国関係会社(措置法
66条の6第2項1号)に該当する。そして,Bの本店が所在するケイマ
ンは,法人の所得に対して課される税が存在しない地域である(乙2~乙
4,乙11)から,Bは,「法人の所得に対して課される税が存在しない
国又は地域に本店又は主たる事務所を有する外国関係会社」(措置令39
条の14第1項1号)に該当し,措置法66条の6第1項にいう「本店の
所在する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担が本邦に
おける法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとし
て政令で定める外国関係会社」として同項にいう「特定外国子会社等」に
該当するものというべきである。
イ原告は,①法人の所得に対して課される税が存在しない国又は地域に本
店又は主たる事務所を有する外国関係会社について,その税負担率が2
5%を超えるか否かにかかわらず,全て特定外国子会社等に該当するもの
とすることは誤りである,②軽課税国に本店が所在する外国関係会社が我
が国に支店を有し,その国内源泉所得につき法人税を負担している場合に
は,その本店の所在する国等に法人の所得に対して課される税が存在しな
いことだけを理由に,当該外国関係会社を特定外国子会社等に該当すると
判断することはできないなどと主張する。
しかし,措置令39条の14第1項1号の規定が措置法66条の6第1
項の規定による委任の範囲内のものであることは,前記(1)において述べ
たとおりである。原告の上記の主張は,いずれも法令の規定の文理に反す
る独自の見解をいうものであって,採用することができない。
ウまた,原告は,外国子会社合算税制に関する現行法令の規定によっては
第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】が解消されないことなどを
根拠として,外国子会社合算税制の趣旨・目的に照らせば,軽課税国に本
店が所在する外国関係会社が我が国に支店を有し,その国内源泉所得につ
き法人税を負担している場合には,措置法66条の6第1項の規定を限定
解釈し,当該外国関係会社は特定外国子会社等に該当しないものと解すべ
きである旨主張するが,前記3(3)において述べたところに照らし,採用
することができない(なお,原告は,平成4年度税制改正により軽課税国
を限定列挙して指定する方式が「個別の企業ごとに税負担割合で判断して
いこうという制度」〔かぎ括弧内は,甲19の一部を引用したものであ
る。〕に改められたのであるから,本店等の所在する国等に法人の所得に
対して課される税があるか否かだけに注目する理由はなくなったとも主張
するが,既に述べたとおり措置法66条の6第1項の規定による委任の範
囲内のものと認められる措置令39条の15の規定に照らし,甲19の原
告の引用する部分は,現行の制度を過不足なく要約したものとはいい難い
のであって,このような原告の主張は,現行の制度について誤った前提に
立つものというほかなく,採用し難いものである。)。
5本件の事案に限って外国子会社合算税制に関する措置法及び措置令の規定を
限定解釈し,B平成19年12月期におけるBについてはこれらの規定が適用
されないものと解すべきであるか否か(争点5)について
原告は,争点2~4に関する原告の主張が認められないとしても,本件の事
案に限っては,外国子会社合算税制に関する措置法及び措置令の規定を限定解
釈し,B平成19年12月期におけるBについてはこれらの規定が適用されな
いものと解すべきであるなどと主張する。
しかし,これまで述べたところや,納税者がどのような法形式を選択するか
によって租税の額等に差異が生ずることは租税法の予定するものであり,本件
に外国子会社合算税制に関する措置法等の規定が適用されることとなったのも
原告(A)自らが選択した結果であることなどに照らせば,本件の事案に限っ
て,これまで述べたような外国子会社合算税制に関する措置法等の規定の定め
るところをあえて離れ,B平成19年12月期におけるBにつきこれらの規定
の適用を排除すべきものとまではいい難いものというべきである。原告の上記
の主張は,採用することができない。
6本件各処分の適法性について
以上に述べたところや,本件における全ての証拠及び弁論の全趣旨によれば,
Aの平成20年4月期及び原告の平成20年12月連結期の納付すべき税額等
は,別紙4(A及び原告の納付すべき税額等)に記載したとおりであるから,
本件各更正処分は,いずれも適法なものというべきである。
そうすると,本件通知処分も,適法なものといえ,平成20年4月期賦課決
定処分も,別紙2(本件各更正処分等の根拠及び適法性に関する被告の主張)
の第3及び第4に記載のとおり,やはり適法なものというべきである。
7結論
以上の次第であって,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却
することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官八木一洋
裁判官川嶋知正
裁判官田中一彦は,転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官八木一洋
(別紙1)
関係法令等の定め
1措置法の定め
(1)措置法66条の6(内国法人に係る特定外国子会社等の留保金額の益金算
入)
ア措置法66条の6第1項は,同項各号に掲げる内国法人に係る外国関係
会社のうち,本店又は主たる事務所の所在する国又は地域におけるその所
得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される
税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社に該当
するもの(特定外国子会社等)が,昭和53年4月1日以後に開始する各
事業年度において,その未処分所得の金額から留保したものとして,政令
で定めるところにより,当該未処分所得の金額につき当該未処分所得の金
額に係る税額及び法人税法23条1項1号に規定する剰余金の配当,利益
の配当又は剰余金の分配(以下「剰余金の配当等」という。)の額に関す
る調整を加えた金額(以下「適用対象留保金額」という。)を有する場合
には,その適用対象留保金額のうちその内国法人の有する当該特定外国子
会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するものとしてその株式等
(株式又は出資をいう。以下同じ。)の請求権(剰余金の配当等,財産の
分配その他の経済的な利益の給付を請求する権利をいう。以下同じ。)の
内容を勘案して政令で定めるところにより計算した金額(以下「課税対象
留保金額」という。)に相当する金額は,その内国法人の収益の額とみな
して当該各事業年度終了の日の翌日から2月を経過する日を含むその内国
法人の各事業年度の所得の金額の計算上,益金の額に算入する旨を定めて
いる。
1号その有する外国関係会社の直接及び間接保有の株式等の数の当該外
国関係会社の発行済株式又は出資(当該外国関係会社が有する自己の株
式等を除く。)の総数又は総額のうちに占める割合(当該外国関係会社
が次のイからハまでに掲げる法人である場合には、当該割合とそれぞれ
イからハまでに定める割合のいずれか高い割合。以下「直接及び間接の
外国関係会社株式等の保有割合」という。)が100分の5以上である
内国法人
イからハまで(省略)
2号直接及び間接の外国関係会社株式等の保有割合が100分の5以上
である一の同族株主グループに属する内国法人(1号に掲げる内国法人
を除く。)
イ措置法66条の6第2項は,同条1項及び2項において,同項各号に掲
げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる旨を定めている。
1号外国関係会社外国法人で,その発行済株式又は出資(その有する
自己の株式等を除く。)の総数又は総額のうちに居住者(同法2条1項
1号の2に規定する居住者をいう。以下同じ。)及び内国法人並びに特
殊関係非居住者(居住者又は内国法人と政令で定める特殊の関係のある
同項1号の2に規定する非居住者をいう。以下同じ。)が有する直接及
び間接保有の株式等の数の合計数又は合計額の占める割合(当該外国法
人が次のイからハまでに掲げる法人である場合には,当該割合とそれぞ
れイからハまでに定める割合のいずれか高い割合)が100分の50を
超えるものをいう。
イからハまで(省略)
2号未処分所得の金額特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく
所得の金額につき,法人税法及び措置法による各事業年度の所得の金額
の計算に準ずるものとして政令で定める基準により計算した金額を基礎
として政令で定めるところにより当該各事業年度開始の日前7年以内に
開始した各事業年度において生じた欠損の金額に係る調整を加えた金額
をいう。
3号直接及び間接保有の株式等の数個人又は内国法人が直接に有する
外国法人の株式の数又は出資の金額及び他の外国法人を通じて間接に有
するものとして政令で定める当該外国法人の株式の数又は出資の金額の
合計数又は合計額をいう。
4号及び5号(省略)
6号同族株主グループ外国関係会社の株式等を直接又は間接に保有す
る者のうち,一の居住者又は内国法人及び当該一の居住者又は内国法人
と政令で定める特殊の関係のある者(外国法人を除く。)をいう。
ウ措置法66条の6第3項は,同条1項各号に掲げる内国法人に係る特定
外国子会社等(株式〔出資を含む。〕若しくは債券の保有,工業所有権そ
の他の技術に関する権利,特別の技術による生産方式若しくはこれらに準
ずるもの〔これらの権利に関する使用権を含む。〕若しくは著作権〔出版
権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。〕の提供又は船舶若し
くは航空機の貸付けを主たる事業とするものを除く。)がその本店又は主
たる事務所の所在する国又は地域においてその主たる事業を行うに必要と
認められる事務所,店舗,工場その他の固定施設を有し,かつ,その事業
の管理,支配及び運営を自ら行っているものである場合(同条4項におい
て「固定施設を有するものである場合」という。)における同条1項の規
定の適用については,同項中「調整を加えた金額」とあるのは,「調整を
加えた金額から当該特定外国子会社等の事業に従事する者の人件費として
政令で定める費用の額の100分の10に相当する金額を控除した金額」
とする旨を定めている。
エ措置法66条の6第4項は,同条1項及び3項の規定は,同条1項各号
に掲げる内国法人に係る同条3項に規定する特定外国子会社等がその本店
又は主たる事務所の所在する国又は地域において固定施設を有するもので
ある場合であって,各事業年度においてその行う主たる事業が同条4項各
号に掲げる事業のいずれに該当するかに応じ当該各号に定める場合に該当
するときは,当該特定外国子会社等のその該当する事業年度に係る適用対
象留保金額については,適用しない旨を定めている。
1号及び2号(省略)
(2)措置法66条の7
措置法66条の7第1項前段は,同法66条の6第1項各号に掲げる内国
法人が同項の規定の適用を受ける場合には,当該内国法人に係る特定外国子
会社等の所得に対して課される外国法人税(法人税法69条1項に規定する
外国法人税をいう。)の額のうち当該特定外国子会社等の課税対象留保金額
に対応するもの(当該課税対象留保金額に相当する金額を限度とする。)と
して政令で定めるところにより計算した金額は,政令で定めるところにより,
当該内国法人が納付する控除対象外国法人税の額(同項に規定する控除対象
外国法人税の額をいう。)とみなして,同条1項から7項まで,10項及び
15項から18項までの規定を適用する旨を定めている。
(3)措置法66条の8
措置法66条の8第1項は,同法66条の6第1項の規定の適用を受けた
内国法人に係る特定外国子会社等につき同法66条の8第1項1号若しくは
2号に掲げる事実が生じた場合又は当該内国法人に係る同法66条の6第2
項1号に規定する外国関係会社(当該特定外国子会社等から剰余金の配当等
の支払〔同法66条の8第1項2号に定める金額の同号に掲げる交付を含
む。〕を受けた外国関係会社のうち政令で定めるものに限る。以下同項にお
いて同じ。)につき同項3号に掲げる事実が生じた場合で,当該内国法人の
これらの事実が生じた日を含む事業年度開始の日前10年以内に開始した各
事業年度(以下「前10年以内の各事業年度」という。)において当該特定
外国子会社等の課税対象留保金額で同法66条の6第1項の規定により前1
0年以内の各事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入された金額(同
法66条の8第1項の規定により前10年以内の各事業年度において損金の
額に算入された金額を除く。以下「課税済留保金額」という。)があるとき
は,当該課税済留保金額に相当する金額は,当該特定外国子会社等又は当該
外国関係会社につき生じた事実が同項各号に掲げる事実のいずれに該当する
かに応じ当該各号に定める金額のうち当該内国法人に係る課税対象留保金額
から充てられたものとして政令で定めるところにより計算した金額に相当す
る金額を限度として,当該内国法人のその事実が生じた日を含む事業年度の
所得の金額の計算上,損金の額に算入する旨を定めている。
1号剰余金の配当等の支払その支払う剰余金の配当等の額
2号法人税法24条1項各号に掲げる事由による金銭その他の資産の交付
(以下「みなし配当」という。)そのみなし配当により減少すること
となる利益積立金額に相当する金額
3号当該内国法人に対する剰余金の配当等の支払又は法人税法24条1項
各号に掲げる事由による金銭その他の資産の交付その支払う剰余金の配
当等の額又はその交付により減少することとなる利益積立金額に相当する
金額
2措置令の定め
(1)措置令39条の14(特定外国子会社等の範囲)
ア措置令39条の14第1項は,措置法66条の6第1項に規定する政令
で定める外国関係会社は,次の各号に掲げるものとする旨を定めている。
1号法人の所得に対して課される税が存在しない国又は地域に本店又は
主たる事務所を有する外国関係会社(措置法66条の6第2項1号に
規定する外国関係会社をいう。以下同じ。)
2号その各事業年度の所得に対して課される租税の額が当該所得の金額
の100分の25以下である外国関係会社
イ措置令39条の14第2項は,外国関係会社が同条1項2号の外国関係
会社に該当するかどうかの判定については,次の各号に定めるところによ
る旨を定めている。
1号同条第1項2号の所得の金額は,当該外国関係会社の当該各事業年
度の決算に基づく所得の金額につき,その本店又は主たる事務所の所
在する国又は地域(以下同令第3章第8節の4〔同令39条の14~
39条の20〕において「本店所在地国」という。)の外国法人税
(法人税法69条1項に規定する外国法人税をいう。以下同令第3章
第8節の4において同じ。)に関する法令(当該外国法人税に関する
法令が二以上ある場合には,そのうち主たる外国法人税に関する法令
をいう。以下同令39条の14第2項において「本店所在地国の法
令」という。)の規定により計算した所得の金額に当該所得の金額に
係るイからホまでに掲げる金額の合計額を加算した金額から当該所得
の金額に係るヘに掲げる金額を控除した残額とする。
イからヘまで(省略)
2号措置令39条の14第1項2号の租税の額は,次に掲げる金額の合
計額とする。
イ当該外国関係会社の当該各事業年度の決算に基づく所得の金額に
つき,その本店所在地国又は本店所在地国以外の国若しくは地域に
おいて課される外国法人税の額(その本店所在地国の法令により当
該外国関係会社が納付したものとみなしてその本店所在地国の外国
法人税の額から控除されるものを含むものとし,同条2項1号イ
(2)に掲げる金額に対して課されるものを除く。)
ロ(省略)
3号及び4号(省略)
(2)措置令39条の15(特定外国子会社等の未処分所得の金額の計算)
ア措置令39条の15第1項は,措置法66条の6第2項2号に規定する
政令で定める基準により計算した金額は,特定外国子会社等の各事業年度
の決算に基づく所得の金額に係る措置令39条の15第1項1号に掲げる
金額及び同項2号に掲げる金額の合計額から当該所得の金額に係る同項3
号に掲げる金額を控除した残額(当該所得の金額に係る同項1号に掲げる
金額が欠損の金額である場合には,当該所得の金額に係る同項2号に掲げ
る金額から当該欠損の金額と当該所得の金額に係る同項3号に掲げる金額
との合計額を控除した残額)とする旨を定めている。
1号当該各事業年度の決算に基づく所得の金額につき,法人税法第2編
第1章第1節第2款から第9款まで(同法23条,26条1項~4項,
28条,38条~41条,55条3項,57条,58条,59条及び6
1条の11~61条の13を除く。)及び第11款の規定並びに措置法
43条,45条の2,52条の2,57条の5,57条の6,57条の
8,57条の10,61条の4,65条の7~65条の9(同法65条
の7第1項の表の19号に係る部分に限る。),66条の4第3項,6
7条の12及び67条の13の規定(以下措置令39条の15第1項1
号において「本邦法令の規定」という。)の例に準じて計算した場合に
算出される所得の金額又は欠損の金額(当該特定外国子会社等に係る措
置法66条の6第1項各号に掲げる内国法人との間の取引につき同法6
6条の4第1項又は68条の88第1項の規定の適用がある場合には,
当該取引がこれらの規定に規定する独立企業間価格で行われたものとし
て本邦法令の規定の例に準じて計算した場合に算出される所得の金額又
は欠損の金額)
2号当該各事業年度において納付する法人所得税(本店所在地国若しく
は本店所在地国以外の国若しくは地域又はこれらの国若しくは地域の地
方公共団体により法人の所得を課税標準として課される税〔これらの国
若しくは地域又はこれらの国若しくは地域の地方公共団体により課され
る法人税法施行令141条2項各号に掲げる税を含む。〕及びこれに附
帯して課される法人税法2条45号に規定する附帯税〔利子税を除
く。〕に相当する税その他当該附帯税に相当する税に類する税をいう。
以下措置令第3章第8節の4〔同令39条の14~39条の20)〕に
おいて同じ。)の額
3号当該各事業年度において還付を受ける法人所得税の額
イ措置令39条の15第2項は,措置法66条の6第1項各号に掲げる内
国法人は,措置令39条の15第1項の規定にかかわらず,特定外国子会
社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき,当該特定外国子会社
等の本店所在地国の法人所得税に関する法令(当該法人所得税に関する法
令が二以上ある場合には,そのうち主たる法人所得税に関する法令をいう。
以下同条2項において「本店所在地国の法令」という。)の規定により計
算した所得の金額(当該特定外国子会社等と当該内国法人との間の取引に
つき措置法66条の4第1項又は68条の88第1項の規定の適用がある
場合には,当該取引がこれらの規定に規定する独立企業間価格で行われた
ものとして本店所在地国の法令の規定により計算した場合に算出される所
得の金額)に当該所得の金額に係る措置令39条の15第2項1号~13
号に掲げる金額の合計額を加算した金額から当該所得の金額に係る同項1
4号~16号に掲げる金額の合計額を控除した残額(本店所在地国の法令
の規定により計算した金額が欠損の金額となる場合には,当該計算した金
額に係る同項1号~13号までに掲げる金額の合計額から当該欠損の金額
に当該計算した金額に係る同項14号~16号に掲げる金額の合計額を加
算した金額を控除した残額)をもって措置法66条の6第2項2号に規定
する政令で定める基準により計算した金額とすることができる旨を定めて
いる。
1号~16号(省略)
(3)措置令39条の16(内国法人に係る特定外国子会社等の課税対象留保金
額の計算等)
ア措置令39条の16第1項は,措置法66条の6第1項の未処分所得の
金額につき当該未処分所得の金額に係る税額及び剰余金の配当等の額に関
する調整を加えた金額は,特定外国子会社等の各事業年度の同条2項2号
に規定する未処分所得の金額(以下措置令39条の16第1項において
「未処分所得の金額」という。)から次に掲げる金額の合計額を控除した
残額(同項1号に規定する還付を受けることとなる法人所得税の額が同号
に規定する納付をすることとなる法人所得税の額を超えることとなる場合
には,未処分所得の金額にその超える部分の金額を加算した金額から同項
2号に掲げる金額を控除した残額)とする旨などを定めている。
1号当該各事業年度において納付をすることとなる法人所得税の額(当
該各事業年度において還付を受けることとなる法人所得税の額がある
場合には、当該還付を受けることとなる法人所得税の額を控除した残
額)
2号当該各事業年度を基準事業年度(剰余金の配当等の支払に係る基準
日の属する事業年度をいう。以下同じ。)とする剰余金の配当等の額
(当該各事業年度終了の日の翌日から2月を経過する日を含む当該特
定外国子会社等に係る内国法人の事業年度終了の日までに支払義務が
確定したものに限る。以下同じ。)の合計額(当該各事業年度を基準
事業年度とする剰余金の配当等の額の全部又は一部が次のイ及びロに
掲げる者に支払われた場合には,当該合計額は零とする。)
イ当該内国法人に係る外国関係会社(当該内国法人に係る特定外
国子会社等〔措置法68条の90第1項に規定する特定外国子会
社等を含む。以下同様の意味において「特定外国子会社等」の語
を用いることがある。〕を除く。)でその受ける剰余金の配当等
の額につきその本店所在地国において課される税の負担が本邦に
おける法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低い
税の負担として財務省令で定める基準以下のもの
ロ当該内国法人に係る他の特定外国子会社等
イ措置令39条の16第2項は,措置法66条の6第1項に規定する政令
で定めるところにより計算した金額は,同項各号に掲げる内国法人に係る
特定外国子会社等の各事業年度の適用対象留保金額に,当該特定外国子会
社等の当該各事業年度終了の時における発行済株式等のうちに当該各事業
年度終了の時における当該内国法人の有する当該特定外国子会社等の請求
権勘案保有株式等の占める割合を乗じて計算した金額(当該内国法人の同
項の規定の適用に係る各事業年度において,当該特定外国子会社等につき
措置令39条の16第2項1号若しくは2号に掲げる事実が生じた場合又
は当該内国法人に係る外国関係会社〔当該特定外国子会社等に係る控除未
済課税済配当等の額を有するものに限る。〕につき同項3号に掲げる事実
が生じた場合には,当該計算した金額からそれぞれこれらの号に定める金
額を控除した残額)とする旨を定めている。
1号措置法66条の8第1項1号に掲げる事実(当該特定外国子会社等
の当該適用対象留保金額の計算上控除されなかった剰余金の配当等の
支払の事実に限る。)当該剰余金の配当等の額(当該剰余金の配当
等の額が当該適用対象留保金額を超える場合には,当該適用対象留保
金額に相当する金額)に当該適用対象留保金額に係る事業年度終了の
時における当該特定外国子会社等の発行済株式等のうちに当該事業年
度終了の時における当該内国法人の有する当該特定外国子会社等の請
求権勘案保有株式等(当該内国法人に係る措置令39条の16第1項
2号イ及びロに掲げる者を通じて保有する請求権勘案間接保有株式等
を除く。)の占める割合を乗じて計算した金額
2号措置法66条の8第1項2号に掲げる事実同号に定める金額に当
該事実が生じた時における当該特定外国子会社等の発行済株式等のう
ちに当該事実が生じた時における当該内国法人の有する当該特定外国
子会社等の請求権勘案保有株式等(同号に定める金額が当該内国法人
に係る措置令39条の16第1項2号イ及びロに掲げる者に対して交
付された場合におけるこれらの者を通じて保有する請求権勘案間接保
有株式等を除く。)の占める割合を乗じて計算した金額
3号措置法66条の8第1項3号に掲げる事実同号に定める金額(当
該金額が他の特定外国子会社等に該当する外国関係会社から受けたも
のである場合には,当該金額から当該他の特定外国子会社等に係る適
用対象留保金額又は課税対象留保金額若しくは個別課税対象留保金額
の計算上控除される金額と当該事実が生じたことにより同項又は同法
68条の92第1項の規定により損金の額に算入される金額との合計
額に相当する金額を控除した残額)のうち控除未済課税済配当等の額
(措置令39条の16第3項3号参照)に達するまでの金額
(4)措置令39条の18(特定外国子会社等の課税対象留保金額に係る外国法
人税額の計算等)
ア措置令39条の18第1項は,措置法66条の7第1項に規定する政令
で定めるところにより計算した金額は,特定外国子会社等につきその適用
対象留保金額を有する事業年度(以下「課税対象年度」という。)の所得
に対して課される外国法人税の額に,当該課税対象年度に係る適用対象留
保金額(同令39条の15第3項に規定する控除対象配当等の額がある場
合には,当該金額を加算した金額)と当該適用対象留保金額の計算上控除
される剰余金の配当等の額との合計額のうちに同法66条の7第1項に規
定する内国法人に係る課税対象留保金額の占める割合を乗じて計算した金
額(当該金額が当該課税対象留保金額を超える場合には,当該課税対象留
保金額に相当する金額)とする旨を定めている。
イ措置令39条の18第2項は,特定外国子会社等につきその課税対象年
度の所得に対して二以上の外国法人税が課され,又は2回以上にわたって
外国法人税が課された場合において,当該特定外国子会社等に係る内国法
人がその二以上の事業年度又は連結事業年度において当該外国法人税の額
につき措置法66条の7第1項(同条2項の規定によりみなして適用する
場合を含む。以下同じ。)又は68条の91第1項(同条2項の規定によ
りみなして適用する場合を含む。以下同じ。)の規定の適用を受けるとき
は,当該二以上の事業年度又は連結事業年度のうち最初の事業年度又は連
結事業年度後の事業年度に係る措置法66条の7第1項の規定の適用につ
いては,措置令39条の18第2項1号に掲げる金額から同項2号に掲げ
る金額(措置法68条の91第1項の規定の適用を受けた場合で,その適
用を受けた後最初に同法66条の7第1項の規定の適用を受けるときは,
同令39条の18第2項3号に掲げる金額)を控除した金額をもって同条
1項に規定する計算した金額とする旨を定めている。
1号措置法66条の7第1項の規定の適用を受ける事業年度(以下「適
用事業年度」という。)終了の日までに当該課税対象年度の所得に対
して課された外国法人税の額(措置令39条の18第4項又は39条
の118第4項の規定により措置法66条の7第1項又は68条の9
1第1項の規定の適用を受けることを選択したものに限る。以下同
じ。)の合計額について同令39条の18第1項の規定により計算し
た金額
2号適用事業年度開始の日の前日までに当該課税対象年度の所得に対し
て課された外国法人税の額の合計額について措置令39条の18第1
項の規定により計算した金額
3号適用事業年度開始の日の前日までに当該課税対象年度の所得に対し
て課された外国法人税の額の合計額について措置令39条の118第
1項の規定により計算した金額
ウ措置令39条の18第8項は,①措置法66条の6第1項各号に掲げる
内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上同項の規定により益金の額に
算入された金額がある場合には,当該益金の額に算入された金額は,当該
内国法人の当該各事業年度に係る法人税法69条1項に規定する控除限度
額の計算については,法人税法施行令142条3項本文に規定する国外所
得金額に含まれるものとする(本文)が,②当該内国法人に係る特定外国
子会社等の本店所在地国が当該特定外国子会社等の所得に対して同令14
1条1項に規定する外国法人税を課さない国又は地域である場合には,当
該国外所得金額に含まれる金額は,当該益金の額に算入された金額の3分
の1に相当する金額とする(ただし書)旨を定めている。
3法人税法の定め
(1)法人税法23条(受取配当等の益金不算入)
法人税法23条1項は,内国法人が同項各号に掲げる金額(同項1号に掲
げる金額にあっては,外国法人若しくは公益法人等又は人格のない社団等か
ら受けるもの及び適格現物分配に係るものを除く。以下「配当等の額」とい
う。)を受けるときは,その配当等の額(完全子法人株式等及び関係法人株
式等のいずれにも該当しない株式等〔株式,出資又は受益権をいう。〕に係
る配当等の額にあっては,当該配当等の額の100分の50に相当する金
額)は,その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上,益金の額に算入
しない旨を定めている。
1号剰余金の配当(株式又は出資に係るものに限るものとし,資本剰余金
の額の減少に伴うもの及び分割型分割によるものを除く。)若しくは利
益の配当(分割型分割によるものを除く。)又は剰余金の分配(出資に
係るものに限る。)の額
2号及び3号(省略)
(2)法人税法69条(外国税額の控除)
法人税法69条1項は,内国法人が各事業年度において外国法人税(外国
の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるものをいう。以下
同項及び同条8項において同じ。)を納付することとなる場合には,当該事
業年度の所得の金額につき同法66条1項から3項まで(各事業年度の所得
に対する法人税の税率)の規定を適用して計算した金額のうち当該事業年度
の所得でその源泉が国外にあるものに対応するものとして政令で定めるとこ
ろにより計算した金額(以下「控除限度額」という。)を限度として,その
外国法人税の額(その所得に対する負担が高率な部分として政令で定める外
国法人税の額,内国法人の通常行われる取引と認められないものとして政令
で定める取引に基因して生じた所得に対して課される外国法人税の額,内国
法人の法人税に関する法令の規定により法人税が課されないこととなる金額
を課税標準として外国法人税に関する法令により課されるものとして政令で
定める外国法人税の額その他政令で定める外国法人税の額を除く。以下同法
69条において「控除対象外国法人税の額」という。)を当該事業年度の所
得に対する法人税の額から控除する旨を定めている。
(3)法人税法138条(国内源泉所得)
法人税法138条は,同法第3編(外国法人の法人税)において「国内源
泉所得」とは,同項1号から11号までに掲げるものをいう旨を定めており,
同条1号は,国内において行う事業から生じ,又は国内にある資産の運用,
保有若しくは譲渡により生ずる所得(同条2号から11号までに該当するも
のを除く。)その他その源泉が国内にある所得として政令で定めるものを掲
げている。
4法人税法施行令の定め
法人税法施行令141条(外国法人税の範囲)1項は,法人税法69条1項
(外国税額の控除)に規定する外国法人税は,外国の法令に基づき外国又はそ
の地方公共団体により法人の所得を課税標準として課される税とする旨を定め
ている。
5租税特別措置法関係通達(法人税編)(昭和50年2月14日付け直法2-
2(例規)国税庁長官通達。以下「措置法通達」という。)の定め(甲14)
措置法通達66の6-20(外国法人税の範囲)は,措置法66条の7第1
項及び措置令39条の14第2項1号に規定する外国法人税の額には,特定外
国子会社等が法人税法138条又は所得税法161条に規定する国内源泉所得
に係る所得について課された法人税,所得税及び法人税法38条2項2号に掲
げるものの額を含めることができる旨を定めている。
以上
(別紙2)
本件各更正処分等の根拠及び適法性に関する被告の主張
第1本件各更正処分の根拠
被告が本件訴えにおいて主張するAの平成20年4月期及び原告の平成20
年12月連結期の所得の金額及び納付すべき税額は,次のとおりである。なお,
所得の金額に「△」を付したものは,欠損の金額を表す。
1平成20年4月期更正処分について
(1)課税所得金額(別表2⑤欄)163億3874万3171円
上記金額は,次のアの金額にイ及びウの金額を加算した金額である。
ア確定申告における所得の金額(別表2①欄)
△17億7196万1702円
上記金額は,原告が麹町税務署長に対して平成20年7月30日に提出
した平成20年4月期確定申告書に記載された所得の金額と同額である。
イ特定外国子会社等に係る課税対象留保金額の益金算入額(別表2②欄)
180億6872万5836円
上記金額は,原告(合併前のA)が,発行済株式の100%を有するB
の平成19年12月期に係る措置法66条の6第1項に規定する課税対象
留保金額として188億3633万2344円を所得の金額の計算上益金
の額に算入すべきところ,7億6760万6508円のみを加算すること
によって,過少に所得の金額に加算していると認められる金額であるから,
所得の金額の計算上,益金の額に算入される金額である。
ウ未収消費税の損金不算入額(別表2③欄)4197万9037円
上記金額は,原告(合併前のA)が,控除対象外消費税額として544
7万3781円を所得の金額の計算上益金の額に算入すべきところ,12
49万4744円のみを算入していたため,益金の額に算入されるべき金
額である。
(2)課税所得金額に対する法人税の額(別表2⑥欄)
49億0162万2900円
上記金額は,前記(1)の課税所得金額(国税通則法〔以下「通則法」とい
う。〕118条1項の規定に基づき1000円未満の端数金額を切り捨てた
後のもの。)に法人税法66条1項に規定する税率を乗じて計算した金額で
ある。
(3)法人税の額から控除される所得税の額(別表2⑦欄)
2億0139万3906円
上記金額は,法人税法68条に規定する法人税の額から控除される所得税
の額であり,平成20年4月期確定申告書に記載された控除所得税額の金額
と同額である。
(4)納付すべき法人税の額(別表2⑧欄)47億0022万8900円
上記金額は,前記(2)の金額から前記(3)の金額を控除した金額(通則法1
19条1項の規定に基づき100円未満の端数金額を切り捨てた後のも
の。)である。
(5)既に納付の確定した法人税の額(別表2⑨欄)
△2億0139万3906円
上記金額は,平成20年4月期確定申告書に記載された還付金の額と同額
である。
(6)差引納付すべき法人税の額(別表2⑩欄)49億0162万2800円
上記金額は,前記(4)の金額から前記(5)の金額を控除した金額(通則法1
19条1項の規定に基づき100円未満の端数金額を切り捨てた後のも
の。)であり,原告が新たに納付すべき法人税の額である。
2平成20年12月連結期更正処分について
(1)課税所得金額(別表3⑬欄)△278億7741万9885円
上記金額は,次のアの金額にイの金額を加算し,ウの金額を控除した金額
である。
ア確定申告における連結所得の金額(別表3①欄)
△282億8814万7654円
上記金額は,原告が麹町税務署長に対して平成21年6月1日に提出し
た平成20年12月連結期確定申告書に記載された連結所得の金額と同額
である。
イ連結所得に加算すべき金額の合計(別表3⑦欄)
22億8367万9533円
上記金額は,次の(ア)ないし(オ)の金額の合計金額である。
(ア)分割前事業年度の欠損金の損金算入過大額(別表3②欄)
17億7196万1702円
上記金額は,平成20年4月期更正処分により被合併法人であるAの
平成20年4月期における欠損金額が0円となったことから,連結所得
の金額の計算上,過大に損金の額に算入された金額である。
(イ)役員給与の損金不算入額(別表3③欄)1億4689万5480円
上記金額は,原告が役員に対して退職金を支給したとして所得の金額
の計算上損金の額に算入していたものの,支給金額計算基準等から判断
した結果,他の引き続き勤務している者に支払われる給与等と同性質で
あり,また,法人税法34条1項に規定する給与等にも該当しないこと
から,連結所得の金額の計算上損金の額に算入されない金額である。
(ウ)外国法人税還付金減算過大額(別表3④欄)
3億5959万9572円
上記金額は,連結親法人の過年度の租税公課の見積計上額として所得
の金額に加算した金額のうち,平成20年12月連結期に確定した3億
0743万4661円を所得の金額の計算上損金の額に算入すべきとこ
ろ,6億6703万4233円を減算したために,連結所得の金額の計
算上過大に損金の額に算入された金額である。
(エ)一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入限度超過額の増加額(別表
3⑤欄)522万2682円
上記金額は,連結子法人であるG株式会社(以下「G」という。)の
法人税法52条に規定する一括評価金銭債権に係る貸倒引当金について,
法人税法施行令96条2項に基づき貸倒実績率を再計算して繰入限度額
を計算したところ,繰入限度超過額が過少となっていた金額であり,益
金の額に算入される金額である。
(オ)雑益計上漏れ(別表3⑥欄)97円
上記金額は,連結子法人であるGの消費税及び地方消費税の更正に伴
う消費税額等の納付税額と未払消費税額との差額であり,雑益として連
結所得の金額の計算上益金の額に算入される金額である。
ウ連結所得の金額から減算すべき金額の合計(別表3⑫欄)
18億7295万1764円
上記金額は,次の(ア)ないし(エ)の金額の合計金額である。
(ア)外国法人税還付金加算過大額(別表3⑧欄)
4億5759万1274円
上記金額は,外国法人税還付金に係る為替差損のうち,平成20年1
2月連結期において未確定の外国法人税還付金に係る為替差損は1億5
159万0163円であるにもかかわらず,6億0918万1437円
を所得の金額の計算上益金の額に算入したために,連結所得の金額が過
大に計上された金額であり,損金の額に算入される金額である。
(イ)事業再構築引当金加算過大額(別表3⑨欄)9520万0000円
上記金額は,事業再構築引当金として所得の金額の計算上益金の額に
算入した1億9970万円のうち,役員に対する退職金として支払が確
定した金額であり,損金の額に算入される金額である。
(ウ)事業税の損金算入額(別表3⑩欄)12億5474万7400円
上記金額は,Aの平成20年4月期更正処分により所得の金額が増加
したことに伴い生じた事業税の金額であり,損金の額に算入される金額
である。
(エ)未払消費税の損金不算入額加算過大額(別表3⑪欄)
6541万3090円
上記金額は,原告の控除対象外消費税額として4904万7551円
が連結所得の金額の計算上過大に益金の額に算入され,また,連結子法
人であるGの控除対象外消費税額として1636万5539円が連結所
得の金額の計算上過大に益金の額に算入されたものであり,連結所得の
金額の計算上損金の額に算入される金額である。
(2)課税所得金額に対する法人税の額(別表3⑭欄)0円
上記金額は,前記(1)の課税所得金額に法人税法66条1項に規定する税
率を乗じて計算した金額である。
(3)還付される所得税の額(別表3⑮欄)80億7037万5088円
上記金額は,法人税法78条に規定する還付される所得税の額であり,原
告の平成20年12月連結期確定申告書に記載された所得税額等の還付金額
と同額である。
(4)納付すべき法人税の額(別表3⑯欄)△80億7037万5088円
上記金額は,前記(2)の金額から前記(3)の金額を控除した金額である。
(5)既に納付の確定した法人税の額(別表3⑰欄)
△80億7037万5088円
上記金額は,平成20年12月連結期確定申告書に記載された還付金額と
同額である。
(6)差引納付すべき法人税の額(別表3⑱欄)0円
上記金額は,前記(4)の金額から前記(5)の金額を控除した金額であり,原
告が新たに納付すべき法人税の額である。
(7)翌期へ繰り越す連結欠損金の額(別表3⑲欄)
278億7741万9885円
上記金額は,平成20年12月連結期確定申告書に記載された翌期へ繰り
越す連結欠損金の額282億8814万7654円から,前記(1)イの金額
を控除し,前記(1)ウの金額を加算した金額である。
第2本件各更正処分の適法性
1平成20年4月期更正処分について
原告の平成20年4月期の所得の金額及び納付すべき法人税の額は,前記第
1の1(1)及び(6)のとおり,それぞれ163億3874万3171円,49億
0162万2800円であるところ,これらの各金額は,それぞれ,平成20
年4月期更正処分における所得の金額,納付すべき法人税の額と同額であるか
ら,平成20年4月期更正処分は適法である。
2平成20年12月連結期更正処分について
原告の平成20年12月連結期の連結所得の金額,納付すべき法人税の額及
び翌期へ繰り越す連結欠損金の額は,前記第1の2(1),(6)及び(7)のとおり,
それぞれ△278億7741万9885円,0円及び278億7741万98
85円であるところ,これらの各金額は,それぞれ,平成20年12月連結期
更正処分における連結所得の金額,納付すべき法人税の額及び翌期へ繰り越す
連結欠損金の額と同額であるから,平成20年12月連結期更正処分は適法で
ある。
第3平成20年4月期賦課決定処分の根拠
前記第2の1のとおり,平成20年4月期更正処分は適法であるところ,同
処分により原告が新たに納付すべき法人税の額については,その基礎となった
事実について,原告がこれを計算の基礎としなかったことに,通則法65条4
項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
したがって,平成20年4月期の法人税に係る過少申告加算税の額は,平成
20年4月期更正処分により原告が新たに納付すべきこととなる税額49億0
162万円(通則法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数金額を切り
捨てた後のもの。)に,通則法65条1項に基づき100分の10の割合を乗
じて算出した金額4億9016万2000円と,同条2項に基づき上記49億
0162万円のうち50万円を超える部分の金額49億0112万円に100
分の5の割合を乗じて算出した金額2億4505万6000円との合計額7億
3521万8000円である。
第4平成20年4月期賦課決定処分の適法性
被告が本件訴えにおいて主張する平成20年4月期更正処分に伴って賦課さ
れるべき過少申告加算税の額は,前記第3のとおり7億3521万8000円
であるところ,この金額は,平成20年4月期賦課決定処分における過少申告
加算税の額と同額であるから,同処分は適法である。
以上
(別紙3)
争点に関する当事者の主張の要点
第1本件訴えのうち本件通知処分の取消請求に係る部分についての訴えの利益の
有無(争点1)について
1被告の主張の要点
(1)麹町税務署長は,Aの平成20年4月期の法人税について,前提事実(5)
ア及びイのとおり,原告の本件更正の請求(別表1②欄)に対して,通則法
23条4項の規定に基づき本件通知処分(別表1③欄)をし,その後,通則
法24条の規定に基づき,平成22年3月31日付けで,平成20年4月期
に係る法人税につき納付すべき税額を増額する旨の更正処分(同別表1⑥
欄)をした。
(2)更正の請求に対してする更正をすべき理由がない旨の通知の処分(以下単
に「通知処分」という。)と既に確定した納付すべき税額を増加させる更正
の処分(以下「増額更正処分」という。)とが相前後してされた場合,以下
に述べる理由から,通知処分は増額更正処分に吸収され,増額更正処分のみ
が取消訴訟の対象になると解すべきである。
すなわち,通知処分は,納税者の更正の請求に対し課税庁が減額更正する
ことを拒否し,申告税額等について税額を全体的に見直し,減額を認めない
ことを確認する効果を持つ処分であり,更正処分や決定処分のように新たに
税額を確定する効果はないものではある。しかし,課税処分の同一性を確定
される租税債務の同一性ととらえ,課税処分取消訴訟の審理の対象は客観的
に存在する税額の存否であるとする総額主義の下では,通知処分の取消訴訟
における審理の対象は,税額全体であり,税額全体を見直した上で,申告額
を下回るか否かを判断することになると解される。そうすると,通知処分の
取消訴訟と増額更正処分の取消訴訟とは,審理の対象が重なり合うことにな
るため,これらの処分を別々の訴訟で争わせると,同一の納税義務について
の裁判所の判断に矛盾・抵触が生ずるおそれがある。
このことからすれば,更正処分ないし決定処分がされた後に増額再更正処
分がされた場合においては,最後の増額再更正処分にそれ以前の更正処分等
が吸収され,最後の増額更正処分のみが取消訴訟の対象となり,それ以前の
増額更正処分等に対する取消訴訟は,訴えの利益が失われて不適法なものと
なる(最高裁昭和27年(オ)第1058号同32年9月19日第一小法廷
判決・民集11巻9号1608頁,最高裁昭和53年(行ツ)第55号同5
5年11月20日第一小法廷判決・裁判集民事131号135頁参照)のと
同様,通知処分と増額更正処分の両処分について不服申立手続が執られた上,
これらの取消訴訟が提起された場合には,いずれか一方の処分が他方の処分
を訴訟上においては吸収することになると解すべきである。そして,通知処
分は申告税額の減少の理由の有無についてのみに関わるものであるのに対し,
増額更正処分は納付すべき税額全体に関わり,申告税額を正当でないものと
して否定し,これに増額更正を加えて税額の総額を確定するものであるから,
増額更正処分の内容は通知処分の内容を包摂する関係にあるといい得る。し
たがって,通知処分が増額更正処分に吸収される関係になると解すべきであ
り,通知処分と増額更正処分が相前後してされた場合は,増額更正処分のみ
が取消訴訟の対象となると解すべきである。
(3)これを本件についてみると,原告は,本件通知処分及び平成20年4月期
更正処分のいずれについても適法な不服申立てをし,これらの確定を遮断し
た上で,これらの取消しを求める本件訴えを提起したものであるから,平成
20年4月期更正処分の取消訴訟において,本件更正の請求の内容である申
告額を下回る部分の取消しをも請求することができる。したがって,原告の
平成20年4月期の法人税については,平成20年4月期更正処分の取消し
を訴求すれば足り,本件通知処分の取消しを求める訴えには,訴えの利益が
ない。
2原告の主張の要点
本件通知処分の取消請求に係る訴えにつき訴えの利益がない旨の被告の主張
は,争う。
第2特定外国子会社等の範囲について定める措置令39条の14第1項1号の規
定が措置法66条の6第1項の柱書きの規定による委任の範囲を超える無効な
ものであるか否か(争点2)について
1被告の主張の要点
(1)措置法66条の6第1項の柱書きにいう「本店又は主たる事務所の所在す
る国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担が本邦における法
人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いもの」とは,その文
理を自然に読めば,外国関係会社の本店所在地等において,当該外国関係会
社の所得に対して課される税の負担が我が国のそれに比して著しく低いもの
をいうと解され,外国関係会社の本店又は主たる事務所が措置令39条の1
4第1項1号にいう「法人の所得に課される税が存在しない国又は地域」に
ある場合については,そもそもその国又は地域においては「税の負担」がな
いのであるから,これが措置法66条の6第1項の柱書きにいう「税の負担
が…著しく低いもの」に該当することは,上記の文理解釈から明らかである
というべきである。したがって,措置令39条の14第1項1号が「法人の
所得に課される税が存在しない国又は地域に本店又は主たる事務所を有する
外国関係会社」と規定したのは委任の範囲を超えないことは明らかである。
なお,同項2号については,わずかではあっても,法人の所得に対して課
される税が著しく低い場合には,当然に法人所得税に関する法律が存在し,
法人の所得に対する租税の負担が著しく低いか否かを検討する上で,本店所
在地国の法令に従って,本店所在地国で課される外国法人税,本店所在地国
以外で課される外国法人税,租税条約などの関係から納付したとみなされる
外国法人税を加味しなければ,外国関係会社の所得に対して課される税の負
担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低い
か否かを判断できないのであるから,「税の負担」とは,本店所在地国以外
の国の税の負担を含むのである。
そうすると,措置令39条の14第1項1号と2号とにおいて,「税の負
担」を検討する上で,他の国において課税される国税を考慮しなければなら
ないか否かの差が生ずるのは当然であって,措置法66条の6第1項の委任
の範囲を逸脱するものではないから,原告の主張は,その前提において失当
というほかない。
(2)外国子会社合算税制の目的は,軽課税国(いわゆるタックス・ヘイブン)
にある子会社等で我が国株主により支配されているようなものに我が国株主
が所得を留保し,我が国での税負担を不当に軽減することを規制することに
あるが,外国子会社合算税制は,子会社等の法人格を否定することなく,そ
の留保所得が実質的に帰属する者である我が国株主に課税しようとするもの
であり,別個の法人格を有する外国法人の所得を株主の所得に算入するよう
な措置は極めて異例なものともされている(乙8)。そして,外国子会社合算
税制が,特定外国子会社等の適用対象留保金額のうち株主の持分に応じて計
算される課税対象留保金額を「収益の額とみなして」合算課税するというも
のであることからすれば,税負担の実質的な公平を図る観点からも,課税要
件を明確に規定することが極めて重要である。このような考え方から,その
導入時は,特定外国子会社等の該当性の判定においては,いわゆる軽課税国
指定制度によりタックス・ヘイブンに該当する国又は地域が明確に指定され
ていた。しかし,その後,租税回避に利用されやすい課税上の措置を講じる
国があとを絶たず,諸外国の税制改正のめまぐるしい動きを漏れなく適時適
切に把握することは非常に困難となってきたことから,平成4年の税制改正
において,軽課税国指定制度を廃止し,特定外国子会社等に当たるか否かの
判定は個々の外国関係会社ごとに行うこととされた。もっとも,特定外国子
会社等の判定を個々の外国関係会社ごとに行うとはいえ,平成4年の税制改
正においてその趣旨・目的自体を変更したわけでなく,その判定は,その外
国関係会社の「本店所在地国」の租税に関する法令の規定を基に行うことと
されているから,従来もタックス・ヘイブンであった「法人の所得に課され
る税が存在しない国又は地域」に主たる事務所を有する外国関係会社(措置
令39の14第1項1号)は,当然に特定外国子会社等と判定され,「本店
所在地国」の外国法人税(法人税法69条1項に規定する外国法人税)に関す
る法令の規定を基に計算した租税の負担割合が「その各事業年度の所得(中
略)の金額の100分の25以下である外国関係会社」(措置令39の14第
1項2号及び同条2項)は,「本邦における法人の所得に対して課される税
の負担に比して著しく低いもの」(措置法66条の6第1項)として特定外国
子会社等と判定される。このことは,軽課税国を利用した租税回避の防止を
目的に導入された外国子会社合算税制の趣旨・目的や,上記のような同制度
導入後の特定外国子会社等の判定方法の改正経緯から当然に導かれる結果で
あり,課税要件を明確に規定し軽課税国を利用した租税回避を防止するとい
う同税制の趣旨・目的に適合するものである。
(3)①外国子会社合算税制導入時の「昭和53年度の税制改正に関する答申」
(甲1)において,「いわゆるタックスヘイブンとしては,法人税が全くな
いか若しくは我が国法人税に比しその実効税率が著しく低い国又は国外源泉
所得を非課税としている国等を対象とする」とされ,②これを受けて制定さ
れた措置法66条の6第1項(昭和53年法律第11号によりこの規定が新
設された当時のもの)は,「本邦における法人の所得に対して課される税の
負担に比して法人のすべての所得又は特定の所得に対して課される税の負担
が著しく低い国又は地域としてすべての所得又は特定の所得の区分ごとに政
令で定める国又は地域に本店又は主たる事務所を有するもの」(乙12)と規
定し,③その委任を受けた租税特別措置法施行令(平成4年政令第87号に
よる改正前のもの。以下「平成4年改正前措置令」という。)39条の13
第1項は,「政令で定める国又は地域は,次の各号に掲げる所得に対して税
を課さない国若しくは地域又は当該各号に掲げる所得に対して課される税の
負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低
い国若しくは地域として当該各号に掲げる所得の区分ごとに大蔵大臣が指定
する国又は地域とする」(乙13)旨規定し,「所得に対して税を課さない
国若しくは地域」と「所得に対して課される税の負担が本邦における法人の
所得に対して課される税の負担に比して…著しく低い国又は地域」が明確に
区分して規定されていたことからも,被告の主張が正当であることが裏付け
られる。
2原告の主張の要点
(1)最高裁判例において,政令の規定が法律による委任の範囲を超えるかどう
かについては,形式的に法律及び政令の文言を比較するだけでなく,「委任
の範囲については,その文言はもとより,法の趣旨や目的,さらには,同項
が一定の類型の児童を支給対象者として掲げた趣旨や支給対象児童とされた
者との均衡等をも考慮して解釈すべきである。」などとされている(最高裁
平成8年(行ツ)第42号同14年1月31日第一小法廷判決・民集56巻
1号246頁。児童扶養手当法4条1項5号の委任に基づき児童扶養手当の
支給対象児童を定める政令の規定の効力が問題とされた事案に関するも
の。)ように,最高裁判所は,委任の根拠法の趣旨を明らかにした上で,当
該根拠法の趣旨と当該委任を受けた政令の趣旨とが合致するかどうかという
枠組みで政令・省令が法律の委任の範囲を超えるかどうかを判断している。
(2)ア措置法66条の6第1項の柱書きの定める特定外国子会社等の定義は,
「次に掲げる内国法人に係る外国関係会社のうち,」「本店又は主たる事
務所の所在する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担」
(①)が「本邦における法人の所得に対して課される税の負担」(②)に
「比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社に該当するも
の」と分節することができる。
イ外国子会社合算税制は,昭和53年の税制改正(昭和53年法律第11
号による措置法の改正)によって創設され,その際には,特定外国子会社
等の範囲について,いわゆる軽課税国限定列挙方式が採用されたが,その
後,平成4年の税制改正(平成4年法律第14号による措置法の改正)に
よって,特定外国子会社等の判定方法は,個々の法人ごとに,かつ,事業
年度ごとに「税の負担」の割合が25%以下か否かにより特定外国子会社
等に該当するか否かを判定する方式(税負担率判定方式)に変更された。
しかし,前記ア②の「本邦における法人の所得に対して課される税の負
担」という文言は,平成4年の改正前後において一貫して用いられており,
また,平成4年の改正の趣旨・目的において当該文言の解釈に影響を与え
るものは見当たらないから,当該文言は,平成4年の改正の前後において
同様に解釈されるべきであるところ,昭和53年度の税制改正に関する答
申(甲1)に「いわゆるタックス・ヘイブンとしては,法人税が全くない
か若しくは我が国法人税に比しその実効税率が著しく低い国又は国外源泉
所得を非課税としている国等を対象とする。」とあるように,当該文言は,
我が国の実効税率を指すものと解されている(甲12参照)。
ウ前記ア①の「本店又は主たる事務所の所在する国又は地域におけるその
所得に対して課される税の負担」との文言は,「本店又は主たる事務所の
所在する国又は地域における」が「その所得」と「課される税の負担」と
のいずれに掛かるのかについて,少なくとも両方の解釈が可能であり,文
言解釈のみからは,そのいずれが正しいかを決することができないものと
いうべきである。
そして,措置法66条の6第1項の委任を受けて制定された措置令39
条の14第1項は,特定外国子会社等の範囲を定めるものであるが,①同
項1号においては,措置法66条の6第1項の柱書きの「税の負担」は,
飽くまで「本店又は主たる事務所の所在する国又は地域における」ものに
限定することが前提とされている(前記「本店又は主たる事務所の所在す
る国又は地域における」との文言は,「課される税の負担」に掛かる。)
のに対し,②措置令39条の14第1項2号及び2項においては,措置法
66条の6第1項の柱書きの「税の負担」は,「本店又は主たる事務所の
所在する国又は地域における」税の負担のみならず,「本店又は主たる事
務所の所在する国又は地域以外における」税の負担も含むものとして解釈
されている(「本店又は主たる事務所の所在する国又は地域における」と
の文言は,「課される税の負担」ではなく「その所得」にのみ掛かること
が前提とされている。)。このように,措置令39条の14第1項1号と
2号とでは,「税の負担」との文言の解釈,ひいては,措置法66条の6
第1項の柱書きの「本店又は主たる事務所の所在する国又は地域における
その所得に対して課される税の負担」との文言の解釈につき異なる立場が
採られており,両者は矛盾しているといわざるを得ない。同項の柱書きの
想定する「税の負担」の概念は,単一の文言であることに加えて,外国子
会社合算税制の趣旨・目的を実現するためにも一つの意義でしかあり得ず,
措置令39条の14第1項1号又は2号の少なくともいずれか一方は,措
置法66条の6第1項の柱書きに定める「税の負担」の解釈を誤って制定
されたものであり,同項の柱書きの委任の範囲を超え,無効であると解す
るほかない。
エ外国子会社合算税制の趣旨・目的は,①課税要件を明確化して課税執行
面における安定性を確保するとともに,②いわゆるタックス・ヘイブンを
利用して我が国における租税の負担を回避しようとする事例に対処して税
負担の実質的な公平を図ることにあること(最高裁平成17年(行ヒ)第
照)に照らせば,ここでの税負担の実質的な公平とは,内国法人の所得の
税負担とタックス・ヘイブンに置かれた外国子会社の所得の税負担との間
の実質的な公平であると解されるから,例えば,その所得に対して本店所
在地国でのみ30%課税される外国関係会社と,その所得に対して本店所
在地国で10%,本店所在地国以外で20%課税される外国関係会社とを
我が国における外国子会社合算税制の適用対象において区別する合理的な
根拠は見いだし難い。後記第4の2においても述べるとおり,法人の所得
に対して課される税が存在しない国又は地域に本店又は主たる事務所を有
する外国関係会社は,その税負担率が25%超であるか否かにかかわらず,
全て特定外国子会社等に該当するものとすることは,外国子会社合算税制
の趣旨・目的に反するものというべきであって,前掲最高裁平成19年9
月28日第二小法廷判決の判示は,「特定外国子会社等」の範囲,すなわ
ち外国子会社合算税制の適用範囲を画することとなる概念である「税の負
担」とは,「本店又は主たる事務所の所在する国又は地域(本店所在地
国)における」「税の負担」に加えて「本店又は主たる事務所の所在する
国又は地域」(本店所在地国)以外の地域における「税の負担」も含んだ
ものを意味するという解釈を前提とするものと解することができる。
加えて,措置令39条の16第1項2号イの「その本店所在地国におい
て課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担
に比して著しく低い税の負担として財務省令で定める基準以下のもの」と
の規定ぶりに照らすと,仮に,措置法66条の6第1項の柱書きにおいて
「税の負担」をその本店所在地国における「税の負担」に限定して定める
ことを立法者が意図していたのであれば,同項の柱書きは,「次に掲げる
内国法人に係る外国関係会社のうち,その所得に対して本店又は主たる事
務所の所在する国又は地域において課される税の負担が本邦における法人
の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定
める外国関係会社に該当するもの」と規定されていてしかるべきであった
はずであり,このような文言が用いられていないこともまた,上記の解釈
が正当であることを示している。
そうすると,措置法66条の6第1項の柱書きの「税の負担」は,前記
ウ②において述べた意味内容(措置令39条の14第1項2号において前
提とされている意味内容)のものであるというべきであるから,同項1号
は,措置法66条の6第1項の柱書きによる委任の範囲を超えるものであ
ることが明らかであって,前記(1)において述べた判断枠組みに照らせば,
無効なものと解すべきである。
(3)被告は,措置令39条の14第1項1号が措置法66条の6第1項の柱書
きの委任に反しないことの理由の一つとして,平成4年法律第14号による
改正前の措置法66条の6第1項の柱書き及び平成4年改正前措置令39条
の13の第1項の文言を引用するが,上記改正の前と後では措置法66条の
6第1項の柱書きの文言が変更されていることを看過している。平成4年改
正を経た後の措置令が委任規定による委任の範囲を逸脱しているかどうかを
判断するに当たっては,平成4年改正後の措置法の規定の文言を解釈する必
要があるのであって,平成4年改正前の措置法及び措置令の文言を持ち出し
てきたところで何ら意味を有するものではない。
第3Bの国内源泉所得が措置法66条の6第1項にいう「課税対象留保金額」に
該当するか否か(争点3)
1被告の主張の要点
(1)B平成19年12月期に係る課税対象留保金額の算定は,平成20年4月
期更正処分において,以下のとおり適法にされている。
ア未処分所得の金額の計算
B平成19年12月期の決算に基づく所得の金額222億1306万5
152円につき,本邦法令の規定の例に準じて計算した場合に算出される
所得の金額(措置令39条の15第1項)は,原告が平成20年4月期確定
申告書にBに係る「未処分所得の金額」として記載した385億8167
万0508円に,計算誤りと認められた次の各金額を加算又は減算した後
の388億3754万2344円である(甲8,乙1)。
(ア)申告時に「損金の額に算入した納税充当金」として所得の金額に加算
されていた金額(乙1・2枚目)のうち4761万4642円は,B平
成19年12月期において納付した配当等に係る所得税の額であるから,
当該金額を加算過大額として減算する(甲8・更正の理由1(1))。
(イ)申告時に「控除対象配当等の額」として所得の金額から減算されてい
た1億6080万1651円(乙1・2枚目)は,法人税法23条の規
定による受取配当等の益金不算入相当額であるが,同条の規定は,未処
分所得の金額の計算に適用されない(措置令39条の15第1項)ため,
当該金額を減算過大額として加算する(甲8・更正の理由1(2))。
(ウ)平成20年4月期確定申告書別表十七(二)付表「特定外国子会社等の
判定に関する明細書」(乙1・3枚目)の「控除未済欠損金額」を繰越欠
損金の「当期控除額」として所得の金額から減算した18億4145万
6635円は,当該金額に次のbを加算し,a及びcを減算した16億
9877万1808円が正当であるから,その差額1億4268万48
27円を所得の金額の計算上加算する(甲8・更正の理由1(3))。
aBの平成17年4月1日から平成18年3月31日までの事業年度
(以下「B平成18年3月期」という。)及び同年4月1日から平成
19年3月31日までの事業年度(以下「B平成19年3月期」とい
う。)に係る未処分所得の金額の計算において,受取配当等の益金不
算入相当額を「控除対象配当等の額」として所得の金額から減算した
ことにより,その平成14年4月1日から平成15年3月31日まで
の事業年度(以下「B平成15年3月期」という。)に係る控除未済
欠損金額が9517万3628円過大となっていたので,同金額を繰
越欠損金の当期控除額から減算する。
bBの平成15年4月1日から平成16年3月31日までの事業年度
(以下「B平成16年3月期」という。)に係る未処分所得の金額の
計算において,配当等に係る所得税の額を「損金の額に算入した納税
充当金」として所得の金額に加算したことにより控除未済欠損金額が
2329万4282円過少となっていたので,同金額を繰越欠損金の
当期控除額に加算する。
cBの平成16年4月1日から平成17年3月31日までの事業年度
(以下「B平成17年3月期」という。)に係る未処分所得の金額の
計算において,受取配当等の益金不算入相当額を「控除対象配当等の
額」として所得の金額から減算したことにより控除未済欠損金額が7
080万5481円過大となっていたので,同金額を繰越欠損金の当
期控除額から減算する。
イ適用対象留保金額の計算
適用対象留保金額は,特定外国子会社等の各事業年度の未処分所得の金
額から,当該各事業年度において納付をすることとなる法人所得税の額及
び当該各事業年度を基準事業年度とする剰余金の配当等の額の合計額を控
除して計算する(措置令39条の16第1項)。
したがって,前記アのBに係る「未処分所得の金額」388億3754
万2344円から,Bに係る平成19年5月29日に申告した都民税の額
121万円及びBが平成20年1月22日に配当決議をし,同月25日に
支払った200億円(本件配当金)を控除すると,適用対象留保金額は,
188億3633万2344円となる(甲8・更正の理由1)。
なお,原告は,平成20年4月期確定申告書(甲5の1・17枚目)に
おいて,B平成19年12月期に係る適用対象留保金額の計算について,
「当期中に納付することとなる法人所得税の額」として178億1406
万4000円を未処分所得の金額から控除しているが,当該金額は,Bが
平成20年2月6日に申告した法人税115億2640万6300円,法
人住民税23億9672万9800円及び法人事業税38億9092万7
900円の合計額であり(甲4の1・2),「当該事業年度において納付を
することとなる法人所得税の額」に該当しない。
ウ課税対象留保金額の計算
課税対象留保金額は,適用対象留保金額に,当該特定外国子会社等の当
該各事業年度終了の時における発行済株式等のうちに当該各事業年度終了
の時における当該内国法人の有する当該特定外国子会社等の請求権勘案保
有株式等の占める割合を乗じて計算した金額と規定されている(措置令3
9条の16第2項)。
Aは,B平成19年12月期終了の時においてもBの発行済株式の全部
を有していることから,適用対象留保金額188億3633万2344円
の全額が課税対象留保金額となる(甲8・更正の理由1)。
(2)ア原告は,措置法66条の6第1項の柱書き,措置令39条の14第1項
1号及び2号の各規定は,文理のみではその解釈を一義的に確定し難く,
外国子会社合算税制の趣旨・目的等に照らせば,我が国において法人税等
が課されることになる特定外国子会社等の国内源泉所得は,同税制の下で
は課税対象留保金額には含まれないものというべきであるなどと主張する。
イしかし,特定外国子会社等に係る課税対象留保金額に相当する金額は,
特定外国子会社等が,各事業年度において,「特定外国子会社等の各事業
年度の決算に基づく所得の金額」に所定の調整を加えた未処分所得の金額
から留保したものとして算出される適用対象留保金額に基づき計算される
ところ,課税対象留保金額に相当する金額の計算上,特定外国子会社等の
我が国における国内源泉所得を除外する規定はないのであるから,当該国
内源泉所得が「決算に基づく所得の金額」(措置法66条の6第2項2号,
措置令39条の15第1項の柱書き)に含まれることは明らかである。
そもそも,「本税制においては,軽課税国の子会社等の留保所得のうち
株主の持分に応じて計算される課税対象留保金額は『収益の額とみなし
て』…合算課税されることとされている。これは,株主たる内国法人…に
係る課税対象留保金額が,通常であれば当該内国法人…に対する利益の配
当又は剰余金の分配として交付されるべき性質のものであり,株主は子会
社等にそうさせるだけの支配力をもっているにもかかわらず,子会社等が
配当を全くあるいはわずかしか行わず,留保所得を蓄積しているところに
税の回避を推認し得る,という考え方の表われ」とされ,「本税制は,子
会社等の法人格を否定することなく,その留保所得が実質的に帰属する者
である我が国株主に課税しようとするものであり,そのための課税要件を
明確かつ具体的に定めている。別個の法人格を有する外国法人の所得を株
主の所得に算入するような措置は極めて異例なものといえるが,しかし,
タックス・ヘイブンの利用という事態に対しては課税の実質的公平を確保
するために本税制のような所得計算についての本則の特例を設けることに
より株主に対する措置を講ずることが妥当と考えられたのである。従って,
本税制は連結納税制度的な考え方に基づくものでは全くな」いとされてい
る(乙8)。したがって,同税制においては,特定外国子会社等に留保所得
が生じていることが問題なのであって,留保所得の源泉に我が国の国内源
泉所得が含まれているかどうかは,その課税要件と何ら関係がなく,これ
を課税対象留保金額から除くべき理由は認められない。
(3)ア原告は,措置令39条の15第1項の柱書きにいう「決算に基づく所得
の金額」という文言について,具体的にどの範囲の所得が含まれるのかが
文言上明らかでなく,特定外国子会社等が国内源泉所得を有する場合の取
扱いについては明文で定められていないと解されるなどとした上で,この
ような場合には,課税対象留保金額の範囲については,外国子会社合算税
制の趣旨・目的を踏まえた解釈をすべきである旨主張する。
イしかし,租税法規は,多数の納税者間の税負担の公平を図る観点から,
法的安定性の要請が強く働くことから,その解釈は,原則として文理解釈
によるべきであり,文理解釈によっては規定の意味内容を明らかにするこ
とが困難な場合に初めて,当該規定の趣旨・目的に照らしてその意味内容
を明らかにする目的的解釈が行われるべきである。
そして,措置令39条の15第1項の柱書きは「決算に基づく所得の金
額」と定めているところ,「決算」とは,一定の期間における収入支出,
損益等の総実績を明らかにして,予算と対比することをいい,決算の際に
作成される帳簿書類(総勘定元帳の各勘定)等には,当該企業に関わる全て
の経済的事象(取引)が記録されるのであって,「決算に基づく所得の金
額」には企業が行う取引によって稼得する全ての所得が含まれることが明
らかである。
以上からすれば,措置令39条の15第1項の柱書きの文理解釈上,国
内源泉所得は,「決算に基づく所得の金額」に含まれるというほかないか
ら,当然,特定外国子会社等の国内源泉所得についても,法令の文理解釈
上,課税対象留保金額に含まれることとなる。したがって,法令の趣旨・
目的に照らした合目的的解釈又は趣旨解釈をする必要性はなく,原告の上
記主張は,そもそもその前提において誤りといわざるを得ない。
(4)ア原告は,「未処分所得の金額」を定義する措置法66条の6第2項2号
の文言からは,「未処分所得の金額」にどの範囲の所得が含まれるかは一
義的に明らかではなく,その結果「課税対象留保金額」に特定外国子会社
等の国内源泉所得が含まれるか否かは一義的には確定できないなどと主張
する。
イしかし,以下のとおり,特定外国子会社等の国内源泉所得が未処分所得
の金額に含まれることは明らかである。
(ア)未処分所得の金額は,原則として,特定外国子会社等の当該各事業年
度の決算に基づく所得の金額につき,本邦法令の規定の例に準じて計算
した場合に算出される所得の金額又は欠損金額と当該各事業年度におい
て納付する法人所得税の額との合計額から当該各事業年度において還付
を受ける法人所得税の額を控除した残額と定められている(措置令39
条の15第1項)。そして,この未処分所得の金額の計算については,
「本税制が特定外国子会社の留保所得の内国法人への帰属というシステ
ムを採っている以上,その合算の基礎となる金額の計算は原則として我
が国税法の所得計算の基準に従って統一的に行うことが望ましい」との
考え方に立ち(甲12),措置令39条の15第1項では,法人税法22
条等の本邦法令に準じて計算することが規定されている。特に,同条は,
内国法人の各事業年度の所得の金額は,各事業年度の益金の額から当該
事業年度の損金の額を控除した金額とし(1項),その益金の額に算入す
べき金額は,別段の定めがあるものを除き,資本等取引以外の取引に関
わる収益の額であることとし(2項),益金には企業会計上の収益が算入
されることを明確にしている。そして,別段の定めのあるものを除き,
原則的には,企業会計上の費用及び損失を控除することとし(3項),上
記の収益,費用及び損失については,「一般に公正妥当と認められる会
計処理の基準」に従って計算されるものとすることを明らかにしている
(4項)。このような同条に規定されている課税所得計算を措置令39条
の15に照らしてみると,特定外国子会社等の未処分所得の金額は,特
定外国子会社等の益金の額から損金の額を控除して計算することとなり,
当該益金としては企業会計上の収益が,当該損金としては企業会計上の
費用及び損失が,それぞれ算入され,その企業会計上の収益,費用及び
損失については,一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って
計算することとなる。そして,一般に公正妥当と認められる会計処理の
基準である企業会計原則においては,企業会計上,「すべての取引につ
き,正規の簿記の原則に従って,正確な会計帳簿を作成しなければな
ら」ず,「損益計算書は,…すべての収益とこれに対応するすべての費
用とを記載して経常利益を表示」するものとされている。
このことからすれば,特定外国子会社等の未処分所得の金額について
も,特定外国子会社等の全ての取引について会計帳簿が作成され,そこ
に記載された全ての収益とこれに対応する全ての費用とから計算される
のであって,我が国の企業会計上,在外支店の収益とこれに対応する費
用を未処分所得の金額の計算から除くことなど規定していない上に,法
人税法上も国外源泉所得を除く規定にはなっていないから,特定外国子
会社等の未処分所得の金額を本邦法令の規定の例に準じて計算した場合
において,国内源泉所得が未処分所得の金額に含まれることは明らかで
ある。
(イ)未処分所得の金額の計算上,特定外国子会社等の各事業年度の決算に
基づく所得の金額については,「本邦法令の規定」に準じて計算するこ
とを原則としつつ,「本店所在地国の法令の規定」に準じて計算するこ
とも認められているところ(措置令39条の15第1項及び2項),
この場合については,「一定の調整(例えば国外源泉所得が課税所得に
含まれないような税制の国の場合にそれを未処分所得の金額に含め
る。)を加えればそれによることも可能とされました。」と説明されて
いる(甲12,措置令39条の15第2項)。すなわち,本店所在地国の
法令に準じて計算する場合には,本邦法令の規定に準じて計算した場合
との間で著しいかい離が生じないように,一定の調整を行うことによっ
て,本邦法令の規定に準じて計算した場合と同様に特定外国子会社等の
国内源泉所得を含む全ての所得を課税対象留保金額の計算に含めること
とされている。このことからすれば,本店所在地国の法令の規定に準じ
て計算する場合においても,国内源泉所得が未処分所得の金額に含まれ
ることは明らかである。
(ウ)前記(3)において述べたとおり,文理解釈上,国内源泉所得は,「決
算に基づく所得」に含まれるものというべきであるから,「未処分所得
の金額」に含まれる。このことをおくとしても,措置法66条の6等が
規定する「未処分所得の金額」に国内源泉所得が含まれるというのは公
定解釈であり,これに反する解釈は本件における原告の主張以外に見当
たらないから,少なくとも,この「未処分所得の金額」に国内源泉所得
が含まれると解することは一般的な解釈であるということはできる。こ
れを前提とすると,仮に,措置法及び措置令が規定する特定外国子会社
等の未処分所得の金額に国内源泉所得が含まれないというのであれば,
他の措置法の各規定でもみられるように(例えば,いわゆる移転価格税
制に係る措置法66条の4第1項は,適切な国外関連者の判定を行うた
め「(当該他方の法人が有する自己の株式又は出資を除く。)」と規定し
ている。),措置令39条の15第1項の柱書きに「国内源泉所得を除
く」等の文言が入れられ,あるいは,法人税法22条等を引用する際に
「国内源泉所得を除く」等の文言が入れられるものと考えられる。しか
し,措置令39条の15第1項にそのような文言はないのであって,措
置法及び措置令が規定する特定外国子会社等の「未処分所得の金額」に
も国内源泉所得が含まれるものと解するのが自然かつ合理的である。
(エ)特定外国子会社等の未処分所得の金額の計算を規定する措置令39条
の15の規定は,合算の基礎となる金額の計算は原則として我が国税法
の所得計算の基準に従って統一的に行うことが望ましいという立法時の
考えに基づいて規定されているものであり,制定当時における規定内容
と平成20年4月期の期末時における規定内容について,条文の規定振
りに大きな変更は認められないから,立法時における基本的な考え方が
変わっていないことは明らかである。したがって,外国子会社合算税制
において,特定外国子会社等の未処分所得の金額に国内源泉所得を含め
ないと解することはできない。
(オ)平成25年度税制改正の大綱においては,「無税国に所在する特定外
国子会社等に係る外国子会社合算税制の合算所得につき,本店所在地国
以外の国で課税される場合には,当該合算所得は,外国税額控除の適用
上,非課税国外所得に該当しないこととする。」とされたところ(乙2
8),これは,I及びJの改正要望が反映されたものである(乙29,乙
30)。かかる改正要望は,原告の主張のように特定外国子会社等の本
店所在地国以外の国又は地域における所得を外国子会社合算税制の合算
の対象から除くといった内容ではなく,現行措置令39条の18第9項
の規定を改正することにより経済的二重課税の調整を行うこととするも
のであり,実際の改正もこの改正要望に沿うものであって,原告が主張
するような内容のものとはなっていない。この点からみても,特定外国
子会社等の国内源泉所得が「未処分所得の金額」に含まれることは明ら
かである。
(カ)以上のとおり,特定外国子会社等の国内源泉所得が措置法66条の6
第2項2号に規定する「未処分所得の金額」に含まれることは文理上明
らかであり,また,本邦法令の規定に準じて計算する場合も,本店所在
地国の法令の規定に準じて計算する場合も,他の措置法の各規定との対
比からみても,措置令39条の15の立法経緯からみても,さらには,
平成25年度税制改正要望及び平成25年度税制改正の大綱からみても,
特定外国子会社等の国内源泉所得が「未処分所得の金額」に含まれるこ
とは,より一層明らかである。
(5)ア原告は,土地譲渡益重課制度に関する規定と対比させ,措置法66条の
6第1項は,特定外国子会社等の国内源泉所得に対して本来法人税法上課
される法人税を超えて「同一所得」に対して法人税を加算して課税すると
いう文言を欠いた規定であるといわざるを得ず,租税法律主義(特に課税
要件法定主義)及び一般法と特別法の関係に関する法理の観点からは,その
文言を欠いている以上,特定外国子会社等の国内源泉所得に対して法人税
を加算して課するために必要な課税要件が一義的に明確に法定されていな
いと解すべきである旨主張する。
イしかし,外国子会社合算税制の趣旨・目的は,いわゆるタックス・ヘイ
ブンにある子会社等で我が国株主により支配されているようなものに我が
国株主が所得を留保し,我が国での税負担を不当に軽減することを規制す
ることにあり,特定外国子会社等の課税対象留保金額を「収益の額とみな
して」我が国親会社の所得の金額の計算上,益金に加算するものであるの
に対し,土地譲渡益重課制度は,当該土地の譲渡等に係る譲渡利益金額の
合計額に20%を乗じて計算した金額が法人税額として加算される(甲2
7)とされているように,同一の課税主体の同一の所得に対して,重ねて
課税するものであり,明らかにその性質が異なるものである。また,外国
子会社合算税制は,特定外国子会社等に所得を留保して我が国の税負担を
免れることとなる内国法人に対しては当該所得を当該内国法人の所得に合
算して課税することによって税負担の公平性を追求したものであるのに対
し,土地譲渡益重課制度は,土地の商品としての特殊性と投機的な土地取
引を抑制するという観点から土地譲渡益に重課するものであり,税負担の
公平性を追求し規定された外国子会社合算税制とは,その趣旨・目的が明
らかに異なる。そして,本件で原告が問題視している「経済的二重課税」
は,後に述べるとおり,外国税額控除の規定(措置法66条の7)及び課税
済留保金額の損金算入の規定(措置令66条の8)により調整されるもので
ある。したがって,土地の譲渡益に法人税を重課する規定である土地譲渡
益重課制度を例に挙げ,措置法66条の6第1項は法人税を重課する規定
であると決めつけ,法人税を重課することを明確に定める文言が欠けてい
ることから,外国子会社合算税制において,特定外国子会社等の国内源泉
所得が合算課税の対象に含まれるという解釈を文理解釈により導くことが
できないなどとする原告の主張は,失当である。
(6)ア原告は,措置令39条の18第8項の規定は「国内源泉所得」である所
得を「国外源泉所得」に変換することを意味し,法律による具体的な委任
なく,政令によってそのような変更を行うことは,租税法律主義(特に課
税要件法定主義)の要請の下では,違法無効と考えられる一方,同項につ
いて,特定外国子会社等の「国内源泉所得」は合算対象所得に含まれない
との解釈を前提として規定されたものであると理解すれば,もともと「国
外源泉所得」であったものを「国外源泉所得」として扱うことを規定して
いるという意味しか持たず,上記のような問題は生じないなどとして,こ
の点も特定外国子会社等の「国内源泉所得」が合算対象所得に含まれない
ことの根拠となる旨主張する。
イしかし,以下のとおり,前記アの原告の主張は,失当なものというべき
である。
(ア)措置法66条の7第1項は,特定外国子会社等の所得に対し課された
税のうち,合算課税が行われる内国法人の課税対象留保金額に対応する
部分の金額を当該内国法人が納付した控除対象外国法人税の額とみなし
て,法人税法69条に規定する外国税額控除を行うことができる旨を規
定している。これは,特定外国子会社等に係る課税対象留保金額を内国
法人の所得に合算して課税した場合,その合算の対象とされる所得に対
して既にその所在地国で税が課されていれば,当然に経済的な意味にお
いて二重課税が生ずることとなるため,その調整をするために,特定外
国子会社等の所得に対し課された税のうち,合算課税が行われる内国法
人の課税対象留保金額に対応する部分の金額を当該内国法人が納付した
外国税額とみなして外国税額控除を行うことができるように措置したも
のである。
そして,措置法66条の7第1項は,具体的な計算方法については,
政令である措置令39条の18に委任しているところ,その委任を受け
た措置令39条の18第8項は,前段において,特定外国子会社等に係
る課税対象留保金額を益金算入する場合には,「経済的二重課税」を調
整するために,その益金の額に算入された金額は,その内国法人の外国
税額控除の限度額の計算上,国外所得の金額に含まれるとしている。
これは,特定外国子会社等の所得に対し課された税のうち,合算課税が
行われる内国法人の課税対象留保金額に対応する部分の金額を,当該内
国法人が納付した外国税額とみなして外国税額控除を行うことができる
ようにするとする措置法66条の7の趣旨にも合致する。
したがって,措置令39条の18第8項の規定(外国税額控除の控除
限度額の計算において「国内源泉所得」を「国外所得金額」として計算
すること)は,違法無効ではない。
(イ)措置法66条の7の基となる法人税法69条においても,外国税額控
除の控除限度額の計算において「国内源泉所得」を「国外所得金額」と
して計算する考え方が見受けられる。
すなわち,法人税法69条8項は,間接外国税額控除について,「内
国法人が外国子会社…から受ける剰余金の配当…若しくは利益の配当…
又は剰余金の分配…の額(以下この条において『配当等の額』という。)
がある場合には,当該外国子会社の所得に対して課される外国法人税の
額のうち当該配当等の額に対応するもの…として政令で定めるところに
より計算した金額は,政令で定めるところにより,当該内国法人が納付
する控除対象外国法人税の額とみなして,第1項から第3項までの規定
を適用する。」と規定していた。これは,同法69条1項等に規定の直
接外国税額控除においては,その対象となる所得税等は我が国法人が外
国で課された所得税等のみに限られ,我が国法人が我が国で課される所
得税等がこれに含まれる余地はないのに対し,同法69条8項に規定す
る間接外国税額控除においては,我が国法人の外国子会社(一定の要件
を満たすもの)がその所得に対して課された所得税等のうち一定のもの
を当該我が国法人の法人税額から間接的に控除するとの趣旨・目的から
すれば,直接外国税額控除の場合と異なり,当然のこととして,外国子
会社の所得に対して課された全ての所得税等を間接税額控除の対象とす
べきであるからである。このように,同項に規定する間接外国税額控除
については,二重課税を排除するとする外国税額控除制度の趣旨・目的
に照らせば,当然のこととして,我が国で課された所得税等についても
外国法人税に含まれると解されるものである。
(ウ)以上のとおり,措置令39条の18第8項は,措置法66条の7第1
項の委任を受けて規定されたものであり,規定された内容についても措
置法66条の7第1項及びその基となる法人税法69条の趣旨に合致す
るものであるから,前記アの原告の主張には,理由がない。
(7)ア原告は,最高裁平成20年(行ヒ)第91号同21年10月29日第一
小法廷判決・民集63巻8号1881頁の判示を部分的に引用,強調し,
外国子会社合算税制において,特定外国子会社等の国内源泉所得に対する
我が国の法人税等の二重課税に何ら手当てがなされていないのは,外国子
会社合算課税がそのような手当てをする必要がそもそもない場合のみを想
定して制定されたものであるからであるなどと主張する。
イしかし,以下のとおり,特定外国子会社等に係る課税対象留保金額の合
算課税により生ずる二重課税は,合算課税時には外国税額控除(措置法6
6条の7)により調整され,課税済留保金額を原資とした配当等があった
ときには,課税済留保金額を損金算入することにより調整される(措置法
66条の8)のであるから,原告の主張は,そもそも,何ら手当てがなさ
れていないとする前提において誤っている。
(ア)課税対象留保金額等に係る外国法人税額の控除について,措置法66
条の7第1項は,特定外国子会社等の所得に対し課される外国法人税の
うち,合算課税が行われる内国法人の課税対象留保金額に対応する部分
の金額を当該内国法人が納付した控除対象外国法人税の額とみなして外
国税額控除(法人税法69条)をすることができる旨を規定し,当該控除
対象外国法人税の額とみなされる特定外国子会社等の課税対象留保金額
に係る外国法人税額は,課税対象年度の所得に対して課される外国法人
税額に,当該課税対象年度に係る適用対象留保金額と当該適用対象留保
金額の計算上控除される剰余金の配当等の額との合計額のうちに当該内
国法人に係る課税対象留保金額の占める割合を乗じて計算した金額(当
該金額が当該課税対象留保金額を超える場合には,当該課税対象留保金
額に相当する金額)とされている(措置令39条の18第1項)。なお,
措置法66条の7第1項及び措置令39条の14第2項1号に規定する
外国法人税の額には,特定外国子会社等が法人税法138条又は所得税
法161条に規定する国内源泉所得に係る所得について課された法人税,
所得税及び法人税法38条2項2号に掲げるものの額を含めることがで
きるものとされている(措置法通達66の6-20)。
また,法人税法69条1項は,控除対象外国法人税の額を当該事業年
度の所得に対する法人税の額から控除する旨を規定している(ただし,
繰越控除限度額があるときは,その繰越控除限度額を限度として,その
超える部分の金額を当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除し
〔同条2項〕,繰越控除対象外国法人税額があるときは,当該控除限度
額から当該事業年度において納付することとなる控除対象外国法人税の
額を控除した残額を限度として,その繰越控除対象外国法人税額を当該
事業年度の所得に対する法人税の額から控除する〔同条3項〕こととな
る。
(イ)特定外国子会社等に係る課税対象留保金額の益金算入の規定の適用を
受けた内国法人が,当該特定外国子会社等から剰余金の配当等の支払を
受けた場合は,課税済留保金額に相当する金額は,課税対象留保金額か
ら充てられたものとして計算した金額を限度として,内国法人の所得の
金額の計算上,損金の額に算入することとされている(措置法66条の
8等)。
(ウ)前記(ア)及び(イ)の課税対象留保金額等に係る外国法人税額の控除及び
課税済留保金額の損金算入に係る規定は,外国子会社合算税制の適用に
より発生する二重課税の調整を行うものである。
すなわち,租税法上,外国子会社合算税制における二重課税の調整に
ついては,「一つは,合算の対象となる課税対象留保金額に対し既に外
国の法人税が課されているとしますと,同一所得に対し外国の法人税と
我が国の法人税とが二重に課されることとなりますので」,この二重課
税の調整を,「外国税額控除制度の方式」で行うこと,「次に,課税対
象留保金額が合算の対象とされ我が国の法人税が課されている場合に,
その金額を原資とする特定外国子会社等からの配当があったときには,
その配当についても法人税が課されるので,同一所得に対し我が国の法
人税が二重に課されることとなります。この二重課税の調整は,過去5
年以内に益金算入された金額を逆に損金算入するという方式を採」る
(なお,「5年以内」との期間は,平成17年3月法律21号により
「10年以内」に改正された。)こととされている(甲12)。この課税
済留保金額の損金算入は,「過去に内国法人の所得に合算された金額を
損金に算入することによって二重課税を排除しており,これにより過去
の課税関係はなかったものと同様の効果が生ずるわけですが,…その控
除の対象となった外国法人税についても課税関係がなかったと同様にす
ることが必要とされます。そこでその控除の対象とした外国法人税で損
金に算入された金額に対応する部分のものは減額されたものとみなして,
現行外国税額控除制度にある外国法人税が減額された場合の取扱いと同
様に取扱うことによってその調整を図ること」(甲12)とされており,
つまり,前記(ア)の外国税額控除による二重課税の調整は,特定外国子
会社等の課税済留保金額が内国法人に配当されるまでの間に生ずる二重
課税を調整するものであり,最終的な調整は前記(イ)の課税済留保金額
の損金算入により行われるものといえる。
なお,前記(ア)の二重課税の調整の対象となる外国法人税とは,課税
対象留保金額の計算の基礎となった事業年度の所得に対して課された法
人税法69条1項に規定する外国法人税をいうのであり,特定外国子会
社等が我が国の法令に基づいて,その国内源泉所得に対して課された法
人税等は含まれないことになるが,これは二重課税の調整の観点から不
合理であることから,措置法通達66の6-20は,この場合の外国法
人税等の額には,特定外国子会社等が法人税法138条又は所得税法1
61条に規定する国内源泉所得に係る所得について課された法人税,所
得税及び法人税法38条2項2号に掲げるものの額を含めることができ
ることを明らかにしている(甲14)。
(8)ア原告は,被告が外国子会社合算税制における外国税額控除の対象に特
定外国子会社等の国内源泉所得が含まれるとする根拠として挙げる措置法
通達66の6-20は法令に反する通達であるから無効であり,外国子会
社合算税制上,原告のいう「第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益
間】」(特定外国子会社等の国内源泉所得につき特定外国子会社等に対し
て課された我が国の法人税等ないし所得税と,当該国内源泉所得が合算課
税されることにより親会社たる内国法人に課される我が国の法人税等の間
の二重課税。以下単に「第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】」
という。)を調整する仕組みはないと主張する。
イしかし,措置法通達66の6-20の内容については,前記(7)イ(ウ)
において述べたとおり,二重課税の調整を外国税額控除制度の方式で行う
場合に,この外国法人税には,特定外国子会社等が我が国の法令に基づい
て,その国内源泉所得に対して課された法人税等は含まれないことになる
が,これは二重課税の調整の観点から不合理であることから,この場合の
外国法人税等の額には,特定外国子会社等が法人税法138条又は所得税
法161条に規定する国内源泉所得に係る所得について課された法人税,
所得税及び法人税法38条2項2号に掲げるものの額を含めることができ
ることを明らかにしているものである。
また,外国子会社合算税制における外国税額控除(措置法66条の7)の
趣旨・目的は,同一所得に対する外国の法人税と我が国の法人税の二重課
税を調整することにあるところ,かかる趣旨・目的は,当該特定外国子会
社等が国外源泉所得を得る場合に限らず,我が国における事業により国内
源泉所得を得る場合にも同様に当てはまるといえる。言い換えれば,合算
の対象となる国外源泉所得を有する場合と,合算の対象となる国内源泉所
得を有する場合とは,当該特定外国子会社等が当該所得の源泉となる事業
を行う場所が我が国以外か否かの相違にすぎず,いずれの場合も二重課税
の調整の要請は,同様に働くものと認められる。
以上からすれば,措置法通達66の6-20は,法令の趣旨・目的に適
合する合理的なものというべきであるから,違法,無効でないことは明ら
かであり,前記アの原告主張には理由がない。
(9)ア原告は,第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】について,外国
子会社合算税制においてその二重課税を調整する規定が存在しないという
ことは,同税制が,特定外国子会社等(外国関係会社)が我が国の国内源泉
所得を有する場合を想定せずに制定されたことを示すものであり,外国関
係会社が国内源泉所得を有する場合については,法令には定めがない状態
であって,同制度の趣旨・目的を踏まえた合理的かつ妥当な合目的的解釈
又は趣旨解釈によりこれを補わなければならない旨主張する。
イ(ア)しかし,前記(8)イにおいて指摘したように,特定外国子会社等が国
外源泉所得を有する場合と国内源泉所得を有する場合とは,当該特定外
国子会社等が所得を生み出した事業を行う場所が異なるにすぎない。そ
して,既に述べたとおり,措置法令の文理解釈上,特定外国子会社等の
国内源泉所得は課税対象留保金額に含まれ,これを前提とした特定外国
子会社等に係る課税対象留保金額の合算課税により生ずる二重課税は,
合算時には外国税額控除により調整され,そして配当時には,課税済留
保金額を損金算入することにより調整されるのであるから,原告の前記
アの主張は,外国子会社合算税制においてその二重課税を調整する規定
が存在しないことを前提としている点において失当というほかない。
(イ)また,いわゆるタックス・ヘイブンに設立される企業は,多種多様で
あり,それらの企業が我が国の国内源泉所得を有しない法人のみである
などとは到底考えられない。むしろ当該企業に関して様々な事例が生じ
得ることを前提に,特定外国子会社等に当たる場合においても,合算課
税の適用が除外される場合の要件を措置法66条の6第4項等に規定し,
また,外国子会社合算税制が適用される場合のその課税対象留保金額等
の計算方法を措置令において具体的に規定しているのである。したがっ
て,仮に国内源泉所得を課税対象留保金額に含めないのであれば,むし
ろ当然にその旨が規定されてしかるべきであり,そのような規定がない
以上,原告の前記アの主張には根拠がないものといわざるを得ない。
この点,前掲最高裁平成21年10月29日第一小法廷判決において
も,「措置法の各規定等から成る我が国のタックス・ヘイブン対策税制
は,特定外国子会社等に所得を留保して我が国の税負担を免れることと
なる内国法人に対しては当該所得を当該内国法人の所得に合算して課税
することによって税負担の公平性を追及しつつ,特定外国子会社等の事
業活動に経済合理性が認められる場合を適用除外とし,かつ,それが適
用される場合であっても所定の方法による外国法人税額の控除を認める
など,全体として合理性のある制度ということができる」と判示されて
いるように,制度全体としても,合理的と評価できるものであるから,
原告の前記アの主張は失当というほかない。
(10)ア原告は,合算対象所得に特定外国子会社等の国内源泉所得が含まれると
いう被告が主張する文理解釈を採用すると,第3の二重課税【国内源泉
所得・合算利益間】が生じ,かつそれを調整する仕組みが用意されてい
ないために,著しく不合理かつ非常識な課税がなされてしまうなどと主
張する。
イしかしながら,以下のとおり,原告の前記アの主張は,外国子会社合算
税制の法令の規定を正解せずに,独自の見解に基づいて主張を展開するも
のにすぎず,理由がない。
(ア)外国子会社合算税制は,その制度設計として,内国法人の外国子会社
が特定外国子会社等に該当する場合,当該特定外国子会社等につき適用
除外に該当しない限りは,課税対象留保金額をその内国法人の所得に合
算して課税することとし,他方で,その合算課税により「経済的二重課
税」が生ずる場合には,外国税額控除や課税済留保金額の損金算入によ
ってその調整を行うこととするという方式を採用している。このことか
ら,経済的二重課税を生じさせないようにするために,特定外国子会社
等の所得のうち,課税済みのものについて合算の対象から除外するとい
う方式は採用していないということができる。
(イ)外国子会社合算税制は,いわゆるタックス・ヘイブンに所在する外国
法人で我が国の法人又は居住者により株式又は出資の保有を通じて支配
されているとみなされるものの留保所得をそれら我が国株主の持分に応
じてその所得に合算して課税するというものであり,その目的は,その
ような国等にある子会社等で我が国株主により支配されているようなも
のに我が国の株主が所得を留保し,我が国での税負担を不当に軽減する
ことを規制することにあるとされているところ,同税制は,前掲最高裁
平成21年10月29日第一小法廷判決が判示しているように,同税制
が適用される場合であっても特定外国子会社等の事業活動に経済合理性
が認められる場合には適用除外とし,適用される場合であっても所定の
方法による外国法人税額の控除及び課税済留保金額の損金算入を認める
など,全体として合理性のある制度である。そして,仮に,同税制にお
いて国内源泉所得を外国子会社合算税制の対象とすることにより不合理
が生ずるのであれば,既に述べたように国内源泉所得を外国子会社合算
税制の対象から除外するといった規定を設けるはずであるが,現行法令
上,そのような規定は存在せず,また,平成25年度税制改正要望(乙
30)においてもそのような要望はない(むしろ,国内源泉所得を合算
課税の対象とすることを前提とした要望となっている。)ことからも,
国内源泉所得を合算課税の対象とすることは何ら不合理ではないといえ
る。
(ウ)外国税額控除制度は,一定の政策目的に基づき,課税を減免するとい
う,国家による一方的な恩恵的措置であり,その要件をいかに規定する
かは国家の立法政策,租税政策に属する事柄であることを反映して,外
国税額控除制度には,一定の制限が設けられている。すなわち,「外国
税額控除は,いずれの国の制度においても,無制限に認められるもので
はなく,一般的に,国外で得た所得に対し居住地国で課される税額を限
度とするという考え方がとられて」おり,「我が国においては,控除対
象となるすべての外国税額とすべての国外所得をそれぞれ一括通算して
限度計算を行ういわゆる一括限度額方式を採用してい」る(甲23)。
そして,実際,控除限度額の計算における国外所得金額については,
国際的二重課税が発生していない非課税国外所得の控除限度額の余裕額
を利用して控除がされるという彼此流用の余地を縮減するという観点か
ら,①国外源泉所得の中に外国法人税が課されないものがある場合には,
外国法人税が課されない当該国外源泉所得に係る所得の金額の3分の2
に相当する金額を除外した後の残額を所得の金額とすることとし,ただ
し,②上記①により算出された国外所得金額が当該事業年度の所得の金
額の90%相当額と当該事業年度の所得の金額に全従業員数に占める国
外従業員数の割合を乗じた金額のいずれか大きい方の金額を下回る場合
には,当該いずれか大きい方の金額を国外所得金額とすることとしてい
る(法人税法施行令142条3項)。
また,控除限度額の計算においては,上記①により非課税国外所得の
3分の2を国外所得金額から除くとしても,依然として非課税国外所得
の残りの3分の1や軽課税国外所得から控除余裕額が創出されることか
ら,高率外国税そのものについて入り口で制限することを目的として,
外国税額控除の対象とされる外国法人税の額から50パーセントを超え
る高率で課される外国法人税額の高率部分を除外することとしている
(法人税法69条1項,法人税法施行令142条の3第1項)。
このように,外国税額控除は,外国に租税を納付したからといって無
制限にその納付した金額について税額控除を認める制度とはなっていな
いのであり,外国子会社合算税制の制度設計及び外国税額控除の趣旨・
目的を踏まえれば,外国子会社合算税制において,外国税額控除による
二重課税の調整が完全にできないとしても,そのことをもって外国子会
社合算税制自体が不合理であるということはできない。
本件における二重課税(第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益
間】)は,同じ利益を2人以上の者の所得に含めてそれぞれに課税する
「経済的二重課税」であり,一般に,同じ者の同一の所得に対して課税
するという「法的二重課税」については完全に調整されなければならな
いとされているが,経済的二重課税についてはそのように考えられては
いない。そして,外国税額控除の要件をいかに規定するかは,国家の立
法政策,租税政策に属する事柄であり,外国税額控除による二重課税の
排除に後に改めて述べる控除余裕枠の彼此流用の防止を目的として一定
の制限が設けられていることに鑑みれば,二重課税が常に完全に排除さ
れるとは限らず,外国子会社合算税制を適用した場合に,経済的二重課
税が完全に解消されずに残るとしても,そのことのみをもって,外国子
会社合算税制の適用が不合理であるということはできない。また,同様
に,そのことが,特定外国子会社等の国内源泉所得が合算課税の対象に
含まれないと解釈すべき理由にならないことは明らかである。
(11)ア原告は,①特定外国子会社等の国内源泉所得は,日本において課税さ
れるのであるから,その時点で日本の課税権は確保されており,外国子
会社合算税制が防止しようとしている我が国での税負担を不当に軽減す
ることはおよそ考えられず,これを外国子会社合算税制によって,もう
一度日本で当該所得に課税しなければならない又はすべき合理的な理由
は存在しない,②同税制には,タックス・ヘイブン子会社を利用するこ
とに対する懲罰的な課税を行うという目的はなく,重加算税が課される
事案よりも重く課税する理由は全くないから,同税制の趣旨・目的に照
らせば,特定外国子会社等の国内源泉所得は合算対象所得に含まないと
解するのが論理的かつ合理的な結論であるなどと主張する。
イしかしながら,既に述べたとおり,外国子会社合算税制の目的は,軽課
税国にある子会社等を用いて我が国での税負担を不当に軽減することを規
制することにあり,同税制は,その規制の方法として,特定外国子会社等
の課税対象留保金額を「収益の額とみなして」合算課税するという課税方
法を採用したものである。そして,同税制に関連する措置法及び措置令の
規定上,本店所在地国に留保されている所得につき,我が国において課税
権が行使されたものである場合には,これを課税対象留保金額としないな
どの要件は見当たらない。そうすると,同税制においては,本店所在地国
に所得が留保されているか否かに着目し,留保されている所得があれば合
算課税の対象とするのであって,当該留保されている所得につき,我が国
において課税権が行使されたものであるか否かにより,合算課税の対象と
するか否かが左右されるものではないから,我が国において課税権が行使
されている所得であることを理由として,Bの国内源泉所得は合算対象所
得に含まれないとする原告の主張は,いわば,法令において規定されてい
ない要件を何らの根拠もなく付加するものであって,失当といわざるを得
ない。
(12)ア原告は,趣旨解釈により特定外国子会社等の国内源泉所得は合算課税の
の対象に含まれないと解すれば,①特定外国子会社等の国内源泉所得に課
された我が国の法人税・所得税等と,当該特定外国子会社等に係る内国法
人に対する外国子会社合算税制による合算課税との間の二重課税(原告の
いう第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】)は生じ得ない以上,
本件のような不合理かつ非常識な課税がされるおそれはなく,②また,特
定外国子会社等の国内源泉所得に対して,我が国の法人税・所得税等が課
されるにもかかわらず,当該国内源泉所得を合算課税の対象に含めた上で,
そのことによって生じる二重課税を解消するため,「外国法人税」(措置
法66条の7第1項,法人税法69条1項,法人税法施行令141条1
項)に我が国の法人税,所得税及び法人住民税が含まれるという,文理に
明らかに反する措置法通達66の6-20に定められた解釈を採る必要は
なく,第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】が解消されないなど
という不合理な結論が導かれることもないなどと主張する。
イしかしながら,前記(11)イで述べた点をおくとしても,以下のとおり,原
告の前記アの主張は失当である。
(ア)第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】は,原告のいう第1の
二重課税【外国課税所得・合算利益間】(合算の対象となる課税対象留
保金額に相当する特定外国子会社等の所得に対して課された外国法人税
と合算課税によって親会社たる内国法人に課される我が国の法人税等の
間の二重課税。以下単に「第1の二重課税【外国課税所得・合算利益
間】」という。)と二重課税の対象とされる所得が特定外国子会社等の
所得である点では同じであり,あえてこれらを区別する必要はない。そ
して,これらの二重課税は,いずれも,措置法66条の7の規定を始め
とする外国税額控除に係る法令等を適用することにより調整されるとこ
ろ,この外国税額控除の仕組みが設けられていることにより,外国子会
社合算税制につき全体として合理性のある制度と評されていることにつ
いては,既に述べたとおりである。したがって,両者が別のものである
とした上で,第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】が解消され
ない旨を主張する原告の前記アの主張は失当である。
(イ)また,①既に述べたとおり,間接外国税額控除については,二重課税
を排除するとの外国税額控除制度の趣旨・目的に照らせば,当然のこと
として,我が国で課された所得税等についても外国法人税に含まれると
解されるし,②措置法66条の7の趣旨は,特定外国子会社等の所得に
対し課された税のうち,合算課税が行われる内国法人の課税対象留保金
額に対応する部分の金額を当該内国法人が納付した外国税額とみなして
外国税額控除を行うことができるようにするというものであるから,上
記①に述べた間接外国税額控除の場合と同様に,同条に規定する特定外
国子会社等の課税対象留保金額に係る外国税額控除の対象となる外国子
会社の所得税等は,外国子会社の所得に対して課された全ての所得税等
ということになり,当然のこととして,我が国で課される所得税等もこ
れに含まれることとなる(なお,「タックス・ヘイブン対策税制の解
説」〔乙32〕には,「措置法通達66の6-13において,外国税額
控除の対象となる外国法人税には,特定外国子会社等に課された我が国
の所得税,法人税及び住民税が含まれる旨確認的に規定されている。」
〔引用部分中の「措置法通達66の6-13」とは本件における措置法
通達66の6-20に相当する定めである。〕との記載がある。
上記①及び②において述べたことからすれば,措置法66条の7第1
項に規定する「特定外国子会社等の所得に対して課される外国法人税」
には,当該特定外国子会社等の所得に対して課された全ての所得税等が
含まれると解するのが,法令の趣旨・目的に合致する合理的な解釈とい
うべきであるから,この点に関する原告の主張は理由がない。
(13)ア原告は,原告のいう3分の1ルール(平成4年の税制改正〔平成4年法
律第14号による改正〕後の措置令39条の18第8項ただし書の規定
により,特定外国子会社等が外国法人税を課さない国又は地域を本店所
在地国とする場合には,控除限度額の計算上,外国法人税の額を3分の
1に限定することとされていることをいう。以下同じ。)の適用範囲に
関する条文(措置令39条の18第8項ただし書)については,文理解
釈によって一義的にその意味を確定することができず,被告の解釈は3
分の1ルールの趣旨・目的に沿わないものである旨主張する。
イしかしながら,3分の1ルールの適用範囲に関する条文については,措
置令39条の18第8項と9項,法人税法施行令142条3項と5項及び
同令148条2項の各規定,これらの関係法令の解釈からみた3分の1ル
ールの適用範囲について整理することで,文理解釈によって一義的にその
意味を確定することができ,また,その文理解釈の結果は,二重課税の排
除及び彼此流用の問題への対処といった外国税額控除の趣旨・目的に沿う
ものである。そもそも,3分の1ルールとは,外国税額控除制度の一方の
側面である控除制限に係るルールのうちの一つにすぎないのであって,当
該制限に係るルールの趣旨・目的ばかりを追求することには余り意味がな
いというべきであり,むしろ,二重課税の排除をも考慮した外国税額控除
制度全体の趣旨・目的に沿うものであるか否かを検討すべきである。した
がって,前記アの原告の主張には理由がない。
なお,原告の示すシミュレーションは,我が国の外国税額控除制度が予
定する二重課税の調整ができないような極めて限定的な条件設定であり,
なおかつ二重課税について論ずるのであれば当然考慮されてしかるべき間
接税額控除が適用されていないのであるから,当該シミュレーションを根
拠に外国子会社合算税制の仕組みを非難する原告の主張は失当であるとい
わざるを得ない。
2原告の主張の要点
(1)最高裁判所の判例は,租税に関する法規の解釈について,法規の文理が明
確で,文理に即した解釈の結果が規定の趣旨・目的に合致する場合には文理
解釈をし,文理が不明確な場合又は文理解釈の結果が不合理ないし非常識で
ある場合には趣旨解釈によって法規の意義を明らかにすべきであるとの解釈
原理を,結果が納税者に有利な場合にも不利な場合にも等しく適用する傾向
にあるものということができる(甲24参照)。
(2)ア(ア)被告は,合算対象所得を定める規定の文理解釈によれば,「課税対
象留保金額」(措置法66条の6第1項)には特定外国子会社等の国内
源泉所得が含まれる旨主張し,①「決算」とは一定の期間における収入
支出,損益等の総実績を明らかにして予算と対比することをいうから,
措置令39条の15条1項の柱書きにいう「決算に基づく所得の金額」
には企業が行う取引によって稼得する全ての所得が含まれるというべき
こと,②措置法66条の6第2項2号に規定する「政令で定める基準に
より計算した金額」を本邦法令の規定に準じて計算する場合(措置令3
9条の15第1項)については,我が国の法人税法が各事業年度の所得
の金額に全世界所得が含まれるとしているから,特定外国子会社等の未
処分所得の金額においてもその国内源泉所得を含む全ての所得(全世界
所得)が計算の対象になるというべきこと,③上記②の「政令で定める
基準により計算した金額」を本店所在地国の法令に準じて計算する場合
(同条2項)については,上記②の場合との間で著しいかい離が生じな
いように,一定の調整を行うことによって上記②の場合と同様に特定外
国子会社等の国内源泉所得を含む全ての所得(全世界所得)を課税対象
留保金額の計算に含めることとされていること,④国内源泉所得を課税
対象留保金額に含めないのであれば,その旨が規定されていしかるべき
であるのにそのような規定はないことを,根拠として挙げる。
(イ)措置法66条の6第1項では,まず,特定外国子会社等の「未処分所
得の金額」を計算し,それに一定の調整を加えたものを「適用対象留保
金額」と定義し,次に,「適用対象留保金額」のうち内国法人の有する
当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するもの
として政令で定める金額を「課税対象留保金額」と定義し,この「課税
対象留保金額」を外国子会社合算税制の合算課税の対象として定めてい
る。そうすると,「課税対象留保金額」の範囲を確定するためには,特
定外国子会社等の「未処分所得の金額」(同条2項2号)の意義を確定
する必要がある。そして,「未処分所得の金額」に含まれる特定外国子
会社等の所得の範囲を確定するためには,措置法66条の6第2項2号
の定義中の「決算に基づく所得の金額」との文言の意味を確定しなけれ
ばならないところ,そもそも「決算」に何が含まれるかは一義的に明確
でない。また,被告が主張するように「決算」には企業に関わる全ての
取引が記載されているとの前提を置いたとしても,例えば,国外所得免
除方式を採用している国においては,全ての国外所得が常に「所得」
(課税所得)に含まれるとは限らないことからも分かるように,「所
得」の範囲も一義的に明確とはいえない上,「決算」の範囲と決算に基
づき認識される「所得」の範囲は必ずしも一致しないから,「決算に基
づく所得の金額」に企業が行う取引によって稼得する全ての所得が含ま
れるともいえない。したがって,「決算に基づく所得の金額」との文言
から,どの範囲の所得が含まれるのかを一義的に明らかにすることはで
きない。したがって,被告の前記(ア)①の主張は誤りである。
(ウ)次に,措置法66条の6第2項2号の「未処分所得の金額」の定義中
の「法人税及びこの法律による各事業年度の所得の金額の計算に準ずる
ものとして政令で定める基準による計算した金額」との文言について検
討すると,法人税の計算においては,①まず課税対象の所得(課税所
得)の範囲を定め(法人税法5条~10条の3),②当該課税対象につ
いて,所得税の金額の「計算方法」を定めるが(同法22条以下),措
置法66条の6第2項2号の文言は,それ自身で「未処分所得の金額」
の範囲(上記①)を定めるものではなく,飽くまでも「決算に基づく所
得の金額」についてどのような計算方法を適用して「未処分所得の金
額」を導き出すかという計算方法(上記②)を定め,その具体的な計算
方法を政令に委任するものである。そして,法人税法において「所得の
金額の計算方法」とは,同法第2編第1章第1節第2款(同法22条以
下)に定められている規定を指し,課税所得の範囲を定める同法第1編
第3章(5条~10条の3)は含まれないから,「法人税及びこの法律
による各事業年度の所得の金額の計算に準ずるものとして政令で定める
基準による計算した金額」という文言を,法人税法の課税所得の範囲を
定める規定を準用するという意味に解することはできない。そうすると,
被告の前記(ア)②及び③の主張は,いずれも誤りであるというべきであ
る。
(エ)さらに,被告の前記(ア)④の主張についても,「未処分所得の金額」
に特定外国子会社等の全世界所得が含まれることが文理上一義的に明ら
かであることを前提とする主張としか解されないところ,前記(イ)及び
(ウ)において述べたところからすれば,前提を誤ったものであり,失当
である。
イ(ア)措置法に基づいて法人税法によって課される法人税に更に法人税を重
課する場合には,その旨を法律において明確に規定しなければならない
ことは,租税法律主義(特に課税要件法定主義)の下では当然の要請で
あり,措置法が法人税法の特別法であることからも導かれる。例えば,
措置法63条においては,一定の土地譲渡利益金額に課される「法人税
の額」は,「法人税に関する法令の規定にかかわらず」,これらの規定
により計算した法人税の額に当該譲渡利益金額の合計額に100分の1
0の割合を乗じて計算した金額を「加算した金額とする」との文言を用
い,法人税法による課税に加えて,措置法によって法人税を重課するこ
とが文理上極めて明確に規定されている。
特定外国子会社等の国内源泉所得を合算課税の対象に含めるとの被告
主張の解釈によった場合には,当該国内源泉所得については,法人税法
の外国法人課税に関する規定(同法141条,138条)に基づき我が
国の法人税が課された上で,措置法に規定される外国子会社合算税制に
基づく合算課税もされることになるが,合算課税の対象とされる特定外
国子会社等の「課税対象留保金額」と合算課税を受ける内国法人の益金
に算入される金額は「同一所得」であるから,かかる「同一所得」に対
して措置法66条の6第1項が法人税を加算して課税することを規定す
るのであれば,同法63条と同様に,特定外国子会社等の課税対象留保
金額が既に法人税法の外国法人税に関する規定によって法人税の課税対
象とされている場合については,当該課税対象留保金額に対しては,法
人税法の規定にかかわらず,同法66条の6第1項に従って合算課税の
対象とする旨を,「同一所得」に対して更に法人税を重課することを一
義的に明確な文言で規定しなければならない。しかるに,同項には,
「法人税法の規定にかかわらず」という趣旨を表す文言は全くない。
(イ)この点,被告は,①土地譲渡益重課制度(措置法63条)は,同一の
税主体の同一の所得に対して,重ねて課税するものであるという点で外
国子会社合算税制とはその性質を異にし,②また,両者はその趣旨・目
的が明らかに異なることを前提として,③本件で原告が問題視している
「経済的二重課税」(第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】)
は,外国税額控除の規定(措置法66条の7)及び課税済留保金額の損金
算入の規定(措置令66条の8)により調整されるから,合算対象所得を
定める規定に法人税を重課する旨の明確な文言がなくとも問題はない旨
主張する。
しかし,原告は,土地譲渡益重課制度は,同一の所得に対して法人税
を重課するものであり,同一の所得に対して通常の課税よりも重い負担
を生じさせる規定であることから,その例を挙げて,通常の法人税の負
担よりも重い負担を負わせる立法においては,その旨が法律に明確に定
められていなければならないことを論じたものであって,上記①及び②
の被告の主張は的外れである。また,上記③の被告の主張についても,
上記①及び②が誤っているという意味で前提を誤ったものである上,第
3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】が被告主張の両規定を適用
しても排除されないことは後に述べるとおりあるから,採用できないも
のというべきである。
ウ(ア)措置令39条の18第8項本文は,外国税額控除の控除限度額の計算
上,外国子会社合算税制により合算課税の対象とされた金額は「法人税
法施行令142条3項本文に規定する国外所得金額に含まれる」旨を定
めているところ,被告が主張するように同税制の合算課税の対象に特定
外国子会社等の国内源泉所得が含まれると解すると,この規定は,外国
税額控除の控除限度額の計算目的についてだけではあるが,特定外国子
会社等の「国内源泉所得」であったものを国外所得金額(国内源泉所得
以外の所得=国外源泉所得)に変換するという意味を持つことになる。
外国税額控除制度は,全世界所得のうちに国外所得金額(各事業年度
におけるこの国外所得金額の意義については,法人税法69条1項の委
任を受けた法人税法施行令142条3項本文が,当該事業年度において
生じた法人税法138条に規定する国内源泉所得以外の所得と定義して
いる。)が占める割合に応じて外国法人税の税額控除を認めることを基
本構造とするものであるから,そのような基本構造の根幹に関わる国内
源泉所得である所得を国外源泉所得に変換することは,同法の定める外
国税額控除の基本的構造ないし仕組みを変更することにほかならず,法
律による具体的な委任なく,政令によってそのような変更を行うことは,
租税法律主義(特に課税要件法定主義)の要請の下では,違法無効なも
のであると考えられる。そして,外国子会社合算税制を定める措置法の
規定には,このような外国税額控除の基本的仕組みの変更を政令に委任
する規定はなく,措置法67条の7第1項(措置令39条の18第8項
は,その委任を受けて定められた政令である。)にも,国内源泉所得を
国外源泉所得に変換することに関する委任文言はないから,同項の規定
が国内源泉所得を国外源泉所得に変換するという意味を有するものであ
るならば,それは課税要件法定主義に違反し,無効であると解すべきで
ある。特定外国子会社等の国外源泉所得が合算課税の対象とされている
限りにおいては,同項は,もともと国外源泉所得であったものを国外源
泉所得として扱うことを規定している意味しか持たず,この問題は,合
算課税の対象に特定外国子会社等の「国内源泉所得」が含まれるという
被告の主張を前提として初めて起こるものであり,このことは,被告主
張の文理解釈に問題があること(同項が特定外国子会社等の国内源泉所
得が合算課税の対象となる所得に含まれないことを前提とするものであ
ること)の証左というべきである。
(イ)この点,被告は,二重課税を調整するために外国税額控除を用いるこ
とに変わりはないので,外国税額控除の控除限度額の計算において「国
内源泉所得」を「国外源泉所得」として計算することは違法無効ではな
いなどと主張する。
被告の上記主張は,後記(3)イにおいて述べるとおり同一所得に対す
る法人税二重課税(本件で問題となる第3の二重課税【国内源泉所得・
合算利益間】)と国際的二重課税(第1の二重課税【外国課税所得・合
算利益間】)が本質的に異なる問題であるという点や,法人税法が国内
源泉所得と国外源泉所得とを明確に区別して規定している点を看過し,
両者が同じ「同一の所得」に対する二重課税であるとの理由のみによっ
て,同一所得に対する法人税二重課税についても,国内源泉所得を国外
源泉所得に変換した上で外国税額控除を適用することによって調整すれ
ばよいと主張するものである。しかし,後記(3)イにおいて述べるとお
り,同一所得に対する法人税二重課税については,国際的二重課税のた
めの調整規定である外国税額控除をそのまま用いて調整することは許さ
れないから,被告の上記主張は,誤りである。
(ウ)また,被告は,措置法66条の7の基になる法人税法69条の外国税
額控除のうち同条8項の間接外国税額控除においても,その趣旨・目的
からすれば,国内源泉所得を国外源泉所得に変換する考え方が見られる
から,措置令39条の18第8項の規定は,措置法66条の7の委任に
反するものではないなどとも主張する。
しかし,外国税額控除における「外国法人税」(法人税法69条1
項)については,「外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体によ
り法人の所得を課税標準として課される税」と明確に定められている以
上(法人税法施行令141条1項),その文言上,「外国法人税」に我
が国の法人税等が含まれると解する余地はない。「外国法人税」という
用語は,法人税法及び措置法において複数の箇所で用いられているが,
これらの箇所では,条文の構造として,「外国法人税」という用語は,
法人税法69条1項及び法人税法施行令141条1項に言及する形で定
義されているか,法人税法69条1項の定義を引用する形で用いられて
いるから,間接外国税額控除の対象となる「外国法人税」についてのみ
我が国の法人税等もそれに含まれると解することは,法令の解釈として
整合性がなく,不合理・不自然である。また,間接外国税額控除の立法
の沿革から見ても,「外国法人税」に我が国の法人税等が含まれると解
することはできないものというべきである。したがって,被告の上記主
張は,その前提において誤っているものというべきである。
エ以上からすれば,文理解釈によって措置法66条の6第1項に定める合
算税制の対象(適用対象留保金額)の範囲を一義的に明らかにすることは
できないものというべきである。
(3)ア外国子会社合算税制は,昭和53年度税制改正により「タックス・ヘイ
ブン対策税制」として立法されたものが,その後,制度自体の趣旨・目的
は維持されたまま,細部についての改正を経て,外国子会社合算税制と呼
ばれるようになったものであるが,「タックス・ヘイブン対策税制」導入
時には,①合算の対象となる課税対象留保金額に相当する特定外国子会社
等の所得に対して課された外国法人税と合算課税によって親会社たる内国
法人に課される我が国の法人税等の間の二重課税(第1の二重課税【外国
課税所得・合算利益間】),②課税対象留保金額が合算の対象とされたこ
とにより親会社たる内国法人に課される我が国の法人税等と上記課税対象
留保金額を原資とする配当について当該内国法人に課される法人税等の間
の二重課税(以下単に「第2の二重課税【合算利益・配当間】」とい
う。)が想定されたことから,それぞれについて調整のための仕組みが設
けられ,同税制が外国子会社合算税制と呼ばれることになった以降も,こ
の2つの異なる二重課税についてそれぞれ法令上設けられた調整の仕組み
が維持されてきた(措置法66条の7,66条の8第1項等。甲12参
照)。
イ(ア)ところで,特定外国子会社等の国内源泉所得も合算の対象となる課税
対象留保金額に含まれるとの被告の解釈を採ると,当該国内源泉所得に
つき特定外国子会社等に対して課された我が国の法人税等ないし所得税
と,当該国内源泉所得が合算課税されることにより親会社たる内国法人
に課される我が国の法人税等の間の二重課税(第3の二重課税【国内源
泉所得・合算利益間】)が生ずることになるが,外国子会社合算税制に
関する法令には,このような二重課税を調整する規定はなく,その結果,
法人の所得に対して外国法人税が存在しない国又は地域を本店所在地国
とする特定外国子会社等の国内源泉所得が負担することになる我が国の
法人税等の税負担については,我が国の法人税等の実効税率である4
0%をはるかに超える超高率(例えば,平成24年10月12日付け被
告準備書面(4)におけるシミュレーションの「ケース5」〔同準備書面
別紙3の1(1)オ〕では約1.4倍の55%,「ケース10」〔同準備
書面別紙4の1(1)オ〕では約1.6倍の64%)となる。外国子会社
合算税制の趣旨・目的は,内国法人がいわゆるタックス・ヘイブンを利
用して我が国における租税の負担を回避しようとする事例に対処して税
負担の実質的な公平を図ることにあり,そのような国又は地域に子会社
を設立することに対して懲罰を課することにあるのではない。特定外国
子会社等の国内源泉所得のように,我が国において法人税の課税を受け
る所得の場合には,既に内国法人と実質的に同率で我が国における課税
を受けているのであるから,当該所得に上記のとおり法人税等の実効税
率40%をはるかに超える課税をすることは,上記のような同税制の趣
旨・目的に照らすと,著しく不合理な課税というほかない。重加算税で
すら免れた法人税の35%であること(通則法68条1項)を考えると,
懲罰を課すことを目的としていない同税制の適用の結果,それを上回る
上記実効税率の1.4倍あるいは1.6倍の税負担率となることは,非
常識というべきである。
(イ)この点,被告は,措置法通達66の6-20の定めによって第3の二
重課税【国内源泉所得・合算利益間】が調整される旨を主張する。
しかし,措置法通達66の6-20は,外国税額控除制度によって調
整されるべき第1の二重課税【外国課税所得・合算利益間】の調整ルー
ルである措置法66条の7を,似て非なる第3の二重課税【国内源泉所
得・合算利益間】に適用できるなどとし,もってこれとは何の関係もな
い政策(外国で非課税とされ,又は軽課税される所得から生ずる控除限
度額を利用して,別の外国で高率で課された外国税額が控除されてしま
うという控除余裕枠の彼此流用の問題への対応)に基づいて定められた
ルールを採用している外国税額控除制度を適用できることとするという
ものであることや,前記(2)ウにおいて述べたとおり同条にいう「外国
法人税」に我が国の法人税等が含まれないことに照らし,同条の規定か
ら逸脱し,法律に定めなければならない内容を定めた法律に反する通達
であるものというべきである。
原告によるシミュレーション(訴状の別紙2,平成24年2月24日
付け原告第一準備書面の別紙1及び2参照)からも明らかなとおり,措
置法通達66の6-20を用いても,第3の二重課税【国内源泉所得・
合算利益間】は調整されず,場合によってはかえってそれを悪化させる
効果をもたらすものである。その主たる理由は,外国税額控除制度にお
いては,外国で非課税とされ,又は軽課税される所得から生じる控除限
度額を利用して,高率で課された外国税額が控除されてしまうという問
題(控除余裕枠の彼此流用の問題)に対処するために,特定外国子会社
等が外国法人税を課さない国又は地域を本店所在地国とする場合には控
除限度額が限定されていること(措置令39条の18第8項ただし書。
具体的には,昭和63年の税制改正〔昭和63年法律第109号による
改正〕により,特定外国子会社等が外国法人税を課さない国又は地域を
本店所在地国とする場合には,控除限度額の計算上,外国法人税の額を
2分の1に限定することとされ〔このルールを以下「2分の1ルール」
ということがある。〕,平成4年の税制改正〔平成4年法律第14号に
よる改正〕により,それが3分の1に限定されることとされた[3分の
1ルール]。)にある。3分の1ルールによって,本件において見られ
るように,外国税額控除を適用する際の益金算入規定による我が国の法
人税等の増加分が,外国税額控除の控除限度額の増額分を上回るという
事態が生ずるのである。このように,措置法通達66の6-20の定め
は,第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】の調整に寄与しない
どころか,法令に定めのない課税をももたらすものですらあって,租税
法律主義の観点からも違法なものというべきである。
(ウ)また,被告は,本件における二重課税(第3の二重課税【国内源泉所
得・合算利益間】)は,同じ利益を2人以上の者の所得に含めてそれぞ
れに課税する「経済的二重課税」であり,一般に,同じ者の同一の所得
に対して課税するという「法的二重課税」については完全に調整されな
ければならないとされているが,経済的二重課税についてはそのように
考えられてはいないとした上で,外国税額控除の要件をいかに規定する
かは,国家の立法政策,租税政策に属する事柄であり,それにより二重
課税が常に完全に排除されるとは限らないことからすれば,そのことの
みをもって,外国子会社合算税制の適用が不合理であるということはで
きないなどとも主張する。
しかし,①外国税額控除は,同一の所得に対して外国の法人税と我が
国の法人税等がそれぞれ課されたことによって生ずる「国際的二重課
税」,すなわち,外国の課税権と我が国の課税権とを調整することを目
的とする制度であり,このような二重課税を調整することは,我が国の
課税権が外国の課税権に対して譲歩することを意味するから,立法者は,
税収の確保のための我が国の課税権の行使と国際的二重課税の排除とい
う相反する考慮要素を検討し,我が国がどの程度の譲歩を是とするかを
租税政策によって決定することになり,一定の場合には,我が国の課税
権の行使を優先するという政策判断がされることがあることから,その
限度では,二重課税が完全には排除されないことも違法の問題を生じな
いと考えられることになる。第1の二重課税【外国課税所得・合算利益
間】は,まさにこの「国際的二重課税」に含まれるものである(この二
重課税の場合,形式的には特定外国子会社等とその親会社である内国法
人という別々の納税主体が外国と我が国でそれぞれ課税されるという意
味では,同一の納税主体が2つ以上の国による所得課税を受けるという
典型的な「国際的二重課税」の場合と異なるように見えるが,その違い
は本質的なものではない。本質的に重要なことは,課税を受ける対象と
なっている所得が「同一の所得」であるという点である。なぜなら,
「同一の所得」が2つ以上の国において二重に税負担を負うことは,通
常「国際的二重課税」といわれるものと全く同一の問題を提起するから
である。)。②これに対し,第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益
間】は,我が国の課税権と外国の課税権の抵触とは無関係であり,我が
国における同一所得に対する2回にわたる(二重の)法人税等の課税根
拠いかんという純粋な国内課税問題であって,上記①のような「国際的
二重課税」とは法律上区別されなければならず,したがって,第3の二
重課税【国内源泉所得・合算利益間】に上記②のとおり外国の課税権と
我が国の課税権とを調整することを目的とする制度である外国税額控除
を用いることは,そもそもできないものというべきである。
また,我が国の所得課税制度においては,所得はその帰属先として特
定される一の納税主体において一回的に課税されるという基本原則(所
得の一回的課税の原則)を採用しており,ある所得が別々の納税主体の
もとで2回にわたり課税されることは許されない。外国子会社合算税制
において,「同一の所得」について,本来的な所得の帰属者である特定
外国子会社等ではなく,その親会社である内国法人に我が国の法人税等
が課税されるという形式が採られているのは,法律上,我が国が,特定
外国子会社等に対して,居住地管轄権及び源泉地管轄権のいずれに基づ
いても直接課税権を行使することができないという前提の下で,我が国
が当該所得に対する課税権を行使できるようにするために,当該内国法
人が特定外国子会社等を支配していることを根拠として,その所得を当
該内国法人の所得とみなすことにより居住地管轄権に基づく課税を可能
とするものである。同税制においては,本来の所得の帰属者である特定
外国子会社等において我が国で既に法人税等を課されている所得に対し
て二重に我が国の法人税等を負担させることは全く想定されておらず,
所得の一回的課税の原則は維持されていると解されるのであって,同税
制は,同原則の例外として同一所得に対する二重課税を容認する趣旨の
ものではない。
(4)ア前記(2)及び(3)において述べたところからすれば,本件は,(1)におい
て述べた「文理が不明確な場合」か「文理解釈の結果が不合理ないし非常
識である場合」のいずれかに当たるから,趣旨解釈によって法規の意義を
明らかにする必要があるということになる。
外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)が導入された昭和
53年頃には,タックス・ヘイブンに設立された内国法人の子会社である
法人が国内源泉所得を稼得することは,立法事実としても想定されていな
かったかもしれないが,その後,証券化取引の台頭などを契機としてその
ような法人が国内源泉所得を稼得することも珍しいことではなくなった。
また,平成4年度税制改正により特定外国子会社等の判定を税負担率判定
方式に改正したこと,外国税額控除制度にも相当のルールの変更があった
こと(特に3分の1ルールの前身である2分の1のルールの導入は措置法
通達66の6-20が発せられた昭和53年よりも後の昭和63年であっ
た。)などの変化が徐々に積み重なった結果,外国子会社合算税制に関す
る条文や通達の文理が同税制の趣旨・目的から期せずしてかい離させられ
たという指摘をすることも可能である。そのような状況下においては,よ
り広い視野から,最高裁判所の判例が示した前記(1)のような解釈原理に
沿った解釈がされなければならない。
イ措置法66条の6第1項の趣旨・目的は,内国法人が,タックス・ヘイ
ブンを利用して我が国における租税の負担を回避しようとする事例に対処
して税負担の実質的な公平を図ること,現にタックス・ヘイブンを利用す
ることによって国内の税負担が回避されている所得を日本の課税所得に取
り込むことによって失われた税収を回復し,もって税制の中立性と納税者
間の公平を維持することにあり,このことに照らせば,以下の理由により,
特定外国子会社等の国内源泉所得は,合算税制の対象には含まれないもの
と解すべきである。
(ア)特定外国子会社等の国内源泉所得は,日本において法令の定めるとこ
ろに従って課税されるのであるから,その時点において日本の課税権は
確保されており,外国子会社合算税制が防止しようとしている「我が国
での税負担を不当に軽減すること」はおよそ考えられず,これを課税対
象留保金額に含めてもう一度日本で課税すべき合理的な理由はない。ま
た,同税制には,タックス・ヘイブンに設立された子会社を利用するこ
とに対する懲罰的な課税を行うという目的は全くなく,特定外国子会社
等の国内源泉所得に対して,前記(3)イ(ア)のような重い課税をする理由
もない。
(イ)趣旨解釈により特定外国子会社等の国内源泉所得が合算課税の対象に
は生じ得ず,本件のような不合理かつ非常識な課税がされるおそれはな
くなる(被告が主張するような解釈を採った場合のように法令の文理に
明らかに反する措置法通達66の6-20に定められた解釈を採る必要
はないし,そのような解釈をとってもなお前記(3)イ(イ)において述べ
という不合理な結論が導かれることもない。)。
(ウ)特定外国子会社等の国内源泉所得が合算課税の対象に含まれないとの
趣旨解釈によれば,以下のとおり,外国子会社合算税制に関する諸規定
を整合的に解釈することが可能となる。
a外国子会社合算税制の制定の当時に,特定外国子会社等の国内源泉
所得も合算の対象となる課税対象留保金額に含まれることが前提とさ
れていたとすれば,第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】が
生じ得ることは容易に想定できたはずであり,そのような二重課税を
調整する規定が法令に置かれたはずである(前掲最高裁平成21年1
0月29日第一小法廷判決の判示を踏まえると,仮に外国子会社合算
税制が第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】に何ら手当てを
せずそれを放置するものであるならば,同税制は不合理な制度である
との評価を免れない。)。同税制に関する法令上,第3の二重課税
【国内源泉所得・合算利益間】につき何ら手当てがなされていないの
は,そのような手当てをする必要がそもそもない場合のみを想定して
同税制が制定されたものであること,すなわち,同税制が特定外国子
会社等の国内源泉所得を合算課税の対象としていないことを示すもの
にほかならないと解するのが合理的である。
b措置法66条の7第1項にいう「外国法人税」とは,「外国の法令
に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準とし
て課される税」を指し(法人税法施行令141条1項),我が国の法
人税,所得税及び法人住民税が含まれないことは文理上一義的に明ら
かである。それにもかかわらず,我が国の法人税,所得税及び法人住
民税を「外国法人税」に含ませることができるとする措置法通達66
の6-20が違法無効なものであることは既に述べたとおりであり,
そのような通達が必要であると課税庁が考えた理由は,合算課税の対
象となる所得に特定外国子会社等の国内源泉所得が含まれるとの被告
主張の解釈そのものに内在している。特定外国子会社等の国内源泉所
得が合算課税の対象に含まれないとの趣旨解釈によれば,第3の二重
課税【国内源泉所得・合算利益間】が生ずることはないから,措置法
66条の7にいう「外国法人税」についても,それを文理どおりに解
釈すれば足りることになる。
c①措置法66条の6第1項の柱書きの「本店又は主たる事務所の所
在する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担が本邦
における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いも
の」との文言は,文言解釈では一義的にその意味内容を確定すること
のできないものであり,②同項の委任を受けて制定された措置令39
条の14の文言上は,同条1項2号にいう「その各事業年度の所得」
には国内源泉所得も含まれると解するのが素直である一方,同条2項
2号イにいう「外国法人税」の額に我が国の法人税等は含まれないか
ら,同条1項1号と2号とでは,上記①の措置法66条の6第1項の
柱書きの文言の解釈につき異なる立場が採られ,両者は矛盾している
のであって,同項並びに措置令39条の14第1項2号及び2項の規
定は,文言解釈ではその意味内容を一義的に理解し難いものである。
ところで,措置令39条の14第1項2号の規定を簡略化すると,
「『税の負担』の割合=租税/所得≦25/100」と数式化するこ
とができ,この「税の負担」の割合が論理的に意味を成すのは,分母
及び分子が○アいずれも「全世界」を基準とする場合(数式は「外国法
人税+日本の法人税等/全世界所得=外国法人税+日本の法人税等/
国内源泉所得+国外源泉所得≦25/100」となる。)か,○イいず
れも「外国のみ」を基準とする場合(数式は「外国法人税/国内源泉
所得=外国法人税/全世界所得-国内源泉所得≦25/100」とな
る。)のみであり,分母と分子の基準が異なると,実質的に何の意味
もない割合が算出されることになる。そして,同号及び同条2項の規
定において定義される「税の負担」の割合を上記②の文言解釈に依拠
して上記と同様に分数で表すと「外国法人税/全世界所得=外国法人
税/国外源泉所得+国内源泉所得」となって,論理的に意味のない割
合が算出されてしまう。一方,外国関係会社が国内源泉所得を有して
いない場合のみにこの数式を適用するのであれば,上記○イと同じ割合
が算出されることになり,原告主張の趣旨解釈によれば,上記①及び
②のとおり文言解釈ではその意味内容を一義的に理解し難い措置法6
6条の6第1項及び措置令39条の14の規定を合理的に理解するこ
とができる。
d前記(2)ウにおいて述べたとおり,措置令39条の18第8項の規
定は,被告が主張するように合算課税の対象に特定外国子会社等の国
内源泉所得が含まれると解した場合には,租税法律主義(特に課税要
件法定主義)の要請の下では,違法無効なものということになる一方,
原告主張の趣旨解釈によれば,同項は,もともと国外源泉所得であっ
たものを国外源泉所得として扱うことを規定している意味しか持たず,
そのような問題は全く生じないことになる。
(5)所得税及び法人税は,納税義務者の全体としての所得(内国法人の場合は
全世界所得,外国法人の場合は国内源泉所得)を課税標準とし,同一の所得
を有する者に対しては同一の税負担を課することをもって公平を維持しよう
とするものである。租税特別措置は,この所得の画一,無差別の税負担に対
する重要な例外を成すものであり,担税力の観点からは同様の状況にある者
につき,税負担の上では特別の利益又は不利益を与えるものであるから,①
その措置の政策目的が合理的であるか,②その目的を達成するのにその措置
が有効であるか,③それによって公平負担がどの程度に害されるか等の諸点
に照らして当該措置が不合理である場合には,租税公平主義(憲法14条1
項)に違反して無効である。
そして,外国関係会社の所得が全て国内源泉所得であり,内国法人同様に
我が国で法人税が納付されているにもかかわらず,更に外国子会社合算税制
の適用によって当該所得を内国法人に合算して日本の法人税を負担させると
すれば,既に述べたような同税制の趣旨・目的と全く整合せず,そのような
目的を達成するために当該措置が有効であるとは認められない。また,我が
国においては,内国法人の所得に対する税率は法人税単体で30%(地方税
を含めた実効税率は約40%)となるように課税が行われているのに対し,
本件のように内国法人が軽課税国に所在する子会社を通じて国内源泉所得を
得た場合には法人税の税負担率が約55.9%(地方税を含めると約72.
2%)もの高率で課税を行うこと(本件各更正処分は,まさにそのような結
果を生じさせるものである。)は,担税力等の政策的考慮を全く無視した公
平負担の侵害というべきである。同税制がこのような租税公平主義違反を生
じさせる不合理な租税重課措置を定めたものと解することは,その趣旨・目
的に反するものである。
(6)措置法は,法人税法,所得税法等の特別法であり,各種の租税特別措置を
定めるものであるところ,外国子会社合算税制が特定外国子会社等の国外源
泉所得に対して実質的に課税する趣旨・目的の制度であって,その国内源泉
所得(法人税法によって我が国において課税されている所得)に対して更に
課税することを予定するものではないことは,措置法が一般法である法人税
法の特則であるという関係からも導かれる帰結である。
すなわち,特別法は,そこに明示されている限りにおいて一般法に優先す
るものであり,租税法の適用については,租税法律主義の要請が加わる結果,
そのような局面がより強調されなければならないのであって,特別法である
措置法の定めが不十分又は不明確である場合には,租税法律主義の観点から,
当該特別措置の定めは存在しないこととなり,一般法である法人税法に戻っ
て法律の適用関係を考えなければならない。そして,外国子会社合算税制に
関する措置令の規定には,外国関係会社が国内源泉所得を有している場合を
想定せずに制定されたという重大な欠陥があり,外国関係会社が国内源泉所
得を有する場合の適用関係,課税関係はおよそ不明確といわざるを得ないか
ら,特別法である外国子会社合算税制の適用は排除され,一般法である法人
税法の規定に戻って課税関係を決する必要があり,そうすると,外国法人た
る外国関係会社の国内源泉所得が親会社である内国法人の所得に合算されて
法人税が課税されるものではない。
(7)以上のとおり,我が国において法人税等が課されることとなる特定外国子
会社等の国内源泉所得は,「課税対象留保金額」として合算課税の対象とさ
れるべきものではないものというべきである。
第4B平成19年12月期においてBがAに係る特定外国子会社等に該当するか
否か(争点4)
1被告の主張の要点
(1)前提事実(1)イのとおり,Bは,平成14年2月にAの全額出資によりケ
イマンにおいて設立され,同地に本店を置く外国法人であり,また,Aは,
B平成19年12月期終了時においてもBの発行済株式の全部を保有してい
た。このように,Bは,Aによって全株式を保有されているのであるから,
同社の外国関係会社に該当する。
また,Bが本店を置くケイマンは,法人の所得に対して課される税が存在
しない地域である(乙2~乙4,乙11)。
したがって,Bは,本店の所在する地域におけるその所得に対して課され
る税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著
しく低いものとして政令で定める外国関係会社に当たることから,「特定外
国子会社等」(措置法66条の6第1項)に該当する。
(2)ア原告は,法人の所得に対して課される税が存在しない国又は地域に本店
又は主たる事務所を有する外国関係会社は,その税負担率が25%超であ
るか否かにかかわらず,全て特定外国子会社等に該当するという被告の解
釈は誤りである旨主張する。
イしかしながら,措置法66条の6第1項の柱書きにいう「本店又は主た
る事務所の所在する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負
担が…著しく低いもの」とは,その文理を自然に読めば,外国関係会社の
本店所在地国等において,当該外国関係会社の所得に対して課される税の
負担が,我が国のそれに比して著しく低いものをいうと解され,上記の
「著しく低いもの」には,所得に対する課税がない場合が含まれるのであ
るから,措置令39条の14第1項1号にいう「法人の所得に課される税
が存在しない国又は地域」がこれに該当することは,上記の文理解釈から
明らかである。このことは,軽課税国を利用した租税回避の防止を目的に
導入された外国子会社合算税制の趣旨・目的や,同制度導入後の特定外国
子会社等の判定方法の改正経緯から当然に導かれる結果であり,課税要件
を明確に規定し軽課税国を利用した租税回避を防止するという外国子会社
合算税制の趣旨・目的に適合するものである。
したがって,法人の所得に課される税が存在しない国又は地域に主たる
事務所を有する外国関係会社(措置令39条の14第1項1号)は,当然,
特定外国子会社等と判定される。
(3)ア原告は,軽課税国を利用した租税回避の防止が外国子会社合算税制の目
的であれば,例えば,本件のようにタックス・ヘイブン国(軽課税国)に本
店が所在する外国関係会社が我が国に支店を有し,その国内源泉所得につ
いて我が国の内国法人同様に我が国の法人税を負担している場合には,何
ら租税回避は存在しない以上,本店所在地国以外の税負担をおよそ考慮す
ることなく,ただその本店所在地国に「法人の所得に対して課される税が
存在しないこと」だけを理由に,直ちに特定外国子会社等に該当すると判
断することは,外国子会社合算税制の趣旨・目的に合致しないと主張する。
イしかしながら,軽課税国を利用した租税回避を防止するためには,「法
人の所得に課される税が存在しない国又は地域」を本店所在地国とする外
国関係会社を外国子会社合算税制の対象とする必要があることは明らかで
あり,そのような国又は地域が,措置法66条の6第1項の柱書きの「税
の負担」が「著しく低いもの」に含まれるとすることが同税制の趣旨・目
的に合致することは明らかである。また,平成4年の税制改正において,
特定外国子会社等の該当性の判定を個々の外国関係会社ごとに行うことと
したとはいえ,同改正において同税制の趣旨・目的自体を変更したわけで
なく,その判定は,その外国関係会社の「本店所在地国」の租税に関する
法令の規定を基に行うこととされている。
以上からすれば,従来も軽課税国であった「法人の所得に課される税が
存在しない国又は地域」に主たる事務所を有する外国関係会社(措置令3
9条の14第1項1号)は,当然に特定外国子会社等に判定され,このこ
とは,軽課税国を利用した租税回避の防止を目的に導入された外国子会社
合算税制の趣旨・目的や,同税制の導入後の特定外国子会社等の判定方法
の改正経緯から当然に導かれる結果であり,課税要件を明確に規定し軽課
税国を利用した租税回避を防止するという外国子会社合算税制の趣旨・目
的に適合するものである。したがって,原告の前記アの主張は理由がない。
(4)ア原告は,外国子会社等合算税制の適用の結果二重課税が生ずることを理
由に,特定外国子会社等の解釈を文理どおりに行うべきではない旨主張す
るようである。
イしかしながら,既に述べたような外国子会社合算税制の趣旨・目的に照
らせば,本店所在地国に留保されている所得につき,我が国において法人
税が課税されているか否かにより,合算課税の対象とするか否かが左右さ
れるものではない。
また,外国子会社合算税制については,いわゆるタックス・ヘイブン対
策税制が適用される場合であっても所定の方法による外国法人税額の控除
を認めるなど,全体として合理性のある制度ということができるとされて
いるのであり(前掲最高裁平成21年10月29日第一小法廷判決参照)
とされているのであり,本件においても,既に述べたとおり,法令等にお
いて設けられている外国法人税額の控除に係る仕組みを適切に適用すれば,
二重課税は大部分が排除されるのであるから,この点に関する原告の主張
は,その前提を欠くものであり,失当というほかない。
(5)ア原告は,①適用対象留保金額の基準となる未処分所得の計算上,我が国
において課税対象となる特定外国子会社等の国内源泉所得を合算の対象か
ら除外せず,特定外国子会社等の国内源泉所得に対する我が国の法人税等
の二重課税について法令上何ら手当てすることなく放置することになる措
置令39条の15第1項1号は,外国子会社合算課税制の趣旨・目的から
著しく逸脱することになるものであって,当該条項にはその有効性を失わ
せしめる致命的な欠陥がある,②措置令は,本件のように外国関係会社が
国内源泉所得を有する場合を想定することなく制定されたものである結果,
そのような場合に外国子会社合算税制に関する措置令の規定を,制度の趣
旨・目的を全く顧慮することなく,条文の字義どおりに適用した場合には
立法の不備が顕在化してしまうなどとして,外国関係会社が国内源泉所得
を有する場合に条文の文言どおりに適用することは許されず,Bは特定外
国子会社等に該当しないなどと主張する。
イしかしながら,外国子会社合算税制においては,二重課税を調整するた
めの規定が設けられているところ,外国税額控除を規定する措置法66条
の7の「外国法人税」に,「特定外国子会社等が我が国の法令に基づいて,
その国内源泉所得に対して課された法人税等」が含まれないとすることは,
二重課税の調整の観点から不合理であることから,措置法通達66の6-
20は,この場合の外国法人税の額に特定外国子会社等が国内源泉所得に
係る所得について課された法人税,所得税等を含めることができることを
明らかにしたものであり,このことを指摘して,「何ら手当てすることな
く放置」したとする原告の主張は,法令,通達の果たす役割を正解しない
ものであり,失当である。
2原告の主張の要点
(1)措置令39条の14第1項2号の規定を簡略化すると,「『税の負担』の
割合=租税/所得≦25/100」と数式化することができるが,同項や措
置法66条の6第1項の文言からは,この数式中の「所得」及び「租税」の
範囲について,解釈の手がかりを読み取ることすら困難である。もっとも,
上記「税の負担」の割合が論理的に意味を成すのは,分母及び分子が①いず
れも「全世界」を基準とする場合(数式は「外国法人税+日本の法人税等/
全世界所得=外国法人税+日本の法人税等/国内源泉所得+国外源泉所得≦
25/100」となる。)か,②いずれも「外国のみ」を基準とする場合
(数式は「外国法人税/国内源泉所得=外国法人税/全世界所得-国内源泉
所得≦25/100」となる。)のみであり,分母と分子の基準が異なると,
実質的に何の意味もない割合が算出されることになる。
ところが,措置令39条の14第2項2号イにいう「外国法人税」の額に
我が国の法人税等は含まれない一方,同条1項2号にいう「その各事業年度
の所得」には,外国に源泉を有する所得(国外源泉所得)のみならず国内源
泉所得も含まれると解することが文理上最も素直であると思われ,そうする
と,同条1項2号及び2項で定義される「税の負担」の割合をこれらの規定
の文言のみに依拠して上記と同様に分数で表すと「外国法人税/全世界所得
=外国法人税/国外源泉所得+国内源泉所得」となって,実質的に何の意味
もない割合が算出されることになる。すなわち,同条1項2号及び2項は,
外国関係会社が国内源泉所得を有しているか否かにより,時として全く意味
のない「税の負担」の割合が計算されることになる規定であり,措置法66
条の6第1項が求めている「税の負担」の割合を算出する方法としては不合
理・不適切なものであるが,外国関係会社が国内源泉所得を有していない場
合にのみこの数式を用いるのであれば,上記分数で示される「税の負担」の
割合は意味のあるものとなる。このことは,これらの規定が本件のように外
国関係会社が国内源泉所得を有する場合を想定せずに制定されたことを強く
示唆しており,外国関係会社が国内源泉所得を有する場合の特定外国子会社
等の判定方法は,措置令には明示的には規定されていないと解さざるを得な
い。したがって,本件のように外国関係会社が国内源泉所得を有する事案に
おいては,これらの規定の表面上の文言のみに依拠して特定外国子会社等に
該当するかどうかを判定することは,許されない。
(2)措置法66条の6第2項2号の委任を受けて適用対象留保金額(特定外国
子会社等の親会社である内国法人に対する合算課税の対象となる金額)の基
準となる未処分所得の計算方法を定める措置令39条の15第1項1号は,
その文言上,我が国において法人税等の課税対象となる特定外国子会社等の
国内源泉所得を合算課税の対象から除外していない。そのため,特定外国子
会社等の国内源泉所得については,当該特定外国子会社等に対して法人税等
が課される上,その親会社である内国法人にも法人税等が課税され,第3の
二重課税【国内源泉所得・合算利益間】が引き起こされることになる。そし
て,措置法及び措置令には,このような二重課税を調整するための明文の規
定は全く存在しないため,法令上,そのような二重課税は放置されることに
なる。このような結果は,内国法人がタックス・ヘイブンを利用して我が国
における租税の負担を回避しようとする事例に対処して税負担の実質的な公
平を図るという外国子会社合算税制の趣旨・目的に反するし,特定外国子会
社等に課税される外国法人税について外国税額控除制度を利用して経済的二
重課税に一定の手当てをしていることを,外国子会社合算税制の合理性を基
礎付ける一つの根拠としている前掲最高裁平成21年10月29日第一小法
廷判決の判示に照らしても不合理である。措置令39条の15第1項1号の
規定には,その有効性を失わせしめる致命的な欠陥があるというべきであり,
この規定を,制度の趣旨・目的を全く顧慮することなく条文の字義どおりに
適用した場合には,立法の不備が顕在化してしまうことになる。
(3)措置法66条の7第1項及び措置令39条の14第2項第1号に規定する
外国法人税の額に特定外国子会社等が国内源泉所得に係る所得について課さ
れた法人税等の額を含めることができる旨を定める措置法通達66の6-2
0は,①措置令39条の15第1項の規定が,外国子会社合算税制において
本来想定していなかった第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】を引
き起こしてしまうことが不合理であること(上記規定に不備があり,これを
文言どおりに解釈し形式的に適用するだけでは合理的な結論が導かれないこ
と)を正面から認めた上で,外国子会社合算税制の趣旨・目的,さらには外
国子会社合算税制が我が国の法人税等について二重課税を何ら手当てするこ
となく放置することをおよそ許すものではないとの理念の下,そのような二
重課税の排除を,措置法に定められた外国税額控除制度をいわば借用するこ
とにより実現しようとするとともに(ただし,既に述べたとおり,このよう
な手当てによる法人税等の二重課税の排除ははなはだ不完全なものであ
る。),②同令39条の14第2項1号の規定にも,その文言及び構造上看
過し難い重大な不備があり,同項は,外国関係会社が我が国の法人税が課さ
れない国外源泉所得のみを有している場合においてのみ外国子会社合算税制
の目的を達成するのに有効な判定方法であることを国税庁が認め,国内源泉
所得を有する外国関係会社の税負担率が問題となるべき場面では,同項に定
められている特定外国子会社等の判定方法そのものではなく,同条1項及び
2項に準じて措置法66条の6の規定の趣旨・目的に照らした判定を行うべ
きであるとの解釈を示したものと解するのが論理的かつ合理的である。
上記②のような措置法通達66の6-20の定めは,前記(1)において述
べたとおり国内源泉所得を有する外国関係会社の「税の負担」の割合(税負
担率)を措置令39条の14第1項2号及び2項の文言のみに依拠して分数
で表すと「外国法人税/全世界所得=外国法人税/国外源泉所得+国内源泉
所得」となり,実質的に何の意味もない割合が算出されてしまうところを,
論理的に意味を成すように上記分数の分子についても分母と同様に「全世
界」を基準とすること定めたものといえる。そして,措置法66条の6第1
項の規定の改正経緯や外国子会社合算税制の趣旨・目的に照らせば,同項は,
25%以下か否かという税負担率の計算を何らかの合理的な方法で判定する
ことを目的としたものであるということができ,その判定方法として,全世
界における所得を分母とし,全世界における負担税額を分子とすること自体
には,同条の規定の趣旨・目的に合致し,一定の合理性があるといえる。
このような措置法通達66の6-20に示された措置法66条の6第1項
柱書きの「税の負担」概念に照らせば,我が国において法人税等の課税対象
となる国内源泉所得以外に所得がなく,当該所得について25%を優に超え
る税負担率の我が国の法人税が課されたB平成19年12月期のBは,特定
外国子会社等に該当しないものというべきである。
(4)ア被告は,①軽課税国を利用した租税回避を防止するためには,「法人の
所得に課される税が存在しない国又は地域」を本店所在地国とする外国関
係会社を外国子会社合算税制の対象とする必要があることは明らかであり,
そのような国又は地域が,措置法66条の6第1項柱書きの「税の負担」
が「著しく低いもの」に含まれるとすることが同税制の趣旨・目的に合致
することは明らかである,②平成4年の税制改正において,特定外国子会
社等の該当性の判定を個々の外国関係会社ごとに行うこととしたとはいえ,
同改正において同税制の趣旨・目的自体を変更したわけでなく,その判定
は,その外国関係会社の「本店所在地国」の租税に関する法令の規定を基
に行うこととされているなどとして,従来も軽課税国であった「法人の所
得に課される税が存在しない国又は地域」に主たる事務所を有する外国関
係会社(措置令39条の14第1項1号)は,当然に特定外国子会社等に判
定され,このことは,軽課税国を利用した租税回避の防止を目的に導入さ
れた外国子会社合算税制の趣旨・目的や,同税制の導入後の特定外国子会
社等の判定方法の改正経緯から当然に導かれる結果であり,課税要件を明
確に規定し軽課税国を利用した租税回避を防止するという外国子会社合算
税制の趣旨・目的に適合するなどと主張する。
イ前記ア①の主張について,被告は,法人の所得に課される税が存在しな
い国又は地域を本店所在地国とする外国関係会社であったとしても,我が
国において多額の法人税が課税されている会社についてまで外国子会社合
算税制の対象として極めて重い二重課税をする必要があるのかや,そのよ
うな二重課税をすることが同税制の趣旨・目的に合致するのか,その実質
的な根拠を何一つ示していないから,被告の上記主張は失当である。
ウまた,本店所在地国以外で課される外国法人税については,当該本店所
在地国以外の国(タックス・ヘイブンから見た外国)の法令に従って算出
することが可能なのであって,本店所在地国に法人所得税に関する法律が
存在しないことは,法人所得税に関する法律の存在しない国又は地域に本
店を有する外国関係会社について,本店所在地国以外において課された外
国法人税をおよそ考慮しないことを何ら正当化するものではない。すなわ
ち,本店所在地国に法人の所得に対して課される税が存在しない特定外国
子会社等の場合においても,措置法66条の7による外国税額控除制度の
適用においては,本店所在地国以外の外国で課された外国法人税があるこ
とを想定し,同制度の適用を認めるというのが外国子会社合算税制の制度
設計となっていることからすれば,本店所在地国に法人の所得に対して課
される税が存在しない外国関係会社についてのみ,本店所在地国以外にお
いてかされた外国法人税をいわば一旦ゼロとみなして特定外国子会社等に
該当するか否かを判定した後,かかる外国法人税を外国税額控除制度の対
象とし,第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】を調整する仕組み
も用意しないまま放置するというのは,論理的整合性を欠く不明確な税制
というべきであるから,租税法律主義の要請が妥当する租税法にあってそ
のような解釈を採ることはできない。
確かに,平成4年度税制改正までの外国子会社合算税制においては,軽
課税国を限定列挙して指定する方式が採られていたから,軽課税国である
か(本店所在地国に法人の所得に対して課される税があるか否か)にまず
注目して制度を作ることに意味があったと考えられるが,平成4年度税制
改正により,同税制は「個別の企業ごとに税負担割合で判断していこうと
いう制度に改め」られた(甲19)のであるから,本店所在地国に法人の
所得に対して課される税があるか否かだけに注目する理由はなくなったも
のである。
そして,軽課税国を利用した租税回避の防止が外国子会社合算税制の目
的であれば,例えば,本件のようにタックス・ヘイブン国(軽課税国)に
本店が所在する外国関係会社が我が国に支店を有し,その国内源泉所得に
ついて我が国の内国法人同様に我が国の法人税を負担している場合には,
何ら租税回避は存在しない以上,本店所在地国以外の税負担をおよそ考慮
することなく,ただその本店所在地国に「法人の所得に対して課される税
が存在しないこと」だけを理由に,直ちに特定外国子会社等に該当すると
判断することこそが,同税制の趣旨・目的に合致しないものであることは
いうまでもない。
以上のとおりであるから,前記ア②の被告の主張にも理由がない。
(5)ア被告は,原告において,適用対象留保金額の基準となる未処分所得の計
算上,我が国において課税対象となる特定外国子会社等の国内源泉所得を
合算の対象から除外せず,特定外国子会社等の国内源泉所得に対する我が
国の法人税等の二重課税について法令上何ら手当てすることなく放置する
ことになる措置令39条の15第1項1号は,外国子会社合算課税制の趣
旨・目的から著しく逸脱することになるものであって,当該条項にはその
有効性を失わせしめる致命的な欠陥があるなどと主張したことに対し,措
置法通達66の6-20によって二重課税が調整されるから,二重課税を
何ら手当てすることなく放置したとする原告の上記主張は失当であるなど
と主張する。
イしかし,原告は,我が国の法人税等の二重課税が「法令上」何ら手当さ
れることなく放置されていると主張しているものであり,前記アの被告の
主張は,法令と通達とを同列に扱おうとするものである上,既に述べたと
おり,上記通達の定めを考慮したとしても,第3の二重課税【国内源泉所
得・合算利益間】は解消されず,かえって悪化する場合もあるから,前記
アの被告の主張は,失当である。
第5本件の事案に限って外国子会社合算税制に関する措置法及び措置令の規定を
限定解釈し,B平成19年12月期におけるBについてはこれらの規定が適用
されないものと解すべきであるか否か(争点5)
1原告の主張の要点
(1)ア前掲最高裁平成21年10月29日第一小法廷判決は,特定外国子会社
等に課税される外国法人税につき外国税額控除制度を利用して経済的二重
課税に一定の手当てをし,内国法人が特定外国子会社等を利用しなかった
場合とほぼ等しい税負担となるように調整することとしていることを,外
国子会社合算税制の合理性を基礎づける一つの根拠として示している。そ
して,仮に同税制それ自体が合理的な制度であることを認めるとしても,
これを適用した結果が明らかに不当かつ不合理なものとなる場合,すなわ
ち,明らかに当該内国法人が特定外国子会社等を利用しなかった場合とほ
ぼ等しい税負担とならない場合(当該内国法人が特定外国子会社等を利用
しなかった場合と比較しておよそかけ離れた税負担となるような場合)に
は,外国子会社合算税制の適用は排除しなければならないと解釈するのが,
上記判決に照らして論理的かつ合理的な帰結であるとともに,「内国法人
が,いわゆるタックス・ヘイブンを利用して我が国における租税の負担を
回避しようとする事例に対処して税負担の実質的な公平を図る」という外
国子会社合算税制の趣旨・目的にも合致する。
イ前記アのような解釈が租税法律主義(憲法84条)に反するものでない
ことは,租税法規の文言の形式的な解釈のみでは導き得ない解釈を租税法
規の趣旨等に基づいて導く多数の最高裁判決(最高裁平成15年(行ヒ)
第215号同17年12月19日第二小法定判決・民集59巻10号29
64頁,前掲最高裁平成21年10月29日第一小法廷判決等)や,租税
法規について,法令の文言を重視しつつも,法令の趣旨・目的,租税の基
本原則,税負担の公平性・相当性等を総合考慮し,法的安定性,予測可能
性を損なうことのない限度で,租税法令を客観的,合理的に解釈すること
も許されるとする福岡高等裁判所平成21年7月29日(最高裁判所ホー
ムページ登載)からも導くことができるものである。
特に,前掲最高裁平成17年12月19日第二小法定判決の最高裁判所
調査官の解説は,租税法律主義は,租税の賦課徴収が,法律の根拠に基づ
き,法律に従って行われなければならないとする原則であり,私人にとっ
て将来の予測を可能にし,法的安定を確保することを目的とするものであ
るから,租税法規が適用されて租税の賦課徴収がされるべき事案であるこ
と,あるいは,租税の減免を認める租税法規が適用されるべき事案でない
ことが,関係者に明らかな場合であるならば,租税法規を適用して租税を
賦課徴収すること,あるいは,租税の減免を認める租税法規を適用しない
こととしても,租税法律主義違反の問題は生じない旨,租税法規の適用範
囲の限定(限定解釈)が許容される場合があることを明確に論じている。
これは,直接には政策的租税軽課措置についての説明であるが,上記のよ
うな限定解釈を導く根拠とされている租税法律主義の目的は,政策的租税
重課措置についても同様に当てはまるから,同様の適用範囲の限定(限定
解釈)は,本件で問題となっている政策的租税重課措置である外国子会社
合算税制についても許容される。
(2)第3の2(3)において言及した原告によるシミュレーションをめぐる求釈
明の結果,被告も,本件事案においては同一所得に対する法人税二重課税が
生じていること(第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】が解消され
ないこと)を認めるに至っているところ(平成25年4月19日付け被告準
備書面(5)第4の3(2)ウ・49頁参照),本件事案の特徴は,以下のとおり
である。
アBは,B平成19年12月期において,そのE支店において保有してい
た政策保有株式の一部を譲渡した結果生じた385億8167万0508
円の所得(本件所得)について,その全額が国内源泉所得として我が国に
ついて法人税等の課税に服することとされ(法人税法141条1号,同法
143条,地方税法53条,同法72条の2,同法321条の8,同法1
条2項),前提事実(2)イのとおり,上記の法人税等として合計178億
1406万4000円を納付した。
イ一方で,Bは,本件所得から前記アの納税資金と若干の当面の運転資金
等を控除した200億円を,前提事実(2)アのとおり,B平成19年12
月期の末日から2か月以内に,当時の100%親会社であり,内国法人で
あるAに対して本件配当として支払った。すなわち,本件所得は,①Aに
おいて我が国の課税に服することになった本件配当200億円,②B平成
19年12月期に係る法人税等としてBが納付した我が国の法人税等合計
178億1406万4000円及び③その他から構成されるが,上記①~
③の全額を課税所得として我が国の法人税等がBに課されているのである
から,本件所得を構成する上記①~③の全ては,我が国の法人税等が課税
済みの所得であり,そのうち上記②が我が国の法人税等として我が国に納
付された税額である。上記①~③のいずれについても,Bが我が国の課税
を逃れたとか不当に軽減したとかいう事実はない。
ウそもそも,外国子会社合算税制が特定外国子会社等の留保所得に着目し
ている理由は,同税制の目的が「我が国での税負担を不当に軽減すること
を規制すること」にあり,株主たる内国法人は,特待外国子会社等に,課
税対象留保金額を配当させるだけの「支配力をもっているにもかかわらず,
子会社等が配当を全くあるいはわずかしか行わず,留保所得を蓄積してい
るところに税の回避を推認し得る」からである(乙8)。ここにおいて
「留保所得」として問題視されているのは,本来我が国の居住者の全世界
所得の一部として我が国で課税されるべきであるにもかかわらずその課税
を受けないまま特定外国子会社等に蓄積されている所得であることは,上
記のような同税制の目的を併せ考慮すれば明らかであるところ,本件所得
を構成する前記イ①~③は,いずれもこのような意味における「留保所
得」には該当しない。
しかも,前記イ②は,Bにより,その全額が本件所得に課されたBの法
人税等として本来の法定納期限までに納付されている。すなわち,我が国
は,Bの全所得を対象として計算された法人税等の税額の全額の納付をB
から受けることによって,Bの所得から,通常の内国法人が負担するのと
全く同等の税収を,本件各更正処分がされるよりもはるか前に得ているの
である。
エそれにもかかわらず,本件においては,更に本件各処分をすることによ
り,平成20年4月期においてBがAの特定外国子会社等に該当するとし
て,B平成19年12月期の本件所得385億8167万0508円のう
ちAに配当された本件配当200億円(前記イ①)を控除した残額を基礎
に算出された188億3633万2344円が課税対象留保金額としてA
に合算され,Aが約49億円の法人税を負担することになった。この結果,
本件所得のうち課税対象留保金額に対応するとされた部分(前記イ②及び
③)に対しては,我が国の法人税が合計105億2904万1648円
(地方税を含めると合計135億9880万0125円。なお,課税対象
留保金額188億3633万2344円に対して課された法人税等の額は,
本件所得385億8167万0508円に対して課された法人税額及び地
方税額からそれぞれあん分計算によって算出している。)が課され,本件
各処分によって合算課税の対象とされた所得の我が国における法人税の税
負担率は55.9%(地方税を含めると約72.2%)に達し,我が国の
法人税の税率約30%の約1.9倍(内国法人の法人税等の実効税率約4
0.7%の約1.8倍)となっている。
(3)ア既に述べたような外国子会社合算税制の趣旨・目的に照らせば,本件各
処分によってされた前記(2)エのような課税は,不当かつ極めて不合理な
ものであることが明らかである。
イ仮に,同税制の構造上,特定外国子会社等の所得に対する外国法人税と
合算課税の間の二重課税は外国税額控除により調整されるという被告の解
釈を前提としたとしても,外国税額控除においては,「国際的二重課税」
の調整に当たって,3分の1ルール(措置令39条の18第8項ただし
書)やいわゆる90%シーリング(法人税法施行令142条3項1号)な
ど,その調整を一定程度制限する規定が設けられていることから,本件に
おけるBのように特定外国子会社等がケイマンのような法人の所得に対し
て課される税が存在しない国又は地域に本店又は主たる事務所を有する外
国法人であり,かつ,我が国において内国法人と同率の法人税等の課税を
受けている場合において,外国子会社合算税制による合算課税の結果生ず
る第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】(同一所得に対する法人
税二重課税)が完全に排除されず,残ることになる。問題は,そのように
して残ってしまった同一所得に対する法人税二重課税は,租税法律主義の
下において,法律に根拠のある課税といえるのかである。
ウそもそも,被告が第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】に外国
税額控除を適用すると主張している理由は,そのような同一の所得に対す
る二重課税が,外国子会社合算税制の趣旨・目的に反する不当かつ極めて
不合理な課税であるからにほかならないから,外国税額控除を適用しても
なお残る前記イのような課税が,外国税額控除を適用したことによって適
法な課税に変身することについて,明確な根拠となる法律がない限り,そ
のような課税はやはり同税制の趣旨・目的に反する不当かつ極めて不合理
な課税であり続けるはずである。
既に述べたとおり,外国税額控除において二重課税が完全には排除され
なくてもよいと考えられている理由は,複数国の課税権の抵触を調整する
場合には居住地国としての我が国が全面譲歩をするべき理由はないという
ところにあるから,外国子会社合算税制によって生ずる第3の二重課税
【国内源泉所得・合算利益間】に対して外国税額控除を適用することが認
められるとの前提を採ったとしても,本件のように外国税額控除を適用し
ても第3の二重課税【国内源泉所得・合算利益間】につき相当程度の調整
がされるどころかかえって税負担が増えるという事案においては,同税制
の趣旨・目的に反する不当かつ極めて不合理な課税に外国税額控除を適用
してもなお残る課税が,外国税額控除を適用したことによって適法な課税
に変身するというのは背理である。
エ被告は,本件については,外国子会社合算税制の趣旨・目的に照らせば,
Bが法人の所得に対する課税のないケイマンにおいて原告に配当すること
なくその所得を留保しているのであるから,実質的に見ても,正に同税制
を適用すべきケースであるなどと主張する。
しかし,そのような主張を前提とすれば,本件の事案では,Bは,我が
国の法人税等を納付するための前記(2)イ②の納税資金を残すことなく,
本件所得の全額を親会社であるAに配当しない限り,同税制の趣旨・目的
に反する不当かつ極めて不合理な課税を甘受しなければならず,そのよう
な課税を排除する方法がないどころか,外国税額控除の適用を受けると課
税がより高率になるという不合理極まりない課税を受けることになるので
あって,被告の上記主張は,失当である。
オ結局のところ,本件のように,合算課税による同一所得に対する法人税
二重課税の結果,実質税負担率が72.2%という結果になるような事案
においては,このような課税は,外国子会社合算税制の趣旨・目的に反す
る不当かつ極めて不合理なものであることが明らかであって,仮に個別の
条文の解釈については被告の主張を前提とするのであっても,本件のよう
な事案においては,限定解釈により同税制の適用は排除すべきである。す
なわち,本件は,前記(1)アにおいて述べた「当該内国法人が特定外国子
会社等を利用しなかった場合と比較しておよそかけ離れた税負担となるよ
うな場合」に該当することが明らかであって,前掲最高裁平成21年10
月29日第一小法廷判決に照らしても,本件は,同税制の適用が排除され
なければならない事案であるということができる。
(4)アなお,被告は,税負担の観点からは,ケイマンに子会社を設立するとい
う法形式を選択した場合には,措置法上合算課税の対象とされることで
「経済的二重課税」が生じ得るため,直接我が国に子会社を設立するとい
う法形式を選択した場合における税負担よりも重い税負担を負うこととな
り得ることが事前に予測可能であったにもかかわらず,Aは,あえてケイ
マンに子会社を設立するという法形式を選択したのであるから,本件は,
当事者が,自由な意思によりあえて「経済的二重課税」が生じ得る法形式
を選択したものであるなどと主張する。
イしかし,本件において問題とされている法令の条文においては,当事者
の主観的事情や認識の有無が課税要件ではないことが明らかである上,仮
に二重課税が生ずることを予測することができたとしても,原告が課税処
分を争うことは何ら妨げられないから,被告の前記アの主張に係る事情は,
本件の判断に何ら影響を与えるものではない。
被告がAにおいてBの設立時には租税回避を意図していたことを示唆す
る目的で前記アのような主張をしているとしても,Bの設立には経済的な
理由があり,かつ,Bは設立以来日本に支店を有してその所得全額につき
我が国の法人税等の課税を受けているのであるから,そのような主張には
事実誤認がある。
さらに,外国子会社合算税制において,特定外国子会社等該当性及び合
算課税をするか否かは,事業年度ごとに判定されるものであり,B設立時
において,その後の事業年度に同税制が適用されるか否かは確実には分か
らないことであるから,AがBの国内源泉所得が同税制の対象となること
を予測してBを設立したか否かは,やはり本件において何の意味も持たな
い。
2被告の主張の要点
限定解釈とは,「形式的に既存の法令の規定を適用した場合に結論が制度趣
旨・目的に反して,明らかに不当かつ不合理なものとなるときに,法令上の明
文の定め(括弧内省略)がなくとも,法令の適用範囲を限定的に解釈することに
より結論の妥当性を図る解釈手法」であるところ,本件については,外国子会
社合算税制の趣旨・目的に照らせば,Bが法人の所得に対する課税のないケイ
マンにおいて原告に配当することなくその所得を留保しているのであるから,
実質的にみても,正に外国子会社合算税制を適用するべきケースであるという
べきである。したがって,本件が「形式的に既存の法令の規定を適用する場
合」に該当しないことは明らかであり,また,原告が主張するように結果とし
ての税負担が40%を超えるものとなったとしても,そのことのみをもって,
外国子会社合算税制を適用した結果が明らかに不当かつ不合理なものというこ
ともできない。
以上のとおりであるから,前記1の原告の主張は,「結論が制度趣旨・目的
に反して,不当かつ不合理なものとなる」という前提を欠き,理由がないとい
うほかない。
なお,Bの事業は,Aの子会社であるDから取得した政策保有株式を保有す
ることであったが,ケイマンに法人の実体はなく,全ての資産負債及び損益は
E支店に帰属し,その収入は,我が国で発生したもののみであり,その意味で,
ケイマンに法人を設立する経済的理由は何ら存在しなかったものである。また,
税負担の観点からは,ケイマンに子会社を設立するという法形式を選択した場
合には,措置法上合算課税の対象とされることで「経済的二重課税」が生じ得
るため,直接我が国に子会社を設立するという法形式を選択した場合における
税負担よりも重い税負担を負うこととなり得ることが事前に予測可能であった。
それにもかかわらず,Aは,あえてケイマンに子会社を設立するという法形式
を選択したのであるから,本件は,当事者が,自由な意思によりあえて「経済
的二重課税」が生じ得る法形式を選択したものである。このような法形式を選
択した場合に外国子会社合算税制の適用対象とされることを原告及びA(平成
20年5月の合併後はH株式会社)が認識していたことは,Bの平成14年2
月18日から同年3月31日までの事業年度ないしB平成19年12月期につ
いて,Bが特定外国子会社等に該当することを前提とした確定申告書(乙2な
いし5)を提出していることからも明らかである。
以上
(別紙4)
A及び原告の納付すべき税額等
第1Aの平成20年4月期における納付すべき税額等について
1課税所得金額163億3874万3171円
上記金額は,次の(1)の金額に(2)及び(3)の金額を加算した金額である。
(1)確定申告における所得の金額△17億7196万1702円
上記金額は,原告が麹町税務署長に対して平成20年7月30日に提出し
た平成20年4月期確定申告書に記載された所得の金額と同額である。
(2)特定外国子会社等に係る課税対象留保金額の益金算入額
180億6872万5836円
上記金額は,原告(合併前のA)が,Bの平成19年12月期に係る措置
法66条の6第1項に規定する課税対象留保金額として次のアからウまでに
述べるように188億3633万2344円を所得の金額の計算上益金の額
に算入すべきところ,7億6760万6508円のみを算入することによっ
て,所得の金額を過少に計算していると認められる金額であるから,所得の
金額の計算上,益金の額に算入される金額である。
ア未処分所得の金額の計算
B平成19年12月期の決算に基づく所得の金額222億1306万5
152円につき,本邦法令の規定の例に準じて計算した場合に算出される
所得の金額(措置令39条の15第1項)は,原告が平成20年4月期確定
申告書にBに係る「未処分所得の金額」として記載した385億8167
万0508円に,計算誤りと認められる次の各金額を加算又は減算した後
の388億3754万2344円である。
(ア)申告時に「損金の額に算入した納税充当金」として所得の金額に加算
されていた金額のうち4761万4642円は,B平成19年12月期
において納付した配当等に係る所得税の額であるから,当該金額を加算
過大額として減算する。
(イ)申告時に「控除対象配当等の額」として所得の金額から減算されてい
た1億6080万1651円は,法人税法23条の規定による受取配当
等の益金不算入相当額であるが,同条の規定は,未処分所得の金額の計
算に適用されない(措置令39条の15第1項)ため,当該金額を減算過
大額として加算する。
(ウ)平成20年4月期確定申告書別表十七(二)付表「特定外国子会社等の
判定に関する明細書」の「控除未済欠損金額」を繰越欠損金の「当期控
除額」として所得の金額から減算した18億4145万6635円は,
当該金額に次のbを加算し,a及びcを減算した16億9877万18
08円が正当であるから,その差額1億4268万4827円を所得の
金額の計算上加算する。
aB平成18年3月期及びB平成19年3月期に係る未処分所得の金
額の計算において,受取配当等の益金不算入相当額を「控除対象配当
等の額」として所得の金額から減算したことにより,B平成15年3
月期に係る控除未済欠損金額が9517万3628円過大となってい
たので,同金額を繰越欠損金の当期控除額から減算する。
bB平成16年3月期に係る未処分所得の金額の計算において,配当
等に係る所得税の額を「損金の額に算入した納税充当金」として所得
の金額に加算したことにより控除未済欠損金額が2329万4282
円過少となっていたので,同金額を繰越欠損金の当期控除額に加算す
る。
cB平成17年3月期に係る未処分所得の金額の計算において,受取
配当等の益金不算入相当額を「控除対象配当等の額」として所得の金
額から減算したことにより控除未済欠損金額が7080万5481円
過大となっていたので,同金額を繰越欠損金の当期控除額から減算す
る。
イ適用対象留保金額の計算
既に述べたとおり,適用対象留保金額は,特定外国子会社等の各事業年
度の未処分所得の金額から,当該各事業年度において納付をすることとな
る法人所得税の額及び当該各事業年度を基準事業年度とする剰余金の配当
等の額の合計額を控除して計算するものである。
前記アのBに係る「未処分所得の金額」388億3754万2344円
から,Bに係る平成19年5月29日に申告された都民税の額121万0
000円及びBが平成20年1月22日に配当決議をし,同月25日に支
払った200億円(本件配当金)を控除すると,適用対象留保金額は,1
88億3633万2344円となる。
ウ課税対象留保金額の計算
課税対象留保金額は,適用対象留保金額に,当該特定外国子会社等の当
該各事業年度終了の時における発行済株式等のうちに当該各事業年度終了
の時における当該内国法人の有する当該特定外国子会社等の請求権勘案保
有株式等の占める割合を乗じて計算した金額である。
既に述べたとおり,Aは,B平成19年12月期終了の時においてもB
の発行済株式の全部を有していることから,適用対象留保金額188億3
633万2344円の全額が課税対象留保金額となる。
(3)未収消費税の損金不算入額4197万9037円
上記金額は,原告(合併前のA)が,控除対象外消費税額として5447
万3781円を所得の金額の計算上益金の額に算入すべきところ,1249
万4744円のみを算入していたため,益金の額に算入されるべき金額であ
る。
2課税所得金額に対する法人税の額49億0162万2900円
上記金額は,前記1の課税所得金額(通則法118条1項の規定に基づき1
000円未満の端数金額を切り捨てた後のもの。)に法人税法66条1項に規
定する税率を乗じて計算した金額である。
3法人税の額から控除される所得税の額2億0139万3906円
上記金額は,法人税法68条に規定する法人税の額から控除される所得税の
額であり,平成20年4月期確定申告書の控除所得税額に記載された金額と同
額である。
4納付すべき法人税の額47億0022万8900円
上記金額は,前記2の金額から前記3の金額を控除した金額(通則法119
条1項の規定に基づき100円未満の端数金額を切り捨てた後のもの。)であ
る。
5既に納付の確定した法人税の額△2億0139万3906円
上記金額は,平成20年4月期確定申告書に記載された還付金の額と同額で
ある。
6差引納付すべき法人税の額49億0162万2800円
上記金額は,前記4の金額から前記5の金額を控除した金額(通則法119
条1項の規定に基づき100円未満の端数金額を切り捨てた後のもの。)であ
り,原告が新たに納付すべき法人税の額である。
第2原告の平成20年12月連結期における納付すべき税額等について
1課税所得金額△278億7741万9885円
上記金額は,次の(1)の金額に(2)の金額を加算し,(3)の金額を控除した金
額である。
(1)確定申告における連結所得金額△282億8814万7654円
上記金額は,原告が麹町税務署長に対して平成21年6月1日に提出した
平成20年12月連結期確定申告書に記載された連結所得の金額と同額であ
る。
(2)連結所得に加算すべき金額の合計22億8367万9533円
上記金額は,次のア~オの金額の合計金額である。
ア分割前事業年度の欠損金の損金算入過大額
17億7196万1702円
上記金額は,平成20年4月期更正処分により被合併法人であるAの平
成20年4月期における欠損金額が0円となったことから,連結所得の金
額の計算上,過大に損金の額に算入された金額である。
イ役員給与の損金不算入額1億4689万5480円
上記金額は,原告が役員に対して退職金を支給したとして所得の金額の
計算上損金の額に算入していたものの,支給金額計算基準等から判断した
結果,他の引き続き勤務している者に支払われる給与等と同性質であり,
また,法人税法34条1項に規定する給与等にも該当しないことから,連
結所得の金額の計算上損金の額に算入されない金額である。
ウ外国法人税還付金減算過大額3億5959万9572円
上記金額は,連結親法人の過年度の租税公課の見積計上額として所得の
金額に加算した金額のうち,平成20年12月連結期に確定した3億07
43万4661円を所得の金額の計算上損金の額に算入すべきところ,6
億6703万4233円を減算したために,連結所得の金額の計算上過大
に損金の額に算入された金額である。
エ一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入限度超過額の増加額
522万2682円
上記金額は,連結子法人であるGの法人税法52条に規定する一括評価
金銭債権に係る貸倒引当金について,法人税法施行令96条2項に基づき
貸倒実績率を再計算して繰入限度額を計算したところ,繰入限度超過額が
過少となっていた金額であり,益金の額に算入される金額である。
オ雑益計上漏れ97円
上記金額は,連結子法人であるGの消費税及び地方消費税の更正に伴う
消費税額等の納付税額と未払消費税額との差額であり,雑益として連結所
得の金額の計算上益金の額に算入される金額である。
(3)連結所得の金額から減算すべき金額の合計18億7295万1764円
上記金額は,次のア~エの金額の合計金額である。
ア外国法人税還付金加算過大額4億5759万1274円
上記金額は,外国法人税還付金に係る為替差損のうち,平成20年12
月連結期において未確定の外国法人税還付金に係る為替差損は1億515
9万0163円であるにもかかわらず,6億0918万1437円を所得
の金額の計算上益金の額に算入したために,連結所得の金額が過大に計上
された金額であり,損金の額に算入される金額である。
イ事業再構築引当金加算過大額9520万0000円
上記金額は,事業再構築引当金として所得の金額の計算上益金の額に算
入した1億9970万円のうち,役員に対する退職金として支払が確定し
た金額であり,損金の額に算入される金額である。
ウ事業税の損金算入額12億5474万7400円
上記金額は,Aの平成20年4月期更正処分により所得の金額が増加し
たことに伴い生じた事業税の金額であり,損金の額に算入される金額であ
る。
エ未払消費税の損金不算入額加算過大額6541万3090円
上記金額は,原告の控除対象外消費税額として4904万7551円が
連結所得の金額の計算上過大に益金の額に算入され,また,連結子法人で
あるGの控除対象外消費税額として1636万5539円が連結所得の金
額の計算上過大に益金の額に算入されたものであり,連結所得の金額の計
算上損金の額に算入される金額である。
2課税所得金額に対する法人税の額0円
上記金額は,前記1の課税所得金額に法人税法66条1項に規定する税率を
乗じて計算した金額である。
3還付される所得税の額80億7037万5088円
上記金額は,法人税法78条に規定する還付される所得税の額であり,原告
の平成20年12月連結期確定申告書に記載された所得税額等の還付金額と同
額である。
4納付すべき法人税の額△80億7037万5088円
上記金額は,前記2の金額から前記3の金額を控除した金額である。
5既に納付の確定した法人税の額△80億7037万5088円
上記金額は,平成20年12月連結期確定申告書に記載された還付金額と同
額である。
6差引納付すべき法人税の額0円
上記金額は,前記4の金額から前記5の金額を控除した金額であり,原告が
新たに納付すべき法人税の額である。
7翌期へ繰り越す連結欠損金の額278億7741万9885円
上記金額は,平成20年12月連結期確定申告書に記載された翌期へ繰り越
す連結欠損金の額282億8814万7654円から,前記1(2)の金額を控
除し,前記1(3)の金額を加算した金額である。
以上

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