弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
被告は、原告aに対し金三一三、三七二円、同bに対し金二六二、一七四円、同c
に対し金二六二、一七四円、同dに対し金九三、二五八円、同eに対し金五四、〇
六八円、同eに対し金五四、〇六八円、同fに対し金五、二八〇円および右各金員
に対する昭和四六年七月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払
え。
原告fを除く原告らのその余の請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
       事   実
(請求の趣旨)
「被告は、原告aに対し金四九万二、八六一円、同bに対し金四四万一、〇四六
円、同cに対し金四四万一、〇四六円、同dに対し金一二万〇、七四八円、同eに
対し金六万七、三九二円、同eに対し金六万七、三九二円、同fに対し金五、二八
〇円および右各金員に対する昭和四六年七月一六日から支払ずみまで年五分の割合
による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」
との判決ならびに仮執行の宣言。
(請求の趣旨に対する答弁)
「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決。
(請求の原因)
一、原告らは、被告に雇われていた女子行員である。被告に雇われている行員の給
与は、昭和四二年四月一日から昭和四六年三月三一日までの間に施行されていた就
業規則によれば、「職員の俸給はその能力と勤務に応じて支給される。給与は職務
の量及び質並びに勤務責任の程度によつて調整される。」(三二条)、「職員(嘱
託を除く)の俸給は基本給及び諸手当としその決定計算及び支払方法、締切及び支
払の時期並びに昇給等に関する事項は別に定める。」(三三条)と定められ、職員
の給与に関する基準及び手続を定めることを目的とする給与規程によれば、「給与
は職員の生活を保障し、且つ職務の遂行能力、勤務実績に応じて支給するために調
整生計費及び資格職能分類基準書、人事考課に基づき公正な運用を図るものとす
る。」(第二条)、「基本給は本人給、職能給より構成する。」(九条)、「本人
給は職員の生活保障給的性格を目的とし、調整生計費及び職員の年令を考慮した本
人給表(1)(2)により支給する。」(一〇条)、「職能給は職員の能力の保有
度発揮度を別に定める人事考課要領で査定し、資格職能分類基準書に基づく職能給
表別表(3)により支給する。特別職(タイピスト、電話交換手、パンチヤー、自
動車運転手、用務員)については職能給表別表(4)により支給する。」(一一
条)、「昇給は毎年4月期に次の通り行う。本人給は4月1日現在の満年令を算定
基礎として一号を昇給せしめる。職能給は人事考課要領により査定した過去一ケ年
間の人事考課結果に基づいて成績良好なる者のみを昇給せしめる。」(一三条)と
定められている。
二、被告と原告らが加入している秋田相互銀行労働組合との間にとり交わされた覚
書によれば、各年度の本人給表は別表一、二、三、四に掲げるとおりである。
三、被告は、男子については、いずれも、右別表の(1)表またはA表に該当する
ものとして、本人給を支給し、女子については、いずれも、右別表の(2)表また
はB表に該当するものとして、本人給を支給した。
四、すなわち、原告らが支給された本人給(一か月)は次のとおりである。(四月
一日から翌年の三月三一日までを一年度とする)。
<18765-001>
(いずれも、四月一日においての年令に対応する金額)
五、原告らが、第二項の別表の(1)表またはA表に該当するものとした場合に
は、本人給(一か月)は、次のとおりである。
<18765-002>
六、各年度の基本給および臨時給与の計算は次のとおりである。
 基本給(本人給+職能給)×12(月数)+基本給×臨給支給率(別表五)
 原告らが支給された賃金と、原告らとそれぞれ同一年令の男子行員が支給された
賃金との差額(本人給と本人給に臨給支給率を乗じた額について計算)は次のとお
りである。
<18765-003>
<18765-004>
七、これは、被告が、原告らが女子であることを理由として、賃金について男子行
員と差別的取扱をしたものである。
(一) このような原告らに対する給与の支払は、憲法一四条、労働基準法四条、
民法九〇条に違反してなされたものとみられ、無効である。
 原告らに対しては、男子に対する賃金と同一の賃金を支払わなければならない。
(二) 被告が、原告らが女子であることを理由として賃金について、男子と差別
的取扱をした部分は、無効である。この無効となつた原告らに対する給与に関する
部分は、労働基準法一三条(「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める
労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部
分は、この法律で定める基準による。」)の規定により被告が男子行員について支
給した基準に基いて給与が決定されなければならない。
(三) 労働組合法一七条は「一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の四
分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至つたときは、当該工場
事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるもの
とする。」と規定する。本件本人給表は原告らの加入している秋田相互銀行労働組
合と被告との間の労働協約に定められている労働条件である。被告に常時雇われて
いる男女行員の四分の三以上の数の男子行員は、別表本人給表の(1)表またはA
表の適用を受けている。原告らに適用された本人給表の(2)表またはB表は無効
である。よつて、被告に雇われている女子行員に関しても、右の男子行員に適用さ
れた当該本人給表が適用されなければならない。
 よつて、原告らは、被告に対し、右各差額金およびこれに対する本件訴状が被告
に送達された日の翌日である昭和四六年七月一六日から右支払ずみまで民法所定年
五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
八、仮に右の主張が認められないとしても、原告らは女子であることを理由とし
て、被告の男女行員に対する差別的取扱によつて右の差額に相当する損害を受け
た。
 よつて、原告らは被告に対し、右の差額金およびこれに対する昭和四六年七月一
六日から右支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
九、仮に右の主張が認められないとしても、被告は、右の差額金を不当に利得し、
原告らは同額の損失を受けたわけであるから、原告らは、被告に対し、右各不当利
得金およびこれに対する昭和四六年七月一六日から右支払ずみまで民法所定年五分
の割合による法定利息金の支払を求める。
一〇、原告らの主張の詳細は、別紙原告らの最終準備書面写記載のとおりである。
(請求の原因に対する答弁)
一、第一、第二、第四、第五、第六項の事実は認める。(但し、別表四に掲げる註
の「同条第3項(4)」とあるのは「同条第3項(2)」の誤である。右の(2)
は「満六〇才以上の直系尊属」で、(4)は「高等学校以上に在学中の直系卑属及
び弟妹」である。)
二、第三項の事実は否認する。本人給の支払について、(1)表と(2)表ならび
にA表とB表があるのは、標準生計費的な扶養家族があるときは(1)表またはA
表を、これがないときは(2)表またはB表を適用するためである。
 なお、昭和四五年度から現に扶養家族がある者については(1)表が適用され、
昭和四四年度においてA表の適用を受けていた者で、昭和四五年度から(2)表が
適用される現に扶養家族がない者については、(1)表との差額に相当する額を調
整給として支給した。原告らは、標準生計費的な扶養家族がない者であるととも
に、現に扶養家族がない者である。原告らに対する本人給の支払については、性別
による差別はない。
三、第七、第八、第九項の事実は否認する。
(抗弁)
一、原告らの本訴提起は昭和四六年七月六日である。
 原告らの賃金請求権は、その請求をすることができることとなつた日から二年間
行なわないときは、時効によつて消滅する。
 原告らの請求する本人給については、その支給日は毎月二一日であるから、その
うち、昭和四四年六月までのもの、臨時給与については、そのうち、昭和四四年六
月末日支給された同年八月までのものは既に二年以上の期間が経過している。
 右時効によつて消滅している賃金請求権を除いて計算すると、次のとおりであ
る。
<18765-005>
 被告は右消滅時効を援用する。
二、被告の主張(答弁および抗弁)の詳細は、別紙被告最終準備書面写(但し、第
六を除く)記載のとおりである。
(証拠) (省略)
       理   由
一、請求の原因第一項、第二項は当事者間に争いがない
二、証人g(第一回)、同h、同iの各証言および証人iの証言によつて成立を認
めることができる乙第五号証の一、二、によれば、原告らと同一年度に入行した者
全員について支払われた本人給をみてみた場合に、昭和四二年度(年度はその年四
月一日から翌年三月三一日までとする。)から昭和四四年度までの間については、
扶養家族の有無にかかわらず、男子行員には全部当該年度の(1)表またはA表に
掲げる金額が年令に応じ(基準日は四月一日である。以下同じ。)支払われ、女子
行員には全部当該年度の(2)表またはB表に掲げる金額が年令に応じ支払われた
こと、昭和四五年度には、女子行員には全部同年度の(2)表に掲げる金額が年令
に応じ支払われ、扶養家族を有する男子行員には同年度の(1)表に掲げる金額が
年令に応じ支払われ、扶養家族がない男子行員には同(2)表に掲げる金額が年令
に応じ支払われるものとしたうえ、調整給が支払われ、結局同(1)表に掲げる金
額が年令に応じ支払われた場合と同額の金額が本人給として支払われたこと、被告
がこのような調整給の支払をしたのは、扶養家族がない男子行員に対して(2)表
に掲げる金額を支払つただけでは、前年度まで支払つてきた本人給を減額すること
となることを避けるためであつたこと、このことは他の行員についても同様であつ
たことが認められる。(証人hは、昭和四五年度にはjのほか二、三の女子が
(2)表から(1)表に区分が変わつている旨供述をしているけれども、それだけ
では直ちに採用することができない。他にこのことを認めるに足りる証拠はな
い。)
三、請求の原因第四項、第五項、第六項は全部被告の認めるところである。
四、以上のような事実を総合すれば、他に特段の事情の認められない限りは、被告
において、原告らが女子であることを理由として、賃金(本人給および臨時給与)
について、男子と差別的取扱をしたものであると推認することができ、被告におい
て、このことは、性別と関係なしに定められたものであるとして、右の推認を動揺
させるに足りる立証をしない限り、被告の不利益に事実を仮定することになる。
 証人hの証言によれば、被告は、標準生計費的な扶養家族があるかどうかによつ
て、(1)表と(2)表(またはA表とB表)の区分を設け、原告らが加入してい
る労働組合との間の団体交渉において、標準生計費的な扶養家族があるかどうかと
は、現在または将来において生計の主たる所得を得る立場にある者かどうかをいう
ものとし、一般に社会通念として男子は生計の主たる所得を得る立場にある者とみ
られる旨の説明をしたこと、ところが、昭和四五年度には、労働基準監督署の指導
によつて、現に扶養家族があるかどうかによつて(1)表と(2)表が区分される
にいたつたことが認められる。
 しかし、このようにいつてみても右推認を疑わせるに足りるものとみることはで
きない。右推認に反する証人h、同iの各証言は採用できないし、他に右推認をく
つがえすに足りる証拠はない。
 結局、被告の反証は不十分とみられ、被告が本人給を決定する場合において、女
子行員に対し、年令に応じ当該年度の(2)表またはB表に掲げる金額の支払をし
たことは、女子について男子と差別的取扱をしたものであるといわなければならな
い。
五、このように、労働契約において、使用者が、労働者が女子であることを理由と
して、賃金について、男子と差別的取扱いをした場合には、労働契約の右の部分
は、労働基準法四条に違反して無効であるから、女子は男子に支払われた金額との
差額を請求することができるものと解するのを相当とする。けだし、労働基準法で
定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とさ
れ、この無効となつた部分は、労働基準法で定める基準による旨の労働基準法一三
条の趣旨は、同法四条違反のような重大な違反がある契約については、より一層こ
の無効となつた空白の部分を補充するためのものとして援用することができるもの
とみなければならないからである。
 原告らの賃金差額を求める請求は理由がある。
六、しかし、被告主張の消滅時効の抗弁事実を原告らは明らかに争わないから、こ
れを自白したものとみなす。原告らの本訴提起の日が昭和四六年七月六日であるこ
とは記録上明らかである。
 被告の右抗弁は理由がある。
七、よつて、原告らの本訴請求のうち、原告aに対し金三一三、三七二円、同bに
対し金二六二、一七四円、同cに対し金二六二、一七四円、同dに対し金九三、二
五八円、同eに対し金五四、〇六八円、同eに対し金五四、〇六八円、同fに対し
金五、二八〇円およびこれに対する、被告が遅滞におちいつた後である昭和四六年
七月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求
める部分は、正当としてこれを認容し、原告fを除く原告らのその余の請求は失当
であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適
用して、主文のとおり判決する。仮執行の宣言の申立は、相当でないから、これを
却下する。
(裁判官 武田平次郎 赤木明夫 丸山昌一)
別表(1)
42年度
別表1
本人給表 (単位 円)
<18765-006>
別表2
本人給表 (単位 円)
<18765-007>
(註) 別表1,2の※印は給与ピツチの変更年令を示す。
別表(2)
43年度
別表1
本人給表
<18765-008>
別表2
本人給表
<18765-009>
別表(3)
44年度
A表
本人給表
<18765-010>
B表
本人給表
<18765-011>
別表(4)
45年度
別表1
本人給表(扶養家族を有するものに適用)
<18765-012>
別表2
本人給表(扶養家族を有しないものに適用)
<18765-013>
(註)「扶養家族」とは給与規程第22条に定めるものをいう。
但し同条第3項(4)に該当するものを除く。
別表(5)
臨給(一時金)支給率一覧表(毎年4月1日現在年令)
(単位 %)
<18765-014>
別紙 最終準備書面(省略)

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