弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの弁護人上山武の上告趣意について。
 所論は、被告人Aは第一審判決判示第三の(二)の物件を運搬しただけであるか
ら、同被告人に対する追徴の言渡は判例に違反すると主張する。
 しかし、所論引用の大阪地方裁判所および神戸地方裁判所の判決は刑訴四〇五条
三号にいう判例に該当せず、仙台高等裁判所秋田支部の判決は昭和二七年(あ)第
二九九一号同三三年六月二日大法廷判決(刑集一二巻九号一九三五頁)の趣旨に反
するものであり、また所論引用の大法廷判決は、犯罪貨物の所有者たる犯人と然ら
ざる共犯者が同時に処罰される場合の旧関税法(昭和二九年法律第六一号による改
正前のもの)八三条三項による追徴についての判例であつて、事案を異にし本件に
は適切でないから、所論はすべて適法な上告理由に当らない。(なお、関税法一一
八条二項にいわゆる犯人とは、密輸出入者およびその従犯、教唆犯はもとより、情
を知つて犯罪貨物を運搬し、保管し、有償もしくは無償で取得し、またはその処分
の媒介もしくはあつせんをした者など、当該犯罪に関与したすべての犯人をふくむ
趣旨であることは、当裁判所の累次の判例(昭和二八年(あ)第三四四〇号同三三
年一月三〇日第一小法廷判決、刑集一二巻一号九四頁、昭和二九年(あ)第三五九
〇号同三二年七月一九日第二小法廷決定、刑集一一巻七号一九九六頁、昭和三〇年
(あ)第三四四五号同三三年四月一五日第三小法廷判決、刑集一二巻五号九一六頁、
昭和二六年(あ)第三一〇〇号同三三年三月五日大法廷判決、刑集一二巻三号三八
四頁、昭和三四年(あ)第一二六号同三八年五月二二日大法廷決定、刑集一七巻四
号四五七頁)の明示するところである。それ故、原判決が被告人Aの所論関税法違
反(運搬)の犯罪事実につき判示追徴の言渡をしたのは正当である。)
 被告人Bの弁護人小幡勇二郎の上告趣意第一点について。
 所論は、第一審裁判所が被告人Bに対し、第一回および第二回公判期日において、
起訴状記載の事実はそのとおり相違ない旨の供述を許しただけで他に発言の機会を
与えなかつたのは、憲法三七条二項に違反すると主張するが、右主張は原審におい
て主張、判断のなかつた訴訟手続に関する主張であるから、適法な上告理由に当ら
ない。(なお、記録によれば、同被告人は第一審第一二回公判期日において情状な
どについて供述したうえ最終陳述として、別に申し上げることはない旨述べており、
第一審裁判所は同被告人に発言の機会を十分に与えていることがうかがえるから、
所論違憲の主張は前提を欠きこの点においても失当である。)
 同第二点について。
 所論は、被告人Bは第一審判決判示第二の物件を運搬しただけであり、一時取得
したとしても他に譲渡したから、同被告人に追徴を科することは違法であると主張
するが、被告人Bが運搬しただけであるとする点は、原判決の維持する第一審判決
の認定にそわない事実を前提とする法令違反の主張であり、その他は単なる法令違
反の主張であつて、すべて適法な上告理由に当らない。(なお、関税法一一八条二
項にいわゆる犯人に、密輸入者から情を知つて犯罪貨物を有償取得した者をふくむ
ことは、先に被告人Aの弁護人上山武の上告趣意について説示したとおりであり、
右犯人がこれを他に譲渡した場合においても、同人に対し右条項により追徴を科し
うるものと解すべきであるから(昭和二七年(あ)第二九九一号同三三年六月二日
大法廷判決、刑集一二巻九号一九三五頁参照)、原判決の維持する第一審判決が被
告人Bの所論関税法違反(有償取得)の犯罪事実につき判示追徴の言渡をしたのは
正当である。)
 同第三点について。
 所論は事実誤認の主張であつて、適法な上告理由に当らない。
 同第四点について。
 所論は単なる訴訟法違反の主張であつて、適法な上告理由に当らない。
 被告人Cの弁護人倉田正登の上告趣意第一について。
 所論は、被告人Cは第一審判決判示第四の物件(没収されたものを除く)を一時
取得したが他に譲渡したから、同被告人に追徴を科することは違法であると主張す
るが、右は単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由に当らない。(なお、
先に被告人Bの弁護人小幡勇二郎の上告趣意第二点について説示したと同一の理由
により、原判決が被告人Cの所論関税法違反(有償取得)の犯罪事実につき判示追
徴の言渡をしたのは正当である。)
 被告人Aの弁護人馬場照男の上告趣意、被告人Bの弁護人小幡勇二郎の上告趣意
第五点、被告人Cの弁護人倉田正登の上告趣意第二、被告人Dの弁護人本間大吉の
上告趣意について。
 所論は、いずれも量刑不当の主張であつて、適法な上告理由に当らない。
 よつて、刑訴四一四条、三八六条一項三号により主文のとおり決定する。
 この決定は、裁判官横田喜三郎、同入江俊郎の補足意見および附加補足意見、裁
判官石坂修一、同齋藤朔郎の補足意見、裁判官奥野健一、同山田作之助、同城戸芳
彦、同柏原語六、同田中二郎の少数意見があるほか、裁判官全員一致の意見による
ものである。
 裁判官横田喜三郎の補足意見は、つぎのとおりである。
 追徴に関するわたくしの補足意見は、昭和三七年(あ)第一二四三号同三九年七
月一日大法廷判決のわたくしの補足意見と同一であるから、それを引用する。
 裁判官入江俊郎、同石坂修一、同斎藤朔郎の補足意見は、次のとおりである。
 追徴の点に関するわれわれの補足意見は、昭和三四年(あ)第一二六号同三八年
五月二二日大法廷決定(刑集一七巻四号四五七頁)のわれわれの補足意見と同一で
あるから、それを引用する。
 裁判官横田喜三郎、同入江俊郎の附加補足意見は、次のとおりである。
 第三者所有物の没収に代わる追徴の点に関するわれわれの附加補足意見は、昭和
三七年(あ)第一二四三号同三九年七月一日大法廷判決のわれわれの附加補足意見
と同一であるから、それを引用する。
 裁判官奥野健一の少数意見は次のとおりである。
 被告人Aの弁護人上山武の上告趣意について。
 単に犯罪貨物を運搬しただけで、全然その所有者でなかつた犯人に対しては追徴
を科することは許されないものと解する。従つて本件において被告人Aは追徴の対
象たる犯罪貨物の所有者でないから同被告人に対する追徴の言渡は違法である。
 被告人Cの弁護人倉田正登の上告趣意第一について。
 追徴は、若し犯罪貨物が現存し没収可能であつたとすれば、その没収により当該
物件の所有権を剥奪さるべきであつた犯人に対して、没収不能の故を以つてこれに
代わるべき換刑処分として科せられるものであると解する。本件において、被告人
Cは第一審判決第四の物件(没収されたものを除く)を相被上告人Dに譲渡し、同
被告人に対し没収不能の故を以つて本件物件の価額を追徴しているのであるから、
最早その譲渡人である被告人Cより、重ねて追徴すべきものではないと考える。け
だし、被告人Cは右物件の所有者ではなく、若し没収可能の場合であつたならば同
人は没収により何ら経済上の実害を受けない筋合の関係にあつたものであるからで
ある。
 なお所有者以外の犯人より追徴すべきでないことについての詳細は、昭和二九年
(あ)第五六六号同三七年一二月一二日大法廷判決(刑集一六巻一二号一六七二頁)、
昭和三四年(あ)第一二六号同三八年五月二二日大法廷決定(刑集一七巻四号四五
七頁)および昭和三七年(あ)第一二四三号同三九年七月一日大法廷判決における
私の意見と同一であるから、それを引用する。
 裁判官城戸芳彦、同柏原語六は、裁判官奥野健一の右少数意見に同調する。
 裁判官山田作之助の少数意見は、次のとおりである。
 わたくしは、関税法所定の所謂犯罪貨物(例えば密輸に係る時計の如し)に対す
る没収に代わるその価格の追徴は、被告人がその貨物について所有権を有していた
が、現在その所有権を失つている場合に限つて科せらるべきものと解するから(そ
の理由は昭和二九年(あ)第五六六号同三七年一二月一二日大法廷判決、刑集一六
巻一二号一六七二頁において旧関税法八三条の追徴の規定について述べたわたくし
の意見と同趣旨であるからこれを引用する)、かつて一度も所有権をもつていなか
つた被告人に対し没収に代わる追徴を言渡した原判決はこの点において破棄を免か
れない。
 裁判官田中二郎の少数意見は、次のとおりである。
 関税法一一八条二項所定の追徴は、没収に代わるべき補充的・保安処分的性質の
ものであり、追徴を科せられるべき犯人は、犯罪貨物等の所有者又は所有者たりし
者に限られると解するのが相当であつて、単に犯罪貨物等を運搬し、保管し、又は
処分の媒介若しくは斡旋をした者のごときは、その貨物の価格に相当する利益をお
さめているものとはいえないから、追徴を科せられるべき犯人には包含されないと
解すべきである。その理由の詳細は、昭和三七年(あ)第一二四三号同三九年七月
一日大法廷判決における私の少数意見と同一であるから、それを引用する。
 かような見地に立ち、本件について、私は、次のように考える。
 被告人Aは、第一審判決第三の(二)の物件については、単に犯罪貨物の運搬を
したに止まり、また、同第三の(三)の物件については、処分の斡旋をしたに止ま
つて、これらの物件を所有したことがないのであるから、これらの部分については、
追徴を科することは許されないものと解すべきであり、その限りにおいて原判決は
違法であり、破棄を免れない。
 なお、同一の犯罪貨物等につき追徴を科せられるべき者が多数存在する場合にお
いては、各被告人について、個別に重複して追徴を科すべきものではなく、没収に
代わるべき一個の追徴につき各被告人に連帯して責任を負わしめるべきものであり、
各被告人相互の関係は、不真正連帯債務の関係に立つものと考えるべきである。こ
の点について、若し多数意見が各被告人について個別に重複して追徴を科し得べき
ものとする趣旨であるとすれば、このような多数意見には賛成することができない。
  昭和三九年七月一日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    横   田   喜 三 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    齋   藤   朔   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    松   田   二   郎

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