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           主         文
        本件控訴を棄却する。
        控訴費用は控訴人の負担とする。
           事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人
  (1) 原判決を取り消す。
  (2) 被控訴人は,控訴人に対し,金5941万9537円及びこれに対
する平成14年9月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
 2 被控訴人
    控訴棄却
第2 事案の概要
 1 本件は,株式会社A(破産会社)が被控訴人に対し手形割引を依頼して
預託した原判決添付の別紙手形目録記載の約束手形2通(本件手形)につい
て,被控訴人がこれを割り引かず,破産会社が破産宣告を受けて控訴人が破
産管財人に選任された後も返還せずに,破産手続外で取り立てて,破産会社
の被控訴人に対する債務の弁済に充当したとして,不当利得を理由に被控訴
人が支払を受けた5941万9537円の返還と遅延損害金の支払を求めた
事案である。
   被控訴人は,本件手形については商事留置権が成立しており,破産会
社との間に締結した銀行取引約定に基づいて,これを取り立てて破産会社の
債務の弁済に充当したものであると主張して争い,控訴人は,被控訴人は破
産会社から本件手形を詐取したものであり,また,破産法72条4号の趣旨
に照らしても商事留置権は成立せず,そうでないとしても商事留置権の主張
は権利の濫用であって許されず,仮に商事留置権の成立が認められるとすれ
ば破産法72条4号により破産会社の担保供与行為を否認するなどと主張し
たが,原判決は,控訴人の主張を採用せずに,その請求を棄却した。そのた
め,控訴人が不服を申し立てたものである。
 2 以上のほかの事案の概要は,次のとおり付加するほかは,原判決の事
実及び理由の「第2 事案の概要」に記載のとおりであるので,これを引用
する。
  (1) 控訴人の当審における主張
   ア 被控訴人から新規融資を打ち切られてしまうと,破産会社は,平
成14年2月20日の決済ができないだけでなく,運転資金が調達できずに
その後の事業継続ができなくなることは明らかである。そのために破産会社
は同月20日に破産申立てをしたのであり,手形不渡りを1回出しても倒産
するわけではないとする原判決の認定は誤りである。被控訴人が新規融資を
再考しない限り,破産会社が支払不能に陥ることは明らかであり,被控訴人
もその認識を有していたのである。
   イ 上記のとおり手形不渡りが避けられず,事業継続ができなくなる
状況の中で,同月20日の決済資金確保のために破産会社が手形割引を依頼
するのは不合理であり,依頼の意図が従業員の退職金と給与の支払原資の確
保であったことは明らかである。
   ウ 被控訴人が,同月20日の決済資金の手当の有無にかかわらず本
件手形の割引をする予定であったとは考えられない。支払停止が予想される
状況での新たな信用供与は金融機関の態度として不合理であり,被控訴人
は,破産会社の支払停止を見越して,債権回収を図るために本件手形を受領
したのである。また,被控訴人は破産会社が破産申立てに及ぶ可能性を十分
に認識していたものである。
   エ 被控訴人は手形割引を実行する意思がないことを秘して,同月2
0日に破産会社が手形不渡り事故を起こして支払停止となることを予見しな
がら,直ちに割引が可能であるなどと虚偽を申し述べて,債権回収のために
本件手形を騙し取ったのである。その手形取得は不法行為であり,商事留置
権は成立しない。また,偏頗行為を否認して債権者間の公平を図る破産法7
2条4号の趣旨は,法定担保権の成立に関して偏頗行為が存する本件の場合
にも援用されるべきであり,その意味から商事留置権の主張は権利濫用とし
て排斥すべきである。
   オ 破産会社は,同月18日又は同月19日には手形割引が受けられ
ると誤信して本件手形を被控訴人に預託したものであり,重要な要素の錯誤
があり無効である。したがって,被控訴人の本件手形取得には商行為性がな
く,商事留置権は成立しない。
  (2) 被控訴人の当審における主張
   ア 被控訴人は,平成14年2月20日には手形割引を実行すべく準
備をしていたのである。破産会社が破産申立ての予定でいることは全く知ら
なかった。破産会社も破産を回避しようとしていたもので,手形割引により
得た資金を法的整理手続の費用や労働債権の支払に充てようとした旨の主張
は後日に思いついたものである。
   イ 本件手形は同月20日に割り引くものとして授受されたものであ
って,何らの錯誤もない。
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,
次のとおり付加訂正するほか,原判決の事実及び理由の「第3 当裁判所の
判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
  (1) 原判決10頁25行目の「甲1,甲3」を「甲1ないし3」に改
め,「甲5ないし10,」の次に「甲17,」を加え,25行目から26行
目にかけての「乙6ないし8」を「乙6ないし9」に改める。
  (2) 同12頁2行目の「いたことや,」の次に「支払条件の悪化に関し
てはメーカーとの間で調整すべきであること,」を加え,8行目の「新規融
資はできないことを伝えた。」を「新規融資はできないが,貸出金について
すぐに返済を求めるわけではなく,資金決済のための手形割引についても引
き続き実行することを伝え,これに対し,破産会社の代表者やBは,再度取引
先のC株式会社に支援を依頼するほか,メーカーに支払を待って貰うなど,今
後のことは話し合ってみる旨申し述べた。」に,11行目の「相談した。」
を「相談をした。」に改める。
  (3) 同13頁7行目の「決済予定は,」の次に「被控訴人の認識してい
たところによれば,」を加える。
  (4) 同15頁4行目から5行目にかけての「状態であったことが認めら
れるところ,」を「状態であったことが,また,証拠(乙14ないし16,
原審における証人D)によれば,平成13年10月以降は毎月20日の決済日
の前に破産会社から手形割引の依頼を受けても,割引は決済日に実行してい
たことがそれぞれ認められるのであって,」に改める。
  (5) 同16頁8行目の「(ア)」を削除し,13行目の「採用できな
い。」を「採用できず,また,これに沿う内容のGの陳述書(甲17,22)
の記載や原審における証言も同様であって,控訴人の前記主張は認められな
い。」に改める。
  (6) 同17頁14行目から18頁14行目までを次のとおりに改める。
  「  しかし,前記のとおり,被控訴人は破産会社から同月20日の決
済のために本件手形の割引依頼を受けたものと認められるところ,前記1(1)
の認定事実と証拠(乙9,13,原審における証人D)及び弁論の全趣旨によ
れば,同月15日に被控訴人が新規融資には応じられないことなどを破産会
社側に伝えた際に,破産会社の代表者やBらは,再度C株式会社に支援を依頼
するなど資金調達になお努力するほか,メーカーに支払を待って貰うことな
どを申し述べていたこと,それでもE銀行での決済分を含めると資金繰りは困
難と思われたが,同月20日の被控訴人における決済資金の不足額がさほど
多額ではないことからみて,被控訴人は,あるいは対応は可能ではないかと
判断していたこと,被控訴人はこれまでも資金計画にない融資も行うなど破
産会社を支援してきており,破産会社が決済資金を工面すれば当然のこと,
仮に破産会社の努力にもかかわらず工面できずに決済資金が不足するという
事態になっても,メインバンクとして破綻回避のために可能な協力をし,資
金決済のために依頼された本件手形の割引には応じなければならないとの認
識でいたこと,現に,その後の同月19日には,C株式会社からの支援が受け
られる旨の連絡が破産会社からあり,被控訴人としては同月20日の決済は
可能と考え,必要な伝票の作成等,その準備もして,割引枠が空けば本件手
形の割引を実行して支払手形の決済を行う予定でいたこと,被控訴人は破産
会社が破産の申立てを検討していることは全く知らず,同月20日の午後に
なってはじめて破産申立ての事実を知ったことがそれぞれ認められるのであ
り,これらの事実に加えて,割引対象の手形の振出人が信用できるものであ
れば,少なくとも手形割引によって新たな損失を被るおそれはないことをも
併せ考えると,被控訴人が同月18日の時点で破産会社の決済資金のために
手形割引に応じることも不合理ということはできず,同月20日の決済日に
手形の割引枠が空けば本件手形の割引を実行する予定であったものと認める
のが相当である。これに反して,控訴人は,被控訴人には,本件手形の割引
依頼を受けた時点で手形割引を実行する意思はなかった旨主張するのである
が,これを認めるに足りる的確な証拠はなく,上記の各事実からしても控訴
人の主張は認められない。」
  (7) 同18頁22行目の「被告は」の前に「上記のとおり,」を加え,
25行目から19頁7行目までを,「また,上記のとおり,被控訴人は,2
月20日の決済日に,手形の割引枠が空けば本件手形の割引を実行する予定
でいたものと認められることからして,仮に,被控訴人において,同月18
日の時点で,破産会社が資金の工面ができずに同月20日に手形の不渡りを
出すことが予測できたものとしても,直ちに,被控訴人が本件手形の手形金
を破産会社に対する債権の回収に充てる意図をもっていたということにはな
らない。」に改める。
  (8) 同19頁15行目から16行目にかけての「認められるが,」の次
に「他行への振替えのためという理由であった上(原審における証人D),」
を加える。
  (9) 同20頁21行目から24行目までを,次のとおりに改める。
  「(3) しかし,仮に本件手形を預託したことが担保の供与に等しいもの
と評価できるとしても,本件においては上記のとおり破産会社の2月20日
の決済日における資金決済のために手形割引を被控訴人に依頼してこれを預
託したものと認められ,その後,破産会社が本件手形の返還を求めた事実も
認められないのであるから,破産会社にとって義務に属しない担保の供与を
したものということはできず,また,本件手形が預託された時点では,被控
訴人は破産会社が破産申立てを検討していることは全く知らず,同月20日
の決済日も対応は可能であり,仮に困難としても必要な協力はする考えでお
り,本件手形の割引も実行するつもりでいたことが認められるのであって,
破産債権者を害するとの認識はなかったものと認められる。
     なお,証拠(乙9,10,14,原審における証人D及び同F)に
よれば,本件手形の割引が実行されなかったのは,破産会社が破産申立てを
したことが判明したためであることが認められ,その前から被控訴人が手形
割引を実行しない予定でいたことは認められない。」
  (10) 控訴人の当審における主張について
   ア 控訴人は,被控訴人から新規融資を断られた段階で破産会社が事
業を継続できないことは明らかであり,それなのに決済資金確保のために本
件手形の割引を依頼することはありえない旨主張する。
     しかし,新規融資を断られた後も,破産会社は法的整理手続の検
討を始める一方で,C株式会社に対して支援の依頼を続け,応諾の回答を得る
や,これを被控訴人に伝えて新規融資について再考を求めたり,法的整理手
続に関しても,先ず事業継続が可能な民事再生手続によることを検討してい
るのであって(甲3),必ずしも事業継続を早期に諦めていたわけではな
い。また,本件手形について被控訴人に割引を依頼して,これを預託した時
点では,まだ破産申立てをすることが決定していたわけでもないのであるか
ら,本件手形の割引依頼の趣旨が従業員の給与等や法的整理手続のための費
用の原資とするためであることが明らかとはいえず,同月20日の決済日の
ための割引依頼であったとする上記判断を妨げるものではない。
   イ また,控訴人の,被控訴人は破産会社の支払停止や破産申立てを
予測して,手形割引を実行する意思がないのに,債権回収を図るために本件
手形を受領したとする主張や,本件手形は騙取されたもので商事留置権は成
立せず,仮にそうでないとしても商事留置権の主張は権利濫用である旨の主
張が認められないことは既に述べたとおりである。
   ウ 控訴人は,さらに,破産会社は同月18日か19日には手形割引
が実行されると誤信して本件手形を被控訴人に預託したのであるから,錯誤
があるとも主張するが,本件手形が同月20日の決済日の決済資金に充てる
ために割引依頼されたものと認められることは既に述べたとおりであり,本
件手形を預託する時点で,その点に錯誤が存したものとは認められない。ま
た,仮に破産会社のBにおいて2月20日以前に割引が実行されると誤信して
いたものとしても,本件全証拠によっても本件手形を預託する際にその旨の
意思ないし認識が表示された事実を認めることはできず,したがって,本件
手形の預託行為が錯誤により無効となるものとも認められない。
 2 以上によれば,控訴人の請求は理由がなく,これを棄却した原判決は
相当であって,本件控訴は理由がない。よって,これを棄却することとし,
主文のとおり判決する。
 広島高等裁判所第3部
       裁判長裁判官   西   島   幸   夫
                                  
                
     
     
          裁判官   工   藤   涼   二     
          裁判官   齋   藤   憲   次     

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