弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定を取消す。
     相手方等の本件執行停止決定の申請を却下する。
     申請費用及び抗告費用は相手方等の負担とする。
         理    由
 本件抗告理由は末尾添附の別紙に記載のとおりである。
 按ずるに、仮処分決定に対する異議申立の場合には、原則として民事訴訟法第五
百十二条第五百条を準用することはできないのであつて、ただ例外として右仮処分
決定の内容が権利保全の範囲にとどまらずその終局的満足を得せしめ、その執行に
より債務者に対し回復することのできない損害を生ぜしめる虞あるような場合にの
み右法条を準用して右仮分決定の執行を一時停止することができる(最高裁判所昭
和二十三年三月三日決定<要旨第一>参照)そして同法第五百条第三項後段による
と、同条の執行停止決定に対しては不服を申立てることはできないので
あるが、右第五百条第三項後段にいわゆるその裁判とは同条を適用すべき要件が存
在し且つ裁判所が実質的審査をした上なした裁判を意味するものであつて、その要
件が存在しない場合に誤つてこれありとしてなした裁判はたとえ実質的な審査をし
ていても、その前提を誤つたものであるからかかる裁判は右にいうその裁判に該当
せず、これに対しては同法第五百五十八条により即時抗告をすることができるもの
と解なる。
 本件は京都地方裁判所昭和二十八年(ヨ)第五四九号仮処分申請事件記録による
と、抗告人の本件仮処分申立理由は、抗告人はAより京都市a区b町c番地所在の
家屋番号同町d番、e、木造瓦葺三階建店舗建坪二十八坪四合外二階坪二十八坪四
合、三階坪二十坪四合の所有権を又、Bより同町f番地所在の家屋番号同町g番
e、木造瓦葺地下一階付三階建店舗建坪五十五坪八合外二階坪五十五坪八合、三階
坪五十五坪八合、地下坪一坪八合の所有権をいずれも譲受け、右両家屋において昭
和二十八年十月一日より加茂川別館の商号にて旅館営業を経営しているものである
が、相手方等は昭和二十八年十月一日突如人夫約八名を使用して抗告人の使用人等
の制止を排し右家屋内に荷物を持込み、十二月二日には五、六名の男女を家屋内に
入り込ませて台所客室を緋かいし又は出入させ右家屋内に自己の営業する秋田旅館
の客を連込み宿泊をさせる等の所為があつたので抗告人は全然その営業が不能とな
り家屋の占有及び旅館営業を妨害された、そこて抗告人は前示家屋及び旅館営業権
の占有保持の訴を京都地方裁判所に提起したが急迫なる強暴を防ぐためその執行保
全として争ある権利関係につき仮の地位を定めるため仮処分を求めるというにあつ
て、これに対し京都地方裁判所は前記家屋につき抗告人及び相手方等の有する各占
有を解き、抗告人の委任する京都地方裁判所執行吏にこれを保管させ同執行吏は便
所を水洗式に改造しその他修繕をなすの外現状を変更しないことを条件として抗告
人及びその指定する者をして右家屋を使用させることができる旨の仮処分決定をし
たこと明<要旨第二>かであり、そして本件のように仮の地位を定める仮処分におい
ては、係争物に関するそれと異なりその内容が本案判決の執行と選ぶと
ころがないものであつてもそれをもつて直ちに仮処分の範囲を逸脱したものという
ことはできないのみならず本件仮処分決定の内容は前示のように執行吏の保管の下
において抗告人及びその指定する者をして本件家屋を使用せしめるというのである
から、未だ本案判決の執行と同一の結果を来すものでないというべきである。従つ
て本件仮処分決定に対しては民事訴訟法第五百十二条第五百条を準用する余地がな
いといわねばならない、故に右停止決定に対なる抗告人の本件抗告は適法であり且
つ相手方等の本件仮処分決定の執行停止の申立は不適法として却下を免れない。す
ると原審が相手方等の申立により、本件仮処分の内容はその執行が本案判決の執行
と選ぶところがない結果を生じ保全すべき請求の満足を得させるような執行である
となし本件仮処分決定の執行停止の決定をなしたのは失当であり、本件抗告は理由
がある。よつて原決定を取消し、相手方等の本件執行停止決定の申請を却下すべき
ものとし、申請費用及び抗告費用につき民事訴訟法第九十五条第八十九条を適用し
主文のとおり決定する。
 (裁判長判事 大野美稲 判事 熊野啓五郎 判事 村上喜夫)

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