弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役11年に処する。
未決勾留日数中200日をその刑に算入する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,
第1北海道恵庭市a町b丁目c番地のd所在のマンション「e」f号室被告人方
において,かねてから交際していたA(当時55歳)を殺害することを決意し,
平成19年1月18日午前4時ころ,同人の頸部をヘアーアイロンのコードで
絞め付け,よって,そのころ,同所において,同人を窒息により死亡させて殺
害した。
第2同日午後6時過ぎころ,上記被告人方から,上記Aの死体を引きずって同マ
ンション共同出入口前駐車場内まで運んだ上,同日午後6時52分ころ,上記
死体を同所に放置したまま,同所から立ち去り,もって死体を遺棄した。
(証拠)
省略
(争点に対する判断)
第1本件の争点
本件の争点は,①判示第1の事実につき,被告人がA(以下「被害者」とい
う。)を殺害した際,被害者が被告人に殺害されることに同意していたか(以
下,被害者の殺害されることに対する同意を,「被害者の同意」とも表記す
る。),②判示各事実につき,被告人が,各犯行当時,完全責任能力を有して
いたかである。
被告人は,争点①につき,被害者は被告人に殺害されることに同意していた
と供述し,弁護人も,被告人の供述に基づき,本件は被告人と被害者がいわゆ
る心中をしようとした事案であり,被害者は被告人に殺害されることに同意し
ていたのであるから,被告人には同意殺人罪が成立するに止まると主張する。
また,争点②について,弁護人は,被告人は各犯行当時,ストレス性摂食障
害に罹患していた上に,強いストレスを受けたことから,一時的に是非善悪に
従って行動を制御する能力が著しく減退していたと主張する。
そこで,上記各争点につき,裁判所の判断を示す。
第2裁判所の判断
1争点①について
(1)前提となる事実関係
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる(以下,年の記載を省略し
た場合は,平成19年を指す。)
ア被害者は,昭和48年に婚姻し,本件当時,自宅マンションにおいて,
家族と同居していた。
被害者は,勤務先会社のg営業所の所長として勤務していたが,1月1
5日付けで同社福島県h営業所所長への異動を命ぜられ,福島県に単身赴
任する予定であったところ,同月22日には,福島県に行って住居を探し,
2月には同営業所での勤務を開始する予定であった。
イ被告人は,平成元年,当時働いていたスナックに客として訪れた被害者
と知り合いになり,同年秋ころ,被害者から交際を申し込まれて交際する
ようになった。
被告人は,被害者と会う時間を確保するために,職や住居を変えるなど
して,被害者との交際を続けていた。
ウ被告人は,1月13日ころ,被告人方に泊まりに来ていた被害者の携帯
電話に,被害者行きつけのスナックの店員であるBから,被害者とBが交
際していることをうかがわせる内容のメールが送られてきたことから,被
害者がBと浮気をしているのではないかと考えて憤激した。被告人は,被
害者を問い詰めたところ,被害者がBと別れると言ったため,翌日,被害
者をして,Bに対しその旨のメールを送らせた上,被害者がBと逢う約束
をしていた同月17日には,被告人方に泊まりに来ることを被害者に承諾
させた。
エ被告人は,同月17日,被害者と銭湯に出かけたり,夕食を食べるなど
して過ごしていたが,その後,被害者に対し,Bと別れて欲しい,今後福
島県に行っても,他の女性と浮気はしないで欲しい旨切り出したところ,
被害者が了承したため,一旦は安心した。ところが,被害者が寝入った後
の翌18日未明ころ,被害者の携帯電話にBから被害者と今後も関係を続
けていくかのようなメールが送られてきたため憤激し,被害者を起こして
問い詰めた。
その後,被告人は,被害者が被告人の渡した睡眠薬及び血糖値を下げる
薬(以下「睡眠薬等」という。)を飲み,眠り込んだことを確認した後,
同月18日午前4時ころ,ヘアーアイロンのコードで被害者の頸部を複数
回絞め付け,被害者を窒息により死亡させた。
オ被告人は,被害者を窒息させた後,台所に置いてあった包丁で,被害者
を切り付けるなどした。
カ被告人は,被害者を殺害した後,自分も自殺を企て,包丁等で首や胸腹
部を刺したり睡眠薬等を大量に服用するなどしたが,眠り込んだだけでそ
の目的を果たせなかった。そこで,被害者の死体の傷口部分にビニールテ
ープを貼り,これにジャージを着せて,被告人方玄関から運び出し,マン
ションの階段を下りて自分の車まで運ぼうとしていたところ,通行人の男
性に目撃され,同日午後6時35分ころ,同男性の通報を受けて臨場した
警察官に職務質問された。被告人は,職務質問を受けるや,一旦自室に戻
り,荷物を持ち出し,被害者の死体をマンション共同玄関出入口前に放置
したまま,自分の車に乗って逃走し,その後,北海道勇払郡i町内の路上
で単独事故を起こし,警察官に逮捕された。
(2)関係各証拠によれば,被害者の同意が存在しなかったことを推認させる事
情として,以下の事実が認められる。
ア犯行前の被害者の生活状況
(ア)被害者の妻である証人Cの証言(その証言内容は,被害者の発言を聞
いた者でなければ言えないような具体性があり,被害者の勤務先従業員
の供述とも符合していて信用できる)及び被害者の勤務先従業員の供述
によれば,被害者の家庭生活は円満であり,勤務先会社の福島県h営業
所に所長として栄転することが決まっていた上,被害者は,Cに対し,
今後3年ごとに転勤をして3か所で所長を務めれば定年で退職できる,
その後は年金で生活できるから安心である,h営業所に転勤しても月に
1回は旅費が出るので北海道に帰ってくるなどと話していたことが認め
られ,被害者の家庭生活や勤務先での稼働状況には何ら問題はなく,妻
であるCとの間で,短期的・中長期的な将来の生活設計について具体的
に話し合っていたことが認められる。
(イ)また,被害者の携帯電話のメール履歴及びBの証言によれば,被害者
はBに好意を寄せていたところ,Bの意図はさておき,少なくとも被害
者から見た同人とBの関係は良好であり,被害者は1月15日には,キ
ャンセルしてしまった同月17日のデートの埋め合わせをするため,B
に翌週のスケジュールを尋ねるメールを送っていたことが認められる。
(ウ)さらに,被告人は,公判廷において,被害者は「死ぬとかそういうこ
とを言う人ではなかった。」,「私が,一緒に心中してとか,死んでと
か言っても,うんと言うはずないなと思った。」と供述しており,被告
人の目から見ても,被害者が,本件以前に,殺害されることに同意する
ような事情はなかったことが認められる。
(エ)このように,被害者は,家庭生活や仕事に問題を抱えていたことはな
く,順調な生活を送りながら,今後の生活設計についても話し合ってお
り,また,好意を寄せていた女性との関係も少なくとも被害者の目から
見れば良好な関係を保っていた上に,被告人の目から見ても,被害者が
殺害されることに同意するような素振りを見せたことはなかったのであ
って,そのような被害者が,殺害されるという生死に関わる極めて重大
な事柄に真意から同意することは経験則上通常は考えられず,被告人が
被害者を殺害した際,被害者が殺害されることに同意していなかったこ
とが強く推認される。
イ被告人が犯行前に知人に送ったメールについて
被告人は,犯行数時間前である1月17日午後6時44分ころ,知人に
対し,被害者との関係について,「今日の話し合いで二人の身の置き方が
決まるでしょう私が考えている結論はお酒に睡眠薬を混ぜて眠ったらまず
彼を殺しますそして車に乗って人のいない樹海で私も死にます今まで生き
てきた40年の中で本気でここまで決心したのは初めてです」という内容
のメールを送っており,このメールの内容からすれば,被告人は,被害者
の意思にかかわりなく,被害者を殺害することを決意していたことが強く
推認され,ひいては,被告人が,被害者の同意を得ることなく,被害者を
殺害したことが推認される。
これに対し,被告人は,公判廷において,「もともと一人で自殺するつ
もりであったが,1月17日になって,駄目でもともとで被害者に対し,
心中して,一緒に死んでと言おうと思うようになっていた。」が,このメ
ールを送信したときは,「被害者が自宅にやってくる時間が迫っており,
この知人とのやりとりを被害者が来るまでに終わらせたいと考えていたた
め,駄目でもともととは思うけれど,被害者に一緒に死んでくれるよう言
ってみようと思っているなどと書くとメールが長くなってしまうので,簡
単に書いた。」などと,そのメールは,そのときの被告人の真意を正確に
記載したものではない旨弁解する。しかし,被告人が知人に送った前記メ
ールは,被害者を眠らせて殺害し,その後,被告人が樹海などで自殺する
という内容であって,到底被告人と被害者が一緒に死ぬなどという内容で
はない。そもそも,被告人の供述によれば,被害者が一緒に死ぬことに同
意したというのに,なぜ被告人が先に被害者を殺害することになったかと
いえば,被害者から,「一緒に死ぬのはいいが,条件がある。お前が俺を
殺せ。」などと言われたからというのである。もしも,被告人が弁解する
とおり,被告人が,メールを送信した時点では,自分は自殺をするが,駄
目で元々でもいいから被害者に一緒に死んでくれるよう頼んでみようとい
うことを考えていたというのであれば,前記のような内容のメールを送信
するはずがない。メールには真意を正確に記載しなかった旨の被告人の弁
解は到底信用することができず,前記推認を妨げるものではない。
ウ被告人の犯行後の言動
被告人の知人である証人Dの証言によれば,Dは,1月18日午後7時
ころ,死体を遺棄して逃走中の被告人と携帯電話で会話をしたことが認め
られる。また,その会話の内容について,被告人は,Dに対し,「睡眠薬
等を飲んで寝ている状態の被害者の首を絞めて殺した。1回では駄目で,
何回か首を絞めた。殺した理由は,被害者にほかに女の人がいたからであ
る。被害者が生き返っては困るので包丁で刺した」などと説明したほか,
「被害者は,自分に,『お前に殺されるかもしれないな。』又は『殺され
ると思った。』旨の発言をした。」ということも言っていたこと,他方で,
被告人は,被害者が被告人に殺されてもいいという趣旨の発言をしたと受
け取れるようなことは言っていなかったことが認められる。
被告人が,被害者の同意を受けて被害者を殺害したというのであれば,
その同意がなされた状況は被害者を殺害する際の非常に特徴的な状況であ
って,その状況について話をするのが自然である上,被告人は,Dに対し,
被害者が「お前に殺されるかもしれないな。」という発言をしていたこと
は話していたのであるから,被害者の同意があった状況をDに話をする機
会も十分にあったはずである。にもかかわらず,被告人がDに対し被害者
の同意について話をしていないことは,被告人が被害者を殺害した際,被
害者の同意が存在していなかったことを推認させるものである。
エ小括
以上の事実関係を総合すると,被害者はその家庭生活や仕事において問
題を抱えておらず,私生活も順調であり,何ら殺害されることに同意する
理由はない上に,被告人の犯行前後の言動やメールのやり取りを見ても,
被害者の同意の存在をうかがわせる行動をとっておらず,むしろ被害者の
同意の有無にかかわらず被害者を殺害する決意をうかがわせるメールを送
ったり,被害者の同意が存在したとすれば整合しない言動をとっているの
であって,本件犯行当時,被害者が,被告人に殺害されることを同意して
いなかったことが優に認められる。
(3)弁護人の主張
これに対し,弁護人は,本件は被害者が計画的に殺害に同意した事案では
なく,突発的に殺害に同意した事案であるところ,被害者の従前の生活状況
に問題がなかったことなどは,被害者の同意の不存在を推認させるものでは
ないと主張する。
しかし,殺害されることに対する同意は,生死に関わる重大な事柄である
ところ,被害者の従前の生活状況に全く問題がなく,殺害されることに同意
することをうかがわせる事情がないことは,弁護人が主張するような突発的
なものであれ,真意に基づいた同意をすることがあり得ないという意味にお
いて,やはり強い推認力を有する事実である。弁護人の主張は採用できない。
(4)被告人の公判供述の概要とこれに対する判断
ア被告人の公判供述の概要
また,被告人は,自分は被害者の同意を得て被害者を殺害したと供述し,
その同意を得たとする状況について,公判廷において,以下のとおり供述
する。
被害者が1月18日午前零時ころに眠った後,被害者の使用している携
帯電話にBからメールが入って,被害者がBとまだ別れていなかったこと
が分かったことから,口論になった。被害者は,Bとも私とも別れられな
い優柔不断な自分の性格や,私に甘えてばかりいる自分の性格に嫌気がさ
してきたと言ったので,被害者に,駄目で元々で,私のこと好きで,悪い
と思ってくれているんだったら,私と一緒に死んで欲しいと言ったところ,
被害者は,二つ返事で,いいよ,分かった,死んであげると言って死ぬこ
とに同意してくれた。被害者は,俺はお前を殺せないから,お前が俺を殺
せと指示し,また,もし未遂に終わって,一生身体障害者みたいになって
暮らすのは嫌だから,確実に殺せと指示してきた。殺害の方法として,被
害者に睡眠薬等を飲ませてから被害者の首を絞めて殺害し,車ごと支笏湖
に飛び込もうと話をしたらそれでいいと言われた。被害者に睡眠薬等を持
っていって,その薬効を説明すると,被害者はすごい勢いで私の手を無理
矢理こじ開けて,引ったくるみたいにして薬を一気に飲んだ。その後被害
者が眠ったので,被害者の首をヘアーアイロンのコードで絞めたところ,
被害者はすごい勢いで飛び起きて,いきなり逆上して,「俺がお前を殺し
てやるから。」と言って私のこめかみ辺りを殴り,首を絞めてきた。その
後,被害者は私の首を絞めるのを止めて,「こんなばか女殺して刑務所入
るの冗談じゃない。やめた。」と言っていた。私は心中をやめるかどうか
聞いたが,被害者から今更何を言っているんだと言われたので,被害者に
2回目の睡眠薬等を持って行った。被害者にもう一度薬の効果を説明した
が,被害者は1回目よりもすごい勢いで,私が横に吹っ飛ばされるような
勢いで,私の手から薬を取って,コップも奪って,薬をいっぺんに飲んで
しまった。その後,ヘアーアイロンのコードで被害者の首を絞めて殺害し
た。
イ被告人の公判供述の評価
確かに,関係証拠によれば,被害者の尿からは睡眠薬が検出されており,
被告人が被害者に飲ませたという睡眠薬等の効能として,被告人が首を絞
められても覚醒しない程度に昏睡状態に陥るには,かなりの量の錠剤を飲
まなければならないとされていることが認められるところ,そのような量
の睡眠薬等の錠剤を被害者の意思に反して飲ませることはかなり困難であ
ると考えられることからすれば,被害者が,被告人の求めに応じ,自分の
意思でそれらの睡眠薬等の錠剤を飲んだ可能性は否定できない。また,被
害者が,その際,どのような発言をしていたかについては,被告人のほか
にその発言を聞いた者がいない以上,あながち,被害者が,被告人の供述
するような発言をしていた可能性も否定し去ることはできない。
しかしながら,他方で,被告人の公判供述によっても,被害者は,被告
人から奪った睡眠薬等を飲んで一旦眠り込み,その後被告人から首を絞め
られた際には,飛び上がって逆上し,「俺がお前を殺してやるから。」な
どと言いながら,被告人の顔を殴打した上,被告人の首を絞め,その後,
「こんなばか女を殺して刑務所入るのは冗談じゃない。」旨の発言もして
いたというのであるから,その時点で,被害者が被告人に殺害されること
を同意していたとか,被害者が被告人と心中しようと考えていたなどとは
到底考えられない。
さらに,被告人の供述によれば,被害者は,1回目に睡眠薬等を飲み,
被告人から首を絞められて逆上して飛び起きた後,2回目に睡眠薬等を飲
む際に,「お前は絶対に俺を殺せない,お前は俺に惚れている,俺と一緒
に居たいんだ。」という発言をしていたというのであって,この被害者の
発言からすれば,被害者が自分の意思で睡眠薬等を飲んだとしても,被告
人に殺害されることには同意していなかったことが明らかである。
そうすると,そもそも,被害者が最初に睡眠薬等を飲む前に「死んであ
げる。」「お前が俺を殺せ。」などと言っていたとか,2回目に睡眠薬等
を飲む前に心中をやめるかという問いかけに「今更何を言っているん
だ。」などといっていたという被告人の供述は,被告人の供述する1回目
の睡眠薬等を飲んだ後,被告人に首を絞められたことに気づいたときの被
害者の言動に照らしにわかに信用し難いものである上,仮に被告人が供述
する状況を前提としても,被告人は,睡眠薬等を飲んではいても,被害者
が被告人を殺すことはできないと見下していたことが明らかであって,被
害者の真意に基づく同意はなかったと認められる。
(5)被害者の同意の錯誤について
さらに,被告人の供述にかんがみ,被告人が,被害者の同意があったと誤
信していたかどうかについても検討する。
前記のとおり,被害者の同意がなかったことが証拠上明らかである上,被
告人自身も,被害者との従前の関係から,被害者が殺害されることに同意し
てくれるとは思っていなかったと述べていること,本件犯行時においても,
被告人は,1回目の睡眠薬等を飲んで眠っていた被害者の首を最初に絞めた
際,被害者がすごい勢いで飛び起きて,いきなり逆上して,逆に被害者から
首を絞められたこと等から,「被害者は死ぬのが嫌だったのかなと思っ
た。」と明確に供述していること,被告人は,被害者が2回目に睡眠薬等を
飲む前に,「お前は絶対に俺を殺せない,お前は俺に惚れている,俺と一緒
に居たいんだ。」という発言をしているのを聞いていること,前記1(2)
イのとおり,被告人が知人に送ったメールの内容から,被告人が被害者に対
し憤懣の気持ちを有していたことは明らかであり,被害者の同意の有無にか
かわらず,被害者を殺害することを考えていたと認められることに照らせば,
被告人が,被害者の同意が存在していないと思いながら,あえて被害者を殺
害したことが認められる。これに対する被告人の公判供述は,被害者を殺害
することを考えた時期について,当初1月17日の午前中か昼ぐらいといい,
その直後,供述を訂正して,1月18日午前2時ころにBからメールが来て,
被害者をたたき起こして口論になった段階になってからであると述べ,さら
に,1月17日夕方の知人宛てのメールの存在を指摘されると,さらに供述
を変遷させており,1回の公判期日中にすら何の合理的理由もなく著しく二
転三転させていることなどにも照らすと,到底採用できない。
(6)結論
以上のとおり,被害者の生活状況等からしても,被告人の供述を前提とし
ても,被害者が被告人に殺害されることを同意していなかったことが優に認
められ,被告人もそのことを認識していたことが認められる。
2争点②について
(1)前記認定のとおり,被告人は,被害者を絞殺する直前,被害者と交際相手
とのことについて口論し,睡眠薬等を飲ませた上で絞殺するという合理的な
殺害方法を選択し,被害者を窒息させた直後,その殺害を間違いなく完遂す
るために,被害者の死体を包丁で数回突き刺しているというのであって,被
告人が,被害者を殺害した時点において,合理的かつ合目的的な行動をとっ
ていたことが認められる。
さらに,前記認定事実に加え,警察官である証人Eの証言によれば,被告
人は,1月18日午後6時35分ころ,被告人方マンション共同玄関出入口
前路上において,被害者の死体を自分の車に入れようとしており,その様子
を見たEから事情を聞かれた際,Eとの間で意味の通じた会話を行い,さら
に,被告人方居室に荷物を取りに戻った上で,Eが自動車の側を離れ,救急
隊員の方へ向かった隙をついて自動車に乗り込み,その自動車を運転して現
場から逃走した事実が認められ,被害者の死体を遺棄した時点においても,
被告人が,現場の状況に応じた合理的かつ合目的的な行動をとっていること
が認められる。
以上によれば,被告人が,本件各犯行当時,是非善悪に従って行動する能
力を有していたことが優に認められる。
(2)これに対し,弁護人は,被告人が精神的に未熟であり,そのストレス処理
能力は低劣であるため,本件各犯行当時,ストレス性摂食障害に罹患してい
たところ,被害者が交際相手と別れていたと思っていたのに,実は別れてい
なかったと認識したことにより,極めて強い精神的ストレスを受けた状態に
なり,その結果,一時的に自己の行動を制御する能力が著しく低い状態にな
っていたもので,心神耗弱状態にあったと主張する。しかし,前記のとおり,
被告人の各犯行前後を通じた行動に照らして,被告人が是非善悪に従って行
動する能力を有していたことは明らかであって,その主張は採用できない。
(法令の適用)
罰条
判示第1の所為刑法199条
判示第2の所為刑法190条
刑種の選択
判示第1の罪有期懲役刑を選択
併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条,47
条ただし書
(重い判示第1の罪の刑に刑法47条ただし書
の制限内で法定の加重)
未決勾留日数の算入刑法21条
訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
本件は,被告人が,約18年間交際してきた被害者に対し,同人が睡眠薬等を飲
んで昏睡状態に陥ったことを確認した上,ヘアーアイロンのコードで首を絞めて窒
息させて殺害し,その死体を被告人方マンション共同玄関出入口前まで移動させ,
同所に放置したまま逃走して遺棄したという事案である。
被告人は,被害者のいわゆる不倫相手として,約18年間被害者と交際を続けて
いたところ,被害者が別の女性に好意を寄せていることを知って憤慨し,一旦は被
害者がその女性と別れると言ったため怒りを収めたが,被害者がその女性と別れて
いなかったことを知るやさらに憤激したことなどから,睡眠薬等を飲んで昏睡状態
に陥った被害者を殺害した(被告人は,被害者が憎くて殺した訳ではないと供述す
るが,被告人の犯行前後の言動等から,被害者に対し憤激の気持ちを有していたこ
とは明らかである。)。被告人が,憤激の余りこのような凶行に及んだのは,生命
の尊さを無視するものであり,厳しい非難を免れない。
被告人は,昏睡状態にある被害者の首を何度もヘアーアイロンのコードで絞めて
殺害しただけでなく,その後も被害者を確実に殺害するために,その背部や胸部を,
心臓に達するほどの力を込めて何度も包丁で突き刺しており,その犯行は,非常に
強い殺意に基づくものである。被害者の遺体を放置したまま逃走した死体遺棄の態
様も芳しくない。
被害者の生命を奪った犯行の結果は重大であり,今後の生活の全てを奪われた被
害者の無念は察するに余りある。被害者の遺族は,突然の訃報を受けて,変わり果
てた被害者の姿しか見ることができなかったものであって,その被った衝撃や悲嘆
は極めて大きい。被告人から,被害者の遺族に具体的な慰謝の措置は講じられてお
らず,被害者の遺族らの処罰感情も厳しい。
これらの諸事情からすれば,被告人の刑事責任は重大である。
他方,本件では,被告人は,妻子ある被害者から交際を申し込まれ,その後約1
8年間も被害者と交際を続け,その間,被害者の子供を二度も中絶することを余儀
なくされながらも被害者のために尽くしてきたところ,被害者が,別の女性と密か
に懇意になろうとしていたことに被告人が憤激したことが犯行のきっかけになって
いる。前記のような長きに渡る被告人と被害者の関係に照らせば,被告人と被害者
との間がもともと不倫関係であったとはいっても,被告人が憤激したのも理解でき
ないことではなく,被害者に殺されるまでの落ち度はなかったとはいえ,その不誠
実な対応が犯行を誘発したという側面は否定できない。被告人は,被害者を殺害し
たことを悔いており,被害者の遺族に対しても謝罪の気持ちを表している。被告人
に前科はない。被告人の母親は,被告人の更生を支えていきたいと述べている。こ
のように,被告人のために酌むべき事情も存する。
そこで,これら一切の事情を総合的に考慮し,被告人には,主文の刑を科するの
が相当であると判断した。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑懲役15年)
(検察官成瀬朝子,国選弁護人林賢一各出席)
平成19年12月21日
札幌地方裁判所刑事第2部
裁判長裁判官井上豊
裁判官中川綾子
裁判官田中昭行

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