弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 論旨は、原判決が
 「司法警察員作成の(一)、Aの供述調書と(二)、到着原票の領置調書につい
ては、右は刑事訴訟法第三二一条第一項各号のいずれにも該当しない書面であり、
かつ、弁護人において証拠とすることに同意しなかつたものであるから、これに証
拠能力を認めて証拠調を施行した原審の訴訟手続には法令違反があると云わざるを
得ないが、右各書類は原判決の証拠としては引用されていないこと原判決の記載に
より明白である本件においては、この法令違反は判決に影響を及ぼすことはないと
みられるから、原判決破棄の事由とはならない」と判示したことは法令の解釈を誤
つたものであると主張する。仍て按ずるに、原判決が、証拠能力のない証拠を証拠
調しても、これを判決に引用しない一事を以て直に右違法は判決に影響がないと解
したことは正当でないといわねばならない。何となれば、有罪判決において証拠と
して挙示すべきものは、罪となるべき事実を認めるに必要にして且充分なるものの
みを以て足り、換言すれば、刑訴三七八条四号にいう「判決に理由を附せず、又は
理由にくいちがいがあること」のない限度を以て足り、必ずしも犯罪事実認定の資
に供した全証拠を挙示することを要しないものであるから、たとえ判決に引用のな
い証拠でも裁判所の事実認定に影響なしとは断言できないからである。
 しかし、本件についてみるに、所論領置調書には単に到着原票一通領置の旨が記
載してあるのみであつて、本件犯罪事実と直接の関係あるものとはいえず、又Aの
供述調書には本件主要食糧の輸送に関し輸送証明書の不足していた事実の供述記載
があり、しかも、右Aは第一審において証人として右供述と異る証言をしているこ
とに鑑みるときは、相当重要な証拠といわねばならないが、本件犯罪事実は第一審
判決挙示の司法警察員の被告人に対する第一回供述調書と第一審相被告人Bの第一
審公判廷における供述により明白に肯認せられ得るところであるから、第一審判決
は右の違法な証拠調によつて明らかに影響を受けたとはいゝ得ないものといわねば
ならない。されば、原判決が、右の法令違反は判決に影響を及ぼすことはないから
判決破棄の事由とならないと判示したことは結局正当であつて論旨は理由がない。
 また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。よつて刑
訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三〇年八月二六日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
 裁判官谷村唯一郎は出張につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    栗   山       茂

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