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主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人山本大助,同藤本一郎,同今井力の上告受理申立て理由について
1本件は,交通事故によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った上告人
が,加害車両の運転者である被上告人Y1(以下「被上告人Y1」という。)に対
しては民法709条に基づき,加害車両の運行供用者である被上告人Y2(以下
「被上告会社」という。)に対しては自動車損害賠償保障法3条に基づき,損害賠
償を求める事案である。
2原審が適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,平成16年2月8日,通勤途上,普通自動二輪車を運転して交
差点を直進しようとしたところ,同交差点に反対側から進入して右折しようとした
被上告人Y1が運転する加害車両に衝突される交通事故(以下「本件事故」とい
う。)に遭った。被上告会社は,加害車両の運行供用者である。
(2)上告人は,本件事故により,頭部外傷Ⅰ型,頚椎・左肩関節・腰椎打撲,
右脛骨・腓骨骨折,右橈骨骨折(粉砕),右足関節切創等の傷害を負い,その後
に,右手関節,右足関節及び右足指の各機能障害の後遺障害が残った。
(3)本件事故により上告人に生じた損害は,治療関係費等486万0464円
(治療費,入院雑費及び装具代420万8843円,その他65万1621円),
逸失利益3961万5668円,慰謝料1050万円,弁護士費用400万円の合
計5897万6132円である。
(4)ア上告人は,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)の療
養給付(装具代を含む。)として合計391万1278円の支給を受け,また,被
上告会社が締結していた自動車保険契約に基づく保険金(以下「任意保険金」とい
う。)10万8150円の支払を受けた。なお,上告人は,上記各金員について
は,これにより,上記治療費,入院雑費及び装具代相当額の損害の元本がてん補さ
れたものとして,上記元本の額から,これを控除することを認めている。
イ上告人は,労災保険法に基づく休業給付として,平成16年5月27日に3
0万8700円,同年6月10日に18万5220円,同月25日に19万139
4円,同年9月2日に37万6614円の合計106万1928円,同法に基づく
障害一時金として,平成19年11月6日に22万6373円の各支給を受けた。
ウ上告人は,このほかに,原判決別紙「自賠責保険金等充当計算表」の平成1
6年5月11日欄から平成17年5月19日欄までに記載のとおり合計121万7
490円の任意保険金と,同表平成18年5月22日欄及び平成19年2月13日
欄に記載のとおり合計819万円の自動車損害賠償責任保険契約に基づく損害賠償
額(以下「自賠責保険金」という。)の各支払を受けた。
3原審は,労災保険法に基づく休業給付及び障害一時金(以下「休業給付等」
という。)は,第三者の被害者に対する損害賠償債務のうちの逸失利益に相当する
部分のみを補償の対象とするものであり,これを超えて,同部分に対する遅延損害
金をも補償の対象とするものと解することができず,労災保険法の休業給付等と同
一の事由の関係にあるとみられるのは上記損害賠償債務のうち,逸失利益に係る部
分の元本のみに限定されると解するのが相当であるとして,上告人が支給を受けた
上記2(4)イの休業給付等(以下「本件休業給付等」という。)につき,本件事故
により上告人に生じた損害のうち逸失利益の元本との間で損益相殺的な調整をし,
他方,上告人が支払を受けた上記2(4)ウの任意保険金及び自賠責保険金について
は,原判決別紙「自賠責保険金充当計算表」記載のとおり,まず各支払日までに生
じた遅延損害金に充当し,その残額を損害金元本に充当して,上告人の請求を,被
上告人ら各自に対し5175万2698円及びうち400万円に対する本件事故の
日である平成16年2月8日から,うち4775万2698円に対する自賠責保険
金の最後の支払日の翌日である平成19年2月14日から,各支払済みまで年5分
の割合による金員の支払を求める限度で認容した。
4所論は,本件休業給付等との間で行う損益相殺的な調整につき,これらが損
害金の元本及びこれに対する遅延損害金の全部を消滅させるのに足りないときは,
これらをまず各てん補の日までに生じている遅延損害金に充当し,次いで元本に充
当すべきであるというのである。
5そこで検討するに,被害者が不法行為によって損害を被ると同時に,同一の
原因によって利益を受ける場合には,損害と利益との間に同質性がある限り,公平
の見地から,その利益の額を被害者が加害者に対して賠償を求める損害額から控除
することによって損益相殺的な調整を図る必要がある(最高裁昭和63年(オ)第
1749号平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁)。そし
て,被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合にお
いて,労災保険法に基づく各種保険給付を受けたときは,これらの社会保険給付
は,それぞれの制度の趣旨目的に従い,特定の損害について必要額をてん補するた
めに支給されるものであるから,同給付については,てん補の対象となる特定の損
害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する損害の元本との間で,損益相殺的な
調整を行うべきものと解するのが相当である(最高裁平成20年(受)第494号
・第495号同22年9月13日第一小法廷判決・裁判所時報1515号6頁参
照)。
これを本件休業給付等についてみると,休業給付は,労働者が通勤(労災保険法
7条1項2号の通勤をいう。)により負傷し,疾病にかかった場合において,負傷
又は疾病により労働することができないために受けることができない賃金をてん補
するために,障害一時金は,労働者が,負傷し,又は疾病にかかり,治ったときに
障害が残った場合に,労働能力を喪失し,又はこれが制限されることによる逸失利
益をてん補するために,それぞれ支給されるものである。このような本件休業給付
等の趣旨目的に照らせば,本件休業給付等については,これによるてん補の対象と
なる損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する関係にある休業損害及び後遺
障害による逸失利益の元本との間で損益相殺的な調整を行うべきであり,これらに
対する遅延損害金が発生しているとしてそれとの間で上記の調整を行うことは相当
でない。
そして,被害者が不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合
に支給される労災保険法に基づく各種保険給付は,それぞれの制度の趣旨目的に従
い,特定の損害について必要額をてん補するために,てん補の対象となる損害が現
実化する都度ないし現実化するのに対応して定期的に支給されることが予定されて
いることなどを考慮すると,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅
滞するなどの特段の事情のない限り,これらが支給され,又は支給されることが確
定することにより,そのてん補の対象となる損害は不法行為の時にてん補されたも
のと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが,公平の見地からみて相当であ
る(上記第一小法廷判決参照)。
前記事実関係によれば,本件休業給付等は,その制度の予定するところに従っ
て,てん補の対象となる損害が現実化する都度,これに対応して支給されたものと
いうことができるから,そのてん補の対象となる損害は本件事故の日にてん補され
たものと法的に評価して損益相殺的な調整をするのが相当である。
6以上と同旨の原審の判断は正当として是認することができる。最高裁平成1
6年(受)第525号同年12月20日第二小法廷判決・裁判集民事215号98
7頁は,事案を異にし,本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく,論旨は採
用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官千葉勝
美の補足意見がある。
裁判官千葉勝美の補足意見は,次のとおりである。
私は,法廷意見に賛成するものであるが,これと最高裁平成16年(受)第52
5号同年12月20日第二小法廷判決・裁判集民事215号987頁(以下「平成
16年第二小法廷判決」という。)との関係について,意見を補足しておきたい。
平成16年第二小法廷判決は,被害者が不法行為の当日に死亡した事案におい
て,被害者の逸失利益と労災保険法に基づく遺族補償年金及び厚生年金保険法に基
づく遺族厚生年金との損益相殺的な調整につき,上記各年金給付(以下,両者を併
せて「遺族年金給付」という。)が支払時における損害金の元本及び遅延損害金の
全部を消滅させるに足りないときは,遅延損害金の支払債務にまず充当されるべき
ものであると判断している。本件は,被害者が不法行為により傷害を受け,その後
に後遺障害が残った事案であり,この点で平成16年第二小法廷判決とは前提とな
る事実関係に違いがある。また,本件休業給付等と本件事故により上告人に生じた
損害のうち逸失利益に係る遅延損害金との間で損益相殺的な調整をすることは,法
廷意見が述べるとおり本件休業給付等の趣旨目的に沿わないものであることが明ら
かであるが,平成16年第二小法廷判決の事案において被害者に生じた損害との間
で損益相殺的な調整をすべきものとされた遺族年金給付は,被害者の死亡の当時そ
の者が直接扶養する者のその後における適当な生活の維持を図ることを目的として
給付されるものであり(最高裁昭和63年(オ)第1749号平成5年3月24日
大法廷判決・民集47巻4号3039頁),被害者の逸失利益そのもののてん補を
目的とするのではなく,それに生活保障的な政策目的が加味されたものとなってお
り,損益相殺的な調整の可否についての前提が本件と異なっているとみる余地があ
る。すなわち,本件休業給付等は,労働することができなかったために受けること
ができない賃金のてん補や,労働能力が喪失ないし制限されることによる逸失利益
のてん補を目的とするものであるが,遺族年金給付は,そこまでの費目拘束がある
とはいえない。これらの点にかんがみると,本件判決は,平成16年第二小法廷判
決に反するものではなく,これを変更する必要があるとはいえない。
もっとも,遺族年金給付によるてん補の対象となる損害は,被害者が被った損害
すべてではなく,基本的には給与収入等を含めた逸失利益全般であるというべきで
あるから,損益相殺的な調整の対象となる損害も遺族年金給付の趣旨目的に照ら
し,これと同性質で,かつ,相互補完性を有する損害の範囲に限られるものという
べきであり,その点では,本件の場合と同じ考え方を採る余地があるのではなかろ
うか。すなわち,上記の調整の対象となる損害に被害者の逸失利益に係る元本のほ
か遅延損害金をも含むとする平成16年第二小法廷判決の判断を改め,被害者が不
法行為により長期の療養を経ることなく死亡した場合にあっても,労災保険法に基
づく保険給付や公的年金制度に基づく年金給付については,それぞれの制度の趣旨
目的に照らし,逸失利益の元本との間で損益相殺的な調整をすべきであり,また,
上記の各給付が制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの
特段の事情のない限り,これらが支給され,又は支給されることが確定することに
より,そのてん補の対象となる損害が不法行為の時にてん補されたものと法的に評
価するのが相当であるとも考えられる。
これらの点については,今後,更なる検討を要するといえよう。
(裁判長裁判官古田佑紀裁判官竹内行夫裁判官須藤正彦裁判官
千葉勝美)

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