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平成28年3月16日判決言渡
平成27年(行ケ)第10129号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成28年3月2日
判決
原告新日本空調株式会社
訴訟代理人弁護士堀内節郎
真木泰生
弁理士永井義久
湯浅正之
永井望
被告特許庁長官
指定代理人髙橋祐介
郡山順
長馬望
田中敬規
主文
1特許庁が不服2014-6561号事件について平成27年5月26
日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
主文同旨。
第2事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶査定不服審判請求の不成立審決に対する取消訴訟
である。争点は,①進歩性判断(一致点・相違点の認定,相違点の判断)の誤りの
有無及び②手続違背の有無である。
1特許庁における手続の経緯
原告は,名称を「パーティクル濃度測定装置」とする発明につき,平成22年6
月15日に特許出願(本願。特願平2010-135838号,請求項の数6)を
し,平成25年10月9日付けで拒絶理由通知を受け,同年12月4日,明細書及
び特許請求の範囲の全文を補正する手続補正(請求項の数6)をしたが,平成26
年1月6日付けで拒絶査定を受けた。(甲4,5,7~9)
原告は,平成26年4月9日,拒絶査定不服審判請求(不服2014-6561
号)をするとともに,同日付けで明細書及び特許請求の範囲の全文を補正する手続
補正(本願補正,請求項の数4)をした。(甲10~12)
特許庁は,平成27年5月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審
決をし,その謄本は,同年6月5日,原告に送達された。
2本願補正発明の要旨
本願補正後の請求項1に係る発明(本願補正発明)は,次のとおりである(以下,
本願補正後の明細書及び図面を「本願補正明細書」といい,本願補正前で上記平成
25年12月4日付け手続補正後の請求項1に係る発明を「本願発明」という。甲
12。)。なお,本願補正に係る部分を括弧書き及び下線で示す。
「実質的に環状の仕切りを有し,この仕切りにより区画された開口内部を直交し
て気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部と,
前記開口内部に面状の光膜を形成する光膜形成手段と,
前記光膜を通過する粒子の散乱光を受光して粒子を検出する,前記光膜に対す
る位置が固定である粒子検出撮像カメラ手段と,
前記光膜を単位時間に通過する気流の容積に対する,前記粒子検出撮像カメラ
手段により検出された粒子の総数に基づき,粒子濃度を算出する演算手段と,
を有するとともに,
[前記測定領域形成部,前記光膜形成手段,及び前記粒子検出撮像カメラ手段が
一体の状態で,]
前記粒子濃度c[を],c=n/(r×v×T)の式により算出する[ようにした],
ことを特徴とするパーティクル濃度測定装置。
ここで式内の各変数の定義は以下のとおりである。
c:粒子濃度
n:粒子数
r:計測領域面積(前記粒子検出撮像カメラ手段の検出対象領域)
v:気流速度(気流速度検出器から与えられる気流速度)
T:計測時間」
3審決の理由の要点
(1)引用発明の認定
特開2009-2733号公報(甲1。以下「引用文献1」といい,引用文献1
に記載された発明を「引用発明」という。)には,次の引用発明が記載されている。
「レーザ光のビームを出射するレーザ光源と,
前記ビームの直径を拡大させる拡径手段と,
前記レーザ光の進行方向を基準軸に対して一定の角度をなし且つ連続した方向
に変化させて,前記レーザ光をシート状の空間Sに分布させる分布手段と,
一方の辺に前記拡径手段及び前記分布手段が取り付けられ,内部に前記レーザ
光が分布される前記シート状の空間Sが配置されるものであり,4本の辺からな
る矩形状のフレームである枠体を備え,
前記枠体は,辺によって囲まれる領域が開口部42となり,前記開口部42内
にレーザ光からなるシートが張られたような状態とされ,
前記枠体の前記一方の辺に取り付けられ,前記分布手段から出射したレーザ光
の進行方向を相互に同じ方向とし,シート状のビームB2を形成する平行化手段
と,
前記シート状の空間Sの外部に配置され,前記シート状の空間S内を通過する
パーティクルによる前記レーザ光の反射光を検知するカメラをさらに備え,
前記カメラによって取得された画像データから,前記シート状の空間Sを通過
したパーティクルの数を求めることができる浮遊パーティクル検出装置。」
(2)一致点の認定
本願補正発明と引用発明とを対比すると,次の点で一致する。
「実質的に環状の仕切りを有し,この仕切りにより区画された開口内部を直交し
て気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部と,
前記開口内部に面状の光膜を形成する光膜形成手段と,
前記光膜を通過する粒子の散乱光を受光して粒子を検出する,粒子検出撮像カ
メラ手段とを備えたパーティクル測定装置。」
(3)相違点の認定
本願補正発明と引用発明とを対比すると,次の点が相違する。
ア相違点1
本願補正発明は,粒子検出撮像カメラ手段が,光膜に対して「位置が固定」であ
る点が明確にされているのに対して,引用発明は,その点が明確にされていない点。
イ相違点2
本願補正発明は,光膜を単位時間に通過する気流の容積に対する,前記粒子検出
撮像カメラ手段により検出された粒子の総数に基づき,粒子濃度を算出する演算手
段を有し,前記粒子濃度cを,c=n/(r×v×T)の式により算出するように
構成されており,パーティクル測定装置がパーティクル濃度測定装置であるのに対
して,引用発明では,空間Sを通過したパーティクルの数を求めてはいるものの,
粒子濃度の算出を行っている点は特定されていない点。
ウ相違点3
本願補正発明は,粒子濃度cの算出を,測定領域形成部,光膜形成手段,及び粒
子検出撮像カメラ手段が一体の状態で行っているが,引用発明は,その点が不明で
ある点。
(4)相違点の判断
ア相違点1
引用発明において,シート状の空間Sとカメラとの位置が固定されていなければ,
撮像された画像の精度が落ち,十分な検知精度が得られない可能性があることは,
当業者にとって明らかである。
したがって,シート状の空間Sに対するカメラの位置を固定し,本願補正発明の
上記相違点1に係る構成とすることは,当業者が技術常識に基づいて容易に想到し
得る。
イ相違点2
①特開2005-114664号公報(甲2。以下「引用文献2」といい,引
用文献2に記載された発明を「引用発明2」という。)には,検出された粒子数を,
測定の対象とする流体の体積で除することにより,粒子濃度(N/(F・t))を算
出する構成が開示されている。
②本願補正発明において,r×v×Tで表されるものは,粒子濃度の測定の対
象となる気流の容積であることから,引用文献2の「粒子数N」「試料流体の体積F・
t」は,それぞれ,本願補正発明の「n:粒子数」「r×v×T」に相当する。
③①②から,引用文献2には,本願補正発明の相違点2に係る構成が記載され
ていると認められる。
④引用文献1の【0002】を参照すると,引用発明において,シート状の空
間Sを通過するパーティクルの数の検知は,「空気中に浮遊しているパーティクルの
密度」の「評価」を目的とする旨が記載されている。
⑤③④から,引用発明において,「空気中に浮遊しているパーティクルの密度」
を評価するという動機付けの下において,引用文献2に記載された構成を適用し,
本願補正発明の上記相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得る。
ウ相違点3
①特開平1-301145号公報(甲3。以下,「引用文献3」といい,引用文
献3に記載された発明を「引用発明3」という。)には,[1]粒子の検知領域を形成
する部分と,[2]光ネットを発生する手段と,[3]粒子によって散乱される光を検知
するための検知手段とを一体とする点が記載されている。
②引用発明3の[1]粒子の検知領域を形成する部分,[2]光ネットを発生する手
段,[3]粒子によって散乱される光を検知するための検知手段は,それぞれ,本願補
正発明の[1]測定領域形成部,[2]光膜形成手段,[3]粒子検出撮像カメラ手段に対応
する。
③①②から,粒子濃度cの算出を,測定領域形成部,光膜形成手段及び粒子検
出撮像カメラ手段を一体の状態として行うことは,引用発明に,引用発明3を適用
することによって,当業者が容易になし得る。
④③のとおり,本願補正発明の上記相違点3に係る構成は,引用発明及び引用
発明3に基づいて,当業者が適宜なしうる程度の事項である。
(5)本願補正発明について
本願補正発明によってもたらされる効果は,引用発明,引用発明2及び引用発明
3から当業者が予測し得る程度のものである。
そうすると,本願補正発明は,引用発明,引用発明2及び引用発明3に基づいて
当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定
により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって,本願補正は,特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項
の規定に違反するから,同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の
規定により,これを却下する。
(6)本願発明について
本願発明は,
「実質的に環状の仕切りを有し,この仕切りにより区画された開口内部を直交し
て気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部と,
前記開口内部に面状の光膜を形成する光膜形成手段と,
前記光膜を通過する粒子の散乱光を受光して粒子を検出する,前記光膜に対す
る位置が固定である粒子検出撮像カメラ手段と,
前記光膜を単位時間に通過する気流の容積に対する,前記粒子検出撮像カメラ
手段により検出された粒子の総数に基づき,粒子濃度を算出する演算手段と,
を有するとともに,
前記粒子濃度cは,c=n/(r×v×T)の式により算出する,ことを特徴
とするパーティクル濃度測定装置。
ここで式内の各変数の定義は以下のとおりである。
c:粒子濃度
n:粒子数
r:計測領域面積(前記粒子検出撮像カメラ手段の検出対象領域)
v:気流速度(気流速度検出器から与えられる気流速度)
T:計測時間」
というものであるところ,本願発明は,実質的に,本願補正発明から粒子濃度cの
算出についての限定事項である「前記測定領域形成部,前記光膜形成手段,及び前
記粒子検出撮像カメラ手段が一体の状態で」との構成を省いたものである。そうす
ると,本願発明と引用発明を対比すると,本願補正発明と引用発明の対比における
一致点と同じ一致点で両者は一致し,相違点1及び相違点2のみで相違する。そし
て,相違点1及び相違点2についての判断は,上記(4)アイのとおりである。
したがって,本願発明は,引用発明及び引用発明2に基づいて,当業者が容易に
発明をすることができた。
(7)審決判断まとめ
以上から,本願発明は,特許法29条2項の規定により,特許を受けることがで
きない。
第3原告主張の審決取消事由
1取消事由1(手続違背)
本件審判請求は審査前置に付されたところ,平成26年5月29日付け前置報告
書(甲15)には,それまで示されていなかった引用文献3を用いて本願補正が独
立特許要件を欠くと記載されていた。そこで,原告は,同年7月11日,引用文献
3を考慮した具体的な補正案(甲20)を示した上で,補正の機会を付与するよう
特許庁に求めたが,特許庁は,拒絶理由通知を行うことなく,本願補正を却下し,
本件審決をした。
拒絶査定不服審判請求に際して行われた補正(審判請求時補正)については,独
立特許要件を欠くとしてこれを却下する場合には,拒絶理由通知が不要とされ(特
許法159条2項で準用する同法50条ただし書),法律上,補正の機会を付与する
ことは必要的とはされていない。しかしながら,審判請求時補正を独立特許要件の
欠如を理由に却下する際に拒絶理由通知をしないことが,審判請求人の不利益に照
らして,特許出願審査手続の適正を貫く基本的理念に反する場合には,適正手続違
反があったものとして,審判手続は違法となると解すべきである。
これを本件についてみると,①本願補正後に新たな引用文献を加えて容易想到性
判断をしたにもかかわらず補正の機会が与えられておらず,原告に対する不意打ち
の程度が極めて強いこと,②原告が新たな引用文献に対応すべく具体的な補正案を
提示するなど補正の機会を得るための努力を払ったこと,との事情があり,このよ
うな事情からみると,本件審判手続には適正手続違反がある。
2取消事由2(一致点の認定の誤り及び相違点の看過)
(1)「パーティクル測定装置」部分の認定
審決は,本願補正発明と引用発明とが,「パーティクル測定装置」との点で一致す
ると認定する。
しかしながら,「パーティクル測定」というのは,何を測定するのかが特定されな
い極めてあいまいな概念である。
本願補正発明は,パーティクル(粒子)の濃度測定装置であるが(本願補正明細
書【0001】),引用発明は,パーティクルの飛来方向及び飛来速度を検出するパ
ーティクルの検出装置である(引用文献1【0006】【0009】【0026】)。
したがって,独自の概念である「パーティクル測定装置」との点で一致すると認
定することは,内容の定まらない部分が一致すると認定したものであって,審決の
上記認定部分は,誤りである。
(2)「直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部」部分の認定
審決は,引用発明の「枠体」が,本願補正発明の「仕切りにより区画された開口
内部を直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部」に相当すると認
定する。
しかしながら,引用発明の枠体をパーティクルが通過するとしても,枠体の開口
部42の開口面に対して気体が流れる角度は区々であり,直交して気体が流れるこ
とにはならない。むしろ,枠体の開口部42の開口面に直交してパーティクルが通
過した場合には,次のとおり,引用発明の目的を達成することができない。
すなわち,引用発明は,拡径手段12を用いて空間Sの厚さを拡径し,異なる時
刻の空間SにおけるパーティクルPの位置を比較することによって,パーティクル
の飛来方向及び飛来速度を精度よく見積もろうとしたものである(【0026】【0
027】)。ところが,下記のとおり,開口内部を直交して気体が流れる場合には,
観察方向からの見かけ位置(カメラからの奥行方向)においてパーティクルPの座
標値が異ならないため,パーティクルの飛来方向及び飛来速度を知ることができな
い。
加えて,引用発明において,開口部42の開口面に直交して気体が流れるように
したのであれば,飛来方向の検出が不要となってしまい,引用発明の作用効果を滅
却することになる。
したがって,引用発明の「枠体」が,本願補正発明の「仕切りにより区画された
開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部」に相当する
との審決の認定には,誤りがある。
(3)飛来方向・飛来速度
【引用発明図5,6参照】【開口内部を直交して気体が相対的に流れる場合】
【説明図】
I1
I2
t1
t2
飛来方向
飛来方向

P’
I1’
I2’
t1’
t2’



より根本的には,引用発明は,1つのパーティクルが間欠的に飛来するような極
めて限定的な条件の下でしかパーティクルの飛来方向や飛来速度を測定できず,し
たがって,気流の速度も計測できない。
まず,パーティクルPの飛来方向は,発生源において与えられた運動方向と,現
位置における瞬時の気体の流れにより与えられた運動方向とにより規定されるもの
であるから,気体の流れとパーティクルの飛来方向は一致せず,引用発明において
気体の流れ方向は不明である。
また,下記説明図1のとおり,引用発明の構成では,パーティクルPのシート状
の空間Sにおける奥行方向の位置が特定できないから,例えば,パーティクルPが
左から右へ飛来したことを観察できても,①奥側左から奥側右に移動したのか,②
奥側左から手前側右に移動したのか,③手前側左から奥側右に移動したのか,④手
間側左から手前右に移動したのか,いずれの移動経路をたどったが判別できず,結
果として,飛来速度も不明である。
さらに,下記説明図3のとおり,引用発明において,カメラ14がシート状の空
間Sに対して斜め方向に配置された構成である場合には,飛来方向すら判別できず,
結果として飛来速度も不明である。
このように1台のカメラで飛来速度等が検出できない以上,カメラ14を複数設
けた場合に突然に飛来速度等が算出できることにはならないし,パーティクル濃度
を測定する場合のように,複数のパーティクルが計測領域を通過する場合には,一
層飛来速度等を計測することが困難となる。
(4)小括
以上のとおり,審決は,引用発明の技術的意義を見誤り,その結果,本願補正発
明との一致点の認定を誤り,「本願補正発明が,仕切りにより区画された開口内部を
直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部が形成されているのに対
して,引用発明は,仕切りにより区画された開口内部を直交することなく,開口面
に対し斜めの角度をもって気体が流れるようにした点。」との相違点を看過した。
3取消事由3(相違点1の判断の誤り)
審決は,シート状の空間Sとカメラとの位置が固定されていなければ撮像された
画像の精度が落ちると認定し,相違点1に係る構成は容易想到であると判断する。
しかしながら,画像の精度が落ちることの根拠は示されておらず,上記判断は,
単なる憶測にすぎない。また,引用発明は,肉眼でパーティクルPの反射光を観察
してもよいとされ(引用文献1【0033】),カメラとその他の部品との一体性は
求められていないものであるから,相違点1の構成とする動機付けがない。
したがって,審決の相違点1の判断には,誤りがある。
4取消事由4(相違点2の判断の誤り)
審決は,引用発明に引用発明2の構成を適用して本願補正発明の相違点2に係る
構成をとることが容易想到であると判断する。
引用発明2は,試料流体6がフローセル8の横断面の長手方向に一様に流れるこ
とを前提とするものである(引用文献2【0023】)。
一方,引用発明は,パーティクルPの飛来方向及び飛来速度を推定するために,
枠体の開口部42の開口面に気体が直交して流れないことを前提とするものである。
また,引用発明はパーティクルPの飛来方向及び飛来速度を推定するための検出装
置であって,気流速度を計測できない以上,体積も計測することはできないから,
密度に関する記載(引用文献1【0002】)も,密度そのものを評価するとの趣旨
の記載ではない。
そうすると,引用発明に引用発明2の構成を適用するには阻害要因があるか,又
は,動機付けがない。
したがって,審決の相違点2の判断には,誤りがある。
5取消事由5(相違点3の判断の誤り)
(1)測定領域形成部
審決は,引用発明3の粒子の検知領域を形成する部分は,本願補正発明の測定領
域形成部に相当する構成であると認定する。
しかしながら,引用発明3は,筒状構成体3を使用してその底部における空気の
流れを比較的静止状態かつ事実上静的にするものであるから(3頁右下欄14行~
4頁左上欄1行目,FIG.2),筒状構成体3の下端開口又はハウジング20の開口
28(粒子の検知領域を形成する部分)においては,空気の流れはない。一方,本
願補正発明の測定領域形成部は,直交して気体が相対的に流れるようにしたもので
ある。そうすると,引用発明3の粒子の検知領域を形成する部分は,本願補正発明
の測定領域形成部には相当しない。
(2)光膜形成手段
審決は,引用発明3の粒子によって散乱される光を検知するための検知手段は,
本願補正発明の光膜形成手段に相当する構成であると認定する。
しかしながら,引用発明3においては,光ネット2は,ハウジング20の開口部
28よりも下方にあり(引用文献3のFIG.2,請求項4),本願補正発明のように開
口内部に面状の光膜を形成する光膜形成手段を有するものではないから,引用発明
3の粒子によって散乱される光を検知するための検知手段は,本願補正発明の光膜
形成手段には相当しない。
(3)小括
以上から,審決は,本願補正発明と引用発明3との対比を誤っており,これを前
提としてされた容易想到性判断も誤りであるから,審決の相違点3の判断には,誤
りがある。
第4被告の反論
1取消事由1(手続違背)に対して
審判請求時補正を独立特許要件の欠如を理由に却下する際に,拒絶理由通知をし
ないことが,仮に,適正手続違反になり得るとしても,特許請求の範囲の限定的減
縮の内容が当業者にとっての周知の技術や技術常識を採用したにすぎないときには,
拒絶理由通知をせずに補正を却下しても,適正手続違反にはならないものと解され
る。
これを本件についてみると,本件補正は,測定領域形成部,光膜形成手段及び粒
子検出撮像カメラ手段が1つのまとまった状態であると限定するものであるところ,
部材と手段の位置関係が重要な装置において,関連する部材や手段を一体化するこ
とが常套手段であることは技術常識である。審決は,この技術常識を示すために引
用文献3を提示したにすぎず,審判手続において拒絶理由通知をせずに却下しても
適正手続違反にはならない。
2取消事由2(一致点の認定の誤り及び相違点の看過)に対して
(1)「パーティクル測定装置」部分の認定
本願補正発明のパーティクル濃度測定装置も,引用発明の浮遊パーティクル検出
装置も,パーティクルの数を測定する点で共通するから,両発明は,パーティクル
測定装置である点で共通する。本願補正発明がパーティクル「濃度」測定装置であ
り,引用発明が浮遊パーティクル「検出」装置であるとの相違は,相違点2に包含
され判断されている。
したがって,審決の「パーティクル測定装置」部分の認定には,誤りはない。
(2)「直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部」部分の認定
本願補正発明において,測定領域形成部に直交して気体が相対的に流れるように
なるのは,天井フィルタから直下方向に流れる清浄空気に対して開口内部を直交す
るようにパーティクル濃度測定装置を配置したことによるものであって,本願補正
発明は,本願補正発明のパーティクル濃度測定装置をそのようにして使用できるこ
ととしているにすぎない(【0024】【0025】【0041】【0042】【図1】)。
他方,引用発明が,開口部42の開口面に直交して気体が流れるようにしても使
用できることは,当業者にとって明らかであり,むしろ,最も効率的にパーティク
ルの流れを全体的に把握することができるのは,開口部42の開口面に直交して気
体が流れるようにした場合である。そうであるにもかかわらず,引用発明において,
光膜に垂直に通過する粒子の飛来方向及び飛来速度を知ることのできない位置・数
のカメラをわざわざ設けることはあり得ない(【0032】【図1】参照)。そうする
と,引用発明においても,開口部42の開口面に直交して気体が相対的に流れるよ
うにした状態を想定できる。
したがって,審決の「直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部」
部分の認定には,誤りはない。
(3)小括
以上から,審決の一致点の認定には,誤りはなく,原告の主張する相違点の看過
もない。
3取消事由3(相違点1の判断の誤り)に対して
引用発明の原理上,カメラが動いて撮影視野からシート状の空間Sが外れてしま
ったり,カメラが動くことにより画像がブレてしまった場合に十分な検知精度が得
られないことは,当業者にとって明らかである。
そうすると,十分な検知精度をもってパーティクル数を求めることができるよう
に,カメラの位置を光膜に対して固定するとして,相違点1に係る本願補正発明の
構成を採ることは,当業者が容易に想到し得た。
したがって,審決の相違点1の判断には,誤りはない。
4取消事由4(相違点2の判断の誤り)に対して
引用発明は,パーティクルの位置及び飛来のタイミングを検出できる発明である
ところ(【0004】【0028】),パーティクルの位置及び飛来のタイミングが検
出できれば,開口部の面積や気流速度より,パーティクルの密度を求めることがで
きる。さらに,引用文献1には,引用発明をパーティクルの密度を評価する粒子濃
度測定装置として使用できることを示唆する記載がある(【0002】)。
引用発明が,開口部42の開口面に気体が直交して流れることを想定しているの
は,前記2のとおりである。そして,引用文献1には,パーティクルの飛来速度を
検出している点が記載されているところ(【0028】),パーティクルは気流により
飛来するものであるから,パーティクルの飛来速度は,気流の速度と相関関係を有
しており,引用発明においても,実質的に気流速度を計測しているといえる。
一方,引用文献2には,単位時間当たりの流量F(m

/分)を測定し,検出さ
れた粒子数を,時間t(分)の間に検出領域を通過する試料流体の体積F・tで除
することにより,粒子濃度(N/(F・t))を算出する構成が開示されており(【0
023】),単位流量F(m

/分)=粒子検出領域7の面積(定数)×気流速度で表
すことができるから,引用発明と等価の物理量を測定している。
そうすると,引用発明を粒子濃度測定装置として使用し,引用発明に粒子濃度を
算出する引用発明2の構成を適用することは,当業者が容易に想到し得る。
したがって,審決の相違点2の判断には,誤りがない。
5取消事由5(相違点3の判断の誤り)に対して
(1)測定領域形成部
引用発明3は,クリーンルーム等に用いられるものであり(引用文献3の2頁左
上欄17~18行目,2頁右上欄3~5行目,3頁左上欄7~8行目),空気流れの
条件を異ならせた複数のテスト例が記載されていること(引用文献3の4頁右上欄
表1)にかんがみると,引用発明3のモニターは,クリーンルームにおける一様な
一方向の流れが確保されている部位などへの設置が想定されていると考えられる。
(2)光膜形成手段
原告の主張は,相違点3の容易想到性とは関連しない事項である。
(3)小括
以上から,審決の相違点3の判断には,誤りはない。
第5当裁判所の判断
1認定事実
(1)本願補正発明について
本願補正明細書(甲12)によれば,本願補正発明は,次のとおりの発明である
と認められる。
本願補正発明は,クリーンルームなどの工場設備内の,一様な一方向の気流又は
層流が確保されている部位などで,粒子濃度を高い精度で測定できるパーティクル
濃度測定装置に関する発明である。(【0001】【0046】)
従来,クリーンルームなどで空気中に浮遊する塵埃等の粒子の濃度(パーティク
ル濃度)を測定する装置としては,サンプリングチューブで吸引した空気中の粒子
の個数を光散乱法で求めるサンプリング吸引方式の装置が最も一般的に知られてい
た。しかし,この装置は,吸引で流れが変わってしまう空間では測定ができないた
めに,測定場所の自由度が低いという問題のほか,気流速度と吸引速度を一致させ
ることが困難であるとの問題,十分なボリュームのサンプルを得るために吸引時間
を長くすると,測定場所よりかなり風上の空間の粒子濃度も検知する結果になって
検知精度が低下するという問題があった。(【0002】【0003】)また,粒子の
散乱光を計数して粒子濃度を測定するレーザレーダ方式の測定装置は,室内の測定
のようにサンプリングボリュームが小さい場合には,レーザパルス幅及びシャッタ
時間が極端に短くなるために計数に当たって十分な光量を得られず,1μm以下の
小さい粒子の測定はできないという問題があった。(【0004】【0005】)
本願補正発明は,これらの問題にかんがみてされたものであり,その主な課題は,
一様な一方向の流れが確保されている部位などにおいて,粒子濃度を高い精度で測
定できるパーティクル濃度測定装置を提供することにある。(【0009】)
本願補正発明のパーティクル濃度測定装置は,①室内に一様な一方向の気流が存
在する一方向流型(又は整流型)クリーンルームや層流を供給する流れの部位に設
置され,測定領域を物理的に区画する実質的に環状の仕切りの開口内部を直交して
気体が相対的に流れるようにされ,②光膜形成手段によって開口内部の全体又は一
部に形成された光膜を通過する粒子の散乱光を粒子検出撮像カメラ手段で受光して
粒子を検出し,③光膜を単位時間に通過する気流の容積を,計測領域面積(粒子検
出撮像カメラ手段の検出対象領域の面積)rと,気流速度検出器で検出される気流
速度vと,計測時間(受光時間)Tとから算出し(r×v×T),その容積と粒子検
出撮像カメラ手段で検出した粒子の総数nとに基づいて,粒子濃度cを算出する(c
=n/(r×v×T))。(【0010】【0011】)
本願補正発明は,空間を実質的に環状の仕切りによって区画することにより,光
膜を単位時間に通過する気流の容積を容易に求めることができ,さらに,その区画
領域の全体又は一部に形成した面状の光膜を通過する粒子の散乱光を受光して粒子
を検出し,粒子の総数に基づいて粒子濃度を算出するので,クリーンルーム内の一
様な一方向の流れが確保されている部位や層流を供給する流れの部位などで粒子を
検出する場合,気流を乱すことがなく,また,粒子濃度を高い精度で測定すること
ができ,1μm以下の微粒子も検出できるという効果を奏する。(【0011】【00
22】)
(【図2】)
(【図3】)
10仕切り11ケーシング12Aレーザ光走査手段12B平行化手段
13支持体14支持ブラケット15撮像手段15a受光部
20画像信号処理装置21気流速度検出器22粒子濃度演算手段
23表示装置FL光膜OX受光軸
(【0026】【0035】【0047】)
(2)引用発明について
引用文献1(甲1)の記載によれば,引用発明は,次のとおりの発明であると認
められる。
半導体装置,液晶装置などを製造する際にパーティクルが混入するのを防止する
ために用いられるクリーンルーム内では,空気中に浮遊するパーティクルの大きさ
や密度を定期的に評価し,パーティクルが異常に増加した場合にはその原因を突き
止めて対策を施すために,空気中に浮遊するパーティクルを検出する装置が必要で
ある。(【0002】)
従来,①検査対象となる場所の空気をボックス内に吸引してレーザ光を照射し,
吸引した空気中に含まれるパーティクルによる反射光を検出してパーティクルの個
数をカウントする装置や,②レーザ光のビームをクリーンルーム内で方向を変えな
がら照射し,パーティクルによる散乱光を検出する技術があった。しかしながら,
①の装置は,検査対象となる場所の空気をボックス内に吸引するので,パーティク
ルの個数は計測できるものの,パーティクルの詳細な位置,飛来方向及びタイミン
グは検出できず,パーティクルの流れの解析や発生場所の特定ができないという問
題があり,②の技術は,パーティクルがレーザ光の光路を横切る際に瞬間的に光る
だけなので,パーティクルの位置及び飛来のタイミングはある程度検出できるもの
の,パーティクルの飛来方向は検出できないという問題があった。(【0003】【0
004】)
引用発明の目的は,パーティクルの飛来方向を検出できる浮遊パーティクル検出
装置を提供することである。(【0006】)
引用発明の検出装置は,①ビームの直径を拡大させる拡径手段を有するので,分
布手段によって連続された方向に変化させられたレーザ光が分布する空間Sの厚さ
が,拡径後のビーム直径となることからより厚くなって,パーティクルの個数及び
発生タイミングに加えて飛来方向及び飛来速度を検出できるようになり,パーティ
クルの発生場所及び移動経路の特定が容易になり(【0014】【0025】【002
8】【0048】),②略扇形に広がるビームを平行化する平行化手段を有するので,
空間Sが枠体41の開口部42内にシートのような状態となるとともに,開口部4
2内のレーザ光の強度が均一となり(【0048】【0049】【0051】),③レー
ザ光が分布されるシート状の空間Sが開口部42の内部にのみ形成されてレーザ光
が枠体41の外部に漏洩しないため,レーザ光が周囲の環境に影響を与えず(【00
50】),④拡径手段,分布手段及び平行化手段からなる光学系が枠体に一体的に取
り付けられており,レーザ光源が光ファイバーを介して結合されているので,枠体
を持ち運んで簡便に任意の場所でパーティクルを検出できるものである(【004
4】【0050】)。
引用発明は,空間S内を通過するパーティクルによるレーザ反射光を検知できる
カメラで空間Sを撮像して画像データを取得し,空間Sを通過したパーティクルの
数及び通過のタイミングを求める。(【0015】【0016】【0023】【0024】)
さらに,引用発明は,その目的であるパーティクルの飛来方向の検出を可能にする
ために,カメラがパーティクルを複数のコマで捉えたときに,その複数のコマのう
ち,最初のコマにおけるパーティクルの位置と最後のコマにおけるパーティクルの
位置とを比較することにより,パーティクルの飛来方向及び飛来速度を推定する。
(【0025】【0026】【図5】【図6】)
(【図5】)
(【図1】)
(【図10】)
2取消事由2(一致点の認定の誤り及び相違点の看過)について
事案にかんがみて,取消事由2について,まず,検討する。
(1)「パーティクル測定装置」部分の認定について
原告は,審決が本願補正発明と引用発明とが「パーティクル測定装置」との点で一
致すると認定したことは,誤りであると主張する。
しかしながら,上記1に認定のとおり,本願補正発明は,パーティクルの濃度を
測定する前提として粒子数nを検出するものであり,また,引用発明は,空間S内
を通過するパーティクルを検知したカメラの画像データからパーティクルの数を求
めるものであるから(引用文献1【0024】),両発明は,パーティクルの数を測
定する装置との点で共通する。
審決が,本願補正発明と引用発明とが,共にパーティクルの検出を行う「パーテ
ィクル測定装置」との点で一致すると認定したことは,このことを表現したものと
理解することができるから,審決の上記認定に誤りはない。
原告の上記主張は,採用することができない。
(2)「直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部」部分の認定
について
ア検討
原告は,審決が引用発明の「枠体」は本願補正発明の「仕切りにより区画された
開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにした測定領域形成部」に相当する
と認定したことが,誤りであると主張する。
審決は,引用発明の枠体が本願補正発明の測定領域形成部に相当する部分を形成
しているとした上で,パーティクルがシート状の空間Sを通過し得るのであれば,
開口部42の開口面に直交して気体が流れ得ることは当業者にとって明らかである,
と認定している。
しかしながら,次のとおり,引用発明の枠体は,「仕切りにより区画された開口内
部を直交して気体が相対的に流れるようにした」ものではないから,審決の上記認
定は,誤りである。
すなわち,前記1(2)のとおり,引用発明は,従来の浮遊パーティクル検出装置が
パーティクルの位置及び飛来のタイミングはある程度検出できるものの,パーティ
クルの飛来方向は検出できないという問題を踏まえてされたものであり,その目的
は,パーティクルの飛来方向を検出できる浮遊パーティクル検出装置を提供するこ
とにある。つまり,引用発明は,パーティクルの飛来方向が不明であるからこそ,
その飛来方向を検出しようとするものである。そして,引用発明の検出対象である
浮遊パーティクルとは,前記1(2)のとおり,クリーンルーム内等の空気中に浮遊す
るパーティクル,すなわち,気流によって運ばれる微粒子であるから,その飛来方
向は,実質的に,気流の方向に一致すると認められる。そうすると,引用発明は,
パーティクルを運ぶ気流の方向が不明であることを前提とするものであり,特定の
方向からの気流を前提とはしていないものである。
一方,本願補正発明の測定領域形成部は,特許請求の範囲の記載において,仕切
りにより区画された開口内部を「直交して」気体が相対的に流れるようにしたもの
と特定され,さらに,粒子濃度cを算出する際の気流の容積(分母)がr×v×T
(r:計測領域面積,v:気流速度,T:計測時間T)で算定され,rとは開口内
部の面積にほかならず,この算出方法で粒子濃度を算出できるのは,開口内部を通
過する気体の流れの方向が開口面に直交する方向のみの場合であるから(気体の流
れが開口面に直交していない場合に気流の容積を算定する際の基準面積r´は,開
口内部の計測領域面積rよりも小さな値である。),本願補正発明は,仕切りにより
区画された開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにしたものに限定されて
いると認められる。
以上からすれば,引用発明の枠体の開口部42の開口面を通過する気流の方向は,
あらかじめ特定されないのに対し,本願補正発明の開口内部を通過する気体の流れ
の方向は,開口面に直交する方向に限定されている。したがって,引用発明の「枠
体」は,本願補正発明の「仕切りにより区画された開口内部を直交して気体が相対
的に流れるようにした測定領域形成部」には相当しない。
イ被告の主張について
①被告は,本願補正発明において開口内部を通過する気体の流れの方向が開口
面に直交する方向となるのは,実際の配置状況において左右されることであり,本
願補正発明は,測定領域形成部における実際の気体の流れ方向が開口面を直交しな
い場合に使用してもよいものであるとの趣旨の主張をする。
しかしながら,上記アのとおり,本願補正発明は,その特許請求の範囲に明示さ
れたとおり,開口内部を直交して気体が相対的に流れるようにした場合のみを前提
とするものである。本願補正明細書の,①本願補正発明のパーティクル濃度測定装
置を一方向型又は整流型クリーンルームで使用するときは,天井フィルタの直下の
領域に水平配置する旨の記載(【0024】【0025】【図1】~【図3】)や,②
非整流型のクリーンルームや気流が生成されておらず単に粒子が浮遊している場所
で使用するときは,測定領域形成部,光膜形成手段及び粒子検出撮像カメラ手段が
一体となって直線移動するように構成する旨の記載(【0041】【0042】【図8】)
は,このことを裏付けるものであり,本願補正発明の「開口内部を直交して気体が
相対的に流れるように」するための具体的な手段を示すものと理解される。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
②被告は,引用発明を,開口部42の開口面に直交して気体が流れるようにし
ても使用できることは,当業者にとって明らかであると主張する。
上記アのとおり,開口部42の開口面に対する気流の方向があらかじめ特定され
ていない引用発明においては,当然ながら,開口部42の開口面に直交した方向に
も気体は流れ得る。しかしながら,それは,引用発明の浮遊パーティクル検出装置
を用いた結果により判明するにすぎず,あらかじめ判明していることではない。パ
ーティクルの飛来方向を検知できるとする引用発明を,あらかじめ気流の流れる方
向,すなわち,パーティクルの飛来方向が判明している場合に使用しても,当該発
明が目的とする効果は生じ得ないから,当業者は,あらかじめ気流の方向が判明し
ている場合には,引用発明の浮遊パーティクル検出装置を用いないと認められる。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
③被告は,引用発明において,最も効率的にパーティクルの流れを全体的に把
握することができるのは,開口部42の開口面に直交して気体が流れる場合である
と主張する。
しかしながら,引用発明は,パーティクルを運ぶ気流の方向が不明であることを
前提とするものであるから,上記②のとおり,開口部42を通過する気体の方向を
あらかじめ特定できる場合には,当業者は,引用発明の浮遊パーティクル検出装置
を用いないと認められる。仮に,開口部42の開口面に直交して気体が流れる場合
にパーティクルの位置や飛来のタイミングなどが最も効率的に把握できるとしても,
そのような気体の流れを特定した場合を前提とすることは,パーティクルの飛来方
向の検知という引用発明の本来の課題と相反するものである。引用文献1の「環境
内におけるパーティクルの流量がある程度多い場合には,検査者が枠体41を手に
持って任意の場所に位置させることにより,その場所のパーティクルの流れを観察
することができ,枠体41の位置及び角度を変えながら観察することにより,その
環境におけるパーティクルの流れを全体的に把握することができる。」(【0050】)
との記載に照らせば,引用発明は,特定の気流の流れ方向と開口面の角度を前提と
していない発明といえ,むしろ,そのような点を利用してパーティクルの流れを全
体的に把握するものといえる。
(3)小括
以上のとおり,審決は,本願補正発明と引用発明との一致点の認定を誤り,かつ,
その結果,本願補正発明と引用発明との相違点を看過した。審決が看過した相違点
は,単なる設計事項とはいえず,実質的なものであるから,この相違点の看過は,
審決の結論に影響を及ぼす蓋然性がある。
したがって,取消事由2は,理由がある。
3取消事由4(相違点2の判断の誤り)について
事案にかんがみて,取消事由4について,引き続いて,検討する。
原告は,引用発明に引用発明2の構成を適用して相違点2に係る本願補正発明の
構成とすることには,阻害要因があるか又は動機付けがないと主張する。
相違点2は,「本願補正発明は,光膜を単位時間に通過する気流の容積に対する,
前記粒子検出撮像カメラ手段により検出された粒子の総数に基づき,粒子濃度を算
出する演算手段を有し,前記粒子濃度cを,c=n/(r×v×T)の式により算
出するように構成されており,パーティクル測定装置がパーティクル濃度測定装置
であるのに対して,引用発明では,空間Sを通過したパーティクルの数を求めては
いるものの,粒子濃度の算出を行っている点は特定されていない点。」というもので
ある。そして,引用発明2の濃度測定方法は,時間t当たりに粒子検出領域から検
出された総出力信号(∫f(t)dt)を求め,これと,あらかじめ既知の粒子濃度の試
料流体で求めておいた出力信号とを対比した結果に基づいて粒子数Nを設定し,こ
れを時間t当たりの粒子検出領域を通過した試料流体の体積(F・t(m

))で除して
算出するというものと認められる(引用文献2【0023】~【0025】)。引用
文献2に記載された数式は,単に背景的な原理を示すための説明にすぎず,引用発
明2において粒子数N自体のカウントはされていないと認められる。引用発明2の
濃度測定方法と,カウンタにより粒子総数を求め,これを,計測領域面積と気流速
度と計測時間により求めた気流の容積で除して粒子濃度を求める本願補正発明の濃
度測定方法(本願補正明細書【0010】【0027】【0028】【0037】)と
は,異なる方法である。
したがって,仮に引用発明に引用発明2の濃度測定方法を適用することができる
としても,相違点2に係る本願補正発明の構成には至らない。
被告は,引用発明2の濃度測定方法が,相違点2に係る本願補正発明の構成に相
当すると主張する。
しかしながら,引用発明2において,基礎となる単位時間当たりの試料流体6の
流量F〔m

/分〕をどのように算出しているか明らかではないから,これが粒子検
出領域7の面積と流体の速度との積であるとする根拠も認められないし,また,上
記のとおり,引用発明2は粒子数N自体をカウントするものではないと認められる。
そうすると,引用発明2の粒子濃度測定方法を,本願補正発明の粒子濃度測定方法,
すなわち,粒子数cを,検出対象領域rと気流速度vと計測時間Tを乗じて求めた
気体の容積で除することによって求める方法と同じものとみることはできない。
被告の上記主張は,採用することができない。
以上のとおり,審決の相違点2の判断には,誤りがある。
したがって,取消事由4は,理由がある。
第6結論
以上のとおり,取消事由2及び4は理由があるから,その余の取消事由について
判断するまでもなく,審決は取り消すべきものである。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
清水節
裁判官
中村恭
裁判官
中武由紀

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