弁護士法人ITJ法律事務所

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           主        文
    1 本件控訴を棄却する。
    2 控訴費用は控訴人の負担とする。
           事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人は,控訴人に対し,金1178万7270円及びこれに対する平
成12年6月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 訴訟費用は,第1,第2審とも被控訴人の負担とする。
 4 第2項につき仮執行宣言
第2 事案の概要
1  本件は,被控訴人の理事及び代表理事(組合長)を務めた控訴人が,被控
訴人に対し,主位的に,被控訴人の役員退任慰労金支給規程又は慣行に基づき退
任慰労金982万2725円及び功労金196万4545円並びにこれらに対す
る平成12年6月29日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年5
分の割合による遅延損害金の支払を求め,予備的に,控訴人には上記の退任慰労
金及び功労金の支給を受ける期待権があり,被控訴人はこれを違法に侵害したと
して,不法行為に基づき同額の金員の支払を求める事案である。
  原判決は,被控訴人における退任慰労金及び功労金の支給には総会による承
認決議が要件とされているとして,これを欠く本件では控訴人に退任慰労金及び
功労金の請求権は発生しておらず,慣行による請求権も認められないとして主位
的請求を棄却し,また,支給しないとした総会決議が無効ないし衡平の理念に反
するということもできず,不法行為には当たらないとして予備的請求も棄却し
た。これを不服として控訴人が控訴したのが本件である。
2 その他の事案の概要は,次項に補正し,第4,第5項に当事者双方の当審に
おける主張を付加するほかは,原判決の事実及び理由の「第2 事案の概要」欄
に記載のとおりであるから,これを引用する。
3 補正
 (1) 原判決2頁8行目の「被告においては,」の次に「昭和51年2月7日施
行に係る」を加える。
 (2) 同2頁11行目の「支給及び支給額については,」の次に「その都度」を
加える。
 (3) 同2頁12行目の「本件規程の計算方法」の次に「は,非常勤役員につい
ては年報酬額の12分の2に在任年数を乗じた額,常勤役員については,退任時
の報酬月額に就任年数を乗じ,更に就任年数に応じた支給率を乗じた額をもって
退任慰労金の支給額とするものであり,これ」を加える。
4 控訴人の当審における主張
 (1) 本件規程の解釈・長期間の運用実態
  ア 本件規程は総会の承認の下に制定され,第2条において「理事退任した
ときは,慰労金を支給する。」とし,第3条において退任慰労金の支給額が裁量
の余地のないほど明確に規定されている。そして,第5条においては「本組合に
損害を与え,又は,信用を失う言動により役員としての職務遂行にもとると理事
会が認めた退任役員に対する慰労金は減額または支給を停止することができ
る。」として,退任慰労金を減額又は停止できる事由が明定されている。
  イ また,被控訴人においては,死亡したA組合長に対する役員退任慰労金
が昭和57年に支払われて以降,役員(理事11人,監事4人)は度々交替した
が,退任役員に対する退任慰労金の支給の可否及びその額が総会又は理事会で審
議・決定されることのないまま,本件規程に基づく金額が支給され,昭和57年
から平成11年までの17年間にわたり,総会及び理事会は,事後追認又は業務
報告書の承認という形で何らの異議もなくこれらの支給を認めてきたものであ
る。したがって,被控訴人における退任慰労金は,本件規程の長期間の運用か
ら,本件規程に基づいて支給金額が決定され,これが支給されるという慣行が成
立していたものである。
  ウ したがって,退任役員に対する慰労金の支給は被控訴人の自由裁量では
なく,被控訴人は,本件規程第5条に該当する事由がない限り,その第3条に定
める支給額の支払義務があり,第3条ただし書の総会の承認は,理事が退任役員
に慰労金を支給したことについて,これが本件規程に基づいて正当に行われたか
否かを審査する意味にすぎないというべきである。
 (2) 本件規程第5条該当事由の有無
  ア 控訴人が被控訴人の組合長をしていた間の平成5年度以降,被控訴人に
は赤字の年度があったものの,これは,①信用事業において,金利の引下げによ
り金利収入が激減したこと,②漁業補償金が減少したこと等によるものであり,
控訴人が組合長として責任を負うべきものではない。
    したがって,控訴人が被控訴人に損害を与え又は信用を失う言動により
役員として職務懈怠をしたということはなく,本件規程第5条に該当することは
ない。
  イ 被控訴人は,控訴人に忠実義務違反がある旨主張する。しかし,赤字の
原因は上記のとおりである。また,平成5年度の赤字に関し,控訴人は,補助金
の交付時期が従来より延ばされたが,これが従来どおりの時期に入っていれば
「黒」になると言ったにすぎず,平成5年度の決算が赤字であるのに黒字である
と説明したものではない。さらに,平成5年度以降,控訴人が組合長を辞めるま
での間に作成された平成10年度までの業務報告書,貸借対照表,損益計算書,
剰余金処分案又は損失処理案は,いずれも理事会で承認され,監事によって「そ
の内容は適正である。」との監査を受け,通常総会においても何ら異議なく全員
賛成により承認可決されているほか,理事会は,毎年前年度の業務内容を検討し
て翌年度の事業計画を立て,通常総会において承認を受けていたものである。控
訴人が忠実義務に違反して虚偽の説明を行い,理事会をして有効な赤字対策を執
るべき契機を失わせて,被控訴人に損害を与えたとは到底いえない。
 (3) 本件決議の無効
  ア 上記(2)のとおり,控訴人には本件規程第5条に該当する事由はないので
あるから,これに該当することを前提として控訴人に退任慰労金を支給しないと
した理事会決議は無効であり,無効な理事会決議に基づき提案された議案に基づ
く本件決議もまた無効である。
  イ また,本件決議がされた通常総会(本件総会)において,被控訴人の理
事又は理事会は,控訴人の退任慰労金に関し,組合員に対して虚偽の説明をし,
また,理事会としてすべき正確な報告をしていなかったものであるから,これを
前提としてされた本件決議は公序良俗に反するものとして無効である。
    すなわち,上記のとおり,控訴人には本件規程第5条に該当する事由が
ないにもかかわらず,被控訴人理事は,本件総会において,控訴人には上記条項
に該当する事由がある旨虚偽の説明をした。また,被控訴人においては,控訴人
の退任慰労金についてB連合会に退職慰労金を積み立てていた(現に,本件総会
に先立つ平成11年10月5日には,B連合会から被控訴人に対し,435万0
581円の退職慰労金積立金が支払われている。)から,被控訴人が黒字の年度
であっても本件規程第6条に基づく役員退任手当積立金の積立てはしていなかっ
たにもかかわらず,被控訴人理事会は,本件総会において,控訴人の在任期間
中,過去5年間赤字を出したため剰余金の中から役員退任手当積立金を積み立て
ることができなかった旨説明したのみで,上記のとおりB連合会から積立金が支
払われていることについて何らの説明もしていない。
  ウ さらに,前記のとおり,長期間にわたり本件規程に基づいて退任慰労金
の金額が決定され,その金額が支給されるという慣行が成立していたが,控訴人
についてのみこれを支給しないとする本件決議は,信義則及び衡平の理念に反し
て無効である。
 (4) 期待権の侵害
  ア 上記(1)のような本件規程の解釈や,被控訴人においては,本件規程に基
づいて退任慰労金の金額が決定され,これが支給されるという慣行が成立してい
たこと,上記(2)のとおり控訴人には本件規程第5条に該当する事由はないことか
らすれば,控訴人は,本件規程に基づいて退任慰労金が支給されるという法的に
保護されるべき期待利益すなわち期待権を有していた。
  イ ところが,被控訴人の理事らは,共同して,控訴人には本件規程第5条
に該当する事由がないのに,これに該当する事由があるとして控訴人に対して退
任慰労金を支給しない旨の決議をし,さらに,本件総会において,「過去5年間
赤字を出したため,積立金を積み立てることができなかった。」「この赤字によ
り資本が大きく減少した。」「控訴人は本件規程第5条に該当すると判断し
た。」「赤字について定款においては減額もしくは停止できることになってい
る。」「交際費等をもう少し使わせてもらったらどうかということが発端でこう
いう結果になった。」などと虚偽の事実を摘示し,組合員に対し,控訴人に対す
る退任慰労金の支給をしない旨の承認を求めて不当な総会決議をさせ,控訴人の
上記期待権を侵害したものである。
  ウ 被控訴人は,上記のような被控訴人の理事による不法行為について,民
法44条1項により控訴人に対して不法行為責任を負う。
 5 被控訴人の当審における主張
  (1) 本件規程の法的性質について
    本件規程の解釈上,退任慰労金は,本件規程第5条に該当しない場合で
あっても,総会の裁量に基づいてこれを支給しないことができるというべきであ
る。
    すなわち,本件定款第38条は,理事及び監事の退任慰労金について総
会の議決を経なければならないとし,本件規程第3条本文においても,「その都
度総会において承認を得なければならない。」と定めており,退任慰労金の支給
は総会決議が要件とされている。また,本件規程の目的は財務の健全化を図るこ
とにあり(第1条),役員の退任慰労金は,破産等においても優先債権とされて
いる従業員の退職金とは性質が異なることなどからすれば,その支給について総
会に裁量権がなく,本件規程第5条に該当する事由がないかぎり支給義務がある
とすることは妥当でない。総会に裁量権がないのであれば,総会の議決を支給要
件として本件定款及び本件規程に定める必要はない。被控訴人の財務の健全化を
図るためには,総会による審査を経なければならないことも明らかである。ま
た,被控訴人に損害等を与えていない以上常に支給されるとするのは,まさに従
業員の退職金と同じことになってしまうからである。
  (2) 本件規程第5条該当性について
    控訴人には,以下のとおり,本件規程第5条の「本組合に損害を与え」
の要件に該当する事由がある。
    すなわち,役員は,本件定款32条により,「法令,法令に基づいてす
る行政庁の処分,定款,規約,共済規程及び総会の議決を遵守し,この組合のた
めに忠実にその職務を遂行しなければならない。」とされており,被控訴人に対
する忠実義務を負っている。ところが,控訴人は,組合長という役員のトップに
ありながら,被控訴人が12月決算で,平成5年に279万5940円の損失を
出していたにもかかわらず,決算のための理事会において,翌年3月に入金され
る500万円ないし600万円の漁業保険の補助金が入れば黒字になる旨説明
し,そのため,翌平成6年には,上記の補助金が入金されても510万0741
円の損失を出していたにもかかわらず,理事会においてまったく問題視されず,
何らの対策も執られなかった。被控訴人は,平成10年も続けて損失を出した
が,同年に新しく役員になったC理事らから経理内容について疑問が出されたこ
とがきっかけで,被控訴人が赤字決算を繰り返していたことが理事全員に発覚
し,平成11年2月13日開催の理事会において,C理事から,役員報酬の減
額,漁業権行使料の値上げ,総会費用の削減等の赤字対策が提案されて可決さ
れ,その後,D新組合長のもとで経費削減の努力がされた結果,損失を出さなく
なった。控訴人が,平成5年の損失が判明した時点から早急に対策を講じていれ
ば,被控訴人が黒字になったか,少なくとも損失額を圧縮できたことは明らかで
ある。また,控訴人は,常勤の組合長であるにもかかわらず,組合事務所に詰め
ていたのは午前中のみであることがほとんどであり,そのこと自体が忠実義務に
違反するが,そのような勤務実態にそぐわない高額な役員報酬は真っ先に削減す
べきであり,さらに,被控訴人とは関係のない特定の政党や特定の政治家関連の
行事への出席等の費用も削減すべきであった。
    以上のとおり,控訴人は,忠実義務に違反して虚偽の説明を行い,理事
会をして有効な赤字対策を執るべき契機を失わせたことにより被控訴人に損害を
与えたものであり,本件規程第5条に該当する。
第3 当裁判所の判断
 1 争点(1)について
(1) 控訴人は,退任慰労金等の支給額は,本件規程に基づいて決定されるもので
あり,総会の承認は退任慰労金等の支給が本件規程に基づいて正当に行われたか
どうかを審査する意味を有するに過ぎない旨主張するので,この点について検討
する。
  本件定款によれば,被控訴人の理事及び監事の退任慰労金については総会の
議決を経なければならないと規定されているところ,被控訴人においては,昭和
51年2月7日施行にかかる本件規程が定められ,同規程は,「理事,監事退任
し,又は死亡したときは,慰労金を支給する。」旨(第2条1),また,支給額
について,非常勤役員については年報酬額の12分の2に在任年数を乗じた額,
常勤役員については,退任時の報酬月額に就任年数を乗じ,更に就任年数に応じ
た支給率を乗じた額とする旨(第3条)規定して,具体的な支給金額の算出が可
能な計算基準を定める一方で,支給額についてその都度総会において承認を得な
ければならないとの規定が設けられている(第3条ただし書)ことは,引用に係
る原判決の事実及び理由第2の2(2)に記載(前記訂正部分を含む。)のとおりで
ある。
  また,本件規程は,退任慰労金の支給及び運営に係る基準を定め,財務の健
全化を図ることを目的として定められたものであること(第1条),上記の算定
基準とは別に,在任中特に功績顕著である等の場合には退任慰労金の増額ないし
功労金の支給も可能であるとされ,その支給額についても総会の承認を得て理事
会が決するとされていること(第4条),反対に,被控訴人に損害を与え,又
は,信用を失う言動により役員としての職務遂行にもとると理事会が認めた場合
には退任慰労金の減額又は支給を停止することができるものとされていること
(第5条)が認められるのである(乙1)。
  そして,上記のとおり,そもそも退任慰労金の支給について総会の決議事項
とすることは本件定款によって規定されているものであることを併せ考慮する
と,本件規程は,退任慰労金の支給が恣意的にされることを防止するとともに,
支給金額の計算基準を示すことにより被控訴人の財務を不当に圧迫するような支
給がされないようにする目的を含むものと解され,支給額についてその都度総会
の承認を得なければならないとする上記条項の趣旨は,具体的な支給金額が本件
規程に基づいて正当に算出されたものか否かを形式的に審査するというものでは
なく,本件規程により算出された具体的な支給金額が組合財務の状況等からも妥
当なものか否か,また,増額や功労金の支給が妥当か否かという,いずれも実質
的な観点からの審査について,その権限を総会に留保したものであって,総会
は,本件規程に基づき算出される具体的な支給金額について,前記の第5条に該
当する場合に限らず,上記のような観点からの審査をすることができるというべ
きである。そして,以上のような本件定款の内容,本件規程の趣旨,文言からす
れば,本件規程に基づいて直ちに退任慰労金を請求できるものではなく,総会の
承認が退任慰労金請求権発生の要件であると認められる。
  現に,証拠(甲1,原審における乙10,11)及び弁論の全趣旨によれ
ば,昭和57年に死亡退任したA代表理事(組合長)や同時期に辞任したE理事
の退任慰労金の支給については,同年に開催された臨時総会に付議され,その具
体的承認を得て理事会において決定をしている。しかも,本件規程は,昭和51
年2月7日の施行日以降に該当する役員については当初就任の日に遡及するもの
とされ(附則2。甲1),A組合長の理事就任期間が約30年に及び,本件規程
を形式的に適用した場合の同人の退任慰労金の額は1800万円を超えるもので
あったとみられるのに,剰余金処分による退任慰労金積立金の額及び退職共済か
らの支給金の額を考慮して1500万円に減額されている。
(2) 控訴人は,従来の退任慰労金の支給に関する慣行や運用状況についても,そ
の主張の根拠とするが,昭和57年当時に退任慰労金の支給について具体的な総
会の承認を得て理事会において支給を決定していたことは上記認定のとおりであ
る。もっとも,証拠(乙4の1・3・5・6,5の1,6の1ないし14,原審
における証人F,同控訴人本人,同被控訴人代表者)及び弁論の全趣旨によれ
ば,その後,控訴人が組合長に在任していた時期には,退任役員に対して本件規
程に基づき算出した退任慰労金を支給しながらも,事前に理事会及び総会の承認
を得ることはせず,事後的に,特別積立金や役員退任手当積立金の減少分の記載
のある業務報告書について承認を得るという限度で総会の関与を受けていたにす
ぎないこと,積立金が不足している場合には費用として退職給与費から支出した
こともあったことが認められる。しかし,そのような運用は,上記判示のような
本件規程の趣旨,文言に反するものである。また,このような運用がされたのは
直接的には組合長である控訴人自身の処理方法が原因であり,他方,総会の関与
の程度,態様は上記のようなものであって,総会において各人に対する具体的な
退任慰労金の額を明確に把握した上でこれを個別に承認したこと,ないし,上記
のような運用を意識してこれを追認したものと認めるに足りる的確な証拠はな
い。しかも,証拠(乙4の1ないし6,5の1ないし7)によれば,控訴人が組
合長に在任していた期間中(ただし,控訴人本人が退任した平成11年度を除
く。)に退任した常勤役員は控訴人の前任者1名のみであり,その他は退任慰労
金の額が比較的少額な非常勤の理事ないし監事のみである。以上のような事情か
らすれば,上記のような運用がされていたとしても,本件規程の解釈において総
会の承認なくして退任慰労金請求権が発生するものとされ,あるいはこれが慣行
として規範化していたということはできず,控訴人の上記主張は採用できない。
  (3) また,功労金についても,前記認定のとおり総会の承認を要するものと
されており,その趣旨は退任慰労金についての上記判示と同様に解されることに
加え,功労金に関しては,退任慰労金を支給することを前提に,これに付加する
ものとして「支給することができる」とされているにすぎず(甲1),その額を
具体的に算出する規定もないのであるから,総会及び理事会のいずれにおいても
この点についての決議,承認のない本件においては,いまだこれが具体的権利と
して発生したものということはできない。
(4) 以上によれば,その余について判断するまでもなく,本件規程又は慣行に基
づき退任慰労金及び功労金の各請求権が発生したものということはできず,この
点に関する控訴人の主張は理由がない(なお,控訴人は,本件決議が無効である
として,控訴人には退任慰労金等の請求権がある旨主張するが,上記判示のとお
り,功労金については勿論,退任慰労金についても,総会の承認(決議)が支給
の要件であるというべきであるから,本件決議が仮に無効であったとしても,控
訴人に対する退任慰労金等の支給についての総会の承認(決議)があったことに
はならず,結論を左右しない。)。
 2 争点(2)について
  (1) 前記のとおり,本件においては,退任慰労金の支給について,理事会の
決議のみならず総会による承認(決議)もされていないのであるから,支給額に
ついての定めのない功労金は勿論,退任慰労金についても,本件規程に基づき算
出される額が支給されるとの期待権が当然に生じているということはできない。
  (2) また,控訴人の組合長在任中に,控訴人が本件規程に基づき算出された
退任慰労金を支給し,これについて理事会や総会が特段異議を述べなかった事実
があるとしても,その主たる原因は,控訴人自身が組合長として明確な承認手続
を履践していなかった点にあり,総会の関与の態様等からしても,総会が上記の
ような運用を意識してこれを追認したものとまでは認められないことは前記判示
のとおりであり,この点からみても控訴人の期待が正当なものと認めることはで
きない(なお,甲6,当審における乙11によれば,被控訴人は,B連合会を通
じて,G共助会から,被控訴人を受取人とする退職共済による給付金として43
5万0581円の支払を受けていることが認められるが,上記の給付金について
これを控訴人に支払う旨の合意があったと認めるに足りる証拠はなく,また,そ
のような事情を考慮しても,これが控訴人に支払われるとの正当な期待があった
とも認められない。)。
  (3) さらに,控訴人は,被控訴人理事らが共同して,控訴人には本件規程第
5条に定める事由がないにもかかわらず,総会に対し,これがあるかのような虚
偽の事実を摘示して,控訴人に対して退任慰労金等を支給しない旨の本件決議を
させたものである旨主張するところ,証拠(甲2の1及び2,3の1,乙2)に
よれば,控訴人に退任慰労金を支給しないこととする旨の議案が提出された本件
総会の議案書添付の理由書には,過去5年間赤字を出したため,積立金を積み立
てることができず,この赤字により資本が大きく減少したこと,支給した場合に
平成12年度は大幅な赤字が予想されるとの記載がされていたほか,本件総会に
おいて,理事や事務局からは,「本件規程第5条に該当するとの判断をし
た。」,「赤字については定款において退任慰労金を減額,停止できることにな
っている。」,「交際費等をもう少し使わせてもらったらどうかということが発
端でこういうことになった。」などの説明や発言がされていたことが認められ
る。
    しかし,証拠(乙4の1ないし7,5の1ないし7)によれば,被控訴
人の収支は,控訴人の組合長在任期間中,昭和61年から平成4年および同7年
の各年度は黒字決算であったが,平成5年,同6年,同8年ないし同10年の各
年度は赤字決算であり,これらの年度には約280万円から約660万円程度の
損失金を計上し,特別積立金の取崩しにより損失処理していたこと,また,その
結果,被控訴人の貸借対照表上の資本は平成5年度の約1億1184万円を境に
減少し,平成10年度においては約8500万円となっていたこと,本件規程上
は退任慰労金等の原資として役員退任手当積立金を積み立てることとされていた
が,昭和62年度を最後に役員退任手当積立金の積立てはされず,専ら特別積立
金の積立てがされてきたが,平成5年度以降は積立てがされていないか,されて
も僅かの額であり,かえって,上記のとおり損失処理に使用されたために特別積
立金についても平成5年度の3890万円を境に減少し,平成10年度は206
7万1610円(平成11年度は,未処理損失金434万4587円の処理後は
1632万7023円)となっていたこと,平成11年度は僅かに42万408
7円の剰余金を計上したにすぎなかったことが認められる。これらの事実からす
れば,前記議案書添付の理由書に記載された内容が虚偽のものということはでき
ない。
    また,前記各証拠によれば,控訴人が組合長に就任した昭和61年以
降,被控訴人の事業管理費は昭和61年度の約1900万円から漸増して平成4
年度には約2800万円となり,その後は平成9年度,同10年度は若干減額し
たものの,ほぼ同規模の費用を支出していたこと,事業管理費の約5ないし6割
を占める人件費(役員報酬を含む)も,昭和61年度の約1150万円から漸増
し,平成5年度以降は約1600万円から約1800円程度を推移していたこ
と,この間の役員報酬も漸増して約200万円増加していること,なお,接待交
際費も昭和63年度から平成8年度までは,その以前よりも大幅に増えて約50
万円から約100万円程度の支出をしていたことが認められ,被控訴人が上記の
ような損失を生じた原因にこれらの費用支出の増加が関連することは否定できな
い(事業総利益自体は,増減の繰り返しはあるものの,昭和61年度の約110
0万円から平成10年度の約1450万円と増加している。)。本件規程第5条
との関係についても,本件総会における理事ないし事務局の発言は,理事会にお
いて上記条項に該当する事由があると判断したとの意見を述べたにすぎない(上
記の事実からすれば,その判断も不相当なものとは認められない。)。
    そして,証拠(乙2。総会議事録)によれば,本件総会においては控訴
人も反論し,さらに,理事ないし事務局からは,赤字に対しては理事全員にも責
任があるが,控訴人については代表者としての経営責任の観点から問題にせざる
を得ない旨,控訴人に対しては基準額の半額程度での解決が図れないか打診をし
たが,控訴人が拒否したために支給そのものの是非を判断せざるを得なくなった
旨の説明がされ,討議の結果退任慰労金を支給しないとの決議がされたものであ
って,理事ないし事務局が虚偽の説明をしたとはいえないし,そもそも,不支給
の理由が必ずしも本件規程第5条に該当する事由に限定されないことは前記判示
のとおりであり,本件総会においてはそのような観点から討議や決議がされたも
のである。また,本件総会において,理事から赤字の場合には「定款により」退
任慰労金を減額,停止できるとの発言がされたことは前記認定のとおりである
が,前記証拠によれば,上記発言は本件規程の内容についての説明を承けてされ
たものであって,誤解であることは出席者にとっても明らかな状況であったと認
められる。なお,控訴人は,B連合会から積立金が支払われていることを説明す
べきであったとも主張するが,本件総会における上記のような討議内容からすれ
ば,少なくとも,控訴人指摘のような発言がされず,あるいは説明がされていれ
ば控訴人に退任慰労金を支給しないとする本件決議がされなかったものとは認め
られない。
    したがって,本件決議に関し,被控訴人の理事らが虚偽の事実を摘示す
るなどして,違法に控訴人の期待権を侵害したものということもできない。
 3 以上によれば,控訴人の請求は主位的請求及び予備的請求のいずれも理由
がなく,これらを棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がない。
   よって,主文のとおり判決する。
    広島高等裁判所第3部
     
        裁判長裁判官   西   島   幸   夫
           裁判官   山   口   浩   司
           裁判官   齋   藤   憲   次

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「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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