弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     控訴人等の控訴はいづれも棄却する。
     控訴人Aが被控訴人に対し右自動車の返還を求める請求及びこれが返還
をすること能はざるとき損害賠償支払を求める請求は、これを却下する。
     控訴費用は控訴人等の負担とする。
         事    実
 控訴人等代理人は「原判決中控訴人等勝訴の部分を除き、これを取消す。被控訴
人の請求はこれを棄却する。 被控訴人は控訴人Aに対し別紙目録記載の自動車を
引渡せ。もしその引渡をすることができないときは金八〇〇、〇〇〇円、及びこれ
に対する昭和二九年七月一九日以降完済まで、年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は第一、二審共被控訴人〇負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人
は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人等の負担とする」とのも判決を求め
た。
 当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出援用認否は、
 控訴代理人に於て「一、本件自動車は、原審共同被告Bの所有に属していたとこ
ろ、同人は控訴人C同E父子の紹介によつて、山口県a村大浦漁業協同組合から昭
和二八年二月一日から同年三月九日までの間に買受けた鰮鮮魚代金七一七、八二八
円の未払があり、控訴人Aと訴外FとがBの依頼によつて右代金を右組合に立替支
払つたので、右Bに対しその支払方を求あていたのであるが、Bは同年四月一三日
前記A、Fの両債権者に対し、昭和二八年四月一三日現在金七一七、八二八円の債
務のあることを承認し、その弁済方法として同月二五日限り右債権者の住所に於て
無利息で支払ふことを約すると共に、その担保として本件自動車を前記両債権者に
信託譲渡しその引渡をも了した。
 しかし、その後右Bは約言に反して債務の支払をせず、訴外Gを介して前記担保
物件の自動車を代物弁済として充当する旨の申入をしたので、本件自動車は完全に
右債権者両名の共有となり、更に右両名は、訴外Hに対する借入金債務五〇〇、〇
〇〇円の代物弁済として、同訴外人に同年五月三日譲渡して之を引渡し、爾来本件
自動車は同人の所有に帰し、且つ同人の占有するところであつた。しかるに被控訴
人は、控訴人等三名こ対する第一審判決の仮執行宣言にもとづき昭和二九年七月一
九日山口地方裁判所萩支部所属執行吏Iに執行方を委任し、右Hか保管を依頼して
いた下関市b所在J方に於で同人の意思に反して本件自動車を取上げ、爾来被控訴
人が本件自動車を占有使用して今日に及んでいる。
 二、 被控訴人と原審共同被告K、同Bとの間の内部関係の如何は、控訴人等の
知らないところであるか、仮に本件自動車がBの所有でなかつたとしても、かねて
同人は自ら本件自動車を運転し、その車体マークには「トの商標を記載していた関
係上、控訴人A及び訴外Fは本件自動車がBの所有に属するものと信じて善意無過
失に同人から譲渡引渡を受けたのであるから、控訴人A竝びに訴外Fは完全にその
共有者となつたものであり、従つて同人等の譲受人Hも亦完全な所有権を取得した
のである。尚控訴人AとFとは本件自動車を運行用に供するものとしてBから譲受
けたものではなく、前記のとおり当初は売渡担保として提供を受け、最後に廃車処
分によつて換価の上債権回収に充つるため代物弁済として譲渡を受けたのであるか
ら、道路運送車両法による登録もせず、また、譲渡証明書等の授受もしなかつたの
であつて、上記の様に廃車の目的て自動車の譲渡をなす場合には、同法所定の登録
をなさずとも第三者に対抗し得るのである。
 三、 控訴人C及び同Eの両名は、本件自動車の所有占有の問題については無関
係であるから、右両名に対しこれが引渡及び引渡不能の場合の賠償を命ずるのは失
当である。又所有権確認の請求についても、右控訴人両名は単にBとA、F両名と
の間の債務支払について仲介しただけで、本件日動車には何等関与していないのだ
から、失当といわねばならない。
 四、 以上の諸点からみて、原判決は失当であるからこれが取消を求めると共
に、控訴人Aは民事訴訟法第一九八条第二項に基き仮執行によつて被控訴人の占有
に帰した本件自動車の返還を求め、なおこれが返還不能の場合これに代る損害賠償
として右自動車の価額に相当する金八〇〇、〇〇〇円と右執行の昭和二九年七月一
九日以降完済まで年五分の割合こよる遅延損害金の支払を求める。」と述べ、
 証拠として、乙第一乃至第一三号証(但し第六・七号証は各一・二)を提出し、
当審証人F・L・Hの各証言、当審における控訴本人C尋問の結果を援用し、甲第
六・七・九号各証の成立を認め、第八・一〇号証は不知と述べ、
 被控訴代理人に於て「一、本件自動車がもと原審被告Bの所有に属し同人から控
訴人A及び訴外F両名に譲渡されて共有となり、更に訴外Hに譲渡されたとの点は
否認する。
 仮にさような事実があつたとしても、右抗弁は既に時機に遅れた抗弁であるか
ら、不適法として却下さるべきである。のみならず控訴人Aはもとより、他の控訴
人両名及び訴外F等は、本件自動車か被控訴会社の所有に属することを知悉しなが
ら、Bに対する債権回収に急なる余り本件自動車を強引に持去つたものである。又
訴外Hの如きは控訴人等の使用している自動車運転手で、同人に本件自動車を譲渡
したというのは全くの虚偽であつて、被控訴人の執行を免れんがため隠匿方法とし
て事実上の占有者を転々としているにすぎない。
 二、 仮に控訴人等において右Bから本件自動車の譲渡を受けたとしても、凡そ
自動車の譲渡に関しては、自動車強制執行規則及び道路運送車両法によつて登録名
義の変更等を必要とするところ、控訴人等以下総て右登録手続を経ていないのであ
るから、その所有権移転はこれを被控訴人に対抗し得ないばかりでなく、部分品に
ついても廃車手続をせねばこれが売却はできない旨定められていて(同法第一五
条)、車体・原動機等の処分は総て廃車証明を必要としているに拘らず、控訴人等
は斯様な手続を何等履践していないから、部分品の所有権移転も被控訴人には対抗
できない。
 三、 以上のとおり本件自動車の所有権は依然として被控訴人にあつて、控訴人
等は共同して被控訴人の右所有権を侵害しているのであるから控訴人等対し返還義
務を認めた原判決は正当であるばかりでなく、被控訴人の仮執行宣言附原判決に基
く本件執行には何等違法な点は、ないから、本件控訴はすべで理由でない。」と述
べ、
 証拠として、甲第六乃至第一〇号証を提出し、当審証人Mの証言を援用し、乙第
四・五号証、第九至第一三号証の各成立を認め、その他の乙子各証は不知と述べた
ほか、原判決事実抗示に記載してあるところと同一であるから、これをここに引用
する。
         理    由
 一、 成立に争のない甲第一号証と原審証人N・Oの各証言によれば、別紙目録
の自動車は、昭和二八年一月二四日被控訴会社から原審被告Kに対し代金完済こ至
るまでは被控訴人にその所有権を留保する約定の下に代金一、二〇四、〇〇〇円で
売渡さんたもので、右買受人Kは代金の一部二七〇、〇〇〇円を支払つたにすぎ
ず、約旨(契約と同時に三〇万円その後昭和二八年二月以降同年九月まで毎月末一
一万三千円宛分割支払)に従つた残代金の支払をしないので、自動車の所有権は依
然として被控訴会社に属していたものであることを認めることができる。
 二、 控訴人等は「仮に本件自動車が被控訴会社の所有であつたとしても、控訴
人A及び訴外Fの両名は、これを原審共同被告Bの所有物と信じて昭和二八年四月
中に善意無過失によりBよリ該自動車の讓渡引度を受けたものであるから、民法第
一九二条によつてその所有権を取得しその共有者となつたところ、右両名は更に同
年五月三日訴外Hにこれを讓渡したので、現在右自動車は右訴外人の所有に属す
る」と主張する。そして、成立に争のない乙第四・五号証、第一一乃至第一三号
証、甲第六・七号証と当審竝ひこ原審における控訴本人Cの陳述竝びにその陳述に
よつてその成立を認めることができる甲第二号証、原審証人O・Nの各証言、当審
証人F・Hの各証言及び本件口頭弁論の全趣旨を綜合すれば前記Kは本件自動車を
買受後之をBに使用させて居つたところ、Bは控訴人A及びFに対し鮮魚代金立替
による七一万円余の債務を負担するに至つたので、控訴人A及び訴件残本は、Bの
遠緑にあたり且つ右鮮魚の取引につきBをA等に紹介をした控訴人C竝びにその子
控訴人E等と相談の上、控訴人三名よりBに対し強硬に右債務金の支払方を求めた
が、Bに於てそり支払ができなかつたので、控訴人等は同年四月中旬頃Bをして本
件自動車を右債務の担保として債権者AとFに信託的に譲渡させ、次いでその後右
自動車を以て右債務の代物弁済をさせたものであること、その後右控訴人等は被控
訴会社が本件自動車の所在を追及してその取涙方に腐心してするのを知つて、下関
海産罐詰株式会社の自動車運転手をしていて予てから知う合であつた訴外Hに同年
五月頃その自動車の保管方を依頼して被控訴会社の返還請求を回避していたので、
同年六月一七日被控訴会社に於て控訴人等に対する仮処分決定を得、これに基き同
月二〇日執行した際も遂に本件自動車の所在を知ることができず執行不能に帰した
のであるが、その後約一年を経た昭和二九年四月頃第一審手続が終りに近づくや右
訴外人Hは訴外Jに同人の経営する同市b町所在の自動車整備工場空地に一時本件
自動車を置かして貰ひ度い旨依頼して同所にこれを置いているうち、同年三月二三
日仮執行宣言附原判決に基き仮執行を受け、本件自動車は被控訴会社に漸く返還さ
れるに至つたことを、それぞれ認定することができて、前掲証人F、H竝びに控訴
人C本人の陳述中右認定に反する部分は当裁判所の措信しないところで、他にこれ
を覆えすに足る証拠はない。
 然し乍ら、成立に争のない甲第九号証によれば本件自動車は昭和二八年一月一三
日に被控訴会社の所有とし<要旨>て登録されたまま今日に及んで居ることが明かで
ある。而して、道路運送車両法によれば、すべて運行の用に供する自動車は
登録原簿に登録することを要し、登録を受けた自動車の所有権の得喪は、その旨の
登録を受けなければ第三者に対抗することができないこととなつて居つて、これ等
の規定の趣旨よりすれば、登録原簿に登録せられた自動車については民法第一九二
条の規定はその適用がないものと解するのが相当である。のみならず、控訴人Aと
訴外FがBから本件自動車を譲受くるに際し、登録原簿の記載や前示法律第三三条
所定の譲渡証明書等によつて、所有者を調査し確めた様な形跡は本件すべての証拠
によつてもこれを認めることが出来ないので、仮にA・Fが本件自動車をBの所有
と信じたとしても、左様に信ずるにつき全く過失がなかつたものとは到底認め難い
のである。従つて、民法第一九二条によりA・Fが本件自動車の所有権を取得した
ものとなす控訴人等の主張はいずれにするも採用の限りでない。又控訴人は「本件
自動車は解体処分の上控訴人A及び訴外Fの債権に充当する目的を以て譲渡された
のであるから、民法第一九二条の適用があり、且つ之に基く所有権取得については
登録がなくても第三者に対抗し得る」かの如き主張をするけれども本件自動車につ
いては今日に至るまで被控訴会社の所有としての登録が存在して居り、解体若しく
は用途廃止によるまつ消登録(前記法律第一五条参照)は為されて居らない、のみ
ならず、事実上もA及びFがBから譲受けた当時は勿論のこと、その後Hが預つた
後に至るまで自動車の形態機能を失りことなく、依然として運行に使用されて居つ
たことが、成立に争いない乙第一一号証及び当審証人M及び控訴人Cの陳述等によ
つて明かであるから、右主張も採用に値しない。
 三、 以上の如く本件自動車の所有権が被控訴会社に在るものであり、控訴人等
がその占有者と認むべきものである以上、被控訴人の本件所有権の確認及び自動車
返還の請求は正当として認容しなければならない。控訴人等は、本件自動車の所有
権が控訴人A及び訴外Fの共有に帰したとして「右両名を共同被告としない本訴提
起は不適法として却下さるべきである。」と主張し、又「控訴人等に対する仮執行
宣言附原判決に基き第三者たる前記訴外Hの所有竝びに占有に属する本件自動車に
対し為された執行は違法である。」と主張するもののようであるが、被控訴人は本
件自動車の所有権は依然として被控訴人にあり、控訴人等が不法にこれを占有して
居ることを理由としてこれが本訴請求を為しているものであつて、右事実が認定せ
らるる限り請求は認容せらるべきであつて、控訴人の右の様な主張は全く失当であ
り採用の限りでない。尚控訴人C及び同Eは本件自動車の占有については何等関知
していないもののように主張し、首記の如くBとの間に自動車譲受の契約を為した
者は控訴人Aと訴外Fの両名に相違ないけれども、控訴人D両名も、被控訴会社よ
りの本件自動車の取戻しを防止する為に、A・F等と共同工作したものであり、従
つて第一審判決の仮執行が為されるまでは、控訴人D両名もA・Fと共同して該自
動車を占有して居つたものと認むべきこと前記の通りであるから、同控訴人等に対
する本件自動車所有権の確認の請求はもとより、これが引渡をも求める請求もまた
正当と云わねばならない。而して本件自動車の時価が金八十万円と認めらるること
も原判決理由に示す通りであるから、原判決は相当であり、本件控訴は理由がな
い。
 なお、控訴人Aは前示仮執行による自動車の返還及びその返還不能の場合の損害
賠償として金員の支払を求める申立を為したが、その申立書には所定額の印紙の貼
用がなく、当裁判所の補正命令にも従わないので、不適法として却下すべきであ
る。
 よつて、民事訴法第三八四条、第八九条、第九三条、第九五条、第二二八条を適
用して、主文のように判決する。
 (裁判長判事 森静雄 判事 竹下利之右衛門 判事 厚地政信)

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