弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を広島高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人安部明の上告趣意は末尾添付の書面記載のとおりである。
 論旨第一点は、判例違反を主張するけれども、引用の判例は本件に適切でなく、
論旨第二、三点の単なる法令違反、事実誤認の主張とともに刑訴四〇五条の上告理
由にあたらない。
 しかし職権によつて調査すると、原判決が認定した本件放火の方法は、被告人が
目的物たるA社会保険出張所の建物附近において「火のついた光煙草一本を複写用
紙の薄紙四、五枚の中に包み入れ、更にこれを同用紙の厚い紙四、五枚で包んだも
のを作り、これを同所壁板の下部の板の破れ目に挿入して火を放ち因つて同出張所
建物(建坪八十七坪余)の一部を焼燬したものである」というのであり、その証拠
特に発火の可能性に関する証拠として鑑定人B及び同Cの各鑑定書が引用せられて
いるのである。ところで、両鑑定人に課せられた鑑定事項はいずれも、「(一)昭
和二六年九月一三日午後一〇時頃……A社会保険出張所建物東南側壁外側東南端下
見板の下から二板目か三板目にあつた横に長く長さ六、七寸幅三寸位の破れ穴から、
点火直後のたばこ光一本を大きさ半紙半枚位の複写用紙の薄い紙三枚乃至五枚に包
み、更にその上を同型のザラ紙三枚乃至五枚で包んだものを、板壁間の空隙に投入
放置した場合、右火気により板壁の一部が燃え上るに至ることがあり得るか、(二)
ありとすれば右点火物投入後壁板が焔をあげて燃え出すに至るまでの時間如何、(
三)ありとすれば右点火物投入後本件記録編綴の写真の示す程度に燃えるまでの時
間如何(但し、当時の板壁の構造天候等については、現場検証の際立会見聞したと
ころ並びに本件記録を参照のこと)」というのであり、これに対する鑑定結果は、
鑑定人Bの分(以下、B鑑定と略称する)は、順次「(一)あり」、「(二)一〇
分乃至一五分多くとも二〇分」、「(三)一五分乃至二五分、多くとも三〇分」で
あり、同Cの分(以下、C鑑定と略称する)は、順次「(一)板壁の一部が燃え上
るに至る可能性は極めて少いがあると思われる、」「(二)本件の点火物投入後壁
板が焔をあげて燃え出すに至るまでの時間は、約三〇秒乃至三三分位と推定される、」
「(三)右の点火物投入後本件記録編綴の写真の示す程度に燃えるまでの時間は、
右写真は消火後のものであり、消火の状況、即ち水量、水のかけ方、火勢の衰え方
等不明であり判定し難いが、極めて大胆な推測を下せば、約五、六分乃至四〇分位
ではないかと推定される。」というのである。
 しかるところ、右鑑定事項が、鑑定の前提条件として参照することを指示してい
る当時の気象条件については、原審において既に鑑定人Dに対して鑑定が求められ、
その鑑定事項は、「(一)昭和二六年九月一三日午後一〇時頃のa町における天候、
湿度、気温、風向、風力如何、(二)右より以前一ケ月間における同町の天候、温
度、気温、風向、風力及び雨量如何」というのであり、その鑑定結果(以下、D鑑
定と略称する)は、「昭和二六年九月一三日午後一〇時頃のa町における天候は晴
(雲量七、雲形巻層雲、雲は増加中)、湿度は八〇パーセント、気温は二〇・五度、
風向は北東(もしかすると東)で風速は一ないし二メートルであつたと判断せられ
る。第二項については別紙(一)の通りで天候は概して良く雨量は平年の約二分の
一、温度は平年並(八月は湿り気味で九月は乾き気味)、気温は幾分高目、風は平
年より幾分強目であつたと判断せられる、なお風向は南東一一回、西九回、東五回、
その他六回であつた」というのであつて、これが記録に編綴せられて前掲発火の可
能性等に関する鑑定の参考資料をなしているのである。
 ところが、B鑑定(一)の導かれた理由をみると、気象に関する基礎条件を、「
当時の天候はE測候所長Dの証言((註)証言とあるも鑑定書を指すものと解せら
れる)によつて、過去四日間雨がふらず、その日の気温二五度、湿度七〇パーセン
トで晩夏の日照によつてよく乾燥した状態にあり発火には申分のない状態にあつた。」
と推定している(これは、D鑑定が、鑑定事項(二)に対する鑑定結果としてその
まゝ採用している農林省山口統計調査事務所F出張所の毎日午前一〇時における観
測値によつたものと推測される)。即ち、気温二五度、湿度七〇パーセントである
ことを条件の一つとして、発火の可能性「あり」との結果を導いているものと認め
ざるをえない。しかし、D鑑定は本件発火の日時である昭和二六年九月一三日午後
一〇時頃のa町における湿度は八〇パーセント、気温は二〇・五度であると鑑定し
ているのであるから、その間湿度において一〇パーセント、気温において四・五度
の差が存するのであり、B鑑定はそれだけ燃焼容易な条件の下に結論を導いたこと
となる。しかも同鑑定書には湿度八〇パーセント、気温二〇・五度の条件下におい
てもなお発火の可能性を肯定しうる如き記載の認むべきものは存しないのである。
そうとすればB鑑定は、鑑定結果に重要な影響があると考えられる湿度及び気温の
点につき、与えられた条件とは異なる条件の下に鑑定結果を得たことに帰し、本件
放火手段の特殊性と科学的微妙性とにかんがみれば、直ちに発火の可能性認定の証
拠とすることをえないものである。一方、C鑑定にはかかる瑕疵は認められないけ
れども、その鑑定結果(一)は、前示の如く「板壁の一部に燃え上るに至る可能性
は極めて少いがあると思われる」という極めて消極的なもので、本件放火手段の特
殊性と科学的微妙性とにかんがみれば、B鑑定を除外してこれだけで発火の可能性
を肯定することは到底十分であるとはいえない。してみれば原判決は審理不尽理由
不備の違法があり、結局判決に影響を及ぼすべき法令の違反があつてこれを破棄し
なければ著しく正義に反するものといわなければならない。
 よつて刑訴四一一条一号、四一三条本文に則り、原判決を破棄し、本件を原裁判
所である広島高等裁判所に差戻すこととし、裁判官全員一致の意見で主文のとおり
判決する。
 検察官 稲川龍雄出席
  昭和三二年七月九日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    高   橋       潔

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