弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告Aは,原告に対し,110万円及びこれに対する平成22年9月
12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用のうち,被告Bとの間で生じた費用は,原告の負担とし,被
告Aとの間で生じた費用は,その10分の9を原告の,10分の1を被
告Aの負担とする。
4この判決は第1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告らは,原告に対し,連帯して1100万円及びこれに対する平成22年
9月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告Aが電子掲示板への投稿により,原告の信用及び名誉を毀損し,
プライバシーを侵害したとして,原告が,被告Aに対し,不法行為に基づく損
害賠償及び慰謝料を,被告Bに対し,医療法68条,一般社団法人及び一般財
団法人に関する法律78条に基づく損害賠償並びに被告らに対し,不法行為の
日から完済に至るまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事
案である。
1前提事実(当事者間に争いがない事実か掲記の証拠及び弁論の全趣旨により
認定することのできる事実)
(1)当事者
ア原告は,大阪市内において,美容外科及び形成外科である「C」を開業
する医師である(甲8,乙1)。
イ被告Bは,福岡市内において,美容外科である「D」を開設する医療法
人である(甲1)。被告Aは,医師であり,被告Bの代表者理事長である。
(2)電子掲示板への投稿
被告Aは,電子掲示板「2ちゃんねる」の「C」というスレッドに対し,
別紙投稿一覧のとおり投稿した(甲5。以下「本件各投稿」という。)。
2争点
(1)本件各投稿の違法性
(2)本件各投稿が被告Bの職務を行うについてなされたものか
(3)損害の額
3争点に対する当事者の主張
(1)争点(1)本件各投稿の違法性
【原告の主張】
本件各投稿は,原告に関して虚偽の事実を記載して原告の信用及び名誉
を毀損し,プライバシーを侵害するものであり,原告の評価を貶めて被告
Bの利益を図るためになされた業務妨害である。本件各投稿の内容からし
て,意見や論評の表明とはいえず,人身攻撃に及ぶもので,目的の公益性
や事実の真実性ないし真実相当性はなく,公正な論評として違法性が阻却
されるものではない。また,原告の子どもの名前とクリニックの名称との
関係を具体的に説明した点についてはプライバシーの侵害である。
【被告らの主張】
名誉毀損に当たるか否かは,記載内容とともに,その投稿がなされた経
緯,文脈等を考慮し,その電子掲示板に参加している一般の読者を基準と
して当該投稿が人の社会的評価を低下させる危険性があるかを検討すべ
きである。「2ちゃんねる」においては,真偽が入り混じり,無責任な書
き込みや嫌がらせの書き込みがなされる傾向が顕著であり,閲覧する者は
この特徴を理解した上で閲覧している。現状では,「2ちゃんねる」の投
稿で人の社会的評価が低下させられ損害が発生するということは一部を
除いて現実にはあり得ない。本件各投稿に原告の名誉感情を害するものが
あっても,名誉感情侵害が不法行為を構成するのは,その状況下における
客観的意味が,相手方の人格的価値をまったく無意味なものであるとして
これを否定するものであるが,その程度が著しいなど違法性が強度で社会
通念上到底容認し得ないものである場合であり,本件各投稿はこれに当た
らない。被告Aは,医学的知見を前提に公益の目的のもと本件各投稿を記
載したから,公正な論評として名誉毀損行為に当たらない。本件各投稿は,
電子掲示板にすでに記載された内容,原告が公表している内容を前提にし
たもので,不法行為を構成するような投稿ではないし,プライバシーの侵
害となるようなものではない。
(2)争点(2)本件各投稿が被告Bの職務を行うについてなされたものか
【原告の主張】
美容整形の分野においては,評判の良い医院に遠方から患者が訪れるか
ら,大阪と福岡であっても競合関係にある。原告と被告Aは,同じ美容整
形外科医であるというだけでこれまで関わり合いがなかったのであるか
ら,何の目的もなく原告に対する人身攻撃やプライバシー侵害を行うとは
考えがたく,原告のクリニックに患者が行かないようにして被告Bのクリ
ニックに患者が来るようにすることが目的で本件各投稿を行ったといえ
る。したがって,本件各投稿は,被告Bの職務と関連性がある。
【被告らの主張】
本件各投稿は被告Bの職務と関連性がない。被告Bも同様の投稿をされ
たことがあるが,クリニックの業務にまったく影響はなかったのであり,
本件各投稿も7か所にとどまるから,原告主張の目的で本件各投稿を行っ
ていない。
(3)争点(3)損害の額
【原告の主張】
ア信用毀損による損害
美容整形の分野ではインターネット上の評判が重要である。本件各投
稿によって原告に対する新たな患者の数が減少した。また,本件各投稿
によって現に通院している患者にも心のケアが必要となった。この減収
減益及び活動上の負担などの損害を金銭に換算すると500万円を下
らない。
イ名誉毀損,プライバシー侵害による慰謝料
原告は本件各投稿によって著しい苦痛を受けた。その慰謝料は500
万円を下らない。
ウ弁護士費用相当額
原告は,弁護士に本訴の提起を依頼することを余儀なくされた。被告
らの負担すべき弁護士費用は100万円である。
第3当裁判所の判断
1前記前提事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認めることのできる事実
は以下のとおりである。
(1)電子掲示板「2ちゃんねる」の「C」というスレッドには,本件各投稿を
含め,別紙投稿一覧2のとおりの投稿がされた(甲2)。
(2)原告は,Cのホームページにおいて,その名称が,自己の子供のイニシャ
ルを並べたものである旨を掲載した(乙1)。
2上記の事実(前提事実を含む。)と弁論の全趣旨によれば,次のとおり判断す
ることができる。
(1)争点(1)(本件各投稿の違法性)について
アある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどう
かは,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきものであ
る(最高裁昭和29年(オ)第634号昭和31年7月20日第二小法廷
判決・民集10巻8号1059頁参照)。これを本件についてみると,一
般の読者の普通の注意と読み方からすれば,別紙投稿一覧のレス番号12
8及び129の記事は,原告が美容整形外科の分野において効果があると
通常認められていない施術を行う医師である旨の事実を示すものであり,
レス番号152,170及び201の記事は,原告が技能の低い医師であ
る旨の事実を示すものであり,レス番号175の記事は,原告が施術に失
敗した顧客が自殺未遂した旨の事実を示すものであると読める。これらの
事実は,原告が独自の見解を持ち,技能が低く,患者に多大な精神的ショ
ックを与えるほどの失敗例がある医師であるという意味内容であるから,
整形外科医としての原告の社会的評価を低下させるものであるといえる。
また,別紙投稿一覧のレス番号184の記事は,原告の子どもらの名前
を具体的に示し,これと原告のクリニックの名称との関連性について説明
するものであり,プライバシーにかかわる事項を公にするものということ
ができる。
イしたがって,本件各投稿は,名誉毀損に該当し,プライバシーを侵害す
るものであるから,違法性を有するといえる。
ウ(ア)この点,被告らは,本件各投稿が公正な論評である旨主張する。
しかし,本件各投稿には,「独りよがりの考え」「悪徳医」「口ばっ
かりで腕が伴ってない」「早く貼ってくれよ,Cの自演スタッフさんよ
ぅ」など,原告への誹謗中傷ともいうべき表現が用いられており,その
表現自体からして,医師として医学的見地から公正な論評をしたとは到
底いえるものではない。また,本件各投稿がされた当時の「C」のスレ
ッドの状況をみると,別紙投稿一覧2のとおり,過激な表現によって原
告を誹謗中傷する投稿,原告を擁護する投稿及び同投稿が原告の親族等
によるものである旨の投稿などにより,医学的知見についての議論とい
うよりも,単なる中傷合戦がされている状況にあったといえる。このよ
うな状況下において,通常の医師が医学的見地から公正な論評目的で投
稿するとは考えがたい。さらに,本件各投稿が公正な論評目的であった
ならば,医学的見地からの投稿のみなされるはずであるが,原告の子ど
もらの名前を公にするなど医学とは何ら関係のない投稿もしていること
からすると,本件各投稿が公正な論評目的ではなかったと推認すること
ができる。
したがって,本件各投稿は公正な論評ではなく,違法性が阻却される
ものではない。
(イ)また,被告らは,本件各投稿がされた「2ちゃんねる」の特性を理由
に名誉毀損にはならない旨主張する。
しかし,「2ちゃんねる」においては,事実を伝える投稿と虚偽を伝
える投稿が混在し,スレッドによっては,別紙投稿一覧2のように,誹
謗中傷の投稿が多くなる場合があるから,その読者が投稿内容を読むに
当たっては投稿内容の真偽を注意深く吟味すべきであるとはいえるもの
の,現状,一般の読者がその旨正しく理解し,投稿を読んでも誹謗中傷
された者の社会的評価が低下しないとまでいうことはできない。
したがって,本件各投稿の場所が「2ちゃんねる」であるからといっ
て,社会的評価を低下させないとまでいうことはできない。
(ウ)被告らは,すでに「2ちゃんねる」で明らかにされている又は原告が
公表している内容であることを理由にプライバシー侵害はない旨主張
する。
しかし,前記1(2)のとおり,原告が公表しているのは自身の子どもの
イニシャルにとどまり,名前を具体的に公表していないから,原告によ
って公表されていることはプライバシー侵害を否定する理由にはなら
ない。また,別紙投稿一覧2のとおり,「C」のスレッドにおいて,原
告の子ども4人の名前が明らかにされていることが認められるものの,
原告の病院の名称と関連付けた上で重ねて投稿することでより強調さ
れ,さらなる侵害がされたといえるから,すでに電子掲示板で明らかに
されていてもプライバシー侵害を否定できない。
したがって,被告らの主張はプライバシー侵害を否定する理由となる
ものではない。
エ以上からすると,本件各投稿の違法性を認めることができる。
(2)争点(2)について
医療法68条によって準用される一般社団法人及び一般財団法人に関する
法律78条の「職務を行うについて」された行為とは,外形上職務に属する
行為のほか,職務執行と適当な牽連関係に立つ行為をいうと解するのが相当
である。
これを本件についてみると,被告Bは,前記第2の1(1)イによれば,美
容整形外科の施術等を業務内容とするものであり,本件各投稿は外形上被告
Bの業務の範疇に入らない。また,被告Bの職務執行との牽連関係に関し,
原告は,美容整形の分野においては,大阪と福岡であっても競合関係にある
こと,これまで原告被告A間に関係がないのに何の目的もなく原告に対する
人身攻撃やプライバシー侵害を行うとは考えがたいことなどから,本件各投
稿が被告Bの職務についてなされたものである旨主張する。しかし,原告と
被告Bとが競合関係にあることを認めるに足りる確たる証拠はなく,遠方の
美容整形外科医の下に患者が赴くことがあるにせよ,両者の距離からして,
本件各投稿と被告Bの患者が増加することとの因果関係は希薄であり,現実
的ではない。さらに,別紙投稿一覧2によれば,被告Aが投稿した「C」と
いうスレッドにおいては,無関係の者であっても,誹謗中傷などによって人
格攻撃をすることが常態化していたといえ,原告と被告Aとの関係がないか
らといって,本件各投稿が,被告Bの利益を図るために競合関係者をおとし
める目的でなされたとはいい難い。したがって,本件各投稿と被告Bの職務
執行との牽連関係を認めることはできない。
以上によれば,本件各投稿が被告Bの職務についてなされたものとは認め
られない。
(3)争点(3)について
原告は信用毀損による患者数の減少など業務上の損害を主張するが,これ
を認めるに足りる証拠はない。名誉毀損・プライバシー侵害について,本件
各投稿の内容に照らし,原告の精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は,10
0万円と解するのが相当である。本件の概要にかんがみ,被告Aの不法行為
と相当因果関係にある弁護士費用は10万円である。
3結論
以上によれば,原告の被告Aに対する請求の一部は理由があり,被告Bに対
する請求には理由がない。よって,主文のとおり判決する。なお,仮執行免脱
宣言の申立てについては相当でないからこれを付さないこととする。
大阪地方裁判所第4民事部
裁判官諸井明仁

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