弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成26年6月26日判決言渡
平成26年(行コ)第90号課徴金納付命令決定取消請求控訴事件
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2金融庁長官が控訴人に対し平成24年10月22日付けでした金融商品
取引法185条の7第1項に基づく課徴金の納付命令の決定(平成23年
度(判)第25号)を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,ゲームソフトの開発・販売等を目的とする株式会社である控訴
人が,平成21年3月から翌年12月までの間,3回にわたり,重要な事
項につき虚偽の記載がある有価証券届出書を関東財務局長に提出し,当該
発行開示書類に基づく株式の募集により投資者に自社の株式を取得させた
として,処分行政庁から,金融商品取引法172条の2第1項,185条
の7第1項に基づき,課徴金合計1871万円を国庫に納付することを命
じるとの決定(以下「本件納付命令」という。)を受けたところ,第三者
割当で行われた3回の控訴人株式の発行(以下「本件第三者割当」とい
う。)は,当時の筆頭株主であるA,同人の長男であるB,二男であるC
及び姻族である控訴人代表者(D)において代表者を務めるE株式会社
(以下「E社」といい,A,B,C及びE社を総称して「Aら」とい
う。)から支援・救済を得るために行われたものであるところ,金融商品
取引法172条の2第1項(以下「本件課徴金条項」という。)により課
徴金を課すための要件に関し,①発行者に具体的な経済的利得があること
又はこれが生じる一般的,抽象的な可能性があることを要すると解すべき
であるが,本件第三者割当においてはそれが存在しない,②本件課徴金条
項所定の「重要な事項」とは,投資者にとって真実が明らかになれば投資
判断に影響が生じるものと解すべきであるが,控訴人の行った発行開示書
類の虚偽記載(以下「本件虚偽記載」という。)は,控訴人単体又は連結
の経常損益,純損益及び純資産額の虚偽記載にすぎず,その真実が明らか
になっても,Aらの投資判断に影響しないので,重要事項ではなく,③発
行開示書類の虚偽記載と有価証券を取得させることとの間に因果関係を要
すると解すべきであるが,本件虚偽記載とAらが本件第三者割当を受けた
こととの間には因果関係がなく,④発行者において,「募集又は売出し」
の時点で虚偽記載につき故意又は過失のあることが必要であると解すべき
であるが,3回目の募集に当たり,控訴人代表者には本件虚偽記載につい
て故意がなかったなどと主張し,本件課徴金条項の要件を満たさない本件
納付命令は違法であるとして,その取消しを求めた事案である。
原判決は,①発行者に具体的な経済的利得があること又はこれが生じる
一般的,抽象的な可能性があることは要件とされず,②「重要な事項」と
は,投資者一般を基準として投資者の投資判断に影響を与えるような事項
と解釈すべきであり,控訴人単体又は連結の経常損益,純損益及び純資産
額の虚偽記載である本件虚偽記載は,当該事実につき真実が明らかになれ
ば投資者一般の投資判断に影響が生じるものであり,③虚偽記載と有価証
券の取得との間における因果関係は不要であり,④虚偽記載につき発行者
に故意又は過失は不要であると判断し,控訴人の請求を棄却したところ,
控訴人がこれを不服として控訴をした。
2関連法令等の定め,判断の前提となる事実並びに争点及びこれに関する
当事者の主張は,次のとおり当審における控訴人の主張を加えるほかは,
原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1ないし3(2頁
8行目から25頁22行目まで)記載のとおりであるから,これを引用す
る。
3当審における控訴人の主張
(1)発行者の経済的利得が課徴金額の水準とされており,課徴金制度に不
正利得の吐き出しの趣旨があることや開示書類の提出時点において発行
者に具体的な経済的利得が生じる一般的,抽象的な可能性さえない場合
には虚偽記載の誘因がなく抑止の要請が働かないことからすると,発行
者に具体的な経済的利得があること又はこれが生じる一般的,抽象的な
可能性があることは,条項の文言上明示されてはいないものの,本件課
徴金条項に基づき課徴金納付命令を課す要件と解すべきであり,このよ
うに解釈することは,証券取引法164条1項に関する最高裁判所平成
14年2月13日大法廷判決(民集56巻2号331頁)及び私的独占
の禁止及び公正取引の確保に関する法律97条に関する同平成20年3
月6日決定(集民227号503頁)の趣旨に沿うものである。
(2)行政実務においては,インサイダー取引について未公表事実の認識と
売買等との間に主観的因果関係がなければ摘発されることがないと考え
られているのと同様に,課徴金の非裁量性を否定する結果になっても,
明文にない主観的因果関係を重視しているのであって,本件課徴金条項
の運用に関しても,発行開示書類の虚偽記載と有価証券を取得させるこ
ととの間に因果関係が必要であると解すべきである。
(3)課徴金は,実質の利得以上のものを納付させるものであって,その実
質的機能において制裁にほかならず,責任主義が妥当すべきであるから,
発行者に募集又は売出しの時点で虚偽記載につき故意又は過失のあるこ
とが必要であると解すべきである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の請求は理由がないので,棄却すべきものと判断す
る。その理由は,当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほか
は,原判決「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」の1ないし6
(25頁24行目から37頁23行目まで)に説示するとおりであるから,
これを引用する。
2当審における控訴人の主張に対する判断
(1)本件課徴金条項は,その文言上,発行者において具体的な経済的利得
があること又は経済的利得が生じる一般的,抽象的な可能性があること
を特に明示的に求めていないところ,前記引用に係る原判決説示のとお
り,課徴金の制度は,「資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等
の公正な価格形成等を図」るなどの目的を実現するために設けられた企
業内容等の開示制度に違反する行為をより効果的に抑圧するために創設
されたものであり,開示制度の実効性を確保するためには,違反者たる
発行者が具体的な経済的利得を取得したか否かにかかわらず,開示制度
に違反する発行開示書類の提出行為それ自体を抑止することが要請され
るということができるから,本件課徴金条項に基づき課徴金を課すに当
たり,発行者において具体的な経済的利得があること又は経済的利得が
生じる一般的,抽象的な可能性があることは要件とされていないと解す
るのが相当である。控訴人は,このような解釈はその引用に係る最高裁
判決及び同決定の趣旨に反するかのごとき指摘をするが,上記最高裁判
決は,秘密の不当利用の余地がないと観念される取引の態様については
証券取引法168条1項を適用すべきでないという同条8項があり,当
該立法趣旨が妥当する場合に同条項が適用されないとしたものであって,
適用除外を認める明文のない本件課徴金条項とは事案を異にするし,ま
た,最高裁決定は過料を課すべき構成要件を満たしていることを前提と
して裁判所が違反行為の態様,程度その他諸般の事情を考慮して不処罰
とすることができる旨判示したものであるところ,当該違反の軽重その
他具体的事情が一切考慮されない本件課徴金条項に基づく課徴金の賦課
とは事案を異にするというべきである。
(2)次に,本件課徴金条項は,市場における有価証券の発行と流通を念
頭に置き,発行者から直接取得勧誘を受ける不特定の相手方のみならず,
その相手方から譲渡を受ける可能性がある投資者一般をも保護すること
を目的とするものと解されるところ,投資者一般を基準とすると「重
要」性を満たすにもかかわらず,実際の取得者を基準にすれば「重要」
性を満たさないような場合が本件課徴金条項の対象から除外されること
になると,投資者一般にとって投資判断に「重要」な虚偽記載のある発
行開示書類が市場に出回ることを防止するに不十分となり,投資者一般
の保護が全うできなくなることからすると,本件課徴金条項にいう「重
要な事項」とは,投資者一般を基準として,投資者の投資判断に影響を
与えるような事項をいうものと解すべきである。そうすると,実際の取
得者の認識を基準として投資判断の影響を論ずることは背理というべき
であって,このような主観的要素を考慮すべきではないと解するのが相
当である。
(3)さらに,控訴人は,行政実務上の運用ないし考え方に基づいて本件課
徴金条項における因果関係の要否について判断すべきであると指摘する
けれども,そもそも本件納付命令の法規適合性については,本件課徴金
条項の定める要件を具備しているかが問題とされるべきところ,同条項
においては,発行開示書類に虚偽記載があることと有価証券の実際の取
得者による取得との間に因果関係が必要である旨が明示されているわけ
ではなく,その趣旨に照らしても,金融商品等の公正な価格形成等を図
るなどの目的を実現するために設けられた企業内容等の開示制度に違反
する行為をより効果的に抑圧する必要があり,当該開示制度の実効性を
確保するためには,虚偽記載が原因となって実際の取得者が有価証券を
取得したか否かにかかわらず,開示制度に違反する発行開示書類の提出
行為それ自体を抑止することが要請されるというべきであるから,発行
開示書類の虚偽記載と有価証券を取得させることとの間の因果関係は不
要であると解すべきである。そして,前記引用の原判決説示のとおり,
本件課徴金条項は,違反行為を抑止し,規制の実効性を確保するための
行政上の措置であって,違反行為の反社会性ないし反道徳性を問うもの
ではないという考え方の下で設けられており,個々の事案において課さ
れる課徴金の金額については,違反の程度の軽重などの具体的な事情は
一切考慮されず,一律に,当該違反行為により当該発行者が得たであろ
うと一般的,類型的に想定される経済的利得の額に相当するものとして
規定された金額が課され,それ自体,制裁の実質を有する水準のものと
まではされていないことに照らすと,本件課徴金条項に基づく課徴金は,
責任非難を基礎とした制裁として科される刑事罰とは,基本的な性格が
異なるというべきであるから,虚偽記載につき発行者に故意又は過失の
あることは不要であると解すべきである。そして,同じ社会生活におけ
る不利益処分とはいっても,刑罰とはその趣旨及び機能を異にするから,
責任主義がそのまま妥当するものではないことはいうまでもない。
3以上によれば,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴
は理由がないので,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第21民事部
裁判長裁判官齋藤隆
裁判官栗原洋三
裁判官鈴木正弘

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛