弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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        主    文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人らの負担とする。
         理  由
第1抗告の趣旨及び理由
 別紙抗告状(写し)に記載のとおりである。
第2当裁判所の判断
 1 当裁判所も,相手方には本件各文書の提出義務はないものと判断する。【要旨】そ
の理由は,次のとおり訂正し,抗告理由について2のとおり付加するほかは,原決定の
「第2 当裁判所の判断」の記載を引用する。
 (1)原決定4頁19行目の「69号」を「96号」と改める。
 (2) 同6頁5行目の「適性な」を「適正な」と改め,同頁9行目,13行目及び同7頁6行
目の「訴訟」を「争訟」と改める。
 (3) 同7頁16行目から8頁17行目までを削除する。
 (4) 同8頁21行目の「一般に」から23行目の「いわざるを得ないので」までを次のとお
り改める。
 「上記のとおり,本件各文書について,相手方が民事訴訟法220条による提出義務を
負わない以上」
 (5) 同頁末行の「本件各文書は」から9頁1行目の「該当しないから」までを次のとおり
改める。
 「本件各文書は,民事訴訟法220条3号後段所定の文書に該当せず,かつ,同条4号
ロ所定の文書に該当するから」
 2 抗告理由について
 (1) 【要旨】抗告人らは,民事訴訟法220条4号ロにいう「公務員の職務上の秘密」と
は,公権力作用にかかわる職務上の秘密をいうのであり,本件のような非権力作用に
関する職務上の事項については該当しないと主張する。
 確かに,国が運営する医療機関による医療行為は,純然たる私経済作用であって,国
家賠償法1条にいう「公権力の行使」には当たらないというべきである。しかし,訂正の
上引用した原決定が認定するとおり,本件各文書は,本件医療事故について,行政庁
内部において,相互に自由かつ率直な意見交換を行うことにより,将来の医事紛争が
予想される患者らとの交渉ないし訴訟追行に向けての対応・方針を検討することを目的
として作成されたものであって,非公知の事項に関するものであり,かつ,紛争当事者と
しての国の円滑な交渉ないし訴訟追行の適正を確保するために実質的にも秘密として
保護するに値する事項に関するものであるから,非権力作用に関する職務上の事項で
あるがゆえに「公務員の職務上の秘密」に当たらないとするのは相当でない。抗告人ら
の主張は採用できない。
 (2) 抗告人らは,原決定は,内部文書のうち公務員が組織的に用いるものは一般的
文書提出義務があり,本件各文書を公務員が組織的に用いるものと認めながら,「外部
の者におよそ開示が予定されていない文書」という別のカテゴリーを設けて,民事訴訟
法220条4号ニ括弧書き所定の「公務員が組織的に用いる」文書には当たらないとする
が,そのような解釈手法は,解釈の域を超えるものとして違法であると主張する。
 原決定の上記抗告人らの指摘する部分は,本件各文書が同条4号ロ所定の文書に該
当する以上,結論に影響を及ぼすものではないが,念のため検討するに,上記括弧書
きが設けられた趣旨は,国又は地方公共団体が所持し公務員が組織的に用いる文書
は,文書の所持者である国等の自己使用文書に該当するものではないことを規定上明
確にするためであると解される。
 そして,訂正の上引用した原決定が認定するとおり,本件1の文書は,文部科学省大
学局医学教育課長宛に本件医療事故について報告するために作成された文書であり,
本件2の文書は,本件医療事故について,その状況を病院長に報告するため,また,岡
山大学医学部附属病院医事紛争対策委員会の委員長が,同委員会の招集の必要性
の有無を判断する資料としたり,同委員会が招集された場合に,本件医療事故に対す
る今後の病院の対応を同委員会において審議する場合の資料とするために作成された
文書である。
 そうすると,本件各文書は,本件医療事故について,文部科学省及び岡山大学医学
部附属病院という行政庁内部で組織的に検討する目的で作成されたものと認められる
から,外部の者に開示が予定されているか否かにかかわらず,上記括弧書き所定の
「公務員が組織的に用いる」文書に当たるといわざるを得ない。したがって,同条同号ニ
により本件各文書につき提出義務を否定することはできないというべきである。よって,
この部分についての抗告人らの主張は理由がある。
 3 結論
 以上検討したところによれば,原決定は,本件各文書が民事訴訟法220条4号ニ所
定の自己使用文書に当たるとした点において相当でないが,本件各文書が同条3号後
段所定の文書に当たらないとした点及び同条4号ロ所定の文書に当たるとした点並び
に相手方に本件各文書を提出する信義則上の義務があるとは認められないとした点に
おいては相当であって,結局,相手方には本件各文書を提出する義務があるとは認め
られない。よって,本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり決
定する。
(裁判長裁判官前坂光雄 裁判官 岩坪朗彦 裁判官横溝邦彦)

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