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平成14年10月31日判決言渡
平成11年(ワ)第28661号 損害賠償請求事件(第1事件)
本訴平成12年(ワ)第14022号 損害賠償請求事件(第2事件)
反訴平成12年(ワ)第26907号 預金払戻等請求反訴事件(反訴事件)
主文
 1 被告A,被告B,被告C,被告D及び被告Eは,原告訴訟引受人(株式会社
整理回収機構)に対し,連帯して,金2億円及びこれに対する平成11年12月3
0日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
 2 被告A,被告B,被告F,被告C,被告G及び被告Hは,原告訴訟引受人に
対し,連帯して,金3億円及びこれに対する被告A,被告B,被告F,被告C及び
被告Hについては平成11年12月30日から,被告Gについては平成11年12
月31日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
 3 被告A及び被告Bは,原告訴訟引受人に対し,連帯して,金4000万円及
びこれに対する平成11年12月30日から支払済みまで年5パーセントの割合に
よる金員を支払え。
 4 被告A,被告B,被告C,被告I及び被告Kは,原告訴訟引受人に対し,連
帯して,金1億円及びこれに対する平成11年12月30日からから支払済みまで
年5パーセントの割合による金員を支払え。
 5 被告J,被告A,被告B,被告F及び被告Gは,原告訴訟引受人に対し,連
帯して,金4億円及びこれに対する被告J,被告A,被告B及び被告Fについては
平成11年12月30日から,被告Gについては平成11年12月31日から支払
済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
 6 被告A,被告B,被告C,被告I及び被告Kは,原告訴訟引受人に対し,連
帯して,金5億5950万円及びこれに対する被告A及び被告Cについては平成1
2年7月14日から,被告B及び被告Iについては平成12年7月18日から,被
告Kについては平成12年7月19日から支払済みまで年5パーセントの割合によ
る金員を支払え。
 7 被告A,被告B,被告C及び被告Iは,原告訴訟引受人に対し,連帯して,
金1億8760万円及びこれに対する被告A及び被告Cについては平成12年7月
14日から,被告B及び被告Iについては平成12年7月18日から支払済みまで
年5パーセントの割合による金員を支払え。
 8 被告A,被告B,被告C及び被告Kは,原告訴訟引受人に対し,連帯して,
金2億5290万円及びこれに対する被告A及び被告Cについては平成12年7月
14日から,被告Bについては平成12年7月18日から,被告Kについては平成
12年7月19日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
 9 原告(株式会社国民銀行)の請求をいずれも棄却する。
10 被告Kの反訴請求を棄却する。
11 訴訟費用は,第1事件及び第2事件については,これを100分し,被告A
及び被告Bについてはそれぞれその20の,被告Cについてはその16の,被告F
及び被告Gについてはそれぞれその7の,被告Kについてはその10の,被告Jに
ついてはその4の,被告Hについてはその3の,被告D及び被告Eについてはそれ
ぞれその2の,被告Iについてはその9の負担とし,反訴事件については被告Kの
負担とする。
12 この判決は第9項及び第10項を除き仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
 1 原告の請求
 (1)被告A,被告B,被告C,被告D及び被告Eは,原告に対し,連帯して,
金2億円及びこれに対する平成11年12月30日から支払済みまで年5パーセン
トの割合による金員を支払え。
 (2)被告A,被告B,被告F,被告C,被告G及び被告Hは,原告に対し,連
帯して,金3億円及びこれに対する被告A,被告B,被告F,被告C及び被告Hに
ついては平成11年12月30日から,被告Gについては平成11年12月31日
から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
 (3)被告A及び被告Bは,原告に対し,連帯して,金4000万円及びこれに
対する平成11年12月30日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員
を支払え。
 (4)被告A,被告B,被告C,被告I及び被告Kは,原告に対し,連帯して,
金1億円及びこれに対する平成11年12月30日から支払済みまで年5パーセン
トの割合による金員を支払え。
 (5)被告J,被告A,被告B,被告F及び被告Gは,原告に対し,連帯して,
金4億円及びこれに対する被告J,被告A,被告B及び被告Fについては平成11
年12月30日から,被告Gについては平成11年12月31日から支払済みまで
年5パーセントの割合による金員を支払え。
 (6)被告A,被告B,被告C,被告I及び被告Kは,原告に対し,連帯して,
金5億5950万円及びこれに対する被告A及び被告Cについては平成12年7月
14日から,被告B及び被告Iについては平成12年7月18日から,被告Kにつ
いては平成12年7月19日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を
支払え。
 (7)被告A,被告B,被告C及び被告Iは,原告に対し,連帯して,金1億8
760万円及びこれに対する被告A及び被告Cについては平成12年7月14日か
ら,被告B及び被告Iについては平成12年7月18日から支払済みまで年5パー
セントの割合による金員を支払え。
 (8)被告A,被告B,被告C及び被告Kは,原告に対し,連帯して,金2億5
290万円及びこれに対する被告A及び被告Cについては平成12年7月14日か
ら,被告Bについては平成12年7月18日から,被告Kについては平成12年7
月19日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
 2 原告訴訟引受人の請求
   主文と同旨
 3 被告Kの反訴請求
   原告は,被告Kに対し,金2399万2489円及び内金1735万310
8円に対する平成12年8月11日から支払済みまで年6パーセントの割合による
金員を,内金663万9381円に対する平成12年12月23日から支払済みま
で年5パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   本件は,原告が,貸付先に対して行った融資がいずれも回収不能となり損害
が生じたとして,融資に関与した取締役である被告らに対して,取締役の善管注意
義務違反を理由とする損害賠償請求権に基づき回収不能金額の一部及びこれに対す
る訴状送達の日の翌日から民法所定の遅延損害金の支払を求めて訴えを提起した事
案である。原告は,その後,上記債権を株式会社整理回収機構に譲渡し,同社が訴
訟引受けを行っている。
   これに対し,被告Kは,原告が被告Kに対する損害賠償請求権を有しないに
もかかわらず,これを理由として,被告Kの定期預金及び定期積金を相殺処理する
とともに,被告K所有の不動産を仮に差し押さえたとして,定期預金等の一部の払
戻し及び不法行為による損害の一部の支払い,並びにこれらに対する遅延損害金の
支払いを,反訴として,原告に請求している。
 1 争いのない事実等
 (1)原告
    原告は,昭和28年6月19日,株式会社國民相互銀行の商号で設立さ
れ,同月30日に相互銀行法に基づく相互銀行業の免許を受けて,翌7月1日から
その業務を開始した。原告は,その後,平成元年3月29日に銀行法に基づく銀行
業の免許を受けて,同年4月1日に現在の商号に変更し,普通銀行に転換した。
    原告は,バブル経済崩壊後,不良債権が拡大し続け経営が悪化し,信用不
安が高まり,平成11年4月8日以降,預金者による預金引き出しの急増により,
自力での資金調達及び予想される預金流出に対応することが困難となったことか
ら,同月11日,金融機能の再生のための緊急措置に関する法律(以下「金融再生
法」という。)68条1項に基づき,金融再生委員会に預金等の払戻しを停止する
おそれがある旨の申出を行い,同日,同法8条1項に基づき,金融再生委員会によ
り金融整理管財人による業務及び財産の管理を命ずる処分を受けた。
 (2)被告ら
    被告Jは,昭和58年4月1日から平成4年6月25日まで原告の代表取
締役(平成元年3月31日までは代表取締役社長)であった。
    被告Aは,平成元年6月29日から平成4年6月25日まで原告の代表取
締役副頭取,同月26日から平成11年4月11日まで代表取締役頭取であった。
    被告Bは,平成元年6月29日から平成5年3月31日まで原告の常務取
締役,同年4月1日から平成6年6月28日まで代表取締役専務,同月29日から
平成11年4月11日まで代表取締役副頭取であった。
    被告Fは,平成元年6月29日から平成5年6月29日まで原告の代表取
締役専務であった。
    被告Cは,昭和63年4月1日から平成5年3月31日まで原告の常務取
締役,同年4月1日から平成10年6月26日まで代表取締役専務であった。
    被告Dは,平成5年4月1日から平成9年6月27日まで原告の常務取締
役であった。
    被告Gは,平成3年6月27日から平成6年3月31日まで原告の常務取
締役であった。
    被告Iは,平成7年6月29日から平成11年4月19日まで原告の常務
取締役であった。
    被告Kは,平成9年6月27日から平成11年4月19日まで原告の常務
取締役であった。
    被告Eは,平成5年6月29日から平成8年10月31日まで原告の取締
役本店営業部長であった。
    被告Hは,平成元年6月29日から平成5年8月31日まで原告の取締役
新宿支店長の地位にあった。
 (3)原告における融資手続及び決裁権限者
ア 融資の手続
  原告においては,支店と本店営業部とを併せて「営業店」と呼んでおり,また
本店から本店営業部を除いた組織を「本部」と呼んでいた。
  原告における融資手続は,まず,営業店において,貸付案件を受け付け,営業
店長,次長,渉外課長,融資課長,営業課長及び担当者等を含めた店内協議を行
い,貸付案件の内容の検討・審査を行い,その経過を店内融資協議書に記録し,営
業店長が申込み受理の可否を決する。申込み受理を可とされた案件のうち支店長専
決案件以外のものは,営業店において稟議書を起案し,本店審査部に稟議を求め
る。本部審査部においては,営業店からの稟議内容の審査・検討を行い,融資稟議
書に審査部としての意見を付して,融資の決裁権限者の決裁に回すというものであ
った。
イ 融資の決裁権限者
  原告における融資の決裁権限は,貸付先の貸付残高に応じて定められており,
一般取引先については,以下のとおりであった。
  貸出残高5億円以上の取引先        頭取
  貸出残高3億円以上5億円未満の取引先   担当常務
貸出残高2億円以上3億円未満の取引先   審査部長
貸出残高2億円未満の取引先        審査部副部長
本件において問題となる融資は,いずれも貸出残高5億円以上の一般取引先に対す
る融資であり,頭取が決裁権限者であった。
ウ 融資審議会
頭取が決裁権限を有している案件のうち,一般取引先の増額1件につき1億円以上
の案件等については,融資審議会に付するものとされていた。融資審議会の構成メ
ンバーは,頭取,副頭取,専務,頭取が指名する常務,審査部長及び審査部長が指
名する審査部副部長又は審査部次長であり,副頭取,専務又は常務2名以上の出席
を要するものとされていた。頭取が融資審議会の構成メンバーとなったのは,平成
7年10月11日以降であり,同日以降,与信額が20億円以上の貸付先に係る案
件については,頭取の融資審議会への出席が義務づけられた。
 (4)本件各融資の概要
   ア 有限会社陶陶商事(以下「陶陶商事」という。)に対する融資
     原告は,平成6年12月14日,陶陶商事に対し,最終返済期限を平成
27年11月20日と定めて2億5900万円(以下「本件融資1」という。)を
貸し付けた。
     被告Eは担当部店である本店営業部長として,被告B,被告C及び被告
Dは融資審議会のメンバーとして,被告Aは融資決裁権限者として,本件融資1に
関与した。
   イ 株式会社トーコー(以下「トーコー」という。)に対する融資
     原告は,トーコーに対して,平成4年12月24日,返済期限を平成5
年12月24日と定めて,11億7000万円(以下「本件融資2」という。)及
び1億円(以下「本件融資3」という。)を貸し付け,平成5年1月29日,返済
期限を平成6年5月31日と定めて,1億円(以下「本件融資4」という。)を貸
し付けた。
     被告Hは新宿支店長として,被告F,被告C,被告B及び被告Gは融資
審議会のメンバーとして,被告Aは融資決裁権限者として,本件融資2ないし4に
関与した。
   ウ 株式会社トーコーアドに対する融資(以下「トーコーアド」という。)
     原告は,平成9年6月10日,トーコーアドに対して,返済期限を平成
16年6月6日と定めて,5500万円(以下「本件融資5」という。)を貸し付
けた。
     被告Bは審査部及び監査部担当の代表取締役副頭取として,被告Aは融
資決裁権限者として,本件融資5に関与した。
     また,原告は,平成9年7月30日,トーコーアドに対して,返済期限
を平成16年7月6日と定めて,1億1500万円(以下「本件融資6」とい
う。)を貸し付けた。被告B,被告C,被告I及び被告Kは融資審議会のメンバー
として,被告Aは融資決裁権限者として,本件融資6に関与した。
   エ 国際販売株式会社(以下「国際販売」という。)に対する融資
     原告は,平成4年2月6日,国際販売に対して,返済期限を同年4月3
日と定めて13億円(以下「本件融資7」という。)を貸し付けた。被告A,被告
F,被告B及び被告Gは融資審議会のメンバーとして,被告Jは融資決裁権限者と
して本件融資7に関与した。
   オ カミパレス株式会社(以下「カミパレス」という。)に対する融資
     原告は,カミパレスに対して,平成9年7月31日から平成10年6月
1日までの間に,別紙1「貸付債権一覧表」(省略)記載のとおり20件,合計9
0億5100万円(以下「本件融資8から27」という。)を貸し付けた。なお,
被告Aは融資決裁権限者として本件各融資に関与(本件融資16については,被告
Bの代決及び被告Aの承認)した。また,被告B及び被告Cは本件各融資につき,
被告Iは,本件融資8,10,12ないし15,17ないし26につき,被告K
は,本件融資8,9,11ないし13,15ないし21,24ないし27につきそ
れぞれ審議をした融資審議会のメンバーであり,いずれの融資も融資を可として上
位者の決裁に回したものである。
 (5)訴訟引受け
    原告は,平成12年8月14日,被告らに対する本件訴訟による損害賠償
請求権を原告訴訟引受人に譲渡し,同日付の書面で被告らに対してこれを通知し,
同通知は翌日被告らに到達した。
   (甲A12の1及び2,甲A13の1ないし11)
    原告から,平成12年9月26日,原告訴訟引受人に本件訴訟の引受けを
命ずる旨の裁判の申立てがなされ,当裁判所は,同年10月23日,原告訴訟引受
人に本件訴訟を引き受けることを命じる決定を行い,原告訴訟引受人により訴訟の
引受けがなされた。なお,被告らは,原告が本件訴訟から脱退することを承諾して
いない。
 2 争点
 (1)全般にかかわる主張
   (原告及び原告訴訟引受人の主張)
   ア 融資における経営判断について
   (ア)取締役は,会社との間で委任関係に立ち(商法254条3項,民法6
44条),取締役としての職務を行うにつき受任者としての善管注意義務を負う。
すなわち,取締役は,社会通念上,取締役たる地位にある者に通常要求される注意
をもってその職務を行うことが要求される。また,取締役は,その職務を遂行する
にあたっては,法令及び定款の定め並びに総会の決議を遵守し,会社のために忠実
にその職務を遂行する義務も負っている(商法254条の3)。
   (イ)銀行の取締役は,融資を実行するに当たり,安全性の原則,収益性の
原則,成長性の原則,流動性の原則及び公共性の原則の5原則を考慮しなければな
らないが,その中でも安全性の原則を最も慎重に吟味すべきである。
      安全性の原則とは,融資の可否を判断する際には,融資金が当初の約
定どおりに間違いなく安全に回収されることを第一に検討するということである。
預金の受入れ等により資金調達をし,これを貸し付けることによりわずかな利ざや
を稼ぐ銀行業務において,万が一,融資金が回収不能となった場合には,当該銀行
の収益を大きく圧迫し,その存立基盤さえも危うくさせることになるのであるか
ら,銀行の公共的性格からも,安全性の原則が他の原則に優先することは自明のこ
とである。すなわち,銀行の場合には,一般の事業会社と比べれば許容されるリス
クの程度が限定され,取締役の裁量の幅がその分だけ一般の事業会社の取締役より
狭いというべきである。
      したがって,銀行の取締役は,現在及び予想しうる将来の経済情勢
(景気の動向,資産の価格の動向,各業界の発展・衰退の動向を含む)を踏まえ
て,融資先企業の業種,規模,業績,経営者の能力及び保有資産並びにこれらを前
提とする当該企業の発展の見込み等の当該企業の経営状況全般のほか,予定されて
いる返済資金の調達方法とその方法による調達の見込み,従前の融資金の返済状
況,当該融資の必要性,当該融資に係る担保の性質・内容・価値等の諸事情を総合
勘案し,融資金の回収可能性について十分に検討した上で,当該融資を実行すべき
かどうかを判断する必要がある。
      そして,銀行の取締役は,上記諸般の事情を総合勘案し,融資金の回
収可能性について検討した結果,融資金の回収が困難であると判断される場合に
は,当該融資を決裁し,あるいはこれを推進するような行為をしてはならないので
あり,この義務を怠った場合には,当該融資金が回収不能となったことによる損害
を賠償する責任を負わなければならない。
   (ウ)被告らは,第二地銀は都銀と異なり,担保の十分でない取引先にも融
資を行う必要があり,自己の償却体力も勘案しつつ,収益確保の観点も含めて総合
的に融資の可否を判断すべきであり,安全性の原則のみによることはできない旨主
張するが,銀行においては一般の事業会社に比べて許容されるリスクが限定される
ことは既に述べたとおりであり,取引先が十分な資力を有しない場合が多いという
のであれば,融資にあたってはより一層慎重な検討を要するのであって,安全性の
原則を無視して良いということにはならない。
   イ 融資審議会の機能とメンバーたる取締役の責任
   (ア)原告においては,頭取が決裁権限を有している案件のうち,一般取引
先の増額1件につき1億円以上の案件等については,「融資審議会に付する。」も
のとされていた。融資審議会には,重要な案件について,決裁権限者である頭取の
独断を排し,回収可能性等を検討して,慎重に融資の可否について審議をし,貸付
不適格と判断される案件につき,頭取に対し適切な意見を述べる等することを通じ
て頭取の決裁を阻止することが期待されていた。融資審議会に出席した取締役は,
融資金の回収が困難であると判断される場合には,決裁権者の融資実行を阻止すべ
き義務があり,この義務に違反して当該融資の実行を看過した場合には善管注意義
務違反がある。
   (イ)原告の組織体制を前提とすると,取締役において部下が調査した事案
について,これを信頼することは許されるが,稟議書に記載された事実を総合的に
判断して,問題がある場合には,これを質すべきであり,部下の判断をそのまま鵜
呑みにすることまで許容されるものではない。本件各融資には,稟議書及びこれに
添付された書類から回収可能性に疑念を抱くべき事情があったのであるから,これ
を看過し部下の判断を鵜呑みにしたことは取締役としての任務懈怠がある。
   ウ 原告の破綻回避のための融資継続の相当性
     金融機関において「安全性の原則」は,融資の利息と預金者に対する利
息の間のわずかな差額が金融機関の利益であるという点やその行う事務の公共性等
に照らして,絶対的な要請と考えられるべきである。したがって,回収可能性のな
いことが判っているのに,金融機関自体の破綻を回避するために融資するというよ
うなことは到底正当化されない。
     仮に,破綻回避融資が正当化される場合があるとしても,それは金融機
関が再建できる,つまり破綻を回避できると判断されるような事情が必要であり,
金融機関自体の再建時期を明確にした確実な再建計画なくして融資を継続すること
は,先送りに過ぎず,その分損失を拡大させることになり許されない。
     本件各融資は,仮に破綻回避を目的とするものであったとしても,この
ような観点からいずれも許容されないものであった。
   (被告らの主張)
   ア 融資における経営判断について
   (ア)取締役の経営判断が善管注意義務に違反するか否かの審査は,取締役
の経営判断の内容を意思決定の過程とその内容に区別し,その双方について通常の
企業人として著しく不合理なものといえない限り,善管注意義務に違反するもので
はなく,取締役の裁量権を尊重する観点から,経営判断の過程については厳格に審
査するものの,経営判断の内容については謙抑的に審査されるべきである。そして
当該審査は,取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況及び会社
を取り巻く社会・経済・文化の下において,当該会社の属する業界における通常の
経営者の有すべき知見及び経験を基準とすべきである。
   (イ)金融機関は,国民経済そのものに直結する影響力を持ち,日本経済全
体のマクロ的視点からの動きを敏感に読みとり,あるいは国の政策変更にも迅速に
対応することが要求される。また,金融機関の取引先となる貸出先の業種が多種多
様にわたることからして,各業種ごとの専門的知識と業界の最新情報をその都度補
いつつミクロ的に判断し,リスクを回避するぎりぎりの線を見極め,新規有望産業
に融資を行うという,投機的ともいいうる判断を要求される。
      このように,金融機関においては,マクロ的な視点とミクロ的な視点
のバランスをとりつつ,金融政策の実現と,最大限の利益を追求することの二面性
が要求されるのであり,金融機関の取締役の経営判断における裁量の幅は,他の一
般企業の取締役の裁量の幅よりも広いことを承認すべきである。
      特に,原告のようないわゆる第二地銀においては,その資金力,信用
供与能力(同一債務者宛融資限度規制),取引条件(第二地銀のコスト高から来る
貸出金利高)などから,貸出先は零細企業も含めた地元企業が中心となる。したが
って,第二地銀は,信用に全く問題のない企業とのみ取引していたのでは経営が成
り立たないし,融資において保全不足を問題としていたのでは融資先は極めて限ら
れてしまうのであって,保全不足となる場合があることを前提として,融資案件の
採算性,融資先企業の収益力,将来性及び成長性等の単純に数値化できない部分を
もその取引先の信用力に加味した上で総合判断を行い,融資の可否を決するのであ
る。
      また,銀行は,単なる貸金業者ではなく,取引先の企業の育成をも社
会的使命とするものであり,景気の低迷により一時的に資金繰りが困難となり利息
の延滞が生じたような場合に必要な事業資金を融資しなければ,当該取引先の経営
が苦しくなり,既往の融資金も回収できなくなる可能性があることからすれば,直
ちに事業資金の融資をストップするようなことはせずに,金融支援を行い取引先の
業容の回復を図るのが普通である。資金繰りの悪い企業について,融資を継続すべ
きか否かは,高度の経営判断であり,原告の主張するような単純な融資に関する一
般原則に反するか否かだけで判断されるものではない。
      このように,第二地銀は,都銀と比較して,高い貸倒れリスクを内在
しつつ経営がなされるため,毎年相当額の貸倒れが発生しているが,これを償却し
ながらそれ以上の収益を上げて経営を継続しているのであり,融資の可否の判断に
あたっても,自行の償却能力を勘案しつつ,収益確保の観点も含めて総合的に判断
することになる。したがって,第二地銀たる原告の融資にはそもそも全くリスクの
ないものは一つもないのであり,融資稟議書を個別の融資ごとに検討すれば何らか
のリスクを内在しているのは当然であり,そのことをもって違法な融資であるとい
うことはできない。融資を可とした判断が違法か否かは,単にその融資にリスクが
存したか否かの観点ではなく,そのリスクが当時の原告として許容されるリスクと
いえるか否かの観点
から考察されなければならないのであり,原告のような金融機関が少しでもリスク
があると融資してはならず,一切貸倒れを生じさせてはならないかのような主張
は,すべての金融機関が毎年多額の償却を行いつつ健全に経営されている実態を無
視したものであるといわざるを得ず失当である。
   イ 融資審議会の機能とメンバーたる取締役の責任等
   (ア)融資審議会の設置目的は「融資案件の審議」,「大口貸出先個社別与
信限度の決定」及び「優遇貸出先格付の決定」を行うことであり,融資審議会は,
個別の融資案件については,審議はするが決裁権限はなく,また可否の結論を出す
ものでもなく,ただ審議会における議論の状況を通じて,決裁権限を有する頭取に
参考となる意見を提供する諮問機関的な存在であり,融資を阻止する権限はなかっ
たのであって,融資審議会の融資阻止権限を前提とする原告の主張は理由がない。
   (イ)また,融資審議会に出席する取締役としては,以下に述べるような融
資審議会の実状に照らすと,審査の対象について,基本的には,営業部店及び審査
部での審査を経ている案件であることから,これらの段階で十分な審査を経ている
ことを前提とし,構成員がその知識と経験を生かして融資審議会に提出された資料
に不合理な点がないか否かを検討し,当該資料に記載された事実関係を前提に,会
社全体の経営状況を勘案して,大局的な観点から融資の可否について意見を述べれ
ば,取締役としての責任を果たしたことになる。すなわち,原告では,個々の融資
案件は,まず担当営業部店で融資すべきか否かについて判断し,融資すべきである
と判断した場合には,稟議書を作成して本店審査部に案件を上げ,本店審査部でそ
の可否について審査
し,融資を可と判断したものが,融資審議会にかけられ審議されることになってい
た。融資審議会では,前日あるいは当日に配布される稟議書をもとに審議すること
となっており,それ以外に大部な資料は配付されなかった。そして,融資審議会の
メンバーは,当日口頭で審査担当者から概要と補足説明を受け,その上で,配付さ
れた資料と説明から,限られた時間の中で融資の妥当性について審議を行ったので
あり,時間的にも資料の細かな内容を精査することは不可能であった。
   (ウ)個々の被告について
     a 被告Aの主張
       原告においては,融資案件の審査体制は,営業店又は支店における
第一次審査,本店審査部における第二次審査及び融資審議会における第三次審査の
慎重な審査を経た上で,融資が妥当であるとの結論が出た案件だけが頭取に回付さ
れてきていたのであり,業務執行の前提となる事実認定については,巨大な組織を
有する大規模な企業においては,頭取あるいは副頭取が個々の業務についてつぶさ
に監督することは,効率的かつ合理的な経営という観点からは適当ではないし,不
可能である。したがって,融資審議会及び頭取に提出された資料から,さらなる資
料の裏付けが必要不可欠と判断されるような問題性の大きな融資案件といった例外
的な場合を除き,それをもとに判断すれば足りると解するべきである。
     b 被告Fの主張
       被告Fは,平成4年2月から平成5年1月時点まで,一貫して人事
を担当してきており,経歴からしていわゆる「審査」は専門外であった。また,専
務取締役である被告Fは,会社全体の経営を考慮する立場にあり,原告では各部門
の役割が分化されており,当時の担当部が人事部・管理部・事務指導部といった総
務部門の他は「業務推進部」という融資を拡大する部門を担当していたことからす
れば,審査については,支店や審査部の審査内容を基本的に信頼した上で,収益性
も含めた銀行全体の経営の観点からの意見を述べる立場にあった。
     c 被告Cの主張
       被告Cは,経営管理・総務等を所管する専務取締役(あるいは常務
取締役)であり,融資業務は担当していなかった。また,融資審議会は,定例のも
のでも毎週2回開催され,付議される案件も相当の数に上るが,取締役としての本
来の所管業務に加え,営業店指導及び取引先訪問等の業務も抱えている現状では,
融資審議会の審議だけには集中できなかった。このような状況でも,被告Cは,融
資審議会の構成員としての責務を可能な限り果たしてきた。
     d 被告Kの主張
       被告Kは,昭和33年4月に原告に入行した後,主として経理畑を
歩んできたが,平成9年6月27日に常務取締役に就任と同時に融資審議会委員に
任命された。しかし,融資審議会においては,初めて資料が配られ5分で審議が終
わってしまい,審査担当常務,審査部及び支店のいずれもが融資実行に積極的な案
件についてそこで提示された資料だけから問題点を発見し,当該融資実行を制止す
ることは,融資に精通していない被告Kにとって不可能に近い状況であった。
   ウ 原告の破綻回避のための融資継続の相当性
     原告は,不良債権の増加,有価証券運用の失敗等による経営悪化から,
平成4年4月に行われた大蔵省検査の結果,決算承認銀行に指定されたが,その後
の予想もしなかった不況の長期化により,原告の経営改善は順調に進まず,むしろ
悪化の一途をたどっていた。そして,原告の貸付債権のうち,第2分類,第3分類
及び第4分類の分類債権が急増し,その中でも発生した期中に全額償却する必要の
ある第4分類債権と50パーセント以上償却する必要のある第3分類債権が増加し
た。
     この第3分類,第4分類債権について,当期利益を財源にして償却する
場合には,平成4年9月以降は,平成5年3月期を除き,赤字となり償却財源がな
くなってしまう状態であった。このため,原告では,本来,引き当て,償却すべき
である第3分類,第4分類債権の一部について償却を行うことができず,任意積立
金を取り崩してこれを償却財源に充てると,資本勘定が減少する結果,資本を総資
産で割った自己資本比率の低下を招来するとともに,銀行法で一取引先に対する貸
付限度額が資本の20パーセントと定められているのでこの限度額も大幅に下落
し,限度額以上の貸付が発生してしまう事態が生じることとなった。
     自己資本比率が4パーセント未満であった原告にとって,資本勘定が減
少すると,自己資本比率は著しく低下して2パーセント未満となり,一部業務停止
の処分を受けかねない事態となって銀行としては信用力がなくなり,預金の取付騒
ぎ等の日本の金融システム全体に対する重大な影響を及ぼす事態が発生するととも
に,原告が破綻せざるを得なくなることが想定され,原告としては,資本勘定を減
少させるような方法での償却はできなかった。
     このような状況では,金融機関は経営状態の悪化した融資先に対する金
融支援をすぐに取りやめるという措置はとらず,とりあえず金融支援をして融資先
を存続させ,自己の償却能力を見ながら,償却能力の範囲内で段階的に償却し最終
的には金融支援を打ち切って倒産させるというソフトランディング的な処理方法を
採っている。
     本件各融資においても,以上のとおり,各取引先が倒産すれば,原告に
おいて償却財源がなく,一挙に債務超過となって破綻してしまう状況にあったこと
から,原告の存続を図るために,各取引先を存続させてその間に資産を処分させる
などして償却可能な程度までに融資残高を減少させるために行われたものであり,
異常な経済状況における金融機関として他に選択の余地がなかった止むに止まれぬ
融資であり,この融資を承認したことは正当な経営判断であった。
 (2)陶陶商事に対する融資についての被告らの善管注意義務違反の有無
   (原告及び原告訴訟引受人の主張)
   ア 本件融資1は,以下のとおりの問題点を有する違法なものであった。
   (ア)陶陶商事の返済能力の不存在
      陶陶商事の売上高は,平成6年10月の売上高が840万円(平成5
年10月の売上高は1500万円),平成6年11月の売上高が880万円(平成
5年11月の売上高が1300万円)となっており,本件融資1の当時,前年同期
と比べて激減していた。また,陶陶商事の平成6年7月31日現在の財産状況は,
資産の部の合計は3億5540万2308円,負債の部の合計は3億9573万4
935円であり,4033万2627円の債務超過であった。このように,陶陶商
事は,本件融資1当時,業績が悪化していた上,債務超過状態に陥っていた。
      さらに,陶陶商事の代表者である春山一郎(以下「春山」という。)
は,陶陶商事の他にも有限会社世新商事(以下「世新商事」という。)及び有限会
社豊丘商事(以下「豊丘商事」という。)の代表者を務めていたが(以下,春山が
代表者であった会社を総称して「春山グループ」という。),春山グループは,原
告からの既存融資について延滞を繰り返し,本件融資1の稟議段階においても延滞
を発生させており,さらに高利貸しから借り入れざるを得ない程,資金繰りが逼迫
していた。
      したがって,本件融資1の当時,陶陶商事には,もはや返済能力は存
在しなかった。
   (イ)大幅な保全不足
      本件融資1における保全措置については,入居保証金1億3000万
円の70パーセントである9100万円について質権設定がされているが,上記の
とおり資金繰りが逼迫している状況では,家賃等の債務についても同様の延滞状況
が発生していると解されるのが通常であり,質権に優先するオーナーの賃料債権等
の担保として確保されてしまい,返済不能時点での最終的な保全措置としての担保
価値はほとんど期待できないものであった。
      そして,原告の春山グループに対する当時の融資残高は8億2200
万円(このうち陶陶商事に対するものは3億7950万6000円)であり,保全
額は,不動産担保価値9200万円とゴルフ会員権1900万円の合計1億110
0万円であり,差額7億1100万円が保全不足額であった。本件融資1実行後の
春山グループに対する融資残高は,10億7983万7000円となることが見込
まれたのであって,本件融資1の当時,既に,陶陶商事を含む春山グループに対す
る保全は大幅に不足していたのであるが,本件融資1によって保全不足額が一層拡
大することとなるものであった。
      なお,本件融資1に際しては,春山及び同人の妻の春山桃子が極度額
なしの根保証人となっているが,春山桃子は,その正味資産は60万円にすぎず,
春山個人の正味資産も60万円であったことから,人的担保としての評価はゼロに
等しい。
      以上のとおり,本件融資1に際しては,実質的な保全措置は全くとら
れていない状況であった。
   (ウ)借入条件の安易な変更と審査の不備
      本件融資1の借入れ条件は3度にわたって変更され,最終的には当初
の申請案よりも5900万円もの増額となっていたにもかかわらず,その理由は不
明確のままであった。
      さらに,返済方法についても3度変更され,その都度毎月の返済額が
増額されているが,これを裏付けるに足りる営業収入の増額に関する資料は一切融
資稟議書に添付されておらず,返済額が増額することに伴う返済可能性についての
検討が全くなされていなかった。
      また,開業する店舗の営業方法についても当初の申請内容から変遷が
あるが,当時の春山グループの営業状況からして到底実現可能性があるものと解す
ることができるようなものではなく,借入金が当初計画よりも増加したことに伴う
つじつま合わせの数字が記載されているに過ぎない。
   (エ)本件事業計画の実現不可能性
      本件融資1は,陶陶商事が渋谷区宇田川町に新店を出店するための資
金として2億5900万円を融資するというものであったが,当該出店計画は以下
のとおり全く実現可能性が認められないものであった。
     a 計画策定の目的及び動機
       原告の,本件融資1の時点における春山グループに対する融資残高
は,8億2200万円であったが,その返済が滞っている状況であり,差し入れら
れている担保についても不動産とゴルフ会員権を合わせて1億円余りにすぎなかっ
た。また,春山グループでは既存店舗の売上が激減し,店舗を順次閉鎖しており,
担保で保全されていない7億円余りについての回収見込みはほぼ皆無の状況であっ
た。
       そこで,本件融資1は,これを開業資金とする新規事業による売上
によって,既存融資を含めて回収することを目論む,一発逆転的発想によるもので
あり,その考え方自体が相当ではない。
     b 売上計画の問題点
       売上計画は,本件融資1及び既存貸付の毎月の返済分の合計額を前
提に,毎月の営業利益750万円を算定しており,返済額から逆算したつじつま合
わせに過ぎず,その前提となる来客予定者数や一日の予定売上額などについては何
らの客観的裏付けをも欠くものであり合理性を有しない。現に,陶陶商事は本件融
資1の実行後,わずか半年後に早くもその返済の延滞を開始しており,本件売上計
画は直ちに破綻を来しており,その現実性がないことが裏付けられている。
     c 類似業種の事業計画との比較
       本件事業計画においては,キャッシュフロー率は33.9パーセン
トと想定されていたが,これは,被告Eの提出する業種別飲食ビジネス事業計画・
設計資料集(乙ヌ1)の類似業種の事業計画例によるキャッシュフロー率14.3
パーセントあるいは,陶陶商事の平成6年6月段階の実績値6.99パーセントと
比較しても,明らかに過大なものであった。同様に,本件事業計画における人件費
の売上比は13.7パーセントであるのに対して,乙ヌ1によるそれは22パーセ
ント,陶陶商事の実績は28.6パーセントであり,本件事業計画においては人件
費を過小に見積もっていたものといわざるを得ない。
       さらに,乙ヌ1によれば,客単価が1500円から3000円の場
合,店舗規模は30から50坪であり,これ以上の規模になると初期投資の負担が
大きくなりすぎ,採算がとりにくくなるとされているところ,本件事業計画におい
ては75坪を前提としており,過大なものであった。また,乙ヌ1では,賃借料
は,坪8000から1万5000円,初期投資額が1億2000万円として売上高
予測を行っているのに対して,本件事業計画においては,賃借料の坪単価は3万5
000円,初期投資は2億5900万円としており,その負担が過大であることは
明らかであった。
   (オ)まとめ
      以上のとおり,本件融資1の当時,陶陶商事には返済能力が認められ
ないにもかかわらず,実質的な保全措置は全くとられず,また本件事業計画につい
てもその実現は不可能なものであったことからして,本件融資1は,回収可能性の
ない不当な融資であった。
   イ 被告らの注意義務違反
   (ア)被告A
      被告Aは,本件融資1の当時,原告の代表取締役頭取として原告の業
務を統括しており,本件融資1の決裁権者であり,本件融資1以前は,平成4年6
月25日までは代表取締役副頭取として,同月26日以降は代表取締役頭取とし
て,陶陶商事を含む春山グループに対する融資に関与していた。
      被告Aは,従来からの春山グループに対する融資への関与並びに本件
融資1に関する融資内伺書及び融資稟議書の記載内容から,本件融資1には上記の
とおりの問題点があること,ひいては本件融資金の回収が困難であることを知って
いたか,あるいは,少なくとも容易に知り得たのであるから,被告Aとしては,本
件融資1を承認する決裁をしてはならない義務があった。しかし,被告Aは,義務
を怠り,本件融資1を承認する決裁を行った。
      したがって,被告Aの本件融資1の決裁は,取締役としての善管注意
義務・忠実義務に違反することは明らかである。
   (イ)被告B,被告C及び被告D
      本件融資1の当時,被告Bは原告の代表取締役副頭取として,被告C
は原告の代表取締役専務として,被告Dは常務取締役として,いずれも代表取締役
頭取を補佐する立場にあり,かつ,融資審議会の構成メンバーであった。
      被告B,被告C及び被告Dは,本件融資1に関する融資内伺書及び融
資稟議書の記載内容から,本件融資1に上記のとおりの問題点があること,ひいて
は本件融資金の回収が困難であることを知っていたか,あるいは,少なくとも容易
に知り得たのであるから,融資審議会において本件融資1について反対するなどし
て,その実行を制止すべき義務があった。
      しかし,被告B,被告C及び被告Dは,義務を怠り,本件融資1に反
対するなどせず,融資審議会において本件融資1を承認して被告Aに融資稟議書を
回付した。
      したがって,被告B,被告C及び被告Dの行為が取締役としての善管
注意義務・忠実義務に違反することは明らかである。
   (ウ)被告E
      被告Eは,本件融資1の当時,原告の取締役であり,本店営業部長と
して上長の指揮を受けて営業店業務を推進・統括し,所属の職員を指揮監督する職
務権限を有していた。
      被告Eは,平成3年5月13日から平成8年10月30日まで本店営
業部長(平成5年6月29日以降は取締役)を務めており,陶陶商事に対するすべ
ての融資に営業店長として関与していた。
      被告Eは,上記関与並びに本件融資1に関する融資内伺書及び融資稟
議書の記載内容等から,本件融資1には上記のとおりの問題点があること,ひいて
は本件融資金の回収が困難であることを知っていたか,あるいは,少なくとも容易
に知り得たのであるから,本件貸付の申込みを拒絶するなどして,本件融資1の実
行を阻止すべき義務があった。
      しかるに,被告Eは,上記義務を怠り,かえって,陶陶商事からの本
件融資1についての申込みを受けて,本件融資1を終始積極的に推進し,融資稟議
書を作成した上で,本件融資1を承認し,融資稟議書を上位者を通じて被告Aに回
付した。
      したがって,被告Eの行為が取締役としての善管注意義務・忠実義務
に違反することは明らかである。
   ウ 損害
     陶陶商事は,すべての店舗経営に失敗し,平成10年9月15日を期限
として,最後の店舗からも立ち退き,事業の実態はなくなったため,原告の陶陶商
事に対する融資金残金の回収が不可能となった。陶陶商事は,本件融資1につい
て,平成9年3月28日までの間に,合計1728万円を返済したため,その残金
は2億4172万円となっていたところ,同年4月28日,別口の融資金の残金と
一本化され,4億1400万円の融資金とされていた。その後,陶陶商事は,合計
550万円を返済したが,一本化される前の2億4172万円に充当したとして
も,本件融資1の貸付残高は2億3622万円となり,同額の損害を被った。
     よって,被告A,被告B,被告C,被告D及び被告Eに対し,連帯して
内金2億円及び遅延損害金の支払を求める。
   (被告らの主張)
   ア 被告Aの主張
     被告Aは,融資審議会からの報告や融資稟議書の検討から,現状のまま
では陶陶商事に対する既存融資金の回収が困難であること,他方で本件融資1を前
提とする事業計画は,前例のない24時間営業の新規店舗を開業するものであり,
売上の大幅な増加が見込まれたこと,資産売却等のリストラ計画の下にリストラが
推進されており,収支の改善が見込まれたこと,陶陶商事は平成5年中までは順調
に業績を伸ばしていたこと,融資審議会も本件融資1に賛成していたことなどか
ら,保全が万全とはいえないとしても,本件融資1を実行して既存貸付も含めて回
収を図るべきであると判断して決裁をした。
     したがって,被告Aの判断は,取締役の裁量の範囲内にとどまるもので
あり,善管注意義務に違反しない。
   イ 被告Bの主張
     被告Bは,本件陶陶商事に対する融資については反対意見であり,融資
内伺についての融資審議会でも反対意見を述べたのであり,本件融資内伺の融資審
議会は3回も開催された。
     最終的には,本件の担当者である本店営業部長の被告Eによる,経営状
態が悪化している陶陶商事に対する既存の融資金の回収を図るためにも,新規事業
資金を融資して新規事業をやらせる必要があるとの説明を信じ,消極的ながら賛成
した。
     しかし,被告Bは,陶陶商事の経営者である春山に,本件融資1を受け
て渋谷にバイキング専門店を出店し,既存の融資金を含めて確実に返済する意思が
本当にあるのかを確認する必要があると考え,融資審議会で「春山の意思が確認で
きれば,再度のチャンスを与えてもよい。」旨の発言をし,さらに,その意思を自
ら確認するため,平成6年12月6日に春山夫婦に直接面談したりした。
     以上のとおり,被告Bは,本件融資1について当初反対意見を述べた
り,経営者の能力,意思を自ら確認するなど,副頭取としてできるだけの義務を果
たしており,善管注意義務,忠実義務違反はない。
   ウ 被告Cの主張
     被告Cは,融資審議会で配付された資料からして,本件融資1について
疑問が残ったので,「10億円以上の資産家の保証が必要である。」旨の発言をし
たのであり,当該融資について慎重な態度で臨むように意見を表明し,取締役とし
ての責任を果たしている。
   エ 被告Dの主張
     被告Dは,陶陶商事に関する融資審議会において,審査部職員の説明及
び当日配布された資料に基づいて,陶陶商事の代表者である春山が従来その経営に
失敗を重ねており,税金の滞納等があることからすれば,経営能力のないことが明
らかであるから,追加融資に対する返済の可能性が危ういため,融資には反対であ
ると意見を述べた。しかし,被告Eなど長年中小零細企業を対象に融資実務を担当
してその体験の豊富な委員たちが,貸し増しによって経営が回復し,貸出金の回収
可能な状態になることを目指すことができると説得され,被告Dは,原則論を述べ
るのみの反対論には限界があると判断をし,平成6年11月30日に開催された融
資審議会において,「可」の部分に押捺した。
     以上のとおり,被告Dは,その義務を果たしたのであり,原告に対して
損害を賠償する責任はない。
   オ 被告Eの主張
     本件融資1が持ち込まれた当時,陶陶商事に対する既存の融資残高は8
億2200万円で,担保は不動産担保とゴルフ会員権を併せて1億1100万円し
かなかった。そして,春山グループでは既存店舗の売上が減少し,順次閉鎖してい
たのであり,担保で保全されていない既存の融資金を回収できる見込みは皆無であ
ったため,本件融資1を実行しなければ,7億円以上の損失が出ることが明らかで
あったが,このような償却に関する判断をし得る立場にはなかった。
     他方で,本件融資1は,新規事業を前提とするものであり,新規事業が
失敗すれば,新たな損失を背負い込むことになるものであったが,新規事業が成功
すれば,既存の融資を含め融資金を回収できる唯一の方法でもあった。そこで,被
告Eは,事業計画の検討を行ったところ,その内容は,出店予定の新規店舗につい
ては,控えめな売上数値及び妥当な経費の額で構成されており,立地条件は極めて
有利で,計画されている中華料理店の業態は新しい業態のニューチャイニーズで対
象客層とよく適合していることが認められ,事業計画を遂行すれば,既存融資金の
回収が可能であると判断された。
     ただし,同時に,新規店舗の出店にはかなりの多額の新規融資が必要で
あった。そこで,当時,被告Eは,本店営業部長である使用人兼務取締役であり,
原告の経営に関する事項を大所高所から判断するに適した立場になく,新規融資に
ついては当然リスクも内包し金額も多額であるため,償却の問題も含めて融資内伺
制度を利用して本部の判断を仰ごうと考え実行したのであり,被告Eは,自らに課
せられた具体的義務を忠実に果たしたのであって,原告に対して損害を賠償する責
任はない。
     被告Eの判断の内容は以上に述べたとおりであるが,本件事業計画は乙
ヌ1記載の類似業種の事業事例と比較しても遜色ないものであり,本件事業計画は
客観的にも実現可能性を有していたことは明らかであるから,被告Eにおいて注意
義務違反を問われる理由はない。
     すなわち,業種別飲食ビジネス事業計画・設計資料集(乙ヌ1)によれ
ば,点心・飲茶を主体とした中華居酒屋における店舗規模が40坪(80席),客
単価が2800円,年間売上高が2億1600万円とされ,点心・飲茶スタイルの
居酒屋における店舗規模が営業面積25坪(64席),客単価が3000円,年間
売上高が2億0736万円,中華ファミリーレストランにおける店舗規模が72
席,客単価が時間帯により750円から1200円,営業時間が午前11時から深
夜1時30分,月商が1420万円とされていたところ,本件事業計画における店
舗規模は75坪(120席),客単価は時間帯により700円から2500円,営
業時間は24時間,年間売上高は2億6700万円,月商は2190万円とされて
おり,本件事業計画の
予想売上数値は,前記の事例と比較しても控えめなもので,現実感がある妥当な数
値であった。
     また,仮に本件事業により本件融資1及び既存融資分の全額の回収がで
きなくとも,本件融資1以上の回収が図られれば,本件融資1を実行するメリット
はあったというべきであり,この点からも被告Eの判断には合理性があったという
べきである。
 (3)トーコーに対する融資についての被告らの善管注意義務違反の有無
   (原告及び原告訴訟引受人の主張)
   ア 本件融資2,3及び4は,以下のとおりの問題点を有する違法なもので
あった。
   (ア)返済能力の不存在
      本件各融資の当時,原告は,トーコーの格付をCランク(企業の内
容,取引振りから見て,現状維持の先又は現状維持を図りながら,実際の把握を行
い,今後改善を図るとともに格上げを図っていく先)としており,営業利益は,平
成4年8月期には1100万円の黒字であったが,平成3年8月期には5500万
円の赤字であり,経常利益も,平成3年8月期及び平成4年8月期の2期連続で赤
字であった。また,平成4年9月以降,トーコーの流動性預金の平均残高は急減し
ており,融通手形のやりとりが開始され,手形割引金額も急増するなど資金繰りに
も余裕がなかった。
      原告は,本件融資2及び3の当時,トーコーに対し8億9561万4
000円の債権を有していたが,トーコーの営業収益からは元金の返済が不可能な
状況に至っており,融資金残金のうち6億1000万円については大蔵省の検査に
より長期固定を理由として第2分類として査定されている状況にあった。
      よって,本件融資2ないし4の当時,トーコーには返済能力が認めら
れなかった。
   (イ)大幅な保全不足
      本件融資2及び3の実行前の原告のトーコーに対する融資残高は,8
億9561万4000円であり,保全不足額は約3900万円であった。ところ
で,本件融資2ないし4に対する担保は,東京都渋谷区富ヶ谷○丁目○○番○○の
土地(以下「富ヶ谷物件」という。)に極度額10億1000万円の根抵当権を設
定し,併せて,静岡県伊東市十足の土地建物(リゾートマンション)に極度額3億
円の根抵当権を追加設定するというものであったが,伊東市のリゾートマンション
については,既に,原告の別債権の担保として極度額3億円の根抵当権が設定され
ており,担保余力はほとんど存在しなかった。このため稟議書の記載上も本件融資
2及び3の実行後の保全不足額は6億5500万円となり,本件融資4実行後のそ
れは8億1200万円
となり大幅な残金不足が出ていた。
      しかしながら,上記は富ヶ谷物件の価格を10億1000万円として
のものであるが,実際には富ヶ谷物件の当時の時価は4億9500万円にすぎなか
ったことから,これを前提として原告の担保評価規程により64パーセントの減価
を行うと,本件融資2及び3実行後の保全不足額は9億8400万円,本件融資4
実行後のそれは11億4100万円となり,実際の保全不足額は稟議書記載の保全
不足額をさらに大幅に上回るものであった。
   (ウ)事業計画の実現可能性の不存在
      本件融資2から4は,トーコーの「富ヶ谷健康センター建設プロジェ
クト」に対するものであったが,その事業計画は以下のとおり極めてずさんであり
実現可能性が認められないものであった。そして,実際にも,上記事業計画は実現
しなかったのみならず,富ヶ谷物件の購入に際して実現に向けた計画が検討された
事実も窺われない。
     a 企業体力を無視した過大融資
       トーコーが原告に提出した事業計画書によれば,プロジェクト全体
の投資金額を23億1000万円とし,入会金7億円分を除いた16億1000万
円を,借入金により調達し(本件融資2及び3の時点),あるいは,プロジェクト
全体の投資金額26億4550万円とし,入会金8億円分を除いた18億4550
万円を借入金により調達する(本件融資4の時点)ものであった。しかしながら,
トーコーの資本金はわずか200万円であり,従業員80人と決して大きいとはい
えない株式会社であり,平成3年8月期及び平成4年8月期と2期連続経常赤字で
あった。そのうえ,トーコーは,「伊東リゾートマンションプロジェクト」に失敗
し,多額の借入金に対する金利負担が発生したことにより,業績が悪化していた。
そして,本件融資2
ないし4の当時,トーコーは,既存融資金のうち6億1000万円について,元金
の返済が不可能な状態に至っていたため,原告のトーコーに対する債権は長期固定
化を理由として大蔵省により第2分類として査定されていた。
       したがって,トーコーには,「富ヶ谷健康センタープロジェクト」
に投入することのできる自己資金が全くない状況であった。
       以上のような状況にあるトーコーが,原告からさらに13億700
0万円もの多額の借入れをした上で,23億1000万円ないし26億4550万
円もの巨額の資金を投入して本件プロジェクト事業を計画するなどということは,
明らかに過大投資であり,トーコーの財務内容を一層悪化させる危険性が高かっ
た。
     b 営業利益の実現不可能性
       本件事業計画は,渋谷区富ヶ谷に「健康センター」を建設すること
により,初年度から年間8億2600万円の収入をあげて,5億3160万円の支
出を控除した2億9440万円の年間営業利益を実現しようというものであった。
しかしながら,その積算の前提となる個々人の収入項目について一人当たりの利用
単価や1日あたりの利用人数は客観的な裏付けを全く欠くのみならず,事業開始の
初年度から毎年2億9440万円の営業利益を実現できるという収支予測は当時の
一般的な会員制ヘルスセンターの経営の実態からかい離したものであった。
     c 資金計画の不合理性
       本件融資2及び3の時点で提出された本件事業計画では,23億1
000万円の創業費が計上されているが,これに対する収入として会員権の入会金
7億円が見込まれている。しかし,本件当時は既にバブル経済が崩壊しており,会
員権販売による7億円もの資金調達が実現可能であったのか疑わしかった。さら
に,創業費と入会金との差引き金額である16億1000万円のうち,原告からの
借入金である本件融資2及び本件融資3の合計12億7000万円以外の分である
3億4000万円については,事業計画書上,これをトーコーがどのような方法に
より調達するのか全く言及されてはいない。したがって,プロジェクト全体に必要
な資金である23億1000万円のうち,原告の融資金12億7000万円を控除
した残額10億400
0万円については,資金調達の具体的な実現可能性はなく,本件事業計画は,不確
実な資金計画を前提とするものであった。そして,このことは本件融資4の時点で
提出された事業計画についても同様に当てはまるものであった。
   (エ)「飛ばし」目的の融資であることについて
      本件融資2から4は,上記のとおり回収困難なものであったが,その
ような本件融資2から4をあえて実行したのは,本件各融資が不良債権を「先送
り」させる目的で,いわゆる「飛ばし」を実現するために実行されたものだったか
らにほかならない。
      すなわち,本件融資2は,倒産した地創工業株式会社(以下「地創工
業」という。)所有の担保不動産をトーコーに時価を著しく上回る価格で購入さ
せ,当該購入代金によって,地創工業に対する原告及び原告の子会社であるこくぎ
んリース株式会社(以下「こくぎんリース」という。)の合計9億円の不良債権を
回収したという形式を整え「先送り」し,「飛ばし」を実現するために実行された
ものであった。また,本件融資3及び4は,当該「飛ばし」の受皿となってくれた
トーコーに対する「謝礼融資」として実行されたものであった。
      このように不良債権の「先送り」,「飛ばし」の目的で本件融資2か
ら4を実行すべきであるという結論が先行しているため,本件融資2から4に対す
る審査は,形式的なものにとどまり,実質的な審査は全く行われなかった。
   (オ)まとめ
      よって,本件融資2から4は回収困難であることが明らかであるにも
かかわらず,本件融資2は不良債権の「先送り」,「飛ばし」として,本件融資3
及び4はそのための「謝礼融資」として実行されたものであり,預金者から集めた
資金を安全確実に運用すべき責任(安全性の原則)を負う銀行の行う融資として
は,到底許されるものではなく,違法な融資であることは明らかである。
   イ 被告らの注意義務違反
   (ア)被告Aの責任
      被告Aは,本件融資2から4の当時,原告の代表取締役頭取として原
告の業務を統括しており,本件融資2から4の決裁権者であった。したがって,被
告Aは,銀行の取締役として,諸般の事情を総合勘案し融資金の回収可能性につい
て検討した結果,融資金の回収が困難であると判断される場合には,当該融資を推
進するような行為をしてはならないことはもちろん,当該融資を決裁してはならな
い善管注意義務・忠実義務を負っていた。
      しかし,被告Aは,融資稟議書の記載内容等から本件融資金の回収が
困難であることを認識していたか,あるいは,少なくとも容易に認識し得たにもか
かわらず,回収困難である違法な本件融資2から4を承認する決裁を行った。
      また,被告Aは,①本件融資2及び3の受付日(平成4年12月21
日)前である平成4年12月11日ないし同月16日ころに,被告Hから本件処理
案の説明を受けてこれを了承し,②平成4年12月16日午前10時に,トーコー
の社長である夏川太郎と面談して,同人に対してトーコーが本件土地を引き取るの
であればトーコーに対して全面的に支援すると述べるなどして,金額は明確にしな
かったもののトーコーに対して運転資金としての謝礼融資を行うことを約束し,③
平成4年12月16日午後6時に,秋野八丁堀支店長(以下「秋野」という。)に
対して,被告Hが発案した処理案に基づく10億円以上の融資及び謝礼融資として
の運転資金1億円の融資をトーコーに行ってよい旨回答するなど,回収困難である
違法な本件融資2か
ら4を推進するような行為をした。
      以上により,被告Aは,本件融資2から4について,銀行の取締役と
しての善管注意義務・忠実義務を怠った。
   (イ)被告F,被告B,被告C及び被告Gの責任
     a 本件融資2から4の当時,被告Fは代表取締役専務として,被告B
及び被告Cは常務取締役として,被告Gは常務取締役審査部長として,いずれも代
表取締役を補佐する立場にあり,かつ,本件融資2ないし4の可否を審議する融資
審議会の構成メンバーであった。したがって,被告F,被告B,被告C及び被告G
は,銀行の取締役として,諸般の事情を総合勘案し融資金の回収可能性について検
討した結果,融資金の回収が困難であると判断される場合には,当該融資を推進す
るような行為をしてはならないことはもちろん,決裁権者の融資実行の決裁を制止
すべき善管注意義務・忠実義務を負っていた。
       しかし,被告F,被告B,被告C及び被告Gは,融資稟議書の記載
内容等から本件融資金の回収が困難であることを認識していたか,あるいは,少な
くとも容易に認識し得たのみならず,以下に述べるとおり本件融資2が「飛ばし」
であり,本件融資3及び4がその実現のための「謝礼融資」であることを知った上
で,回収困難である違法な本件融資2から4に反対するなどして制止せずに,融資
審議会において本件融資2から4を承認して決裁権者である被告Aに本件融資2か
ら4に係る融資稟議書を回付した。
     b 被告Fの個別の事情
       また,被告Fは,①本件融資2及び3の受付日(平成4年12月2
1日)前に,管理部担当常務として,被告Hの本件処理案の内容を検討した上で,
原告新宿支店が1億円,こくぎんリースが7億円を回収した形となることから,上
記処理案に賛成し,②平成4年12月17日に,謝礼融資として1億円の貸付を実
行することに対して不安を述べた秋野に対して,被告Gと一緒に,頭取以下役員全
員が承知しているので心配する必要はないとの対応をし,③平成5年1月27日
に,夏川太郎から運転資金として2億円の謝礼融資の要求を受け,本部審査部にお
いて被告G及び被告Hとともに協議をした上で,「トーコーからの借入れ申込み
は,資金使途が不明確であり,担保もない。謝礼融資の金額について5億円出すと
いう約束はしていない。
しかし,謝礼融資をすること自体は約束しているので,運転資金として1億円を追
加貸付する。ただし,今回の1億円の追加貸付で謝礼融資は打ち切る。建物につい
て追加貸付の要求があった場合に原告として貸付するかどうかはそのときになって
考える。」という結論を出して,本件融資4の実行を決定するなど,回収困難であ
る違法な本件融資2から4を推進するような行為をした。
     c 被告Gの個別の事情
       また,被告Gは,①本件融資2及び3の受付日(平成4年12月2
1日)前に,管理部担当常務として,被告Hの本件処理案の内容を検討した上で,
原告新宿支店が1億円,こくぎんリースが7億円を回収した形となることから,上
記処理案に賛成し,②平成4年12月16日午前10時に,被告Aとともにトーコ
ーの夏川太郎と面談して,同人に対してトーコーが本件土地を引き取るのであれば
トーコーに対して全面的に支援すると述べるなどして,金額は明確にしなかったも
ののトーコーに対して運転資金としての謝礼融資を行うことを約束し,③平成4年
12月16日に,夏川太郎に対し「7億円の土地を10億円で引き取ってもらうこ
とになるがそれでいいか。」などと念を押し,富ヶ谷物件を時価と大きくかい離し
た価格で買い取るこ
とにより飛ばしの受皿となることについての確認を求め,④平成4年12月16日
午後3時10分に,秋野を本店審査部に呼び出し,上記処理案による貸付をトーコ
ーに対して行うように指示し,⑤平成4年12月17日に,謝礼融資として1億円
の貸付を実行することに対して不安を述べた秋野に対して,被告Gと一緒に,頭取
以下役員全員が承知しているので心配する必要はないとの対応をし,⑥平成4年1
2月25日に,原告新宿支店で行われた地創工業とトーコーとの間における本件土
地の売買代金10億1000万円の決裁手続終了後に原告新宿支店を訪れて売買等
の確認を行い,⑦平成5年1月27日に,夏川太郎から運転資金として2億円の謝
礼融資の要求を受け,本部審査部において被告G及び被告Hとともに協議をした上
で,「トーコーから
の借入れ申込みは,資金使途が不明確であり,担保もない。謝礼融資の金額につい
て5億円出すという約束はしていない。しかし,謝礼融資をすること自体は約束し
ているので,運転資金として1億円を追加貸付する。ただし,今回の1億円の追加
貸付で謝礼融資は打ち切る。建物について追加貸付の要求があった場合に原告とし
て貸付するかどうかはそのときになって考える。」という結論を出して,本件融資
4の実行を決定するなど,回収困難である違法な本件融資2から4を推進するよう
な行為をした。
      以上により,被告F,被告B,被告C及び被告Gは,本件融資2から
4について,銀行の取締役としての善管注意義務・忠実義務を怠った。
   (ウ)被告Hの責任
      被告Hは,本件融資2から4当時,原告の取締役であり,新宿支店長
として上長の指揮を受けて営業店業務を推進・統括し,所属の職員を指揮監督する
職務権限を有していた。したがって,被告Hは,銀行の取締役として,諸般の事情
を総合勘案し融資金の回収可能性について検討した結果,融資金の回収が困難であ
ると判断される場合には,当該融資を推進するような行為をしてはならない善管注
意義務・忠実義務を負っていた。また,被告Hは,取締役会の構成員として,代表
取締役の業務執行を監視する義務(監視義務)を負っていたから,決裁権者である
代表取締役頭取が銀行の取締役としての義務に反するような融資案件の融資稟議書
を決裁しないように監視し,必要があれば取締役会を通じて上記業務執行が適正に
行われるようにする
善管注意義務・忠実義務を負っていた。
      しかし,被告Hは,「飛ばし」及び「謝礼融資」からなる本件融資2
ないし4の枠組みを策定し関与することにより,当然,本件融資金の回収が困難で
あることを認識していたか,あるいは,少なくとも容易に認識し得たにもかかわら
ず,監視義務を怠ったばかりか,かえって,回収困難である違法な本件融資2から
4を積極的に推進した。
      以上により,被告Hは,本件融資2ないし4について,銀行の取締役
としての善管注意義務・忠実義務を怠った。
   ウ 損害
     その後,トーコーは,平成5年9月16日に第1回目の,同月20日に
第2回目の手形不渡りを出し,同月24日,銀行取引停止処分を受け,トーコーに
対する貸付の大部分は,トーコーアドによって重畳的に債務が引き受けられた。し
かし,トーコーアドも,平成10年5月20日に銀行取引停止処分を受け事実上倒
産した。トーコー及びトーコーアドは,平成7年2月1日までの間に,本件融資2
について,合計1359万0191円を返済したため,その残金は11億5640
万9809円となっていたところ,同年6月5日,別口の貸付金の残金と一本化さ
れ,11億8340万9809円の貸付金とされていた。その後,トーコーアド
は,合計4893万円を返済したが,これを一本化される前の11億5640万9
809円に充当したと
しても,本件融資2の貸付残高は11億0747万9809円となっていた。ま
た,本件融資3については,担保に供されていた不動産が任意売却され全額返済さ
れ,本件融資4についても,担保に供されていた不動産が任意売却され3000万
円が返済されたことにより,融資残高は,7000万円となった。
     したがって,本件融資2の残高(11億0747万9809円)と本件
融資4の残高(7000万円)を合算した11億7747万9809円が原告の損
害となる。
     よって,被告A,被告B,被告F,被告C,被告G及び被告Hに対し,
連帯して内金3億円及び遅延損害金の支払いを求める。
   (被告らの主張)
   ア 被告Aの主張
     被告Aは,融資審議会からの報告や融資稟議書の検討から,トーコーの
赤字は,伊東リゾートマンションプロジェクトの借入金利負担が主たる原因であっ
たところ,当該マンションの処分の目途がついたとされたこと,本業の広告企画制
作業は,電通等の大手の取引先を有し,平成4年9月ないし11月の実績も前年度
を上回るなど,順調に推移していたこと,富ヶ谷メディカルヘルスセンタープロジ
ェクトには,カネボウが1階での漢方薬の物販を希望するなど,大手企業の支援が
見込まれ,計画の実現に特に問題はないと思われたこと,保全面についても平成5
年度中には不足分をカバーできると見込まれていたこと,融資審議会も本件各融資
に賛成していたことなどから,本件各融資を決裁した。
     よって,被告Aが,本件融資2ないし4に対して決裁を行ったことにつ
き,善管注意義務ないし忠実義務違反は存在しない。
   イ 被告Fの主張
   (ア)原告は,トーコーに対する融資を実行した当時,まだ相当の償却能力
を有していたのであり,当該融資が貸倒れとなったとしても十分に償却できる状況
であった。第二地銀の取締役として,リスクが皆無ではないものの万一リスクが現
実化しても体力的に十分償却可能な範囲のリスクである案件について,リスクを回
避できるに足る会社の経営内容,方策に相応の根拠が認められる場合,財務体質の
改善を目指し,収益性を向上させるために,融資を行ってよいとの経営判断を行う
ことは,取締役として相当の判断であり,少なくとも経営判断における「著しく不
合理」な点や「裁量権の逸脱」はなく,取締役としての注意義務違反はない。
   (イ)十分な担保を取れずに融資を行う第二地銀では,銀行員が地域に密着
し,頻繁に取引先を訪問することにより,社長と世間話をする中で社長の経営能力
や経営状況を把握したり,店舗のにぎわい状況や事務所内の雰囲気によって商売が
順調であるか否かを把握し,債権管理に役立てていたのであり,これらの事情を総
合判断して融資を可とすることは何ら不当なことではない。
      本件融資2ないし4に関する融資稟議書等からは,トーコーは,国民
銀行の長年の優良取引先であり,業績も上向いてきて営業利益で黒字を達成してお
り,社長年齢も若く今後の成長が期待され,第二地銀として育成すべき企業と考え
られること,懸案の伊東マンションも解決の目処が立ったこと,本件各融資案件は
カネボウ薬品など有力企業が参画して成功が期待されること,国民銀行等としても
本件取引によって1.2パーセントの黒字採算となるほか,既存の融資の回収につ
ながるメリットがあることが読みとれ,被告Fはこれらの事情を考慮して融資を可
と判断した。
      また,トーコーは,このほかの融資とは異なり,当時の他の融資案件
と同程度のリスクしかない,ごく通常の案件であったのであり,融資審議会に提出
された資料・情報からして,融資を可とすることに特に不合理な点のない案件であ
ったのであり,当時の融資審議会の性格,被告Fの経歴と立場,審議時間と与えら
れる資料・情報の制約からすれば,支店及び審査部の判断に異議を唱えないことに
取締役として著しく不合理な点はない案件であった。
   (ウ)なお,原告及び原告訴訟引受人は,本件融資2ないし4がいわゆる
「飛ばし」を目的として実行されたと主張するが,「飛ばし」とは,表面上の決算
の黒字を維持するために,実態のない極めて多数のペーパーカンパニーを設立し,
複雑なう回融資により回収不能の融資先の物件を融資額で買い取らせ,貸倒れ損失
を潜在化させる手法であって,大手金融機関の破綻後にマスコミで使われた用語
で,本件各融資当時はそのような概念すら存在しなかった。本件で物件を購入した
のは,損失負担を問題とせず,むしろ損失を負担するためだけに設立されたペーパ
ーカンパニーではなく,実態がある生きた企業であり,物件価格に妥当性・採算性
があるから購入している。国民銀行は,狭域高密度取引を推進する地元金融機関と
して営業しており,競売
申立てを行うと回収率も下がる上,地元で評判となって営業上も悪影響があるの
で,債権回収は,地元の情報網を駆使して,事業拡大を図る購入者への融資による
任意売却の手法によるのが通例であり,実際に債権回収と新規融資先開拓ないし融
資残高維持の両面で成功を収めてきていた。本件もその一環であって,「飛ばし」
とは全く異なる。
   (エ)本件融資2及び3を実行せずに競売による場合には,原告とこくぎん
リースに回収不能による合計7億円強の損失が確定するが,富ヶ谷物件の時価が8
億円であるとすると本件融資2及び3を実行する場合は,仮にこれらの融資が回収
不能となっても,損失は地創工業分の回収不能金1億円と本件融資2及び3の合計
額12億7000万円から富ヶ谷物件の時価相当分を控除した5億7000万円の
合計6億7000万円となり,かえって有利であり,本件融資2及び3を実行する
ことは経済合理性にかなった判断であるとともに,原告には損害は発生していな
い。
   ウ 被告Bの主張
     本件融資2ないし4は,原告新宿支店長であった被告Hが,新宿支店及
びこくぎんリースが融資していた地創工業が倒産したため,同社に対する融資金を
回収する方法として,同社が所有し原告が担保徴求していた不動産をトーコーに任
意売却して,その売却代金から融資金を回収しようとして,その買取代金等を原告
からトーコーに融資したものである。このスキームを考えたのは,被告Hであり,
被告Bは,その詳しい内容は知らされていなかった。
     被告Bは,本件各融資実行当時は,営業企画部及び事務部担当の常務取
締役であり,融資案件にはかかわっておらず,単に融資審議会のメンバーとして融
資審議会に出席して意見を述べるだけであった。
     本件各融資案件については,営業部店及び本店審査部での審査を経て,
融資審議会にかけられており,本店審査部審査でも本件各融資に対する反対意見は
出されておらず,融資審議会のメンバーに過ぎない被告Bとしては,これら営業部
店及び本店審査部の審査結果に基づいて判断するしか方法はなかった。
     したがって,反対意見を述べなかったとしても,被告Bには,何ら善管
注意義務違反・忠実義務違反はない。
     また,本件融資2ないし4は,融資審議会に諮る前に決裁権限を有する
頭取の被告Aと審査部長である被告G,代表取締役専務である被告Fの三者に対
し,担当者の被告Hが説明をして,三者の了解を得ていたとのことであり,そうで
あるならば,この事前説明の際に本件各融資実行については,決裁権限を有する頭
取の承認があったと解され,その後行われた融資審議会において,仮に,反対意見
が述べられたとしても,本件各融資は実行されていたはずであって,融資審議会で
被告Bが反対意見を述べなかったことと本件各融資の実行との間には因果関係がな
いというべきである。
   エ 被告Gの主張
     本件融資2から4の資金使途である「富ヶ谷健康センター建設プロジェ
クト」についてトーコーから提出された事業計画書の内容は,業界の一般的資料に
照らして検討すれば,現実感のある数字で構成された妥当性のある計画であった
し,同プロジェクトにおける建物建築の見込みも十分存在していた。そして,当時
景気見通しは上向くと一般に理解されていたのであり,本件融資2ないし4につい
ては,十分回収可能性があった。
     他方で,以下述べるとおり,本件各融資を実行する場合としない場合と
では損失に変わりがないのであって,被告Gは種々の利害得失を勘案の上,本件各
融資を実行することが相当であると判断したものであって,その経営判断は合理性
を有するとともに,原告には損害は発生していない。
     すなわち,地創工業に対する既存融資の回収について競売手続によると
原告及びこくぎんリースで7億円強の損失が確定するのに対して,本件融資2及び
3を実行する場合には,地創工業に対する原告及びこくぎんリースの既存貸付金9
億円のうち8億円が回収可能となることから地創工業関係の融資の損失は1億円に
とどまり,仮に本件融資2及び3(合計12億7000万円)が焦げ付いた場合に
も富ヶ谷物件の時価相当額である6億円と貸付金のうち預金に留保される6000
万円を除いた6億1000万円が回収不能となるから,損失は合計7億1000万
円であり,本件各融資を実行する場合としない場合とでは損失に変わりがない。他
方で,原告の実質的子会社であるこくぎんリースは当時5億円を超える損失を償却
できる余力はなく,
またこくぎんリースに資金を貸し付けていた金融機関が資金を引き上げるタイミン
グをうかがっていたこともあり,仮に本件各融資を実行せずこくぎんリースにおい
て償却が必要な事態となるならば,原告においてこくぎんリースに対する債務免除
等により償却財源を捻出するのみならず,他の金融機関の資金の引上げへの肩代わ
りなど多大な負担が生じたことが予想された。本件融資2及び3は以上のような経
営判断に基づき実行されたものであり,取締役の裁量の範囲内であり,また融資の
実行の有無により損失に変わりがないのであるから原告に損害は生じていない。
   オ 被告Hの主張
     本件融資2ないし4は,原告八丁堀支店の担当であり,以下に述べると
おり,被告Hが本件各融資を発案し,積極的に推進した事実はない。したがって,
当時,原告新宿支店長であり,融資審議会のメンバーでもなかった被告Hが,本件
各融資について責任を問われる理由はない。すなわち,新宿支店では,地創工業に
対する2億円の融資残高を有していたが,そのうち1億5000万円が回収困難な
状況であり,こくぎんリースも地創工業に対する融資金7億円のうち,5億500
0万円が損失と予想される状況であった。被告Hは,原告本部より,これらの損失
の軽減を強く指示されていたが,地創工業には追加担保を供出する余力はないこと
も判明していた。このような状況において,被告Hは,地創工業の事務所で夏川太
郎を紹介され,夏川
太郎より「富ヶ谷健康センター建設プロジェクト」なる案を示され,同プロジェク
トに対する融資の依頼を受けるようになった。しかし,被告Hが積極的に同プロジ
ェクトに参画したり,企画策定したということはない。なお,被告Hは,夏川太郎
の融資要請を受け,地理的にも可能性がないとは断定し得ないと判断し,トーコー
に対し具体的資料の提出を求めた。
     また,被告Hは,トーコーが原告八丁堀支店との間で取引があり,既に
6から7億円の融資をしている会社であったことを知り,トーコーが回収不能又は
回収不能が予想される会社であるとの認識はもたなかった。地創工業所有の富ヶ谷
物件は最低競売価格4億円を大きく上回る価値を有すると考えており,トーコー所
有物件を追加担保として徴求することを想定していた。さらに,被告Hは,夏川太
郎から,健康ランド計画自体が当時カネボウと提携する予定であるとの説明を受け
ていた。
     被告Hは,本件融資2及び3について,地創工業及びトーコーより健康
センター計画案が出されたので,同計画案を新宿支店として本部に提示し,本社管
理部を通じ,本部に提案した後,債権回収会議が開かれ,同会議に呼ばれて会議の
席上において内容を説明した。
     被告Hが本件融資2ないし4に関して実際にとった行動は以上であり,
回収不可能な融資をあえて実行したような事実は存在せず,何ら取締役の善管注意
義務ないし忠実義務に違反するものではない。
 (4)トーコーアドに対する融資についての被告らの善管注意義務違反の有無
   (原告及び原告訴訟引受人の主張)
   ア 本件融資5及び本件融資6は,以下のとおりの問題点を有する違法なも
のであった。
   (ア)トーコーアドの返済能力の不存在
      トーコーアドは,平成9年3月以降,原告に対する返済を延滞してお
り,また,本件融資5及び6の当時,高利貸しから多額の借入れをしていた。さら
に,トーコーアドは,決算書に高利貸しからの借入金を記載しないなど粉飾してい
たが,そのような決算書ですらも,売上が低下しており,債務超過状態に陥ってい
た。原告においても,トーコーアドは,「企業資質面で問題ありとされた先」「問
題点を洗い直し,仕振,保全の強化ができない場合には圧縮する先」であるDラン
クとして格付されており,大蔵省検査においても,トーコーアドに対する融資金残
高のうち15億8100万円が第2分類(1億8000万円)及び第3分類(14
億0100万円)とされていた。
   (イ)資金使途の問題性
      本件融資5のうち,2300万円は「金融支援資金」という名目でト
ーコーアドが原告に対して延滞していた元利払いのための資金を貸し付けるという
ものであり,残りの3200万円は,6月10日の手形決裁資金をトーコーアドが
用意できなくなったことから,当該資金を貸し付けるというものであり,本件融資
6のうち,5000万円は,高利貸しである株式会社エヌ・アンド・ビー及び森田
商会からの借入金をそれぞれ2500万円ずつ返済するための資金を貸し付けると
いうものであった。
      そもそも,高利貸しに対する返済のための資金を貸し付けるというよ
うなことは銀行実務上極めて問題がある上,トーコーアドは,資金繰り悪化を高利
貸しに依存しながらしのぎつつ,高利貸しに対する返済を優先するという経営状況
にあったのであり,本件融資6実行後も再び,同様の事態を繰り返すことは明らか
である。
      また,本件融資6のうち,残りの「自然食品センターに係る買掛金」
(1500万円)及び「明治乳業契約に係る先行支払」(5000万円)について
は,資金使途について具体性がなく,トーコーアドに対して裏付資料等を要求して
も提出されず,貸付実行後に使途も確認されず,資金使途が全く不明確であった。
   (ウ)大幅な保全不足
      本件融資5及び6の当時,トーコーアドに対する保全は既に大幅に不
足していたが,本件融資5及び6は,いずれもトーコーアドから新たな担保を一切
とらないでなされた信用貸しであったため,トーコーアドに対する保全不足額は,
本件融資金の金額分だけさらに一層増大することになった。なお,本件融資5及び
6については,トーコーアドの代表者である夏川杉男,及び同社取締役である夏川
太郎の2名が連帯保証人となっていたが,これらの連帯保証人についても,支払能
力は全くなかった。
   (エ)まとめ
      以上のとおり,本件各融資が決算書に虚偽の記載をしていたトーコー
アドに対する単なる一時しのぎの救済資金であり,トーコーアドには本件融資金を
返済する能力は全くなく,しかも,本件各融資が新たな担保を一切とらないでなさ
れた信用貸しであることが認められ,本件融資5及び6は安全性の原則に反するも
のであった。
   イ 被告らの注意義務違反
   (ア)被告Aの責任
      被告Aは,本件融資5及び6の当時,原告の代表取締役頭取として原
告の業務を統括しており,本件融資5及び6の決裁権者であった。被告Aは,融資
稟議書の記載内容から,本件融資金の回収が困難であることを知っていたか,ある
いは,少なくとも容易に知り得たのであるから,本件融資5及び6を承認する決裁
をしてはならない義務があった。しかし,被告Aは,上記義務を怠り,本件融資5
及び6を承認する決裁を行った。
      したがって,被告Aの行為は,銀行の取締役としての善管注意義務・
忠実義務に違反する。
   (イ)被告Bの責任
      被告Bは,本件融資5及び6の当時,原告の代表取締役副頭取とし
て,代表取締役頭取を補佐する立場にあり,かつ,融資審議会の構成メンバーであ
った。また,被告Bは,貸出稟議の審査に関する事項・貸出先の調査及び貸出管理
の指導統括に関する事項等を所掌する審査部の担当の委嘱を受けていた。被告B
は,融資稟議書の記載内容から,本件融資金の回収が困難であることを知っていた
か,あるいは,少なくとも容易に知り得たものであるから,本件融資5については
審査部担当の代表取締役副頭取として,本件融資6については融資審議会の構成メ
ンバーとして,本件融資5及び6に反対するなどして,その実行を制止すべきであ
った。しかし,被告Bは,上記義務を怠り,本件融資5及び6に反対するなどせ
ず,本件融資5については
融資を承認し,また,本件融資6については融資審議会において融資を承認した上
で,いずれも被告Aに融資稟議書を回付した。
      したがって,被告Bの行為は,銀行の取締役としての善管注意義務・
忠実義務に違反する。
   (ウ)被告C,被告I及び被告Kの責任
      本件融資6の当時,被告Cは原告の代表取締役専務として,被告I及
び被告Kは原告の常務取締役として,いずれも代表取締役頭取を補佐する立場にあ
り,かつ,融資審議会の構成メンバーであった。被告C,被告I及び被告Kは,融
資稟議書の記載内容から,本件融資6の回収が困難であることを知っていたか,あ
るいは,少なくとも容易に知り得たものであるから,融資審議会において本件融資
6に反対するなどして,その実行を制止すべき義務があった。しかし,被告C,被
告I及び被告Kは,上記義務を怠り,本件融資6に反対するなどせず,融資審議会
において本件融資6を承認して被告Aに融資稟議書を回付した。
      したがって,被告C,被告I及び被告Kの行為は,銀行の取締役とし
ての善管注意義務・忠実義務に違反する。
   ウ 損害
     トーコーアドは,平成10年5月20日に銀行取引停止処分を受け事実
上倒産した。トーコーアドは,本件融資5につき,平成10年4月20日までに2
80万円を返済し,その残金は5220万円となり,本件融資6につき,同年3月
20日に294万円を返済したため,その残金は1億1206万円となった。
     したがって,本件融資5については,残金5220万円が原告の損害と
なり,本件融資6については,残金1億1206万円が原告の損害となる。
     よって,被告A及び被告Bに対し,連帯して内金4000万円及び遅延
損害金の支払いを,被告A,被告B,被告C,被告I及び被告Kに対し,連帯して
内金1億円及び遅延損害金の支払を求める。
   (被告らの主張)
   ア 被告Aの主張
     被告Aは,融資審議会からの報告や融資稟議書の検討から,資金繰り悪
化は,トーコーアド自体ではなく,その取引先の倒産が主たる原因であったこと,
高利貸しからの融資さえ返済すれば,短期間に急激な収支の改善が見込まれたこ
と,アイアンドエス,朝日広告社,味の素サービス,伊藤忠テクノサイエンス,サ
ントリー等安定した取引先を有していたこと,明治乳業との本格的な取引開始によ
り大幅な売上増が見込まれていたこと,当時,長引く不況の影響から中核的な取引
先の倒産が相次いでいた中で,あえて上記のような話があるトーコーアドについ
て,融資を打ち切って倒産させるのは妥当ではなかったこと,被告Aが経営改善の
ために設置した「延滞債権回収チャレンジャー」(延滞債権の早期回収を図るた
め,繁忙のため債権回収に
まで手が回らない営業店とは別個に専門的に延滞回収業務に従事させていた)の加
須美(支店長経験有り)が,自ら中心となって折衝した結果,債権回収の観点から
本件各融資を可としていたこと,融資審議会も本件融資に賛成していたことなどか
ら,保全が万全とはいえないとしても,本件各融資を実行して既存貸付も含めて回
収を図るべきであると判断して決裁をした。トーコーアドに対する融資について回
収可能性が認められたことは他の被告らが主張するとおりである。
     よって,被告Aが本件融資5及び6の実行について決裁をしたことは,
何ら取締役の善管注意義務及び忠実義務に違反しない。
   イ 被告Bの主張
     トーコーアドは,トーコーのグループ会社であり,トーコーが平成5年
9月に不渡りを出して倒産したことからトーコーアドがトーコーの営業権を譲り受
けるとともに債務を引き受けるというトーコーに対する不良債権の整理策が決定さ
れ,この整理策に基づいて,トーコーアドに対する融資が行われた。
     トーコーアドに対する2件の融資は,手形決裁資金や高利貸しからの借
入金の返済資金で,一種の救済融資であるが,この融資をせずにトーコーアドが倒
産すれば,約17億円もの多額の融資金が第4分類債権となってしまい,当時,原
告には,これを償却する財源はなかった。一方,当時,トーコーアドの資金繰りは
悪化していたが,焼き肉店などを経営しており,月商6800万円程度の売上は上
がっていたので,救済資金を融資すれば同社が存続する可能性は十分にあった。
     このような状況においては,被告Bがトーコーアドに対する本件融資5
及び6の実行を阻止しなかったとしても,何ら取締役の善管注意義務及び忠実義務
に違反しない。
   ウ 被告Iの主張
     被告Iは,原告に入行してから,一度も本店融資部,審査部を務めたこ
とはなかった。平成2年からの本店営業部長,平成3年からの甲府支店長など現場
での経験はあったが,退職するまでの間融資の審査の経験は一度もなかった。特に
常務取締役に就任してからは人事部,営業推進部(預金獲得のための企画推進部。
個別の融資には全くタッチしない。),個人ローン部(個人の提携ローン)が担当
業務であり,融資の審査とは全く異なる業務に携わっていたのであり,個別の融資
案件についての事情を知る由もなかったし,融資の審査についても意見を述べる立
場になかった。
     また,本件融資5については,融資審議会に付議されておらず,被告I
は,当該融資に至る経緯及びトーコーとトーコーアドの関係等について,当時は認
識していなかった。本件融資6については,融資審議会に付議されたものの,融資
審議会に付議される以前からの融資案件であり,当時原告行内で融資の実情・実務
については最も通暁している実力者として君臨していた取締役副頭取の被告Bが,
本件は承認したい旨の発言があるなど既定路線の案件とされており,被告Iの立場
からチェックすべき点もないので,特に意見を述べなかった。
     よって,被告Iには取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反す
る事実は認められない。
   エ 被告Kの主張
     被告Kは,本件融資5の実行後である平成9年6月27日に融資審議会
のメンバーとなり,本件融資6の実行予定日の2日前である同年7月28日の融資
審議会に出席し融資承認印を押印させられた。しかも,当該融資に関する融資稟議
書には,問題点はあるがいずれもクリアーできると記載されていたのであり,被告
Kが融資審議会の構成員になるまで融資審査の経験が極端に乏しかったことも併せ
て考えれば,融資審議会に付議された一件書類から融資担当取締役らの真の意図を
見抜き融資実行を阻止することは不可能であった。
     よって,被告Kには取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反す
る事実は認められない。
 (5)国際販売に対する融資についての被告らの善管注意義務違反の有無
   (原告及び原告訴訟引受人の主張)
   ア 本件融資7は以下のとおりの問題点を有する違法なものであった。
   (ア)「飛ばし」,「先送り」のための融資
      原告は,平成2年1月当時,成和鉄工株式会社(以下「成和鉄工」と
いう。)に対し元金合計3億0320万7000円の貸付債権を有し,その担保と
して有限会社蜻蛉(以下「蜻蛉」という。)が所有していた物件(以下「西浅草物
件」という。)に対し根抵当権を設定していたが,成和鉄工は,同月5日に2回目
の手形不渡りを出し,同月10日に銀行取引停止処分を受けて事実上倒産するに至
った。西浅草物件には,第1順位者として第一勧業信用組合が極度額7億円(債務
者は蜻蛉)の根抵当権を設定しており,原告は,第2順位者として極度額1億70
00万円,第3順位者として極度額6000万円,第4順位者として極度額1億3
000万円の各根抵当権を有していた。第一勧業信用組合は,同年11月,西浅草
物件についての競売
申立てを行ったが,同物件の最低売却価格は2億9598万円と決定され,同物件
の価値からみて7億円以上で競落される見込みがないため,第2順位以下の担保し
か有していない国民銀行に対する配当は期待できず,このままでは成和鉄工に対す
る貸付債権は,貸倒れ金として償却処理せざるを得ない状況であった。
      原告神田支店長であった被告Eは,上記成和鉄工に対する貸付債権を
第三者に付け替えることにより回収しようと企て,神田支店の取引先であり不動産
取引を業とする国際販売に対し,購入資金を融資するので西浅草物件を購入するこ
と,さらに謝礼として国際販売に別途融資をすることを持ちかけた。ただし,第一
勧業信用組合の債権も解消した上で原告の債権も回収するためには,最低でも10
億5000万円程度という,時価をはるかに上回る金額に設定する必要があった
が,3億円程度の西浅草物件を国際販売に10億5000万円もの金額で購入させ
るという異常な枠組みであったため,国際販売にそのような条件をのんでもらうた
めには謝礼融資が必要であり,実際にも,平成3年7月1日,本件融資7に先立
ち,国際販売に対し,謝
礼融資として5億円の融資がなされた。このように,本件融資7は,「飛ばし」か
つ「先送り」の目的で実行されたものである。
   (イ)国際販売の返済能力の欠如等
      本件融資7の当時,国際販売は,業況が悪化しており,借入金の元本
はおろか,金利すらほとんど支払えない状態であった。また,返済原資について
は,西浅草物件を,ラブホテルからカラオケルームヘ改修し,その経営により返済
原資が捻出されることが予定されていたが,本件融資7の融資稟議書には,改修費
用に関する見積書も設計図も添付されておらず,そもそも改修費用を決裁するため
の条件が全く整っていなかった。さらに,本件融資7については,国際販売の試算
表も徴求されず,融資稟議書にも月商の記載がないなど,国際販売の近時の営業状
態を示す判断資料が欠けていた。
      上記のとおり,本件融資7は,成和鉄工の不良債権を国際販売に付け
替える目的で実行されたものであり,そうであれば,国際販売の返済能力や,西浅
草物件の活性化等について十分に検討されなければならなかった。しかし,本件融
資7の当時,国際販売には客観的に返済能力が認められず,西浅草物件の活性化に
ついても全く不十分な資料しか存在しなかったにもかかわらず,この点についてほ
とんど検討されることもなかった。
   (ウ)大幅な保全不足
      本件融資7に対する担保としては,西浅草物件を担保徴求している
が,同物件の最低競売価格(2億9598万円)や鑑定評価額(2億9100万円
と比較してみても,本件融資7は,大幅な担保不足であった。
   イ 被告らの注意義務違反
     被告J,同A,同F,同B,同Gらは,本件融資7の融資審議会のメン
バー兼取締役であった。本件融資7には上記の問題点が存在したが,それらはいず
れも融資稟議書又はその添付書類によって容易に認識し得る事実であることからす
れば,被告らは,本件融資金の回収が困難であることを認識し,又は容易に認識で
きたのであるから,被告Jは,本件融資7を承認する決裁をしてはならず,その他
の被告らにおいては,融資審議会において本件融資7に反対しなければならなかっ
た。しかるに,被告らは,本件融資7を承認する決裁をなし,あるいは,融資審議
会において本件融資7を承認して融資稟議書を被告Jに回付した。
     したがって,被告らの行為は,取締役としての善管注意義務に違反し,
本件融資7を実行した結果,国民銀行に生じた損害について賠償する責任を負う。
   ウ 損害
     国際販売は,現在も営業は行っているものの,債務超過を解消できる見
込みはなく回収は不能である。また,本件融資7は,原告の根抵当権に優先する国
税局等の差押えにより西浅草物件からの回収も不能となった。
     したがって,本件融資金の残高は13億円であり,同額が原告の損害で
ある。
     よって,被告J,被告A,被告F,被告B及び被告Gに対し,連帯して
内金4億円及び遅延損害金の支払を求める。
   (被告らの主張)
   ア 被告Jの主張
   (ア)本件融資7については,原告が指摘するような問題点は存在しなかっ
た。
     a 国際販売の返済能力には全く問題はなかった。不動産売買では,登
記を伴うため支払手形は利用されず現金決裁で行われる。したがって銀行借入れが
他の業界より多くなり,平均年商の2ないし2.5倍程度の借入れがなされるのが
普通であり,国際販売の借入れも,平成3年3月には年商の2.5倍であって,業
界平均程度の借入れであった。また,国際販売の税金の支払が停滞していたとの事
実も存在しなかった。当時,国際販売の売買実績が低迷していたのは,大蔵省が平
成2年3月から不動産取引を規制し,土地価格の上昇を抑えるために金融機関に対
してとった「不動産融資総量規制」によるものである。当該規制は,平成4年1月
4日には解除されたため,低迷は一次的なものであると考えられていた。さらに,
国際販売の金利支払
の停止は,銀行が,「総量規制」による業界の運転資金の不足を解消し,不良債権
発生による融資先の倒産を防止するために,優良取引先に限って一次的にとった
「利息棚上げ」の処置であり,経営不安による「利払い不能」状態にあったことを
意味するものではない。
       また,国際販売の返済計画についても,国際販売が現に東上野で営
業しているカラオケルーム「タイム・エコー」の実績をもとに,根拠のある算出を
し,返済計画を立てたものであり,西浅草物件の活性化等についても十分に検討さ
れていた。また,国際販売は,利息を年間51億円支払っている実績があり,本件
融資7も国際販売全体の不動産の販売も含めた営業活動から支払われることが十分
見込まれていた。
     b 原告は,本件融資7が,「飛ばし」かつ「先送り」であると主張す
るが,本件融資7は,従来あった3億円の不良債権を,国際販売に対する融資金で
「肩代わり」して決裁した肩代わり融資であり,銀行業界で多用されている通常の
取引である。また,西浅草物件に対する融資により,原告の3億円の不良債権は消
滅しているのであるから,原告の主張するような「先送り」の対象となる債権は存
在しないのであり,何ら問題はない。そもそも,本件融資7は,不動産販売依存体
質から脱出し,安定収入を図るべく業務多角化の一環として,カラオケルーム開設
を考えていた国際販売が自ら希望した融資であったし,原告が謝礼融資と主張する
ものも全く別の日に実行されたものであって謝礼融資などではない。さらに,西浅
草物件の時価評価も
,近隣業者のチラシ広告をもとに判断されたものであって,何ら問題は存在しな
い。
       また,原告では「不良債権」と化した融資金については,償却手続
をとって処理しており,原告が「飛ばした」と主張する成和鉄工に対する約3億円
の債権も償却しようと思えば十分可能であった。しかし,それをせずに国際販売に
対する本件融資7を通じて,債権を回収しようと考えたのであり,被告らに「飛ば
し」の目的がなかったことは明らかである。
   (イ)原告には,その主張するような損害は発生していない。
      国際販売は,現在も営業しており,それにもかかわらず本件融資7と
同額の損害が発生したとするためには,貸付時点で即貸付金相当額の損害が発生し
たと構成するしかないが,このような立論を可能とするためには,銀行経営による
融資が,犯罪又はそれに等しいものであり,当初から融資金の回収を期待しておら
ず,又は回収不能が明白であるような場合に限られるというべきである。しかし,
本件融資7はそれ自体犯罪又はそれに等しいものではなく,通常の銀行業務の一環
として行われたものであり,原告の損害論は成り立たない。そもそも,銀行業務と
しての融資による損害があり,これについて誰にどういう責任を問い得るのかを問
題にするのであれば,融資の時点から不良債権と化した時点までの全期間にわたっ
て,借入れ側の返済
の状況及びこれに対応する融資側の対処,事後の管理の状況が明らかにされなけれ
ばならないが,このような主張立証は一切なされていない。
      また,国際販売に対する融資金は,平成4年10月31日以降一切弁
済されていないため,本件融資金については,平成9年10月30日に消滅時効が
完成した。国際販売としては,これ以降原告が融資金の返済を請求しても消滅時効
を援用するであろうから回収不可能となった。このように,回収不可能となった理
由は,原告の債権管理に問題があったためであり,被告Jの責任には帰し得ない。
   イ 被告Aの主張
     被告Aは,被告Gの報告や融資稟議書の検討から,時価で多額の含み益
を有しており債権保全上問題がないと思われたこと,営業成績も前年度を大きく上
回り好調であったこと,繁華街に位置するなどカラオケルームとしての営業環境に
恵まれていたこと,融資審議会でも謝礼融資,保全不足,返済能力等について,何
ら問題点は指摘されず,融資審議会の構成員の間でも意見の対立などはなかったこ
となどから,本件融資7を実行するべきであると判断して決裁をした。なお,本件
融資7について回収可能性があったことは,他の被告らの主張するとおりである。
   ウ 被告Fの主張
   (ア)原告は,国際販売に対する融資を実行した当時,まだ相当の償却能力
を有していたのであり,当該融資が貸倒れとなったとしても十分に償却できる状況
であった。第二地銀の取締役として,リスクが皆無ではないものの万一リスクが現
実化しても体力的に十分消却可能な範囲のリスクである案件について,リスクを回
避できるに足る会社の経営内容,方策に相応の根拠が認められる場合,財務体質の
改善を目指し,収益性を向上させるために,融資を行ってよいとの経営判断を行う
ことは,取締役として相当の判断であり,少なくとも経営判断における「著しく不
合理」な点や「裁量権の逸脱」はなく,取締役としての注意義務違反はない。
   (イ)十分な担保を取れずに融資を行う第二地銀では,銀行員が地域に密着
し,頻繁に取引先を訪問することにより,社長と世間話をする中で社長の経営能力
や経営状況を把握したり,店舗のにぎわい状況や事務所内の雰囲気によって商売が
順調であるか否かを把握し,債権管理に役立てていたのであり,これらの事情を総
合判断して融資を可とすることは何ら不当なことではない。
      すなわち,国際販売は国民銀行の長年の優良取引先であり,業績は好
調でさらに上向きであり,社長の年齢も若く多角化経営による今後の成長が期待さ
れ,第二地銀として育成すべき企業であると考えられたこと,本件融資案件は当時
ブームとなっていたカラオケルーム資金の融資であり立地も極めてよく事業として
の成功が十分期待されたこと,600億円程度の負債に対して400億円以上の含
み益を有して債権回収に全く不安がないと見られたこと,既存の融資の回収につな
がるメリットがあることから,被告Fは本件融資7を可とした。
      以上のとおり,国際販売に対する融資は,このほかの融資とは異な
り,当時の他の融資案件と同程度のリスクしかない,ごく通常の案件であったので
あり,融資審議会に提出された資料・情報からして,融資を可とすることに特に不
合理な点のない案件であった。少なくとも,当時の融資審議会の性格,被告Fの経
歴と立場,審議時間と与えられる資料・情報の制約からすれば,支店及び審査部の
判断に異議を唱えないことに取締役として著しく不合理な点はない案件であった。
   (ウ)なお,原告及び原告訴訟引受人は,本件融資7がいわゆる「飛ばし」
を目的として実行されたと主張するが,「飛ばし」とは,表面上の決算の黒字を維
持するために,実態のない極めて多数のペーパーカンパニーを設立し,複雑なう回
融資により回収不能の融資先の物件を融資額で買い取らせ,貸倒れ損失を潜在化さ
せる手法であって,大手金融機関の破綻後にマスコミで使われた用語で,本件融資
7当時はそのような概念すら存在しなかった。本件で物件を購入したのは,損失負
担を問題とせず,むしろ損失を負担するためだけに設立されたペーパーカンパニー
ではなく,実態がある生きた企業であり,物件価格に妥当性・採算性があるから購
入している。国民銀行は,狭域高密度取引を推進する地元金融機関として営業して
おり,競売申立てを
行うと回収率も下がる上,地元で評判となって営業上も悪影響があるので,債権回
収は,地元の情報網を駆使して,事業拡大を図る購入者への融資による任意売却の
手法によるのが通例であり,実際に債権回収と新規融資先開拓ないし融資残高維持
の両面で成功を収めてきていた。本件もその一環であって,「飛ばし」とは全く異
なる。
エ 被告Bの主張
  本件融資7は,国際販売が倒産して,国際販売に対する債権が要償却債権とな
ってしまうと,当時償却財源が枯渇していた原告の存続が危ぶまれることからこれ
を回避するためにはやむを得ないとの経営判断に基づいて行われたものであり,被
告Bには本件融資7につき善管注意義務違反・忠実義務違反は存在しない。
   オ 被告Gの主張
     本件融資7の資金使途について国際販売から提出された事業計画書の内
容は,現実感のある数字で構成された妥当性のある計画であった。そして,当時景
気見通しは上向くと一般に理解されていたのであり,本件融資7については,十分
回収可能性があった。さらに,当該事業が失敗に終わった場合の損失と,本件融資
7を実行しなかった場合に生じる損失には大きな違いがないと判断されたこと,当
時の原告には,成和鉄工に対する債権全額を償却する能力があり,原告及び原告訴
訟引受人が主張するように「飛ばし」を行う必要性はなかったが,当時,不良債権
について,他の取引先に担保物件を引き取ってもらい,銀行側も新たな事業展開に
資金面で協力して回収を追及するという手法は,金融機関では一般的に行われて,
成功事例もあったこ
となどを考慮して,被告Gは,本件融資7の実行に反対しなかったのであり,被告
Gには,善管注意義務ないし忠実義務違反は存在しない。
 (6)カミパレスに対する融資についての被告らの善管注意義務違反の有無
   (原告及び原告訴訟引受人の主張)
   ア 本件融資8ないし27は以下のとおりの問題点を有する違法なものであ
った。
   (ア)返済能力の不存在
      カミパレスの経営するカラオケ店は,オーナーに支払う高額な家賃及
び採算を度外視したカラオケ店舗の立地のため,現実には大半の店舗で収支は赤字
であり,カミパレスのカラオケ店舗全体で,毎月約1億円の赤字が発生していた。
このような赤字体質については,平成5年の時点で既に指摘されていたが,本件各
融資当時に至ってもカミパレスの構造的赤字体質は改まっていなかった。そして,
原告,こくぎんモーゲージ及びこくぎんリース3社合計の福一産業・カミパレスに
対する貸付残高は,平成8年6月末では48億6300万円,平成9年6月末では
89億1000万円と,1年間で40億4700万円も増加していた。さらに,カ
ミパレスは,本件各融資当時,粉飾決算を行っており,このことは出向者による報
告会議においても報
告されていた。また,カミパレスは,原告においてDランクと評価されており,
「企業資質面と取引振りで問題ありと評価された先」,「問題点を洗い直し,仕
振,保全の強化ができない場合は圧縮する先」と認識されていた。
      以上のとおり,カミパレスは本件各融資について,返済能力が全く認
められない状況であった。
   (イ)大幅な保全不足
      本件各融資実行直前において,原告のカミパレスに対する貸付残高は
28億1100万円であり,これに対する保全額は1億3900万円であった。し
たがって,本件融資8実行以前に,既に原告のカミパレスに対する融資金は26億
7200万円もの保全不足であった上,本件各融資時において,カミパレスは,前
記のとおり返済能力はなかったから,確実な担保を徴求することなくして増額融資
をしてはならない状態であった。
      ところが,本件融資8の実行により原告のカミパレスに対する貸付残
高は29億4400万円に増加し,保全不足額は28億0500万円に拡大し,そ
の後本件融資9から28が実行され,本件融資28が実行された平成10年6月1
日の時点では,実行後残高約89億1800万円に対し,保全額は6億2700万
円ほどであり,保全不足額は82億9100万円にまで拡大していたが,この大幅
な保全不足額は,本件各融資における融資稟議書に明記されていた。
   (ウ)資金使途の不当性
      本件各融資金の資金使途は,いわゆる赤字補てん資金であったとこ
ろ,原告の内部規程において赤字補てん資金の審査ポイントとして,損失が構造的
なものではないこと,将来の収益が十分であり,収益によって比較的早期に返済が
可能であること,既存融資分も含め,十分な保全措置が講じられることが必要とさ
れていたが,本件各融資はこれらのポイントを全く満たしておらず,融資の要件を
満たしていないことは明らかであった。また,本件各融資のうち相当割合は,申込
企業であるカミパレスを経由して福一産業に流れていることは,融資稟議書上から
明らかであり,本件各融資は銀行実務において許されないう回融資であった。
   (エ)特定先に対する過度の融資
      銀行が安定した経営を行うためには貸付先が倒産して貸金が回収不能
となった場合のリスクが大きくならないように注意しなければならず,また,公的
な存在である銀行がその社会的使命を果たすには貸金が特定先に偏ることのないよ
うに配慮しなければならないが,本件各融資は,この点を全く考慮することなく資
産信用のないカミパレスに対し多額の融資を集中するものであった。
   イ 被告らの注意義務違反
   (ア)被告A
      被告Aは,平成元年6月29日から平成4年6月25日までは代表取
締役副頭取として,その後は代表取締役頭取として,福一産業及びカミパレスに対
する融資に関与していた。そして,本件各融資当時,原告の代表取締役頭取として
原告の業務を統括し,本件各融資の決裁権者であり,かつ融資審議会の構成メンバ
ーであった。被告Aは,上記の関与並びに融資稟議書の記載内容から本件各融資に
は多くの問題点があり,本件各融資金の回収が困難であることを知っていたか,あ
るいは少なくとも容易に知りえたのであるから,被告Aとしては本件各融資を承認
する決裁をしてはならない義務があった。
      しかし,被告Aは,上記義務を怠り,本件各融資を承認する各決裁を
行った。
      したがって,被告Aの行為は,取締役としての善管注意義務・忠実義
務に違反する。
   (イ)被告B,被告C,被告I及び被告K
      被告Bは平成元年6月29日から平成5年3月31日まで常務取締
役,同年4月1日から平成6年6月28日までは代表取締役専務,その後は代表取
締役副頭取として,被告Cは平成4年2月以降平成5年3月31日までは常務取締
役,その後は代表取締役専務として,被告Iは平成7年6月29日以降常務取締役
として,被告Kは平成9年6月27日以降常務取締役として,それぞれ,福一産業
及びカミパレスに対する融資に関与していた。そして,本件各貸付当時,被告B
は,原告の代表取締役副頭取として,被告Cは専務取締役として,被告I及びKは
常務取締役として,いずれも代表取締役頭取を補佐する立場にあり,かつ,融資審
議会の構成メンバーであった。
      したがって,被告B及び被告Cは本件各融資について,被告Iは本件
融資8,10,12から15及び17から26について,被告Kは8,9,11か
ら13,15から21及び24から27について,従来の関与及び融資稟議書の記
載内容から,上記各融資に前記のとおり多くの問題点があること,ひいては上記各
融資金の回収が困難であることを知っていたか,あるいは,少なくとも容易に知り
えたのであるから,融資審議会において各融資に反対するなどして,その実行を制
止すべき義務があった。
      しかし,被告Bらは,上記義務を怠り,上記各融資に反対するなどせ
ず,融資審議会において上記各融資を承認して被告Aに融資稟議書を回付した。
      したがって,被告Bらの行為は,取締役としての善管注意義務・忠実
義務に違反する。
   ウ 損害
     原告のカミパレスに対する本件各融資金残高合計は58億7400万円
であったが,カミパレスには,平成11年10月20日,破産宣告がなされ,同額
の回収が不能となった。したがって,原告の損害額は58億7400万円に上る。
     よって,原告及び原告訴訟引受人は,本件各融資の残高に相当する損害
賠償金の各内金として,別紙1「貸付債権一覧表」(省略)記載のとおりの金額及
び遅延損害金の支払を求める。
   (被告らの主張)
   ア 被告Aの主張
     カミパレスに対する融資は,いずれも原告の融資審議会において融資が
相当であると満場一致で議決されたものであり,被告Aは,これを尊重し,かつ,
カミパレスに対する融資を継続し,カミパレスの経営を改善することによって,新
たな貸付分も含め融資金全額の回収が可能であると判断をしたため,各融資を実行
する決裁をした。
     すなわち,様々な経緯によって,既に多額の貸付残高となっており,し
かも貸付先企業の資金繰りが厳しくなっている場合で,もし追加融資を行わないと
資金繰りが不可能となって倒産し,貸付残高の大半が回収不能となるような場合に
は,追加融資を行わないことによる影響,すなわち確実に倒産するのか否か,倒産
した場合どの程度の焦げ付きが生ずるのか,多額の焦げ付きが生じた場合の銀行経
営はもつのか否か,資金繰りが困難になっている当該企業の再建の可能性はあるの
か否か,追加融資を行うことによって融資金全額の回収の見込みがあるのか否かと
いうことを総合判断してその可否を決しなければならない。
     融資残高に対する担保が不十分で融資を打ち切れば倒産するようなケー
スにおいて,必要な追加資金の金額に比して,焦げ付くことが確実な融資残高がは
るかに多額となっており,そのことが銀行の経営や存続自体に致命的な影響があ
り,他方,再建にかなりの困難が存するとしても,当該企業の属する業界の動向,
当該企業の業務の改善の余地,基本的な景気の動向等を総合的に判断して,なお,
再建と全額回収への可能性が残っている場合には,追加融資を行うことは合理的な
経営者の選択肢に十分入るものである。
     さらに,このように様々な要素を考慮しなければならない場合には,機
動的な業務遂行の観点からして,基本的な方向が間違っていなければ,取締役の経
営判断の裁量の余地をある程度認めざるを得ないと解するべきである。
     本件においては,カラオケ業界の動向からして賃料の引下げや業務改善
を進めることによりカミパレスの再建の可能性は存在したのであり,他方で,カミ
パレスに対する追加融資を打ち切るならば,その融資残高の大半が焦げ付いて一括
償却を必要とする第4分類債権に転化し,償却財源の乏しい原告の経営あるいは存
続自体に重大な支障が生じることは必至の状況であった。すなわち,懸命な努力を
継続すればカミパレスの収支を黒字に転換させることは十分に可能であり,既存融
資分及び新規融資分を含めて最終的には全額回収可能であり,他方で原告の破綻を
回避することができると考えられた。
     また,頭取の諮問機関であった融資審議会では,議論の結果,これらの
案件はすべて融資をなすべきであるという結論が下され,その旨被告Aに報告さ
れ,被告Aは原則として融資審議会の結論を尊重するスタイルで仕事をしていたこ
と等の事情からして,本件各融資を決裁したものである。
     以上によれば,本件各融資を実行した被告Aの判断は,頭取に委ねられ
た裁量の範囲内にあり,忠実義務違反,善管注意義務違反とはいえないというべき
である。
   イ 被告Bの主張
     原告は,遅くとも平成6年4月以降,福一産業・カミパレスが倒産する
と多額の償却を要する不良債権が発生し,原告自体の存続が危ぶまれる状況にあっ
たことから,当面,福一産業・カミパレスを存続させ,資産売却処分等により融資
残高をできる限り減少させ,その間に第4分類債権を優先的に償却し,これらの償
却が終了して償却財源に余裕ができた時点で,福一産業・カミパレスの債権を順
次,段階的に償却するしか方策はないと考えて,福一産業・カミパレスに対する融
資を継続してきたものである。原告は,平成8年4月の検査で指摘された255億
円の第4分類債権について平成9年3月期と9月期に全額償却する必要があったこ
とから,169億円の第三者割当増資を行い,これらの債権の償却をすることがで
きた。本件各融資の時
点においては,これらの債権を償却した後,年間40億円ないし50億円の業務純
益により逐次福一産業・カミパレスも含めた不良債権を償却していくことが可能と
考えられていたので,融資を継続したものであり,被告Bの判断は経営判断として
正当なものである。
     カミパレスに対する本件各融資は,上記のような多額の不良債権を抱
え,償却のために困難に陥って存続の危機に立たされていた原告の副頭取であった
被告Bが,福一産業とカミパレスが倒産すれば,同社に対する90億円近い貸出債
権を一挙に償却する必要が生じ,その償却財源がない原告が直ちに破綻しかねない
という特殊な状況下で,原告の存続を図るため,苦渋の選択として,福一産業及び
カミパレスを倒産させないために行った融資であり,このような特殊な状況を無視
して被告Bの行った本件各融資を違法・不当であるとするのは誤りである。
     なお,本件で問題となっている融資の総額は90億円余であるが,福一
産業及びカミパレス両社に対する原告,こくぎんモーゲージ及びこくぎんリース3
社の融資残高で見ると,平成9年7月末が約91億円で,平成10年6月末が約1
04億円であり,この間に13億円増加しただけであり,福一産業及びカミパレス
はその間に原告に対する利息の支払もしていたのであり,原告は多額の利息収入は
得ていた。
     以上のように,本件各融資は,原告の存続を図るために行われた融資で
あり,何ら不当な融資ではなく,被告Bには損害賠償を支払うべき義務はない。
   ウ 被告Cの主張
     本件各融資については,いずれについても融資部において融資を実行す
ることはやむを得ないとする稟議書が作成され,これについて頭取決裁を得るため
に融資審議会が開催されていたが,被告Cとして特に口を差し挟むべき立場にな
く,仮に反対しても決裁されていたものである。そもそも融資審議会においては,
頭取決裁を阻止する権限や融資の可否を決する権限はなく,その構成員が当該融資
について参考となる意見を開陳する義務を負っているに過ぎない。なお,融資稟議
書への捺印は当該融資への同意を意味するものではなく,融資審議会に出席したこ
との確認を持つに過ぎない。
   エ 被告Iの主張
     被告Iは,原告銀行の主導の下,体質改善についてカミパレスが努力し
ているとの報告を受けていたのであり,本件各融資金を返済する能力がないことが
明らかであるとの認識はなかった。
     また,福一産業及びカミパレスへの融資について,隔年の大蔵省検査,
日銀考査において問題であるとの指摘がなされたことはなく,毎期ごとの監査法
人・監査役による監査の結果違法であるとの指摘もなかった。また,個別案件の妥
当性については審査部が判断していたところ,融資稟議書における審査部意見欄に
表現の違いこそあれ,いずれも融資の続行が記載されており,融資審議会に出席の
担当役員,審査部からも融資すべきであるとの方向の意見が出されていた以上,個
別案件の融資先に事情に精通していない被告Iとしては個別案件について不当,違
法という認識を形成することはできなかった。
     よって,被告Iには,本件各融資につき善管注意義務ないし忠実義務違
反の事実は存在しない。
   オ 被告Kの主張
     被告Kは,平成9年4月2日の経営会議に出席するまで福一産業及びカ
ミパレスの問題点について全く情報を得る機会がなく,その後も,被告Kの経歴上
融資審査に精通していなかったこともあって,即座に融資実行を阻止すべきである
との認識は持たなかった。また,被告Kが出席した各融資審議会においては営業店
及び審査部とも融資実行に積極的であり,少なくとも書面上は営業店及び審査部と
も御融資願いたい旨の稟議を回していた。被告Kは,その後の平成10年3月5日
ころからカミパレスへ実態調査のため出向し,粉飾決算を発見するなどした。しか
し,カミパレスに対する融資を停止することによって,原告自体の存立が危うくな
ることが想定されたのであり,カミパレスを倒産させるか,倒産させるとしてその
時期・方法について
は高度な経営判断を要するものであり,責任と権限のある決裁権者が融資実行をす
る旨判断している以上,原告全体の経営についての新参者である被告Kが安易に反
対の判断などなし得なかった。
     以上のとおり,被告Kは,当初カミパレスが再建不可能な会社との認識
はなく,その後の対策会議・実態調査を経て再建不可能な会社との認識を得るに至
ったが,既存融資金の回収などを含めてその対策について会社組織の一員として誠
実に職務執行にあたってきたのであるから,被告Kに付与された裁量権の範囲を逸
脱したと評価されるべき事実は存在しない。
     また,本件各融資により,原告は,福一産業及びカミパレス等に対する
既存の貸付金を回収することができるとともに,貸付金に対する利息をも得ること
ができたのであり,当該部分を損害から控除すべきである。
 (7)反訴請求について
   (被告Kの主張)
    被告Kは,原告に対し,定期預金元利合計1498万0608円及び定期
積金元利合計237万3500円の合計1735万4108円を預け入れていた
が,原告は,被告Kが取締役の善管注意義務に違反して,前記のカミパレスに対す
る融資を阻止しなかったことにより10億1600万円の損害を被っており,これ
と上記預金及び積金債権とを対等額で相殺する旨主張している。しかし,被告K
は,融資実行について決裁権限もなく,また取締役としての善管注意義務・忠実義
務違反もないのでそもそも原告が主張する商法266条1項5号に基づく損害賠償
債務は発生せず,原告の相殺の主張は無効である。
    また,原告は,平成12年1月28日付で被告K所有の,別紙3「物件目
録」(省略)記載の各不動産について不動産仮差押命令を取得し,同年2月1日仮
差押えの登記を経由した。しかし,当該仮差押えは被保全権利の存在しない違法な
ものであり,被告Kは,当該仮差押命令によって,各不動産の処分が制限され,当
該不動産の時価合計額3583万0798円に対する金利相当分163万9381
円(平成12年2月1日から同年12月31日まで(334日間)の年5パーセン
トの割合)及び弁護士費用500万円の損害を被った。
    よって,被告Kは,原告に対し,定期預金元利合計金及び定期積金元利合
計金の合計額1735万4108円の内金1735万3108円及びこれに対する
相殺通知日の翌日である平成12年8月11日から支払済みまで商事法定利率年6
パーセントの割合による遅延損害金並びに違法な仮差押えに基づく損害賠償金66
3万9381円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成12年12月2
3日から支払済みまで民法所定の年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を
求める。
   (原告の主張)
    既に主張したとおり,原告は,被告Kに対して,カミパレスに対する融資
に関して取締役の善管注意義務違反に基づく損害賠償請求権を有していたのであ
り,これに基づく相殺は有効であり,被告Kの定期預金及び定期積金の返還請求権
は消滅しているし,上記損害賠償請求権を被保全権利とする各不動産の仮差押えは
適法なものであり,被告Kに対する不法行為を構成するものではない。
    したがって,被告Kの反訴請求はいずれも失当である。
第3 争点に対する判断
 1 陶陶商事に対する融資について
 (1)取締役の経営判断について
    銀行の取締役は,融資の判断にあたっては,リスクを勘案の上,当該融資
により合理的な利益を期待し得る場合にのみ融資を行うべきであるが,不特定多数
から借り入れた資金を他に融資するという業務の特殊性及び金融システムの根幹を
担うという公共性からして,引き受けるリスクにはおのずと限度があるというべき
である。このような観点から融資にあたっては,利息収入,取引機会の拡大,既存
融資の回収可能性の増加など融資から期待される利益の検討のみならず,融資の持
つリスクを的確に分析・評価し,その適正化を図ることが必要である。特に,原告
はいわゆる第二地銀として,貸出先が零細企業を含めた地元の中小企業を中心と
し,十分な担保を有するとは限らないことから,地域とのつながりを活かし,貸出
先の収益性や将来性に
対する慎重な審査,貸出条件の設定,貸出後のモニタリングなどによりリスク管理
を徹底することが求められていたというべきである。そして,このような融資の判
断は,専門性と将来予測を伴う総合判断であることから,取締役の経営判断事項と
して裁量が認められるべきであり,融資の回収不能の責任を取締役に問うために
は,その判断についての裁量の範囲を超えた善管注意義務違反の有無,すなわち,
当該判断をするためになされた情報収集・分析,検討が当時の状況に照らして合理
性を欠くものであったか否か,これらを前提とする判断の推論過程及び内容が明ら
かに不合理なものであったか否かが問われなければならない。
    さらに,取締役の情報収集・分析,検討に上記のような不足・不備があっ
たかどうかについては,分業と権限の委任を本質とする組織における意思決定の特
質が考慮に入れられるべきであり,特に,原告のように融資の際に営業部店及び本
部審査部などがそれぞれの立場から重畳的に情報収集・分析,検討を加える手続が
整備された銀行においては,取締役は,特段の事情のない限り,各部署の行った情
報収集・分析,検討に依拠して自らの判断を行うことが許されるべきであるが,特
段の事情の有無は,当該取締役の知識・経験・担当職務,案件とのかかわり等を前
提に,当該状況におかれた取締役がこれらに依拠して意思決定を行うことに当然躊
躇を覚えるような不足・不備があったかどうかにより判断すべきである。以上を前
提に本件各融資につ
いて検討する(なお,以上の一般論は,陶陶商事に対する融資のみならず,他の案
件の検討においてもこれを前提とする。)。
 (2)証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実を認めることができ
る。
   ア 本件融資1に至る経緯
   (ア)陶陶商事と春山グループ
     a 陶陶商事は,昭和55年5月7日に設立された中華風レストランの
経営等を目的とする会社(当初の商号は有限会社雪園であり,平成2年8月30日
に現商号に変更)であり,春山が代表取締役であった。
      (甲B2)
     b 春山は,陶陶商事のほかに,世新商事及び豊丘商事の代表者も兼ね
ており,陶陶商事は渋谷区道玄坂で,世新商事は錦糸町と光が丘で,豊丘商事は蒲
田で,それぞれ中華風レストランの店舗を経営していた。
      (甲B1,甲B3)
   (イ)春山グループの延滞の開始
      原告の春山グループに対する貸付は,昭和59年2月から開始され,
原告本店営業部が担当していた。しかし,春山グループは各店舗の業績が悪化し,
豊丘商事が平成3年5月以降,次いで世新商事が同年8月以降,春山個人も同年9
月以降,それぞれ原告に対する返済を延滞するに至った。原告は,春山グループに
対して督促を重ね,平成4年1月には,春山が被告A(当時副頭取)及び被告E
(当時本店営業部長)らに対して延滞分を解消する旨の確約をしたこともあった
が,結局,約束どおりには履行されなかった。
     (甲B4)。
   (ウ)春山グループに対する延滞解消のための貸付
     a この結果,平成4年9月30日現在において,春山グループに対す
る原告の貸付残高は6億6417万9948円,延滞利息は5184万4933円
となり,合計は7億1601万9948円となった。
       そこで,原告は,春山グループに対する貸付残高等の合計額に見合
う7億2500万円を春山グループに対して新たに貸し付けることにより,春山グ
ループに対する貸付については延滞利息も含めていったん全額返済を受けた形とす
る処理方針(実質は延滞利息の元金組入れ)をとり,平成4年9月30日,春山グ
ループに対して,7億2500万円の貸付を実行した。この貸付に,被告Aは決裁
権限者として,被告B及び被告Cは融資審議会のメンバーとして,被告Eは営業店
長として関与した。
       この貸付の実行により原告の春山グループに対する貸付残高は次の
とおりとなった。
        陶陶商事  2億円
        春山個人  1億9800万円
        世新商事    4200万円
        豊丘商事  2億8500万円
        合計    7億2500万円
       なお,上記のうち陶陶商事に対する2億円の貸付は,陶陶商事が平
成2年3月に渋谷区道玄坂に中華風レストラン(以下「道玄坂店」という。)を開
業するに際し,原告が豊丘商事を借主として開業資金の貸付を行い,豊丘商事から
陶陶商事に貸し付ける形をとっていたものを,実質的な借主である陶陶商事に債務
を付け替えることにしたものである。
     b 上記の貸付実行後の保全状況は,すべての貸付を共通に担保するも
のとして,不動産担保3件(伊東市富戸の別荘,練馬区上石神井の自宅,大田区西
蒲田の店舗)のほか,春山個人及び世新商事に対する貸付を担保するものとしてゴ
ルフ会員権があった。また,陶陶商事に対する貸付のみの担保として道玄坂店の入
居保証金4570万円があったが,店舗の賃貸借契約には譲渡禁止,担保禁止の特
約がなされていた上,担保設定につき賃貸人の承諾は得られていないものであっ
た。そして,これらの担保(入居保証金を除く)をすべて合算しても,時価評価で
は金4億7700万円,担保評価では金3億1800万円にしかならず,大幅な保
全不足の状況にあった。
      (a及びbにつき,甲B3,甲B5)
   (エ)春山グループの延滞再開と陶陶商事に対する融資の継続
     a しかしながら,その後も,春山グループの業績は回復せず,春山個
人が平成4年10月以降,次いで陶陶商事と世新商事が平成5年1月以降,さらに
は豊丘商事も同年4月以降,原告に対する返済を延滞するようになった。このた
め,陶陶商事は道玄坂店の家賃の支払も困難な状況となった。そこで,原告は,陶
陶商事に対して,平成6年1月25日,「運転資金(諸払い・家賃)」として金2
80万円を,同年2月8日にも「運転資金(諸払い)」として金280万円を,そ
れぞれ貸し付けた。これらの貸付に,被告Aは決裁権限者として,被告B及び被告
Cは融資審議会のメンバーとして,被告Eは営業店長として関与した。これらの貸
付実行時には既存貸付は延滞状況にあり,貸付の融資稟議書に添付された資料には
「借入れ過大に付赤字
,債務超過」と記載されていた。
      (甲B6,甲B8,甲B9)
     b さらに,原告は,同日,陶陶商事に対して,金1億6500万円を
貸し付けた。融資稟議書には,資金使途は道玄坂店開店時調達不足金及び追加保証
金の補てん金とされていたが,添付資料によれば,実際の資金使途は次のとおりで
あり,既存貸付の延滞金の元金化及び春山の個人借入れ(高利貸し)などの肩代わ
りを目的とするものであった。
        春山グループの原告に対する延滞分の返済   金7900万円
        先日付小切手の支払             金1700万円
        個人借入れ(高利貸し)に対する返済     金3800万円
        こくぎんリースに対する返済         金2000万円
        家賃(1・2月分)             金600万円
        金利等                   金500万円
       また,融資稟議書には,返済条件は「営業収入により今後の営業推
移をみて期間内に切替え予定」とされており,具体的な返済予定ないし返済計画の
策定はなく,審査部の意見も,「業績増収傾向ながら収支尻は借入れ過多,設備投
資過大等により欠損発生,債務超過状態にある。今次調達分及び既往借入れ分に対
する償還財源不足並びに関連グループを含めた不動産担保余力の不足は否めない
が,事業継続による体制建て直し意欲は認められる。」というものであった。この
貸付には,被告Aは決裁権限者として,被告B及び被告Cは融資審議会のメンバー
として,被告Eは営業店長として関与した。
      (甲B10)
     c 前記の貸付により,春山グループの延滞はいったん解消した形とな
ったが,その後も,春山グループの業績は回復せず,平成6年4月以降,再び返済
を延滞するようになった。このため,原告は,同年8月31日,陶陶商事に対し
て,金2000万円を貸し付けた。貸付の資金使途は,春山グループの原告に対す
る8月及び9月分の元利金の返済金900万円と道玄坂店の未払家賃1100万円
に当てることを目的としていた。融資稟議書には,貸付の返済条件は,「営業収入
により今後の営業推移をみて期限内に長期切替え予定」とされており,具体的な返
済予定や返済計画を前提としていなかったが,今後の合理化計画として,錦糸町
店,光が丘店の撤退,蒲田店の売却か賃貸というリストラ策と渋谷へのバイキング
店の出店による収益増強
策とが挙げられていた。審査部の意見としては,「返済は営業収入金をもって対応
するも当面見通し立たず,長期割賦金に切り替えるもの。取扱い不芳ながら目下リ
ストラ推進中につき支援やむを得ない。」としていた。被告A,被告B,被告C,
被告Eは,この貸付の融資稟議に関与した。
      (甲B11)
     d さらに,原告は,平成6年10月31日,陶陶商事に対して,金5
00万円を貸し付けた。この貸付の資金使途は「運転資金(諸払い)」とされ,春
山グループの原告に対する返済金の延滞分に当てるものとされており,返済条件も
営業収入により今後の営業推移をみて期限内に長期切替え予定とされていた。な
お,店内融資協議書には,売上増強策として渋谷にバイキング専門店を作るべく一
応の計画を策定し,資料に基づき検討中であるとされていた。この貸付にも,被告
Aは決裁権限者として,被告B及び被告Cは融資審議会のメンバーとして,被告E
は営業店長として関与した。
      (甲B12)
   イ 本件融資1の実行
   (ア)融資審議会の審査
     a 上記のとおり陶陶商事は売上増強策として渋谷にバイキング専門店
を出店することを計画し,平成6年8月ころから,原告本店営業部に貸付を打診し
ていたが,同年9月,本店営業部に対して,新規店舗出店資金の借入れを申し込ん
できた。陶陶商事から出された新店舗の企画書は,渋谷区宇田川町に75.58坪
の店舗(120席)を賃借(家賃月265万円)し,営業時間を午前11時から翌
朝5時までとして,中華風バイキングの店を開店するというものであり,売上は月
2000万円,利益は月740万円を見込む計画であった。借入れ申込額は,当初
は入居保証金1億3000万円及び内装・諸経費7000万円の合計2億円とされ
たが,その後入居保証金1億3000万円,内装工事6500万円及び雑費(家
賃・手数料等)390
0万円の合計2億3400万円に変更された。さらに,同年11月6日以降,再び
陶陶商事と豊丘商事において原告に対する返済の延滞が発生したことから,金25
00万円が加算され,借入れ申込額は最終的には総額2億5900万円となった。
      (甲B13,甲B14)
     b 本店営業部は,本件融資1に応じる方向で融資内伺書を作成し,営
業店長である被告Eの決裁を得て,本部審査部に回した。融資内伺書による本店営
業部の検討は以下のとおりであった。原告の春山グループに対する平成6年11月
19日現在の融資残高は合計8億2200万円であるのに対して,これらに対する
担保の評価額は1億1100万円に過ぎない。また,春山グループの原告に対する
毎月の弁済額は441万円であるほか,道玄坂店の店舗の追加保証金2400万円
及び税金等約1500万円が未払となっている。他方,陶陶商事の6月の収支は道
玄坂店の売上が約1220万円,営業利益が約85万円にとどまっており,原告に
対する弁済を行っていくためには月1800万円の売上が必要であるが,その達成
は困難であり,現に
7月は約1150万円,8月は約800万円,9月は約900万円と低迷してい
る。また,春山グループの他の店舗はいずれもリストラ計画中である。本件投資計
画では,新店舗により月2000万円の売上と740万円の利益が見込まれるの
で,原告に対する前記の月441万円の返済と本件貸付の返済金(1年間は利息の
みで月118万7000円,1年以降は平成27年9月20日まで元利合計226
万7000円)の返済が可能となる。そこで,現状のままでは延滞状態が続く見込
みが大であることから,収益増強策を展開することとしてはどうかというものであ
った。
     c 融資内伺を受けて本部審査部は,審査を行ったが,①春山グループ
各社の実績については,いずれも赤字・債務超過であり,これまで3回にわたり金
融支援を余儀なくされてきたこと,②春山グループのリストラとして物件売却は目
下のところ進展がないこと,③本件貸付の収益・返済計画について未払債務390
0万円(道玄坂店の入居保証金2400万円,消費税1500万円)の返済原資が
除外されていることなどの問題があるとして,「新規事業収益により固定化した貸
金を一挙に正常化し,現状打破をねらうものであるが,計画どおりの償還継続はか
なり厳しく,かつ与信過大にてリスク増大否めず,今次申出案件回避がベターであ
ると思料される。」という意見を付して上位者に回付した。
     d 本件融資内伺についての融資審議会は,平成6年11月11日,同
月16日,同月30日の3回にわたって開催され,被告B,被告C,被告Dは,い
ずれの融資審議会にも出席した。当初の2回の融資審議会においては,①これ以上
の担保物件がなければ純資産10億円程度ある保証人2人以上つけることはできな
いか(被告C),②税金・家賃の支払状況をチェックすること,③春山の妻の保証
人としての意思を確認すること,④前回の融資分により高利貸しへの返済が行われ
たのか確認すること,⑤家賃は新旧店舗とも原告の口座より振り込みすることなど
の意見が出され,本件融資1に消極的な意見もあったが,筆頭役員の地位にあった
被告Bの意見により春山の意思が確認できれば再度のチャンスを与えるという方向
になった。
     e そこで,本店営業部において春山夫妻と面談し,①事業遂行の意
思,②収益改善できない場合は,道玄坂店は営業権・造作付で売却し,代金全額を
原告への返済に充てること,③新店舗は営業権・造作付で譲渡担保に入れる旨の賃
貸人の承諾を得ること,④所有資産すべての処分を原告にゆだねることなどを確認
し,その結果を書面にまとめ,同年11月25日に,本部審査部へ提出した。
     f これを受けた審査部の意見は,道玄坂店の賃借権に関する担保権の
設定は賃貸人の承諾が得られないので保全強化とならず,新店舗の入居保証金につ
いても家主の承諾は得られるものの正式担保とは認められず,新規融資により保全
不足が増大するため問題はあるが,信用扱いで対応せざるを得ないとするものであ
った。
     g 以上の経過を経て,融資内伺に対する3回目の融資審議会が同月3
0日に開催され,本件貸付を認める方向で意見が集約された。なお,以上の経緯に
ついては被告Aにも報告がなされ,融資内伺書に被告Aの決裁がなされた。
      (bからgにつき,甲B14)
   (イ)融資稟議と審査
     a 本店営業部は,店内協議を経た上,本件融資1を認める融資稟議書
を作成し,被告Eの決裁を得て,本部審査部に稟議を回した。稟議の内容は,貸付
総額2億5900万円,返済期限は平成27年11月,返済は平成7年11月まで
は利息のみで月118万7000円,平成7年11月以降は元利合計で月226万
7000円,最終回は88万円とするものであった。融資稟議書によると,陶陶商
事は原告への返済を延滞中であるとされ,また添付された貸借対照表によると,陶
陶商事を含めた春山グループの各社はいずれも債務超過状態にあった。また,原告
の本件融資1前の平成6年11月9日時点の春山グループに対する融資残高は8億
2200万円(陶陶商事3億8000万円,豊丘商事2億8500万円,世新商事
4000万円,春山
個人1億1700万円)であるのに対して,これらの債務の担保とされた不動産等
の担保評価は1億1000万円にとどまり,7億1100万円の保全不足とされて
いた。本件融資1の保全措置としては新規店舗の入居保証金が担保評価9100万
円であるほかは,春山夫妻の連帯保証に過ぎず,春山個人の資産は既存融資の担保
とされており,また春山の妻の個人資産は60万円とされていたことから,本件融
資1の実施により春山グループに対する融資残高は10億8100万円,担保評価
は2億200万円となり,保全不足は8億7900万円に拡大するとされていた。
なお,融資稟議書には前記の融資内伺書が添付されていたが,店舗企画書は貸付額
が前記のとおり2500万円増額したことから,これに伴う返済金の増額分(元利
合計約30万円)を
賄うため,営業時間を当初午前11時から翌朝5時までとしていたのを24時間営
業とし,毎月の売上を当初月2000万円としていたのを月2200万円に変更し
ていた。
     b これに対して,本部審査部は,現状では既に借入金返済は不可能な
状況にあり,経営者の意思確認に基づき新規事業により現状打破する以外ないもの
と思料されるとの意見を付した。
     c これに基づき本件融資1は,平成6年12月6日,被告B,被告
C,被告Dが出席する融資審議会で承認され,同日,被告Aの決裁を得て,翌14
日に実行された。
      (甲B1)
   ウ 本件融資1後の状況
   (ア)陶陶商事の事業の撤退
     a 本件融資1後も春山グループは原告に対する延滞を繰り返し,本件
融資1も平成7年6月から延滞が生じた。このため,陶陶商事は道玄坂店を閉店す
ることを余儀なくされたが,同店の入居保証金4750万円は滞納家賃約2400
万円のほか,春山が原告に隠していた暴力団関係者からの借入金の返済に当てら
れ,原告の貸付金の回収には回らなかった。
     b さらに,本件融資1による新規店舗も,平成10年3月時点では売
上は月1200万円,経費控除後の利益は約100万円にとどまるなど計画を大幅
に下回り,家賃を長期間滞納(13か月分6800万円)し,家主から明渡し訴訟
を提起され,平成10年9月15日を期限として立ち退くこと,返還すべき保証金
はないことを確認する旨の裁判上の和解が成立し,明渡しが行われた。以上により
陶陶商事の事業の実態はなくなり,陶陶商事に対する貸付残高の回収は不能となっ
た。
      (甲B6,甲B15,甲B16の1及び2)
   (イ)本件融資1の回収不能額
     a 陶陶商事は,本件融資1について,次のとおり合計1728万円を
返済したため,その残高は2億4172万円となった。
        平成8年3月29日     432万円
        平成8年5月28日     216万円
        平成8年6月28日     108万円
        平成8年9月30日     324万円
        平成9年3月28日     648万円
     b 上記残高2億4172万円は,平成9年4月28日,別口の貸付金
(平成4年9月30日に実行された2億円)の残高1億7228万円と一本化さ
れ,4億1400万円の貸付金となった。陶陶商事は,この4億1400万円の貸
付金について,次のとおり合計550万円を返済した。
        平成9年5月28日      50万円
        平成9年6月30日      50万円
        平成9年7月28日      50万円
        平成9年9月30日      50万円
        平成9年12月30日     50万円
        平成10年3月30日    300万円
     c そこで,上記550万円を一本化前の本件融資1の残高2億417
2万円に充当したものとすると,本件融資1の回収不能額は2億3622万円とな
る。
      (甲B17)
 (3)被告らの責任
   ア 本件融資1の問題点
   (ア)以上のとおり,本件は債務超過にあり既存融資の延滞を繰り返し,そ
の返済の見込みの立たない貸出先に対して,新規事業のための資金を新たに融資す
るものであり,これによる収益で新規融資のみならず既存融資の回収をも図ろうと
したものである。本件のように既存融資の返済の延滞を繰り返すなど返済能力に重
大な懸念が顕在化している貸出先に対する追加的融資は,貸出先が既存債務の返済
をすることができなければ直ちに資金ショートを来たし,新規事業自体の遂行も困
難となり追加融資分の返済にも支障が生じるおそれがあることから,新たに貸倒れ
リスクを増大させ回収不能の損害を拡大させる危険性の高いものである。したがっ
て,融資の判断にあたっては通常の場合にも増して慎重に償還可能性を検討するこ
とが必要であり,追
加融資分について確実な担保がある場合か追加融資分のみならず既存融資分の返済
を可能とする事業計画の実現について相当高度の蓋然性が客観的に確保されるよう
な特段の事情のない限り融資を差し控えるべきである。
   (イ)本件融資1は,既に述べたとおり貸出額2億5900万円に対して担
保評価額は9100万円にとどまり大幅な保全不足であり,春山グループの既存店
舗はいずれも既存債務の弁済が可能な収益を挙げることが期待できずリストラを検
討中であったのであるから,事業計画の実現可能性が審査の最重要ポイントとなる
べきところ,本件においては以下のような問題が指摘される。
   (ウ)すなわち,前記認定によれば,最終的な本件事業計画は,渋谷区宇田
川町に24時間営業の中華風バイキング店(店舗面積75.58坪,120席)を
開店し,売上として月2200万円,利益として月740万円を上げ,これにより
既存債務(弁済額月約440万円)及び追加融資(弁済額月約230万円)を20
年間にわたって弁済するというものであった。
      しかることろ,春山の提出した収支計画は,売上見込みとして平日と
土日に分けて各時間帯ごとの来客予想(平日は1日平均700名,土日は900
名)に客単価を乗じたものを合計し月2190万円から3000万円の売上が見込
まれるとし,他方,経費としては,材料費を売上の35パーセント,人件費を10
名で300万円,家賃約265万円,光熱費50万円,税金約26万円,雑費40
0万円合計1450万円とし,利益を740万円としていたが,売上の積算の前提
となる各時間帯ごとの来客予想や人件費等の経費について何らの具体的裏付けや客
観的資料をも伴わないものであった(甲B1)。さらに,返済計画についても陶陶
商事には道玄坂店の入居保証金2400万円及び税金1500万円の合計3900
万円の未払金があった
にもかかわらず,これが返済計画に反映されていないとの指摘が本部審査部からな
されているものであった。そして,本件融資1は,融資内伺についての3回の融資
審議会の過程で償還可能性について疑問視する意見が出されていたにもかかわら
ず,収支計画の根拠の確認・検証や類似店舗あるいは春山グループの既存店舗の実
績等と比較した分析・検討はなされず,また本部審査部の指摘も未解決のまま,春
山の事業遂行意思の再確認のみを決め手として融資実行の判断が形成されたもので
ある。しかしながら,本件収支計画は,同種の事例と比較しても,原告の主張する
とおり,キャッシュフローでみた利益の売上に占める比率が過大である一方,人件
費の売上に占める比率は過小であり,さらに客単価に比して本件店舗の面積が広く
初期負担が過大である
との指摘が妥当するものであった(乙ヌ1)。さらに,現実にも,陶陶商事は,本
件融資1から半年足らず後の平成6年6月30日以降,本件融資1の返済の延滞を
繰り返し,計画を大幅に下回る実績しか達成できないまま(平成10年3月時点で
の新規店舗の売上は月1200万円,粗利50パーセント,経費控除後の利益は約
100万円にとどまる。),長期間の家賃滞納の末,撤退を余儀なくされるなど,
本件事業計画は実現性の乏しいものであった。
      以上によれば,本件の事業計画は,その実現の高度の蓋然性を裏付け
るものとはほど遠いもので,かかる資料と債務者の意思のみに期待して,既存債務
の延滞を繰り返し,債務超過にある貸出先に,大幅な保全不足のまま長期間の融資
を行うことは取締役の裁量の範囲を超えた冒険と評価せざるを得ず,本件融資1は
審査のための合理的な情報収集・分析,検討を怠って,明らかに償還可能性の乏し
い融資を実行したものというべきである。
   (エ)なお,被告らは,本件融資1の当時,原告には償却財源がなく,本件
融資1を行わなければ原告自身が破綻する危険があったため,これを実行する必要
があったと主張する。しかしながら,本件融資1の稟議書等にはこのような事情は
一切触れられておらず,このような考慮が実際になされたのか疑わしいのみなら
ず,破綻回避のための融資であったとしても,それが許されるためには後にカミパ
レスに対する融資について判示するとおり,原告自体の破綻の危険を除去しうる合
理的かつ具体的な施策を伴う必要があるところ,本件においてはこれらについて何
らの主張,立証もなく,被告らの主張は失当である。
   イ 被告らの注意義務違反
   (ア)被告A
      被告Aは,本件融資1に決裁権限者として関与したが,同被告のこれ
までの陶陶商事に対する融資への関与,融資内伺書及び稟議書の記載内容からし
て,本件融資1に上記のような問題点があることは容易に認識し得たのであり,稟
議書における検討の不足・不備は被告Aの立場におかれた銀行の取締役として,こ
れに基づき融資実行の意思決定をすることに当然に躊躇を覚えるべき内容であった
というべきである。しかるに,被告Aは,これを看過して本件稟議を決裁し,明ら
かに回収可能性の乏しい融資を実行したのであって,取締役の善管注意義務の違反
があると認められる。
   (イ)被告E
     a 被告Eは本店営業部を担当する取締役として,営業店業務を推進・
統括する立場にあり,融資の申請に対しては必要な調査検討を行い,回収可能性の
乏しい融資を推進してはならない注意義務を負っていた。しかるところ,被告E
は,本店営業部長として春山グループの状況及び本件融資1の内容を知悉していた
にもかかわらず,必要な調査・検討を怠り,回収可能性の乏しい本件融資1を推進
する稟議書を作成し,決裁権限者に回したのであって,取締役の善管注意義務に違
反したものと認められる。
     b これに対して,被告Eは,「本件事業計画の実行により新規融資も
既存融資もその事業収益の中から返済させることができると判断したが,大きな金
額を担保不足の状態で融資することによるリスクがあった。他方で,新規貸付に消
極という選択は将来7億円以上のロスを出すことにつながるので,融資消極という
最終判断を行うためには,償却に対する情報が存在し,償却についての銀行経営上
の政策を立てている経営の中枢部に本件案件を上げて,その判断を仰ぐことが必要
であった。そこで,融資内伺を上げたものであり,これにより被告Eは取締役とし
ての注意義務を果たしたものである。」旨主張する。
       しかしながら,原告においては,他の銀行と同様に融資の判断の適
正を図るために,営業部店,本部審査部及び融資審議会による重畳的な情報収集・
分析,検討の手続が整備されていたが,このようなシステムにおいては,営業部店
たる本店営業部は,貸出先と直接の関係を有し,貸出先に関する情報の最も豊富な
部署として,融資の申請に対して必要な調査・検討を尽くし,融資の可否について
の第1次的判断を行うことが当然の前提となっているというべきである。したがっ
て,仮に,本店営業部として本件融資1の回収可能性に懸念があり,融資を行うこ
との相当性に疑問があるというのならば,さらに調査・検討を尽くし,その可否を
判断すべきであり,このような調査・検討を行わないまま,償却について判断を求
めるために,とりあ
えず融資の方向で内伺や稟議を上げるということは,それ自体が営業部店を担当す
る取締役の注意義務に違反するものであって,被告Eの主張は採用できない。
       また,被告Eは,新規事業により追加融資分及び既存融資分の全額
が回収できなくとも,追加融資分以上の回収が図られれば本件融資1のメリットは
あると主張するが,少なくとも追加融資分の回収が図られるためには収支計画どお
りの売上が一定期間継続することが前提となるが,既に述べたように本件収支計画
はこのような見込みを支えるものとしても不十分であったといわざるを得ない。
   (ウ)被告B,被告D及び被告C
     a 被告B,被告D及び被告Cは融資審議会のメンバーとして本件融資
1に関与した。
       ところで,証拠(甲A8の1ないし3,甲A9の1,甲A21ない
し24)によれば,原告における融資審議会の権限について,以下のとおり認めら
れる。すなわち,頭取が決裁権限を有している融資案件のうち,一般取引先の増額
1件につき1億円以上の案件等については,融資審議会に付するものとされてい
た。融資審議会のメンバーは,本件融資1当時は,副頭取,専務,頭取が指名する
常務,審査部長及び審査部長が指名する審査部副部長又は審査部次長であり,副頭
取,専務及び常務2名以上の出席を要するものとされていた。そして,以上のよう
な審議会の構成メンバー,付議の対象案件からして,原告において融資審議会が設
置された目的は,重要案件について慎重な審査を行い,頭取の決裁権限の行使の適
正を図ることにあった
。さらに,融資審議会要綱によると,「この審議会で審議した案件は,審査部副部
長又は審査部次長が所定の記録簿に債務者名・金額・稟議番号・取扱い条件及び可
否(否決の場合はその事由)を記録する。」旨定められていたことからして,審議
会として融資の可否についての結論を出すことが想定されており,融資を可とする
場合は出席した取締役は稟議書の役員欄に押印することとなっていた。原告の融資
手続の内規において特段の規程が置かれていなかったことから,融資審議会の結論
は必ずしも決裁権限者の判断を拘束するものとは解されないが,融資審議会が否決
した案件は上記のような設置の趣旨からして決裁権限者も当然慎重に判断すること
が期待され,現実にも融資審議会が否決した結果,頭取も融資を認めなかった実例
も存した。以上のと
おり認められる。
       しかるところ,取締役は取締役会の構成員として代表取締役及び他
の取締役の業務執行全般について監視義務を負っているところ,融資審議会は,上
記のような制度趣旨及び機能からして,そのメンバーたる取締役にとっては,監視
義務の前提たる情報収集及び監視義務の履行の機会を提供する場とみることが可能
である。しかるに,被告Bらは,既に述べたとおり本件融資1の融資内伺書及び稟
議書の記載内容並びに融資審議会における議論状況から,本件融資1についての情
報収集・分析,検討に前記の不足・不備があり,これに基づき融資の判断をするこ
とに当然躊躇すべき状況にあったのであるから,そのような融資が実行されること
を阻止すべきであったにもかかわらず,融資審議会において本件融資1を承認し,
決裁権限者たる頭取
に稟議を回したものであり,取締役の善管注意義務違反たる監視義務違反があった
というべきである。
     b 被告らは,融資審議会において本件融資1に反対する意見を述べた
のであるから,取締役の善管注意義務は果たしたと主張する。
       しかしながら,仮に,被告らにおいて,本件融資1に反対し,監視
義務を果たしたというためには,融資審議会において融資が否決される結論となる
よう他の出席者の説得に努めるとともに,自らが多数となることができない場合に
はあくまでも審議会の結論に反対である旨の意見を明記し,決裁権限者への警告を
発することが最低限必要であったというべきである。しかしながら,融資審議会は
本件融資1について融資内伺書及び稟議書のいずれについても承認する結果となっ
ており,被告らはいずれも融資内伺書及び稟議書の役員欄に何らの留保もなく押印
している(甲B1及び甲B3)のであるから,審議の過程で反対の意見を表明した
かどうかは別として,結論として本件融資1に賛成したものであって,取締役とし
ての善管注意義務を
尽くしたとは言い難い。
       さらに,被告らの中には,「融資審議会における検討時間が短く検
討を尽くすことができなかった。」あるいは「融資の専門ではないので判断ができ
なかった。」旨の主張をするものもあるが,いずれも取締役としての任務を放棄す
る主張であり,自らの責任を否定する理由にならない。さらに,「融資審議会は,
審議する場であり会として結論を出すものではなかった。」,あるいは「稟議書等
の役員欄への押印は内容に賛成する趣旨のものではなく,融資審議会に出席したこ
との確認の意味を有するに過ぎない。」と主張する者もいるが,これらについても
既に判示したとおり失当である。
       なお,融資審議会の位置付け,機能に関する上記判断は,後に判断
する他の融資案件についても同様である。
 (4)結論
    以上によれば,被告らには,本件融資1をなすにあたって取締役としての
善管注意義務違反があり,その結果前記のとおりの回収不能の損害を原告に与えた
ものと認めることができ,原告の被告らに対する損害賠償請求権は,原告訴訟引受
人に譲渡されたことから,原告訴訟引受人の被告らに対する請求はいずれも理由が
ある。
 2 トーコーに対する融資について
 (1)証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
   ア 本件融資2ないし4に至る経緯
   (ア)原告は,平成2年8月,地創工業に対して富ヶ谷物件の購入資金とし
て2億円を貸し付けた。当該貸付の原告担当支店は新宿支店であり,被告Hは新宿
支店長として,被告Fは業務推進部及び管理部を担当する専務取締役として,それ
ぞれ上記貸付に関与した。この貸付は,原告の子会社であるこくぎんリース及びサ
ン・アミティ株式会社(以下「サンアミティ」という。)との協調融資であり,こ
くぎんリースは7億円,サンアミティは9億円を貸し付けた。上記協調融資の担保
として,富ヶ谷物件に原告,こくぎんリース及びサンアミティに対して,いずれも
第1順位の抵当権が設定された。地創工業は,富ヶ谷物件上で分譲マンションを建
設する計画であったが,マンションの建設を全く行わないまま,平成3年10月,
銀行取引停止処分を
受けて事実上倒産した。
     (甲C4,甲C6の1及び2,甲C8,甲C12,甲C19)
   (イ)そこで,サンアミティから,富ヶ谷物件について抵当権に基づく競売
が申し立てられ,東京地方裁判所は,平成3年10月14日,不動産競売開始決定
を行った。さらに,東京地方裁判所は,平成4年7月,最低売却価格を3億824
0万円と決定した。このため,競売手続が進行すれば,原告及びこくぎんリースの
地創工業に対する融資について,7億円強の損失が発生することが見込まれる状況
となった。
     (甲C5,甲C7,甲C8)
   (ウ)原告では,不良債権の管理・回収については本部監理部が管掌してお
り,当時の監理部の担当取締役は,被告Fであった。
     (甲A2の4,甲A7,甲C21)
      上記のとおり,原告及びこくぎんリースの両社で7億円強の損失が発
生するとの情報を得た原告本部は,新宿支店長の被告Hに対して,地創工業から追
加担保を徴求するなどの方法により損失を軽減させるよう強く指示をした。被告H
は,地創工業に追加担保を出す余力がなかったことから,原告が第三者に対して富
ヶ谷物件の購入資金を貸し付け,富ヶ谷物件を10億円程度で買い取らせ,その買
取代金の中からサンアミティに2億円を弁済して抵当権の抹消を得るとともに,原
告が1億円,こくぎんリースが7億円の回収を図るという処理案を策定した。そし
て,被告Hは,平成4年11月25日,新宿支店の取引先である株式会社ジェイ・
ケー・シー(以下「ジェイ・ケー・シー」という。)に買い取らせることとして,
上記処理案を原告本
部に打診した。
      これに対し,原告本部は,被告Hに融資内伺書を出すように指示した
ため,被告Hは,同年12月7日,ジェイ・ケー・シーに対して合計12億300
0万円を貸し付けるという,上記処理案を反映した融資内伺書を原告本部に対して
提出した。融資内伺書には,営業店意見として,ジェイ・ケー・シーは原告八丁堀
支店の取引先であるトーコーと業務・資本提携に向けて話合いを進めており,この
ような動きに併せてジェ・ケイ・シー主体で富ヶ谷物件上で富ヶ谷ラドンセンタ
ー・プロジェクトが進行し,ほぼ計画が煮詰まった旨及び債権保全については富ヶ
谷物件の他,不足分をトーコー所有の伊東リゾートマンションを追加担保とする旨
記載されている。
     (甲C9,甲C21)
   (エ)その後,原告本部において前記融資内伺書を検討した結果,富ヶ谷物
件は,ジェイ・ケー・シーではなく,八丁堀支店の取引先であるトーコーに買い取
らせる方がよいとの結論になった。
     (甲C21)
   (オ)トーコーは,昭和41年9月30日に設立された広告・広告代理店に
関する業務等を目的とする資本金200万円,従業員約80名の会社であり,夏川
太郎が代表取締役社長であった。
      原告の八丁堀支店は,昭和60年12月に第一勧業銀行の肩替資金の
貸付に応じることによりトーコーとの取引を開始し,静岡県伊東市十足のリゾート
マンション開発資金として平成2年10月及び平成3年3月に合計5億円の融資を
行ったが,同事業の失敗等からトーコーに対する既存融資のうち6億1000万円
が長期固定化しており,大蔵省の検査においても第2分類とされていた。トーコー
としては,伊東市十足の物件売却を図るとともに,本業での売上の拡大のために広
告大手のアイ・アンド・エスとの提携を目指して,既にアイ・アンド・エスと提携
していたジェイ・ケー・シーとの関係を深めていた。しかし,既存債務の金利負担
等からトーコーの収支は厳しい状況にあり,経常利益は平成3年度及び平成4年度
と2年連続で赤字で
あり,資金繰り面でも,平成4年8月ころからはジェイ・ケー・シー等との間で融
通手形を振り出すようになっていた。このため,原告八丁堀支店は,平成4年11
月4日,トーコーのグループ会社であるスペースコアから,ジェイ・ケー・シー振
出しの約3000万円の手形割引を依頼されたが,トーコーでのジェイ・ケー・シ
ー振出しの手形割引総額が既に約6000万円となっていたことからこれを断るよ
うな状況となっていた。
     (甲C1,甲C2,甲C3,甲C14,甲C20,甲C21)
   (カ)審査部長であった被告Gは,平成4年12月16日午後3時10分,
原告八丁堀支店長である秋野に電話をし,上記(エ)の経緯を説明の上,八丁堀支
店で受けるかどうか確認したところ,秋野はいろいろな観点から受けざるを得ない
旨答えた。これを受けて,秋野は,同日の午後5時15分,トーコーの夏川太郎と
面談したところ,夏川太郎は「本日10時に本店に行って被告G,頭取と会ってき
て資金的な援助が得られるという感触を得た。本格的にこれからつめていくので八
丁堀支店で面倒をみてもらいたい。当面の運転資金1億円については同月25日
(金)までに出してもらえばよい。」などと述べたことから,秋野は,同日午後6
時,被告Aに架電し,トーコーを買受人とする処理案について確認した。
     (甲C21)
   (キ)平成4年12月17日,夏川太郎は,秋野に対して,被告Hから1億
円は本部も了解していることなので八丁堀支店へ早く申し込むよう助言されたとし
て,1億円の早期の貸付を打診してきた。そこで,秋野は,同日,本部審査部を訪
れ,被告F及び被告Gに対して新宿支店で何か急ぐ理由があるのか確認するととも
に,「本件についてあとあと事故があった場合は八丁堀支店に責任を負わされたら
困る。」などと述べたところ,被告Gは,「頭取以下役員も承知していることなの
でそれはない。」などと答えた。
     (甲C21)
   (ク)地創工業とトーコーは,平成4年12月17日,富ヶ谷物件について
予定対価を10億1740万7000円として,国土利用計画法第33条1項に基
づく届出を渋谷区長に対して行った。この届出に対して,渋谷区長から,同月21
日,不勧告の通知がなされた。
     (甲C1)
   (ケ)夏川太郎は,平成4年12月18日,秋野に対して,「1億円は22
日にできればお願いしたい。富ヶ谷の件で後順位抹消費用他で1.5億円くらい地
創工業に流れているため運転資金がつまっている。土地の売買は24日がタイムリ
ミットだ。計画書は21日に提出する。」と申し入れてきた。また,被告Hは,同
日,八丁堀支店を訪れ,秋野と,トーコーに対する融資の稟議書について打合せを
したが,その際,被告Hは秋野に対して「本件にて将来とも何かあった場合には私
が責任をとる。八丁堀支店には迷惑をかけない。」と述べた。さらに,被告Hは,
サンアミティと抵当権抹消につき交渉をしていたが,同日,1億9564万円の弁
済と引換えに富ヶ谷物件への9億円の根抵当権を抹消することについて同意を得
た。
     (甲C10,甲C21)
   イ 本件融資2及び3の実行
   (ア)被告Hは,平成4年12月21日,地創工業に対する前記の融資に関
して,富ヶ谷物件に原告が設定していた抵当権抹消に関する融資条件変更稟議書を
作成し,翌22日,被告Aの決裁を得た。同稟議書に添付された店内融資協議書に
は,営業店意見として,①本件は,当初マンションプロジェクト資金として,サン
アミティ9億円,こくぎんリース7億円,当行2億円の取上げをしたものである
が,地創工業は,同プロジェクトによる借入金が80億円ないし85億円となり金
利負担増により,平成3年10月に銀行取引停止処分となり,当行の貸付も延滞中
であったこと,②平成3年10月に協調融資元のサンアミティが不動産競売を申し
立てたが,平成4年7月に最低売却価格が3億8240万円と決定されたこと,③
そこで,借主において
任意にて売却すべく活動した結果,今般任意売却先が決定し,後順位者と協議の結
果,当行1億円,こくぎんリース7億円を返済し,抹消売却する方針となったもの
であること,④競売の場合の配当予想は,当行が4248万8000円,こくぎん
リースが,1億4871万1000円となるのに対して,任意売却の場合は,当行
が1億円,こくぎんリースが7億円となるので,総体を勘案の上,本件応諾いたし
たいことなどが記載されていた。
     (甲C8)
   (イ)平成4年12月21日にトーコーから八丁堀支店に事業計画書が提出
された。この事業計画書は,表紙も含めて5ページのものであり,その内容は,富
ヶ谷物件上に「メディカル・ヘルス・センター」を建設・運営することにより,初
年度から年間8億2600万円の収入をあげて,5億3160万円の支出を控除し
た2億9440万円の年間営業利益を実現するというものであり,土地の購入資金
及び建設資金等を含めた総事業費を23億1000万円とし,そのうち会員権の売
却による入会金を7億円見込み(1口50万円を1000口,1口20万円を10
00口,いずれも5年間据置き,全額返済),その差額の16億1000万円が所
要資金として必要であるとするものであった。また,建築されるメディカル・ヘル
ス・センターのフロ
ア構成,事業計画推進関係者グループ及び事業収支計画等の記載はあったが,前記
の資金計画や収支計画の積算の裏付けとなる資料は何ら添付されておらず,また,
所要資金のうち,原告から融資を受ける12億7000万円以外の3億4000万
円の具体的な調達方法についても全く記載のないものであった。
     (甲C1,甲C2,甲C20)
   (ウ)平成4年12月21日,原告八丁堀支店は,本件融資2及び本件融資
3についての店内協議を行い,本件融資3については同日付で,本件融資2につい
ては同月22日付で融資稟議書を作成した。
      本件融資2の融資稟議書には,金額11億7000万円は,利率年
6.5パーセント,期間1年間,期間経過後長期切替え(15年予定)とされ,資
金使途は富ヶ谷健康センター建設用地購入並びに諸費用と記載されている。稟議書
の添付資料には,貸付額11億7000万円は,富ヶ谷物件の売買代金10億10
00万円,差押等抹消代金5000万円,設計料他諸費用8000万円,登記料3
000万円の合計であり,このうち合計約10億6000万円(サンアミティへ1
億9560万円,こくぎんリースへ7億円,原告新宿支店へ1億円,後順位権利者
へ6229万4000円)が債権者への弁済に充てられることとされていた。
また,本件事業計画については,総費用23億1000万円中入会金で7億円を調
達することから,所要額はその差額の16億1000万円となり,これを期間15
年,年利6.5パーセントで借り入れると,返済額は元利合計で1か月1400万
円になるが,本件事業の収入を毎月8260万円,支出は5310万円と見込み,
これにより返済する旨の記載がなされていた。
他方,本件融資3の融資稟議書には,金額1億円,利率年6.5パーセント,期間
1年間,期間経過後長期切替え(15年予定)とされ,資金使途は富ヶ谷健康セン
ター建設プロジェクトに伴う準備金とされていた。そして,本件事業計画について
は,前記の事業計画が添付されているにすぎなかった。
そして,いずれにおいても,①トーコーの経常利益は,平成3年8月期がマイナス
2億9200万円の赤字であり,平成4年8月期もマイナス8400万円の赤字で
あり,2期連続経常赤字であること,②トーコーに対する既存貸付金のうち,約7
割を占める6億1000万円について大蔵省の検査により長期固定を理由として第
2分類に分類されていたこと,③伊東市十足のリゾートマンションの資金の借入金
負担により収支が厳しい状況にあり,物件の売却を図っていること,④流動性預金
の平均残高は,平成4年9月以降減少しており,平成4年9月以降,原告において
従来なかった手形割引が開始され,平均残高も増加していること,⑤本業での売上
拡大を図るため広告大手のアイ・アンド・エスと業務提携を画策中で平成5年4月
以降に正式に提携し
,5年度は業績10億から30億を期待していること,⑥本件は上記⑤の事業展開
の一つとしてアイ・アンド・エスの業務提携先のジェイ・ケー・シーと共同して計
画するものであることが記載されていた。
      なお,本件融資2及び3に対する債権保全措置としては,富ヶ谷物件
に極度額10億1000万円の根抵当権を新たに設定し,さらに,既に,原告の担
保として極度額3億円の根抵当権が設定されていた伊東市十足所在のリゾートマン
ションの土地建物に極度額3億円及び1億円で後順位の根抵当権を追加設定すると
されたが,本件融資2の稟議書によれば,本件融資2及び3の実行により,富ヶ谷
物件の時価を本件売買価格とする前提で担保評価した場合には,6億5500万円
の担保不足となることが記されていた。
     (甲C1,甲C2,甲C20)
   (エ)秋野は,被告G及び被告Hと,平成4年12月22日の午前,原告本
部審査部において,本件融資2及び3の前記の稟議内容について最終打合せを行っ
た。その際,ジェイ・ケー・シー及び同社の門柳社長を本件プロジェクトに限定し
て保証人とすることとした。
     (甲C21)
   (オ)本件融資2及び3は,審査部の審査を経て,平成4年12月22日,
被告F,被告C,被告B及び被告Gらを構成メンバーとする融資審議会の承認を得
た上で,決裁権者である被告Aから,同日に本件融資3の,同月24日に本件融資
2の決裁を得た。
      そして,本件融資2及び本件融資3は,平成4年12月24日に実行
され,その結果,原告のトーコーに対する貸付残高は21億8260万9000円
となった。
     (甲C1,甲C2,甲C21)
   (カ)本件融資2は,平成4年12月24日,原告八丁堀支店のトーコー名
義の預金口座に全額振り込まれ,そのうちの2億6513万6400円は,翌25
日に,サンアミティに対する返済金1億9564万円,その他差押債権者らに対す
る返済金合計6209万3800円及び登録免許税等の登記手続費用740万26
00円として支払われた。また,8億円は,同月31日,原告新宿支店の地創工業
名義の口座を経由して,原告に対する返済金1億円及びこくぎんリースに対する返
済金7億円として支払われた。さらに,2250万円はトーコーにより現金出金さ
れ,6000万円は原告八丁堀支店にトーコー名義の定期預金として預け入れら
れ,670万0721円は,トーコー名義の他行預金口座に送金された。
     (甲C11の1)
      また,本件融資3は,トーコーは自らの資金繰りに利用し,平成4年
12月24日,いったん原告八丁堀支店のトーコー名義の預金口座に全額振り込ま
れた後,同日割り引かれたジェイ・ケー・シー振出しの手形割引金1699万50
00円と一体化された上で,同年12月末までのトーコーの支払資金としてほぼ費
消された。そのうち5500万円は,同月30日に出金され,トーコー名義の他行
預金口座を経由して,当時融通手形を振り出し合っていたジェイ・ケー・シーに送
金された。
     (甲C2,甲C11の2)
      なお,被告Hは,平成4年12月25日,トーコーに対する融資に関
連して,菓子折りやビール券を持参の上原告八丁堀支店を訪問し,会員権を売却す
るときには協力するなどと述べた。また,被告Gは,同日,トーコーに対する富ヶ
谷物件の売却等を確認するため新宿支店を訪れた。
     (甲C21)
   ウ 本件融資4の実行
   (ア)平成5年1月8日,秋野がジェイ・ケー・シーの門柳社長と面談し,
保証人の署名・押印をもらった際に,「富ヶ谷プロジェクトの当面の活動資金とし
て1月中2億4000万円が必要になる。」との話が出た。
     (甲C21)
   (イ)トーコーは,平成5年1月11日,八丁堀支店に対し,「メディカ
ル・ヘルス・センター〔富ヶ谷店〕事業開発基本費用」と題する書面を提出した。
これによれば,総事業費として26億4550万円が見込まれるのに対し,入会金
収入は8億円であり,差引き18億4550万円の所要資金が必要であるとされ,
早期費用として合計2億4000万円が必要であると記載されていた。本書面にお
いても総事業費や出資計画についての積算の具体的な裏付けとなる資料は何ら添付
されておらず,また,平成4年12月21日に提出された事業計画書と比較して,
所用費用が2億3550万円増加していたが,この変更の理由についても何らの記
載もなかった。
     (甲C2,甲C3)
      夏川太郎は,平成5年1月14日,八丁堀支店を訪問し,秋野に対し
て「スタッフとして医者をそろえるので見えない金が大分出ている。プロジェクト
総額の10パーセントくらい(2~3億円)の金が事前になければ思いきった仕事
はできない。地創工業の花守社長から聞いた最初の話では,5億円くらいの運転資
金が出て,利息は2年間据置きというものだったが,大分違ってきている。頭取,
被告Gと会って全面的に支援するという言葉があり決心したことでもあり,資金的
な面で4億円くらいは面倒をみてもらわないと困る。」などと言って,運転資金と
しての融資の追加を求めてきた。秋野は,同日,被告Hに会って確認を求めたとこ
ろ,被告Hは「夏川太郎が言っている5億円くらいは使っていいという話はしてい
ない。」,「今日,
新宿支店でジェイ・ケー・シーに2000万の融資を実行したが資金繰りがきつそ
うなのでトーコーからかなり資金が出ているのではないか。今回の富ヶ谷がらみで
ジェイ・ケー・シーの資金手当も含まれているのではないか。」などと答えた。
     (甲C1)
   (ウ)夏川太郎は,平成5年1月22日,秋野に対して,再び2億円の追加
融資を求めてきたので,秋野は,夏川太郎に対して,担保が必要である旨答えたと
ころ,夏川太郎は伊豆河津の8000坪の土地はどうかと打診してきたことから,
八丁堀支店において当該土地の現地調査をすることとなり,同月25日,八丁堀支
店の春駒次長が伊豆河津町の土地について担保調査をした。
     (甲C21)
   (エ)秋野は,平成5年1月27日,夏川太郎から,2億円の資金使途を聞
いたところ,夏川太郎は「平成4年9月から地創工業へ現金で24回にわたり1億
数千万円流れているため,本体の支払手形決裁資金に不足を生じてきた。ジェイ・
ケー・シーで7000万円から8000万円,トーコーで5000万円から600
0万円足りない。」などと説明した。秋野から上記報告を受けた被告F,被告G及
び被告Hは,同日,本部審査部において,午後2時から2時間にわたり協議した。
その結果,トーコーからの借入れ申込みは,資金使途が不明確であり,担保もない
こと,5億円の運転資金は最初から聞いていないことなどから,結論としては,本
件プロジェクトについては,今回1億円の融資で打ち切ること,建物についてはそ
の時になって考える
との方針となった。そこで,秋野から,夏川太郎に対し,原告の方針を伝えたとこ
ろ,夏川太郎は,「5億円の運転資金が国民銀行から出るという地創工業の花守社
長の言葉を信じて,それがあったからこそ土地の肩替わりを引きうけたのであり,
1月29日の支手決裁は不足を来している現在何とかしてもらわなければ困る。被
告Hには花守社長に一度会ってもらいたい。被告Gと会ったときは,7億の土地を
10億で引き取ってもらうことになるがそれでいいのかと念を押されたが,私から
はそれによって事業をさせてもらいますということを言ってきた。具体的な金額の
明示はしなかったが,5億円の運転資金が出してもらえるものと思っていた。」と
の対応であった。
     (甲C21)
   (オ)原告は,トーコーに対し1億円を貸し付ける(本件融資4)ことと
し,八丁堀支店において店内協議の手続を経た後,審査部の審査を経て,平成5年
1月28日に被告F,被告C,被告B及び被告Gらをメンバーとする融資審議会の
承認を得た上で,同月29日,決裁権者である被告Aの決裁を得た。
      本件融資4の融資稟議書の記載によれば,資金使途は富ヶ谷メディカ
ルヘルスセンター事業開発基本費用とされていたが,その明細は何ら具体的に特定
されておらず,事業計画の概要についても,上記メディカル・ヘルス・センター
〔富ヶ谷店〕事業開発基本費用と題する書面が添付されているにすぎなかった。ト
ーコーの経営・財務内容等についての記載は本件融資2及び3とほぼ同内容であ
り,本件融資4を実行した後の保全不足額は8億1200万円とされていた。
     (甲C3)
   (カ)本件融資4は,平成5年1月29日に実行され,本件融資4実行後
の,原告のトーコーに対する貸付残高は23億4089万5000円となった。本
件融資4は実際には,トーコーの資金繰りに使われた。すなわち,同日,原告八丁
堀支店のトーコー名義の当座預金口座に全額振り込まれた後,同年2月1日にトー
コー及びトーコーのグループ会社であるジェイ・ケー・シー振出しの小切手合計1
000万0721円と一体化された上で,同月10日までのトーコーの支払資金と
してほぼ費消された。また,そのうち6000万0721円は,同日,当時融通手
形を振り出し合っていたジェイ・ケー・シーに対して直接振り込み送金された
     (甲C3,甲C11の3)。
   エ トーコーの倒産
   (ア)トーコーは,平成5年9月16日に1回目の不渡りを出し,さらに同
月20日に2回目の不渡りを出し,同月24日,銀行取引停止処分を受け,事実上
倒産した。なお,トーコーに対する融資のうち大部分は,その後,トーコーアドに
重畳的債務引受されたが,そのトーコーアドも,平成10年5月20日に銀行取引
停止処分を受けて事実上倒産した。
     (甲C14,甲D13)
   (イ)トーコー(トーコー倒産後はトーコーアド)は,本件融資2につい
て,次のとおり合計1359万0191円を返済したため,本件融資2の残高は1
1億5640万9809円となった。
         平成6年 6月13日   20万0000円
         平成6年 8月10日  779万5428円
         平成6年 8月18日  300万0000円
         平成6年 8月22日    6万3325円
         平成6年12月 1日   91万2572円
         平成6年12月30日   75万1468円
         平成7年 2月 1日   86万7398円
      その後,上記残高11億5640万9809円は,平成7年6月5
日,別口の融資金(平成5年7月2日に実行された融資金残金2700万円)と一
本化され11億8340万9809円の融資金としてトーコーアドが重量的債務引
受をした。
      トーコーアドは,上記11億8340万9809円の融資金につい
て,次のとおり合計4893万円を返済した。
         平成 8年 7月 8日  233万0000円
         平成 8年 8月 6日  233万0000円
         平成 8年 9月 6日  233万0000円
         平成 8年10月 7日  233万0000円
         平成 8年11月 6日  233万0000円
         平成 8年12月 6日  233万0000円
         平成 9年 1月 6日  233万0000円
         平成 9年 2月 6日  233万0000円
         平成 9年 6月10日  932万0000円
         平成 9年 7月 7日  233万0000円
         平成 9年 8月 6日  233万0000円
         平成 9年 9月 8日  233万0000円
         平成 9年10月 6日  233万0000円
         平成 9年11月 6日  233万0000円
         平成 9年12月 8日  233万0000円
         平成10年 1月 6日  233万0000円
         平成10年 3月20日  466万0000円
      そこで,上記の返済額4893万円を上記の一本化前の本件融資2の
残高11億5640万9809円に充当したとすると,本件融資2の残高は11億
0747万9809円となる。
     (甲C15,甲D8)
   (ウ)なお,本件融資3については,平成8年6月3日に本件物件1が任意
売却され,1億円が弁済充当されたことにより,本件融資3の残高はゼロになり,
本件融資4については,平成10年3月24日に伊東市十足のリゾートマンション
が任意売却され,3000万円が弁済充当されたことにより,本件融資4の残高は
7000万円になった。
     (甲C15)
 (2)被告らの責任
   ア 本件融資2ないし4の問題点
   (ア)以上のとおり,本件各融資は,新宿支店の取引先である地創工業が事
実上倒産し,地創工業に対する原告及びこくぎんリースの貸付金の大半が回収不能
となったことから,八丁堀支店の取引先であるトーコーに原告が資金を融資するこ
とにより担保物件を買い取らせ,これにより地創工業に対する債権の回収を図ろう
として行われたものである。
      銀行が貸付先に対する融資の回収について,担保物件を第三者に売却
することにより,法的手続によるよりも有利な回収が見込まれる場合に,自らの取
引先に物件を紹介したり,あるいはこれに対して購入資金を融資すること自体は問
題とされるべきものではない。
      しかしながら,本件においては,以下に指摘するような通常の任意売
却による処理とは認め難い問題点があった。
     a 本件処理は,原告本部から地創工業に対する融資の回収不能の損失
を最小化するよう強い指示を受けた新宿支店長の被告Hが発案し,原告本部主導の
もとに進められたものであり,トーコーに対する融資の担当支店である八丁堀支店
から積み上げられた案件ではない。
     b 富ヶ谷物件の価格は競売手続において最低売却価格が3億8240
万円と決定され,甲C17号証によっても当時の時価としては4億9500万円が
相当であるとされている。被告Gも,富ヶ谷物件の時価は6億円ないし7億円であ
ると認識していたと主張していることからしても,富ヶ谷物件の売買価格10億1
000万円は時価と大幅にかい離するものであった。しかるに,買受人であるトー
コーには,富ヶ谷物件について格段に高い価値を見いだすべき事情は認められなか
った。
     c 買受人であるトーコーは,経常利益が2年連続で赤字であり,また
伊東市十足のリゾートマンション事業の失敗から原告に対する既存債務のうち6億
1000万円が長期固定化し,原告からの借入金の金利負担により資金繰りが厳し
い状況にあった。したがって,債権保全の観点からは,本件各融資の担保となる富
ヶ谷物件の時価評価が当然行われるべきであったが,担当支店である八丁堀支店は
富ヶ谷物件の時価調査を何ら行わないまま,売買価格とされた金10億1000万
円を前提に担保評価を行った。しかし,このように時価を大幅に上回る価格を前提
とした担保評価によっても,本件融資2及び3の実行により6億5500万円,本
件融資4の実行により8億1200万円という大幅な担保不足が生じるものであっ
た。
     d 上記のようなトーコーの経営・財務状況に加えて,時価よりも著し
く高額で物件を買い取ることになるのであるから,本来ならば融資の償還可能性の
前提となる事業計画の実現可能性については慎重な審査が求められていたはずであ
る。
       しかしながら,トーコーから平成4年12月21日に出された事業
計画書は,資金計画として総事業費を23億1000万円とし,このうち会員権の
販売により7億円の入金が見込まれることから16億1000万円の資金が必要と
なるとしていたが,総事業費のうち土地代を除く建物建設費用,機器・機材費,什
器・備品,広告宣伝費などの各支出項目については見積書などの具体的根拠を欠
き,会員権の売却についても価格の相当性や2000口の会員権をどのように売却
していくのか,その見込み等についても何らの裏付けもないものであった(甲C
1)。さらに,所要資金16億1000万円のうち原告からの貸付による12億7
000万円を超える3億4000万円についてどのように資金手当を考えているの
か不明であり,そもそも
本件各融資はメディカル・ヘルス・センターの運営による営業収益により返済を想
定しているにもかかわらず,同センターの建設自体の実現性が懸念されるような状
況であった。さらに,事業計画においては,収支計画としてメディカル・ヘルス・
センターの開業により初年度から8億2600万円の収入を上げ,5億3160万
円の支出を控除した2億9440万円の年間営業利益を実現するとしていたが,そ
の積算の根拠や実現可能性の裏付けとなる客観的資料は何ら付されていなかった。
トーコーは,上記事業計画書を提出後1か月足らずの平成5年1月11日に,新た
に事業計画書を提出してきたが,これによると総事業費は26億4550万円,入
会金収入8億円,所要資金18億4550万円となっており,先の事業計画よりも
所要資金額が2億3
550万円増加しているにもかかわらず,この変更についての合理的説明はなされ
ていない。
       このようにトーコーから提出された事業計画書は極めて不十分なも
のであったにもかかわらず,いずれについても担当支店である八丁堀支店は提出を
受けたその日のうちに事業計画書の数字を引き写すだけの店内協議書を作成して稟
議に回し,審査部もこれを承認しているのであって,事業計画については何らの審
査も行われていないものといわざるを得ない。
     e 前記のようなトーコーの経営・財務状況からすると,本来ならば,
必要額を超えた融資をすることとならないように融資の申出に対して慎重に資金使
途を審査すべきものであった。
       しかしながら,本件融資2のうちの設計費用8000万円について
は見積り等何らの裏付けもなく(甲C2),さらに本件融資3及び4の各1億円に
ついてはメディカル・ヘルス・センター事業とどのような関係があるのか全く不明
であるにもかかわらず,この点についての何らの審査もないままに稟議書が作成さ
れ(甲C2,甲C3),融資部の承認がなされた。そして,実際にも,これらの融
資はいずれも本件プロジェクトとは全く関係のないトーコー及びジェイ・ケー・シ
ーの資金繰りに使われた。
   (イ)以上に指摘した点及び既に認定した本件の経緯を総合すると,本件各
融資は,地創工業に対する既存融資の回収不能による損失の顕在化を避けるため,
本部主導のもと,トーコーに富ヶ谷物件を時価を著しく上回る価格で買い取らせる
ことを最優先させ,その見返りに,資金使途や必要資金額の把握,担保価値の評
価,事業計画の実現可能性の審査といった審査事務を犠牲にして実行されたもので
あり,これを「飛ばし」と呼ぶかどうかは別として銀行業務の本来の在り方からは
到底是認し難い融資であった。そして,その結果,地創工業からの回収額をも大幅
に上回る回収見込みのない融資をトーコーに対して行うこととなったものである。
   (ウ)なお,被告らの中には,本件各融資は原告自身の破綻回避のために必
要であったと主張するものもあるが,本件各融資を実行しなければ原告自身の破綻
を来すような状況にあったことを認めるに足りる証拠はない。
   イ 被告らの注意義務違反
   (ア)被告A,被告F,被告G及び被告Hの責任
     a 本件各融資の当時,被告Aは融資決裁権限を有する代表取締役頭取
であり,被告Fは不良債権の監理・回収等を所管する監理部担当の代表取締役専務
であり,被告Gは常務取締役審査部長,被告Hは取締役新宿支店長であったとこ
ろ,既に認定したところから明らかなごとく,被告らは本件各融資が新宿支店の既
存貸付の回収不能による損失の顕在化を避けることを目的とした実質無審査融資で
あり,本来の銀行業務に照らし是認し難いものであることを知悉した上,被告Aに
おいてはこれを決裁し,その余の被告らにおいてはこれを推進あるいは加担したも
のであって,銀行の取締役の忠実義務にもとる重大な義務違反があったというべき
である。
     b 被告Gは,「地創工業に対する既存融資の回収について競売手続に
よると原告及びこくぎんリースで7億円強の損失が確定するのに対して,本件融資
2及び3を実行する場合には,地創工業に対する原告及びこくぎんリースの既存貸
付金9億円のうち8億円が回収可能となることから地創工業関係の融資の損失は1
億円にとどまり,仮に本件融資2及び3(合計12億7000万円)が焦げ付いた
場合にも富ヶ谷物件の時価相当額である6億円と貸付金のうち預金に留保される6
000万円を除いた6億1000万円が回収不能となるから,損失は合計7億10
00万円であり,本件各融資を実行する場合としない場合とでは損失に変わりがな
い。他方で,原告の実質的子会社であるこくぎんリースは当時5億円を超える損失
を償却できる余力は
なく,またこくぎんリースに資金を貸し付けていた金融機関が資金を引き上げるタ
イミングをうかがっていたこともあり,仮に本件各融資を実行せず,こくぎんリー
スにおいて償却が必要な事態となるならば,原告においてこくぎんリースに対する
債務免除等により償却財源を捻出するのみならず,他の金融機関の資金の引上げへ
の肩代わりなど多大な負担が生じたことが予想された。本件融資2及び3は,以上
のような経営判断に基づき実行されたものであって,取締役の裁量の範囲内であ
る。」旨の主張をする。
       被告Fも,「競売により原告とこくぎんリースに合計7億円強の損
失が確定するが,富ヶ谷物件の時価が8億円であるとすると本件融資2及び3を実
行する場合は,これらの融資が回収不能となっても,損失は地創工業分の1億円と
本件融資2及び3の合計額12億7000万円から富ヶ谷物件の時価相当分を控除
した5億7000万円の合計6億7000万円となり,かえって有利であり,本件
融資2及び3を実行することは経済合理性にかなうとともに,原告には損害は発生
していない。」旨主張する。
     c しかしながら,まず,本件各融資を行う場合とそうでない場合の損
失比較については,本件各融資は既に述べたとおり本来の銀行業務に照らして到底
是認できない無審査融資であり,このような取締役の忠実義務にもとる違法融資を
仕組むことにより得られる回収分をあらかじめ利益に計上することにより,自らの
経営判断の正当性を主張することは許されるべきものではない。また,仮に,被告
らの主張が損益相殺の主張を含む趣旨であるとしても,既に述べたところと同様
に,本件のような場合に既存融資の回収分について損益相殺を認めることは,かえ
って取締役の忠実義務違反を助長することにもなり損害の衡平な分担という損益相
殺の制度趣旨にも反するのみならず,そもそも本件においては,前記のとおり11
億7747万9809
円が回収不能となっており,仮に地創工業関係での回収利益を差し引いても原告請
求額を上回る損害が発生していることは明らかである。
       次に,こくぎんリースの支援の必要性についても,地創工業の抵当
権抹消の稟議書あるいは本件各融資の稟議書の審査部の意見等にもこの点に触れる
何らの記載がなく,またこのように重要な事項については当然相談や承認を求めら
れるべき立場にあった被告Aや被告F自身から本件訴訟でそのような主張がなされ
ていないことからしても,被告G主張のような考慮が本件各融資に際しての組織の
意思決定として検討されたとすること自体大いに疑問がある。仮に,こくぎんリー
スに対する支援と考える場合にも,銀行が支援として短期的な損失を甘受すること
が許されるのは,それを上回る長期的な利益が見込まれる場合に限り,その実現策
が具体的に検討されるとともに,損失負担の方法が相当であることなどの条件を満
たすことが必要であ
ると考えられるが,本件においては上記のとおり方法の相当性に問題があるのみな
らず,その余の点についても具体的な検討がなされたとの主張がない。
       以上のとおり,被告らの主張はいずれも失当である。
   (イ)被告B及び被告Cの責任
      被告B及び被告Cは融資審議会のメンバーとして本件各融資に関与し
た。両被告は,本件各融資が新宿支店の既存融資の損失の顕在化を回避することを
目的とした実質無審査融資であることまでの認識を有していたことを認めるに足り
る証拠はないが,既に認定したとおり融資審議会の資料たる本件各融資の稟議書の
記載自体から,トーコーの経営・財務状況が厳しく,本件各融資の実行により大幅
な担保不足が生じること,他方で,資金使途の把握や事業計画の実現可能性の審査
について不足・不備があることは認識可能であったのであり,本件各融資の償還可
能性について当然躊躇を覚えるべきものであったにもかかわらず,融資審議会にお
いて本件各融資を承認したものであって,取締役の監視義務に違反したものという
べきである。
 (3)結論
    以上のとおり被告らには本件各融資について取締役の注意義務違反が認め
られるところ,既に認定したとおり,原告の請求額を超える損害が発生しているこ
とが明らかであり,原告の被告らに対する損害賠償請求権は,原告訴訟引受人に譲
渡されていることから,原告訴訟引受人の被告らに対する請求はいずれも理由があ
る。
 3 トーコーアドに対する融資について
 (1)本件事実関係について
    証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
ア 本件融資5及び6に至る経緯
   (ア)トーコーアド(旧商号株式会社トーコー写植ブラシセンター)は,昭
和45年5月26日に写真植字及び写真修正業務を営むことを目的として設立され
た株式会社であり,トーコーのグループに属する会社である。トーコーアドの代表
取締役は,トーコーと同じく,夏川太郎であったが,トーコーの倒産直前である平
成5年8月14日に,夏川太郎が代表取締役を辞任し,同人の子である夏川杉男が
トーコーアドの代表取締役になった。夏川太郎は,その後も,トーコーアドの取締
役・会長に就任して,同社の経営に実質的にかかわった。
     (甲D4)
   (イ)トーコーは,前記のとおり,平成5年9月に不渡りを出して事実上倒
産したが,当時の原告のトーコーに対する債権残高は24億1305万4000円
となっていた。トーコーは,平成5年10月22日に開かれた債権者集会におい
て,トーコーアドでトーコーの営業を引き継ぐ方法により任意整理を行う方針を示
し,7名の一般債権者からなる債権者委員会の設置を提案し,了承された。
     (甲C14,甲D5)
      その後,平成6年1月ころから原告本部,監理部及び八丁堀支店と夏
川太郎との間で,トーコーの債務をトーコーアドが債務引受して分割返済する方法
によるトーコーに対する不良債権の整理策が断続的に話し合われた。
   (ウ)原告は,平成7年5月26日,延滞貸出金回収促進委員会(委員長は
被告B)において,トーコーに対する不良債権の整理策として,①トーコーに対す
る不良債権のうち11億8300万円をトーコーアドに債務引受させること,②債
務引受においては,原告はトーコーアドに対してトーコーの債務の返済資金11億
8300万円を貸し付け,原告がトーコーに対する融資について同額を回収した形
式を整えること,③原告はトーコーアドに対してトーコー所有の借地権付本件建物
をトーコーアドが譲り受けるための資金(担保権解除資金・名義書換料)及びトー
コーアドの運転資金等として3億4000万円を新規に貸し付けること,④以上の
債務の返済は15年分割弁済とすること,⑤トーコーアドから原告になされていた
1億円の借入れ申込
みについては,トーコーアドの資金操り・業況等を勘案し,短期扱いで対応するこ
となどを決定した。
      これを受けて,トーコーアドに対する金3億4000万円と金11億
8341万円の融資が,平成7年6月2日,融資審議会で承認され,被告Aの決裁
を受けて,同月5日実行された。被告B及び被告Cは,融資審議会のメンバーとし
て融資に関与した。この稟議書には,トーコーアドは,平成6年3月期における平
均月商が2800万円,営業損益が2600万円の赤字,経常損益が3000万円
の赤字とされており,担当支店である八丁堀支店,審査部,監理部の意見とも,保
全不足,償還財源不足であるが,債権整理・回収上やむを得ないとするものであっ
た。
     (甲D6,7)
   (エ)その後も,原告は,平成7年7月27日,トーコーアドに対し,トー
コーアドが請け負った原宿焼き肉店内装工事を外注するについての下請先への支払
資金として5800万円を貸し付けた。被告Bは,この融資を決裁し,被告C及び
被告Iは融資審議会のメンバーとしてこれに関与した。
     (甲D9)
      原告は,平成8年10月1日に開催された原告の延滞貸出金回収促進
委員会(委員長は被告B)において,トーコーに対する不良債権の追加整理策とし
て,①トーコーアドが,トーコーの原告に対する債務のうち1億3000万円を重
畳的に引き受けること,②これと引換えに,原告が,トーコーアドに対し,1億円
を貸し付けることを決めた。このトーコーアドに対する1億円の融資は,トーコー
アドが請け負った上記の焼き肉店の内装工事に施行ミスがあり,契約を解除された
ことから,完成した内装工事一式を放置することもできず,トーコーアド自身が,
焼き肉店の経営を引き継ぐこととなったために必要となった資金及び前記の580
0万円の貸付の回収資金を貸し付けるものであった。この追加整理策を受けて,ト
ーコーアドに対する
1億円の融資が,同月14日に被告Bの決裁を得た上,翌15日に実行された。こ
の融資の稟議書において,八丁堀支店は,トーコーアドにとって当該事業は新規分
野であること,トーコーアドは債務超過の状態にあり,保全も不足しており,財務
内容も不良資産があるとの問題点を指摘していた。
     (甲D10,11)
   (オ)トーコーアドの取引先である株式会社自然食品センター本店(以下
「自然食品センター」という。)は,平成9年2月28日に1回目の手形不渡り,
同年3月10日に2回目の手形不渡りを出して事実上倒産した。
      トーコーアドは,同年3月25日当時,自然食品センターに対する売
掛総額が6543万6728円となっており,同社の倒産により「非常に苦しい状
況に追い込まれており,このまま推移いたしますとまた倒産という大きな問題にな
り兼ねません。」などと記載された書面を原告の八丁堀支店に提出して,原告に対
する元利金の返済について猶予を申し入れ,翌26日,自然食品センター振出しの
手形2通(額面合計3562万0748円)を高利貸しで割り引いていたため買戻
請求されて資金繰りが悪化した旨を原告の八丁堀支店長海老根次郎(以下「海老
根」という。)に対して説明した。
      そして,トーコーアドは,債務引受に伴う融資金11億8340万9
809円及び3億4000万円並びに焼き肉店開店資金に対する融資金1億円につ
いて,原告に対する元利金の支払を平成9年3月分以降順次停止した。
     (甲D12,13)。
   イ 本件融資5の実行
   (ア)海老根からの報告を受けた原告本部監理部加須美副部長(以下「加須
美」という。)は,海老根に対し,今後のトーコーアドの資金繰りや元利金の支払
の見通しを把握するとともに,トーコーアドに対する支払の督促を強めるよう指示
した。
      海老根は,平成9年5月14日,夏川太郎らに来店を求め,トーコー
アドに対して,元利金の支払を督促するとともに,9月ころまでの資金繰表,平成
9年3月期の決算予想,他からの借入れ状況等の資料を提出するように求めた。こ
れを受けて,トーコーアドから提出された他からの借入れ状況は,高利貸しである
エヌ・アンド・ビー及び森田商会からそれぞれ1億円及び4000万円,商工ファ
ンドから400万円,明治乳業の子会社から1500万円となっていた。また,ト
ーコーアドが提出してきた決算書には,自然食品センターに対する売掛金等が記載
されていないなどの問題のあるものであったが,この点についてトーコーアドから
合理的な説明はなされなかった。
     (甲D13)
   (イ)夏川太郎は,平成9年6月2日,原告の加須美を訪問し,手形決裁資
金として同月10日に3000万円,同年8月10日に2000万円が不足すると
して,合計5500万円の追加借入れの申込みを行った。
     (甲D13)
   (ウ)平成9年6月4日,加須美から海老根に対して,審査部長を交えて話
合いをした結果,トーコーアドからの借入れ申込みについて面倒を見ることとなっ
た旨の連絡がなされた。(甲D13)
   (エ)これを受けて八丁堀支店は,同月6日,本件融資5について店内協議
を行い,審査部及び監査部担当の代表取締役副頭取であった被告Bの承認を得た上
で,同月9日,決裁権限者である被告Aの決裁を得て,同月10日,本件融資5を
実行した。
      本件融資5の融資稟議書の記載及び添付資料からは,①トーコーアド
は平成9年3月の自然食品センターの倒産により売掛金6500万円の焦げ付きが
生じるとともに高利貸しで割り引いた同社振出しの手形(3500万円)の買戻し
を求められ,資金繰りが悪化し,原告への返済が延滞していること,②上記資金繰
りのためトーコーアドは高利貸しから8000万円の借入れを行ったこと,③本件
融資5は原告に対する延滞解消資金2300万円,6月10日の手形決裁資金35
00万円に充てられること,④トーコーアドの売上は,平成7年度及び平成8年度
の平均月商が8100万円であるのに対して,平成9年4月の月商が6500万
円,5月の月商が6800万円と減少していること,⑤トーコーアドの決算書には
平成9年3月期におい
て資産は18億7620万円であるのに対して,負債は18億8460万円であ
り,840万円の債務超過であったこと及びこの決算書には自然食品センターの売
掛金,これに対する買掛金や高利貸しからの借入金も計上しておらず不明確なもの
であり,実際の債務超過額はさらに拡大することが見込まれたこと,⑥大蔵省検査
により債務超過を理由としてトーコーアドに対する貸付金残金15億8100万円
のうち,1億8000万円が第2分類と,14億0100万円が第3分類とされて
いたこと,⑦トーコーアドの格付が,原告内部の貸出先の分類基準によれば,「企
業資質面で問題有りとされた先」「問題点を洗い直し,仕振,保全の強化ができな
い場合には圧縮する先」であるDランクとされていたこと,⑧本件融資5について
新たな物的担保は徴求
されておらず,本件融資5の実行後には15億5700万円の保全不足となること
などが明らかであった。
     (甲A10,甲D1)
   ウ 本件融資6の実行
   (ア)トーコーアドから提出された資金繰表によると,本件融資5実行後の
原告からの追加融資は,8月10日の手形決裁資金2000万円が予定されている
だけのはずであったが,夏川太郎は,平成9年7月9日,被告Bを訪問し,手形不
渡りによる清算金6500万円と運転資金5000万円の合計1億1500万円を
追加融資してほしい旨申し出た。
     (甲D1,甲D13)
   (イ)八丁堀支店は,平成9年7月25日,本件融資6について店内協議を
経て,稟議を回し,同月28日に被告B,被告C,被告I及び被告Kを構成メンバ
ーとする融資審議会の承認を得た上で,同日,決裁権者である被告Aの決裁を得
て,同月30日,本件融資6を実行した。
      本件融資6の稟議書の記載及びその添付資料からは,①トーコーアド
は,倒産したトーコーの債務引受を行い,これを分割返済中であること,②本件融
資6のうち,6500万円は,取引先である自然食品センターの倒産により資金繰
りが悪化したことから,急場をしのぐ為に高利貸しから借りた借入金5000万円
の返済(エヌ・アンド・ビーに2500万円,森田商会に2500万円)及び自然
食品センターに係る買掛金1500万円の返済に充てられるものであり,その余の
5000万円は,明治乳業の子会社との取引開始に伴う運転資金に充てられるもの
であること,③高利貸しであるエヌ・アンド・ビーにはトーコー倒産時の借入金7
500万円があり,元金据置きで利息を毎月75万円は返済中であり,売上が軌道
に乗った時点で元本
の返済を行うこととなっていたこと,④本件融資6は新たに物的担保を徴求するも
のではなく,本件融資6実行時には,保全不足額が16億5500万円となること
のほか,トーコーアドの経営・財務状況について本件融資5の稟議書におけると同
様の趣旨が明らかであった。
     (甲D3,甲D13)
   エ 本件融資5及び6実行後の状況
   (ア)トーコーアドは,平成10年5月11日に第1回の不渡りを出し,同
月15日に第2回の不渡りを出し,同月20日に,銀行取引停止処分を受けて事実
上倒産した。
     (甲D13)
   (イ)なお,トーコーアドは,本件融資5について,次のとおり合計280
万円を返済したため,本件融資5の残高は5220万円となった。
         平成10年1月 6日    70万円
         平成10年3月20日   140万円
         平成10年4月20日    70万円
      また,トーコーアドは,本件融資6について,平成10年3月20日
に294万円を返済したため,本件融資6の残高は1億1206万円となった。
     (甲D14)
 (2)被告らの責任
   ア 本件各融資の問題点
   (ア)本件各融資は,倒産会社の多額の債務を引き受け,自らも債務超過状
態にある会社が,取引先の倒産により資金繰りが悪化し,原告への返済を延滞させ
るとともに高利貸しからの借入れでしのいでいる状態にあるのに対して,無担保で
さらに追加融資を行ったものである。
   (イ)本件融資5の資金の使途は,原告に対する延滞金の支払資金及び手形
決裁資金であり,その返済原資はトーコーアドの事業収益しかないところ,売上は
減少傾向にあり,高利貸しへの返済を含む既存債務の返済に加えて本件融資5の返
済原資を賄えるだけの収益の格段の向上を見込む具体的な根拠は全くなかったので
あるから,償還可能性の極めて乏しい融資であったといわざるを得ない。
   (ウ)また,本件融資6の資金の使途は,高利貸し等への返済資金及び明治
乳業の子会社との取引の開始のための運転資金であるところ,稟議書における管理
部の意見は返済原資として,明治乳業の子会社との取引の開始により年間7億円の
売上が見込まれるとしているが(甲D2,甲D3),これは従来のトーコーアドの
年間売上にも匹敵するものであり(甲D1),果たしてそのような大幅な売上の増
大が確実に期待できるものであるかどうか,その取引の内容について具体的な検討
が行われているわけではなく,また運転資金5000万円がどのように売上拡大の
ために必要であるのかの把握もなされていなかった。そして,現実にも明治乳業の
子会社との取引は不調であり,当初の見込みに反して月2000万円程度の売上し
か実現できなかった
(甲D13)。このように,本件融資6も高利貸しへの7500万円の債務を含む
既存債務に加えて,本件融資6の返済を期待し得る根拠の全く薄弱な融資であっ
た。
   (エ)以上要するに,本件各融資は,債務超過に陥った会社に対して再建の
具体的な見込みもないまま,無担保で徒に回収可能性のない融資を継続し,当該会
社破綻時の原告の傷口を広げたものといわざるを得ない。
   (オ)なお,被告らは,本件各融資は原告自身の破綻回避のために必要であ
ったとしてその正当性を主張するが,仮に破綻回避を目的とする融資であったとし
ても,これが許されるのは,後にカミパレスに対する融資について判示するとお
り,原告の破綻の危険性を除去しうる合理的かつ具体的な計画が必要であるとこ
ろ,本件においてはこのような検討がなされたことを認めるに足りる証拠は全くな
いから,失当である。
   イ 被告らの注意義務
   (ア)被告A
      被告Aは,決裁権限を有する代表取締役頭取として,本件融資5及び
6を決裁したが,稟議書の記載内容からして,本件各融資に上記のような問題点が
あることは容易に知り得たのであり,稟議書における検討の不足・不備は被告Aの
立場におかれた銀行の取締役として,これに基づき融資実行の意思決定をすること
に当然に躊躇を覚えるべき内容であったというべきである。しかし,被告Aは,前
記認定のとおり,これを看過し,明らかに回収可能性の乏しい融資を実行したので
あり,取締役の善管注意義務の違反があると認められる。
   (イ)被告Bの責任
      被告Bは,審査部及び監理部を担当する代表取締役副頭取として,本
件融資5の稟議書を承認し,また,融資審議会のメンバーとして本件融資6を承認
し,決裁権者たる頭取に稟議を回した。しかるところ,被告Bは,稟議書の記載内
容からして,本件各融資に上記のような問題点があることは容易に認識し得たので
あるから,監視義務を負う取締役としてこの様な融資が実行されることを阻止すべ
きであったにもかかわらず,上記のとおりこれを怠り,取締役の善管注意義務に違
反したものと認められる。
   (ウ)被告C,被告I及び被告Kの責任
      被告C,被告I及び被告Kは,融資審議会のメンバーとして本件融資
6に関与した。そして,稟議書の記載内容からして,被告らは,本件融資6に上記
のような問題点があることは容易に認識し得たのであり,稟議書における検討の不
足・不備は被告らの立場におかれた銀行の取締役として,これに基づき融資の判断
をすることに当然に躊躇を覚えるべき内容であったというべきものであるから,こ
の様な融資が実行されることを阻止すべきであったにもかかわらず,融資審議会に
おいて本件融資6を承認し,決裁権者たる頭取に稟議を回したものである。したが
って,被告らには,取締役の監視義務違反たる善管注意義務違反があったというべ
きである。
 (3)結論
    以上によれば,被告らには,本件各融資をなすにあたって取締役としての
善管注意義務違反に違反し(被告C,被告I及び被告Kについては本件融資6につ
いてのみ),その結果前記のとおりの回収不能の損害を原告に与えたものであり,
原告の被告らに対する損害賠償請求権は,原告訴訟引受人に譲渡されていることを
認めることができるから,原告訴訟引受人の被告らに対する請求はいずれも理由が
ある。
 4 国際販売に対する融資について
 (1)証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができ
   る。
   ア 本件融資7に至る経過
   (ア)国際販売
  国際販売は,昭和45年に国際不動産株式会社の商号で設立された不動産取引
を業とする株式会社であり(平成2年11月1日に現商号に変更),国際商事こと
桜貝健太(以下「桜貝」という。)が代表取締役であった。国際販売は,桜貝の率
いる国際商事グループのl社であり,神田及び上野地区を中心に都心の物件を扱っ
ていた。原告は,昭和61年2月から国際販売と与信取引を開始した。
 (甲E1,甲E11)
   (イ)成和鉄工株式会社の破綻
 a 成和鉄工は,鉄骨工事を業として昭和43年に設立された会社であり,昭和
49年8月から原告の神田支店と与信取引を開始した。成和鉄工は,平成2年l月
5日,2回目の手形不渡りを出し,同月l0日,銀行取引停止処分を受けて事実上
倒産した。原告は,成和鉄工の倒産当時,同社及び蜻蛉の代表取締役青桐正義に対
し,元金約3億6000万円余りの貸金債権を有していた。
  (甲E1)
 b 原告は,上記債権の担保として蜻蛉所有に係る東京都台東区西浅草○丁目○
番に所在する土地建物である西浅草物件に対し,第2順位から第4順位まで,極度
額合計3億6000万円の根抵当権を設定していたが,同物件には,第一勧業信用
組合が第1順位の極度額7億円の根抵当権を設定していた。
  (甲E2のl,甲E3)
 c 平成2年11月,第一勧業信用組合は,東京地方裁判所に対し,根抵当権に
基づき西浅草物件の不動産競売の申立てを行い,同裁判所は,同月27日,競売開
始決定を行い,平成3年8月30日に最低売却価額を2億9598万円とする期間
入札の通知を発出した。
  (甲E4,甲E5)
   (ウ)西浅草物件の売却交渉
 a 成和鉄工の倒産当時の原告の神田支店長であった被告E(国際販売に対する
案件では,被告Eの責任は問われていない。)は,成和鉄工の倒産後,同社に対す
る貸金を回収すべく,同じく神田支店の取引先であった国際販売に対し,西浅草物
件の購入を打診した。
  (甲E3)
 b 被告Eが原告本店営業部に異動となったことから,平成3年5月以降は,西
浅草物件の購入のための交渉は,従来より国際販売に対する融資を担当していた神
田支店融資課長の草笛麻雄(以下「草笛」という。)が引き継いだ。
  (甲E24)
 c 平成3年6月7日,草笛は,審査部の雲海審査役を訪ね,成和鉄工に対する
貸付金の回収策として,国際商事に西浅草物件の購入を打診中であることを説明の
上,審査部の考え方を確認したところ,雲海審査役は,従前から話は聞いており,
審査部長及び監理部と協議の上,同年6月12日ころ迄に具体的指示をする旨答え
た。
   平成3年6月12日,草笛は,再び雲海審査役を訪ね,上記の件について確
認したところ,被告G(当時,審査部長)から直接,①西浅草物件の売却希望価格
は11億円であるが,10億5000万円まで価格を引き下げることは可能である
こと,②抱き合わせ融資は10億円まで認められること,③国際販売と交渉した経
過を報告することなどの指示を受けた。
 d 平成3年6月13日,草笛が,桜貝と面談したところ,桜貝より,①西浅草
物件の購入意思はあるが,不動産価格は高く見積もっても8億5000万円程度で
あり,価格が高すぎることから再考してほしいこと,②抱き合わせ融資は,東京都
江東区森下○丁目○番○号に所在する物件(以下「森下物件」という。)の8億円
(土地5億円,建築工事代金3億円)としてもらいたいこと等の要望を受けた。
   草笛は,桜貝の要望を審査部の雲海審査役に連絡したところ,被告Gより直
接電話があり,①価格は10億5000万円が限度であり,やむを得ない場合には
l000万円から2000万円の引下げは可能であること,②抱き合わせ融資を8
億円とすることは可能であること等が伝えられた。
 e 平成3年6月14日,草笛は国際商事を訪問し,西浅草物件に関する融資に
ついては,土地価格を10億5000万円,改装費1億5000万円とし,利息1
年分8000万円及び機器リース料を前貸しするとの条件で了解する旨を伝えると
ともに,融資は,西浅草物件と森下物件の抱き合わせ融資であることを確認した。
   平成3年6月21日,草笛は,国際商事を訪問し,桜貝に対して,10億5
000万円で西浅草物件を購入することについて意思確認を行ったところ,桜貝よ
り,同年7月1日に森下物件の売買をしたいので,同日までに5億円を融資して欲
しい旨依頼された。草笛は,同年6月21日,審査部を訪問し,雲海審査役と協議
した結果,森下物件に関する融資の稟議書を作成するとともに,西浅草物件の売買
についても同時進行するとの打合せがなされた。
 f 平成3年6月24日,草笛は,審査部を訪問し,被告Gから,西浅草物件の
引渡時期等について指示を受けたが,その際,被告F(当時,監査部担当の専務取
締役)より,草笛に対し,本件融資7については,西浅草物件及び森下物件の融資
を同時に実行するよう指示がなされた。
 g 平成3年6月26日,草笛は,被告Gから,本件融資7を実行する方向で話
を進めるが,役員会等も必要であり時間がないため,森下物件の売買を1週間程度
延期することを桜貝に依頼するよう指示を受けた。そこで,草笛は,国際商事を訪
問し,森下物件の5億円の融資を同年7月l日に実行することは不可能である旨伝
えたところ,桜貝より,森下物件の契約書上,違約金条項があり,売買の延期はで
きないことを伝えられ,同日の5億円融資の実行を再検討するよう依頼された。そ
こで,草笛は,被告Gに電話し,桜貝の要望を伝えたが,被告Gより,同日の5億
円の融資の実行は不可能なので,本件をキャンセルするよう指示された。草笛が,
その旨を国際商事に連絡したところ,桜貝は,「本件については,原告から持ち出
した話であり,納得
できない。原告が理不尽な行動をしている旨報道に公開する。」とし,草笛に再検
討を迫った。
  (aからgにつき,甲E24)
   (エ)抱き合わせ融資の実行
 a 結局,原告は,国際販売に譲歩することとし,平成3年7月l日,国際販売
が西浅草物件を10億5000万円の価格で蜻蛉から購入する意思があることを確
認するため,国際販売より同金額による同日付の買付証明を徴求した上,被告A,
被告F及び被告G(当時,常務取締役)をメンバーとする融資審議会を開催し,森
下物件の土地部分の購入資金5億円の貸付について了承した後,被告Jがこれを決
裁し,融資が実行された(以下「森下物件融資」という。)。
 b 森下物件融資の融資稟議書及び添付資料によれば,①申込金額5億円,利率
年8.5パーセント,返済期間は1年11か月とし,期限後長期へ切替え(20年
割賦)予定であること,②資金使途は,店舗付賃貸マンション用土地購入資金であ
ること,③融資実行後の融資残高は8億円,担保評価額は5億2000万円であ
り,保全不足額は2億8000万円であること,④本件プロジェクトの利回りが2
0年平均で年6.63パーセントであること,⑤国際販売は,平成3年3月期の決
算の当期利益1億2100万円,減価償却が4億9300万円あり,これをベース
にすると6億1000万円の償還能力があり,弁済懸念がないこと等が記載されて
いるが,貸付日前後の国際販売の月商欄は空欄のままであった。また,国際販売の
借入金の合計額は,4
95億円余りに達し,原告が国際販売に同年4月26日になした2億円の手形貸付
が延滞となっているとされていた。
   また,稟議書には,国際販売から提出された店舗付賃貸マンションの計画書
が提出されていたが,これは,保証金,賃貸収入,初期支出,経常収入,経常支出
などの積算を記載したわずか2ページの書面に過ぎず,建物の設計図や工事見積
り,家賃・保証金の価格設定等の根拠を何ら伴わないものであり,また家賃収入を
年間4946万円と見込んでいながら,20年間の元利均等弁済額は年間8300
万円となっており,収支において赤字となることが見込まれるものであった。
  (a及びbにつき,甲E9)
   (オ)西浅草物件の売買契約
  平成3年9月30日,蜻蛉と国際販売との間で,代金総額10億5000万円
とし,うち手付金4000万円を契約書作成と同時に,残金10億1000万円を
平成4年2月6日までに支払う旨の西浅草物件の売買契約が締結された。
 (甲Ell)
  平成3年9月30日,原告は,国際販売に対し,合計4300万円(西浅草物
件購入手付金4000万円及び諸経費300万円)を貸し付けた。そして,同社が
蜻蛉に対し支払うべき手付金4000万円のうち3500万が蜻蛉を経由せず,直
接国際販売から原告へ振り替えられ,成和鉄工に対する未収利息金3500万円の
弁済に充当された。
 (甲E1)
  また,平成3年9月30日,原告は,西浅草物件の売買契約が正式に締結され
たことから,第一勧業信用組合に対し,国際販売が蜻蛉から西浅草物件を購入する
にあたり購入資金を融資する用意があるので,競売手続を延期もしくは取り下げる
よう求める「願い書」を提出した。
 (甲E12の1,甲E12の2,甲E12の3)
   イ 本件融資7の実行
(ア)本件融資7は,平成4年l月30日,神田支店における店内協議の手続を経
た後,同年2月4日に審査部の審査を経て,同月5日,被告A,被告F,被告B及
び被告Gをメンバーとする融資審議会の承認を得た上で,被告Jの決裁を得て,同
月6日,実行された。
(甲E1)
(イ)本件融資7の融資稟議書及びその添付資料について
  a 本件融資7の融資稟議書及びその添付資料には,申込金額は13億円であ
り,返済条件は,利率年7パーセント,期間11か月とし,期限後に長期へ切替え
予定であるとされていた。
  b そして,資金使途は,土地建物購入資金10億5000万円,建物改修資
金他2億5000万円であり,その内訳として,①平成3年9月30日付貸付金
(手付金)の回収金4300万円,②西浅草物件購入残金10億1000万円,③
西浅草物件の改修工事費(ホテルからカラオケルーム)l億5000万円,④l年
分の金利8500万円,⑤諸費用1200万円となっていた。
  c 次に,担保評価については,本件融資7実行後の総融資額が18億600
0万円となるのに対して,担保評価額が9億9200万円であることから8億68
00万円余りの担保不足であり,担保不動産を時価評価しても16億5000万円
に過ぎないことから,2億1000万円の保全不足であることなどが記載されてい
た。しかしながら,西浅草物件に関する鑑定や公示価格・路線価格等の調査は行わ
れておらず,本件融資7より1年近く前の平成3年3月1日付の不動産業者による
西浅草物件を11億2000万円で売却する広告が添付されたのみであり,担保物
件の実地調査の年月日も平成「3年l月20日」と本件融資7実行日よりl年以上
も前の日が記載されていた。さらに,本件融資7は保証人を桜貝としていたが,稟
議書上,桜貝の正味
資産の欄には何ら記載がなく,桜貝の支払能力・資産等についての資料も添付され
ていなかった。
  d 国際販売の経営状況については,①咋今の業種規制,土地政策により,売
買実績は低迷なるも,カラオケルーム直営等経営の多角化を進めていること,②国
際販売は,土地建物の売上において,金融費用を除外すると年間9100万円の営
業収入があるが,9月30日現在借入金が合計506億5000万円あり,うち9
5パーセントは利息が棚上げとなっていること,③これらの借入金の金利を平均年
8パーセントとみると,借入金のうち棚上げされている5パーセント部分の支払利
息が2億0300万円となるが,上記の営業収入により支払える9100万円を除
いた1億1200万円について金策中であること,④国際販売の有する事業用固定
資産は,帳簿上449億円余りであるが,時価は883億円余りであることが記載
されていたが,国際
販売が所有する資産の具体的な内容等についての資料は添付されておらず,融資稟
議書の融資前後の国際販売の月商記載欄も空欄のままであった。
  e 本件融資7の返済計画としては,国際販売が提出した営業収支計画をもと
に,西浅草物件をカラオケルームヘ改修し,その経営により返済原資を捻出するこ
ととされていたが,国際販売より提出された営業収支計画は,国際販売が東上野で
営業するカラオケルームの実績を基に,西浅草物件のホテル12室をカラオケルー
ムに変更し,年間売上高を約1億9699万円と見込み,約8671万円の経費と
9075万円の借入れ利息を支払い,2052万円余りの利益を確保するというも
のであった。しかしながら,改修のための見積書も入手中とのみ記載され,また,
国際販売が現に東上野で営業するカラオケルームに関する資料や同業の近隣店舗や
一般的な業種別の数値のデータ等の資料も添付されていなかった。さらに,利息及
び元金の返済計画は
,計算上の可能性として示されているにとどまり,それにおいても約30年の長期
に及ぶものであり,約1年後に営業の実績を見て検討するというもので,その間の
設備投資の必要性や情勢の変化等は考慮されておらず,具体的返済計画として策定
され,その実現可能性が検討されているとは到底言い難いものであった。
   (aからeにつき,甲E1)
   ウ 本件融資7前後の国際販売の状況
(ア)国際販売は,不動産市況の低迷による減収,大規模設備投資による返済負担
増から,資金繰りが悪化し,平成3年3月ころには株式会社住宅ローンサービスに
対する支払を延滞している状況にあった。
  (甲El3,甲E14,甲E15)
   さらに,国際販売は,平成3年5月31日,原告から,1億円を毎月元金1
000万円分割支払の約定で借り入れたが,同社は,1000万円の割賦金を2回
返済した時点で支払を遅延し,その後本件融資7実行前までにさらに2000万円
の返済が行われたのみであった。
  (甲E1,甲E25)
(イ)さらに,本件融資7当時,国際販売の経営内容は,以下のとおり悪化してい
た。
  a 本件融資7が実行された年度である平成3年度(平成3年4月l日から同
4年3月31日)の国際販売の業績は,次のとおり土地建物の売上及び仕入が,前
年度の10分の1に低下し,営業損益で赤字に転落していた。
            (平成2年度)     (平成3年度)
    土地建物売上 214億1182万円 15億5000万円
    土地建物仕入  153億0575万円 14億1853万円
    営業損益     48億4196万円-4億8304万円
    経常損益      3億6652万円   -7819万円
  b また,平成2年度における未払利息は,4億5831万円余りであり,債
務超過額が1億7722万円余りであったものが,平成3年度末における未払利息
は10億4452万円余りに増加し,債務超過額も2億5542万円余りに増加し
ていた。
  (a及びbにつき,甲El7,甲E18)
   エ 本件融資7実行後の状況
(ア)本件融資7の資金の使途
  平成4年2月6日,原告内の国際販売名義の普通預金口座に振り込まれた本件
融資7の資金13億円の中から直接第一勧業信用組合に7億円が支払われ,その結
果,第一勧業信用組合は不動産競売申立てを取り下げた。
  また,平成4年2月6日,原告は,蜻蛉を経由することなく,同口座に振り込
まれた本件融資7の資金の中から,成和鉄工に対する貸付元利金2億4102万9
332円,青桐正義に対する貸付元利金5897万0668円の各弁済充当を行
い,合計3億円を回収した。
  本件融資7の実行後,西浅草物件のカラオケルームヘの改修は行われず,本件
融資7の資金のうち,カラオケルーム改修費相当額は国際販売の運転資金等に流用
された。
 (甲E16)
(イ)その後の原告と国際販売との交渉
  平成4年9月28日,桜貝から原告神田支店に対し,西浅草物件購入時,損を
承知で購入したのだから,若干の面倒はみてほしいとして,借入れの増額が可能か
打診があった。その後も,神田支店に対し,度々融資の申込みがあり,その際,桜
貝は,原告担当者に対し,原告より再三西浅草物件の購入を依頼され,渋々購入を
了解したもので,原告に貸しがあるなどと述べていた。さらに,平成5年7月6日
には,被告Gと神田支店長らとの間で協議がなされ,国際販売に買わせた西浅草物
件について,今後,金利が入ってくる可能性も少なく,原告が引き受ければホテル
営業中であり,金利相当分の回収も可能となってくることから,買い戻すことも考
えることが必要ではないかとして,役員室の議題としてもらうことが議論された。
 (甲E23)
(ウ)西浅草物件に対する差押え
  西浅草物件に対しては,東京国税局による差押えが平成9年9月29日に,東
京都による参加差押えが同年10月3日に,それぞれ行われたが,本件融資7に伴
う根抵当権に優先する租税債権は,合計10億1361万1043円に及ぶもので
あった。
 (甲E20,甲E21)
  なお,平成9年3月3日時点での,西浅草物件の鑑定評価額は,2億0095
万6000円であった。
 (甲E22)
 (2)被告らの責任
   ア 本件融資7の問題点
   (ア)以上のとおり,本件各融資は,神田支店の取引先である成和鉄工が事
実上倒産し,成和鉄工等に対する原告の貸付金が回収不能となったことから,同支
店の取引先である国際販売に原告が資金を融資することにより担保物件を買い取ら
せ,これにより成和鉄工等に対する債権の回収を図ろうとして行われたものであ
る。しかしながら,既に認定したところによれば,本件融資7は,稟議書の記載自
体からも以下のとおりの問題点を指摘し得るものであった。
    a すなわち,本件稟議書及びその添付資料によれば,国際販売は,約5
06億円の多額の借入金のうち95パーセント分の借入金については,利息が支払
えないことから棚上げされており,残り5パーセント分の借入金に対する年間約2
億円の利息についても約9000万円しか支払ができず,その余の約1億1000
万円について金策中であるとされていたのであるから,資金繰りが逼迫していたこ
とは明らかであった。したがって,新規の融資を行うにあたっては,十分な担保を
徴求するか,あるいは,既存の借入金の返済を含めて全体として資金繰りを踏まえ
た事業計画の実現可能性について慎重な審査が必要であったというべきである。し
かるに,担保の時価評価については,公示価格・路線価格等の調査すら行われず,
融資日よりも1年近
く前の売買広告のみによって時価評価を行っており,不十分であり,これによって
も大幅な保全不足となっていた。また,国際販売の所有不動産に約400億円の含
み益があるとされていたが,これらについて担保を徴求することも検討されていな
い。
    b 次に,事業計画の実現可能性についてみるに,国際販売から出された
事業計画における売上や経費の見込みについて客観的資料に基づく検討がなされて
いないのみならず,元金及び利息の返済計画についても単なる計算上の返済可能性
を示すに過ぎず,具体的な計画としてその実現可能性が検討されているわけではな
く,国際販売の全体としての資金繰りの見通しについても何らの情報収集・分析も
なされていない。
   (イ)これらに加えて,既に述べた本件融資7のなされた経緯,特に,①西
浅草物件の価格は競売手続において最低売却価格が2億9598万円と決定され,
甲E26号証によっても当時の時価としては2億9100万円が相当であるとされ
ており,桜貝も抱き合わせ融資を前提とした交渉においてすら高く見ても8億50
00万円であるとしていたことに照らして,西浅草物件の売買価格10億5000
万円は時価と大幅にかい離した高額なものであったこと,②西浅草物件の売却価格
を最低でも10億5000万円とすることは,原告本部審査部長であった被告Gの
指示によるものであるが,これは先順位である第一勧業信用組合の根抵当権の極度
額7億円と原告の成和鉄工等への貸付金の元本額との合計に合致するものであるこ
と,③被告G及び被
告Fの了解の下に,森下物件への融資を抱き合わせとして行うという条件で西浅草
物件の価格及びこれに対する融資の交渉が国際販売との間で進められたこと,④森
下物件に対する融資は,国際販売が多額の借金を抱え,原告に対する借入金の返済
を遅滞しており,また,事業計画自体不十分なものであったにもかかわらず,十分
な保全措置をとることなく実行されており,また建物についての具体的見積りもな
いにもかかわらず,さらに3億円の融資を行うことが当然の前提とされていたこと
を総合すると,本件融資7は,これを「飛ばし」と呼ぶかどうかは別として,成和
鉄工等に対する既存融資の回収不能による損失の顕在化を避けるため,国際販売に
西浅草物件を時価を著しく上回る価格で買い取らせることを最優先させ,畢竟,本
来なすべき審査事務
をおざなりにして実行された健全な銀行業務においては,是認し難い融資であった
といわざるを得ない。
   イ 被告らの注意義務違反
   (ア)被告F及び被告Gの責任
      被告Fは不良債権の監理・回収等を所管する監理部担当の代表取締役
専務であり,被告Gは常務取締役審査部長であったところ,既に認定したところか
ら明らかなごとく,被告らは,融資審議会のメンバーとして本件融資7に関与した
のみならず,神田支店の草笛に対して抱き合わせ融資及び本件融資7の実現に向け
て具体的に指示を与えていたものであり,本件融資7が本来の銀行業務からは許容
し難いものであることを知悉しながら,これを推進あるいは加担したものであっ
て,銀行の取締役としての忠実義務にもとる著しい注意義務違反があったというべ
きである。
   (イ)被告J,被告A及び被告Bの責任
      被告Jは,融資決済権限を有する代表取締役頭取として,被告A及び
被告Bは融資審議会のメンバーとして本件各融資に関与した。被告らは,少なくと
も本件融資7の稟議書の記載自体から,本件融資7についての情報収集・分析・検
討に前記のとおり不足・不備があることは認識可能であったのであり,本件融資7
の償還可能性について当然躊躇を覚えるべきものであったにもかかわらず,本件融
資7を決裁し,あるいは融資審議会において本件融資7を承認したものであって,
取締役の善管注意義務違反があったというべきである。
   (ウ)被告らの主張について
 a 被告Jは,稟議書上の「利息棚上げ」とは,銀行が健全な経営をしている優
良な不動産販売貸付先に対して,運転資金を確保させ,倒産を防ぐための一時的な
措置として,利息徴収を留保していたものであり,他行が国際販売を優良取引先と
して扱っていた証拠であること,本件稟議書上,平成3年3月期の連続貸借対照
表,損益計算書において利息支払の事実が認められることや経常利益の増額が認め
られること等を基に国際販売の経営状況を不安視する材料は稟議書の決算書にはな
かったことなどを主張し,他の被告らも同様の主張をする。しかし,利息を棚上げ
にしなければならないということは,会社の資金繰りが困難な状況にあることを表
すものであり,不動産市況の状況によっては,全く資金繰りがつかなくなるおそれ
も存するのみならず,
国際販売においては,利息棚上げとされていない借入金の5パーセント部分の利息
の支払資金すら確保できていない状況にあったのであるから,利息が棚上げとされ
ていることをもって,支払能力が十分に見込まれる根拠であるとする主張は採用し
難いし,その余の主張についても同様である。
 b 被告Gは,①一時的に落ち込んでいる地価は近い将来反騰する見込みであっ
た,②設備投資資金を貸し付ける対象である事業計画は,公刊物に掲載されたモデ
ルプランと比較しても堅実で,無理なく返済財源が生み出される計画であったと主
張する。しかし,地価の上昇については,一つの見込みにすぎなかったものといわ
ざるをえず,回収可能性の具体的な根拠となり得るものとはいえない。計画の実現
可能性についても,単なる事業としての収益可能性のみならず,既に資金繰りが逼
迫した借り手において,これを実行することが可能かという観点を含めて検討を要
することは既に判示したとおりであり,仮に,主張するモデルプランが妥当性を有
するものであったとしても,結論を左右するものではない。
 c 被告らは,本件融資7稟議書上,国際販売に多額の含み益が認められたとも
主張する。しかしながら,たとえ含み益が存したとしても,保全措置をとっていな
い以上,売却した上で,余剰が生じない限り,確実な弁済原資とはならないもので
あり,また,当時の不動産業界が厳しい状況にあり,売却の可能性自体確実に見込
まれなかったことからすると,含み益が存することをもって,具体的な根拠に基づ
いて回収可能性があった融資であると認めることはできず,被告らの主張は,いず
れも理由はない。
 d 被告Bは,「当時,多額の不良債権を抱え,償却のために経営困難に陥って
存亡の危機に立たされていた原告の常務取締役であった被告Bが,原告の存続を図
るため行った融資である。」旨主張する。しかし,本件融資7を行わなければ原告
の存続に影響を及ぼしたと認めるに足りる証拠はなく,被告Bの主張は採用できな
い。
   ウ 損害額
   (ア)以上のとおり被告らには本件融資7について取締役の注意義務違反が
認められるところ,既に認定したとおり本件融資7については,原告の根抵当権に
優先する租税債権の差押等がなされており,13億円が事実上回収不能となってお
り,原告訴訟引受人請求額を超える損害が発生していることは明らかである。
   (イ)この点,被告らは,本件融資7後の管理が不十分であったことや,そ
のことにより本件債務が消滅時効にかかっている可能性を指摘する。しかしなが
ら,前記のような本件融資7後の状況に鑑みると,本訴請求までに原告が国際販売
から弁済を受けることが可能であったことを窺わせる事情はないというべきであ
り,被告らの主張は理由がない。
 (3)結論
    以上によれば,被告J,被告A,被告F,被告B及び被告Gには,本件融
資7をなすにあたって取締役としての善管注意義務違反があり,その結果前記のと
おりの少なくとも原告の請求額以上の回収不能の損害を原告に与えたものであり,
原告の被告らに対する損害賠償請求権は原告訴訟引受人に譲渡されていることを認
めることができるから,原告訴訟引受人の被告らに対する請求はいずれも理由があ
る。
 5 カミパレスに対する融資について
 (1)本件事実関係について
    証拠(各項に掲記)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められ,乙
ロ2ないし6,乙ハ1ないし42号証中これに反する部分は措信しない。
   ア 本件各融資に至る経緯
(ア)カミパレスと福一産業
      カミパレスは,昭和62年4月,アイスクリームの移動販売を目的と
して株式会社サンモービルの商号で,霜降昇(以下「霜降」という。)らにより設
立され,平成6年1月,カミパレスに商号変更された。霜降は,カミパレスの代表
取締役とともに福一産業株式会社(以下「福一産業」という。)の代表取締役も兼
任していたが,平成2年ころから,折からのカラオケブームにのって,福一産業が
カラオケ店舗を建設し,カミパレスが同店舗の営業を行うという形でカラオケ業界
に進出した。
   (イ)高額家賃保証方式によるカラオケ店舗の拡大
      福一産業とカミパレスは,①福一産業が,カラオケ店舗を経営しよう
とする者(以下「オーナー」という。)から,カラオケ店舗建築工事や内装工事を
受注するとともに,②カミパレスが,オーナーから当該カラオケ店舗の経営委託を
受け,オーナーに対し,店舗建築資金の返済額を上回る高額な家賃の支払を約束
し,③さらに福一産業がこれを保証する高額家賃保証方式を売り物としており,オ
ーナーに一定の投資利回りを保証する一種の財テク商品として顧客を拡大し,最盛
期には140店舗以上に出店数を増やした。
     ((ア)及び(イ)につき,甲F17,甲F18)
   (ウ)平成5年時点における福一産業の実態調査
     a 原告と福一産業との取引は昭和59年に遡るが,原告及びその関連
会社であるこくぎんモーゲージサービス株式会社(以下「こくぎんモーゲージ」と
いう。)及びこくぎんリースの3社を合わせた福一産業に対する融資残高は,平成
2年3月期に約35億円であったものが,平成3年3月期には約62億円,平成4
年3月期には約80億円となるなど短期間に急増するとともに,大幅な保全不足に
陥った。そこで原告は,平成4年11月,福一産業の経営実態を把握し,これに基
づき再建策を模索するために,本店営業部次長の若菜和義及びこくぎんモーゲージ
代表取締役秋風新平(以下「秋風代表」という。)に対し,同月26日から1か月
間,福一産業の調査を命じたが,その結果,福一産業には売掛金及び貸付金を中心
に14億円から24
億円の範囲での粉飾が存在することが判明し,当該調査結果は,被告Aら原告経営
陣に報告された。
      (甲F19,甲F20,甲F21,甲F42)
     b 上記報告を受け,引き続き原告は,秋風代表,支店推進役の雨月金
吾(以下「雨月」という。)及び本店営業部融資課長の尾花平蔵(以下「尾花」と
いう。)を福一産業に出向させ,実態調査を行わせた。
      (甲F42)
     c 原告においては,平成5年4月2日,同年5月7日,同年6月18
日に,被告A,被告B及び被告Cらが出席して,上記出向者3名からの報告会が開
かれたが,いずれの出向者からも福一産業,カミパレスの再建可能性につき,経営
陣に問題のあることや,高額家賃保証方式がカミパレスの経営を圧迫している上,
カラオケブームが頭打ちとなっているためカミパレスの売上も落ちており,赤字体
質に改善の見込みがないこと,カミパレスの資金不足を補てんするため福一産業か
ら資金を流さざるを得ないことに加え,福一産業自体の工事の受注も落ちているこ
となど,再建に悲観的な見通しが報告された。しかし,被告Aは福一産業に対する
融資を打ち切ることに対しては否定的な考え方を示していた。
      (甲F42)
     d 平成5年6月24日に開催された報告会には,被告B及び被告Cら
が出席したが,上記3名から福一産業の実態について以下のとおり報告がなされ
た。すなわち,雨月からは,①霜降は,経営能力に疑問あり,会社の再建を含めて
やる気があるのか判断しにくく,他の経営者も心もとなく,責任感が欠如している
こと,②会社組織は人員が多く,効率が悪いこと,③営業は17人で実施されてい
るが,成果を上げているのは6人に過ぎず,全く実績を上げていない者も2,3人
おり,また,営業マンの給料が高く,前歴がまちまちで,教育指導もできておら
ず,競争力がないこと,④今後の見通しとしては再建が難しいことが報告された。
尾花の報告も,①霜降の経営は,経営の域に達しておらず,経営ビジョンがなく,
政策も思いつきで立てる
ため失敗しており,責任を他人に転嫁する傾向があること,②福一産業の実態は赤
字経営であり,悪意の粉飾があること,③従業員は総勢74名であるが,福一産業
創業時からの者は3名のみであり,経験5年未満のものが75パーセントを占め,
建設業経験のない者が多いこと,④業態としては,一般建築業ではなく,カラオケ
ボックスの建設に特化しており,投資利回りが高いことをセールスポイントにして
営業しているが,福一産業とカミパレスを併せ月間1億8000万円の赤字が生じ
ていること,⑤カミパレスは赤字決算はできないという前提で2億6000万円の
リース料を資産勘定に振り替えるなどの粉飾処理をしていること,⑥再建の見通し
は,霜降のやる気が条件となるが,赤字解消策がない現状では無理であることなど
を内容とするもので
あった。さらに,秋風代表からは,①経営の現状は危機的状況であり,役職員には
自覚がなく,改革に力が入らないこと,②期間損益を考えると,5月に8億円,6
月に8億8500万円の受注継続が再建の前提となるが,成否は疑問であること,
③大口含み物件を優先して,順次不動産を売却していき,所有不動産をすべて売却
すべきであることなどの報告がなされた。
      (甲F22,甲F55)
     e 原告は,平成5年6月24日,上記報告会に引き続き被告B及び被
告Cらが出席して融資審議会を開催したが,その際審査部から福一産業の再建につ
いての意見書が提出された。その内容は,現状分析については,①霜降の経営者と
しての資質に問題があるとして,同人が破産会社である北商の元専務であり,裁判
記録によるとカズノコ仕入れの責任者であったにもかかわらず,全責任を社長に転
嫁した経歴の持ち主であること,福一産業においても粉飾決算指示や不良資産隠蔽
の疑いがあり,平成4年10月期までの集計で26億円から30億円にのぼるこ
と,さらにドンブリ勘定であり,平成5年4月末で借入金残高が150億円と極め
て過大であること,②福一産業が恒常的赤字体質であるとして,平成4年11月か
ら平成5年4月までの
6か月間の試算で15億円の赤字が出る結果となっており,赤字補てん資金として
貸出が急増していることや,カミパレスも毎月8000万円の資金不足状態であ
り,資金不足は漸増拡大基調にあり,カミパレスも2億6000万円の粉飾決算を
していること,さらに,③契約ベースが大幅にダウンしているとして,平成4年1
1月から平成5年4月までの契約実績が対前年同期と比較して15億円減少してお
り,カラオケ業界に陰りが見えることを指摘した上,福一産業は資金繰り破綻必至
であるとしている。そして,原告の支援上の問題点については,①貸出のピークが
現状では見通しが立たないこと,②原告,こくぎんリース及びこくぎんモーゲージ
の3社合計で45億円と大幅な保全不足が生じていること,③他行が福一産業との
取引から撤退する方針
であり,今後の融資継続は,原告単体での信用貸しとなることを挙げた上で,対応
策として,①粉飾決算が判明したので,原告経営陣の特別背任罪回避の観点から,
福一産業から撤退し,新規貸出も当然ストップすること,②原告,こくぎんリース
及びこくぎんモーゲージサービスを含めて大幅な保全不足であるが,担保物件処分
等法的処置により迅速に対応すること,③経営破綻先債権も多額となることから,
平成5年9月末のディスクロージャを展望し,最悪の場合は取付のおそれがあり,
金融秩序維持のため,原告資産処分にも迅速に対応し,補てんすることも考慮する
こととしていた。しかし,被告Bが,さらにカミパレスの粉飾決算を調査しなが
ら,当面は,福一産業に対する融資を継続しなければならないとの意見であったこ
とから,福一産業に対
する融資継続の可否について結論がでず,苅田常務から被告Aに検討状況を報告す
ることになった。しかしながら,結局,被告Aは,審査部の上記意見を受け入れ
ず,取引は継続された。
      (甲F23,甲F45,甲F54)
   (エ)カラオケ店舗の営業権の譲渡による債務の圧縮策
     a 平成7年3月時点における原告,こくぎんモーゲージ及びこくぎん
リースの福一産業に対する貸付残高は,3社合計で96億4400万円となった。
当時原告の福一産業に対する貸付残高は54億8870万円であったが,このうち
18億4400万円は大蔵省の検査により第2分類債権として分類されていた。ま
た,銀行法13条による原告の福一産業に対する与信限度額は55億4400万円
であったため,貸付の余裕枠は5530万円に過ぎない状況となっていた。
      (甲F19)
     b そこで,原告経営陣は,カラオケ店舗の営業権譲渡の方法をもって
原告の福一産業に対する貸付残高を圧縮することにし,カミパレスは,株式会社ビ
ッグワンコーポレーション外5社(以下「受け皿会社」という。)に対し,平成7
年4月,同年6月,平成8年4月及び平成9年11月の4回にわたってカラオケ店
舗合計44店舗の営業権を譲渡した。右営業権譲渡に際しては,原告は受け皿会社
に対して営業権購入資金として,合計約143億1000万円の貸付を行い,カミ
パレスは,これら6社から受領した営業権売却代金のうちの相当額を福一産業の原
告に対する債務の弁済に充当し,原告の福一産業に対する貸付残高を圧縮した。し
かしながら,営業権を譲り受けた受け皿会社は自らカラオケ店舗を経営せず,経営
はあくまで受け皿会
社から委託を受けたカミパレスが行い,カミパレスは受け皿会社に対し賃料として
受け皿会社の原告に対する借入金の毎月の返済額を上回る金額を支払う一方,受け
皿会社はカミパレスから毎月支払われる賃料により原告に対する借入金の毎月の返
済を行い,なお差額を利益として取得する仕組みになっていたため,カラオケ店舗
経営の実態は何ら変わっておらず,単に福一産業の債務の一部が受け皿会社に移し
替えられただけにすぎなかった。
       したがって,カミパレスと福一産業との債務残高の合計額は,営業
権譲渡が実行された時点では債務残高が一応は圧縮されるものの,カミパレスの経
営する店舗の大部分は赤字(平成9年当時135店舗中100店舗が赤字)であっ
たことから,受け皿会社に対し原告からの借入金返済額を上回る金額の賃料を支払
うという仕組みを維持するため,原告からの借入れを続けざるを得ず,平成9年1
月時点では福一産業とカミパレスを合わせた原告に対する債務残高は約59億円と
なり,平成7年3月の圧縮前の債務残高を上回るまでに増加することとなり,その
後も,債務残高の増額は止まらなかった。加えて,受け皿会社への債務残高も合わ
せると平成9年1月時点での債務残高は183億円となるなど,営業権譲渡による
形だけの債務圧縮策
は原告の全体としての融資残高を拡大させることとなった。
      (甲F17,甲F24,甲F25,乙ハ35)
     c このような状況の中,福一産業は,平成8年10月,原告に対し,
同月から同年12月までの3か月分の支払手形の決済資金及び賃料の支払資金とし
て合計11億3000万円の借入れ申込みをした。
       原告では,この借入れ申込みは多額の与信増で,原告の経営に大き
な問題であるとして,平成8年10月31日午前9時30分から11時40分ま
で,被告B(当時代表取締役副頭取),被告C(当時代表取締役専務)及び被告I
(当時常務取締役)が出席して,拡大融資審議会が開催された。審査部からは,資
金不足の生じた原因として,①福一産業の発注工事の入金見込みが甘いこと,②カ
ミパレスの賃料支払を少なく見込んでいること,③賃料,公共料金,給与等の未払
金のしわ寄せが大きくなっていること,④カミパレスの店舗の採算がとれておら
ず,カミパレスの赤字補てんのための福一産業の借入れが増加していること,⑤受
け皿会社の債務残高は減少しているが,受け皿会社の店舗の採算がとれていないた
め,福一産業が補てんし
借入れが増加していることなどが指摘されるとともに,福一産業の資金繰り,与
信,保全状況,1年間の回収実績などについて説明がなされた。席上,被告Cは,
「カミパレスへの資金の流れがザルである。採算店はどの位あるのか。収支管理が
できていない。」,「カミパレスの運営スタイルは以前と変わっていない。」など
の懸念を示し,被告Bからも「今後借入れは減っていくのか。貸すと返らない。全
体像から大変な問題である。危機感大きく,先方のデーターも甘い。経営者として
どうするのか意見確認をする必要がある。」との意見が述べられた。これを受け
て,同日午後には,上記拡大融資審議会のメンバーに霜降社長ら福一産業関係者を
加えて検討会が開催され,被告Bらから,「営業権譲渡の方法による支援により負
債の大幅減となりやって
いけると思ったが,最近急激な資金不足となった。」として,「カミパレスは毎月
1億円赤字。返済源資のないものは出せない。担保か保証人がなく増額できない。
回収ならないものはできない。担保なしで貸し増しは不可能であり,保証金担保等
なければ異常。」などと今後の福一産業の経営をどのようにしていくのかについて
霜降らに問い質し,売上増額,リストラ策,資金繰り見込みについての具体的な全
体計画の提出がなければ,融資に応じることはできない旨伝えた。
       しかしながら,その後,原告は,結局,福一産業からの借入れ申込
みに応じることとし,これを実行した。
      (甲F25,甲F26)
   (オ)平成9年当時における原告の償却財源及び第三者割当増資計画
  原告は,国際決済銀行のBIS基準に適合させるために,自己資本比率を4パ
ーセント台に達成する必要があったことから,平成9年3月までに40億円の増資
を計画していた。しかし,平成8年4月に大蔵省検査を受け,第4分類債権が25
5億円と認定され,同額を平成9年3月までに償却しなければならないこととなっ
たことから,原告の大株主である国際興業株式会社(以下「国際興業」という。)
の照葉竹治会長(以下「照葉」という。)と相談の上,169億円余りの第三者割
り当て増資を行うとともに,本店の建物及び不動産を国際興業に購入してもらうこ
と等により,255億円の償却財源を得ることとした。しかし,この段階で,福
一・カミパレスに対する貸付金は,償却対象には含まれておらず,照葉に対しても
何ら相談はなされなか
った。
 (甲F43,乙ハ3,乙ハ8,乙ハ17)
   (カ)平成9年1月時点における福一プロジェクトチームの検討
      福一産業の債務残高は,引き続き増加するという状況になったため,
平成8年11月ころ,審査部と本店営業部を中心とする福一プロジェクトチームが
結成され,福一産業に対する融資について解決策を検討することになり,審査部審
査役の花野光正(以下「花野」という。)を中心に,福一産業及びカミパレスの再
建策についての検討が行われた。花野は平成9年1月下旬ころ,福一産業は実質死
体会社であることから福一産業の借入れをカミパレスに一本化にしても,カミパレ
スに対する融資残高が銀行法13条の制限を越えるし,損益分岐点をクリアーする
売上の達成は見込めないことから,福一産業・カミパレスの再建策は無く,福一産
業及びカミパレスの実態を把握して回収不能となる債権額を確定し,償却を行う必
要があるが,償却額
が多額となることから,国際興業の照葉に報告し,判断を仰ぐのが最善策であると
する報告書をまとめ,被告Bに提出した。被告Bは被告Aにこれを見せて,相談し
たが,結局照葉への相談はなされないまま,花野の報告書は黙殺された。
     (甲F25,甲F28,甲F29)。
   (キ)福一産業からカミパレスへの融資の付け替え
      このような状況において,福一産業の平成8年10月期の決算書上,
三和ビジネスクレジットの債務免除益の計上があることが判明したことから,原告
は,大蔵省の検査において,これが実質死体会社に対する債務免除と認定される
と,原告の福一産業に対する約56億円の貸付金も第3分類,第4分類債権に認定
されるおそれのあることを懸念し,平成9年1月31日以降,カミパレスへ貸付を
行い,これにより福一産業に対する貸付金を回収することにより,福一産業に対す
る貸付金を徐々にカミパレスにシフトしていった。
     (甲F27,甲F49)。
   (ク)平成9年2月10日の2億7000万円の融資
     a 平成9年2月10日,カミパレスから,2億7000万円の支払手
形決済資金融資の申出がなされたが,本店営業部は融資実行に反対し,融資稟議書
の作成を拒否した。そこで,被告Bの指示で同日,融資審議会のメンバーと福一プ
ロジェクトチームのメンバーの合同で融資の可否並びに福一産業及びカミパレスの
再建策及び処理策の検討をすることになり,同日,被告B,被告C及び被告Iらが
出席し,融資審議会が開催された。同融資審議会において,審査部及び本店営業部
は,①平成4年11月から平成8年1月まで,延べ11名の出向者等により行われ
た調査報告のとおり,福一産業・カミパレスの実態は何ら変わっておらず,特に平
成8年8月以降カミパレスの売上減少,福一産業の受注減少により,2社の赤字幅
は拡大しており,抜
本的処理方向を見いだせないまま赤字補てん増額融資を繰り返すことは,背任行為
にあたるし,平成9年3月13日に実施される予定の国際興業他による増資を控
え,国際興業への背信行為にもあたるので回避すべきであること,返済財源が見込
めず,回収の保全措置もなく,与信急増の問題があること,②今後の対処方針を明
確にしないようでは,窓口である本店営業部も融資稟議書を作成できないし,審査
部としてもロス拡大の増額融資について反対であること,③資金繰りや再建試案よ
り見て両社の再建は望めないこと,④処理策に基づいてどう処理するかの方向付け
が必要であること,⑤これ以上先延ばしできないこと,⑥処理方法を検討するにし
ても,再三指示のある実態把握,すなわち,資金繰り,受注内容,家賃引下げが契
約書等よりみて出来る
か,赤字店の廃店の可能性,売上増加ができるか等を検証するためには専担者を増
員し早期に実態固めが必要であるなどとして,融資に反対した。上記融資審議会に
は,花野が同年1月下旬ころに被告Bに提出した報告書と同趣旨の資料も提出され
た。
       被告Bは,償却財源がないのでつぶすわけには行かず,3月の増資
を控えて不良債権を表面化させることもできないとして融資の実行を認める方向で
まとめようとしたが,審査部,営業部の反対意見が強く,融資審議会としても,上
記貸付を可とする結論を出せなかった。
     b しかし,平成9年2月10日,審査部及び本店営業部は,被告Bか
ら,被告Aと相談した結果,福一産業もカミパレスもつぶせないという結論になっ
たとして,融資稟議を上げるよう指示をされ,審査部は「融資審議会事案」の用紙
に前記内容の審査部意見を記載し,融資稟議書に添付の上,稟議に回した。
       被告B,被告C及び被告Iからは,上記貸付に係る融資稟議書に承
認印を押捺する際に,この「融資審議会事案」にもそれぞれ押印した。ところが,
被告Aは,この「融資審議会事案」に赤字補てん増額融資を繰り返すことが「背任
行為にあたる」と記載されていたことから押印せず,花野に対し,審査部意見の書
き直しを命じた。そのため,このときの融資稟議書には「審査部所見」と題する紙
を貼付する形で審査部の意見が付されたが,そこには下記のとおり福一産業・カミ
パレスとも経常赤字であり,短期間に巨額の資金不足が予想されることが指摘され
るにとどまった。
 ・福一産業(株) 平成8年11月~12月 経常赤字 294百万円
 カミパレス(株)平成8年 4月~12月 経常赤字 512百万円
 合  計 806百万円
 ・資金不足予想額(平成9年2月10日~5月末日)
  福一産業(株)  1199百万円
  カミパレス(株)  879百万円
  合   計2078百万円資金不足
  (甲F31,甲F49,甲F56)
   (ケ)平成9年2月13日の福一産業検討会
     a 以上のとおり,被告A及び被告Bら経営陣と審査部,営業部との間
で溝ができたことから被告Bの発案で,平成9年2月13日,被告Aも参加して福
一産業検討会が開催された。席上,花野から被告A,被告B,被告C,被告I,被
告D(本件各融資については,責任を追及されていない。)らに対し,①現状は,
福一産業は,信用低下により受注が減少した結果,売上が減少し,赤字であり,カ
ミパレスも,平成8年6月から11月にかけて売上が減少し,支払の繰延から支払
手形や未払家賃が増大し,資金繰りが繁忙状態であること,平成8年9月から平成
9年2月10日までの間に,原告の福一産業及びカミパレスに対する融資残高は合
計24億5000万円も急増していること,平成9年2月13日現在の原告の福一
産業及びカミパレス
に対する融資残高は合計61億7600万円であるところ,このうち53億590
0万円が保全不足となっていること,同年2月14日から,同年5月末までの間に
2社併せて18億800万円の資金不足が見込まれるところ,融資を継続すると2
社に対する同年5月末の融資残高は79億8400万円,保全不足額は71億67
00万円までふくらむこと,②再建見通しとしては,福一産業及びカミパレスの平
成9年1月から12月までの資金不足が,2社の作成した資金繰表によってすら,
福一産業については16億3600万円,カミパレスについては7億4800万
円,合計23億8400万円となる見通しであるところ,霜降の資質に問題があ
り,カミパレスや福一産業の自己破産の懸念があること,カミパレス・福一産業と
も損益計算書・貸借対照
表の内容が不透明であり,現資料では,今後必要とされる資金額が算出できないこ
と,今後とも赤字体質の改善が難しく,赤字補てん資金の増額が続くと予想される
こと,分社化して独立採算とすること(営業権譲渡したカミパレス店舗の経営をカ
ミパレスから切り離すこと)もオーナーの承諾が得られず,また営業権譲渡先の利
益を確保するためにカミパレスの黒字店舗も譲渡するとなるとカミパレスの売上減
少を来すなどの困難があり,現状ではカミパレス・福一産業の再建策の見通しが立
たないこと,③問題としては,平成4年11月から平成8年1月まで,延べ11名
が調査報告を行ってきたとおり,福一産業は資金繰りのためカラオケ店舗の利廻り
保証付きで受注をとり,カミパレスがカラオケ店舗を経営してきたが,売上が伸び
ずカミパレスの赤字
体質は何ら変わっていないこと,店舗数が121店舗に増加したことに伴い福一産
業の受注減少により,赤字は拡大傾向にあること,カミパレス・福一産業に対して
は債権保全策もなく,また返済源資もないことから,再建の見通しも立たないまま
赤字補てん増額融資を継続することは,背任行為にあたるし,また増資を控え,原
告オーナー企業である国際興業への配慮等を勘案して回避すべきであること,赤字
補てん増額融資をやめるとカミパレス・福一産業が経営破綻し,償却が必要となる
が,償却財源はなく,現状では営業権譲渡先とのトラブルの懸念があること,処理
策が見い出せないこと,処理策を検討するにも実態把握が必要であることなどが説
明された。
     b これに対して,被告Aは,償却財源がなく,増資を控えて福一産業
もカミパレスも倒産させられないとし,福一産業及びカミパレスの実態調査を改め
て指示し,花野,青木健司審査部副部長及び冬木勝男審査部審査管理課主任調査役
の三名が実態調査を行うこととなった。そして,その後も赤字補てん増額融資が継
続された。
      (a及びbにつき,甲F34,甲F57,甲F58)
   (コ)第三者割当増資の実行
      原告は,予定どおり,平成9年3月13日,国際興業外8社を割当先
とする第三者割当増資による新株発行(株式数1115万株)を行い169億48
00万円の払込みを受けた。
     (甲F32)
   (サ)平成9年4月2日の経営会議
      原告は,平成9年4月2日,経営会議を開き,被告A,被告B,被告
C,被告I及び被告Kらが出席の上,花野らから,福一産業・カミパレスの実態調
査の結果,今後の取り組み方針及び問題点について中間報告がなされた。
      それによると,①福一産業の平成8年10月期の決算処理上,特別利
益として,債権者三和ビジネスクレジットの債務免除による債務免除益24億39
00万円が計上されているが,実際は債務免除されておらず,株式会社共同債権買
取機構に譲渡されたものであって,これを除くと,同期は約23億円の赤字となる
こと,さらに,平成9年10月期決算は,4か月試算だけで14億2400万円の
赤字であり,平成8年10月期以上の大幅赤字が予想されること,②カミパレス
は,平成7年3月期決算において,カラオケ店舗のみの収支では18億円の赤字で
あり,また,平成8年3月期決算においては,カラオケ店舗のみの収支では25億
円の赤字であったこと,さらに,平成8年4月から平成9年1月までの10か月間
の試算によっても約6
億9800万円の経常赤字になることから平成9年3月期も大幅な赤字に陥ること
が確実であること,③カミパレスの赤字要因は,売上に対し45パーセントを占め
る家賃支出であるが,これは福一産業の売上確保のため,カミパレスにおいて高額
家賃保証契約を行ったためであること,④福一産業とカミパレスの今後6か月(平
成9年4月から9月)の資金不足は,合計22億6600万円にも及ぶこと等が報
告された。
      さらに,今後の取り組み方針及び問題点として,①福一産業について
は,高額家賃保証方式による発注を取りやめ事業縮小するが,大幅赤字であり三和
銀行等大口債権者からの破産申立ての懸念があること,②カミパレスについては,
売上増加を図るとともに家賃引下げ,赤字店の廃店による経営削減が考えられる
が,売上向上については,多額の設備投資を図っていかないと,毎年売上低下とな
ることは必至であること,また,経費削減については,賃貸借契約上10年内の中
途解約はオーナーの投資額の損失補償特約がなされており,家賃も10年間固定で
利回り保証しており,130店舗について店別に検討する必要があるが,いずれに
しても実現が極めて困難であることが報告された。
  また,花野からカラオケ業界の動向について,①カラオケビジネス誌のアンケ
ート調査によると,カラオケボックスの経営者の54.5パーセントが,今後カラ
オケボックスの売上が低下すると見ていること,②カラオケ施設は,カラオケ機器
の充実はもとより,飲食や接客サービスの質,アピール力のある販売促進等,施設
の総合力が問われる段階にきていること,③男女年代別の客のニーズが多様化して
きており,カラオケ施設のイメージが特定できない状況にあること,④カミパレス
は,通信カラオケの設置率が70パーセント程度に過ぎず,今後,設備投資の必要
があること,⑤カミパレスの従業員教育は,店別の店長に格差があり,また,飲食
の点についても,店別に欠品が存するなど,体制がいまだ不十分であることが報告
された。
      これらに対して,調査結果に対する解決策をプロジェクトチームでま
とめることの指示がなされたのみで,その後も赤字補てん増額融資は継続された。
     (甲F35,甲F58)
   (シ)監査役による指摘
      平成9年6月末には,原告のカミパレスに対する融資残高は26億6
100万円にまで達し,福一産業の債務残高62億4900万円を併せると合計で
89億1000万円にも及んだ。同年7月4日には霜降が,原告の若菜次長に対
し,カミパレスの平成9年3月期の決算書に虚偽の記載がなされていた旨の報告書
を提出した。さらに,原告の立花四郎監査役は,同年7月10日,被告Bに対し,
①福一産業・カミパレスはともに粉飾決算を行い,福一産業は,平成8年10月期
で25億8800万円の,カミパレスは,平成9年3月期で13億5100万円の
債務超過を有する取引先であること,②カミパレスに対する融資が毎月増加してい
るが,資金繰表から見て,これは赤字補てん資金であること,③福一産業の支払手
形決済資金をカミパレ
スの融資で賄っているのは「分割融資」の疑いがあること,④結論の先送りは結果
的に原告負担の増加となること等の,カミパレスに対する融資の問題点を列記した
メモを手渡した。
     (甲F25,甲F36,甲F38)
   イ 本件各融資の実行
   (ア)上記のような指摘が行われていたにもかかわらず,原告は,カミパレ
スに対する融資を継続し,平成9年7月31日から平成10年6月1日までの間,
別紙1「貸付債権一覧表」(省略記載のとおり20回にわたって合計90億510
0万円の融資を実行した。
      本件各融資は,被告Aの決裁(本件融資16については,被告Bの代
決及び被告Aの承認)により行われたものである。被告B及び被告Cは本件各融資
につき,被告Iは,本件融資8,10,12ないし15,17ないし26につき,
被告Kは,本件融資8,9,11ないし13,15ないし21,24ないし27に
つきそれぞれ審議をした融資審議会のメンバーであり,いずれの融資も融資を可と
して上位者の決裁に回したものである。
   (イ)本件各融資金の資金使途は,稟議書上,いずれもカミパレス及び福一
産業における支払手形決済資金がその大部分を占め,その貸付金額の決定に際して
は,カミパレス及び福一産業の資金繰表から不足資金額を算出し決定されていた。
      また,本件各融資の融資稟議書中「資源及び返済方法」の欄には本件
融資8においては売上金回収による旨記載されていたものの,その他の融資につい
ては返済用小切手預かりとのみ記載されていた。
      さらに,本件各融資については,貸金の返済用として,概ね貸付金額
を10で割った金額を額面とし,各月ごとに支払をなすことを前提に先日付小切手
10枚を交付させる方法がとられた。毎月決済される先日付小切手の合計金額は平
成9年7月には3億1700万円であったものが,その後漸増し,平成10年7月
の時点では8億6300万円に及んでおり,本件各融資に係る融資稟議書には,最
新の決済小切手の合計金額等が記載された資料が添付されていた。
   (ウ)この間,融資残高は別紙2「融資稟議書記載内容一覧表」(省略)記
載のとおり増額したものの,同表記載のとおりの保全措置がとられたのみであり,
担保不足額は本件融資8実行前には26億4200万円であったものが,本件融資
27がなされた段階では,82億9100万円に達した。
 ((ア)から(ウ)につき,甲F1ないし甲F16)
   ウ 本件各融資実行後の状況
   (ア)平成10年6月の日銀考査
      平成10年5月25日から同年6月9日までの間,原告に対する日銀
考査が行われたが,その結果,カミパレスについて売上粉飾を含む多額の含み損が
あり,期間損益は連続4期赤字で,実質は大幅な債務超過となっており,融資金は
回収の目途が立たないこと,このような会社に対して無担保で増額融資を行うこと
は特別背任罪となり許されないことが指摘された。このため,原告は,同月12日
に,被告Bが霜降に対して,カミパレス及び福一産業への今後の融資に応じること
はできない旨を伝えた。
     (甲F47,甲F52)
   (イ)カミパレスに対する破産申立て
  以上のような経緯にもかかわらず,原告は金融業者等を通じてカミパレスへの
う回融資を行っていたが,平成11年1月半ばにカミパレスがカラオケ店舗の営業
権を含む有形無形の財産を霜降の親族の経営する会社へ譲渡していることが判明す
るに及び,原告は,平成11年3月31日,カミパレスの破産の申立てを行い,同
年10月20日,東京地方裁判所八王子支部において,同社に対する破産宣告決定
が出された。破産宣告時における原告のカミパレスに対する債権総額は,合計18
1億4494万7037円に及び,そのうち,本件各融資の残高は合計58億74
00万円であった。
     (甲F17,甲F25,甲F52)
 (2)被告らの責任
   ア 本件各融資の問題点
   (ア)既に認定したところによれば,以下の事情が明らかである。
     a 福一産業及びカミパレスについては,平成4年以降数次の実態調査
により,粉飾決算の存在,経営陣の経営能力の欠如,高額家賃保証方式に起因する
構造的な赤字の拡大などの問題が指摘され,再建策は見出し難いとの報告がなされ
ながら,その抜本的解決が先送りされ,本件各融資当時において巨額の融資残高が
積み上がっていた。
     b そして,本件各融資がなされた平成9年当時において,福一産業は
同社の見積りによっても1年間に約16億円の資金不足が見込まれた外,三和ビジ
ネスクレジットが既に同社に見切りをつけ保有する債権を株式会社共同債権買取機
構に譲渡するなど実質死体会社であり,原告内部においても原告の福一産業に対す
る債権が大蔵省等の検査において第3分類ないし第4分類に査定されることが懸念
される状況であった。
     c また,カミパレスについても,平成9年当時,同社の見込みによっ
ても1年間に約7億円の資金不足が見込まれ,カラオケ店舗のみの収支においても
大幅な赤字を続けていた上に,カラオケブームは既に下火になっており売上の向上
は期待できず,かえって売上の維持のために多額の設備投資を必要とする状況にあ
り,他方で構造的赤字を解消するための家賃の値下げや赤字店の廃止,営業権の譲
渡先の完全分社化の方策もオーナーとの交渉の行き詰まりにより実現困難な状況に
あったのであって,平成4年以降の数次の調査においても再建策はないとされたま
ま,際だった改善もなく推移してきたことからしても,もはや再建を期待し得ない
ものであった。
     d 以上のとおり福一産業及びカミパレスは再建を期待し得ないことは
客観的に明らかであったにもかかわらず,本件各融資が継続されたが,その資金使
途はカミパレスの赤字補てん資金とともに,福一産業の原告に対する既存融資の返
済原資(福一産業の債務のカミパレスへの付け替え)をも含むものであった。
     e しかしながら,原告においては,これまでも何度も繰り返された調
査を継続するのみで,支援をいつまで続けるのか,その間の資金需要はいくらにな
るのか,資産売却をどのように進めるのか,償却財源はどのように確保するのかな
ど不良債権処理に向けての具体策が検討されることなく推移した。
     f 以上のような状況のまま,本件各融資は,平成10年6月に日銀考
査において,カミパレスは売上粉飾を含む多額の含み損があり,実質債務超過とな
っており,融資金は回収目処が立たないことから,このような会社に対して無担保
で増額融資を続けることは特別背任罪にあたるとの指摘を受けるまで続けられた。
   (イ)これらの事情及び既に認定した本件各融資の経緯を総合すると,本件
各融資は,実質的に破綻状態にあったカミパレス及び福一産業に対する不良債権の
実態を関係機関から隠蔽し,正常債権であるかのように偽装しつつ,他方で不良債
権処理のための何らの具体的方策を講じることなく関係機関から指摘されるまで,
漫然と回収可能性のない融資を継続していたものといわざるを得ない。
   イ 被告らの善管注意義務違反
     既に判示したとおり,本件各融資に至るまでの間,福一産業及びカミパ
レスの実態調査の結果は原告の経営陣に直接報告され,営業部及び審査部からカミ
パレス・福一産業へ融資を継続することは特別背任罪にあたるとして融資打ち切り
を求める意見が出されたことは一度や二度に止まらなかったが,頭取であった被告
Aは,不良債権処理の抜本的方策を講じることなく,カミパレス・福一産業の破綻
により前記の不良債権が顕在化することを避けるために,その都度これらの意見を
封じた上で融資を継続してきたところ,本件各融資についても,さらにカミパレ
ス・福一産業の延命を図って,何ら具体的展望もないままこれを漫然と継続したも
のと認められる。さらに,副頭取であった被告B,被告C,被告I及び被告Kは,
上記実態調査の報告会
等への出席を通じ,カミパレス・福一産業の問題状況を知悉しながら,被告Aの融
資継続の意思の固いことをそんたくして,これに追随したものと認められる。した
がって,被告らは,いずれも本件各融資が償還可能性のないことを承知の上で,こ
れを実行,あるいは容認し,その結果,前記のとおり本件各融資の回収不能により
原告に多額の損害を負わせたものであって,取締役の忠実義務をも損なう重大な注
意義務違反があったといわざるを得ない。
   ウ 被告らの主張について
   (ア)被告Bの主張について
     a 被告Bは本件各融資を継続しなければ原告自体の破綻を招き,信用
不安を惹起しかねないおそれがあったとし,これらを回避しつつ償却を段階的に行
うために融資を継続する必要があったと主張し,他の被告らもこれに同調する。
     b しかるところ,証拠(甲A4,乙ハ43,乙ハ44,乙ハ45)に
よれば原告の破綻に至る経緯として以下の事実が認められる。すなわち,原告は,
いわゆるバブル経済の時期,競争力・収益力の強化を重点課題とした中期経営計画
(昭和62年4月から平成2年3月)を策定し,積極的な営業推進を行った。しか
し,貸付金の内容は,不動産業,サービス業,ノンバンク等に傾斜していたため,
平成2年以降バブル経済の崩壊により多額の貸付金が不良債権化し,不良資産が急
増した。その結果,平成4年の大蔵省検査においては,損益収支が急速に悪化して
いるとの指摘を受けるとともに,いわゆる決算承認銀行に指定され,平成6年4月
の大蔵省検査では,第4分類債権が48億8000万円,第3分類債権が136億
5300万円にまで
増加し,第3分類債権を50パーセント,第4分類債権を全額償却した場合の正味
自己資本率は1.71パーセントまで低下した。その後,平成8年4月になされた
大蔵省検査では,第3分類債権が378億4700万円,第4分類債権が255億
400万円まで増加し,正味自己資本比率はマイナス3.32パーセントまで下落
し,実質債務超過となっており,自己資本比率の向上に努める必要があるとの指摘
がなされた。このように不良債権が拡大し,平成9年3月期の償却必要額は資本勘
定(206億円)を上回る255億円にも達したため,169億円の第三者割当増
資を行うなどしたものの,本件福一産業・カミパレスに対する融資も含めて不良債
権の処理に歯止めがかからず,平成10年9月には,自己資本が約50億円まで低
下し,平成11年4
月8日以降預金の流出が急速に進み,同月11日,金融再生法第68条1項に基づ
き,預金の払戻しを停止するおそれがある旨の申請を行い,同日,金融再生委員会
から管理を命ずる処分を受けた。
     c そして,以上によれば本件各融資の時点において福一産業・カミパ
レスが破綻した場合に,原告にはこれによる不良債権を償却し得る財源はなく,原
告自らも破綻することが懸念される状況にあったことが認められる。そこで,銀行
の経営状態が極度に悪化し,大口融資先の倒産により自らも破綻する危険がある場
合に,これを避けるために融資を継続することが許されるかが問題となる。このよ
うな状況下においても,銀行の取締役としては,営利企業であるとともにその行う
業務の公共性に鑑み,銀行自体の破綻の危険を除去し得る合理的かつ具体的施策を
伴う場合にのみ支援融資を継続することが許されるというべきであり,このような
具体的な見通しもないまま,自らの健全性を装い徒に延命を図らんがために一時し
のぎの融資を継続す
ることは,その公共性に反するのみならず,銀行自体の破綻の回避にもつながら
ず,結局は破綻時の損害を拡大することとなり許されないものというべきである。
     d しかるところ,本件においては,既に認定したとおり,カミパレ
ス・福一産業は実質的に破綻していたのであるから,原告経営陣としては,カミパ
レス・福一産業に対する不良債権の処理のための具体的な方策を早急に策定すべき
であり,それが,銀行の再建策そのものの検討・立案にもつながるものであったに
もかかわらず,かえって,このような検討を怠り,実質破綻先に対する不良債権を
隠蔽しつつ,その処理を漫然と先送りする目的で本件各融資を継続したものであ
り,およそその正当性を主張しうるものではない。要するに本件各融資は原告の破
綻の回避に何ら寄与しないのみならず,かえって原告破綻時の損害を拡大させたも
のと評せざるを得ない。信用不安を引き起こすおそれがあったとの点についても,
銀行業務の公共性に鑑み
るならば,銀行の取締役としては,銀行自体の再建の見通しが乏しい状況に立ち至
ったのであれば,むしろ早期に情報を関係機関に開示した上で信用不安の回避のた
めの方策を講ずべきであったというべきである。
(イ)その余の被告らの主張について
     a 被告Aは,カミパレスについては,売上の増加や賃料の引下げ可能
性等が存し,再建の可能性はあったことから,融資を継続することにより既存融資
のみならず新規融資も回収を図ることが可能であったと主張する。
       しかしながら,既に判示した如く,本件各融資当時おいて福一産
業・カミパレスの再建の見込みはなかったものというべきであり,被告Aの見込み
は裏付けを欠いた不合理なものと言わざるを得ず,これに基づき自らの判断を正当
化し得るものとは到底言い難い。
     b 被告Kは,カミパレス案件について初めて知ったのは平成9年4月
2日の経営会議においてであり,それまでは福一産業・カミパレス問題に関する会
議等に出席していなかったことから,本件各融資の時点において,直ちに融資を阻
止すべきとの認識まで持つに至らなかった旨主張する。しかしながら,既に認定し
たところ及び証拠(甲F35,乙ハ33)によれば,同日の経営会議において,午
後3時5分から午後5時45分ころまでの間,時間をかけてカミパレス・福一産業
の問題状況についての報告がなされ,被告Kは自ら日誌にメモをとりながら報告を
聴取しているところ,会議においては,三和ビジネスクレジットが福一産業に対す
る債権を株式会社共同債権買取機構に譲渡するなど他の金融機関が再建に見切りを
つけていたこと,福
一産業はこの債務につき免除を受けたとして債務免除益を計上するなど粉飾してい
たこと,カミパレスも福一産業も赤字体質であり,平成9年4月から6か月で約2
3億円の資金不足が見込まれること,検討中の再建策はいずれも実現が極めて困難
であることなどが報告されたことが認められ,これらによれば,被告Kにおいて,
カミパレスに対して十分な保全措置をとらずに赤字補てん融資を継続することが問
題であることは当然に認識し得たものというべきであり,被告Kの主張は理由がな
い。
     c 被告Cは,本件各融資の融資稟議書の記載からは,本件各融資に異
論を述べるべき事情はなかった旨主張する。しかし,前記認定のとおり,本件各融
資の融資稟議書の記載のみによっても,カミパレスに対する融資が大幅な保全不足
の状態になることや多額の融資残高を有しながら,融資額が増加傾向にあることは
明らかであり,さらに,被告Cは,本件各融資がなされる以前から融資審議会等へ
の出席を通じてカミパレス及び福一産業の問題状況を認識しており,また刑事裁判
の公判において本件各融資を行うことについて問題があると考えていた旨証言して
いる(乙ハ42)のであるから,被告Cの主張は到底採用できない。
     d さらに,被告Cは,融資についての実情を把握していない一取締役
の反対によっては,融資を実行する結論は変わり得なかった旨主張し,被告Iや被
告Kらも自らが融資審議会のメンバーになる以前の,しかも既に多額の融資が行わ
れている案件について,反対の意見を押し通すことは不可能であった旨主張する。
しかしながら,原告部内において被告Aや被告Bに対して福一産業・カミパレスに
対する融資の打ち切りを直言する者も現にいたのであり,カミパレスに融資を継続
することの問題意識は取締役の間においても共有される状況にあったのであるか
ら,融資審議会のメンバーたる被告らとしては部内の心ある意見を見殺しにするこ
となく融資に断固として反対すべきであったのであり,このような行動を起こさず
して,結論は変わり得
なかったとのみ主張するのは,取締役としての任務を自ら放棄する主張であり,失
当である。
     e その他,被告らは,「融資審議会は,諮問機関に過ぎず,また一定
の結論を出すものでもなく,決裁権者たる頭取の決済を阻止する機能を有しな
い。」,「融資審議会における検討時間が短く検討を尽くすことができなかっ
た。」,「融資の専門ではないので判断ができなかった。」,あるいは,「営業
店・審査部が反対意見を述べない限り担当役員以外の融資審議会のメンバーがあえ
て反対意見を述べる理由はない。」旨の主張をするものもあるが,これらが理由の
ないことは陶陶商事に対する融資についての判断において示したところと同様であ
る。
   エ 損害
   (ア)前記認定のとおり,本件各融資の合計額90億5100万円のうち5
8億7400万円が回収不能となった。各融資ごとの回収不能額は別表記載のとお
りであり,本件各融資により同額の損害が発生としたものと認められる。
(イ)被告Kの主張について
     a 被告Kは,担保権実行により回収できる金額は損害から除外すべき
であるとするが,根抵当権は総額6億2700万円であるところ,保全不足額は5
2億4700万円(入居保証金2億6200万円を担保に含めても,保全不足額は
49億8500万円)であり,担保権を勘案しても回収不能額は原告訴訟引受人の
一部請求額を上回ることは明らかである。
     b さらに,被告Kは,本件各融資により,原告は,福一産業及びカミ
パレス等に対する既存の貸付金を回収することができるとともに,貸付金に対する
利息をも得ることができたのであり,当該部分を損害から控除すべきであると主張
する。
       しかしながら,既に述べたとおり,被告らは,融資を継続すること
は特別背任罪にあたると部内において指摘されるような,粉飾決算の存在する慢性
的かつ構造的赤字企業に対して,回収可能性がないことを承知の上で,漫然と赤字
補てん融資を継続したものであり,被告らには取締役の忠実義務にももとる重大な
注意義務違反がある。したがって,本件のような重大な注意義務違反のある場合
に,被告主張のような形で損益相殺の主張を許すことは,かえって取締役の違反行
為を助長する結果となり損害の衡平な分担という損益相殺の制度の趣旨に反して相
当ではないものというべきである。のみならず,本件においては,本件各融資の合
計額は90億5100万円であり,その回収不能額は58億7400万円となって
いるところ,本件各融
資実行前の福一産業・カミパレスに対する融資残高は合計28億1100万円であ
り(甲F1),本件各融資実行後のそれは合計89億1880万8000円であり
(甲F16),融資残高の増加分は61億0780万8000円である。したがっ
て,仮に本件各融資の合計額と融資残高の増加分の差額の全額が既存の貸付金の回
収に回されたとしても,この融資残高の増加分は原告訴訟引受人らの請求している
額を上回っているから,仮に既存の貸付の回収分等を損益相殺するとしても,原告
訴訟引受人の一部請求を上回る損害が生じていることは明らかである。
    以上のとおり,被告Kの主張はいずれも理由がない。
       なお,被告Bは,本件各融資により,こくぎんモーゲージ及びこく
ぎんリースのカミパレスに対する既存の貸付金をも回収することができた旨主張す
る。しかし,こくぎんモーゲージ及びこくぎんリースは,原告とは異なる法人であ
ることからすると,本件各融資により,カミパレスからこくぎんモーゲージ及びこ
くぎんリースに対し返済がなされたとしても,このことをもって,原告に対する損
害から控除すべきものということはできない。また,仮に,本件各融資が,原告の
関連会社であるこくぎんモーゲージ及びこくぎんリースに対する救済の意味を有し
ていたとしても,救済融資を行うことができるのは,前記のとおり,具体的な計画
に基づいて,原告に長期的な利益が見込まれる場合に限られるというべきところ,
本件において,こく
ぎんモーゲージ及びこくぎんリースを救済するための具体的な計画が立案された形
跡は認められず,被告Bの主張は採用できない。
 (3)結論
以上によれば,被告らには,それぞれが関与した本件各融資について善管注意義務
違反が認められ,その結果,少なくとも原告訴訟引受人が請求している額の損害を
生じさせていることから,原告訴訟引受人の被告らに対する請求はいずれも理由が
ある。
 6 反訴について
   前記のとおり,原告訴訟引受人の本訴請求に理由がある以上,原告が被告K
に対して有する損害賠償請求権で被告Kの原告に対する定期預金債権,定期積金債
権及び利息債権とを対等額で相殺する旨の意思表示は有効であり,被告Kの定期預
金債権等の返還請求には理由がない。
   また,原告がなした被告K所有不動産に対する不動産仮差押申立てについて
も,既に述べたとおり被保全権利たる損害賠償請求権が認められるところであり,
当該申立てが違法であると認めるに足りる証拠はない。
   したがって,被告Kの反訴請求はいずれも理由がない。
 7 結論
   原告訴訟引受人の本訴請求はいずれも理由があるのでこれを認容し,原告の
本訴請求は,その請求権がいずれも原告訴訟引受人に譲渡されていることが明らか
であるから,これを棄却し,被告Kの反訴請求は理由がないからこれを棄却し,主
文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第8部
裁判長裁判官  永   野   厚   郎
   裁判官  島   崎   邦   彦
   裁判官  新   田   和   憲

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