弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 被告は、原告に対し、金一四万六〇〇〇円及びこれに対する平成八年一二月二
七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。
四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。
       事実及び理由
第一 請求の趣旨
一 被告は原告に対し、金一〇一四万六〇〇〇円及びこれに対する平成八年一二月
二七日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払
え。
二 被告は、朝日新聞(全国版)、読売新聞(全国版)、毎日新聞(全国版)及び
日本経済新聞(全国版)にそれぞれ一回ずつ、別紙目録一記載の謝罪広告を別紙目
録二記載の条件で掲載せよ。
三 第一項につき仮執行宣言
第二 事案の概要
一 事実関係
1 原告は、コンピュータ用ゲームソフト及びその他のアミューズメント機器を製
作、販売することを主たる業務内容とする法人であり(争いがない)、その発意に
基づき、従業員にコンピュータ用ゲームソフト「ときめきメモリアル」(以下「本
件ゲームソフト」という)を職務上作成させ、平成六年五月二七日、ゲーム機「P
Cエンジン」用のゲームソフトとして、原告の著作名義の下に公表し、発売した。
そして、その後、原告は、本件ゲームソフトにつき、平成七年一〇月一三日、「と
きめきメモリアル~forever with you~」という題名でゲーム機
「プレイステーション」版を、平成八年二月九日、「ときめきメモリアル~伝説の
樹の下で~」という題名でゲーム機「スーパーファミコン」版を発売した(甲一の
1・2、弁論の全趣旨)。
 原告が本件ゲームソフトについて著作者人格権及び著作権を有することは、当事
者間に争いがない。
2 本件ゲームソフトの内容は、ゲームを行う者(以下「プレイヤー」という)が
架空の高校「きらめき高校」の高校生となって、設定された登場人物の中から憧れ
の女生徒とする人物を選択し、卒業式の当日、伝説の樹の下でこの女生徒から愛の
告白を受けること(ハッピーエンディング)を目指して、高校三年間の様々な出来
事、行事等を通して、憧れの女生徒に相応しい能力を備えるための努力を積み重ね
るという恋愛シミュレーションゲームである(争いがない)。
 本件ゲームソフトのプログラムを実行すると、次のような形でゲームが展開して
いく(甲一一、検甲一、二)。
(一) 序(はじめ)
 まず、プレイヤーの名前(姓・名・あだ名)、誕生日及び血液型を入力する。
 プレイヤーの能力は、体調、文系、理系、芸術、運動、雑学、容姿、根性、スト
レスの九つの要素について数値で表される(以下、この数値を「パラメータ」とい
う)ところ、ゲームのスタート時点において、予めその初期値が体調100、文系
40、理系40、芸術40、運動40、雑学32、容姿60、根性5、ストレス0
に設定されている。
(二) 破(中)
 憧れの女生徒から愛の告白を受けるという目的を達成するために、プレイヤーは
高校三年間の間に、次のようなプレイを行う。
(1) 一週間を一単位として、平日には、勉強(文系、理系、芸術)・運動・部
活・おしゃれ・遊び・休養の各コマンドのいずれかを選択して、憧れの女生徒に相
応しい形でプレイヤー自身の能力を高める。その結果、ゲームのスタート時点で予
め設定されているパラメータが上昇する(但し、ストレスのパラメータは、休養コ
マンドの選択により下降するが、その他のパラメータも変化する。例えば、文系の
コマンドを選択すると、文系のパラメータは上昇するが、ストレスのパラメータも
上昇する。また、休養のコマンドを選択すると、ストレスのパラメータは下降する
が、容姿等のパラメータも下降する)。
(2) 同じく一週間を一単位として、休日には、右(1)のコマンドの外、電
話・デートの各コマンドのいずれかを選択することができる。デートのコマンドを
選択した場合、相手の発言に対して返答を要する場面や行動を決定しなければなら
ない場面が設定されていることがあり、その際のプレイヤーの選択の内容いかんに
よって、プレイヤーに対する女生徒の評価が変化する。
 その他、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)をきちんとこなすことによって
もプレイヤーに対する女生徒の評価が変化する。
 また、平日に女生徒と一緒に下校したり(同伴下校)、女生徒の誕生日にプレゼ
ントを渡すということも可能であり、その際のプレイヤーの選択の内容いかんによ
って、プレイヤーに対する女生徒の評価が変化する。
 なお、パラメータは、画面上部の「プレイヤーのステータス表示部」に表示さ
れ、常時確認することができるし、プレイヤーに対する女生徒の評価は、親友に電
話をするというコマンドを選択し、親友から女生徒の間での評判を聞くという形で
確認することができる。
(三) 急(おわり)
 右(二)のプレイを続けた結果、憧れの女生徒から愛の告白を受けることができ
るか否かが判定される。判定に当たっては、①パラメータが憧れの女生徒に相応し
い数値まで高まったかどうか、②「デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育
祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同
伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素」が一定の条件を満た
しているかどうかが総合して考慮され、条件を満たしていれば愛の告白を受けるこ
とができるという形(ハッピーエンディング)でゲームが終了するが、条件を満た
していなければ、親友と家路につくという形でゲームが終了することになる。
3 被告は、平成七年一二月頃から、「X―TERMINATOR PS版 第2
号 ときメモスペシャル」という商品名のメモリーカード(以下「本件メモリーカ
ード」という)を輸入し、日本国内で販売した(争いがない)。
 本件メモリーカードは、データの記憶単位であるブロックの1ないし13に、そ
れぞれ本件ゲームソフトで使用される九種類のパラメータがデータとして収められ
たものであり、プレイヤーは、本件ゲームソフトのプログラムを実行するに当た
り、本件メモリーカードの任意のブロック内のデータをゲーム機「プレイステーシ
ョン」のハードウエアに読み込んで、そのデータを利用することができる。
二 原告の請求
 原告は、
1 本件メモリーカードは、本件ゲームソフトのストーリーの重要不可欠な骨格部
分を著しく改変するものであり、その製作、輸入、販売行為は、本件ゲームソフト
の映画の著作物としてのストーリーを改変し、原告の有する同一性保持権を侵害す
るものである(著作権法二〇条一項、一一三条一項一号・二号)、
2 本件メモリーカードに保存されている「藤崎詩織」のキャラクターのアイコン
は、原告が本件ゲームソフト用に作成した「藤崎詩織」のキャラクターのアイコン
と同一であり、その使用につき原告の承諾を得ていないから、本件メモリーカード
の製作、輸入、販売行為は原告の有する複製権を侵害するものである(著作権法二
一条、一一三条一項一号・二号)
と主張して、同一性保持権及び複製権の侵害につき民法七〇九条に基づき損害賠償
を、同一性保持権の侵害につき著作権法一一五条に基づき別紙目録一記載の謝罪広
告を別紙目録二記載の条件で掲載することを求めるものである。
 なお、本件メモリーカードに保存されている「藤崎詩織」のキャラクターのアイ
コンが本件ゲームソフト用に作成された「藤崎詩織」のキャラクターのアイコンと
同一であることは、当事者間に争いがない。
第三 争点
一 本件メモリーカードは、本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリー
を改変し、同一性保持権を侵害するものであるか。
二 右一の点が肯定されたとして、本件メモリーカードを輸入、販売した被告が、
侵害行為の主体であるということができるか。
三 被告が同一性保持権、複製権侵害の不法行為責任を負う場合に、原告に対して
賠償すべき損害の額等。
第四 争点に関する当事者の主張
一 争点一(本件メモリーカードは、本件ゲームソフトの映画の著作物としてのス
トーリーを改変し、同一性保持権を侵害するものであるか)について
【原告の主張】
1 本件ゲームソフトのストーリーは、一面において、各プレイヤーの選択によ
り、体調、文系、理系、芸術、運動、雑学、容姿、根性、ストレスの九つの要素に
ついてのパラメータの変化の仕方、憧れの女生徒として選択した登場人物とのデー
トの仕方、学校行事のクリアの仕方が様々に異なるものとなることは当初から予定
されているものであるが、反面、このストーリーのうち、スタートが高校入学の時
点(一九九五年四月四日)であり、高校三年間の様々な出来事を経て、ラストであ
る卒業式当日(一九九八年三月一日)に至るという時間的な枠組みがあること、九
種類のパラメータはスタート時において原告が予め設定した低い数値から始まるこ
とは、各プレイヤーの選択によっても異なることのない固定された部分として創作
されたものに外ならないから、「予め設定された低い数値からスタートして、高校
三年間の間、憧れの女生徒に相応しい形でプレイヤー自身の能力を高めるためのプ
レイを行い、それによって能力の数値を上昇させていく」という部分、及び「高校
三年間の間、デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)への取
組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下校やプレゼントの
中身、他の女生徒の評価などの諸要素について、憧れの女生徒に必要な水準にまで
達するように工夫を凝らしてプレイする」という部分は、本件ゲームソフトの恋愛
シミュレーションを楽しむ上で重要不可欠な骨格をなすものである。
2 本件ゲームソフトのプログラムを実行することにより、映像としてモニター
に、音としてスピーカーに出力されるところのもの(アウトプット)は、映画の著
作物に当たるところ、本件メモリーカードを使用することにより、次の(一)、
(二)のとおり、ストーリーの右骨格部分が改変されるから、本件メモリーカード
は、本件ゲームソフトの映画の著作物としての同一性保持権を侵害するものである
ことが明らかである。
(一) まず、本件メモリーカードのブロック1ないし11に収められているデー
タを使用することによって、本件ゲームソフトのストーリーのうち「序(はじ
め)」の部分が改変される。
 すなわち、前記のとおり、「序(はじめ)」において、プレイヤー自身の能力値
を示す九種類のパラメータが予め低い数値に設定されているところ、本件メモリー
カードのブロック1ないし11のデータを使用すると、これらのパラメータの数値
が、プレイヤーが「破(中)」において殆どプレイをする必要がないくらい、憧れ
の女生徒に相応しい形で与えられる。例えば、憧れの女生徒が「藤崎詩織」である
場合、ブロック1のデータを使用すれば、入学して一週間足らずの時点(一九九五
年四月九日)において、体調999、文系999、理系999、芸術999、運動
999、雑学999、容姿999、根性999、ストレス0というように、ストレ
スを除いて本件ゲームソフトがもともと設定している数値と比較して驚異的な高レ
ベルの数値が与えられる。憧れの女生徒が「藤崎詩織」以外である場合は、ブロッ
ク2から11までのデータを使用すると、各パラメータについて、それぞれの女生
徒に相応しい数値が与えられる。
 このように、本件メモリーカードを使用することにより、ゲームのスタート時点
で既に憧れの女生徒に相応しい形で必要な数値が与えられるのであり、それは、本
件ゲームソフトが予定している「予め設定された低い数値からスタートして、高校
三年間の間、憧れの女生徒に相応しい形でプレイヤー自身の能力を高めるためのプ
レイを行い、それによって能力の数値を上昇させていく」というストーリーの骨格
部分を根本から破壊するものであるから、本件ゲームソフトが到底許容しえないス
トーリーの改変に外ならない。
 加えて、「序(はじめ)」においてプレイヤーの名前(姓・名・あだ名)を入力
することは、主人公であるプレイヤーに個性を持たせ、プレイヤーの本件ゲームソ
フトに対する感情移入度を高め、ゲーム進行状況に応じて呼ばれ方が変わってくる
(「姓」君↓「名」君など)ため、プレイヤーにより高い現実性を与え、本件ゲー
ムソフトに対する思い入れを深くするという意味があるところ、本件メモリーカー
ドのブロック1から11までのデータを使用すると、主人公の名前とあだ名がそれ
ぞれ「とき メモ」「コナミ」と既に設定されてしまうから、感情移入度を高める
等のために主人公の名前とあだ名の決定はプレイヤーの自由に委ねるという本件ゲ
ームソフトのストーリーの骨格にかかわる部分を改変しているものといわざるをえ
ない。
(二) 本件メモリーカードのブロック12、13に収められているデータを使用
することによって、本件ゲームソフトのストーリーのうち「序(はじめ)」及び
「破(中)」の部分が改変される。
 すなわち、本件メモリーカードのブロック12、13のデータを使用すると、ブ
ロック1ないし11のデータを使用した場合と同様、「序(はじめ)」において、
予め低い数値に設定されているプレイヤー自身の能力値を示す九種類のパラメータ
が、プレイヤーが「破(中)」において殆どプレイをする必要がないくらい、憧れ
の女生徒(ブロック12であれば「伊集院レイ」、ブロック13であれば「藤崎詩
織」)に相応しい形で高レベルの数値が与えられる(例えば、ブロック13では、
体調999、文系998、理系998、芸術998、運動997、雑学894、容
姿868、根性987、ストレス0)。したがって、これは、本件ゲームソフトが
予定している「予め設定された低い数値から出発して、高校三年間の間、憧れの女
生徒に相応しい形でプレイヤー自身の能力を高めるためのプレイを行い、それによ
って能力の数値を上昇させていく」というスレーリーの骨格部分を根本から破壊す
るものであるから、本件ゲームソフトが到底許容しえないストーリーの改変に外な
らない。
 のみならず、ゲームのスタート時点が高校の卒業(一九九八年三月一日)間際の
一九九八年二月二二日(ブロック12)又は同月二五日(ブロック13)に飛び、
残りの一週間を適当にプレイすれば、必ず憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は「藤
崎詩織」)から愛の告白を受けること(ハッピーエンディング)ができるようにな
っている。つまり、ブロック12、13には、画面上には表示されないのでプレイ
ヤーには見えないが、憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の
告白を受けるために必要な項目である「デートの回数・中身、学校行事(テスト、
体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェッ
ク)、同伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素」について、
一定の条件を満たすようにデータが収められているのである。
したがって、これは、本来、本件ゲームソフトが最も魅力的なストーリーとして予
定していた「高校三年間の間、デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、
文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下
校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素について、憧れの女生徒に
必要な水準にまで達するように工夫をこらしてプレイする」という部分、つまり、
プレイヤーにとって腕の見せどころであり、本件ゲームソフトの映画の著作物とし
てのストーリーの骨格中の骨格ともいうべき最重要部分を完全に骨抜きに(省略)
するものであり、まさに本件ゲームソフトが絶対許容しえないストーリーの改変に
外ならない。
3 本件メモリーカードが本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリーを
改変するものであることは、本件メモリーカードのパッケージ裏の「使用方法」の
説明箇所に、「5、ひとつ、または複数のゲーム改造データが画面上に表示されま
す。」「7、これで改造されたゲームがプレイできます。」と記載され、同じくパ
ッケージ裏の「注意事項」の説明箇所に「●X―TERMINATOR PS版内
蔵のゲーム改造コードは、」「●X―TERMINATOR PS版を読み込んで
改造ゲームプレーを行ったあと、」と記載されていることからも明らかである。
【被告の主張】
1 本件メモリーカードに収められているのは単なるゲームのデータであって、本
件ゲームソフトのプログラムそれ自体に変更、切除その他の改変を加えるものでは
ない(東京地裁平成七年七月一四日判決・判例時報一五三八号二〇三頁)。
2 原告は、本件メモリーカードを使用することによりストーリーの骨格部分が改
変されるから、本件メモリーカードは本件ゲームソフトの映画の著作物としての同
一性保持権を侵害するものであると主張する。
 しかしながら、シミュレーションゲームの場合、そもそも各種パラメータの組合
せによって極めて多種多様なストーリーの展開が予定されている。本件メモリーカ
ードに収められた各データを本件ゲームソフトの実行に当たって入力しても、プロ
グラムが停止したり、暴走したりせずに、正常にゲームが進行できるのであるか
ら、本件メモリーカードは本件ゲームソフトが本来的に許容する範囲内のデータを
提供するに止まるのであり、その意味で、本件メモリーカードを使用して本件ゲー
ムソフトを実行した結果は、本件ゲームソフトが予定した客観的に展開可能な多種
多様のストーリーの範囲内にあるといえる。したがって、本件ゲームソフトの実行
の結果展開されるストーリーが映画の著作物として認められるとしても、本件メモ
リーカードは、そのストーリーの無断改変行為として同一性保持権を侵害するもの
ではない。
 先例のビデオゲーム「パックマン」の場合、「ビデオゲームの影像によって表現
された思想、感情は、例えば論説、小説、劇映画等に表現されたものと比べれば、
著作者の人格との結びつきは比較的弱い」とされている(東京地裁平成六年一月三
一日判決・判例時報一四九六号一一一頁)ところ、本件ゲームソフトは、右のとお
りシミュレーションゲームであって、その実行の結果展開されるストーリーはそも
そも多種多様であることが想定されているから、比較的単純なゲームであるビデオ
ゲーム「パックマン」の場合以上に著作者の人格との結びつきは弱いというべきで
ある。
 原告が主張するところは、ゲーム制作者がこのようにして遊んでほしいという主
観的な「思い入れ」としては理解できるが、現実の問題として、ゲーム、とりわけ
シミュレーションゲームの場合、プレイヤーの主体的な参加なしではゲーム自体が
成り立たず、プレイヤーによって多様なパラメータが入力されることが本来予定さ
れ可能である以上、プレイヤーがゲーム制作者の「思い入れ」と異なるパラメータ
を入力することをもってストーリーの改変であると評価することは相当でなく、そ
のような「思い入れ」は映画の著作物としての同一性保持権により保護されるべき
ものであるとまではいえない。本件は、劇映画、小説、音楽等の改変とは異なるの
である。
二 争点二(右一の点が肯定されたとして、本件メモリーカードを輸入、販売した
被告が、侵害行為の主体であるということができるか)について
【原告の主張】
1 右一の【原告の主張】のとおり、本件メモリーカードは本件ゲームソフトのス
トーリーの骨格部分を改変し、本件ゲームソフトの映画の著作物としての同一性保
持権を侵害するものであり、右改変により同一性保持権を侵害した者は本件メモリ
ーカードの製作者であるから、これを輸入、販売した被告も著作権法一一三条一項
一号・二号により同一性保持権侵害の責任を免れない。
2(一) 被告は、本件メモリーカードを使用して本件ゲームソフトのプログラム
を実行することが本件ゲームソフトの映画の著作物としての同一性保持権を侵害す
るものであるとしても、そのようなゲームを行っているのは個々のプレイヤーであ
って本件メモリーカードを輸入、販売した被告ではないから、被告は侵害行為の主
体ではないと主張するが、著作権法における侵害行為者は誰であるかについて、
「現実の改変行為者=法律上の改変行為者」という観点に立った誤った解釈に外な
らない。
 被告は、著作権法における侵害行為者の意義をもっぱら即物的、現実的な観点か
ら観察すれば足りると考えているようであるが、仮にその考え方に従うとすると、
たとえば、キャバレーでバンドが著作権者に無断で演奏する場合に、著作権侵害者
は実際に演奏しているバンドであって、キャバレーの営業主ではないということに
なってしまうし(しかし、「中部観光」事件名古屋高等裁判所昭和三五年四月二七
日判決では、もちろんキャバレーの営業主に責任を認めている)、出版社が印刷所
に対しいわゆる海賊版の印刷を発注する場合も、著作権侵害者は現実に複製行為を
行っている印刷所であって、発注した出版社ではないということになってしまう。
侵害行為者が誰であるかを考えるとき、事態をただ即物的、現実的に観察するので
はなく、あくまでも、著作権法の理念・目的に照らして価値的・評価的に構成する
ことが要請されるのである。すなわち、【A】(現行著作権法の起草の中心人物)
著・著作権法逐条講義改訂新版五一六頁の記載からも明らかなように、著作権法上
の侵害行為者は誰であるかを考えるに当たっては、事態をただ即物的、現実的に観
察して、現実の行為者と法律上の行為者とが必ず一致する、と当然のように考えて
はならず、①その行為について支配権を有しているのは誰かという観点、及び②そ
の行為によって経済的利益が帰属する主体は誰かという観点から、侵害行為者の意
義を評価・構成する必要があるのである。こうして、著作権法における「侵害行為
者」とは、「そういう観点から、著作権侵害の行為者として法律上評価されるの
は、その行為について支配権を有しその行為による経済的利益が帰属する主体と解
されましょう。」(右同頁)という正当な結論が導かれるのである。
(二) 本件の場合、①本件メモリーカードを使用して本件ゲームソフトのストー
リーを改変している行為について支配権を有しているのは、これを製作、販売(輸
出)している製作者であって、個々のプレイヤーではない。個々のプレイヤーは、
本件メモリーカードを素材にして自由に修正・加工して、製作者が設定した使用方
法とは別なプレイヤー独自の使用方法を実行しているわけではなく、単に本件メモ
リーカードをそのままゲーム機に挿入して使うだけのことであり、あくまでも、製
作者が設定した使用方法に従ってその範囲内で楽しんでいるにすぎない。また、②
本件メモリーカードの利用によって経済的利益が帰属する主体も、本件メモリーカ
ードをビジネスとして製作、販売(輸出)している製作者である。
 したがって、本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリーの無断改変行
為を行った者は、本件侵害行為について支配権を有し、本件侵害行為による経済的
利益が帰属する主体である本件メモリーカードの製作者であるという外ない。それ
ゆえ、著作権法一一二条一項一号・二号により、右製作者から本件メモリーカード
を輸入し、これを国内で販売した被告もまた、著作者人格権侵害の責任を免れない
のである。
(三) 被告は、被告と個々のプレイヤーとの関係は、キヤバレーの営業主とそこ
で演奏しているバンドとの関係、出版社と印刷所との関係とは明らかに異なる旨主
張する。
 しかし、著作権侵害の法律上の行為者と現実の行為者とが一致しないのは、キヤ
バレーの営業主とそこで演奏しているバンドのように雇用関係に立つ場合だけに限
定されるものではなく、それ以外にも例えば印刷を発注する出版社と印刷所のよう
に委託・受託の関係に立つ場合も含むのであって、その意味で、著作権侵害行為者
とは、前記のとおり、あくまでも著作権法の理念・目的に照らして「その行為につ
いて支配権を有しその行為による経済的利益が帰属する主体」のことを指すのであ
る。そして、「その行為について支配権を有しその行為による経済的利益が帰属す
る主体」の意義について、これを一般的に定義する必要は全くなく、あくまでもキ
ヤバレーの営業主とそこで演奏しているバンドや、印刷を発注する出版社と印刷所
や、本件メモリーカードの製作・販売者と個々のプレイヤーという個々の事例にお
いて、そのいずれが、これに該当するかさえ判断できれば足りるのである。したが
って、これら二者のうち、いずれがその侵害行為を実現するに当たって支配権(イ
ニシアチブ)を有しているか、その侵害行為によって経済的利益を得ているかを考
えさえすればよいのであり、本件では、本件メモリーカードの製作・販売者が侵害
者であることは明らかである。
 もし個々のプレイヤーが侵害者であるとすると、原告は全国に散らばる個々のプ
レイヤー一人一人を被告としてしらみつぶしに同一性保持権侵害による損害賠償請
求等の訴訟を起こさざるをえなくなる。著作権法三〇条二項の規定の仕方から明ら
かなように、そのような途方もない大量の裁判を著作権法が予定しているとは到底
考えられない。
(四) 従前、音楽CDや映画ビデオについて著作者人格権の侵害が問題となると
きには、現実の改変行為者と法律上の改変行為者とが一致しないケースはなかっ
た。無断で改変された音楽あるいは映画そのものがCDやビデオに収録されて製
作・販売され、現実の改変行為者=法律上の改変行為者であったからである。これ
は、CDプレーヤーやビデオカセットレコーダー等のこれまでの再生機器が音楽C
Dや映画ビデオの中身を直接再生処理するものであったことによる。
 ところが、著作者人格権の侵害が問題となった本件において現実の改変行為者と
法律上の改変行為者とが一致しないケースが生じたのは、ひとえにコンピュータと
いう新しい再生装置の特殊性のためである。すなわち、コンピユータは、プログラ
ムの中身(命令やデータ)を、いったんRAM(Random Access M
emory)というメモリに保存し、その上でCPUにより演算処理するという、
これまでの再生機器には見られない特異なシステムをとる。したがって、本件ゲー
ムソフトと本件メモリーカードを同時に実行すると、RAM上には本件ゲームソフ
トを構成するプログラム(命令)と映像及び音のデータの外に、本件メモリーカー
ドのデータも保存され、RAM上でこれらがCPUによって演算処理され、その結
果が映像及び音としてモニターやスピーカーに出力される。そのため、本件ゲーム
ソフト自体には何らの改変を加えなくても、本件メモリーカードを同時に実行する
ことによって、つまり、RAM上に本件メモリーカードのデータを追加することに
よって、RAM上に保存される本件ゲームソフトの命令とデータの構造を改変する
ことができ、その結果、モニターやスピーカーに出力される映像や音のレベルにお
いて、本件ゲームソフトのみを実行したとき出力される映像や音とは異なるものが
得られるのである。
 このように、本件メモリーカードは、従来の再生機器ではありえなかった、RA
Mというメモリの特性をフルに活用した新しい改変のスタイルといえるが、それは
ゲームソフトの著作者にとって、古典的な改変の場合と同様、決して容認できな
い。なぜなら、ゲームソフトを作成する者にとって、でき上がった作品の意義は、
あくまでプレイヤーが鑑賞するモニターやスピーカーに出力された映像や音のレベ
ルにあり、それゆえ、著作者にとっては、音楽CDや映画ビデオにおける改変の場
合のようにCDやビデオのレベルで改変が行われようが、本件のように(予めゲー
ムソフトのレベルで改変されるのではなく)再生機器中のRAMというメモリのレ
ベルで改変が行われようが、それがモニターやスピーカーに出力された映像や音を
改変してしまうものである以上、等しく許し難いことだからである。
【被告の主張】
1 仮に原告の主張とおり本件メモリーカードを使用して本件ゲームソフトのプロ
グラムを実行することが本件ゲームソフトの映画の著作物としての同一性保持権を
侵害するものであるとしても、そのようなゲームを行っているのは個々のプレイヤ
ーであって本件メモリーカードを輸入、販売した被告ではないから、被告は侵害行
為の主体ではない。
2 被告と個々のプレイヤーとの関係は、原告の挙げるキャバレーの営業主とそこ
で演奏しているバンドとの関係とは明らかに異なる。キャバレーの営業主とそこで
演奏しているバンドとの間には、事実上の支配従属、指揮監督の関係が認められる
がゆえに、原告主張のようにバンドによる無断演奏につきキャバレーの営業主に著
作権侵害の責任が認められるのである。出版社と印刷所との関係も、印刷所は印刷
内容について出版社によって全面的に支配されているという点で、同じである。
 これに対して、被告と個々のプレイヤーとの間には、右のような関係がないこと
は明らかであり、個々のプレイヤーは、ゲームの進行について被告によって全面的
に支配されてはいないのである。個々のプレイヤーが被告の施設内で、又は被告の
所有するゲーム機を利用してゲームを行っているのであれば格別、被告が支配する
施設とは全く無縁のところで、プレイヤー自身の所有するゲーム機を使用してゲー
ムを行っているのであるから、原告の主張はその前提を欠くというべきである。
 たとえ、個々のプレイヤーを被告として同一性保持権侵害による損害賠償請求等
の訴訟を起こすことが煩雑であるとしても、右の結論に何らの影響はない。権利者
の一方的便宜のためだけに侵害者の定義を変えることはできないからである。
三 争点三(被告が同一性保持権、複製権侵害の不法行為責任を負う場合に、原告
に対して賠償すべき損害の額等)について
【原告の主張】
1 原告は、被告による同一性保持権、複製権侵害の不法行為により、次のとお
り、合計一〇一四万六〇〇〇円の損害を被った。
(一) 原告は、本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリーを改変され
たことにより、恋愛シミュレーションゲームとしての態をなさないまでに本件ゲー
ムソフト本来のゲーム展開を著しく損なわれ、著しい精神的苦痛を被った。これを
慰謝するに足る慰謝料の金額は一〇〇〇万円を下らない。
(二) 本件ゲームソフトのキャラクターを他社が複製頒布して使用することを原
告が許諾する場合、その使用料は通常、複製物一個当たり商品価格の七%であるか
ら、「藤崎詩織」のキャラクターの使用料相当額も、本件メモリーカード一個当た
り二〇八・六円(商品価格二九八〇円×七%)が相当であるところ、被告が現在ま
でに輸入した本件メモリーカードは七〇〇本を下らないから、原告が被告に請求で
きる使用料相当額の損害は一四万六〇〇〇円を下らない。
2 被告は、原告の有する著作者人格権(同一性保持権)を侵害したものであるか
ら、原告は、右1(一)の損害賠償とともに、著作者としての名誉を回復するため
の措置として、朝日・読売・毎日・日本経済の各新聞に別紙目録一記載の謝罪広告
を別紙目録二記載の条件で掲載することを求める。
第五 争点に関する当裁判所の判断
一 争点一(本件メモリーカードは、本件ゲームソフトの映画の著作物としてのス
トーリーを改変し、同一性保持権を侵害するものであるか)について
1 まず、証拠(検甲一、二)及び弁論の全趣旨によれば、本件ゲームソフトのプ
ログラムを実行することにより、映像としてモニターに、音としてスピーカーに出
力されるところのものは、通常の映画と比べて映像の連続的な動きという点では格
段に劣るものではあるが、一応「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を
生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている」(著作権法二条三項)と
いうことができるので、映画の著作物に準ずる著作物に当たるということができ
る。
2 前記第二の一2のとおり、本件ゲームソフトの内容は、ゲームを行うプレイヤ
ーが架空の高校「きらめき高校」の高校生となって、設定された登場人物の中から
憧れの女生徒とする人物を選択し、卒業式の当日、伝説の樹の下でこの女生徒から
愛の告白を受けること(ハッピーエンディング)を目指して、高校三年間の様々な
出来事、行事等を通して、憧れの女生徒に相応しい能力を備えるための努力を積み
重ねるという恋愛シミュレーションゲームであり、本件ゲームソフトのプログラム
を実行すると、同(一)ないし(三)のような形でゲームが展開していくものであ
るところ、証拠(甲六の1・2、一一、検甲一ないし三)及び弁論の全趣旨によれ
ば、その際本件メモリーカードを使用すれば、次のようにゲームが展開するもので
あることが認められる。
(一) 本件メモリーカードのブロック1ないし11に収められているデータを使
用すると、本来、一九九五年四月四日の高校入学の時点における初期値が体調10
0、文系40、理系40、芸術40、運動40、雑学32、容姿60、根性5、ス
トレス0として設定されている九種類のパラメータの数値が、入学後一週間足らず
の一九九五年四月九日の時点において、例えばブロック1のデータでは、「藤崎詩
織」に合ったステータスでゲームをプレイできるとして、 ストレス0以外はすべ
て999という形で与えられ、ブロック2のデータでは、「紐緒結奈」に合ったス
テータスでゲームをプレイできるとして、体調99、文系0、理系999、芸術
0、運動0、雑学0、容姿999、根性0、ストレス0という形で与えられる。
 また、本来であれば、ゲームのスタート時点においてプレイヤーの名前(姓・
名・あだ名)を入力することになるところ、本件メモリーカードのブロック1ない
し11のデータを使用すると、プレイヤーの名前が「とき メモ」、あだ名が「コ
ナミ」として既に設定されている。
(二) 本件メモリーカードのブロック12、13に収められているデータを使用
すると、ゲームのスタート時点が高校の卒業(一九九八年三月一日)間際の一九九
八年二月二二日(ブロック12)又は同月二五日(ブロック13)に飛び、その時
点において、九種類のパラメータが、ブロック12のデータでは、「伊集院レイ」
の「エンディング直前データ」として、体調999、文系998、理系995、芸
術998、運動998、雑学873、容姿849、根性973、ストレス0という
形で与えられ、ブロック13のデータでは、「藤崎詩織」の「エンディング直前デ
ータ」として、体調999、文系998、理系998、芸術998、運動997、
雑学894、容姿868、根性987、ストレス0という形で与えられる。しか
も、画面上には表示されないのでプレイヤーには見えないが、憧れの女生徒(「伊
集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けるために必要な項目である「デ
ートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健
康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下校やプレゼントの中身、他の女生
徒の評価などの諸要素」について、一定の条件を満たすようにデータが収められて
おり、残りの一週間を適当にプレイすれば必ず憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は
「藤崎詩織」)から愛の告白を受けること(ハッピーエンディング)ができるよう
になっている。
 また、ブロック1ないし11に収められているデータを使用した場合と同様、プ
レイヤーの名前が「とき メモ」、あだ名が「コナミ」として既に設定されてい
る。
3(一) しかして、右2(一)のように、本件メモリーカードのブロック1ない
し11に収められているデータを使用すると、本来、一九九五年四月四日の高校入
学の時点における初期値が体調100、文系40、理系40、芸術40、運動4
0、雑学32、容姿60、根性5、ストレス0として設定されている九種類のパラ
メータの数値が、入学後一週間足らずの一九九五年四月九日の時点において、例え
ばブロック1のデータでは、「藤崎詩織」に合ったステータスでゲームをプレイで
きるとして、ストレス0以外はすべて999という形で与えられ、ブロック2のデ
ータでは、「紐緒結奈」に合ったステータスでゲームができるとして、体調99、
文系0、理系999、芸術0、運動0、雑学0、容姿999、根性0、ストレス0
という形で与えられることについて、原告は、本件メモリーカードを使用すること
により、ゲームのスタート時点で既に憧れの女生徒に相応しい形で必要な数値が与
えられるのであり、それは、本件ゲームソフトが予定している「予め設定された低
い数値からスタートして、高校三年間の間、憧れの女生徒に相応しい形でプレイヤ
ー自身の能力を高めるためのプレイを行い、それによって能力の数値を上昇させて
いく」というストーリーの骨格部分を根本から破壊するものであるから、本件ゲー
ムソフトが到底許容しえないストーリーの改変に外ならないと主張する。
 しかしながら、本件メモリーカードにより、右のようなパラメータの数値につい
てのデータを本件ゲームソフトのプログラムの実行に当たって入力しても、本件ゲ
ームソフトのプログラム自体が書き換えられるわけではなく、しかもプログラムが
停止したり暴走したりすることなく、正常にゲームを進行することができるから、
本件メモリーカードに収められたデータは、本件ゲームソフトのプログラムの許容
する範囲内であるといわざるをえない。そして、本件ゲームソフトの内容は、前示
のような恋愛シミュレーションゲームであり、憧れの女生徒から愛の告白を受ける
ことを目指して、プレイヤー自身が種々のコマンドを選択してゲームを進めていく
というものであるから、本件ゲームソフトのプログラムを実行することにより展開
されるところは、多種多様のものであることが本来予定されており、固定されたも
のではないところ、本件メモリーカードのブロック1ないし11に収められている
データを使用しても、プレイヤーは、一九九五年四月九日のスタート時点からほぼ
三年間のプレイを行うのであり、しかも、前記第二の一2(三)のとおり、ゲーム
の最終局面において憧れの女生徒から愛の告白を受けることができるか否かの判定
に当たっては、前記九種類のパラメータが憧れの女生徒に相応しい数値にまで高ま
ったかどうか、という要素だけではなく、「デートの回数・中身、学校行事(テス
ト、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェッ
ク)、同伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素」が一定の条
件を満たしているかどうかが総合して考慮されるのであるから、右のような一九九
五年四月九日時点におけるパラメータの数値設定が、本件ゲームソフトのプログラ
ムの実行による本来のゲーム展開にどのように影響し、これを変化させ、最終局面
においてどのように右判定に影響するのか、本件全証拠によるも不明であり、結
局、本件ゲームソフトが予定しているストーリーを改変するものであると認めるに
足りる証拠はない。
 また、本来であれば、ゲームのスタート時点においてプレイヤーの名前(姓・
名・あだ名)を入力することになるところ、本件メモリーカードのブロック1ない
し11に収められているデータを使用すると、プレイヤーの名前が「とき メ
モ」、あだ名が「コナミ」として既に設定されていることにつき、原告は、「序
(はじめ)」においてプレイヤーの名前(姓・名・あだ名)を入力することは、主
人公であるプレイヤーに個性を持たせ、プレイヤーの本件ゲームソフトに対する感
情移入度を高め、ゲームの進行状況に応じて呼ばれ方が変わってくる(「姓」君↓
「名」君など)ため、プレイヤーにより高い現実性を与え、本件ゲームソフトに対
する思い入れを深くするという意味があるため、主人公の名前とあだ名の決定はプ
レイヤーの自由に委ねるという本件ゲームソフトのストーリーの骨格にかかわる部
分を改変している旨主張する。
 しかしながら、証拠(甲一〇、一一、検甲一)及び弁論の全趣旨によれば、本件
ゲームソフトの「プレイステーション」版に適応するゲーム機「プレイステーショ
ン」には、メモリーカードの挿入口が設けられ、これに挿入するメモリーカード
(記憶単位が1から15まで一五ブロックある)も同時に市販されているところ、
本件ゲームソフトは高校三年間という舞台設定によりプレイ時間が非常に長くなる
ため、プレイヤーが一時プレイを中断したいとき、このメモリーカードを使用すれ
ば、それまでプレイした結果のデータを保存(セーブ)し、後刻ないし後日プレイ
を再開する際、メモリーカードに保存されているデータをゲーム機で読み込む(ロ
ード)ことにより、中断時の状況からプレイを続行することができることが認めら
れる。したがって、既にプレイヤーの名前(姓・名・あだ名)が入力された状態で
プレイを始める(再開する)ことは本件ゲームソフトの予定したところであり、そ
のプレイヤーの名前の入力を、プレイヤー自身によってメモリーカードに保存され
たデータを読み込むことによってするか、他人によってメモリーカードに保存され
たデータを読み込むことによってするかはプレイヤー自身の選択に委ねられている
といわざるをえず、更に、その他人によってデータの保存されたメモリーカードと
して、本件メモリーカードのように市販されたものを使用することも、プレイヤー
自身の選択に委ねられているといわざるをえないから、本件メモリーカードのブロ
ック1ないし11に収められているデータの使用によりプレイヤーの名前が「とき
 メモ」、あだ名が「コナミ」として既に設定されていることによって、本件ゲー
ムソフトのストーリーを改変しているということはできない。
(二) 前記2(二)のように、本件メモリーカードのブロック12、13に収め
られているデータを使用すると、ゲームのスタート時点が高校の卒業(一九九八年
三月一日)間際の一九九八年二月二二日(ブロック12)又は同月二五日(ブロッ
ク13)に飛び、その時点において、九種類のパラメータが、ブロック12のデー
タでは、「伊集院レイ」の「エンディング直前データ」として、体調999、文系
998、理系995、芸術998、運動998、雑学873、容姿849、根性9
73、ストレス0という形で与えられ、ブロック13のデータでは、「藤崎詩織」
の「エンディング直前データ」として、体調999、文系998、理系998、芸
術998、運動997、雑学894、容姿868、根性987、ストレス0という
形で与えられ、しかも、画面上には表示されないのでプレイヤーには見えないが、
憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けるために必
要な項目である「デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)へ
の取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下校やプレゼン
トの中身、他の女生徒の評価などの諸要素」について、一定の条件を満たすように
データが収められており、残りの一週間を適当にプレイすれば必ず憧れの女生徒
(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けること(ハッピーエンデ
ィング)ができるようになっていることにつき、原告は、右(一)冒頭の主張と同
様の主張に加えて、これは、本来、本件ゲームソフトが最も魅力的なストーリーと
して予定していた「高校三年間の間、デートの回数・中身、学校行事(テスト、体
育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、
同伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素について、憧れの女
生徒に必要な水準にまで達するように工夫をこらしてプレイする」という部分、つ
まり、プレイヤーにとって腕の見せどころであり、本件ゲームソフトの映画の著作
物としてのストーリーの骨格中の骨格ともいうべき最重要部分を完全に骨抜きに
(省略)するものであり、まさに本件ゲームソフトが絶対許容しえないストーリー
の改変に外ならないと主張する。
 しかしながら、高校の卒業(一九九八年三月一日)間際の一九九八年二月二二日
(ブロック12)又は同月二五日(ブロック13)の時点において、憧れの女生徒
(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けるために必要な項目であ
る「デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)への取組みの中
身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下校やプレゼントの中身、他
の女生徒の評価などの諸要素」について、一定の条件を満たすようなデータになっ
ており、残りの一週間を適当にプレイすれば必ず憧れの女生徒(「伊集院レイ」又
は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けること(ハッピーエンディング)ができると
いうゲームの展開状況は、本件ゲームソフトが予定している多種多様のゲーム展開
のうちの一つとして当然予定されているところといわざるをえず、かかる時点、状
況におけるデータをメモリーカードに保存することも、そのようなハッピーエンデ
ィング直前のデータが既に入力された状態でプレイを始める(再開する)ことも本
件ゲームソフトの当然予定したところであり、そのハッピーエンディング直前のデ
ータの入力を、プレイヤー自身によってメモリーカードに保存されたデータを読み
込むことによってするか、他人によってメモリーカードに保存されたデータを読み
込むことによってするかはプレイヤー自身の選択に委ねられているといわざるをえ
ず、更に、その他人によってデータの保存されたメモリーカードとして、本件メモ
リーカードのように市販されたものを使用することも、プレイヤー自身の選択に委
ねられているといわざるをえないから、本件メモリーカードのブロック12、13
に収められているデータを使用するとハッピーエンディング直前データが与えられ
ることをもって、本件ゲームソフトのストーリーを改変しているということはでき
ない(原告自身も、本件ゲームソフトの解説書〔甲一〇〕において、「エンディン
グを一度見た後も楽しみたいなら、システムファイルの保存をお薦めします。」と
記載して、メモリーカードに保存することにより、高校三年間のゲームをプレイす
ることなくハッピーエンディングのみを繰り返して楽しむ方法を明記しており、そ
のような本件ゲームソフトの使用の仕方を許容していることが明らかである)。
 なお、本件メモリーカードのブロック12、13に収められているデータの使用
によりプレイヤーの名前が「とき メモ」、あだ名が「コナミ」として既に設定さ
れていることによって、本件ゲームソフトのストーリーを改変しているといえない
ことは、前記(一)末尾説示のとおりである。
4 以上のとおりであるから、本件メモリーカードは、本件ゲームソフトの映画の
著作物としてのストーリーを改変し、同一性保持権を侵害するものであるとはいえ
ない。
 したがって、右同一性保持権侵害の不法行為を理由として損害の賠償及び謝罪広
告の掲載を求める請求は、争点二について検討するまでもなく、理由がないといわ
なければならない。
二 争点三(被告が同一性保持権、複製権侵害の不法行為責任を負う場合に、原告
に対して賠償すべき損害の額等)について
 本件ゲームソフト用に作成された「藤崎詩織」のキャラクターのアイコンは、本
件ゲームソフトにおける「藤崎詩織」という人物の容ぼうを創作的に表現した著作
物というべきところ、本件メモリーカードに保存されている「藤崎詩織」のキャラ
クターのアイコンは、右の本件ゲームソフト用に作成された「藤崎詩織」のキャラ
クターのアイコンと同一であることは、前記のとおり当事者間に争いがなく、証拠
(甲九の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、「藤崎詩織」のキャラクタ
ーのアイコンの使用について原告の許諾を得たものでないことを知りながら、一九
九五年(平成七年)一二月一九日に四〇〇個、一九九六年(平成八年)一月一八日
に三〇〇個の本件メモリーカードを輸入し、これを販売したものと認められるか
ら、被告は、著作権法一一三条一項一号・二号により、原告の有する複製権を侵害
したものとみなされ、原告に対して損害賠償責任を負うものといわなければならな
い。
 そして、証拠(甲六の1、九の1)によれば、本件メモリーカードの販売価格は
一個当たり二九八〇円であることが認められ、また、弁論の全趣旨によれば、本件
ゲームソフトのキャラクターを他社が使用することを原告が許諾する場合、その使
用料は通常複製物一個当たり商品価格の七%であることが認められるから、被告
は、原告に対して、使用料相当額の損害金として、原告の請求する合計一四万六〇
〇〇円(二九八〇円×七%×七〇〇個)を支払うべき義務があるというべきであ
る。
第六 結論
 よって、原告の請求は、複製権侵害の不法行為に基づき金一四万六〇〇〇円の賠
償を求める範囲で認容し、その余は棄却することとし、主文のとおり判決する(な
お、仮執行の宣言につき、仮執行免脱の宣言は相当でないから、その申立を却下す
ることとする)。
大阪地方裁判所第二一民事部
裁判長裁判官 水野武
裁判官 田中俊次
裁判官 小出啓子
目録一
謝罪広告
 当社が平成八年 月 日付で輸入発売しましたメモリーカード「X-TERMI
NATOR  PS版 第2号 ときメモスペシャル」は貴社製作のコンピュータ
用ゲームソフト「ときめきメモリアル」のストーリーを無断で一部改変するもので
あり、これにより貴社の著作者人格権を侵害しましたことを、ここに謹んで謝罪い
たしす。
平成 年 月 日
スペックコンピュータ株式会社
代表取締役 【B】
コナミ株式会社
代表取締役 【C】 殿
以上
目録二
一、掲載スペース
二段抜き左右一〇センチメートル
二、活字の大きさ
表題    二〇級ゴシック
本文    一六級明朝体
記名・宛名 一八級明朝体
以上

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今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
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司法修習生
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なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
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従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

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〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
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