弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人は無罪。
         理    由
 弁護人山崎季治の控訴趣意は本件記録編綴の控訴趣意書と題する書面記載の通り
であるからこゝにこれを引用しその主張の点に対し当裁判所は次の通り判断する。
 第二点(2)について。所論は要するに原審が証人Aの原審公廷における供述及
び原審第三回公判調書中証人Bの供述記載を証拠に採つて有罪の認定をしたのは証
拠能力のない証拠による断罪であつて違法であると主張する。よつてこれ等の証拠
が果して証拠能力があるかないかを検討する。
 先づ本件記録を通じてみれば次の事実を看取することができる。
 本件公訴事実は「被告人(C)は昭和二十四年五月十七日被疑者Dに対し同人が
これより先五月十二日Eを脅迫したる被疑事件につき鳥取地方裁判所米子支部裁判
官大江健次郎が鳥取地方検察庁米子支部検察官の請求に基き逮捕状を発布し同検察
官の指揮によつて米子市警察署司法警察員Fが同日其の執行を為さんとするや、同
日米子市a町b番地なる被告人自宅に於て右Dより右逮捕状発布の事実を聞知し逮
捕を免れしめる為「どんな様子か聞いて来てやるからその間友達の家に行つてお
れ」と申向けて右Dをして逮捕を免れる目的を以て即時米子市c町G(当二十三
才)方に赴き同月二十日頃迄潜伏せしめ其の間逮捕を免れしめ以て犯人を隠避した
ものである」と言うのであり、これに対し被告人は原審公廷で犯罪事実を否認した
ので検察官は「Dが自己に逮捕状が出たことについて被告人に相談したところ被告
人が友達の家に行つておれ様子を見て来ると言つた事実を立証するため」証人Dの
取り調べを請求した。裁判所は右証人を取り調べたところ、証人Dは原審公廷で
「証人は昭和二十四年五月頃証人に逮捕状が出たことを聞いたが帰る途中Cの店頭
でCに会つたので証人はCに「私に脅迫だかで逮捕状が出ておると言うことだが変
です」と言つて相談したらCは信じられん顔をして「本当か嘘か聞いてみてくる」
と言つた。証人はその他Cから何も聞いていないと思う。証人が友達のところに行
つたのは証人自身用事があつて行つたのであつてCからすゝめられたことはなかつ
たと思う」と述べ、検察官は右証言によつては前記立証事実を証明することができ
なかつたので更に「本日喚問されたDがCに指示されて友人のG宅に潜伏するよう
になつた事情を立証するため」鳥取地方検察庁米子支部勤務副検事証人Bの取り調
べを請求し弁護人は伝聞証言なるの故を以てその取り調べに対し反対したのに拘わ
らず裁判所これを採用して同証人を取り調べたところ、同証人は「証人は昭和二十
四年被告人Cを検挙した当時Dを調べたことがある。その当時裁判官にDに対する
尋問を求めたことがある。その手続は証人がした。裁判官の尋問にH検事が立会つ
た。その尋問調書が検察庁に返えり証人はその調書を見た。」と述べ、更に検察官
の同証人に対する「その調書にDはどう言うことを供述して居たか」との尋問に対
し、弁護人は異議を申立てその理由として「調書の内容についてどう言うことを述
べていたかと言うことは伝聞証言を求めるものである」と述べ、裁判長が意見を求
めたのに対し検察官は「前回証人Dは当公廷で取り調べを受けた際同人がそれより
前に裁判官より取り調べを受けた当時は頭が混乱してどう述べたか判らんと供述し
ておるため、刑事訴訟法第三百二十四条第二項及び第三百二十一条第一項第三号の
規定により為すのであつて弁護人の異議申立は却下ありたい」と述べ、裁判長は合
議の上「右異議の申立を却下する旨の決定を宣し、刑事訴訟法第三百二十四条第二
項及び第三百二十一条第一項第三号の趣旨に準じて尋問を許可する」と告げ、更に
検察官に尋問を促したところ、同証人は「その調書にどう言うことが書いてあつた
か大体の趣旨は記憶しておる。その趣旨はDは自分に逮捕状が出ておることを聞い
たからかねてから相談相手の被告人Cに相談したところ、被告人は検察庁へ行つて
様子を見て来るから友達のところへ行つておれと言つたからDはGの家へ三、四日
行つて居たと言う趣旨が、書いてあつた。それでDは友達のところへ行つたとの趣
旨であつて、その調書は昭和二十四年九月の検察庁の火災で焼けた」と述べてお
り、更に裁判所は職権で鳥取地方裁判所米子支部勤務書記官補Aを証人として尋問
する旨決定しこれを尋問したところ、同証人は「昭和二十四年鳥取地方裁判所米子
支部において被告人Cの事件についてDを証人として尋問した際証人は裁判所書記
としてそれに立会つた。その時の裁判官はIであつた」と述べ、更に裁判長の「そ
の時D証人は被告人Cに教唆されて逮捕状による逮捕を免れるため何処かに隠れて
いたように言つたことがあるか」との問に対し、弁護人は「本件証人の証言は伝聞
にわたるものであるから異議を申立てる」と述べたのに対し、裁判長は合議の上異
議を却下し、更に尋問を続けたところ、同証人は「その時の証人の記憶は証人Dは
逮捕状が出たことを他の者から聞き被告人のところに行き相談したところ被告人C
は様子を見て来るからお前は何処かに行つておれと言つたので友達のところへ行つ
たと述べたことを記憶しておる。その時Dは言い澁るようなことはなく極めて任意
に供述していた。Dの供述は尋問調書に記載して読聞けた上署名捺印した」と述べ
ており、原審裁判所は右証人Bの右供述記載(公判手続更新前のものであるから供
述記載を証拠とした)及び証人Aの右供述を証拠として本件公訴事実を認定したも
のである。
 <要旨>敍上説明した経過によつて明かなように被告人においてDに何処かに行つ
ておれと言つてG方に潜伏せしめたと言う犯罪事実を中心として考えてみる
ときは右Aの供述は刑事訴訟法第三百二十四条第二項の「被告人以外の者の公判期
日における供述で被告人以外の者の供述をその内容とするもの」である。
 右Bの供述(形式的には供述記載であるけれども実質的には供述である)は右同
項に所謂「被告人以外の者の公判期日における供述」ではあるけれども「被告人以
外の者の供述をその内容とするもの」ではなく、「被告人以外の者の供述記載をそ
の内容とするもの」であつて右Aの供述より一層間接的であり伝聞的である。而し
て右Aの供述は同項により第三百二十一条第一項第三号を準用されておるのである
から、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判
期日において供述することができぬときに限り証拠とすることができるものであ
る。然るに証人Dは原審公廷で「I裁判官の尋問を受けた際は頭が混乱してどう述
べたか判らん」と述べてはおるけれども現に原審公廷に出廷し異常なく供述をして
おるのである。右刑事訴訟法第三百二十一条第一項第三号の死亡、精神若しくは身
体の故障、所在不明又は国外にいるため公判期日において供述することができない
との条件には寸毫も合致しない。只証人Dが原審公判廷でI裁判官の尋問の際に述
べたことゝ異つた供述をしたからと言つて直ちにこれに代るものとして右証人A及
びBの証言を証拠として採用し得るものであろうか。伝聞証拠禁止の原則はあく迄
犯罪事実に対し直接の証拠を法廷に顕出し当事者双方の批判にさらし取捨選択の上
最も精確なる証拠によつてのみ犯罪事実を認定せしめ以て誤判を妨がんとするもの
と考える。伝聞禁止の例外はみだりにこれを拡張すべきではない。論者は或は言う
であろう。英米法における伝聞禁止は素人の陪審員を対象とし日本における伝聞、
禁止は職業的訓練を受けた裁判官を対象とするから両者間自ら差異があつて然るべ
きものであると。然し乍ら裁判官と雖も超人ではなく一個の平凡人に過ぎない。職
業的訓練を経たと言う点については一般素人より勝る点があるであろうがそれは程
度の差に過ぎない。若し本件の証拠に証拠能力ありとし、かような立証方法を無制
限に許すこととすれば折角刑事訴訟法が伝聞証拠禁止の原則を確立し誤判の妨止に
務めておることが徒労に帰するであろう。
 以上の次第であつて原審が証人Bの供述記載及び証人Aの供述を採つて本件断罪
の資料に供したことは証拠能力のない証拠を有罪認定の資料としたものであり、原
判決はこの点において違法であり到底破棄を免れない。論旨理由あり。よつてその
余の論旨に対する判断を省略し刑事訴訟法第三百九十七条を適用して原判決を破棄
し同法第四百条但し書により被告事件について更に判決をする。本件控訴事実は前
掲記の通りであるが犯罪の証明がないから刑事訴訟法第三百三十六条を適用して無
罪とする。
 よつて主文の通り判決する。
 (裁判長判事 平井林 判事 久利馨 判事 藤間忠顕)

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