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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
処分行政庁がP1株式会社に対し別紙建築物目録記載の建築物について平成
19年9月25日付けでした都市計画法53条1項の規定による建築許可処分
を取り消す。
第2事案の概要
本件は,処分行政庁が,P1株式会社(以下「P1」という)に対し,都。
市計画法(昭和43年法律第100号)53条1項の規定により,同法条4
6項,11条1項2号所定の都市計画施設(公園)の区域内において別紙建築
物目録記載の建築物(以下「本件マンション」という)の建築を許可したと。
ころ(以下「本件建築許可」という,上記区域の付近に居住する原告らが,。)
本件建築許可は,上記区域における将来の公園事業の円滑な施行に重大な障害
,,となり処分行政庁の裁量権を逸脱し又は濫用したもので違法である等として
その取消しを求めている事案である。
1関係法令の定め
(1)旧都市計画法(大正8年法律第36号。昭和43年法律第100号によ
る廃止前のもの。以下同じ)は,都市計画,都市計画事業及び毎年度執行。
,,すべき都市計画事業は都市計画審議会の議を経て主務大臣がこれを決定し
内閣の認可を受けるべきことを定める(3条。旧都市計画法は,昭和43)
年法律第100号附則2項により,廃止されたが,都市計画法施行法(昭和
43年法律第101号)2条により,都市計画法の施行の際現に旧都市計画
法の規定により決定されている都市計画区域及び都市計画は,それぞれ都市
計画法の規定による都市計画区域又は同法の規定による相当の都市計画とみ
なすものとされた。
(2)都市計画法は,①同法53条1項本文において,都市計画施設(公園を
含む)の区域内において建築物の建築をしようとする者は,都道府県知事。
の許可を受けなければならないと定めているが(以下,都市計画施設の区域
内における建築物の建築許可を「53条許可」という,②同項ただし書に。)
おいて,事業の施行自体に相当するもの(3号)又は類型的に事業の施行に
(,,)著しい支障を及ぼすおそれがないといえるもの1号2号4号及び5号
については建築を制限する必要がないため,許可が不要とされ,③同法54
条において,当該建築が当該都市計画施設に関する都市計画のうち建築物に
ついて定めるものに適合していて,将来における事業の施行に資するものと
いえるとき(1号,当該建築物が容易に移転し,又は除却することができ)
るなど,将来における事業の施行に支障を及ぼすおそれが低いと認められる
とき(2号及び3号)は,許可をしなければならないと定められている。
(3)53条許可に係る事務は,東村山市においては,東京都建築指導事務所
設置条例(昭和46年東京都条例第104号)2条及び東京都建築指導事務
所長委任規則(昭和46年東京都規則第260号)一本文により,東京都知
事(以下「都知事」という)から東京都多摩建築指導事務所長に委任され。
ている。
2前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に
認められる事実)
(1)当事者(甲1,5ないし10,乙3の1・2,同6,15)
原告らは,昭和54年3月以降現在に至るまで,肩書住所地に夫婦として
共に居住しており,その居住場所は,本件マンションの敷地である東京都東
村山市α×番1,2,3,4,5,6,7,8及び17の土地(約1万48
99.77㎡(約1.49。以下「本件土地」という)の北東端からha)。
約10の範囲内にあり,その居住場所と本件土地との位置関係は,別紙m
図面1のとおりである。
,,。P1は不動産の売買賃借及びその仲介等を目的とする株式会社である
(2)昭和37年7月の都市計画(都市計画公園)決定(甲16)
建設大臣は,旧都市計画法に基づき,昭和37年7月26日付け建設省告
示第○号により種別近隣公園名称第3・3・1号β公園位置東,「」,「」,「
」(。),「.」村山市γ各地内上記表記は現在の行政区画による面積約312ha
とする都市計画公園の都市計画決定をした(以下,この都市計画決定を「本
件原計画決定」といい,この都市計画において定められた区域を「β公園区
域」という。。)
(3)β公園区域に係る用途地域指定及び公園の一部開設等(甲16,35)
ア被告は,都市計画法(平成4年法律第82号による改正前のもの)に基
づき,昭和48年11月20日付け東京都告示第○号をもって,別紙図面
2の1の部分及びB−1地区につき,用途地域を第一種住居専用地域,容
積率を80%,建ぺい率を40%とし,別紙図面2の2及び3の各部分及
,,,びB−2地区につき用途地域を第二種住居専用地域容積率を200%
建ぺい率を60%とすることなどを内容とする都市計画決定を行った。
イ東村山市は,昭和58年11月12日,B−2地区のうちの南東部分2
708㎡につき,都知事から認可を受けて都市計画事業を施行し,当該部
分の土地を取得した上,昭和61年2月1日,都市計画公園としての供用
を開始した。
ウ被告は,都市計画法(平成4年法律第82号による改正後のもの)に基
づき,平成8年5月31日付け東京都告示第○号をもって,別紙図面2の
1の部分及びB−1地区につき,用途地域を第一種低層住居専用地域,容
積率を80%,建ぺい率を40%,建築物の高さの限度10とし,別m
紙図面2の2及び3の各部分及びB−2地区につき,用途地域を第一種中
高層住居専用地域,容積率を200%,建ぺい率を60%とすることなど
を内容とする都市計画決定を行った。
エ東村山市は,平成9年7月24日,B−1地区のうちの西側部分393
3㎡につき,都知事から認可を受けて都市計画事業を施行し,当該部分の
土地を取得した上,平成13年6月1日,都市計画公園としての供用を開
始した(以下,この公園を前記イの公園と併せて「β公園開園部分」とい
う。。)
(4)都内における都市計画公園・緑地の整備状況及び整備方針(乙5)
平成18年3月時点で,都全域における都市計画公園・緑地の計画決定面
積(約1万0600)のうち,約42%に当たる約4400が供用haha
済みであり,約58%に当たる約6200が未供用であったが,未供用ha
面積のうち約3600(計画決定面積のうち約34%)が,河川の水面ha
や社寺境内地など既に公園・緑地とほぼ同等の緑の機能が確保されている整
備を要しない区域であったため,被告及び都内の区市町は,残る約2600
(計画決定面積のうち約24%。以下「事業化計画検討対象区域」といha
う)につき,事業化計画の検討対象としなければならない状況であった。。
被告及び都内の区市町は,財政的な限界がある中で,計画的・効率的な都市
,,,計画公園・緑地の整備を目指し優先順位を定め中長期的に取り組むべく
合同で「都市計画公園・緑地の整備方針(平成18年3月17日付○都市,」
基施第○号決定。以下「本件整備方針」という)を策定し,本件整備方針。
において,事業化計画検討対象区域に存する都市計画施設たる公園・緑地に
ついて,公園・緑地に求められる4つの機能(レクリエーション・防災・環
境保全・景観)により評価を行い,機能が再確認されたものについて,時代
の要請である「水と緑のネットワーク形成」及び「都市問題への対応」の観
,「」,,点から重要なものを重点化を図るべき公園・緑地に選定しそのうち
平成27年までに整備に着手する予定の区域を「優先整備区域」と「優先,
整備区域」を有する公園・緑地を「重点公園・緑地」に選定したが「優先,
整備区域」に選定されたのは,事業化計画検討対象区域のうち約17%にす
ぎず,β公園区域は,本件整備方針において「重点公園・緑地」に選定さ,
れなかった。また,平成18年3月の時点で,約2600の事業化計画ha
検討対象区域のうち約500がおおむね1以上のまとまりのある企haha
業等の民有地であり,これらの土地の多くは災害時の避難場所等に指定され
ているところ,本件整備方針では,これらの土地をオープンスペースとして
確保することが重要であるが,これらの民有地は戸建開発等により細分化が
進む傾向にあり,緑の保全や良好なオープンスペースの維持が困難になって
いるとして,公共による優先整備区域以外に存在する企業グラウンドや屋敷
林等の民有地等の貴重なオープンスペースを対象に,都市再生等の動きを的
確に捉え,民間の活力を活用して質の高い緑のオープンスペースを早期に確
保するために,これらの都市計画施設(公園・緑地)の区域内での建築にか
かわる規制の緩和等のインセンティブを付与することを通じて,この区域内
の民有地において民間事業者が誰もが利用できる緑のオープンスペースの整
備と管理を行うことを促す仕組みとして,民設公園制度を創設する方針が立
てられている(なお,本件整備方針においては,民設公園制度の対象とされ
た土地についても,最終的には都市公園として整備することが予定されてい
る。。)
(5)東京都民設公園事業(甲4,13)
ア被告は,平成18年5月30日,都市に必要な基盤である都市計画公園
及び都市計画緑地について,従来の公共による整備に加え,新たに民間の
活力を導入することにより,早期に公園的空間を整備及び管理することを
目的として「民設公園事業」を導入することとし「東京都民設公園事業,,
」(「」。)(。実施要綱以下本件実施要綱というを定めた同年6月1日施行
,「」。)。以下本件実施要綱により策定された制度を民設公園制度ともいう
その内容は,次のとおりである。
(ア)本件実施要綱は,都市公園法(昭和31年法律第719号)2条1
項に規定する都市公園に準じた機能を有することを目的とし,同要綱に
定める水準の整備と管理が実施され,みどりの永続性・公開性・ネット
ワーク性が担保された空間を「公園的空間」と,同要綱に基づき都知事
「」,が認定した計画により整備され管理される公園的空間を民設公園と
同要綱に基づき都知事が認定した計画により実施される事業を「民設公
園事業」と,同要綱に基づき都知事が認定した計画により事業者として
位置付けられ,民設公園事業を実施する者を「民設公園事業者」とそれ
ぞれ定める(同要綱2。)
(イ)都知事は,民設公園事業の申請を受けたときは,申請に係る都市計
画公園又は都市計画緑地における民設公園事業について,地元区市町に
説明と意見照会を行うほか,広く意見を聴取するため,申請内容に対す
る審査会の意見を求めた上で,本件実施要綱に基づき,認定又は不認定
を行い,認定を受けた民設公園事業者は,当該民設公園事業の実施につ
いて都知事との間で契約(以下「事業施行契約」という)を締結した。
上で,民設公園事業を行う(同要綱7ないし9。都知事は,民設公園)
と敷地を一つにする区域における公開利用を要しない建築物(以下「非
公開建築物」という)につき,被告の定める「都市計画公園及び緑地。
に関する都市計画法第53条第1項の許可取扱基準(以下「本件許可」
取扱基準」という)に基づく53条許可を行う一方,民設公園事業者。
に対する指導監督,その他民設公園の適切な整備及び管理に必要な措置
等を行うこととし(同要綱3,事業施行契約を解除した場合には,民)
設公園事業の認定を取り消すとともに,都市計画法53条の許可条件に
違反するものとして,同法81条に基づく措置等適切な措置を講じるこ
ととする(同要綱14。)
(ウ)本件実施要綱は,民設公園事業の認定基準として,概要,民設公園
は,原則として,後記①の対象区域,②の整備基準及び③の管理基準を
満たし,かつ,不特定多数の都民に基本的に制約なく,都市公園の事業
化が図られるまでの長期にわたり(公開開始の日から起算して35年以
上,無償で公開されることが担保されるものである(ただし,早期に)
当該地における都市公園の事業化が図られる場合又は都知事が管理上支
,。)(),障があると認める場合はこの限りでないとした上同要綱4(2)
①対象区域に関して,10未満の都市計画公園及び都市計画緑地のha
区域内については,原則として,本件整備方針に位置付けられた優先整
備区域以外の区域にあり,かつ,国,都及び区市町が所有していない土
地のうち,地元区市町の民設公園事業の実施について要請があることな
どと定め(同要綱4(3),②整備基準として,(a)公開される公園的空)
間が,1以上であり,緑化をする面積割合,舗装面積,設置するこha
とのできる施設の種類等について実施細目に定める基準を満たし,良好
な風致及び緑地環境を有し,(b)建築物(非公開建築物を含む)に利。
用する土地が,原則として,当該民設公園事業を実施しようとする土地
(以下「事業対象土地」という)の3割未満であり,(c)建築物(非。
公開建築物を含む)が,周辺の市街地環境等に対して配慮した建築形。
態及び用途であり,(d)公開される公園的空間が,福祉のまちづくりの
推進に配慮したものであり,(e)公開される公園的空間が,避難場所と
して災害時に役立つ機能を有することなどを定め(同要綱4(4),③管)
理基準として,(a)民設公園の現地には,不特定多数の者に対する公開
を周知する標示が設置され,(b)民設公園の管理について,管理の基本
方針,管理運営体制,管理責任者の選定,公開時間,維持管理,防災対
応,譲渡時の管理の担保方法その他必要な事項について管理事業計画が
定められ,その実施が担保され,(c)上記(b)の維持管理に関しては,
民設公園区域内の施設及び植栽等について,常に良好な状態に維持管理
するために,管理体制,管理費用等について十分措置するとともに,業
務内容,年間管理スケジュール等について定められ,(d)上記(b)の公
開時間に関しては,原則として常時公開とし,民設公園又は非公開建築
物の管理に必要がある場合に例外的に夜間の閉鎖をすることができ,
(e)上記(b)の防災対応に関しては,上記(d)の閉鎖の時間内において
も非常時に避難として十分に機能するように,非常時の公開体制等につ
いて定められていることと定めている(同要綱4(5)。)
(エ)本件実施要綱は,民設公園事業者の要件として,①事業対象土地を
事業施行契約締結時に所有すること,②民設公園事業を健全かつ円滑に
実行できる能力,経済的資力及び信用が十分にあること,③民設公園事
,,業の実施に対し不正又は不誠実な行為をするおそれがないことを求め
民設公園事業の申請を行うためには,上記①ないし③の各要件を満たさ
なければならないものとするが,例外的に上記①の要件を単独で有する
者が,上記②及び③の要件を単独で有する者に対し,事業対象土地の譲
渡について契約を締結している場合には,上記両者の連名で申請するこ
とができるものと定めている(同要綱5,8(1)。)
(オ)民設公園事業者は,原則として,事業施行契約締結後速やかに,都
知事の認める機関に対し,35年以上の民設公園の管理に要する費用を
一括で納め(本件実施要綱6(1),非公開建築物を使用する前に,民設)
公園の管理責任者を選任し,管理責任者との間の契約内容等を確認でき
る書類等を都知事に提出して都知事の承認を受けた上,管理責任者と契
(),,約締結等を行わなければならず同要綱11(1)上記費用については
民設公園の管理の実績に合わせ,上記管理責任者に対し,都知事の承認
を受けた上で支払われるものとする(同要綱6(2)。そして,民設公園)
,,,事業の申請を行う者はこれに先立ち地元区市町の行政計画を遵守し
,,民設公園事業の計画について地元区市町の理解を得るため原則として
民設公園事業の計画案及び近隣説明会開催に関する標識の事業対象土地
への設置,近隣説明会の開催,地元調整結果を踏まえた対応計画書の作
成等の事前協議を行わなければならず,都知事は,上記事前協議の申請
を受け,申請に係る都市計画公園又は都市計画緑地における民設公園事
業について,地元区市町に対して説明及び意見照会を行う(同要綱8
(2)。)
(カ)民設公園事業者は,民設公園の施工に関して,事業施行契約に基づ
き,都知事による詳細設計に係る承諾,改善指導及び竣工検査,被告に
よる中間検査・立入検査等の指導,監督及び検査を受け(本件実施要綱
10,民設公園の管理に関して,都知事による年1回以上の現地確認)
及び必要に応じた改善指導等の指導,監督及び検査を受ける(同要綱1
3)とともに,民設公園事業者又はこれに代わる管理責任者は,被告に
対し民設公園の管理状況について1年ごとに報告しなければならない
(同要綱11(2))などの指導監督を受ける。
(キ)民設公園事業者は,民設公園事業に関する建築物(非公開建築物を
含む)又は事業対象土地の譲渡等をするときは,その譲渡等を受けよ。
うとする者(以下「譲受人等」という)に対し,民設公園の適切な事。
業を継続しなければならない旨を重要事項説明により明示し,民設公園
の管理に関する義務を継承するよう公正証書で契約を締結するととも
に,上記契約が担保されるように,民設公園の区域について,譲受人等
から物権等の権利の設定を受けなければならず,譲受人等が複数いる場
合についても,確実に民設公園の適切な管理の継続がされるように管理
責任者の選任及び契約等をしなければならず,また,譲受人等が,民設
公園事業に関する建築物(非公開建築物を含む)又は事業対象土地の。
譲渡等をするときは,その譲渡等を受けようとする者(以下「再譲受人
等」という)に対し,同様に,民設公園の適切な事業を継続しなけれ。
ばならない旨を重要事項説明により明示し,その義務を継承するよう公
正証書で契約を締結する等しなければならず,民設公園事業者は,譲受
人等又は再譲受人等が適切な管理の継続を怠る場合は,管理の継続に関
する契約について履行要求を行い,改善されない場合については,改善
のための措置を講じなければならない(本件実施要綱11(3)ないし
(5)。)
(ク)非公開建築物の建替えは認められないものとし,民設公園の公開開
始後35年を経過し,適切な管理の実施がされているにもかかわらず,
非公開建築物が老朽化等によりその存続が困難となったときは,民設公
園事業者は民設公園事業に関する建築物(非公開建築物を含む)の所。
有者(以下「事業対象不動産所有者」という)の要請(ただし,所有。
,)者が複数いる場合は要請に際して所有者の5分の4以上の合意が必要
に応じ,都知事に対し,当該事業対象土地につき,都市公園の事業化に
関する要請をすることができ,この要請を受けた都知事は,都市公園の
,,事業を実施すべき者に対し都市公園の事業化についての協議を行うが
この協議の結果,都市公園の事業化が困難であることが明確になった場
合には,事業対象不動産所有者は,新規の民設公園事業による非公開建
築物の建築をすることができ,この新規の民設公園事業の認定又は都市
()。公園等事業の着手により民設公園事業は完了する本件実施要綱15
イ被告は,本件実施要綱の施行と合わせて,平成18年6月1日,本件許
可取扱基準の改正を行い,都市計画公園及び都市計画緑地のうち将来都市
公園の設置を目的とするものの区域内に関して,同要綱に基づき,民設公
園事業者が都知事と民設公園事業の実施について契約した上で建築される
建築物については,53条許可をする旨の規定(同基準6(5),7(7))を
新設し,改正後の本件許可取扱基準を同日施行した。
(6)β公園区域に係る地区計画決定及び用途地域等の変更(甲17)
ア東村山市は,β公園区域及びその周辺に関して,平成19年4月6日付
け東村山市告示告示第97ないし99号により,東村山市γ地内の約4.
((.),。1別紙図面2の地区約21B−1地区及びB−2地区haAha
,「」。)以下同図面のB−1地区及びB−2地区を合わせてB地区ともいう
を地区計画区域とし,A地区を地区整備計画区域として「都市計画β地,
区地区計画」に係る地区計画の決定を行った(以下「本件地区計画決定」
という。その概要は,次のとおりである。。)
(ア)地区計画の目標
,,β公園区域内における戸建細分化の開発を防止し既成緑地の永続性
みどりのネットワーク上の拠点,誰もが利用できる公園的オープンスペ
ース,本地区における都市防災・災害対策の拠点及び歩行者ネットワー
クの形成を図ることを目標とする。このため,都市計画公園・緑地の整
備方針に基づく,東京都「民設公園制度」を活用することにより,民設
公園事業の事業効果の維持増進を図るとともに,周辺の環境と調和した
良好な住環境の形成を図る。
(イ)区域の整備・開発及び保全に関する方針
a土地利用の方針
地区をA地区とB地区の2地区に区分し,健全で合理的な土地利用
を図り,A地区については,民設公園として既成緑地及び公園的オー
プンスペースを活用して,都市公園に準じた機能を持ち公開性のある
コミュニティ空間の整備を図るとともに,公園環境及び周辺地域の住
環境と調和した中高層の集合住宅を計画的に配置し,B地区について
は,既設公園及び既成緑地を活用した都市公園の拡張整備を図り,地
域における住環境,防災性,コミュニティ性の向上を図る。
b建築物等の整備の方針
公園の環境及び周辺地域の住環境と調和した形態と配置で建築物が
整備されるよう,A地区において,適正な規制誘導を行う。建築物の
建て詰まりを避け,敷地の細分化を防止するため,建築物の敷地面積
の最低限度を定めるとともに,周辺市街地と調和した住環境の形成や
より良い街並み景観を創出するため,建築物等の用途の制限,建築物
の容積率,建ぺい率及び高さの最高限度等を定める。
(ウ)地区整備計画
建築物等の用途について,住宅,住宅で事務所,店舗その他これらに
類するもの等は建築してはならないとし,建築物の容積率の最高限度を
100%,建ぺい率の最高限度を30%,敷地面積の最低限度を1万㎡
(ただし,市町が公共公益上必要かつ良好な公園環境を害するおそれが
ないと認めたものについては,この限りでない,高さの最高限度を地。)
盤面から35以下とする等と定めた。m
イ被告は,平成19年4月6日付け東京都告示第○号により,別紙図面2
の1の部分につき,用途地域を第一種低層住居専用地域から第一種中高層
住居専用地域に変更し(その結果,同図面のA地区はすべて第一種中高層
住居専用地域となった,建築物の高さの限度10を撤廃するととも。)m
に,同図面のA地区につき,容積率を100%,建ぺい率を50%とする
ことなどを内容とする都市計画決定を行った(以下「本件用途地域等変更
決定」といい,これと本件地区計画決定と併せて「本件地区計画決定等」
ともいう。。)
(7)β公園区域内に係る民設公園事業の実施(甲1,9,10,乙14ない
し16)
アP2株式会社(以下「P2」という)は,別紙図面2のA地区の主要部。
分に当たりβ公園区域内に存する本件土地を所有し,テニスクラブを運営
していたが,P1との間で,平成18年9月ころ,本件実施要綱に基づき
本件土地について民設公園事業の認定を受けること等を条件に本件土地を
売り渡すとの合意をした。
イP2及びP1は,平成18年12月15日,都知事に対し,本件土地に
ついて民設公園事業の申請を行い,これを受けて,都知事は,平成19年
3月16日「東京都認定民設公園(仮称)β公園(東村山都市計画第3,
・3・1号β公園」の名称で民設公園事業の認定をし(以下「本件事業)
」。),,,認定という乙14被告は民設公園事業者となったP1との間で
同年6月29日「東京都認定民設公園事業第1号:仮称)β公園事業施,(
行契約」を締結した(以下「本件事業施行契約」という。乙15。)
,,,本件事業施行契約は(ア)P1は民設公園制度の趣旨を十分に理解し
誠意をもって事業を実施する(3条2項,(イ)この契約の存続期間は,)
この契約締結日から事業が完了するまでの間とし(4条,(ウ)施行の対)
象となる区域は,別紙図面1及び別紙図面3記載の本件土地のとおりであ
り本件土地約149のうち公開される公園的空間以下本,(.),(「ha
haha件民設公園というを約104とし非公開区域を約045」。).,.
とする5条(エ)P1は本件民設公園を公開しなければならない8(),,(
条,(オ)P1は,建築物を使用する前に民設公園の管理責任者を選定し)
て管理に係る契約を締結し,その契約書の写し等を被告に提出するととも
に,民設公園を適切に保つよう管理し,自ら又は管理責任者を通じて,被
告に対し1年ごとに民設公園の管理状況を報告する(11条,(カ)P1)
は,本件土地又は事業計画に位置付けられた非公開建築物(本件マンショ
ン)を譲渡し又は賃貸する場合には,譲受人等に対し,本件民設公園の管
理について本件事業施行契約に規定する義務を負う旨の重要事項説明を実
施し,譲受人等との間で,本件事業施行契約に規定する義務を継承する内
容の契約を締結するとともに,本件民設公園の区域について,譲受人等か
ら物権等の権利の設定を受けなければならず,譲受人等が本件土地又は事
業計画に位置付けられた非公開建築物(本件マンション)を譲渡し又は賃
貸しようとする場合には,確実に民設公園の適切な管理の継続がされるよ
うに必要な措置をとらなければならない(12条,(キ)P1は,この契)
約の締結後速やかに,本件事業認定により認定された管理資金計画に基づ
き本件民設公園の公開開始から35年以上相当分の管理費を一括納入する
(13条,(ク)被告は,適切な時期に,本件事業施行契約の履行を条件)
に,本件マンションについて53条許可をする(14条,(ケ)被告は,)
P1又は同社が選定した管理責任者からの本件民設公園の管理状況の報告
を受け,年1回以上の現地確認を行い,この現地確認に基づき,P1に対
し,改善を指導し,P1は,改善の指導を受けたときは,改善を実施し,
被告に対し,改善状況を報告する(15条,(コ)被告は,P1が都市計)
画法53条1項の許可条件に違反し,被告の指導にかかわらず改善が認め
,(),,られないときは同法81条に基づく措置を行う21条(サ)被告は
P1が,本件事業施行契約に違反したため契約の目的を達成することがで
きないと認められるとき,又は本件実施要綱に規定する民設公園事業者の
要件を欠くに至ったときは,同契約を解除することができる(22条)等
の約定をその内容としている。
(8)本件建築許可等(甲1,乙3の1・2,同16)
P1は,平成19年6月28日,都知事に対し,本件土地上に建築予定の
本件マンション(別紙建築物目録記載の建築物)に係る53条許可の申請を
し,都知事から権限の委任を受けた処分行政庁は,同年9月25日,別紙許
可条件のとおりの条件を付して,この建築を許可した(本件建築許可。)
本件マンションの敷地である本件土地は,別紙図面3のとおり,東側に南
北に延びる市道×号線(β通り。以下「東側道路」という)が隣接し,北。
側に東西に延びる道路(以下「北側道路」という)が隣接しており,本件。
土地の北東角で両道路が交差している。なお,東側道路は,β公園区域内を
通っている。
本件マンションの構造・形状は,別紙図面3のとおり,東棟,南棟及び北
棟の3棟から構成され,いずれも最高の高さが34.7(鉄筋コンクリm
ート造,地上11階建て。ただし,東棟には地下1階部分も存する)の共。
同住宅となる予定である。
本件マンションの配置は,別紙図面3のとおり,本件土地の南東側に位置
し,その北側外壁は,本件土地と北側道路との境界線から50m後退した位
置となり,その西側外壁は,本件土地と西側に隣接する土地との境界線から
55後退した位置となり,その南側外壁は,本件土地と南側に隣接するm
土地との境界線から6後退した位置となり,その東側外壁は,本件土地m
と東側道路との境界線から6m後退した位置となる予定である。
(9)地域防災計画(甲74の1,乙18)
東村山市防災会議は,災害対策基本法42条に基づき「東村山市地域防,
災計画」を作成し「広域避難場所(大地震時に発生する延焼火災やその他,」
の危険から避難者の生命を保護するために必要な面積を有する大規模公園,
緑地等のオープンスペース「避難所(地震等による家屋の倒壊,消失な),」
どで被害を受けた者又は現に被害を受けるおそれのある者を一時的に受け入
れ,保護するために解説する学校等の建物「避難道路(遠距離避難地域),」
又は火災による延焼の危険性がある地域について,避難者を安全,円滑に誘
導するため指定された都市計画道路等の幹線道路を指定するとともに一),「
時集合場所(避難に際しての混乱の発生を防止するために,避難場所へ避」
難する前に,近隣の避難者が一時的に集合して様子を見る場所又は避難者が
避難のために一時的に集団を形成する場所で,集合した人々の安全が確保さ
れるスペースを有する学校のグラウンド等)を指定しており(以下,広域避
,,「」。),難場所避難所避難道路及び一時集合場所を併せて避難場所ともいう
β公園開園部分は,現在,一時集合場所に指定されているが,本件土地は,
現在まで,避難場所に指定されていない。
(10)本件訴訟の提起及び訴えの変更(顕著な事実)
原告らは,平成19年9月20日,当裁判所に対し,都知事は,P1に対
し,本件マンションに係る53条許可の差止めを求める訴えを提起したが,
その後の同月25日,本件建築許可がされたため,同年12月20日の口頭
弁論期日において,訴えを交換的に変更し,本件建築許可の取消しを求める
に至った。
3争点
本件の争点は,以下のとおりである。
(1)本案前の争点
本件建築許可の取消訴訟の原告適格
(2)本案の争点
本件建築許可の適法性
4争点に関する当事者の主張の要旨
(1)争点(1)(本件建築許可の取消訴訟の原告適格)について
(原告らの主張の要旨)
ア都市計画法53条1項は,都市計画施設の区域内における建築物の建築
を許可にかからしめることによって,都市計画に従った土地の利用と将来
の整備事業の円滑な進行を確保することを目的としているが,都市計画法
の関係法令である都市公園法は,都市計画施設である公園で地方公共団体
が設置するものを「都市公園」の一つとして定め(2条1項1号,同法)
施行令は,主として近隣に居住する者の利用に供することを目的とする都
市公園を近隣公園と位置付け(以下,当該公園を「近隣公園」という,。)
その配置の基準について,近隣に居住する者が容易に利用することができ
るように配置することを掲げるとともに(2条1項2号,その設置に当)
たっては「防火,避難等災害の防止に資するよう配慮する」ことを定め,
(同項柱書,また,国土交通省都市計画運用指針(甲19)は,近隣公)
園につき,面積2を標準として計画し,誘致距離500を基準とham
して配置することが望ましいとしている。このような都市計画法及びその
関係法令である都市公園法等の規定にかんがみれば,都市計画公園は,当
該都市における防災拠点,避難場所として整備することが予定されている
のであって,特に,都市計画施設が近隣公園である場合には,53条許可
に係る建物が建築される結果,当該区域全体を災害時の避難場所として有
効に利用することができなくなることによって,生命・身体の安全に係る
被害を受けるおそれのある当該区域の周辺住民に対し,そのような被害を
受けないという利益を個々人の具体的利益としても保護すべきものとする
趣旨を含むというべきで,この利益は,その性質・程度に照らし,一般的
公益の中に吸収させることはできない。
したがって,本件原計画決定により近隣公園と定められたβ公園区域の
隣接地に居住してこのような被害を受ける原告らは,本件建築許可の取消
しを求める原告適格を有する。
イ都市計画法は,都市の健全な発展と秩序ある整備を図り,もって国土の
均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的とし(1条,都)
市計画の基本理念の一つとして,健康で文化的な都市生活を確保すべきこ
とを定めており(2条,都市計画の基準に関して,都市計画は,土地利)
用,都市施設の整備等に関する事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整
備を図るため必要なものを,一体的かつ総合的に定めなければならないと
する(13条1項柱書)ほか,53条許可に関する必要的許可基準につき
定める54条2号ただし書において,都市施設を整備する立体的な範囲が
定められている区域における建築物の建築につき,当該立体的な範囲が道
路である場合には,当該建築が「安全上,防火上及び衛生上」支障のない
ものである場合に限るとするなどしており,これらの規定を整合的に考慮
すれば,同法53条1項も,建築許可による周辺地域に与える重大な被害
の発生の防止及び健全な都市環境の確保,良好な生活環境の保全を趣旨・
目的としているものと解される。このことに加えて,関係法令である建築
基準法が,周辺の住民など国民の生命,健康及び財産の保護などを目的と
した上(1条,都市計画法に基づき定められた地域地区内における建築)
物その他の工作物に関する制限については,この法律に特に定めるものの
ほか,別に法律で定める(10条)とされているのを受けて,都市計画区
域等における建築物の敷地,構造,建築設備及び用途について詳細に規定
し(第3章,これら規定の中には,日影規制(56条の2)のように,)
用途地域ごとに,当該土地における建築物が敷地境界線からの距離に応じ
ていかなる影響を与えるかを考慮した規制が含まれていることからする
と,周辺住民の個別的利益を保護する趣旨を含む建築基準法の趣旨は,建
築物の建築を許容するという点で共通性を有する53条許可にも及ぶ。ま
た,関係法令である都市公園法は,当該都市計画施設が近隣公園である場
合には,事業の開始までの間都市計画区域内の建築物の建築を制限するこ
,,,,とにより前記のとおりの災害時の安全の確保のほか日照居住の安全
良好な景観の恵沢の確保等,周辺住民の健康,安全や財産を個々人の個別
的利益として保護しつつ土地利用がされるべきであるとの趣旨を含むので
,,,あり都市計画施設が近隣公園である場合には都市計画法53条1項も
同様の利益を個々人の個別的利益として保護していると解される。また,
本件実施要綱8(2)は,民設公園事業者に対し,民設公園事業の申請に先
立って,近隣住民との事前協議を義務付けているが,その趣旨は,非公開
建築物の建築による周辺住民の生活環境に対する影響もこの事前協議の対
象に当然含まれていると考えられることからすると,周辺住民の生活環境
上の被害等の個別具体的な利益を保護するためにほかならないと解され
る。
以上のような都市計画法の全体,その他の関係法令及び本件実施要綱を
総合的に考慮すると,都市計画法53条1項は,当該許可に基づき建築さ
れる建築物による日影被害,大量の車両による騒音,振動,大気汚染等の
健康あるいは生活環境の悪化,居住上の危険,特に災害時の建築物倒壊等
による生命,身体又は財産上の被害,良好な景観の喪失,将来の都市計画
事業の施行時における用地買収費用の住民負担の飛躍的増大といった被害
や損失を受けないという利益を,公益には吸収されない個々人の個別的利
益としても保護すべきものとする趣旨を含むことが明らかである。
都市計画法59条による都市計画事業の認可の取消訴訟に関して事業地
の周辺住民の原告適格を認めた最高裁平成16年(行ヒ)第114号同1
7年12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁は,同条に限定
せず,都市計画法全般に関して,建築許可,開発許可等により,当該地の
周辺の建物に対する利便及び環境に影響を受ける住民に対し,健康又は生
活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を認めたものと解さ
れ,上記の解釈とも整合する。
したがって,本件土地と幅員6ないし7の道路を隔てて隣接する自m
己所有地に居住している原告らについては,本件建築許可により建築され
る本件マンションによる日照阻害や本件マンションの居住者が乗用する大
量の自動車の通行によって,騒音,振動,排気ガスによる大気汚染等の深
刻な影響を受けることは明らかである以上,本件建築許可の取消しを求め
る原告適格を有する。
(被告の主張の要旨)
ア53条許可は,許可の相手方以外の第三者,例えば都市計画施設の区域
の至近地点に自宅土地建物を所有し,居住している者の所有権その他の権
利や利益を直接侵害したり,そうした権利や利益の制約について何らかの
受忍義務を課するものでなく,都市計画法の他の規定及び関連法令を参酌
しても,当該都市計画施設の周辺住民の個別具体的な権利や利益を保護す
る趣旨を含むものとはいえない。
民設公園そのものは,地方公共団体又は国が設置者ではないので,都市
公園法所定の「都市公園」には該当せず,同法の直接適用はなく,同法及
び同法施行令は,都市計画法53条1項に係る関係法令に該当しない上,
都市公園法施行令2条1項柱書も「防火,避難等災害の防止に資するよ,
う考慮する」という一般的・抽象的な指針を示すにとどまり,周辺住民の
個別具体的な利益を保護しているとまではいえない。
イ原告らが被侵害利益として主張する交通事故,道路渋滞,排気ガスの充
満,震災による被害,日照阻害,景観や通風の喪失,将来の都市計画事業
の施行時における用地買収費用の住民負担の増大等は,いずれも53条許
可により直接的に受けるおそれのある危険とはいえず,53条許可を取り
消す法律上の利益を基礎付けるものとはならない。建築基準法は,都市計
画法53条1項の関係法令には当たらず,本件実施要綱8(2)に規定する
事前協議の趣旨も,民設公園事業の計画について地元区市町の理解を得る
というものであって,都市計画施設の区域の周辺住民の個別具体的な権利
や利益の保護を目的としたものではないし,そもそも,事前協議手続は,
民設公園事業の実施に係る手続であって,都市計画法53条1項の許可に
係る手続ではない。
ウしたがって,原告らは,本件建築許可の取消しを求める法律上の利益を
有しない。
(2)争点(2)(本件建築許可の適法性)について
(原告らの主張の要旨)
ア本件建築許可は,都道府県知事(都道府県知事から委任を受けた者を含
。。),む以下同じが行使し得る裁量権の範囲を逸脱し又は濫用するもので
違法である。
(ア)都市計画法53条は,都市計画施設の区域内における建築物の建築
を許可にかからしめているが,これは,都市計画に従った合理的な土地
の利用を図り,かつ,都市計画の円滑な実施の妨げになる建築物の建築
を許さないためであり,このような観点から,同条ただし書及び同法5
4条は,都市計画に適合する場合又は都市計画に適合しないが都市計画
の適切な遂行の妨げにならない場合に限って,53条許可を不要とし又
は許可をしなければならないとしているのであって,このことにかんが
,,,みると53条許可は都道府県知事の自由裁量に属するものではなく
都市計画の適切な遂行と実効性の担保の観点から行使されなければなら
ない。
(イ)本件マンションは,鉄筋コンクリート造の11階建て,高さ約35
,総戸数180戸超という大規模な建築物であり,その底地が本件土m
地の3割もの部分を占めるものであって,その規模や構造という物理的
観点から見て,将来の都市計画公園事業の施行時に容易に移転し又は除
去し得るものとは到底いえない上,本件土地の権利関係は,本件マンシ
ョンが分譲販売された後には,P1による単独所有から180戸超のマ
ンションの区分所有者による共有という複雑な形態へと変質し,それだ
け用地買収交渉等にも労力を要するにもかかわらず,P1は,本件マン
ションの購入予定者に対し,本件土地が都市計画区域内にあり近隣公園
として都市公園事業の施行が予定されていることをほとんど説明してお
らず,被告もP1に対し購入者への都市計画に関する説明につき有効な
指導を行っていないことも考慮すると,本件マンションの建築が,費用
的にも時間的にも,将来の本件原計画決定の事業の円滑な施行の確保の
妨げとなることは明らかである。そして,都市計画施設の区域内に本件
マンションのような本件原計画決定に適合せずその施行の支障となるよ
うな高層マンションを建築するのであれば,本来,その区域を見直す本
件原計画決定の変更を所要の適正な手続を経て行うべきであるのに,本
件原計画決定を維持したまま本件建築許可を行うのは,都市計画手続を
とることなく本件原計画決定を実質的に廃止するに等しく,行政処分に
不可欠な公正な手続を潜脱するもので違法である。
また,本件民設公園は,公園的空間と称されるものの,公開されたか
らといって基本的には本件マンションの分譲を受けた者らの私有地であ
り,その南側及び東側から本件マンションの日影と圧迫を受けるもので
あって,およそ都市公園法の予定する近隣公園とは程遠い上,本件マン
,,ションの居住者が相当多数に及ぶこと現実に大災害が生じた場合には
本件マンションの居住者らが,自らの避難場所の確保を優先して本件民
設公園への一般出入口を封鎖する可能性があること,大地震の際には本
件マンションが倒壊する可能性もあること等からすると,本件民設公園
,,が災害時に避難場所として有効に機能するか疑問があるし東村山市は
現在,防災計画上も本件民設公園を避難場所として明確に位置付けてい
ないのみならず,本件民設公園に関する避難場所指定の手続の内容と具
体的スケジュール等について何ら明らかにしていないことからも,将来
的に本件民設公園を一時避難場所として指定するか甚だ疑わしく,防災
拠点・避難場所としても公園としてもほとんど評価し得ない。
さらに,処分行政庁は,本件マンションの建築が本件原計画決定の実
施に対していかなる社会的影響・経済的影響を生ずるのかについて,合
理的な調査に基づく評価を行っておらず,本件建築許可は合理的な基礎
を欠く。
また,53条許可の許否を決するに当たっては,その根拠となる法令
の目的・趣旨に反してはならないところ,(a)昭和47年7月26日付
け建設省都計発第13号建設省都市局長回答において,53条許可を行
うに当たっては,都市計画法54条の許可基準に該当しない建築物の建
築は,事業の施行に著しい支障となると考えられるので,原則として不
許可とすべきであるとされ,また,(b)国土交通省の「都市計画運用指
針」甲19,乙20においても,公園等の公共空地は長期的な視点で()
必要な水準を確保すべく都市計画決定されている趣旨から高い継続性・
,,安定性が要請されていることにかんがみ区域の一部の変更であっても
その見直しの必要性は慎重に検討することが望ましいとされているとこ
ろ,本件建築許可は,上記回答及び運用指針において明らかにされてい
る都市計画法53条及び54条の趣旨・目的等に反するものである。
したがって,本件建築許可は,都市計画法53条1項の趣旨・目的に
反し,裁量権を逸脱し又は濫用したもので,違法である。
(ウ)本件建築許可がされた結果,P1は,本件マンションの建築を行う
こととなるが,その建築によって次のとおりの重大な被害が発生するこ
とから,このような処分は,都市計画法53条1項に反する違法なもの
というべきである。
a本件マンションに係る建築工事の着工により,建築工事関係車両の
走行に伴う騒音,振動,排気ガス等の発生や交通量の増大に伴う渋滞
が発生し交通事故発生の危険も生ずるほか,建築工事の途中で大規模
な震災が生じれば,建築資材,建物の一部等が周辺に飛散し,原告ら
を含む近隣住民に人的・物的な損害を生じさせる。
b本件マンションの居住者が乗用する大量の自動車の通行による道路
の渋滞,排気ガスの充満等により,良好な都市環境が阻害され,近隣
住民に多大な生活被害をもたらす。
c本件マンションの完成後に大規模な震災があれば,本件マンション
の倒壊による瓦礫の飛散,本件土地周辺の樹木の倒木により,原告ら
を含む近隣住民に人的・物的な損害を生じさせる。
d本件マンションが完成すると,原告らは,その自宅における日照に
つき,冬至日において午後2時過ぎから日没まで日影被害を受ける。
e原告らは,一部整備済みのβ公園や本件土地の南側に東西に延びる
並木道である「δ湖自転車道」等の良好な景観要素によって形成され
る武蔵野の景観の恵沢を享受してきたが,本件マンションが完成する
と,原告らはその自宅の南方におけるこれらの良好な景観と通風を失
うことになる。
f本件建築許可の前提となった都市計画の変更等により周辺の地価が
高騰していること,本件マンションが多数の者に分譲されることから
すると,将来,東村山市がβ公園区域において都市計画公園の整備事
業を実施するためには,土地の買収費用や本件マンション取壊費用な
ど膨大な財政上の出費を余儀なくされることになり,本件建築許可が
されなかった場合と比較して,原告ら東村山市民の経済的負担も増大
する。
,,,(エ)したがって本件建築許可は裁量権を逸脱し又は濫用したもので
違法である。
イ民設公園制度自体及び本件事業認定が,重大な欠陥を有し違法であり,
これを前提としてされた本件地区計画決定等も違法である以上,本件建築
許可は,著しく不合理であり,違法である。
(ア)民設公園制度を定めた本件実施要綱は,既存の地権者に代わり,新
たに多数の分譲マンションの区分所有者や入居者等の利害関係人を創出
することを予定しているが,マンションの区分所有者等の多数の利害関
係人に対して都市計画事業について積極的な負担と協力を求める方策を
定めていないのみならず,都市公園事業の事業主体たる東村山市及び民
設公園制度の認可庁である被告においても,将来における都市計画公園
区域全体にわたる公園事業を積極的に推進しようとする動機付けも姿勢
も全く見受けられず,公園事業推進のための具体的方策が何ら予定され
ていない。民設公園事業に関する建築物及び事業対象土地を民設公園事
業者から購入した者は,事業対象土地が都市計画制限の対象地であるこ
とについて十分に理解して購入した者ではないことから,本件原計画決
定の実施主体となる東村山市が将来都市計画公園の用地として買収する
について重大な障害に遭遇することは明らかである。
このような本件実施要綱に基づき建設される公園的空間をその敷地と
した高層マンションは,その存在自体が,将来における都市計画公園事
業の実施をほぼ確実に不可能とするものであるから,本件実施要綱及び
これに基づく民設公園制度は,著しく不合理で違法であることが明らか
であって,民設公園制度が違法である以上,同制度の制定に伴い改訂さ
(,),れた本件許可取扱基準の改定部分同基準6(5)7(7)も違法であり
専ら民設公園制度を適用することを前提とした本件地区計画決定等も,
同制度の違法を承継し,違法である。
したがって,違法な本件実施要綱及び民設公園制度,本件許可取扱基
準並びに本件地区計画決定等を前提としてされた本件建築許可は,本件
原計画決定に従った合理的な土地利用とはいえないのみならず,将来の
公園整備事業の円滑な施行にとって重大な障害がないと判断した点にお
いて,経験則に違反し,著しく不合理であり,裁量権を逸脱し又は濫用
したもので,違法である。
(イ)本件事業認定は,(a)β公園区域内に大規模マンションが屹立する
ことを認めるもので,将来の都市計画公園の整備にとって重大な障害と
なるものであるから,都市計画法3条1項に違反して違法であり,(b)
本件土地上に戸建て住宅が建築されることを前提に,建ぺい率・容積率
の制限,分割最小宅地面積の制限,緑化義務の負担等を課するなど,集
合住宅の建築を認める本件事業認定よりも合理的な手段もあるから,都
市計画実現のための手段としての合理性がなく違法であり,(c)大規模
高層マンションの建築により,都市計画により長い年月をかけて形成さ
れた低層住宅中心の地域の街並みや良好な景観が破壊される一方,本件
民設公園は,震災時には本件マンションの多数の居住者が本件民設公園
に避難することが予想されるので,地域住民が避難場所として十分に機
能するとは想定し難く,被告の主張するオープンスペースの確保という
本件事業認定が生み出す価値は,それによって失われる価値を上回るも
のではないから違法である。
(ウ)本件地区計画決定等は,(a)都市計画決定の変更等に先立って行わ
れるべき調査審議の過程に重大な瑕疵があり,かつ,β公園区域内にお
ける民設公園制度の適用が著しく不合理な内容であり違法である以上,
違法であり,(b)β公園区域及びその周辺の土地利用,交通量等の現況
及び将来の見通し等について基礎調査(都市計画法6条1項)を行うこ
となく決定されたものであるから,同法13条1項11号及び同項19
号(平成20年法律第20号による改正前の同項18号に相当)に反し
違法であり,(c)民設公園制度を利用して本件土地上に建築された総戸
数180戸超で堅個な基礎が設置された大規模マンションにつき,買収
及び解体撤去を行うには,時間的にも費用面でも多大な困難を生じ,本
件原計画決定に係る事業実施の支障の程度が著しく高くなることは明ら
かであるにもかかわらず,事業費に関し,本件土地が低層用住宅用地と
して開発され戸建細分化された場合との比較衝量を行わなかった点にお
いて,重大な瑕疵があり,違法であり,(d)本件実施要綱4(3)におい
て,本件土地のように10未満の土地を事業対象土地とするには,ha
地元区市町の民設公園事業の実施について要請があることを要件として
いることからすると,被告は住民の意見を実質的にくみ取る必要がある
ところ,東村山市が「公園ができる」との虚偽の内容を強調したため民
設公園事業につき誤解した一部近隣住民が民設公園制度活用の要請書を
提出したにすぎないのに,本件事業認定は,住民の意見を十分くみ取ら
ないままされたもので,実質上,上記要件を欠く違法なものであり,同
認定を前提とした本件地区計画決定等は,適正手続の要請に反し,違法
である。
(被告の主張の要旨)
ア本件建築許可は,都道府県知事が行使し得る裁量権の範囲を逸脱し又は
濫用するものではなく,適法である。
(ア)53条許可の許否は,都道府県知事が,都市計画事業の円滑な施行
の確保という見地から,事業の施行の見通し,社会経済情勢,技術の発
展,地域の実情その他を考慮の上判断するものであって,専門技術的な
裁量に委ねられている。
(イ)民設公園事業は,都市計画決定(公園・緑地)がされたまま未整備
となっている区域のうち,本件整備方針に位置付けられた優先整備区域
以外の区域について,早期に公園的空間を実現するとともに,民間企業
所有のグラウンド等の安定したオープンスペースが売却されて戸建て細
分化されることで消失される事態となることを防ぎ,将来の都市計画事
業への支障の除去を目指した制度であって,合理性があり,本件土地に
ついても,本件整備方針において,10年以内に優先的に整備に着手す
る予定の優先整備区域に含まれていないことから,この目的に沿う民設
公園事業として本件事業認定を受けている。
都内には約2600にも及ぶ都市計画公園の未整備区域が存在すha
,,,るが未整備区域を公園化するに当たっては財政的な限界があるため
優先順位を定め,中長期的に取り組まざるを得ず,平成18年3月に都
区市町合同で本件整備方針を策定し,10年間の道筋を示したところで
あるが,都区市町が全力で取り組むとしても,10年間で未整備区域の
17%余に着手できるにすぎず,公的な整備は相当長期にわたることが
必定である。一方,未整備区域に存する約500にも及ぶ民間企業ha
所有のグラウンド等は,規模が大きく高額資産となるため,公的な買収
はほとんどできず,むしろ近年は,福利更生施設であることから企業に
よる資産処分がされる傾向にあり,放置すれば貴重なオープンスペース
が消失する運命にある。そこで,民間資金を活用した民設公園制度を導
入して,オープンスペースを確保することには合理性がある。
民設公園制度に基づき本件マンションを建築した場合,本件土地の7
割の部分について,引き続き公園的空間としてオープンスペースが確保
されるとともに,公開された7割の公園的空間は,都市計画公園事業に
伴う買収交渉の間もオープンスペースとして確保される。他方,本件土
地全体に戸建て住宅が建築されてしまった場合には,本件土地に関して
都市計画公園事業を実施する場合,一部の土地建物所有者の賛同を得た
としても,虫食い的な買収になり,公園整備に長期間を要する結果とな
ることが予測される。
また,一般的に都市計画事業を実施する場合には,土地建物の買収費
用,建物の除去費用,用地買収に至るまでの渉外等の労力費用,公園の
構築費用等が必要となるが,①建物の除去費用については,その規模,
構造等によって左右され一律に解することはできないものの,民設公園
制度によった場合,建築物や地下に埋設されている下水,電気等の設備
を撤去する部分が3割の範囲に集中していること,②戸建建物の用地買
収交渉については,都市計画に協力を得られるとは限らず,長期化も免
れないが,民設公園制度では,民設公園事業者に対して,非公開建築物
の分譲を受ける者との間で,都市計画事業への協力を前提に売買を行う
よう指導することができ,事業化への手続を明確にすることができる,
③事業対象土地の7割となる民設公園部分については,公園の構築費用
を要することなく都市公園化することが可能である等の利点がある。
さらに,東村山市の地域防災計画では,発災すれば住居等近辺の学校
,(.や公園に一時的に避難する仕組みになっておりβ公園開園部分約0
66)は,避難の一時集合場所として位置付けられているが,本件ha
民設公園(約1)も一時集合場所として指定される予定であり,避ha
難場所の拡充の点からも大きな利点がある。
被告は,P1に対し,モデルルーム来場者等に対しては,民設公園制
度及び将来の都市計画事業について,パンフレット等を用意して具体的
に説明をすること,本件マンションの分譲を受ける者との間の契約に際
しては,本件土地は都市計画公園区域内にあること,購入者において将
来の都市計画事業の施行に際しては用地取得等に対し積極的に応じるべ
きこと等を明確にするとともに,その内容につき,公正証書化し,重要
事項としても説明を実施することなどを指導し,パンフレットの内容,
重要事項説明書等の記載内容については,事前協議を行うなどして,本
件マンションの分譲を受ける者に本件民設公園の公開及び管理並びに将
来の都市計画事業への協力の意識が効果的に定着するよう指導を行うの
で,本件マンションが分譲されたとしても都市公園事業に支障を来さな
い。
(ウ)原告らが被侵害利益として主張する交通事故,道路渋滞,排気ガス
の充満,震災による被害,日照阻害,景観・通風の喪失,将来の都市計
,,画事業の施行時における用地買収費用の住民負担の増大等はいずれも
53条許可により直接的に受けるおそれのある危険とはいえず,本件建
築許可の違法性を裏付ける根拠となり得ない。
イ原告らは,民設公園制度自体及び本件事業認定が,重大な欠陥を有し違
,,法でありこれを前提としてされた本件地区計画決定等も違法である以上
本件建築許可は,著しく不合理であり違法であると主張するが,本件実施
要綱に基づく事業認定及び本件地区計画決定等は,いずれも適法なもので
あるとともに,これらは,53条許可とは別個の手続であるから,原告ら
の主張は失当である。
第3争点に対する判断
1争点(1)(本件建築許可の取消訴訟の原告適格)について
(1)行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条
1項にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」と
は,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,
又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた
行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消さ
せるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護す
べきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もここにい
う法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵害され又は必然
的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟における原告適格を
有するものというべきである(最高裁平成16年行ヒ第114号同17年()
12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁参照。そして,当該)
処分の相手方以外の者について上記の法律上保護された利益の有無を判断す
るに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによることな
く,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の
内容及び性質を考慮し,この場合において,当該法令の趣旨及び目的を考慮
するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその
,,趣旨及び目的をも参酌し当該利益の内容及び性質を考慮するに当たっては
当該処分がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる
利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきもの
である(同条2項参照。)
(2)上記(1)の観点から,本件建築許可の相手方以外の者である原告らが,本
件建築許可の取消しを求める原告適格を有するか否かについて検討する。
ア(ア)都市計画法53条1項は,公園を含む都市計画施設の区域内におい
,()て建築物の建築をしようとする者は都道府県知事の許可53条許可
を受けなければならないと定めているが(前記第2の1(3)のとおり,
東村山市においては,53条許可に係る事務は,都知事から東京都多摩
建築指導事務所長に委任されている,これは,建築物の建築は原則と。)
して建築基準法による規制のみを受けるものであるが,それが都市計画
施設の区域内に建築されるものである場合には,これを同法による規制
のみにゆだねていたのでは,将来の都市計画施設の整備に関する事業の
施行に際し,当該建築物の除去が困難であったり,莫大な補償の必要が
生じたりして,上記の都市計画事業(同法4条15項)の円滑な施行に
支障を来すことが考えられるので,これを未然に防止し,もって,都市
計画事業の円滑な施行を確保することを目的としたものであると解され
る。
さらに都市計画に関する都市計画法の規定をみると,同法は,①都市
の健全な発展と秩序ある整備を図り,もって国土の均衡ある発展と公共
の福祉の増進に寄与することを目的とし(1条,都市計画の基本理念)
の1つとして,健康で文化的な都市生活を確保すべきことを定めており
(2条,②都市計画施設の区域内における建築物の建築が,都市計画)
施設に関する都市計画のうち建築物について定めるものに適合するもの
であることを,53条許可の必要的許可事由の一つとして掲げ(54条
1号,③都市計画区域については,(a)地区計画は,公園等の公共施)
設(4条14項)の整備,建築物の建築その他の土地利用の現状及び将
来の見通しを勘案し,当該区域の各街区における防災,安全,衛生等に
関する機能が確保され,かつ,その良好な環境の形成又は保持のためそ
の区域の特性に応じて合理的な土地利用が行われることを目途として,
当該計画に従って秩序ある開発行為,建築又は施設の整備が行われるこ
(),,ととなるように定めるものとし13条1項14号(b)都市計画に
密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律32条1項の規
定による防災街区整備地区計画で必要なものを定めるものとし(12条
の4第1項2号,防災街区整備地区計画については,当該区域の各街)
区が火事又は地震が発生した場合の延焼防止及び避難上確保されるべき
機能を備えるとともに,土地の合理的かつ健全な利用が図られることを
目途として,一体的かつ総合的な市街地の整備が行われることとなるよ
うに定めるものとする(13条1項15号)など,都市計画の策定等の
際に,防災,避難等に配慮すべきことを定めた規定を置いている。
(イ)そして,<A>都市公園法は,(a)都市公園の設置及び管理に関する
基準等を定めて,都市公園の健全な発達を図り,もって公共の福祉の増
進に資することを目的とし(1条,(b)地方公共団体が都市計画法4)
条6項に規定する都市計画施設である公園若しくは緑地又は同条2項に
規定する都市計画区域内において公園若しくは緑地(都市公園)を設置
する場合には,政令で定める都市公園の配置及び規模に関する技術的基
準に適合するように行うものとし(2条1項1号,3条1項,<B>こ)
れを受けた都市公園法施行令は,地方公共団体が近隣公園等を設置する
場合においては,それぞれその特質に応じて当該市町村又は都道府県に
おける都市公園の分布の均衡を図り,かつ,防火,避難等災害の防止に
資するよう考慮するほか,近隣公園については,近隣に居住する者が容
易に利用することができるように配置し,その敷地面積は,2を標ha
準として定めることとしている(2条1項。)
このように,53条許可の根拠法規である都市計画法53条1項と目
的を共通にする関係法令と解される都市公園法及び同法施行令の上記の
各規定においては,都市計画施設である公園(都市公園)等の設置の際
に,防火,避難等災害の防止に資するように配慮することも,その趣旨
に含まれるものということができる。
,,(「」。)(ウ)さらに東京都条例として地震による災害以下震災という
)に関する予防,応急及び復興に係る対策(以下「震災対策」という。
に関し,都民,事業者及び東京都の責務を明らかにし,必要な体制を確
立するとともに,予防,応急及び復興に関する施策の基本的な事項を定
めることにより,震災対策を総合的かつ計画的に推進し,もって現在及
び将来の都民の生命,身体及び財産を震災から保護することを目的とし
て,東京都震災対策条例(平成12年東京都条例第202号。以下「都
条例」という)が制定されている(上記目的は同条例1条参照。都条。)
例は,都知事は,震災対策のあらゆる施策を通じて,都民の生命,身体
及び財産を震災から保護し,その安全を確保するとともに,震災後の都
民生活の再建及び安定並びに都市の復興を図るため,最大の努力を払わ
なければならず(2条1項,震災対策事業の円滑な実施を図るため,)
関係する特別区及び市町村以下「区市町村」という。との連絡調整並()
びに区市町村が実施する震災対策事業に対する支援及び協力を行わなけ
ればならない(6条1項)等の責務を負うものとした上,都知事は,震
災を予防し,震災が発生した場合における被害の拡大を防ぐため,建築
物及び都市施設(都市計画法11条1項各号に掲げる公園等の施設)等
について耐震性及び耐火性を確保する措置その他都市構造の改善に関す
る措置を推進するため,同措置に関する計画を策定し,区市町村と連繋
を図りつつ協力してその計画に基づく事業の推進に努めるとともに(1
3条1項,3項,公園等の都市施設等の耐震性及び耐火性の確保に努)
め(14条,その管理する道路,公園等の公共施設及びこれらに附属)
,,する施設の耐震性及び耐火性を強化するとともに定期的に検査を行い
それらの安全の確保に努め(18条1項,地震による火災の拡大を防)
止するため,区市町村と連携を図りつつ,協力して延焼遮断帯(火災の
拡大を防止する目的で設けられる道路,河川,鉄道,公園等の都市施設
及びこれらと近接する不燃化された建築物等により構成される不燃空
間)の整備に努めなければならないとしている(29条。)
また,都条例は,都知事は,震災時に拡大する火災から都民を安全に
保護するため,広域的な避難を確保する見地から必要な避難場所をあら
かじめ指定しなければならず(47条1項本文,広域的な避難を確保)
する見地から震災時に都民が避難場所に安全に避難するため必要な避難
道路をあらかじめ指定しなければならず(48条,避難場所及び避難)
道路の周辺に存する建築物その他の工作物の不燃化の促進に努めなけれ
ばならないとしている(49条。)
このように,都条例の上記の各規定においては,公園等の都市施設が
震災の予防又は震災の発生に伴う被害の拡大の防止のための重要な拠点
・空間と位置付けられた上で,公園を含む都市計画施設の整備・設置に
係る都市計画の策定に際しては,防災拠点・避難場所としての公園等の
,。確保拡充等に配慮することが求められているものということができる
(エ)前記(ア)の都市計画法の規定の趣旨に加えて,前記(イ)の都市公園
法及び同法施行令の各規定の趣旨をも参酌し,併せて,前記(ウ)の都条
例の各規定において公園を含む都市計画施設の整備・設置に係る都市計
画の策定に際して防災拠点・避難場所としての公園等の確保,拡充等に
配慮することが求められていることをも斟酌すると,都市計画法53条
1項の規定においては,都内の公園である都市計画施設の区域内におけ
,()る建築物の建築に係る53条許可に関しては当該都市計画施設公園
に係る防災,避難等に関する機能が確保された都市計画事業の円滑な施
行が阻害されることを防止することも,その趣旨に含まれるものと解す
るのが相当である。
イそして,当該都市計画施設(都内の公園)の区域内において,都市計画
法又はその関係法令に違反して違法な53条許可がされ,これにより当該
都市計画施設に係る防災,避難等に関する機能が確保された都市計画事業
の円滑な施行が阻害された場合,上記機能を備えた都市計画施設が整備さ
れていないことから,災害が発生した場合に災害時に拡大する火災等によ
って生命又は身体に著しい被害を直接的に受けるのは,当該都市計画施設
の区域の周辺の一定範囲の地域に居住する住民に限られ,しかも,このお
それは,当該事業の目的の実現が遅滞することにより増大することは明ら
かである。したがって,53条許可に関する都市計画法53条1項の規定
は,その趣旨及び目的並びに関係法令の趣旨及び目的にかんがみれば,当
該都市計画施設の区域の周辺の一定範囲の地域に居住する住民に対し,当
該都市計画施設に係る防災,避難等に関する機能が確保された都市計画事
業の円滑な施行が阻害されることを防止し,もって,災害時に拡大する火
災等によって生命又は身体に著しい被害を受けることを免れるという具体
的利益を保護すべきものとする趣旨を含むと解されるところ,上記のよう
な被害の内容,性質,程度等に照らせば,この具体的利益は,一般的公益
の中に吸収解消させることが困難なものというべきである。
ウ以上のような53条許可に関する都市計画法53条1項の規定の趣旨及
び目的,関係法令の趣旨及び目的,同項の規定が53条許可の制度を通じ
て保護しようとしている利益の内容及び性質等を考慮すれば,都市計画法
53条1項の規定は,都市の健全な発展と秩序ある整備を図るなどの公益
的見地から都市計画事業の円滑な施行の確保を図るとともに,当該都市計
画施設に係る防災,避難等に関する機能が確保された都市計画事業の円滑
な施行が阻害されることによって,災害時に拡大する火災等によって生命
又は身体に著しい被害を受けるおそれのある個々の住民に対し,そのよう
な被害を免れる利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする
趣旨を含むと解するのが相当である。したがって,当該都市計画施設の区
域の周辺に居住する住民のうち,当該都市計画施設に係る53条許可の結
果生ずる都市計画事業の支障及び遅滞により,災害時に拡大する火災等に
よって生命又は身体に著しい被害を受けるおそれのある者,すなわち,都
内の公園である当該都市計画施設につき都市計画事業が施行されて都市公
園になったときは当該公園を避難場所として利用する蓋然性が客観的に高
いと認められる者は,その利用により上記被害を免れる利益をもって,当
該都市計画施設に係る53条許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を
有する者として,その取消訴訟における原告適格を有するものと解するの
が相当である。
エそこで,本件の原告らについて検討するに,原告らは,本件土地の北東
端から約10の範囲内に居住している(前提事実(1))ところ,甲74m
の1によれば,東村山市地域防災計画で指定された避難場所のうちその居
住場所から最も近いものは,約100以上離れたβ公園開園部分であm
って,本件土地につき都市計画事業が施行されて都市公園になった場合に
は,本件土地が最も近い都市公園となることが認められること,β公園区
域及びその周辺を対象とした本件地区計画決定の目標の1つとして都市防
災や災害対策の拠点,歩行者ネットワークの形成を図ることが掲げられて
おり(前提事実(6)ア(ア),本件土地につき都市計画事業が施行されて都)
市公園になった場合には,本件土地も防災や災害対策の拠点として活用さ
れることが見込まれると考えられることなどを考慮すると,原告らは,本
件土地につき都市計画事業が施行されて都市公園になった場合には,この
公園を避難場所として利用する蓋然性が客観的に高いと認められるから,
上記ウの利益を自己の法律上の利益として,本件建築許可の取消しを求め
る原告適格を有すると解するのが相当であり,この点に関する被告の主張
は採用することができない。
(3)ア他方,原告らは,都市計画法53条1項は,当該許可に基づく建築物の
建築による日影被害,大量の車両による騒音,振動,大気汚染等の健康又
,,,は生活環境の悪化居住上の危険特に災害時の建築物倒壊等による生命
身体又は財産上の被害,良好な景観の喪失,将来の都市計画事業の施行時
における用地買収費用の住民負担の増大といった被害や損失を受けないと
いう利益を,公益には吸収されない個々人の個別的利益としても保護すべ
きものとする趣旨を含むことが明らかである旨主張する。
しかしながら,次のイないしカのとおり,53条許可の根拠法規である
都市計画法53条1項の趣旨及び目的を考慮し,これと目的を共通にする
関係法令の趣旨及び目的をも参酌し,また,53条許可において考慮され
るべき利益の内容及び性質を考慮し,53条許可がその根拠となる法令に
違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれ
が害される態様及び程度をも勘案しても,都市計画法53条1項が,原告
らの主張する上記利益につき,一般的公益の中に吸収解消させるにとどま
らず,個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含
むものと解することはできない。
イすなわち,まず,都市計画法53条1項自体についてみるに,同項の規
定の文言に加えて,前記(2)ア(ア)のとおり,同項の目的は,都市計画施
設の区域内に建築される建築物によって都市計画事業の円滑な施行に支障
を来すことを未然に防止し,もって,この事業の円滑な施行を確保するこ
とにあることにかんがみると,同項が,原告らの主張に係る建築物の建築
及び利用自体による周辺地域に与える被害の発生の防止という趣旨・目的
を有するものと解することは困難である上,原告らの主張に係る健全な都
市環境の確保及び良好な生活環境の保全あるいは用地買収費用の経済的損
失の回避といった観点についても,都市計画法の他の規定を参酌しても,
同項が,一般的な公益としての都市環境等の保護という域を超えて当然に
個々の住民の個別具体的な環境上の利益の保全又は上記の経済的利益の保
護を目的とする趣旨を含むものと解することはできない。
この点,原告らは,53条許可に関する必要的許可事由について定める
都市計画法54条2号ただし書において,都市施設を整備する立体的な範
囲が定められている区域における建築物の建築につき,当該立体的な範囲
が道路である場合には,当該建築が「安全上,防火上及び衛生上」支障の
ないものである場合に限るとするなどしており,これらの規定を整合的に
考慮すれば,同法53条1項も,建築物の建築による周辺地域に与える重
大な被害の発生の防止,健全な都市環境の確保及び良好な生活環境の保全
を趣旨・目的としているものと解される旨主張する。
しかしながら,都市計画法54条2号ただし書の規定は,(a)平成12
年法律第73号により都市計画法11条が改正され,道路,河川等の都市
施設に関する都市計画について,必要があるときは,空間又は地下に「都
市施設を整備する立体的範囲」を定めることができるとされた際に,併せ
て同法54条も改正され,必要的に許可をすべき事由の1つとして,同条
2号本文において,都市計画施設の区域について都市施設を整備する立体
的な範囲が定められている場合において,当該建築が,当該立体的な範囲
外において行われ,かつ,当該都市計画施設を整備する上で著しい支障を
及ぼすおそれがないと認められることという事由が規定されるに当たっ
て,(b)当該立体的な範囲が道路である都市施設を整備するものとして空
間について定められているときに関しては,既に建築基準法44条1項本
文において道路内の建築制限が課されており,この制限の例外の1つとし
て,同項3号において,地区計画の区域内の自動車のみの交通の用に供す
る道路又は特定高架道路等の上空又は路面下に設ける建築物のうち,当該
地区計画の内容に適合し,かつ,政令で定める基準に適合するものであっ
て特定行政庁が安全上,防火上及び衛生上支障がないと認めるものが規定
されていることから,同号の規定との整合を図るために設けられたもので
あって,53条許可による周辺地域に与える被害の発生の防止等をその目
的としたものではない。
そして,都市計画法53条1項ただし書及び同法54条の規定からすれ
ば,許可を要しない場合及び必要的に許可をすべき場合として掲げられて
いるのは,非常災害のため必要な応急措置として行うもの(これ自体は,
将来の都市計画事業の施行の支障の有無にかかわらず,当該建築を制限す
ることが不相当な場合を規定したものであり,当該建築がされた場合の環
境上の利益の侵害の程度が低い等というような趣旨によるものでないこと
は明らかである)を除いては,当該都市計画事業の施行自体に相当する。
行為,簡便な行為,当該建築物の移転・除去が容易であるものなど,専ら
将来の都市計画事業の施行に当たっての支障の有無・程度という観点から
定められた要件であることは明らかであり,当該建築物の建築及び利用自
体により周辺地域に与える被害の発生の防止ないし近隣住民の環境上の利
益の保護という観点から定められた要件と解し得ないことは,その規定の
内容からも明らかである。
ウ(ア)次に,原告らの主張に係る建築基準法についてみるに,建築基準法
は,建築物の敷地,構造等に関する最低限の基準を定めて国民の生命,
健康及び財産の保護を図ることなどを目的とするものであるところ(1
条,前記(2)ア(ア)のとおり,53条許可の根拠法規である都市計画法)
53条1項は,都市計画施設の区域内に建築される建築物によって都市
計画事業の円滑な施行に支障を来すことを未然に防止し,もって,この
事業の円滑な施行を確保することを目的とするものであって,都市計画
施設の区域内に建築される建築物につき,建築基準法の規制に加え,こ
れとは異なる上記の観点(都市計画事業の円滑な施行の確保の要請)か
ら別途の規制を加えたものと位置付けられることにかんがみると,双方
の目的には本質的な相違があるといわざるを得ず,建築基準法が,53
条許可の根拠法規である都市計画法53条1項との関係においてこれと
目的を共通にする関係法令に当たるとは解し難いといわざるを得ない。
(イ)なお,建築基準法6条1項の規定は,建築主が同項各号に掲げる建
築物を建築しようとする場合においてはその計画が建築基準関係規定
(同項に規定する建築基準関係規定)に適合するものであることについ
て建築主事の確認を受けなければならない旨定め,同項の委任を受けた
建築基準法施行令9条12号は,都市計画法53条を建築基準関係規定
の1つと定めているところ,(a)建築基準法6条1項の規定は,建築物
の計画が建築基準関係規定に適合するものであることを確保すること
が,住民の福祉の増進を図る役割を広く担う地方公共団体の責務である
ことに由来するものと解され(最高裁平成16年(行フ)第7号同17
年6月24日第二小法廷決定・判例時報1390号320頁参照,こ)
のような観点から,都道府県知事が行う53条許可とは別に,建築主事
が,申請に係る建築物の計画が都市計画法53条を含む建築基準関係規
定に適合するかどうかを審査することとされている(建築基準法6条4
項)上,(b)53条許可に係る申請書においては,都市計画施設の区域
内に建築される建築物によって都市計画事業の円滑な施行に支障を来た
すか否かを判断するため,敷地内における建築物の位置を表示する図面
等によって予定建築物の概要を示させるのみで,必ずしも建築確認資料
のすべてを示させるわけではなく(都市計画法施行規則39条参照,)
建築基準法に適合することは53条許可の要件とされておらず,建築基
準法の適用に関しては,専ら別途の建築確認において,法令適合性が審
査されることにかんがみると,建築基準法施行令9条12号の上記規定
に照らしても,なお,建築基準法が,53条許可の根拠法規である都市
計画法53条1項との関係においてこれと目的を共通にする関係法令に
当たるとは解し難いといわざるを得ない(なお,仮に,都市計画法53
条1項の趣旨・目的を考慮するに当たり,建築基準法の趣旨・目的をも
参酌したとしても,上記イに加え,53条許可と建築確認との関係を踏
まえて上記アに説示したところによれば,53条許可の根拠法規であ()
る都市計画法53条1項が,前記イの具体的利益を超えて,原告ら(2)
の前記アの主張に係る利益についてまで,本件土地の周辺に居住する住
,,民である原告らに対し一般的公益の中に吸収解消させるにとどまらず
個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むも
のと解することはできない。。)
エまた,都市公園法は,(a)前記(2)ア(イ)のとおり,53条許可の根拠法
規である都市計画法53条1項と目的を共通にする関係法令であると解さ
れ,都市計画施設である公園等の設置の際に,防火,避難等災害の防止に
資するよう配慮することも,その趣旨に含まれるものということができる
が,(b)基本的には都市公園の健全な発達及びこれによる公共の福祉の増
進を目的とするものであり(1条,都市公園の設置及び管理に関する基)
準等を定める都市公園法及び同法施行令の規定の内容に照らしても,上記
(a)以上に進んで,原告らの主張に係る当該都市計画施設の区域内におけ
る建築物の建築自体により周辺地域に与える被害の発生の防止,近隣住民
の環境上の利益又は用地買収費用の経済的損失の回避を個々人の個別的利
益として保護するものとは解されず,上記主張に係る事項に配慮しつつ土
地利用がされるべきであるといった抽象的な利益は,一般的公益に吸収解
消されるものとして位置付けられていると解するのが相当である。
オさらに,原告らは,本件実施要綱8(2)は,民設公園事業者に対して,民
,,設公園事業の申請に先立って近隣住民との事前協議を義務付けているが
その趣旨は,非公開建築物の建築による周辺住民の生活環境に対する影響
もこの事前協議の対象に当然含まれていると考えられることからすると,
周辺住民の生活環境上の被害等の個別具体的な利益を保護するためにほか
ならないと解される旨主張する。
しかしながら,そもそも被告の定めた本件実施要綱は行政機関の取扱指
針であって法令ではない上,本件実施要綱8(2)が民設公園事業の申請者
に対し近隣説明会の開催,地元調整結果を踏まえた対応計画書の作成等の
事前協議を求めた目的も「地元区市町の行政計画を遵守し,民設公園事,
業の計画について地元区市町の理解を得るため(同要綱8(2)ア)という」
ものであり,事前協議の内容も,民設公園事業の申請者又は区市町におい
て事業対象土地周辺の住民の個々の意見を聴取することまで求めているわ
けではないこと(都市計画事業認可等に係る都市計画法66条参照)にか
んがみると,本件実施要綱8(2)は,都市計画法53条1項及びその関係
法令において都市計画施設たる事業対象土地周辺の住民の生活環境上の利
益が個々人の個別的利益として保護されていると解する根拠となり得るも
のではない。
カなお,原告らは,都市計画法59条による都市計画事業の認可の取消訴
訟に関して事業地の周辺住民の原告適格を認めた前掲最高裁平成16年
(行ヒ)第114号同17年12月7日大法廷判決は,同条に限定せず,
都市計画法全般に関して,建築許可,開発許可等により,当該地の周辺の
建物に対する利便及び環境により影響を受ける住民に対し,健康又は生活
環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を認めたものと解され
る旨主張するが,都市計画自体の事業全体の認可と都市計画施設の区域内
における建築物の建築の許可とでは,事柄の性質上,根拠規定,処分の内
容・性質及び周辺の地域に与える影響等が本質的に異なる上,同判決にお
いては,都市計画事業の認可に関しては,都市計画法59条等の規定のほ
か,公害防止計画の根拠法令である公害対策基本法及び東京都環境影響評
価条例の規定の趣旨・目的をも参酌し,都市計画事業の認可において考慮
されるべき利益の内容,性質等を考慮した上で,都市計画法は,同法59
条等の規定を通じて,違法な都市計画事業の実施により騒音,振動等によ
る健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けないという利益を個
々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むとされたもの
であって,53条許可に関する上記アないしオの判断は,根拠規定,処分
の内容・性質及び影響並びに関係法令等を本質的に異にする都市計画事業
の認可に関する同判決の判示によって左右されるものとは解されない。
キ以上に検討したところによれば,原告らが主張する前記利益を根拠に,
原告らが本件建築許可の取消しを求める原告適格を有するとの原告らの主
張を採用することはできない。
2争点(2)(本件建築許可の適法性)について
(1)原告らは,本件建築許可は,都道府県知事が行使し得る裁量権の範囲を
逸脱し又は濫用するものである旨主張する。
ア(ア)都市計画法53条1項が都市計画施設の区域内での建築物の建築を
都道府県知事の許可にかからしめているのは,前記1(2)ア(ア)のとお
り,本来,建築物の建築は建築基準法による規制のみを受けるものであ
るが,それが都市計画施設の区域内に建築されるものである場合には,
これを同法による規制のみにゆだねていたのでは,将来の同事業の施行
に際し,当該建築物の除去が困難であったり,莫大な補償の必要が生じ
たりして,都市計画事業の施行に支障を来すことが考えられるので,こ
れを未然に防止し,もって,当該事業の円滑な施行を確保することを目
的としたものであると解される。そして,都市計画法は,都市の健全な
発展と秩序ある整備を図り,もって国土の均衡ある発展と公共の福祉の
増進に寄与することを目的とし(1条,健康で文化的な都市生活及び)
機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこのためには適正な制限のも
とに土地の合理的な利用が図られるべきことを基本理念として定められ
(2条,一体の都市として総合的に整備し,開発し,及び保全する必)
要がある区域が都市計画区域として指定される(5条1項)ものである
から,その性質上,都市計画事業の完了までには相当長期間を要するこ
とが本来予定されていると考えられるとともに,事業の施行に当たって
は,予算,人員等において制約を受けるほか,土地の収用及び既存の建
築物の移転・除去並びにそれに伴う権利関係の整理等,事業の施行につ
いての制約も多く,実際にも,その完了までに長期間を要するのはやむ
を得ない面があると考えられることにかんがみると,同法53条1項各
号のいずれにも該当しないとして建築許可の申請が行われ,かつ,同法
54条各号のいずれにも該当しない場合に,53条許可をするか否かを
判断するに当たっては,当該都市計画事業の具体的な内容,進ちょく状
況及び今後の見通し,当該建築物の構造・形状,敷地の位置・形状等の
諸般の事情を総合的に考慮した上で,政策的,技術的な見地に立ち,当
該建築物の建築を許可することにより将来の具体的な都市計画事業の円
滑な施行に支障を来すことになるか否かを検討するとともに,将来の具
体的な都市計画事業の円滑な施行を確保する観点から必要に応じて同法
79条に基づく許可条件を付することになるというべきである。そうす
ると,このような53条許可をするか否かの判断(当該許可に当たって
いかなる条件を付するかの判断を含む)は,これを決定する都道府県。
知事の広範な裁量にゆだねられているというべきであって,裁判所が5
3条許可の適否を審査するに当たっては,当該53条許可が裁量権の行
使としてされたことを前提として,その基礎とされた重要な事実に誤認
があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,事
実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮
すべき事情を考慮しないこと等により当該53条許可が社会通念に照ら
し著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸
脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するの
が相当である。
(イ)そこで,上記(ア)の判断の枠組みに従って,本件マンションにつき
53条許可を行った本件建築許可における処分行政庁の判断が,β公園
区域内における避難場所に関する機能が確保された都市計画事業の円滑
な施行を阻害するか否かという観点から,裁量権の範囲を逸脱し又はこ
れを濫用したといえるか否かについて検討するに,前提事実によれば,
次の事実が認められる。
a本件原計画決定に係るβ公園区域の面積は,約3.12であるha
が,そのうち都市計画公園として供用が開始されている部分(β公園
開園部分)は,昭和61年2月1日に都市計画公園としての供用が開
始されたB−2地区のうちの南東部分の2708㎡及び平成13年6
月1日に都市計画公園としての供用が開始されたB−1地区のうちの
西側部分3933㎡の合計6641㎡であり,都市計画面積全体の約
21%にすぎない(前提事実(2),(3)。)
b被告及び都内の区市町においては,平成18年3月の時点で,都全
()域における都市計画公園・緑地の計画決定面積約1万0600ha
のうち約24%にのぼる約2600の未供用地域につき事業化計ha
画の検討対象としなければならない状況であったところ,財政的な限
,,界がある中で計画的・効率的な都市計画公園・緑地の整備を目指し
優先順位を定め,中長期的に取り組むべく,合同で,本件整備方針を
策定し,事業化計画検討対象区域のうち平成27年までに整備に着手
する予定の区域を「優先整備区域」と「優先整備区域」を有する公,
園・緑地を「重点公園・緑地」と選定したが「優先整備区域」に選,
定されたのは,事業化計画検討対象区域のうち約17%にすぎず,β
公園区域は,本件整備方針において「重点公園・緑地」に選定されな
かった(前提事実(4)。)
c平成18年3月の時点で,約2600の事業化計画検討対象区ha
域のうち約500がおおむね1以上のまとまりのある企業等haha
の民有地であり,これらの土地の多くは災害時の避難場所等に指定さ
れていた(前提事実(4)。)
d本件整備方針において,優先整備区域以外に存在する民有地等を対
象に,これらの都市計画施設(公園・緑地)の区域内での建築にかか
わる規制の緩和等のインセンティブを付与することを通じて,この区
域内の民有地において民間事業者の誰もが利用できる緑のオープンス
ペースの整備と管理を行うことを促す仕組みとして,民設公園制度を
創設する方針が立てられ,これを受けて,被告において,本件実施要
綱が定められて民設公園制度が設けられ,原則として優先整備区域以
外に存在する都市計画公園及び都市計画緑地に関して,都知事は,民
設公園事業者が不特定多数の都民に無償で公開される公園的空間(民
設公園)を整備・管理すること等を条件に,公園的空間(民設公園)
と敷地を1つにする区域における非公開建築物につき53条許可を行
うこととした(前提事実(4),(5)。)
e(a)本件建築許可に当たっては,後記(d)の許可条件のほか,本件
実施要綱に基づき,本件事業認定に係る認定計画の確実な実施及び
本件事業施行契約の内容について確実な履行を行うことという許可
条件が付された(別紙許可条件2前段。)
(b)本件実施要綱は,①民設公園の認定基準として,原則として,
次の整備基準及び管理基準を満たし,かつ,不特定多数の都民に基
本的に制約なく,都市公園の事業化が図られるまでの長期にわたり
(公開開始の日から起算して35年以上,無償で公開されること)
が担保されるものである(ただし,早期に事業対象土地における都
市公園の事業化が図られる場合等には,民設公園に係る整備及び管
理の期間は,上記35年よりも短い期間となる)とし(同要綱4。
(2),②整備基準として,公開される公園的空間が1以上であ)ha
ること,建築物(非公開建築物を含む)に利用する土地が,原則。
として,事業対象土地の3割未満であること,公開される公園的空
間が,避難場所として災害時に役立つ機能を有することなどを定め
(同要綱4(4),③管理基準として,公開時間に関しては,原則と)
して常時公開とし,民設公園又は非公開建築物の管理に必要がある
,,場合に例外的に夜間の閉鎖をすることができ防災対応に関しては
上記閉鎖時間内においても,非常時に避難として十分に機能するよ
うに,非常時の公開体制等について定められていること(同要綱4
(5))などを定めるとともに,④民設公園事業者は,原則として,
事業施行契約締結後速やかに,都知事の認める機関に対し,35年
以上の民設公園の管理に要する費用を一括で納め(同要綱6(1),)
非公開建築物を使用する前に,民設公園の管理責任者を選任し,管
理責任者との間の契約内容等を確認できる書類等を都知事に提出し
て都知事の承認を受けた上,管理責任者と契約締結等を行わなけれ
ばならず(同要綱11(1),上記費用については,民設公園の管理)
の実績に合わせ,前記管理責任者に対し,都知事の承認を受けた上
で支払われるものとし(同要綱6(2),⑤民設公園事業者は,民設)
公園の管理に関して,都知事による年1回以上現地確認及び必要に
応じた改善指導等の指導,監督及び検査を受けるとともに,民設公
園事業者又はこれに代わる管理責任者は,被告に対し民設公園の管
理状況について1年ごとに報告しなければならないなどの指導監督
を受けるものとし(同要綱3,10,11(2),13,⑥民設公園)
事業者は,民設公園事業に関する建築物(非公開建築物を含む)。
又は事業対象土地の譲渡等をするときは,譲受人等に対し,民設公
園の適切な事業を継続しなければならないものである旨を重要事項
説明により明示し,民設公園の管理に関する義務を継承するよう契
約を締結するとともに,上記契約が担保されるように,民設公園の
区域について,譲受人等から物権等の権利の設定を受けなければな
らず,譲受人等が,民設公園事業に関する建築物(非公開建築物を
含む)又は事業対象土地の譲渡等をするときは,再譲受人等に対。
し,同様に,民設公園の適切な事業を継続しなければならないもの
である旨を重要事項説明により明示し,民設公園の管理に関する義
務を継承するよう契約を締結する等しなければならず,民設公園事
,,業者は譲受人等又は再譲受人等が適切な管理の継続を怠る場合は
管理の継続に関する契約について履行要求を行い,改善されない場
合については,改善のための措置を講じなければならないとしてい
る(同要綱11(3)ないし(5)。)
(c)本件実施要綱を受けて被告とP1との間で締結された本件事業
施行契約においては,本件民設公園の管理に関する被告による指導
監督,本件マンションの譲渡等をする場合における本件民設公園の
管理継続のための必要な措置等につき,本件実施要綱と同様の定め
をするほか,P1は,本件土地(約1.49)のうち,約1.ha
04を公園的空間(本件民設公園)として公開しなければならha
ないと定められている。
(d)本件建築許可に当たっては,前記(a)の許可条件のほか,①民
設公園の適切な公開・管理の担保に向けて,公園区域に対する地上
権の設定や,本件マンションの売却相手に対する民設公園制度の周
知及び理解獲得,さらに公園の公開に関する売却相手との契約締結
及びその公正証書化,売却相手が第三者に売却する際の第三者との
公園の公開等に関する契約締結,管理費の担保等については十分配
慮の上,確実に実施すること(別紙許可条件2後段,②本件マン)
ションの分譲を目的に作成する重要事項説明書類の記載内容につい
ては,民設公園事業を監督する被告と事前協議を行うこと(別紙許
可条件3,③事業対象土地について,P1の要請を伴わず,早期)
に都市計画公園事業が施行される際にも,当該事業の趣旨に十分な
理解を示し積極的な協力を行うとともに,そのために本件マンショ
ンの売却相手に対し,前記①と同様に,十分な説明を行い,都市計
画公園事業への協力を担保すること(別紙許可条件6)という許可
。(,,,条件が付された上記(a)ないし(d)につき前提事実(5)(7)
(8))
f本件マンションの構造・形状は,東棟,南棟及び北棟の3棟から構
成され,いずれも最高の高さが34.7(鉄筋コンクリート造,m
地上11階建て。ただし,東棟には地下1階部分も存する)の共同。
住宅となる予定であり,本件マンションの配置は,本件土地の南東側
に位置し,その北側外壁は,本件土地と北側道路との境界線から50
m後退した位置となり,その西側外壁は,本件土地と西側に隣接する
土地との境界線から55後退した位置となり,その南側外壁は,m
本件土地と南側に隣接する土地との境界線から6後退した位置とm
なり,その東側外壁は,本件土地と東側道路との境界線から6m後退
した位置となる予定である(前提事実(8)。)
(ウ)a上記(イ)の事実を踏まえて検討するに,上記(イ)のとおり,被b
告及び都内の区市町においては,平成18年3月の時点で,都全域に
おける都市計画公園・緑地の計画決定面積のうち約24%にのぼる約
2600の未供用地域につき事業化計画の検討対象としなければha
ならない状況であったことから,本件整備方針により都市計画公園・
緑地に関する10年間の整備方針が策定されたものの,10年間で整
備に着手する予定とされた優先整備区域は,事業化計画検討対象区域
のうち約17%にすぎないことからすると,事業化計画検討対象区域
のすべての公園・緑地の整備を進めるには相当長期間を要するものと
見込まれるところ,上記(イ)のとおり,β公園区域に係る都市計画a
施設である公園の整備は,いまだ都市計画面積全体の約21%しか進
ちょくしていない上,β公園区域は,優先整備区域を有する重点公園
・緑地に選定されていないことからすると,β公園区域のすべての公
園の整備を進めるにも相当長期間を要するものと見込まれたものであ
る。また,同月の時点で,約2600の事業化計画検討対象区域ha
のうち約500(約19%)がおおむね1以上のまとまりのhaha
ある企業等の民有地であり,これらの土地の多くは災害時の避難場所
等に指定されているが(上記(イ)c,このようなまとまった広さを)
有する土地は,都内でこれを確保することが容易でないことは明らか
であるとともに,昨今の経済情勢から,このような土地を所有する企
業等がこれを他に売却することが多分に想定されるところ,都市計画
施設の区域内において建築物の建築をする場合であっても,当該建築
物が,階数が2以下で,かつ,地階を有しないこと及び主要構造部が
木造,鉄骨造,コンクリートブロック造その他これらに類する構造で
あることの要件に該当し,かつ,容易に移転し又は除却することがで
きるものであると認められるときは必ず53条許可がされること都,(
市計画法54条3号)等から,都市計画施設の区域内の土地が他に売
却される場合には,当該土地の上に低層の一戸建て住宅を複数建てら
れるように当該土地が分筆等された上で複数の者に分譲され,その結
果,権利関係が細分化されてしまう蓋然性が高いと想定されるが,こ
のように権利関係が細分化されると,都市計画公園事業の実施に際し
て,当該土地が単独で所有されたままの場合と比べて,土地買収等の
交渉相手が複数になることによって,交渉が長期化し,ひいては公園
の整備に著しく長期間を要する結果となることが予測されるというべ
きである。
以上のとおり,都全域,特にβ公園区域に係る都市計画施設である
公園の整備の進ちょく状況に加えて,事業化計画検討対象区域のうち
約19%が1以上のまとまりのある民有地であるところ,これがha
他に売却される場合には,当該土地が複数の者に分譲されて権利関係
が細分化されてしまう蓋然性が高いと想定され,その結果,公園の整
備に著しく長期間を要する結果となることが予測されること等も考慮
すると,都知事(都知事から委任を受けた東京都多摩建築指導事務所
長を含む)が,β公園区域内にある本件土地につき,これを単独所。
有していたP3からP1に売却されるに当たり,権利関係が細分化さ
れる以前の段階で,ある程度の広さを有する土地を都市公園法2条1
項に規定する都市公園に準じた公園的空間として確保して整備し管理
する観点から,P1が本件土地内に不特定多数の都民に無償で公開さ
れる公園的空間本件民設公園を整備し管理すること等を条件とし()
て,本件土地上の本件マンションの建築につき53条許可(本件建築
許可)を行うことには,当時の状況の下における客観的な合理性があ
ったものと考えられる。
bそこで進んで,本件民設公園の整備・管理に関する本件建築許可に
係る許可条件の内容をみると,P1は,前記(イ)eのとおり,①本件
土地(約1.49)のうち約1.04を,不特定多数の都民haha
に基本的に制約なく,都市公園の事業化が図られるまでの長期にわた
り(公開開始の日から起算して原則35年以上,公園的空間(本件)
民設公園)として無償で公開しなければならず,②本件民設公園につ
き,避難場所として災害時に役立つ機能を有するよう整備しなければ
ならず,原則として常時公開とし,本件民設公園又は本件マンション
の管理に必要がある場合に例外的に夜間の閉鎖をすることができるも
のの,上記閉鎖時間内においても,非常時に避難場所として十分に機
能するように,非常時の公開体制等について定めなければならず,③
都知事の認める機関に対し,本件民設公園の公開開始から原則35年
分以上のその管理に要する費用を一括で納めた上,その管理責任者を
選任し,契約内容等につき都知事の承認を受けた上,管理責任者と契
約締結等を行い,前記費用については,民設公園の管理の実績に合わ
せ,前記管理責任者に対し,都知事の承認を受けた上で支払い,④本
件民設公園の管理に関して,都知事による指導,監督及び検査を受け
るとともに,自ら又はこれに代わる管理責任者は,被告に対し民設公
園の管理状況について1年ごとに報告しなければならないなどの指導
監督を受け,⑤本件マンション又は本件土地の譲渡等をするときは,
譲受人等に対し,本件民設公園の適切な事業を継続しなければならな
いものである旨を重要事項説明により明示し,民設公園の管理に関す
る義務を継承するよう公正証書で契約を締結する等しなければなら
ず,譲受人等又は再譲受人等が適切な管理の継続を怠る場合は,管理
の継続に関する契約について履行要求を行い,改善されない場合につ
いては,改善のための措置を講じなければならないとともに,本件マ
ンションの分譲を目的に作成する重要事項説明書類の記載内容につい
て,被告と事前協議を行わなければならず,⑥本件土地について,早
期に都市計画公園事業が施行される際にも,当該事業の趣旨に十分な
理解を示し積極的な協力を行うとともに,そのために本件マンション
の売却相手に対し,十分な説明を行い,都市計画公園事業への協力を
担保することとなっており,そのため,都知事は,P1がこれらの許
可条件に違反した場合には,都市計画法81条1項3号に基づき,都
市計画上必要な限度において,本件建築許可を取り消し,変更し,そ
の効力を停止し,その条件を変更し,又は相当の期限を定めて,本件
マンション等の改築,移転若しくは除却その他違反を是正をするため
必要な措置をとることを命ずることができるとされている。
そうすると,本件建築許可に係る許可条件に基づき,(a)P1によ
って,本件土地のうち約70%に相当する約1.04が,不特定ha
多数の都民に対し,原則35年以上にわたり,災害時における避難場
所としての機能も有する公園的空間(民設公園)として無償で公開さ
れ,(b)その管理については,管理責任者が選任され,管理費用につ
いてはあらかじめ原則35年分以上が確保され,都知事等による指導
監督態勢も整えられる等,本件民設公園の管理態勢が担保され,(c)
本件マンションが分譲される際にも,P1と本件マンションの譲受人
等との間で,譲受人等が民設公園の管理に関する義務を継承すべきこ
とが重要事項説明書及び公正証書化された契約書をもって明らかにさ
れ,譲受人等又は再譲受人等が本件民設公園の適切な管理の継続を怠
る場合には,P1において譲受人等に対し管理継続の履行要求等が行
われること等を通じて,本件マンションの所有者が変更した場合にも
本件民設公園の適切な管理が継続される態勢が確保されているという
ことができ,したがって,本件建築許可に係る許可条件によって,本
件土地のうち約70%に相当する部分につき,都市公園法2条1項に
規定する都市公園に準じた公園的空間の適切かつ継続的な確保が担保
されているものと考えられる。
cそして,本件建築許可に係る許可条件に基づき建築が許容される本
,,件マンションの構造・形状本件土地の位置・形状等についてみると
①前記(イ)fのとおり,本件マンションの構造・形状は,最高の高さ
が34.7,地上11階建ての鉄筋コンクリート造であって,中m
高層の堅固な建物というべきであるが,将来的な本件マンションの除
去は現在の技術水準では物理的に困難であるとまではいえない上,②
本件マンションの配置は,本件土地の南東側に位置し,本件マンショ
,,ンの北側には幅50mの西側には幅55の空間が設けられるがm
この部分は,本件民設公園として一般に公開される予定であって,本
件民設公園の部分については,本件土地に係る都市計画事業が施行さ
れる際には公園の構築費用を支出することなく都市公園とすることが
可能であるという側面もあり,③また,本件民設公園については,前
記のとおり,不特定多数の都民に対し,災害時における避難場所b
としての機能も有する公園的空間として無償で公開されることに加え
て,β公園区域及びその周辺を対象として東村山市が策定した本件地
区計画決定の目標の項目として,都市防災や災害対策の拠点,歩行者
ネットワークの形成を図ることが掲げられていること(前提事実(6)
ア(ア))からすると,東村山市防災会議が,β公園区域内を防災や災
害対策の拠点の形成に資する場所として活用すべく,公開性のある本
件民設公園を,β公園開園部分と同様に一時集合場所として指定する
ことも見込まれるところである。
そうすると,本件マンションは,都市計画法54条3号所定の必要
的許可が認められる建物に比べて相当堅固な建物ではあるものの,こ
れについて別紙許可条件のとおりの条件を付して53条許可を行うこ
とにより,将来のβ公園区域内の都市計画事業の円滑な施行に支障を
来すことになるものではなく,同区域内における避難場所に関する機
能が確保された都市計画事業の円滑な施行が阻害されることになるも
のでもないと評価したことが,合理性を欠くものであるということは
できない。
d以上のとおり,本件建築許可は,本件原計画決定及び本件地区計画
決定等の都市計画事業の具体的な内容,進ちょく状況及び今後の見通
し,当該建築物の構造・形状,敷地の位置・形状等の諸般の事情を総
合的に考慮した上,政策的,技術的な見地に立ち,本件マンションの
建築を許可することにより将来の具体的な都市計画事業の円滑な施行
に支障を来すことになるか否かを考慮するとともに,将来の具体的な
β公園区域内の都市計画事業の円滑な施行(同区域内における避難場
所に関する機能が確保された都市計画事業の円滑な施行を含む)を。
確保する観点から別紙許可条件のとおりの条件を付してされたもので
あって,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないでされたも
のということはできず,また,評価・判断の内容が明らかに合理性を
欠くものということもできない。
(エ)この点,原告らは,①(a)本件マンションの規模や構造から見て容
易に移転し又は除去できるものとはいえず,(b)本件マンションの分譲
により権利関係も複雑なものへと変質しそれだけ用地買収交渉等にも労
力を要するにもかかわらず,(c)P1は,本件土地が都市計画区域内に
あることをほとんど説明していないことなどからすると,本件マンショ
ンの建築が,費用的にも時間的にも本件原計画決定の事業の円滑な施行
の確保の妨げとなる,(d)本件建築許可は,都市計画手続をとることな
く本件原計画決定を実質的に廃止するに等しく,行政処分に不可欠な公
正な手続を潜脱するもので違法である,②本件民設公園は,その南側及
び東側から本件マンションの日影と本件マンションの圧迫を受けるもの
で,都市公園法の予定する近隣公園とは程遠く,現実に大災害が生じた
場合には,本件マンション居住者らによる本件民設公園への一般入口の
封鎖や本件マンションの倒壊により,避難場所として有効に機能するか
疑問がある,③処分行政庁は,本件マンションの建築が本件原計画決定
の実施に対していかなる社会的影響・経済的影響を生ずるのかについ
て,合理的な調査に基づく評価を行っておらず,本件建築許可は合理的
な基礎を欠く旨主張する。
そこで,まず,上記①の主張について検討するに,仮に本件マンショ
ンにつき本件建築許可がされなかった場合には,本件土地が複数の者に
分譲されてその全面に一戸建て住宅が建築されることが多分に想定され
ることから,本件土地が複数の者に分譲されてその全面に一戸建て住宅
が建築された場合と本件マンションが建築された場合とを比較した場
合,(a)そもそも建物の除去費用は,その規模,構造等によって左右さ
れ,一律に定まるものではないことに加えて,本件土地の全面に一戸建
て住宅が建築された場合には,建築物の撤去作業を行う部分は本件土地
のほぼ全面に及ぶことからすると,土地の買収費用や建物の取壊費用も
膨大なものとなることが予想されるのに対し,本件マンションが建築さ
れた場合は,建物の撤去作業が必要なのは本件土地上の約30%の範囲
に集中しており撤去作業が必要な範囲は狭いことなどからすると,本件
建築許可の結果本件マンションが建築されることにより本件建築許可が
されない場合と比べて都市計画事業の施行のための費用が増加するとは
一概にいえないこと,(b)本件土地が複数の者に分譲された場合には,
都市計画事業の施行に際して,一部の土地所有者の賛同を得られたもの
の他の賛同を得られず全体の買収に難航するという事態が大いに想定さ
れるところであり,本件マンションが建築された場合とで,本件土地の
所有者との間の買収交渉の労に質的な相違があると認めるに足りる客観
的な証拠はないこと,(c)前記(ウ)⑥のとおり,本件建築許可の許可b
条件の1つとして,P1が,本件マンションの売却相手に対し,本件土
地について早期に都市計画公園事業が施行する際にも積極的な協力を行
うよう十分な説明を行い,都市計画公園事業への協力を担保すべきこと
が定められており(別紙許可条件6,また,P1が本件マンションの)
(),モデルルーム来場者に配付しているガイドブック乙11においても
本件土地が本件都市計画区域内にあり都市公園事業の施行が予定されて
いる旨明記されていること等にかんがみると,別紙許可条件のとおりの
条件を付して本件マンションの建築を許可することにより将来のβ公園
区域内の都市計画事業の円滑な施行に支障を来すことになるものではな
いと評価したことが明らかに合理性を欠くものであるということはでき
ない。なお,原告らは,上記①(d)のとおり,本件建築許可は,都市計
画手続をとることなく本件原計画決定を実質的に廃止するに等しく,行
政処分に不可欠な公正な手続を潜脱するもので違法である旨主張する
が,Ⅰ既に検討したとおり,別紙許可条件のとおりの条件を付して本()
件マンションの建築を許可することにより,将来のβ公園区域内の都市
計画事業の円滑な施行に支障を来すことになるものではなく,同区域内
における避難場所に関する機能が確保された都市計画事業の円滑な施行
が阻害されることになるものでもないと評価したことが,合理性を欠く
ものであるということはできないことに加えて,Ⅱ前提事実(4)のと()
,,おり民設公園制度を創設する方針が示された本件整備方針においては
民設公園制度の対象とされた土地についても,最終的には都市公園とし
て整備することが予定されていることに照らすと,そもそも,本件建築
許可においても,本件建築許可に付された別紙許可条件の前提とされた
本件実施要綱及び本件事業認定においても,最終的には本件土地につき
本件原計画決定を遂行して都市公園とすることが予定されていると解さ
れる上,Ⅲ前記(1)ア(ア)のとおり都市計画事業の完了までには相当()
長期間を要することが本来予定されていると考えられるところ,被告の
取扱指針である本件実施要綱においては,都知事は,民設公園の公開開
始後35年を経過した時点において,適切な管理の実施がされているに
もかかわらず非公開建築物が老朽化等によりその存続が困難となったと
きは,事業対象不動産所有者の要請を受けた上で,当該事業対象土地に
つき都市公園の事業を実施すべき者に対し,都市公園の事業化について
の協議を行うこととされているものの(同要綱15。前提事実(5)ア
(ク),本件原計画決定に係る事業者である東村山市は,法令上は,本)
件実施要綱の上記定めにかかわらず,本件民設公園の公開開始から35
年以内であっても,都市計画法59条1項に基づき,都知事から認可を
受けて本件原計画決定に係る都市計画事業を施行し,本件土地を都市公
園とすることが可能であるし,本件建築許可,本件実施要綱及び本件事
業認定においてもこれを妨げる特段の定めもなくⅣむしろ前記(ウ),,()
b⑥のとおり,本件建築許可の許可条件の1つとして,P1は,本件土
地について,早期に都市計画公園事業が施行される際にも,当該事業の
趣旨に十分な理解を示し積極的な協力を行うとともに,そのために本件
マンションの売却相手に対し,十分な説明を行い,都市計画公園事業へ
の協力を担保すべきことが定められていること(別紙許可条件6)等に
かんがみれば,本件建築許可が本件原計画決定を実質的に廃止するに等
しいものであるということはできず,本件建築許可に所論の違法がある
とは解されない。
次に,上記②の主張について検討するに,P4の陳述書(甲68)に
よれば,本件マンションの建築によって,冬至日において,本件民設公
園の相当範囲に4時間以上の日影が生ずることが認められるが,都市計
画法及び都市公園法並びにこれらの関係法令には都市公園の隣接地に建
築される建築物による周辺の日影及び圧迫感に関して具体的に規制する
規定が存しない以上(むしろ,建築基準法56条6項及び同法施行令1
35条の3第1項1号により,公園の隣接地を敷地とする建築物につい
ては,隣地斜線制限が緩和されている,都市公園に準ずるものとして。)
設置される本件民設公園と同一の敷地内に建築される本件マンションの
53条許可に当たっても,本件マンションによる周辺の日影及び圧迫感
の影響を考慮する必要はないから,原告らの主張に係る日影及び圧迫感
が生ずるからといって,53条許可の判断の過程において考慮すべき事
情を考慮していないということはできないし,また,実際に大災害が生
じた場合に,本件マンション居住者らによる本件民設公園への一般入口
の封鎖や本件マンションの倒壊が現実に生ずることを裏付ける客観的な
証拠はないことからすると,別紙許可条件のとおりの条件を付して本件
マンションの建築を許可することにより将来のβ公園区域内の都市計画
事業の円滑な施行に支障を来すことになるものではないと評価したこと
が明らかに合理性を欠くものであるということはできない。
そして,上記③の主張について検討するに,そもそも原告らの主張す
るところの合理的な調査に基づく評価が何を指すのかが不明確であり,
この点を措くとしても,都市計画法53条許可に関しては,都市計画法
53条1項及びその関係法令上,その許否の判断に当たって,都市計画
決定に関する都市計画法13条1項19号(平成20年法律第40号に
よる改正前の同項18号に相当)のように人口,産業等の社会的経済的
条件に配慮すべきことは求められておらず,前記(イ)及び(ウ)において
検討したところによれば,53条許可の判断の過程において考慮すべき
事情を考慮していないということはできないことは明らかである。
(オ)なお,原告らは,昭和47年7月26日付け建設省都計発第13号
建設省都市局長回答において,53条許可を行うに当たっては,都市計
画法54条の許可基準に該当しない建築物の建築は,事業の施行に著し
い支障となると考えられるので,原則として不許可とすべきであるとさ
れているにもかかわらず,同条の許可基準に該当しない本件マンション
につき53条許可を行うことは,同法53条及び54条の趣旨・目的等
に反する旨主張するが,上記回答は,同法54条の必要的許可事由に該
当しない建築物の建築に係る53条許可につき,原則として不許可とす
べきとしているにすぎず,例外的に許可する場合を想定しているのであ
るし,原則として不許可とすべき理由につき,事業の施行に著しい支障
となると考えられることにあるとしていることからすると,前示のとお
り,本件マンションについては,別紙許可条件のとおりの条件を付して
建築を許可することにより,将来のβ公園区域内の都市計画事業の円滑
な施行に支障を来すことになるものではなく,同区域内における避難場
所に関する機能が確保された都市計画事業の円滑な施行が阻害されるこ
とになるものでもないと評価したことが,合理性を欠くものであるとい
うことはできないのであるから,上記回答の内容に照らしても,本件建
築許可が同法53条及び54条の趣旨・目的等に反することになるとは
解されない。また,原告らは,国土交通省の「都市計画運用指針(甲」
19,乙20)においても,公園等の公共空地に係る都市計画区域の一
部の変更であっても,その見直しの必要性は慎重に検討することが望ま
しいとされているとして,本件建築許可は,上記運用指針で明らかにさ
れている同法53条及び54条の趣旨・目的等に反する旨主張するが,
原告らの指摘する運用指針の該当部分は,公園等の公共空地に係る都市
計画の変更に関する部分であるところ,本件建築許可は,前記(エ)のと
おり,本件原計画決定を実質的に廃止するに等しいということはできな
いのみならず,むしろ,前記(ウ)のとおり,本件建築許可に係る許可条
件によって,本件土地のうち約70%に相当する部分につき,都市公園
法2条1項に規定する都市公園に準じた公園的空間の適切かつ継続的な
確保が担保されていると考えられることにかんがみると,上記運用指針
に照らしても,本件建築許可が同法53条及び54条の趣旨・目的等に
反することになるとは解されない。
(カ)以上に検討したところによれば,別紙許可条件のとおりの条件を付
してされた本件建築許可について,重要な事実の基礎を欠き又はその内
容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認めるに足りる事情は
見当たらない。
イさらに,原告らは,本件建築許可がされた結果,P1は,本件マンショ
ンの建築を行うこととなるが,その建築によって,(a)本件マンションの
建築工事関係車両による騒音,振動等,(b)交通量の増大による道路の渋
滞,排気ガスの充満等,(c)本件マンションの大規模震災時の倒壊等の危
険,(d)日照阻害,(e)良好な景観の喪失と通風の阻害,(f)β公園の整
備事業を阻害する本件マンションの建築による住民負担の増大といった重
大な被害が発生することから,本件建築許可は,都市計画法53条1項に
反する違法なものというべきである旨主張し,その取消しを求めるので,
以下検討する。
(ア)行政事件訴訟法は,取消訴訟においては,自己の法律上の利益に関
係のない違法を理由として取消しを求めることができないと規定し(1
0条1項,この「自己の法律上の利益に関係のない違法」とは,行政)
庁の処分に存する違法のうち,原告の権利利益を保護する趣旨で設けら
れたものではない法規に違背した違法をいうものと解すべきところ,同
項の適用に当たっては,違法の根拠とされる法規が原告の法律上の利益
に関係のない法規であるかどうか,また,違法事由として主張される具
体的事実が原告の法律上の利益に関係のないものであるかどうかを検討
する必要がある。そして,処分の名あて人以外の第三者が提起した取消
訴訟においては,処分の根拠法令のうち原告の個別的利益を保護する趣
旨で設けられた規定(原告適格を基礎付ける規定)以外の規定に違反す
るという違法事由は,原告の自己の法律上の利益に関係のない違法とい
うべきであり,また,処分の根拠法規が原告の個別的利益として保護す
る趣旨を含んでいる利益(原告適格を基礎付ける利益)以外の利益を害
するという違法事由も,原告の自己の法律上の利益に関係のない違法と
いうべきであると解するのが相当である(最高裁昭和57年(行ツ)第4
)。6号平成元年2月17日第二小法廷判決・民集43巻2号56頁参照
(イ)そこで,上記(ア)の観点から,原告らの本件建築許可に関する違法
性に係る主張(前記(a)ないし(f))について検討する。
,()a本件マンションの建築工事関係車両による騒音振動等前記(a)
原告らは,本件マンションに係る建築工事の着工により,建築工事
関係車両の走行に伴う騒音,振動,排気ガス等の発生や交通量の増大
に伴う渋滞が発生し交通事故発生の危険も生ずるほか,建築工事の途
中で大規模な震災が生じれば,建築資材,建物の一部等が周辺に飛散
,,し原告らを含む近隣住民に人的・物的な損害を生じさせる旨主張し
原告P5の陳述書(甲67)には,上記主張に沿う部分がある。
しかしながら,建築工事の着工により現実にどの程度の建築工事関
係車両が走行し,これに伴う騒音,振動,排気ガス等の発生や交通事
故発生の危険が現実にどの程度生ずるかを認めるに足りる的確な証拠
はなく,建築工事の途中で震災が生じた場合の建築資材等の飛散によ
る被害についても,本件マンションの最高の高さが34.7であm
り,原告らの居住場所は本件マンションの敷地部分から約60以m
上離れているところ,そもそも震災時に建築資材等の危険が現実にど
の程度生ずるのか,仮に建築資材等の飛散が生じた場合に,原告らに
対して現実にどの程度の被害が生ずるのかを認めるに足りる的確な証
拠はない。また,この点を措くとしても,原告らの主張に係る上記の
損害は,いずれも当該建築物の建築自体により生ずるものであって,
前記1(3)で検討したとおり,都市計画法53条1項は,原告らの主
張に係る上記の利益を,原告らの個別的利益として保護すべきものと
する趣旨を含んでおらず,このような違法事由は,原告らの自己の法
律上の利益に関係のない違法というべきであるから,上記(ア)の観点
,。から本件訴訟において取消しの理由として主張することはできない
交通量の増大による道路の渋滞,排気ガスの充満等(前記(b))b
原告らは,本件マンションの居住者が乗用する大量の自動車の通行
による道路の渋滞,排気ガスの充満等により,良好な都市環境が阻害
され,近隣住民に多大な生活被害をもたらす旨主張し,P6及び原告
P5の陳述書(甲41,67)には,上記主張に沿う部分があり,ま
た,本件土地周辺の住民等の作成した報告書(甲35,69ないし7
2)によれば,東側道路は,片側1車線の2車線道路ではあるが,本
件土地付近の南方に鉄道の踏切があるために渋滞が発生しやすい状況
にあることが認められる。
しかしながら,本件マンションが完成したときにその居住者が乗用
する自動車によって付近の自動車の交通量が現実にどの程度増加し,
それによって現実にどの程度の渋滞等が生ずるかを認めるに足りる的
確な証拠はない。また,この点を措くとしても,原告らの主張に係る
上記の損害は,いずれも当該建築物の建築及び利用自体により生ずる
ものであって,前記1(3)で検討したとおり,都市計画法53条1項
は,原告らの主張に係る上記の利益を,原告らの個別的利益として保
護すべきものとする趣旨を含んでおらず,このような違法事由は,原
告らの自己の法律上の利益に関係のない違法というべきであるから,
上記(ア)の観点から,本件訴訟において取消しの理由として主張する
ことはできない。
本件マンションの大規模震災時の倒壊等の危険(前記(c))c
原告らは,本件マンションの完成後に大規模な震災があれば,本件
マンションの倒壊による瓦礫の飛散,本件土地周辺の樹木の倒木によ
り,原告らを含む近隣住民に人的・物的な損害を生ずる旨主張し,原
告P5の陳述書(甲67)には,上記主張に沿う部分がある。
,.,しかしながら本件マンションの最高の高さは347でありm
原告らの居住場所は本件マンションの敷地部分から約60以上離m
れているところ,そもそも本件マンションの完成後にマンションの倒
壊等の危険が現実にどの程度生ずるのか,仮に本件マンションの瓦礫
の飛散等が生じた場合に,原告らに対し現実にどの程度の被害が生ず
るのかを認めるに足りる的確な証拠はない。また,この点を措くとし
ても,原告らの主張に係る上記の損害は,いずれも当該建築物の建築
自体により生ずるものであって,前記1(3)で検討したとおり,都市
計画法53条1項は,原告らの主張に係る上記の利益を,原告らの個
別的利益として保護すべきものとする趣旨を含んでおらず,このよう
な違法事由は,原告らの自己の法律上の利益に関係のない違法という
べきであるから,上記(ア)の観点から,本件訴訟において取消しの理
由として主張することはできない(なお,仮に,上記主張について,
避難場所に関する機能を備えた都市計画事業の円滑な施行の支障とな
る事情の主張を含む趣旨と解し得るとしても,その主張に理由のない
ことは,既に前記ア(エ)で説示したとおりである。。)
日照阻害(前記(d))d
原告らは,本件マンションが完成すると,原告らの自宅は,冬至日
において午後2時過ぎから日没まで日影被害を受ける旨主張し,原告
P5の陳述書(甲67)には,上記主張に沿う部分がある。
しかしながら,原告らの自宅は,第一種中高層住居専用地域にある
ところ,日影図(乙6)によれば,本件マンションが完成した場合,
これにより冬至日の真太陽時による午前8時から午後4時までの間に
おいてその自宅敷地の平均地盤面からの高さ4.0mの水平面に生じ
る日影の時間は,2時間に満たないことが認められ,この日影被害は
建築基準法による制限の範囲内である(建築基準法56条の2,別表
第四参照。また,この点を措くとしても,原告らの主張に係る上記)
,,の損害はいずれも当該建築物の建築自体により生ずるものであって
前記1(3)で検討したとおり,都市計画法53条1項は,原告らの主
張に係る上記の利益を,原告らの個別的利益として保護すべきものと
する趣旨を含んでおらず,このような違法事由は,原告らの自己の法
律上の利益に関係のない違法というべきであるから,上記(ア)の観点
,。から本件訴訟において取消しの理由として主張することはできない
良好な景観の喪失と通風の阻害(前記(e))e
原告らは,一部整備済みのβ公園や本件土地の南側に東西に延びる
並木道である「δ湖自転車道」等の良好な景観要素によって形成され
る武蔵野の景観の恵沢を享受してきたが,本件マンションが完成する
と,原告らはその自宅の南方におけるこれらの良好な景観と通風を失
うことになる旨主張し,P6及び原告P5の陳述書(甲41,67)
には,これらの主張に沿う部分がある。
しかしながら,景観については,本件土地の周辺地域の景観が,都
市の良好な景観としての客観的な価値を有し,かつ,その周辺地域に
居住する者がその良好な景観の恵沢を享受する利益が,法律上保護に
値するものと評価し得るか否かについては,証拠上明らかではなく,
仮にそのように評価し得るとしても,それは法的な権利性を有すると
認め得るものではないし(最高裁平成17年(受)第364号同18
),,年3月30日第一小法廷判決・民集60巻3号948頁参照また
通風については,原告らの居住場所は,本件マンションの敷地部分か
ら約60以上離れており,本件土地のうち本件マンションの北側m
部分は公園的空間として整備されることが予定されているところ,本
件マンションの建築により,現実にどの範囲の地域にどの程度の風速
。,・風向等の変化が生ずるかを認めるに足りる的確な証拠はないまた
この点を措くとしても,原告らの主張に係る上記の損害は,いずれも
当該建築物の建築自体により生ずるものであって,前記1(3)で検討
したとおり,都市計画法53条1項は,原告らの主張に係る上記の利
益を,原告らの個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含んで
おらず,このような違法事由は,原告らの自己の法律上の利益に関係
のない違法というべきであるから,上記(ア)の観点から,本件訴訟に
おいて取消しの理由として主張することはできない。
β公園の整備事業を阻害する本件マンションの建築による住民負担f
の増大(前記(f))
,,原告らは本件マンションが多数の者に分譲されることからすると
本件建築許可の前提となった都市計画の変更等により周辺の地価が高
騰していることもあり,将来,東村山市がβ公園区域において都市計
画公園の整備事業を実施するためには,土地の買収費用や本件マンシ
ョン取壊費用など膨大な財政上の出費を余儀なくされることになり,
本件建築許可がされなかった場合と比較して,原告ら東村山市民の経
済的負担も増大する旨主張し,原告P5の陳述書(甲67)には,こ
れらの主張に沿う部分がある。
しかしながら,本件地区計画決定等により周辺の地価がどの程度高
騰しているかを認めるに足りる客観的な証拠はなくまた前記ア(エ),,
で検討したとおり,本件建築許可の結果本件マンションが建築される
ことにより本件建築許可がされない場合と比べて都市計画事業の施行
のための費用が増加するとは一概にいえない。また,この点を措くと
しても,原告らの主張に係る上記の損害は,いずれも当該建築物の建
築自体により生ずるものであって,前記1(3)で検討したとおり,都
市計画法53条1項は,原告らの主張に係る上記の利益を,原告らの
個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含んでおらず,このよ
うな違法事由は,原告らの自己の法律上の利益に関係のない違法とい
うべきであるから,上記(ア)の観点から,本件訴訟において取消しの
(,,,理由として主張することはできないなお仮に上記主張について
本件建築許可による都市計画事業の円滑な施行の支障となる事情の主
張を含む趣旨と解し得るとしても,その主張に理由のないことは,既
に前記ア(エ)で説示したとおりである。。)
したがって,原告らは本件マンションの建築により前記(a)ないしg
(f)の損害が発生するとして,これらを本件建築許可の取消しの理由
として主張するが,上記(ア)の観点から,いずれの主張も失当である
といわざるを得ない。
ウ以上によれば,P1に対し都市計画施設の区域内にある本件土地上に本
件マンションを建築することを許可した本件建築許可における処分行政庁
の判断が,裁量権の範囲を逸脱し又は濫用してされたものということはで
きず,本件建築許可は,適法であるというべきである。
なお,原告らのその余の主張も,上記の判断を左右するものとは認めら
れない。
(2)さらに,原告らは,民設公園制度自体及び本件事業認定が,重大な欠陥
を有し違法であり,これを前提としてされた本件地区計画決定等も違法であ
る以上,本件建築許可は,著しく不合理であり違法であるとも主張し,その
取消しを求めているので,以下検討する。
ア(ア)原告らは,本件実施要綱に基づき建設される公園的空間をその敷地
とした高層マンションは,その存在自体が,将来における都市計画公園
事業の実施をほぼ確実に不可能とするものであるから,本件実施要綱及
びこれに基づく民設公園制度は,著しく不合理で違法であり,本件実施
要綱等を前提としてされた本件建築許可は,本件原計画決定に従った合
理的な土地利用とはいえないのみならず,将来の公園整備事業の円滑な
,,施行にとって重大な障害がないと判断した点において経験則に違反し
,,著しく不合理であり裁量権を逸脱し又は濫用したもので違法であって
本件建築許可は,その違法を承継する旨主張する。
しかしながら,本件建築許可には,別紙許可条件のとおりの条件が付
され,その許可条件には,民設公園制度の根拠である本件実施要綱に基
づき,本件民設公園に係る本件事業認定の認定計画の確実な実施及び本
件事業施行契約の内容について確実な履行を行うべきことが含まれてい
る(別紙許可条件2前段)ことからすると,本件建築許可が違法である
か否かを検討するに際しては,法令上の制度ではない民設公園制度自体
の違法の有無を独自に取り上げて検討する必要はなく,前記のとおり民
設公園制度及び本件民設公園に係る本件実施要綱及び本件事業認定を前
提として別紙許可条件のとおりの条件を付してされた本件建築許可その
ものが違法であるか否かをその許可条件の適否を含めて検討すれば足り
るというべきである。そして,前記(1)で検討したとおり,本件実施要
綱及び本件事業認定を前提として建設される公園的空間をその敷地とす
る本件マンションの建築が,将来における都市計画公園事業の円滑な施
行に支障を来すことになるものではないと評価したことが明らかに合理
性を欠くものであるということはできない以上,その判断に裁量権の範
囲の逸脱又は濫用があるとはいえず,別紙許可条件のとおりの条件を付
してされた本件建築許可は適法というべきであるから,原告らの上記主
張は失当である。
(イ)原告らは,本件事業認定は,(a)β公園区域内に大規模マンション
が屹立することを認めるもので,将来の都市計画公園の整備にとって重
大な障害となるものであるから,都市計画法3条1項に違反して違法で
あり,(b)本件土地上に戸建て住宅が建築されることを前提に,建ぺい
率・容積率の制限,分割最小宅地面積の制限,緑化義務の負担等を課す
るなど,集合住宅の建築を認める本件事業認定よりも合理的な手段もあ
るから,都市計画実現のための手段としての合理性がなく違法であり,
(c)大規模高層マンションの建築により,都市計画により長い年月をか
けて形成された低層住宅中心の地域の街並みや良好な景観が破壊される
一方,本件民設公園は,震災時には本件マンションの多数の居住者が本
件民設公園に避難することが予想されるので,地域住民が避難場所とし
て十分に機能するとは想定し難く,被告の主張するオープンスペースの
確保という本件事業認定が生み出す価値は,それによって失われる価値
を上回るものではないから違法であって,本件建築許可は,その違法を
承継する旨主張する。
しかしながら,前記(ア)と同様,本件建築許可が違法であるか否かを
検討するに際しては,本件事業認定の違法性を独自に取り上げて検討す
る必要はなく,前記のとおり本件実施要綱及び本件事業認定を前提とし
て別紙許可条件のとおりの条件を付してされた本件建築許可そのものが
違法であるか否かをその許可条件の適否を含めて検討すれば足りるとい
うべきである。そして,前記(1)で検討したとおり,本件事業認定を前
提として建設される公園的空間をその敷地とする本件マンションの建築
が,将来における都市計画公園事業の円滑な施行に支障を来すことにな
るものではないと評価したことが明らかに合理性を欠くものであるとい
うことはできない以上,その判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用がある
とはいえず,別紙許可条件のとおりの条件を付してされた本件建築許可
は適法というべきであるから,原告らの上記主張は失当である。
イまた,原告らは,本件地区計画決定等(本件地区計画決定及び本件用途
地域等変更決定)が違法であるから,本件建築許可は,その違法を承継す
る旨主張する。
(ア)そこで検討するに,本件地区計画決定は,都市計画法12条の5に
基づき,本件用途地域等変更決定は,同法8条1項,3項に基づき,そ
れぞれされたものであって,本件地区計画決定等が告示されて効力を生
ずることにより,指定された地区内では,本件地区計画決定によって定
められた建築物の容積率の最高限度,建ぺい率の最高限度,敷地面積の
最低限度及び高さの最高限度並びに本件用途地域等変更決定によって定
められた建築物の用途,容積率,建ぺい率等に適合しない建築物につい
ては,建築確認を受けることができず,ひいてはその建築等をすること
ができないことになるから(建築基準法6条,6条の2,本件地区計)
画決定等が仮に違法であるとした場合,そのことを理由に建築確認を争
うことはできるというべきである。
しかしながら,53条許可は,前記(1)ア(ア)のとおり,都市計画事
業の円滑な施行に支障を来すことを未然に防止し,もって,この事業の
円滑な施行を確保することを目的とするものであるところ,都道府県知
事によって,当該都市計画事業の具体的な内容,進ちょく状況及び今後
の見通し,当該建築物の構造・形状,敷地の位置・形状等の諸般の事情
を総合的に考慮した上,政策的,技術的な見地に立ち,専ら,当該建築
物の建築を許可することにより将来の具体的な都市計画事業の円滑な施
行に支障を来すことになるか否かの観点から,その建築の許否が判断さ
れるのであって,その建築の許否の判断において,容積率,建ぺい率等
の本件地区計画決定等で定められた事項に適合するか否かに必ずしも拘
束されるものではないのであるから,本件地区計画決定等が仮に違法で
あるとしても,そのことを理由として直ちに53条許可である本件建築
許可が違法となるものではないというべきである。
したがって原告らの上記主張はその余の点前記第2の4(2)原,,((
告らの主張の要旨)イ(ウ)の(a)ないし(d))について判断するまでも
なく,失当である。
(イ)なお,原告らは,本件実施要綱4(3)において,本件土地のように
10未満の土地を事業対象土地とするには,地元区市町の民設公園ha
事業の実施について要請があることを要件としていることからすると,
被告は,住民の意見を実質的にくみ取る必要があるところ,東村山市が
あえて「公園ができる」との虚偽の内容を強調したため民設公園事業に
つき誤解した一部近隣住民が民設公園制度活用の要請書を提出したにす
ぎないにもかかわらず,住民の意見を十分くみ取らないまま事業認定を
行ったのであるから,本件事業認定は,実質上,上記要件を欠く違法な
ものであり,したがって,本件事業認定を前提とした本件地区計画決定
等は,適正手続の要請に反し違法である旨主張しているところ(前記第
2の4(2)(原告らの主張の要旨)イ(ウ)の(d),この主張は本件建築)
許可に係る適正手続違反の主張と解する余地もあり得るので,以下,念
のため付言する。
原告らの挙げる本件実施要綱4(3)は,都知事において,例えば事業
対象土地の近隣住民から賛否を含む意見を聴取してこれを民設公園事業
の認定又は不認定の結果や民設公園事業の内容等に反映させるべきこと
などを定めておらず,単に「地元区市町の民設公園事業の実施について
要請があること」と定めている以上,これは専ら事業対象土地が所在す
る区市町の地方公共団体としての要請を要件とするものと解されるので
あって,本件実施要綱4(3)を根拠として本件事業認定及びその後続の
手続が住民の意見聴取の観点から適正手続の要請に反し違法であるとす
る原告らの主張は,失当であるというべきである。また,本件実施要綱
8(2)は,民設公園事業者において,事前協議の手続の一環として,近
隣説明会の開催を行うべきものと定め,都知事においても,民設公園事
業者からの事前協議の申請を受けて,申請に係る都市計画公園・緑地に
おける民設公園事業について,事業対象土地が所在する区市町に対し説
明と意見照会を行うべきものと定めており,区市町が民設公園事業者と
ともに事業対象土地の近隣住民の理解を得られるよう十分な説明を行う
こともその定めの趣旨に沿うものと解されるところ,証拠(甲33,5
,,),,1ないし5355ないし57乙10の2によれば①東村山市は
平成18年6月21日から同年月にかけての少なくとも3回,本件7
土地の近隣住民に対し,本件土地につき,民設公園制度を活用するとと
もに,都市計画法に基づく地区計画の決定及び用途地域等の変更を通じ
て,本件土地の所有者が本件土地上に中高層の集合住宅を建築すること
を許容する代わりに本件土地の約7割の部分に公園的空間を設置させる
ことにより,公園的空間を整備する方向で検討していることなどを説明
して理解を求めるなどし,初回の同年6月21日から,民設公園制度を
活用した場合,本件土地の約7割の部分に公園的空間ができ,3割の部
分に高さ45(15階建て)程度の集合住宅が建築されると想定さm
れることなどの具体的な説明もしていること,②P1は,平成18年8
月22日から平成19年5月8日までの合計10日間にわたり,本件土
地の近隣住民への説明会等を行うとともに,その間の平成18年11月
(民設公園事業の申請前)には,当初は高さ42(14階)であっm
た本件マンションの建築計画について,近隣住民の意見を受けて,高さ
35(11階建て)へと変更もしていること等の事実が認められ,m
これらの経緯からすると,本件土地を含むβ公園区域に係る都市計画の
事業主体となる東村山市及び本件民設公園の民設公園事業者となるP1
は,本件土地の近隣住民の理解を得るため,説明会の開催等により多数
回にわたり計画の具体的な説明を行い,近隣住民の意見に対する譲歩と
して建築物の高さを減ずる建築計画の変更を行うなど,近隣住民の意見
への配慮にも相応に努めているということができるのであって,本件実
施要綱8(2)の定めに照らしても,本件事業認定及びその後続の手続が
住民の意見聴取の観点から適正手続の要請に反し違法であるとする原告
らの主張は,失当であるというべきである。
,。(3)以上の検討によれば本件建築許可が違法であるということはできない
3なお,原告らは,平成20年7月23日付けで,原告P5の本人尋問並びに
P4,P6及びP7の証人尋問の申出をしたほか,本件訴えの口頭弁論終結後
の同年10月2日付けで弁論再開申立書を提出の上,同日付けで,弁論再開を
必要とする理由としてP8の証人尋問の申出をしている。
しかしながら,(1)原告P5,P4及びP6に関しては,各人が作成した比
較的詳細な陳述書又は意見書(甲41,67,68)によれば,原告らの主張
に係る損害等の内容を把握することができることから,尋問の必要性がなく,
(2)P7に関しては,同人は東村山市都市整備部長であるところ,原告らは,
同人の証人尋問に係る証明すべき事実として,(ア)東村山市が本件地区計画決
定を行うに当たり必要な基礎調査や代替案の検討を行わなかったこと,(イ)被
告及び東村山市が,本件土地の近隣住民に対し,民設公園制度による本件マン
ションの建築計画について適切な説明を怠ったことを挙げるが,上記(ア)につ
いては,前記2(2)イ(ア)のとおり,本件地区計画決定が違法であるならば本
,,件建築許可も違法となる旨の原告らの主張は失当であり上記(イ)についても
前記2(2)イ(イ)のとおり,本件事業認定が,住民の意見を十分にくみ取って
おらず適正手続の要請に反し違法である旨の原告らの主張は失当であるから,
いずれも,失当な主張に係る証拠の申出といわざるを得ず,尋問の必要性がな
い。また,(3)P8に関しては,同人は東京都都市整備局都市基盤部公園緑地
計画担当課長であるところ,原告らは,同人の証人尋問に係る証明すべき事実
として,(ア)都知事及び処分行政庁が本件事業認定及び本件建築許可に当たっ
て行ったβ公園区域内の都市計画事業の施行に対する影響及び近隣住民に対す
る影響の評価の内容・方法,(イ)本件用途地域等変更決定には基礎調査等を欠
く違法があること,(ウ)本件事業認定に伴う本件マンションの建築計画に関す
る本件土地の近隣住民への説明が不十分であったことを挙げるが,そもそも,
この証人尋問の申出は,7回の口頭弁論期日を経て口頭弁論が終結された後に
されたものであって,時機に後れたものといわざるを得ない上,この点を措く
としても,上記(ア)については,当該評価の内容・方法の当否(すなわち,裁
量権の逸脱・濫用の有無)は法的な評価・判断の問題であるから,尋問の必要
性はなく,上記(イ)については,前記2(2)イ(ア)のとおり,本件用途地域等
変更決定が違法であるならば本件建築許可も違法となる旨の原告らの主張は失
,,,,当であり上記(ウ)については前記2(2)イ(イ)のとおり本件事業認定が
住民の意見を十分にくみ取っておらず適正手続の要請に反し違法である旨の原
告らの主張は失当であるから,いずれも失当な主張に係る証拠の申出といわざ
るを得ず,尋問の必要性がないので,口頭弁論を再開して更に審理する必要は
ないというべきである。
第4結論
よって,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費
用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文
を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官岩井伸晃
裁判官三輪方大
裁判官小島清二

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