弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告人らの上告理由一について
 原判決添付の別表第一の議員定数配分に基づき適法な議員定数配分規定を示すこ
とを求める上告人らの訴えを不適法とした原審の判断は、正当として是認すること
ができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。
 同二ないし五について
一 東京都議会の議員の定数、選挙区及び選挙区への定数配分は、平成五年六月二
七日当時、次のとおり定められていた。すなわち、都道府県の議会の議員の定数に
ついては、地方自治法により、その人口数に応じた定数の基準等が定められている
が(九〇条一項)、都にあっては特別区の存する区域の人口を一〇〇万人で除して
得た数(ただし、一三〇人を定限とする。)を限度として条例で増加をすることが
でき(同条二項)、右一、二項による議員の定数は、条例で特にこれを減少するこ
とができるものとされている(同条三項)。そして、都道府県議会の議員の選挙区
については、公職選挙法(平成六年法律第二号による改正前のもの。以下「公選法」
という。)により、郡市の区域によるものとし(同法一五条一項)、ただし、その
区域の人口が当該都道府県の人口を当該都道府県議会の議員の定数をもって除して
得た数(以下「議員一人当たりの人口」という。)の半数に達しないときは、条例
で隣接する他の郡市の区域と合わせて一選挙区を設けなければならず(同条二項。
以下「強制合区」という。)、その区域の人口が議員一人当たりの人口の半数以上
であっても議員一人当たりの人口に達しないときは、条例で隣接する他の郡市の区
域と合わせて一選挙区を設けることができるものとされている(同条三項)。もっ
とも、強制合区については例外が認められており、昭和四一年一月一日当時におい
て設けられていた選挙区については、当該区域の人口が議員一人当たりの人口の半
数に達しなくなった場合においても、当分の間、条例で当該区域をもって一選挙区
を設けることができる(同法二七一条二項。以下、この規定によって存置が認めら
れた選挙区を「特例選挙区」という。)。このようにして定められた各選挙区にお
いて選挙すべき議員の数は、人口に比例して、条例で定めなければならないが(同
法一五条七項本文)、特別の事情があるときは、おおむね人口を基準とし、地域間
の均衡を考慮して定めることができるとされている(同項ただし書)。そして、特
別区は、公選法の各規定の適用に当たって市と同様に扱われるが(公選法二六六条
一項)、議員の定数配分に当たっては、特別区の存する区域以外の区域を区域とす
る各選挙区において選挙すべき議員の数を、特別区の存する区域を一の選挙区とみ
なして定め、特別区の区域を区域とする各選挙区において選挙すべき議員の数を、
特別区の存する区域を一の選挙区とみなした場合において当該区域において選挙す
べきこととなる議員の数を特別区の区域を区域とする各選挙区に配分することによ
り定めることができるとされている(同条二項)。
 右の各規定からすれば、議員の法定数を増減するかどうか、特例選挙区を設ける
かどうか、議員定数の配分に当たり人口比例の原則を修正するかどうかについては、
東京都議会にこれらを決定する裁量権が原則として与えられていると解される。
二 そこで、本件における議員定数配分の適否について検討する。
 1 特例選挙区に関する公選法二七一条二項の規定は、社会の急激な工業化、産
業化に伴い、農村部から都市部への人口の急激な変動が現れ始めた状況に対応した
ものであるが、また、郡市が、歴史的にも、政治的、経済的、社会的にも独自の実
体を有し、一つの政治的まとまりを有する単位としてとらえ得ることに照らし、こ
の地域的まとまりを尊重し、これを構成する住民の意思を都道府県政に反映させる
ことが、市町村行政を補完しつつ、長期的展望に立った均衡のとれた行政施策を行
うために必要であり、そのための地域代表を確保することが必要とされる場合があ
るという趣旨の下に、昭和四一年法律第七七号による公選法の改正により現行の規
定となったものと解される。そして、具体的にいかなる場合に特例選挙区の設置が
認められるかについては、客観的な基準が定められているわけではないから、結局、
右のような公選法二七一条二項の規定の趣旨に照らして、当該都道府県の行政施策
の遂行上当該地域からの代表を確保する必要性の有無・程度、隣接の郡市との合区
の困難性の有無・程度等を総合判断して決することにならざるを得ないところ、そ
れには当該都道府県の実情を考慮し、当該都道府県全体の調和ある発展を図るなど
の観点からする政策的判断をも必要とすることが明らかである。したがって、特例
選挙区の設置を適法なものとして是認し得るか否かは、この点に関する都道府県議
会の判断が右のような観点からする裁量権の合理的な行使として是認されるかどう
かによって決するよりほかはない。もっとも、都道府県議会の議員の選挙区に関し
て公選法一五条一項ないし三項が規定しているところからすると、同法二七一条二
項は、当該選挙区の人口を議員一人当たりの人口で除して得た数(以下「配当基数」
という。)が〇・五を著しく下回る場合には、特例選挙区の設置を認めない趣旨で
あると解されるから、このような場合には、特例選挙区の設置についての都道府県
議会の判断は、合理的裁量の限界を超えているものと推定するのが相当である。以
上は、当審の判例の趣旨とするところである(最高裁昭和六三年(行ツ)第一七六
号平成元年一二月一八日第一小法廷判決・民集四三巻一二号二一三九頁、最高裁平
成元年(行ツ)第一五号同年一二月二一日第一小法廷判決・民集四三巻一二号二二
九七頁、最高裁平成四年(行ツ)第一七二号同五年一〇月二二日第二小法廷判決・
民集四七巻八号五一四七頁)。
 そこで、東京都議会議員の定数並びに選挙区及び各選挙区における議員の数に関
する条例(昭和四四年東京都条例第五五号。以下「本件条例」という。)について
みると、原審の適法に確定するところによれば、(1) 東京都議会においては、平
成五年六月二七日施行の東京都議会議員の選挙(以下「本件選挙」という。)に先
立ち、東京都議会各会派代表一五名で構成する東京都議会議員定数等検討委員会を
設置し、合計一二回の審議を重ねるとともに、併行して小委員会を一五回開催して、
定数是正問題等について全面的検討を行うこととし、平成二年の国勢調査の結果の
ほか、他県における定数問題の状況、今後の人口予測、東京都の特殊性などを考慮
して、定数是正問題について審議、検討を行った、(2) 平成二年の国勢調査の結
果によれば、千代田区選挙区の人口が議員一人当たりの人口の半数に達しないこと、
その配当基数は〇・四二六であることが明らかになった、(3) 東京都議会では、
平成四年六月一七日、右小委員会及び東京都議会議員定数等検討委員会の検討結果
を踏まえて本件条例の改正を行ったが(以下「本件改正」という。)、この改正に
当たり、千代田区選挙区については、その配当基数が〇・五を著しく下回るもので
はないこと、千代田区が我が国の政治的、経済的中枢として担ってきた歴史的かつ
独自の意義、役割及び特別区制度における地域代表としての議員の必要性等を考慮
して、これを特例選挙区として存置することにしたというのである。
 右の事実関係によれば、東京都議会は、千代田区が我が国の政治的、経済的中枢
として担ってきた歴史的かつ独自の意義、役割及び特別区制度における地域代表と
しての議員の必要性などを考慮し、東京都全体の調和ある発展を図るなどの観点か
ら、千代田区選挙区を特例選挙区として存置することの必要性を判断し、地域間の
均衡を図るための諸般の要素を考慮した上で、これを特例選挙区として存置するこ
とを決定したものということができる。そして、千代田区選挙区の配当基数は、い
まだ特例選挙区の設置が許されない程度に至っていないことは明らかであるし、他
に、東京都議会が、本件改正後の本件条例において千代田区選挙区を特例選挙区と
して存置したことが社会通念上著しく不合理であることが明らかであると認めるべ
き事情もうかがわれない。所論主張のような原因によって千代田区の人口が減少し
たことは、右の判断を左右するものではない。したがって、同議会が同選挙区を特
例選挙区として存置したことは、同議会に与えられた裁量権の合理的な行使として
是認することができるから、本件改正後の本件条例が千代田区選挙区を特例選挙区
として存置したことは適法である。
 2 次に、都道府県議会の議員の選挙に関し、当該都道府県の住民が、その選挙
権の内容、すなわち投票価値においても平等に取り扱われるべきであることは憲法
の要求するところであると解すべきであり、公選法一五条七項は、憲法の右要請を
受け、都道府県議会の議員の定数配分につき、人口比例を最も重要かつ基本的な基
準とし、各選挙人の投票価値が平等であるべきことを強く要求しているものと解さ
れる。もっとも、前記のような都道府県議会の議員の定数、選挙区及び選挙区への
定数配分に関する法の定めからすれば、同じ定数一を配分された選挙区の中で、配
当基数が〇・五をわずかに上回る選挙区と配当基数が一をかなり上回る選挙区とを
比較した場合には、右選挙区間における議員一人に対する人口の較差が一対三を超
える場合も生じ得る。まして、特例選挙区を含めて比較したときには、右の較差が
更に大きくなることは避けられないところである。また、公選法一五条七項ただし
書は、特別の事情があるときは、各選挙区において選挙すべき議員の数を、おおむ
ね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができるとしているところ、
右ただし書の規定を適用していかなる事情の存するときに右の修正を加え得るか、
また、どの程度の修正を加え得るかについて客観的基準が存するものでもない。し
たがって、定数配分規定が公選法一五条七項の規定に適合するかどうかについては、
都道府県議会の具体的に定めるところが、前記のような選挙制度の下における裁量
権の合理的な行使として是認されるかどうかによって決するほかはない。しかし、
定数配分規定の制定又はその改正により具体的に決定された定数配分の下における
選挙人の投票の有する価値に不平等が存し、あるいはその後の人口の変動により右
不平等が生じ、それが都道府県議会において地域間の均衡を図るため通常考慮し得
る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、一般的に合理性を有するものとは考えられ
ない程度に達しているときは、右のような不平等は、もはや都道府県議会の合理的
裁量の限界を超えているものと推定され、これを正当化すべき特別の理由が示され
ない限り、公選法一五条七項違反と判断されざるを得ないものというべきである。
以上は、当審の判例の趣旨とするところである(前掲各小法廷判決)。
 そこで、原審の適法に確定した事実に基づき、本件改正後の本件条例における定
数配分の状況についてみると、本件選挙当時においては、特例選挙区を除いたその
他の選挙区間における議員一人に対する人口の最大較差は一対二・〇四(中央区選
挙区対武蔵野市選挙区。以下、較差に関する数値は、いずれも概数である。)、特
例選挙区とその他の選挙区間における右最大較差は一対三・五二(千代田区選挙区
対武蔵野市選挙区)であり、いわゆる逆転現象は一八通りあるが、定数二人の顕著
な逆転現象は一通りのみであった。そして、本件選挙当時における各選挙区の配当
基数に応じて定数を配分した人口比定数(公選法一五条七項本文の人口比例原則に
基づいて配分した定数)を算出してみると、右人口比定数による議員一人に対する
人口の最大較差は、特例選挙区を除くその他の選挙区間においても、特例選挙区と
その他の選挙区間においても、本件条例の下における右の較差と同一の値となるの
であって、本件条例の定数配分規定の下における議員一人に対する人口の最大較差
は、特例選挙区の設置を含む前記の選挙区割に由来するものということができる。
 公選法が定める前記のような都道府県議会の議員の選挙制度の下においては、本
件選挙当時における右のような投票価値の不平等は、東京都議会において地域間の
均衡を図るために通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、一般的に合
理性を有するものとは考えられない程度に達していたものとはいえず、同議会に与
えられた裁量権の合理的な行使として是認することができる。したがって、本件改
正後の本件条例に係る定数配分規定は、公選法一五条七項に違反するものではなく、
適法というべきである。
三 結論
 以上と同旨の原審の判断は正当として是認することができ、論旨は採用すること
ができない。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、
裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    中   島   敏 次 郎
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    河   合   伸   一

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