弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人は無罪。
         理    由
 弁護人川上広蔵の控訴の趣旨は別紙控訴趣意書記載の通りであるから、これに対
し当裁判所は次の通り判断する。
 <要旨>第一点について、地方税法第百二十六条の徴税吏員の質問権検査権国家公
務員法第百九条第十二号の国家公務員の秘密漏泄罪等と照応して考えるとき
は地方税法第百三十八条に所謂秘密は自然人たると法人たるとを問わず調査の対象
となる者の秘密を指称し、徴税主体たる地方団体やその機関の徴税上の秘密を包含
しないものと解するを相当とする。これを本件についてみるに、本件公訴事実は末
段掲記の通りであつて要するに被告人は昭和二十四年度島根県事業税(第一種)所
得審査委員として松江市同年度事業税(第一種)所得審査委員会席上において八束
地方事務所長の代理者より松江市内昭和二十四年度事業税(第一種)の納税義務者
約二千七、八百名につきその住所氏名業種別諮問所得額等を記載した「課税標準諮
問調書」と題する書面一冊を係員よりその内容は秘密事項として取扱われたき旨の
要請の下に交付を受けたに拘わらず、これをAに貸与し所得審査委員としての事務
に関し知り得た秘密を漏らしたものであると言うのであるが、右諮問調書の記載は
それ自体納税義務者の個人的秘密とするに足らぬものであるからたといそれが右委
員会としての秘密事項であり、従つて徴税主体たる地方団体やその機関の秘密であ
つても右地方税法に所謂秘密ではなく、従つてこれを漏らしたからといつて被告人
の所為は地方税法第百三十八条の処罰の対象にならないものであるといわねばなら
ぬ。然るに原審ことこゝに出でず処罰の対象になるものとして被告人の所為を同条
に問擬したのは法令の適用に誤りがありこの誤が判決に影響を及ぼすことが明らか
であるから原判決はこの点において到底破棄を免れない。論旨理由あり。よつてそ
の余の控訴趣意に対する判断を省略し刑事訴訟法第三百九十七条を適用して原判決
を破棄し同法第四百条但書により被告事件について更に判決をする。
 本件公訴事実は被告人は島根県所得審査委員会の昭和二十四年度松江市第一種事
業所得審査会員として、松江市第一種事業税の課税標準たる各納税義務者の所得の
調査審議に関する事務に従事していたものであるが、昭和二十四年八月三十一日右
委員会において交付された秘密事項である松江市内の各納税義務者の昭和二十四年
度第一種事業所得諮問額を記載した松江市事業税第一種課税標準諮問調書を同年九
月初頃自己居宅においてB党島根県地方委員会機関紙新島根編輯発行人Aに対し同
人が右事業所得諮問額を「事業税をあばく」と題するパンフレツトに掲載発行して
一般に公表する資料に便用することの情を知りながら、貸与利用せしめ以て所得審
査委員としての事務に関して知り得た秘密を漏らしたものであると言うにあるけれ
ども前叙の理由により刑事訴訟法第三百三十六条を適用して無罪とする。
 (裁判長判事 平井林 判事 久利馨 判事 藤間忠顕)

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