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平成20年2月18日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成18年(ワ)第8836号不当利得金返還請求事件
(口頭弁論終結の日平成19年12月3日)
判決
原告株式会社サンライト
原告株式会社マルフク
両名訴訟代理人弁護士水田博敏
被告株式会社多川商事
訴訟代理人弁護士礒川剛志
同寺中良樹
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告株式会社サンライト(以下「原告サンライト」という。)に対
し,1123万5000円及びこれに対する平成18年9月9日(訴状送達の
日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2被告は,原告株式会社マルフク(以下「原告マルフク」という。)に対し,
3150万円及びこれに対する平成18年9月9日(訴状送達の日の翌日)か
ら支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
原告らは被告との間で,被告が有する特許権等について通常実施権許諾契約を
締結していた株式会社(原告サンライトは契約時点では有限会社)である。原告
らは,原告らの製品である発光ブロックないしその改良前製品である他社の発光
タイルが上記特許権の技術的範囲に属すると誤認して上記通常実施権許諾契約を
締結したものであるが,実際には抵触していなかったことを前提とし,同契約は,
①被告が虚偽の説明をしたため誤認したことにより締結したものであるから詐欺
により取り消した,②要素の錯誤により無効である,として同契約により通常実
施料及び経常実施料として支払った金額の不当利得金返還及びこれに対する遅延
損害金支払を請求する訴訟である。
1基礎となる事実(証拠によって認定した事実は末尾に証拠を掲げた。それ以
外は争いがない事実又は弁論の全趣旨により容易に認定できる事実である。)
(1)被告の特許権
被告は下記特許(以下「本件特許」といい,その特許権を「本件特許権」,
その特許発明を「本件発明」という。)の特許権者である(本件特許権の出
願日,登録日につき甲2)。
ア特許番号第2964859号
イ発明の名称太陽電池装置
ウ出願日平成5年12月22日
エ登録日平成11年8月13日
(2)本件特許の特許請求の範囲
本件特許の特許請求の範囲は,本判決添付の本件特許の特許公報(以下
「本件特許公報」という。)の特許請求の範囲の記載のとおりである(甲
2)。なお,特許請求の範囲請求項1を以下にも記載しておく。
一日の日射量が雨天あるいは曇天の場合を想定し,その想定した雨
天あるいは曇天の日射量で負荷が一日に消費する電力を発電するだけ
の容量を有し,日陰の場所にて設置可能な太陽電池と,
前記太陽電池が発電した電力を蓄積し,負荷が一日に消費する当日
分の負荷電力を供給するだけの蓄電容量を有する電気二重層コンデン
サと,
周囲の照度が設定値を越える場合には前記太陽電池からの電力を前
記電気二重層コンデンサに充電し,周囲の照度が設定値以下の場合に
は前記電気二重層コンデンサに蓄積された電力を負荷に供給して毎日
充放電を繰り返すという制御を前記太陽電池の出力を検出することに
基づいて行う負荷制御回路とからなることを特徴とする太陽電池装置。
(3)原告サンライトと被告との契約(以下「本件契約1」という。)
平成15年10月18日,原告サンライトと被告は,次の契約を締結した
(契約の内容につき甲1の1)。
ア被告は,原告サンライトに対し,被告の有する本件特許権及び特許第2
128738号特許権(特許の名称電気二重層コンデンサを用いたコー
ドレス機器の充電器)について通常実施権を許諾する。(2条)
イ通常実施権許諾の対価として原告サンライトは被告に対し,実施許諾料
1000万円(消費税別)を契約締結時に支払う,経常実施料は契約期間
中に原告サンライトが販売する許諾製品の販売価格の5%とする。(3条
(1),(2))
ウ本件契約1締結日より2年(24か月)後,原告サンライトは被告に対
し,毎月最低20万円以上の経常実施料の支払いをするものとし,その支
払いを1回でも怠ったときは,被告は本件契約1を原告サンライトの承諾
を得ることなく即時解約することができる。(16条の(1)⑩)
(4)原告サンライトによる実施許諾料及び経常実施料の支払い
原告サンライトは被告に対し,同日ころ,上記実施許諾料1050万円
(1000万円と消費税50万円)を支払った。
原告サンライトは,被告に対し,平成17年11月から平成18年5月に
かけて,経常実施料として合計73万5000円(消費税込み)を支払った。
これは,被告から原告サンライトに対し,本件契約1締結から2年を経過し
たから実施の有無に関わりなく経常実施料を支払うよう申し入れたため(本
件契約1の前記(3)ウの約定参照),これに応じて原告サンライトが支払っ
たものである(ただし,合意により経常実施料額は毎月10万円(消費税
別)と減額された。)。
(5)原告マルフクと被告との契約(以下「本件契約2」という。)
平成16年6月18日,原告マルフクと被告は,次の契約を締結した(契
約の内容につき甲1の2)。
ア被告は,原告マルフクに対し,被告の有する本件特許権の通常実施権及
び3件の商標権(商標登録番号第4235995号(商標の文字は「S
olarApollo」),第4764262号(商標の文字は「TA
GAWATILE」),第4470512号(商標の文字は「TAGA
WABLOCK」)の通常使用権を許諾する。(2条)
イ通常実施権許諾の対価として原告マルフクは被告に対し実施許諾料30
00万円(消費税別)を契約締結時に支払う,経常実施料(経常使用料も
含まれるものとする。)は契約期間中に原告マルフクが販売する許諾製品
の販売価格の6%とする。(3条(1),(2))
(6)原告マルフクによる実施許諾料の支払い
原告マルフクは被告に対し,同日ころ,上記実施許諾料3150万円(3
000万円と消費税150万円)を支払った。
(7)原告らと被告との契約(以下「本件修正契約」という。)
平成16年10月25日,原告らと被告は,次の契約を締結した(契約の
内容につき甲1の3)。
ア被告は,原告サンライトに対し,被告の有する本件特許権の通常実施権
及び前記3件の商標権の通常使用権を許諾する。(2条)
イ実施許諾料は0円とする,経常実施料は契約期間中に原告サンライトが
販売する許諾製品の販売価格の6%とする。原告サンライトは,上記経常
実施料のうち,4%を被告に,2%を原告マルフクに支払うものとする。
(3条(1),(2))
(8)本件特許権と原告サンライトの製品の関係
ア本件特許の出願時の特許請求の範囲の記載は,「一日の日射量が雨天あ
るいは曇天の場合を想定し,その想定した雨天あるいは曇天の日射量で負
荷が一日に消費する電力を発電できる容量を有する太陽電池と,少なくと
も負荷が一日に消費する電力に見合う蓄電容量を有する電気二重層コンデ
ンサとからなる太陽電池装置」であった(甲12)。これに対し,特許庁
から,特開昭58−63031号公報を引用例1として,「蓄電装置に電
気二重層コンデンサを用いることは引用例1に記載されている。曇天時等
の受光量の少ない場合を想定して太陽電池の出力を設定すること,また,
蓄電容量を負荷の一日程度の消費電力に対応した容量とすることは,それ
ぞれ・・・適宜なし得たものと認められる。」旨の理由で進歩性がないと
の拒絶理由通知がなされるなどし,補正の結果,現在の特許請求の範囲で
特許査定されたものである(甲3,11,13)。
イ現在の本件特許の特許請求の範囲では,発光,消光の切替えは,その制
御を太陽電池の出力を検出することに基づいて行うとされている(以下
「電圧方式」という。)。したがって,フォトトランジスタの信号により
照度を検出することにより制御を行うタイプ(以下「センサー方式」とい
う。)の太陽電池装置は,本件特許の範囲に形式上含まれない。
原告サンライトは,太陽電池装置を自社製品として販売しているが(以
下,これを「原告サンライト製品」という。),原告らが原告サンライト
製品の制御基板のものとして提出した図面と動作説明書では,原告サンラ
イト製品は,フォトトランジスタ12の信号により照度を検出することに
より発光,消光の制御を行うもの(センサー方式)となっている(甲9,
10)。また,平成18年1月現在の原告サンライト製品のカタログには,
「フォトセンサー」を使用している旨の記載があり(甲4),原告サンラ
イト製品と同種の製品の回路図では,センサーが放電開始機能を行ってい
る(乙13)。
2争点
(1)詐欺による取消し
ア原告らの主張
(ア)前提事情
本件特許権は,「太陽電池と電気二重層コンデンサを組み合わせた装
置のうちの『電圧制御』によるもの」に限定されている。
ところが,被告は,平成12年に,朝日放送(又はテレビ朝日。以下
「朝日放送」という。)を騙し,あたかも本件特許が太陽電池と電気二
重層コンデンサを組み合わせた「今までは発電できてもそれを蓄電でき
なかったところ,電気二重層コンデンサに蓄電を可能にした比類なき画
期的なもの」と誤解させ,その後4年間にわたり,番組「ニュースステ
ーション」で,その旨及び本件発明の発明者であるP1教授の「太陽電
池で発電した電気を二重層コンデンサに蓄電することが特許」との発言
を同教授の映像入りで放送させた(以下「本件放送」という。)。
本件放送が主たる要因となったと思われるが,三洋電機株式会社の関
連会社である三洋リビングサプライ株式会社(以下「三洋リビングサプ
ライ」という。)を始めとする関連業界が,「太陽電池と電気二重層コ
ンデンサを利用する太陽電池装置はすべて本件特許に抵触する」と誤信
し,三洋リビングサプライにおいては製造している商品が被告の特許に
基づくものではないにもかかわらず実施料を支払うこととなった。
平成15年中ごろ,原告サンライトは,三洋リビングサプライやその
下請けであるP2の関係者から,上記誤信に基づく同旨の説明を受け,
この説明等により,原告サンライトもその旨誤信するようになった。
(イ)原告サンライトに対する欺罔
被告の実質的な代表者であるP3は,平成15年10月4日,原告サ
ンライトの誤信を知ったから,同原告に対し,真実を告げた上で実施許
諾契約の交渉に当たるべき義務があった。ところが,P3は,この義務
を怠ったどころか,逆に4年分の本件放送の録画を見せ,原告サンライ
トの錯誤を更に強固にした。
同放送において,本件発明の発明者と紹介されたP1教授は「太陽電
池と電気二重層コンデンサを組み合わせたものが特許だ」「コンデンサ
に太陽電池で発電した電気を蓄えるのが特許だ」と説明している。それ
とともに,朝日放送が「この基本特許を管理しているのがP3さんで
す」と説明している。
この録画を見せるというP3の行為は,見る者に対して,「自分が管
理する特許は『太陽電池と電気二重層コンデンサを組み合わせたもので
あり,コンデンサに太陽電池で発電した電気を蓄えるというもの』と告
げているのと同じである。そして,本件特許を太陽電池と電気二重層コ
ンデンサを組み合わせた基本特許と説明することは,太陽電池と電気二
重層コンデンサを組み合わせたものはすべて本件特許に抵触すると言っ
ていることである。
したがって,P3の行為は,「太陽電池と電気二重層コンデンサを利
用する太陽電池装置はすべて本件特許の対象である」との具体的発言を
したのと同じである。
被告は,これによって原告サンライトをその旨誤信させ,よって当時
商品化が始まった太陽電池装置を製造販売するには被告と本件特許権の
実施許諾契約を結ぶしかないと誤信させて本件契約1を締結させ,実施
許諾料や経常実施料を支払わせた。
(ウ)原告マルフクに対する欺罔
平成15年10月21日,原告マルフクの代表者P4は,原告サンラ
イトの紹介でP3と接触するに至った。P4は,原告サンライトから説
明を受けて,原告サンライトと同様の錯誤に陥っていたが,P3はP4
に対しても本件放送の録画を見せ,原告サンライトと同様の強い誤信を
生じさせ,本件契約2を締結させ,実施許諾料を支払わせた。
(エ)取消しの意思表示
原告らは,平成18年6月23日にP3と会い,原告らの製品が本件
特許に抵触しない事実を確認し,同月30日にP3に対し,本件特許に
抵触しない以上契約は白紙にすると申し入れた。この実質は,詐欺によ
る取消しの意思表示と評価できる。
(オ)被告の主張に対する認否反論
被告は,P5が本件契約1の締結時に技術的説明をしたと主張するが,
否認する。また,被告は,センサー方式は電圧方式に比べて劣ると主張
するが,否認する。センサー方式は電圧方式に比べて,①制御の安定性
に優れており,②コストも高いとはいえず,③利用範囲も狭いとはいえ
ないし,④寿命の短縮につながる可能性が高いということもない。
イ被告の主張
(ア)前提事情について
本件放送については,朝日放送側が突然被告を訪問し,インタビュー
させてほしいという話があったことから,被告やP1教授がインタビュ
ーに1回応じたことは事実である。しかし,インタビュー以外の放送内
容も放送より以前には被告側に知らされておらず,どういう放送内容に
するかは放送局側が勝手に決定したものである。P1教授も技術的・専
門的な説明を求められたのではなく,テレビ視聴者である一般大衆に理
解できるよう平易なコメントを求められ,それに応じたとのことであっ
た。
被告は,国内で複数の実施権者と実施権許諾契約を締結しており,ま
た,世界数か国で特許登録をして海外の事業者とも実施権許諾契約を締
結するなどしている。国の環境問題への取り組みとも関連して感謝状等
をもらっている。原告らは,三洋リビングサプライを始めとして多くの
同業者が原告らと同様の誤解をしている旨主張するが,原告らの外に,
被告に対して原告らのような主張をしている者は皆無であり,訴訟はお
ろか苦情も受けたことはない。三洋リビングサプライは三洋電機株式会
社の関連会社であって,相当高度な技術調査力とライセンス契約のノウ
ハウを有しているはずであり,三洋リビングサプライが「太陽電池と電
気二重層コンデンサを利用する太陽電池装置はすべて本件特許の対象で
ある」などと考えていたとは到底考えられない。
(イ)欺罔について
被告ないしP3が原告らに対し,「太陽電池と電気二重層コンデンサ
を利用する太陽電池装置はすべて本件特許の対象である」と欺いた事実
はない。また,原告サンライトは,被告の当時の代表者であり,技術的
な知識を有していたP5から本件特許の技術的説明を受け,その際に本
件特許公報を手に持って,特許請求の範囲に関する質問を行うなどして
いたから,誤信していたという事実もない。原告マルフクも原告サンラ
イトを通じて,P5の説明を聞いていたのであり,その際誤信したとい
う事実もない。
P3は,ある程度,本件特許の価値を賞賛する内容の発言をしたが,
本件特許が価値を有するものであるという事実自体は真実であり,何ら
誤った発言ではない。P3は,技術的なバックグラウンドを持つ者では
なく,原告らとの面談においても,「技術的な内容はP5に聞くよう
に」というアドバイスを何度もしていた。
(ウ)電圧方式について
電圧方式は,センサー方式に比べて,①センサーが不要のためのコス
ト優位性,②利用範囲,③安定性,④寿命において利点があり,むしろ
蓄電システムに関する業界の流れとしては電圧方式を採用することが主
流である。そのような特許に関する実施権を取得したにもかかわらず,
原告らが独自にセンサー方式を開発・製品化したのは原告らの勝手であ
り,何ら実施許諾料等の返還を請求できる地位にある者ではない。
(エ)原告らの取消しの意思表示の事実は不明である。
(2)錯誤による無効
ア原告らの主張
(ア)原告らの錯誤
原告らは,真実は本件特許を使わなくても当時普及していたセンサー
方式でもって,むしろより性能的に安定し社会的に有用な機器を生産で
きたにもかかわらず,本件特許が世界に類のない基本特許であり,当時
実用化され将来性が認められた太陽エネルギーを利用した発光機器を製
造販売するには本件特許の実施許諾を得ることが不可欠,太陽電池と電
気二重層コンデンサを利用する太陽電池装置はすべて本件特許に抵触す
るとの錯誤に陥っていた。本件契約1,2はこの錯誤による意思表示で
あって,無効である。
(イ)被告の主張に対する反論
被告は,動機の表示不明とするが,錯誤については明確と原告らは考
えている。
(ウ)重過失について
原告サンライトの代表者P6及びその子であるP7は技術的知識を有
していなかった。また,P6父子がP5と会ったのは契約の時だけで,
ろくに話をしたことはない。
被告は,企業が特許の実施権許諾契約を締結するに際して,その特許
の特許公報を確認することは常識というが否認する。センサー方式につ
いても,そもそも,太陽電池と電気二重層コンデンサを組み合わせたも
のが基本特許と欺罔されているのであり,センサー方式云々は無関係の
話である。原告らには過失はあっても重過失と呼べるものではない。
イ被告の主張
(ア)原告らの錯誤について
原告らの錯誤の事実は否認する。原告らは,P5からの技術的な説明
や特許公報を目にして,本件特許の内容を把握していた。
(イ)原告らの錯誤の主張は動機の錯誤であり,動機の表示が不明である。
(ウ)原告らの重過失
少なくとも,P6及びP7の父子は技術的な知識を持っていた。さら
に,企業が特許の実施権許諾契約を締結するに際して,その特許の特許
公報を確認することは常識的に考えて当然である。もし,自らがセンサ
ー方式の製品を開発・製造する意図を持っていたのであれば,本件特許
公報を事前に確認して,その相違に気づくことができた。むしろ,被告
は,原告らがセンサー方式の製品を当初から開発・製造する意図があっ
たということは聞かされていないのであり,特許公報も確認せずに,実
施権許諾契約を締結した原告らには重過失がある。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(詐欺)について
本件全証拠によっても,被告ないしP3において,本件特許権の通常実施権
許諾契約をするについての商取引のセールストークとして許容される限度を超
えた「虚偽の説明」をしたと認めることはできない。その理由は次のとおりで
ある。
(1)事業者の調査義務
特許権者,専用実施権者(以下「特許権者等」という。)から特許権の通
常実施権等の許諾を受けるのは,許諾なく特許権を侵害する製品を製造販売
する事業を行った場合,差止請求や損害賠償請求を受けるため,これを避け
る必要があるからである。そして,特許権を侵害する行為については過失が
推定されるから(特許法103条),特許権を侵害するか否かについての調
査は,上記推定を覆すに足りる程度に行わなければならない。したがって,
ある製品を製造販売する事業を行おうとする事業者には,特許公報等の資料
を検討し,その製品と特許権との抵触関係(侵害するか否か)を判断して,
特許権者等からの許諾を受けるか否かを決定することが求められているとい
うべきである。
証拠(甲2)によれば,本件特許公報を検討すれば,本件発明に係る技術
分野の製品を製造販売する事業を行おうとする事業者として普通の知識を持
つ者であれば,本件特許が「周囲の照度が設定値を越える場合には前記太陽
電池からの電力を前記電気二重層コンデンサに充電し,周囲の照度が設定値
以下の場合には前記電気二重層コンデンサに蓄積された電力を負荷に供給し
て毎日充放電を繰り返すという制御を前記太陽電池の出力を検出することに
基づいて行う負荷制御回路」を用いて電圧方式による制御をするものである
ことを容易に知ることができることが認められる。
(2)原告らの立場
弁論の全趣旨によれば,原告サンライトは,本件契約1の当時は有限会社
であって,太陽電池を利用した電気機器の販売等を業としていた者であるこ
と,原告マルフクは,清涼飲料水等の製造販売を業とする株式会社であった
が,本件契約2に際して,照明器具の研究開発を目的に追加したことが認め
られる。そして,原告らは,太陽電池を利用した電気機器を製造販売する事
業を今後行おうとしていたのであるから,原告サンライトは本件契約1の当
時において,原告マルフクは本件契約2の当時において,いずれも商人であ
って,かつ「ある製品を製造販売する事業を行おうとする事業者」であった。
(3)本件契約1と本件放送及びP3の言動について
証拠(甲15)によれば,本件放送には,本件特許を紹介するとともに,
P1教授が「太陽電池と電気二重層コンデンサを組み合わせたものが特許
だ」「コンデンサに太陽電池で発電した電気を蓄えるのが特許だ」と説明し
ている映像や,「この基本特許を管理しているのがP3さんです。」「本件
特許について外国から多くの引き合いがある。」「日本の業界の団体が二十
数億円で本件特許の権利を取得した。」との内容の映像が含まれていること
が認められる。また,P6は,P3が本件放送の録画をP6に見せた後「こ
のとおりである」旨述べたと供述し,甲第17,第18号証には,P3が
「本件特許は世界に2つとない基本特許である」旨述べていたとの記載があ
る。
しかし,証拠(甲15)によれば,本件放送(ニュースステーション)は,
ごく限られた時間枠の範囲内で一般大衆向けに作られて放送されているもの
にすぎず,太陽電池装置のメーカーに対する正確な技術的説明でないことが
明らかである。したがって,特許権者側が,本件放送の録画を見せ,「この
とおりである」「本件特許は世界に2つとない基本特許である」旨述べたと
しても,「ある製品を製造販売する事業を行おうとする事業者」としては,
それは本件特許が素晴らしいものである旨を特許権者が宣伝している趣旨で
あって,技術的な判断は,自ら特許公報等の資料により検討した結果による
べきであると理解すべきものである。換言すれば,本件放送の内容及びP3
の上記言動は,事業者が特許公報等の資料を検討して本件特許の技術内容を
判断するに当たり,技術的範囲の判断を誤らせたり,内容を誤認させたりす
るようなものということはできない。
まして,証拠(乙11,P6・36∼37頁)によれば,P3は,技術的
なバックグランドがなく,非常に大雑把な人であり,そのことはP3と10
分も話をすれば分かることであって,P6もP3に技術的なバックグランド
がないことは認識していることが認められるから,「ある製品を製造販売す
る事業を行おうとする事業者」の代表者であるP6としては,P3が見せた
本件放送の録画やその言辞によるのではなく,特許公報等の資料を検討した
結果によるべきであることは,なおさら容易に認識できるところである。
P6は,P3から「本件特許がなかったら商品はできないというような言
い方をされた」「まあ言われたんやないかと思う」と供述する。上記供述は,
内容自体曖昧であるうえ裏付けを欠くものであって採用できないが,仮にP
3において,P6との会話のやりとりの中でそういう言葉を発したとしても,
以上に述べたことからすれば,セールストークとして許容される限度を超え
た「虚偽の説明」ということはできない。なお,原告らは,P3において原
告らが,「太陽電池と電気二重層コンデンサを利用する太陽電池装置はすべ
て本件特許に抵触する」と誤認していることを知っていたと主張するが,こ
れを認めるに足りる証拠はない。また,前記第2の1(8)ア記載の本件特許
の査定に至る経緯も,以上の認定を左右するものではない。
また,P6は,原告サンライトは,本件契約1締結に当たり,本件特許公
報を見ていないと供述する。1000万円以上の金員を支払って特許権実施
許諾契約を締結するに当たり特許公報すら見ないというのは不自然であるけ
れども,仮にそうであるとしても,原告サンライトが「ある製品を製造販売
する事業を行おうとする事業者」であることに照らし,被告側において原告
サンライトが本件特許公報を見ることを妨げた等の特段の事情のない本件に
おいては,以上の認定を左右するに足りるものではない。
(4)本件契約2と本件放送及びP3の言動について
本件契約2についても,上記(3)と同様であって,被告ないしP3におい
て,セールストークとして許容される限度を超えた「虚偽の説明」をしたと
することはできないし,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
2争点(2)(錯誤)について
(1)要素の錯誤について
原告らにおいて,「太陽エネルギーを利用した発光機器を製造販売するに
は本件特許の実施許諾を得ることが不可欠,太陽電池と電気二重層コンデン
サを利用する太陽電池装置はすべて本件特許に抵触する」との錯誤に陥って
いたとしても,それは動機の錯誤であってそのことを被告に表示し,これを
前提として本件契約1,2が締結されたものでなければ,要素の錯誤とする
ことはできない。
ところが,特許権者側が,本件放送を見せ,「このとおりである」として
「本件特許は世界に2つとない基本特許である」旨述べたとしても,「ある
製品を製造販売する事業を行おうとする事業者」としては,本件特許が素晴
らしいものである旨を特許権者が宣伝している趣旨であって,技術的な判断
は,自ら特許公報等の資料により検討した結果によるべきであると理解すべ
きものであることは前示のとおりである。また,P6は,P3から「本件特
許がなかったら商品はできないというような言い方をされた」「まあ言われ
たんやないかと思う」と供述するが(上記供述は裏付けを欠くものであって
採用できないものの),仮にP3において,P6との会話のやりとりの中で
そういう言葉を発したとしても,セールストークとして許容される限度を超
えたものということはできないことも前示のとおりである。
そうだとすると,P3のこれらの言動を前提としても,そのことだけで,
本件契約1,2の締結において,原告らが「太陽エネルギーを利用した発光
機器を製造販売するには本件特許の実施許諾を得ることが不可欠,太陽電池
と電気二重層コンデンサを利用する太陽電池装置はすべて本件特許に抵触す
る」と認識している旨の表示をし,これが前提となっていると評価すること
はできない。他に,原告らが,原告ら主張の錯誤に係る認識を表示し,これ
が前提となって本件契約1,2が締結されたと認めるに足りる証拠はない。
よって,原告らの錯誤の主張は,これを契約の要素とすることができない
から理由がない。
(2)原告らの重過失について
ある製品を製造販売する事業を行おうとする事業者には,特許公報等の資
料を検討し,その製品と特許権との抵触関係を判断して,特許権者等からの
許諾を受けるか否かを決定することが求められていることは前示のとおりで
ある。この時の注意義務は,我が国において有効なあらゆる特許を対象とし
て調査し,その製品とそれらの特許権との抵触関係を判断すべき義務であっ
て,非常に広範囲に及んでいる。他方,特定の特許権の通常実施権許諾契約
を締結しようとする場合には,特許権はすでに特定されており,当該特許権
についてだけ調査判断すれば足り,極めて容易に行えることである。そして,
本件特許公報を読めば,太陽電池と電気二重層コンデンサを利用する太陽電
池装置はすべて本件特許に抵触するわけではないことは容易に認識できるの
であるから,この認識をしなかったことについて,原告らには事業者として
の重大な過失がある。したがって,原告らの錯誤の主張は,重過失に基づく
ものとして許されないから理由がない。
3結論
以上の次第で,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとして,
主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官山田知司
裁判官高松宏之
裁判官村上誠子

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弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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採用担当宛