弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人Aの弁護人窪田稔および同鈴木貢の上告趣意第一点について。
 所論は憲法第三一条違反をいうけれども、その実質は、原審で主張判断のなかつ
た第一審判決の理由不備をいうに帰し、刑訴第四〇五条の上告理由に当らない。(
なお、原判決の維持した第一審判決は起訴状記載の公訴事実と同様、「第二 被告
人A……は昭和二六年七月上旬頃から大蔵大臣の免許なしに……前記第一記載の如
く各地で其日掛貯金の業務を始め次いで同年九月二〇日頃に至つて……に引継ぎし
た上……其の業務を同二七年一月下旬頃迄継続し依つて……契約加入者から計約三
二九万円余の掛金を徴収し」「相互銀行の業務を行つた」と判示しているが、右に
いう「行つた」は相互銀行法第四条のいう「営ん」だの意味であることは、判文の
全趣旨に徴し明白であるから、同判決には所論の如く罪とならない事実を認定して
これを処罰したり、罪となるべき事実を認定せずして処罰した違法はない)。
 同第二点について。
 所論は法令違反の主張であつて、刑訴第四〇五条の上告理由に当らない。(なお、
本件では所論B株式会社は起訴されていないし、また第一審判決は「被告人等は同
会社の業務に関し……」というが如き判示はしていないし、記録によれば、本件は
被告人等が昭和二六年七月上旬頃から同会社その他の名義を潜称し、殊に同年九月
二〇日頃からは同会社関西本部長等の地位を得たのを利用して、本件違反行為を行
つたこと、即ち本件行為は右会社の業務としてではなく、被告人等の個人の行為と
してなされたものであると認められる場合であるから、第一、二審判決の判示に措
辞において妥当でないものがあるにしても、これをもつて直ちに原判決に所論の如
き違法があるとすることはできない)。被告人Cの弁護人志貴三示の上告趣意第一
点について。
 所論は新憲法の精神を云為しているが、原判決のいかなる点がいかなる理由で憲
法のどの条項に違反するかを明示していないので、憲法違反の主張とは見難い。仮
りに所論を憲法三八条三項違反の主張と見るべきものであるとしても、原判決の維
持した第一審判決は被告人の自白(被告人は第一審第一回公判で事実を認めている。
記録第二冊四三丁裏)のみで被告人を有罪としているのではなく、右自白のほかに
数多くの証拠を挙示しており、同自白は右諸証拠で補強され、被告人の本件犯罪事
実は肯認できるから、所論違憲(憲法第三八条第三項違反)違法(刑訴第三一九条
第二項違反)の主張は前提において失当で、採用し難い。(なお、第一審判決は判
示第一、第二の各事実につき一括して諸証拠を羅列しているけれども、証拠説明は
記録と照らし合わせて見てどの証拠でどの犯罪事実を認めたかが分りさえすれば違
法でないこと〔昭和二五年(あ)第一〇六八号・同年九月一九日第三小法廷判決・
集四巻九号一六九五頁〕、有罪判決において数個の犯罪事実につき各事実ごとに証
拠の標目を示さず、多くの証拠の標目を一括して掲げても必らずしも違法ではない
こと〔昭和二七年(あ)第五六五七号・同二九年五月二八日第二小法廷判決・集八
巻五号七七五頁〕はいずれも当裁判所の判例とするところであり、況んや本件は判
示第一、第二事実共別個の事実ではなく、互いに関連するものであること判文自体
で明瞭であり、右事実は一体として考察すべきものと認められるから、かかる場合
には寧しろ証拠を一括して挙示する方が簡便適当ともいえるのである。従つて、第
一審判決が判示第一、第二事実につき一括して証拠を挙示したからといつて、刑訴
第三三五条第一項に違反するものではなく、この点に関する原判断は相当である)。
 同第二点について。
 所論は理由そご、事実誤認、量刑不当の主張であつて、刑訴第四〇五条の上告理
由に当らない。
 同第三点について。
 所論は憲法第一四条違反をいうけれども、その実質は事実誤認、量刑不当の主張
に帰し、適法な上告理由とならない。
 同第四点について。
 所論は実験則違反、量刑不当の主張であつて、刑訴第四〇五条の上告理由に当ら
ない。
 また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとお
り決定する。
  昭和三二年一一月二六日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    垂   水   克   己

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