弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人等の負担とする。
         理    由
 被告人Aの上告趣意について。
 論旨は事実誤認の主張に帰し適法な上告理由とならない。(本件事実は第一審判
決挙示の証拠によつて十分認めることができる。なかんずく被告人B並に同Aの検
察官に対する各供述調書を採つてみても、被告人等が受取つた金員が所論のように
選挙運動の実費であつたとは認められない。そうだとすれば所論のように被告人等
が後に至つて右の金員をCに返した事実があつたとしても本件犯罪の成立に消長を
来たさない。なお被告人の警察及び検察庁における供述調書につきその任意性を争
うが如き主張もなされているが、記録上所論のような事実を裏付ける資料は何もな
い。)
 被告人両名の弁護人佐々野虎一の上告趣意第一点及び第二点について。
 論旨は、原判決が憲法一三条及び一四条に違反すると主張するのであるが、その
理由なきことは、当裁判所の判例(昭和二九年(あ)第四三九号同三〇年二月九日
大法廷判決)の趣旨に照らしてみて明らかである。
 同第三点について。
 論旨指摘の各判例はいずれも控訴趣意書の内容を上告趣意として同趣意書に引用
した場合のものであつて所論の点に関する判例としては適切でないし、元来控訴趣
意書記載の事実を控訴審の判決書に引用し得ることは、刑訴規則二四六条に明規し
ているところである。論旨は理由がない。
 同第四点について。
 原審の第一回公判調書に、弁護人が被告人連名提出の控訴趣意書は被告人等の同
意を得て撤回する旨を陳述した記載があり、又同公判期日には被告人Aのみが出頭
し被告人Bは出頭しなかつたことは所論のとおりである(記録三一八丁)。しかし
右の同意は必ずしも公判廷で得なければならないものではないから、所論のように、
同公判期日に被告人Bが不出頭であつたことを理由として、同被告人の同意がなか
つたもの、或はその同意を得ることが不可能であると速断することはできない。公
判前に同被告人の同意を得たものとすれば、弁護人は適法に所論控訴趣意書を撤回
したのであるから、原判決がこれに対して判断を示さなかつたからとて所論援用の
判例に反するところはない。仮りに同被告人の同意がなく従つて所論控訴趣意書の
撤回が適法になされたものではなかつたとしても、同控訴趣意書の内容を検討して
みると、それは結局事実誤認を論旨とするものであつて、前記公判廷で弁護人が控
訴趣として陳述した弁護人提出の控訴趣意書の論旨第一点と概ね同一であることが
認められる。そうして弁護人の控訴趣意第一点に対しては、原判決は判断を示して
いるのであるから、実質的には被告人の控訴趣意についても判断を示したと同様に
帰する。従つて形式的には判断遺脱の欠陥があつたとしても、刑訴四一一条を適用
して原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものということはできないこと、
当裁判所がしばしば判例によつて示した趣旨に照らして明らかである。(昭和二六
年(あ)第九二一号同年八月九日第一小法廷判決等参照)。論旨は理由がない。ま
た記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決す
る。
  昭和三〇年一一月一五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    河   村   又   介
            裁判官    島           保
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    垂   水   克   己

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