弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
一 主位的請求
1 被告は、原告らに対し、別紙請求金一覧表一の「請求金合計」欄記載の各金員
及び別紙遅延損害金一覧表の「請求金内金」欄記載の各金員ごとに同表「起算日」
欄記載の日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告らに対し、平成一二年四月以降毎月二五日限り、別紙請求金一覧
表一の「差額賃金」欄記載の各金員及びこれに対する各支払日の翌日から支払済み
に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 予備的請求その1
 被告は、原告らに対し、別紙請求金一覧表二の「請求金合計」欄記載の各金員及
び右金員に対する訴状送達の日の翌日(平成七年九月一五日)から支払済みに至る
まで年五分の割合による金員を支払え。
三 訴え変更後の予備的請求その2
 被告は、原告らに対し、各五五〇万円及び右金員に対する訴状送達の日の翌日
(右同)から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 訴え変更前の予備的請求その2
 被告は、原告らに対し、別紙請求金一覧表三の「請求金合計」欄記載の各金員及
び右金員に対する訴状送達の日の翌日(右同)から支払済みに至るまで年五分の割
合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、被告の社員である原告らが、被告に対し、主位的に、同時期入社の同学
歴男子との間で昇進、昇給等において不利益な処遇を受けたが、これは違法な男女
差別であり債務不履行及び不法行為に該当すると主張して賃金格差相当額等の損害
賠償の支払を求め、予備的に、被告には違法な差別の是正義務があるところ、系列
転換審査制度を男女差別的に運用したことによって原告ら女子は系列転換を果たす
ことができなかったが、これは是正義務の不履行であり、違法な男女差別であると
主張して同様の損害賠償の支払を求め(予備的請求その1。なお、債務不履行及び
不法行為を主張するものと解される。)、さらに、予備的に、是正義務の不履行に
よって男女平等に取り扱われるという期待権、人格権を侵害され精神的苦痛を被っ
たと主張して慰藉料等の支払を求めた(変更後の予備的請求その2。なお、債務不
履行及び不法行為を主張するものと解される。)事案である。
一 前提事実(争いのない事実及び証拠上明らかな事実等)
1 当事者
 被告
は、大正二年に創立され、基礎化学品、石油化学品、精密化学品、農業化学品等の
製造、販売及び研究開発等を主な事業内容とする会社であり、平成七年三月末日現
在、資本金は八一五億円であり、社員数七一八四人(うち女子九四八人)を擁し、
東京、大阪に本社を置くほか、主要な事業所として、大阪、東京、名古屋、福岡に
各支店、愛媛、千葉、大阪、大分及び三沢に各工場、愛媛及び大阪に各研究所を有
している。
 原告らは、いずれも被告の社員である。
2 被告の人事制度の概要
 被告は、昭和三六年から社員を数等級に格付けし、これと処遇とを結びつける職
分制度を実施したが、その後、これに数度にわたる改定を加え現在に至っている。
その制度内容と主要な変遷の概要は以下のとおりである。
(一) 昭和三六年四月一日実施の職分制度(以下「三六年制度」という。)
(1) 職務分類と職分の導入
 職務が、その複雑さと責任の度合とを基準にして、一般職務、専門職務、監督職
務及び管理職務に分類され、他方、管理職務に従事する管理社員を除き、一般社員
を職務と職務掌理能力を基準に一級から五級に段階区分する職分が導入された。
 右の各職務の定義と被告が社員を各職分に任用する際の任用基準は別紙三六年制
度任用基準記載のとおりであった。
(2) 職分と賃金との関係
 基本給昇給額に社員各自の従事職務と職務処理能力が反映される仕組みであり、
職分任用時の初任基本給は上位の職分ほど高く設定され、また、毎年の定期昇給額
も職分ごとに基準額と最高額が設定されたが、上位の職分ほど高額とされていた。
(3) 社員の採用
 社員の採用は、第一種ないし第四種採用試験及び特別採用試験に分けられ、第一
種採用試験は各事業所において中卒を採用選考する試験、第二種採用試験は各事業
所において高卒を採用選考する試験、第三種採用試験は、本社において高校新卒を
採用選考する試験、第四種採用試験は本社において大学以上の新卒を採用選考する
試験(これらの採用試験による採用を「一ないし四種採用」という。)、特別採用
試験は本社または事業所において業務上の必要による特殊技術者またはこれに準ず
るものを採用選考する試験とされた。
 二種及び三種採用の者の雇入基本給は同額であったが、一種及び二種採用の者は
三か月間の社員補期間(業務見習または教育期間)を経て職分一級の社員に任用さ
れたのに対し、三種及び四種採用の者は一年間
の社員補期間を経て、三種採用者は職分二級に、また、四種採用者は職分三級にそ
れぞれ任用され、三種採用者の社員任用時の基本給は、二種採用者のそれより高額
に設定されていた。
(4) 昇任
 上位職分への昇任は、右三六年制度任用基準に照らして選考されるが、その際、
職分各級に設けられた職分選考基準点を考慮するものとされ、これを満たすか否か
の社員各自の能力点は以下の算式で算出するものとされた。
(年齢点+学歴点+勤続点)×係数=能力点
 このうち、係数は毎年一回定期に行われる成績評定によって定められる。
(5) 第二種採用試験と第三種採用試験の採用対象者
 制度上は各採用試験の募集対象に男女の限定はなかったが、運用上、被告は、二
種採用の募集対象を昭和四二年までは女子のみとし、昭和四三年から男子も採用す
るようになつた。他方、三種採用の募集対象は男子のみとしていた。その結果、三
六年制度の下で、高卒女子は、特別採用試験による採用者を除き、すべて二種採用
であった。
(二) 昭和四五年四月一日実施の職分制度(以下「四五年制度」という。)
(1) 職掌及び職分系列の導入
 職務がその機能によって事務技術職掌、専門事務技術職掌及び監督指導職掌に三
分類され、それぞれの職掌ごとに職分を数等級に段階区分した職分系列(事務技術
職系列、専門事務技術職系列、監督指導職系列)が設置された。
ア 職掌の分類基準
① 事務技術職掌は、「一般的な基礎知識と業務に関連して習得した技能および実
務知識をもとに製造および製造工程に直接関連する動力供給、設備保全等、または
一般事務および一般技術等を行う比較的標準化されやすい職務群」と定義され、さ
らに、これに属する職務はH、S、Lに段階区分するものとされた。
② 専門事務技術職掌は、「科学的理論知識と業務に関連して習得した体系的理論
をもとに調査、研究、企画、立案、設計、開発、対外折衝等を行う職務で、複雑困
難な特例事項がほとんどを占める職務群、および事務技術職掌に含まれる職務のう
ち、複雑困難で標準化しにくくかつ高度の基礎知識、技能、実務知識を必要とする
職務群」と定義された。
③ 監督指導職掌は、「高度の基礎知識と業務に関連して習得した高度の技能、業
務知識をもとに部下を指導監督し、または自らも事務技術職掌に含まれる業務を行
いながら部下を指導監督する職務群」と定義され、さらに、これに属する職務はF
H、FS
、FLに段階区分するものとされた。
イ 職分系列
 事務技術職系列の職分は、初級事務技術職、事務技術職一級、同二級、上級事務
技術職一級ないし三級及び同特級に、専門事務技術職系列の職分は、専門事務技術
職一級ないし三級に、監督指導職系列の職分は、監督指導職一級、同二級、上級監
督指導職一級、同二級及び統括監督指導職に、それぞれ区分された。
 各職分への任用基準は別紙四五年制度任用基準記載のとおりであった。
(2) 職分と賃金との関係
 職分本給が導入され、賃金はより職分の影響を受けるものとなった。
 職分本給は「基礎額+単価×職分係数」で計算される賃金であり、基礎額及び単
価はいずれの職分でも同額であったが、職分係数は、同じ職分系列では上位の職分
ほど高く設定され、また、事務技術職系列は他の職分系列より低めに設定された。
 また、基本給昇給においても、職分ごとに基準と最高が設定されたが、事務技術
職系列は他の職分系列より低めに設定された。
(3) 社員の採用
 社員の採用は、採用後に従事する職務に対応して事務技術職要員採用試験、専門
事務技術職要員採用試験(これらの採用試験による採用を「事務技術職採用」「専
門事務技術職採用」という。)及び特別採用試験の三種類とされた。
 事務技術職要員採用試験は、事務技術職掌の職務に配置する要員を採用選考する
試験であり、その合格者は、三か月の実務実習期間を経て初級事務技術職に職分任
用するものとされた。学歴要件はなかったが、原則として大卒は採用しないとの運
用がなされた。
 専門事務技術要員採用試験は、専門事務技術職掌の職務に配置する要員を採用選
考する試験であり、試験の程度により「一類(大学卒業程度)」「二類(高等専門
学校卒業程度)」に分けられ、その合格者は、一年の実務実習期間を経て、一類試
験合格者は専門事務技術職一級に、二類試験合格者は上級事務技術職二級にそれぞ
れ任用するが、さらに、二類試験合格者は、右職分任用二年経過後原則として専門
事務技術職一級に任用するものとされた。
 特別採用試験は、業務上の必要性に基づいて個別に採用選考する試験であり、そ
の合格者は、その都度定められる実務実習期間を経て、その都度定められる職分に
任用されることとされた(なおこの試験による採用は、後述の現行制度まで変更が
ない。)。
(4) 昇任
 上位職分への昇任は、各社員の従事職務と毎年一回定期に行われ
る成績評定に基づき、右四五年制度任用基準に照らして選考される。
(5) 系列転換審査制度の新設
ア 職分系列の転換を可能とする系列転換審査制度が新設された。
 同制度における審査は専門事務技術職系列転換審査A(昭和四九年に「専門事務
技術職系列転換審査」に名称変更)、同B(昭和四九年に「監督指導職・専門事務
技術職系列転換審査」に名称変更)、監督指導職系列転換審査の三種類であり、毎
年一回定期に行われ、これらの審査に合格した者は、専門事務技術職掌または監督
指導職掌の職務に従事する能力があるものと認められ、それらの職務に従事した場
合に系列転換するものとされた。受験資格及び審査内容は次のとおりであった。
① 専門事務技術職系列転換審査Aは、「上級事務技術職二級以上または監督指導
職二級以上に任用されている者で、所属長の推薦を受けた者」を受験資格者とし、
審査内容はレポート審査と面接審査であった。
② 専門事務技術職系列転換審査Bの審査内容は、基礎知識に関する学科試験(英
語、数学、国語、理科、時事)、専門的知識に関する学科試験(事務系専門科目三
科目、技術系専門科目一〇科目のいずれかから一科目)、レポート審査及び、面接
審査であり、受験資格者は、基礎知識に関する学科試験が「上級事務技術職二級以
下または監督指導職二級以下に任用されている者」、専門的知識に関する学科試験
が基礎知識に関する学科試験合格者、レポート及び面接審査が専門的知識に関する
学科試験に合格し、「上級事務技術職一級以上または監督指導職一級以上に任用さ
れている者で所属長の推薦を受けた者」とされた。
③ 監督指導職系列転換審査は、「事務技術職二級以上または専門事務技術職一級
以上に任用されている者で、所属長の推薦を受けた者」を受験資格者とし、審査内
容はレポート審査と面接審査であった。
イ 三種採用者は、専門事務技術職系列転換審査Bにおいて、基礎知識に関する学
科試験を免除され、昭和四九年からは専門的知識に関する学科試験も免除された。
(6) 三六年制度からの移行
 在職者の新職分への任用は、右四五年制度任用基準に照らして行うものとされた
が、その原則的な移行基準は、職分三級に任用されている者は、上級事務技術職三
級、専門事務技術職一級または上級監督指導職一級に、職分二級に任用されている
者で昭和四四年四月一日付の昇給額が九〇〇円以上一〇〇〇円以下の者は上級
事務技術職二級または監督指導職二級、同昇給額が七五〇円以上八九〇円以下の者
は上級事務技術職一級または監督指導職一級に、職分一級に任用されている者で昭
和四四年四月一日付の昇給額が六〇〇円以上七〇〇円以下の者は事務技術職二級
に、同昇給額が五〇〇円以上五九〇円以下の者は事務技術職一級に、同昇給額が四
九〇円以下の者は初級事務技術職に任用されるというものであった。
(三) 昭和五九年七月一日実施の職分制度(以下「五九年制度」という)
(1) 職掌、職系列及び職分の改定
 職掌は執務職掌、企画開発職掌、監督職掌に三分類され、これらに対応する職分
系列も、それぞれ執務職系列及び主務職系列(執務職系列から主務職系列へと昇進
する。)、企画開発職系列、監督職系列とされた。右職掌は、それぞれ、四五年制
度の事務技術職掌、専門事務技術職掌、監督指導職掌に対応するものであって、そ
の名称を変更したものであった。
ア 職掌分類の基準
① 執務職掌は、「一般的な基礎知識と業務に関連して習得した技能および実務知
識をもとに、創意を発揮して、製造および製造工程に関連する動力供給、設備保全
等、または一般事務および一般技術等を行う比較的標準化されやすい職務群」と定
義され、さらに同職掌の職務が、四五年制度同様、上位からH、S、Lの三段階に
区分された。
② 企画開発職掌は、「科学的理論知識と業務に関連して習得した体系的理論をも
とに、独創性と先見性を発揮して、調査、研究、企画、立案、設計、開発、対外折
衝等を行う職務で、複雑困難な特例事項がほとんどを占める職務群、および執務職
掌に含まれる職務のうち、非定型的で標準化しにくく、かつ高度の基礎知識、技能
および実務知識を必要とする職務群」と定義された。
③ 監督職掌は、「高度の基礎知識と業務に関連して習得した高度の技能および業
務知識をもとに、創造性を発揮して、部下を指導監督し、または自らも執務職掌に
含まれる業務を行いながら部下を指導監督する職務群」と定義され、四五年制度の
職務段階区分は廃止された。
イ 執務職系列の職分は、初級、中級、上級に、主務職系列、企画開発職系列及び
監督職系列の各職分は、一級ないし五級及び主査にそれぞれ段階区分された。
 各職分の任用基準は別紙五九年制度任用基準記載のとおりであった。
(2) 職分と賃金との関係
 職務本給に、成績と執務経験による加算を行う改定がなされた。その
算式は次のとおりである。
基礎額+単価×職分係数(一+成績加算率+執務経験加算率)
(3) 社員の採用
社員の採用試験は、事務技術職要員採用試験が執務職要員採用試験に、専門事務技
術職要員採用試験が企画開発職要員採用試験に、それぞれ名称変更された以外に変
更はない。
 ただし、執務職要員採用試験については、運用上、従来事務技術職要員採用試験
の対象とされてこなかった大卒や高専卒もその募集対象となった。
(4) 昇任及び昇進
ア 上位職分への昇任は、各社員の従事する職務と毎年一回定期に行われる成績評
定に基づき、右五九年制度任用基準に照らして選考される。
イ 各職分系列ごとに上位に管理職がおかれ、社員はその職分系列から管理職(副
参事一級)へ昇進するものとされた。
(5) 系列転換審査制度の改定
 監督職・企画開発職系列転換審査、企画開発職系列転換審査、監督職系列転換審
査の三種類とされた。これらは、それぞれ、四五年制度の専門事務技術職系列転換
審査B、同A、監督指導職系列転換審査に対応するものであったが、このうち、監
督職・企画開発職系列転換審査は、「上級執務職、主務職一級、同二級、監督職一
級、同二級に任用されている者で、推薦基準に基づく所属長の推薦を受けた者」が
受験資格者とされた。その審査内容も、学科試験が廃されて、レポート審査と面接
審査のみとなった。
 その推薦基準は次のとおりであった(以下「推薦基準」という。)。
「① 担当業務について、業務達成能力ならびに業務貢献度が高く、勤務成績優秀
な者を推薦する。
② その際、さらに次の各号の一以上に該当するかどうかを考慮して推薦する。
ⅰ ポイントを上位者にチェック・指導・カバーされているが、監督職掌または企
画開発職掌に属する職務に従事しており、上位者のチェック・指導・カバーがなく
ても担当業務を処理し得る能力があると認められる者
ⅱ 業務に関連した高度な国家資格等を取得している者
ⅲ 技術表彰ならびに提案奨励賞において顕著な受賞実績のある者
ⅳ 社内外で実施する各種研修等を優秀な成績で修了した者
ⅴ 積極的に自己啓発に取組み、その成果が顕著で、業務遂行面に大いに反映され
ている者」
(6) 四五年制度からの移行
 新設された「主査」「主務職五級」「主務職四級」以外の新職分は、四五年制度
の職分の名称変更及び任用基準の一部改定であったため、社員は、原則として四五
年制度で任用され
ていた職分に対応する新職分に移行した。
(四) 平成八年四月一日実施の職分制度(以下「現行制度」という)
(1) 職掌、職分系列及び職分の改定
 職掌は基幹職掌及び専門職掌の二分類とされ、さらに、同一職掌内の職務が、職
務の困難度に着目した職務グレード区分基準に基づき、下位から順に、基幹職掌が
グレードⅠからⅢの三段階、専門職がグレードA、Bの二段階に区分された。
ア 基幹職掌は、「日常的な事業運営の基幹である業務を、必要に応じて他のメン
バーを指導しながら、円滑に推進し、改善する職務のグループ。なお、この職掌の
職務の遂行にあたっては、必要な基礎知識と主として業務遂行を通じて習得した実
務知識、技能をもとに、的確な判断力と応用力ならびに創意・創造性を発揮するこ
とが求められる。」と定義されており、五九年制度の執務職掌及び監督職掌に対応
している。
 基幹職掌の職分はグレードごとに細分され、一○段階の職分系列とされた。
イ 専門職掌は、「新技術の研究開発、新事業の企画、業務の改革等の専門的な事
項について、定められた方針のもとで、自ら課題を設定し、必要に応じて他のメン
バーを指導しながら、企画立案、折衝、推進する職務のグループ。なお、この職掌
の職務の遂行にあたっては、科学的理論・技術と業務に関連する専門知識・技術を
もとに、体系的な思考力と的確な判断力、先見性ならびに独創性を発揮することが
求められる。」と定義されており、五九年制度の企画開発職掌に対応している。
 専門職掌の職分はグレードごとに細分され、五段階の職分系列とされた。
 各職分の任用基準は別紙現行制度任用基準記載のとおりである。
(2) 職分と賃金との関係
 職分本給が廃され、「職分給」が新設された。職分給は、職分ごとに定額が設定
されており、当該職分になった年は右定額が支給されるが、その後は成績評定に基
づき加算を重ねてゆくものとされている。
 また、五九年制度の監督職掌の職務が基幹職掌に包含されたことに伴い、「職階
給」が新設された。職階給は製造ラインに設定されている監督職階(職長、担任、
主任)にある者に対し、その職階の種類によって定額を支給するものである。
(3) 社員の採用
 五九年制度の執務職要員採用試験が基幹職要員採用試験に、企画開発職要員採用
試験が専門職要員採用試験にそれぞれ名称変更され、専門職要員採用試験について
は一類、二類の区分が廃され、
高専卒は基幹職要員採用試験を受験することになった。
(4) 昇任及び昇進
ア 上位職分への昇任は、各社員の従事する職務の職掌及び職務グレードと毎年一
回定期に行われる成績評定に基づき、右五九年制度任用基準に照らして選考され
る。
イ 各職分系列ごとに上位に管理職がおかれ、社員はその職分系列から管理職(副
参事)へ昇進するものとされた。
(5) 系列転換審査制度の改定
 系列転換審査は、基幹職分系列から専門職分系列へ転換する専門職分系列転換審
査のみとなり、推薦制は廃されて希望者が任意に受験するものとされた。
 右審査は、一次及び二次試験からなり、一次試験は「基幹職分系列に任用してい
る者」を受験資格者とし、専門知識に関する筆記試験(定められた科目の中から二
科目を選択して受験することが原則であるが、所定の国家資格等を取得している場
合には一科目の受験が免除される。)によるものとされ、二次試験は一次試験合格
者を受験資格者とし、審査内容はレポート審査と面接・発表審査である。
3 被告の賃金制度
(一) 基準内賃金
 基準内賃金は、昭和六一年以降、基本給、職務本給、厚生給によって構成される
ものとなった。さらに、平成八年制度で、職務本給が廃され、職分給及び職階給が
導入された。このうち、職務本給、職分給及び職階給は前記のとおりであり、その
余の賃金項目の内容は次のとおりである。
(1) 基本給は、任用される職分及び年齢によって入社時の額が定められてお
り、その後は毎年の昇給の積み重ねによって増額して行く。昇給は各職分ごとに基
準額(基準と最高)が定められており、各社員の昇給額は右基準額の範囲内で成績
評定の結果に基づき決定されるが、右基準額は上位の職分に行くほど高額に設定さ
れている。
(2) 厚生給は、年齢要素、扶養家族分及び住宅要素によって構成されている。
ア 年齢要素は年齢別定額である。
イ 扶養家族分は、世帯主である社員に対し扶養家族(配偶者及び子)の区分に応
じて定額が支給される。
 平成一二年一二月現在の支給月額は、配偶者または配偶者のない場合の第一子に
つき一万九〇〇〇円、子二人までは一人につき七八〇〇円、子四人までは一人につ
き二二〇〇円、その他の扶養家族一人につき月額一〇〇〇円である。
ウ 住宅要素は、社宅、寮等会社施設居住者以外の世帯主である社員に対し、扶養
家族の有無と居住区分に応じて定額が支給される。
 平成一二年
一二月現在の支給月額は、扶養家族のない社員につき一律一万二〇〇〇円、扶養家
族のある社員のうち、自宅居住者につき一万三六〇〇円、借家、借間居住者につき
一万五七〇〇円である。
(二) 夏季、年末手当
 夏季手当は毎年六月、年末手当は毎年一二月に支給される。
 支給基準はその都度労働組合と交渉のうえ決定される。
(三) 賞与
 夏季、年末手当とともに支給される。
 支給額は、その都度労働組合と交渉のうえ決定される基準により、計算期間中の
成績評定の結果に基づいて決定される。
4 原告らの任用職分歴等
(一) 原告P1
 原告P1は、昭和三八年三月に二種採用で被告に雇用され、社員任用時職分等級
一級に任用された。四五年制度実施に伴い事務技術職一級に移行し、昭和四八年四
月(勤続一〇年目)に同二級、そして昭和五三年四月(勤続一五年目)に上級事務
技術職一級に各任用され、五九年制度実施に伴い主務職一級に移行し、昭和六一年
四月(勤続二三年目)に主務職二級、平成六年四月(勤続三一年目)に主務職三級
に各任用され、現行制度実施に伴い基幹職Ⅲの1級に移行し、平成一二年四月(勤
続三七年目)に基幹職Ⅲの2級に任用された。
(二) 原告P2
 原告P2は、昭和四三年四月に二種採用で被告に雇用され、社員任用時職分等級
一級に任用された。四五年制度実施に伴い事務技術職一級に移行し、昭和五五年四
月(勤続一二年目)に事務技術職二級、昭和五九年四月(勤続一六年目)に上級事
務技術職一級に各任用され、五九年制度実施に伴い主務職一級に移行し、平成四年
四月(勤続二四年目)に主務職二級に任用され、現行制度実施に伴い基幹職Ⅲの1
級に移行し、現在もそのままである。
 なお、原告P2は平成一○年八月から株式会社住化物流西日本に出向している。
(三) 原告P3
 原告P3は、昭和三七年三月に二種採用で被告に雇用され、社員任用時職分等級
一級に任用された。四五年制度実施に伴い事務技術職一級に移行し、昭和五一年四
月(勤続一四年目)に事務技術職二級、昭和五五年四月(勤続一八年目)に上級事
務技術職一級に各任用され、五九年制度実施に伴い主務職一級に移行し、平成二年
四月(勤続二八年目)に主務職二級に任用され、現行制度実施に伴い基幹職Ⅲの1
級に移行し、現在もそのままである。
 原告P3は、昭和五八年一〇月二〇日から平成五年一月一八日まで、被告の関連
会社であり、愛媛工場物流部門
の下請会社である日新運輸株式会社(以下「日新運輸」という。)に出向した。
男女間格差
(一) 四五年制度以降の専門事務技術職系列転換審査B(監督指導職・専門事務
技術職系列転換審査)、五九年制度の監督職・企画開発職系列転換審査、現行制度
の専門職分系列転換審査の年別男女別合格者の推移(昭和四六年から平成一一年ま
で)は別表1記載のとおりである。
(二) 昭和四三年から昭和五〇年までに二種採用または事務技術職採用で被告に
入社した高卒社員の平成一一年一一月現在における採用年別男女別職分分布状況は
別表2のとおりであり、これを原告らが主張する事務系社員とそれ以外の社員とに
区分した場合の同分布状況は別表3のとおりである。
(三) 平成一一年二月に支給された昭和三七年から昭和四五年までの二種採用男
女の採用年別基準内賃金の平均、最高及び最低額、原告らと同年採用の三種男子の
基準内賃金の平均、最高及び最低額は別表4のとおりである。
6 原告らが申請した調停とその不開始
 昭和六一年四月から「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女
子労働者の福祉の増進に関する法律」(平成九年法第九二号による改正前のもの。
以下「均等法」という。)が施行された。
 原告P1と同P2は、ほか一名とともに、均等法一五条に基づき、平成六年三月
二三日、大阪婦人少年室に対し、被告を被申請人として管理職一級への昇格を求め
る調停申請を行ったが、被告が調停開始に同意しなかったため右調停は不開始とな
った。
 また、原告P1は、均等法一五条に基づき、平成九年一一月二八日、大阪婦人少
年室長に対し、被告を被申請人として営業等の仕事配置を求める調停申請を行った
が、被告が調停開始に同意しなかったため右調停も不開始となった。
二 本件の争点
1 主位的請求
(一) 被告が、三六年制度の二種及び三種採用で募集対象を男女別としたこと及
びこれに基づき男女間で異なる処遇をしたことが違法な男女差別になるか
(二) 被告の厚生給支給に男女差別があるか
(三) 原告P1及び同P2の申請した調停の開始に被告が同意しなかったこと
が、違法か
2 予備的請求その1
 五九年制度における系列転換審査制度の運用に男女差別があるか
3 予備的請求その2
 原告らの精神的損害の有無
第三 争点に関する当事者の主張
一 争点1(主位的請求-男女別採用とそれに基づく処遇等の違法性)について
1 原告ら
の主張
 被告は、三六年制度のもとで、同じ高卒でありながら、男子は三種採用、女子は
二種採用という男女別採用と男女別雇用管理を行い、その後の制度改定においても
右の採用区分の違いを理由とする男女別処遇を承継してきた。その結果、二種採用
の原告ら高卒女子と同期ないし同時期に入社した三種採用の高卒男子との間には賃
金その他の処遇において著しい格差が生じているが、このような男女別採用とその
採用区分に基づく男女別処遇等は債務不履行及び不法行為に該当する違法な男女差
別である。
(一) 男女別雇用管理制度による男女差別
(1) 三六年制度における男女別採用とその承継
ア 三六年制度は学歴別の採用制度であったが、被告は、昭和四三年まで、高卒男
子を三種採用で採用して職分二級に任用しながら、高卒女子を三種採用から排除
し、二種採用で採用して職分一級に任用した。社員任用時の基本給も男女間で格差
があった。
イ 四五年制度の事務技術職掌、専門事務技術職掌、監督指導職掌は三六年制度の
一般職務、専門職務、監督職務の分類に対応するもであり、専門事務技術職の社員
には、将来の管理職育成が主眼とされて段階的に裁量の幅のある責任ある職務が配
置されたが、事務技術職の社員には、定型的補助的職務が配置された。
 制度移行時、三種採用で採用された事務系高卒男子は大部分が職分三級以上であ
ったため専門事務技術職系列に移行した。
 これに対し、原告ら二種採用の女子は、ごく一部の例外を除いてほぼ全員が職分
一級であったため事務技術職一級に移行した。
 その結果、三種採用から排除された二種採用の女子は、四五年制度のもとでも三
種採用に相当する専門事務技術職から排除された。
ウ 五九年制度は、職掌の名称を変更したものであり、四五年制度の専門事務技術
職掌と事務技術職掌との区分による男女別雇用管理が、企画開発職掌と執務職掌に
よるそれに置き換わったにすぎず、二種採用の高卒女子は、ほぼ全員が執務職に移
行した。
 その結果、二種採用の高卒女子は、昭和五九年制度の下でも、引き続き第三種採
用に相当する企画開発職から排除された。
エ 現行制度でも、五九年制度の執務職掌の職務は基幹職掌に、企画開発職掌の職
務は専門職に分類され、社員もその従事する職務の分類及び職分によって、基幹職
または専門職に移行した。
 その結果、三六年制度の男女別採用とこれに基づく男女別処遇は現在に至るまで

継されてきている。
(2) 被告の職分制度における性差別性
 三六年制度が、採用後の男女別処遇を予定した男女別採用であったことは明らか
であり、原告ら高卒女子には三種採用を選択する余地はなかった。
 四五年制度以降の事務技術職掌や執務職掌と専門事務技術職掌や企画開発職掌の
分類の定義からして、これらの職掌に属する職務の明確な区別は現実には困難であ
るにもかかわらず、あえて、被告がこれらの職掌区分を設けてきたのは、二種採用
の高卒女子を事務技術職掌あるいは執務職掌に、三種採用の男子を原則として専門
事務技術職掌あるいは企画開発職掌に配置し、男女別採用を職掌別に置き換えるこ
とによって、男女別の労務管理の継続を目的としていたものであった。
 四五年制度から系列転換審査制度が実施されたが、これも男女別採用区分の是正
を目的としたものではなく、制度としての是正措置は設けられていない。
 被告の職分制度では、上位職分への昇任は、担当職務の内容と成績評定の結果に
基づき行われるところ、事務技術職や執務職、主務職は、女子に定型的補助的職務
を主たる職務として配置することをねらいとしていることから、執務職、主務職の
女子に上位の職分任用につながるような仕事の配置が行われにくく、女子は、職分
昇任や管理職昇進においても不利益に扱われることになる。
(3) 男女間格差
 事務系の職務に従事する高卒女子のほとんどが五九年制度の執務職、主務職であ
り、主務職女子のほとんどは主務職三級以下にとどめ置かれた。現行制度でも女子
は基幹職Ⅲの2級以下である。大阪本社の事務部門においては、二種採用又は事務
技術職要員採用の女子で管理職となったものはいない。
 これに対し、三種採用の男子は、採用から一年経過後には職分二級に任用され、
四五年制度実施にあたっては、そのほとんどが専門事務技術職系列へ移行し、入社
間もないために事務技術職系列へ移行した者も、学科試験を免除されるなどして、
その後全員が専門事務技術職系列へ転換した。そして、五九年制度への移行により
企画開発職へ移行し、さらに管理職に昇進した。
(4) 男女別雇用管理制度の違法性
ア 憲法一四条一項は、男女差別を禁じ、労働基準法四条も賃金について男女の差
別的取扱いを禁止し、わが国が昭和四六年に批准した「国際人権規約」や昭和六〇
年に批准した「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃条約」等も男女同一の労働
の権利や同一の雇用機会の権利等を定めており、この差別撤廃条約の批准に伴って
昭和六一年には均等法が施行された。さらに、裁判実務のうえでも、昭和四〇年代
から女子の結婚退職制、若年定年制等について、女子に対する合理的な理由のない
差別を公序良俗違反とする裁判例が相次いだことなどによって、今日では、労働関
係全般における公序として男女差別禁止の法理が確立している。この男女差別の禁
止には、制度自体は性中立的であっても、その適用結果が一方の性の多くに不利益
をもたらすいわゆる間接差別の禁止も含まれるというべきである。
 男女差別禁止の法理により、使用者には、労働契約における信義則上の義務とし
て、労働者を平等に取り扱うべき義務がある。
イ しかるに、被告が三六年制度の下で男女別採用をした結果、原告ら高卒女子
は、なんらの説明も受けられないまま三種採用から排除された。しかも、この採用
区分は、男子を専門職務や監督職務に従事させ、女子を定型的で補助的業務に従事
させるという基準によるものであったが、女子を専門職務や監督職務から排除しな
ければならない合理的な理由はない。いわゆるコース別雇用管理においても、恣意
的な雇用管理区分を設定することは許されず、それが公序違反とならないようにす
るためには、そのコース設定が、職種や職務内容等の客観的で合理的な基準に基づ
いていることが必要であり、同種の職務でありながら、使用者があえて処遇や労働
条件を異にする複数のコースを設定し、採用や配置に当たって一方のコースから女
子のみを排除することは違法というべきである。
 被告の男女別採用は三六年制度当時においても違法な男女差別に該当するもので
あった。被告は、その後の処遇においても、三六年制度の趣旨を継承する職分制度
の下で、採用区分の違いを理由に、仕事の配置、転換、昇任等さまざまの場面で原
告ら高卒女子の平等および公正処遇を求める権利を侵害し、その結果、原告らは、
後述のとおりの賃金格差相当額の損害や精神的苦痛を被った。このような被告の雇
用管理は、労働契約の債務不履行に該当するとともに、憲法一四条、民法九〇条に
も違反しているから民法七〇九条の不法行為にも該当する。
 したがって、被告は、その男女差別の処遇によって原告らが被った損害を賠償す
べきである。
ウ 被告の主張に対する反論
① 被告は、募集、採用の自由を理由に男女別採用を正当化し、原告
らは二種採用に応募してその処遇を受けているものであるから違法はないと主張す
るが、合理的な理由なく、募集、採用という雇用関係成立の出発点において男女差
別を行うことは、特定の雇用関係から女子を閉め出すことになり、差別を受ける女
子労働者にとって極めて深刻な打撃を与えることになるのであって、募集、採用が
全くの使用者の自由裁量に委ねられていると解することは到底できないことであ
る。
② 被告は、原告ら採用当時の男女の役割分担意識や女子の勤続年数の短さなどを
理由に、被告の男女別採用が違法ではなかった旨主張する。
 しかし、これは、女子を非能率、無能とする露骨な性差別意思に基づく労務政策
である。
 公序良俗に違反するかどうかという法的な判断基準は、あくまで憲法の平等原則
に求められなければならず、原告らが採用された当時のいわば多数者の意識である
社会通念だけを根拠として、憲法には違反するが当時の公序には違友しないとする
ことは許されるべきことではない。
 しかも、原告らが入社した当時の社会意識としても長期勤続を希望する未婚既婚
の女子は多数存在したし、現に長期勤続している女子も少なくなかったのであっ
て、被告の女子労働者に対する見方は、極めて偏見に満ちている。転勤の有無につ
いても、被告においてすべての三種採用者が転勤しているわけではなく、その違い
を持って男女別採用を合理化することはできない。
 仮に、被告が主張するような男女間の役割分担意識や女子の勤続年数の短さなど
といった事実があったとしても、それは、あくまでも社会あるいは被告内における
一般的な傾向ないし統計的数字に過ぎず、現に長期勤続を続けてきた原告らに対し
ては妥当しない。
③ 被告は、高卒女子を第三種試験で採用することは、転勤や長期勤続に対する意
識改革など被告が種々、多大なコストを負担することになる旨主張する。
 しかし、この点でも、個々の労働者の個性に着目することなく、女子を集団的に
一律評価して能率が悪いなどとすることは、いわゆる統計的差別であって許される
ものではない。当時の一般的な女子の勤続年数や一般的な性役割分担意識がいかな
るものであれ、本件で判断すべき観点は、原告ら具体的な個々人についての判断で
なければならない。
(二) 厚生給における男女差別
 被告の賃金制度のうち、厚生給の住宅要素や扶養家族分は世帯主でないと支給さ
れない。厚生給が基準内賃金に
占める割合は三割を超えており、世帯主か否かによって無視できない賃金格差が生
ずる。
 そして、この厚生給における世帯主とは「一つの世帯を主宰する者」をいうとさ
れているが、運用上は、住民票上の世帯主であることが厚生給における世帯主認定
の要件とされている。
 しかし、婚姻によって男女が世帯を構成する場合、男子が世帯主になる場合が圧
倒的に多く、したがって、世帯主かどうかによって支給額に差を設けることは、結
果的に女子を不利益に扱うことになる。
 したがって、これもまた違法な男女差別(間接差別)であり債務不履行及び不法
行為に該当する。
(三) 原告らが受けた男女差別等
(1) 採用、昇格、昇任の男女差別と賃金格差
 原告らは、いずれも、二種採用で採用されたことを理由に被告から定型的補助的
業務、あるいは被告が定型的補助的業務としか評価しない業務に長期間にわたって
従事させられた結果、現行制度になった現在も基幹職Ⅲ級に据え置かれている。
 他方、原告らと同期入社の三種採用の高卒男子は、勤続二一年目または二二年目
までにその八割以上が管理職一級へ昇進し、原告P1の同期男子の場合は本件提起
時すべて管理職となっていた。
 このような昇格、昇進等の男女の異なる取扱いによって、原告らと同期入社の三
種採用の高卒男子との賃金格差は、別表4のとおり、平成一一年二月現在、基準内
賃金だけで、原告P3、同P1とは平均で月額約二〇万円、原告P2とは月額約一
五万円に達している。
(2) 厚生給における差別
ア 原告P1は、昭和四二年に結婚したが、夫を世帯主とする住民登録を行ってい
るため、非世帯主としての厚生級しか支給されなかった。
イ 原告P2は、昭和四九年に結婚し、昭和六二年に、同原告を住民票上の世帯主
とし昭和六三年八月から同原告を世帯主とする厚生給の支給を受けるようになった
が、それまでは夫を世帯主とする住民登録を行っていたため非世帯主としての厚生
給しか支給されなかった。
ウ 原告P3は、昭和四三年に結婚し、平成一○年ころ同原告を住民票上の世帯主
とし同年八月から同原告を世帯主とする厚生給の支給を受けるようになったが、そ
れまでは夫を世帯主とする住民登録を行っていたため非世帯主としての厚生給しか
支給されなかった。
(3) 調停開始不同意の違法性
 均等法一五条に基づく調停申請に対し、事業主が調停開始に同意しないことが許
されるのは、正当な理由
がある場合に限られると解すべきである。
 しかるに、被告は、平成六年に原告P1及び同P2が申請し、平成九年に原告P
1が申請した各調停に対し、正当な理由なくその開始に同意しなかった。これは同
意権の濫用である。
 原告P1及び同P2は、被告の右同意権の濫用によって調停を受ける利益を奪わ
れ、精神的苦痛を被った。
(四) 原告らの損害
(1) 賃金格差相当の損害
 原告らは、被告の男女差別処遇により長期間にわたって低い職分に据え置かれて
きた結果、原告らと同期入社の三種採用高卒男子との間には著しい賃金格差が生じ
ている。原告らは、男女差別を受けなければ、同期入社の三種採用男子の平均的給
与と同等の賃金の支給を受けることができたものである。
 ところで、P4は昭和三七年に、P5は昭和四一年に、それぞれ三種採用で被告
に雇用された高卒男子社員であるが、両名とも同期の高卒男子の中では昇格が遅れ
ている。
 原告P1と同P3は、P4と同期ないし近時期の入社であるが、右原告らとP4
との昭和六〇年度から平成一一年度(年度は四月から三月まで)までの基準内賃
金、賞与、夏期手当、年末手当の差額(ただし、P4のほうが原告P1より入社が
一年早いので、P4の各前年度の賃金と比較する。)の合計は別紙請求金一覧表一
「過去の差額賃金相当損害金」欄記載のとおりであり、平成一一年度の差額賃金の
平均月額は同一覧表「差額賃金(月額)」欄記載のとおりである。
 原告P2は、P5と近時期入社であり、右同様に原告P2とP5との昭和六〇年
度から平成一一年度までの賃金差額(右同様に入社年度の相違を調整して比較す
る。)を算定すると、その合計は右一覧表「過去の差額賃金相当損害金」欄記載の
とおりであり、平成一一年度の差額賃金の平均月額は同一発表「差額賃金(月
額)」欄記載のとおりである。
 原告らとP4またはP5との右賃金差額合計や平均月額が、原告らと同期入社の
三種採用男子のそれを上回るものでないことは明らかであり、したがって、少なく
とも原告らはそれぞれ右一覧表「過去の差額賃金相当損害金」欄記載の損害を被っ
たものであるし、将来にわたっても同一覧表「差額賃金(月額)」欄記載の損害を
被るものと見込まれる。
(2) 慰藉料
ア 原告らは、被告の男女差別処遇によって多大な精神的苦痛を被ったが、これを
慰謝するには、原告P1が一九八二万〇五六四円、原告P2が一五一八万五一
六二円、原告P3が二三九〇万〇五七〇円(以上は、本訴提起時において、原告ら
が過去の差額賃金相当の損害して主張していた額と同額である。)の慰藉料をもっ
てするのが相当である。
イ 原告P1及び同P2が、被告の調停開始不同意により被った精神的苦痛を慰謝
するには右原告ら各自につき一○○万円が相当である。
ウ 弁護士費用は、原告ら各自につき、それぞれ別紙請求金一覧表一「弁護士費
用」欄記載の金額が相当である。
(3) よって、原告らは、それぞれ、過去の差額賃金相当損害金、慰藉料、及び
弁護士費用の合計として別紙請求金一覧表一「請求金合計」欄記載の金員及び平成
一二年四月以降毎月二五日限り同一覧表「差額賃金(月額)」欄記載の金員とこれ
らに対する支払済みまでの遅延損害金の支払を求める(なお、弁論の全趣旨からし
て、原告らが請求を拡張した部分については、遅延損害金の請求も拡張する趣旨で
あることは明らかである)。
2 被告の主張
 被告は、職務と職務処理能力と処遇の有機的関連により人事制度の近代的適正化
を図る目的から三六年制度において職分制度を導入し、その後、業績貢献主義を強
化、推進する観点から数度にわたる職分制度の改定を行ってきた。原告らは、三六
年制度の下で、女子であることを理由に三種採用から排除され、その後も現行制度
に至るまで系列転換していないことをもって男女差別であると主張するが、採用時
の区分に従った処遇を受けているし、三六年制度における採用方法は当時としては
合理的なものであって公序に反するものではなく、したがって、原告らに対する処
遇は男女差別に該当するものではない。
(一) 三六年制度における採用区分とその合理性
(1) 全社採用と事業所採用
 同じく高卒を募集対象とするとはいえ、三種採用は本社において高校新卒を採用
選考するいわゆる全社採用であったのに対し、二種採用は事業所において高卒を採
用選考するいわゆる事業所採用であって、それぞれが採用を意図する人材や予定す
る採用後の取扱いは全く相違していた。
ア 各種採用が予定する従事職務の相違
 一種及び二種採用は、各事業所における一般職務従事者を確保するためのもので
あり、三種及び四種採用は、全国各地または海外の被告の事業所における専門職務
従事者を確保するためのものであった。二種採用者と三種採用者とでは、期待した
役割や予定する職務が質的に異なっていた。
① 三種採
用は、製造関連部門の技術者を確保することに主眼があり、三種採用者の多くは工
業高校の卒業者であった。
 わずかながら普通高校または商業高校の卒業者も三種採用されたが、これらの者
は、主として総務、人事、会計等の分野に配属され、将来、右分野における専門職
務に従事することが予定されており、その業務最適化の改善を行なっていく要とな
ることが期待されていた。そこで入社後数年のうちに日常の業務処理に精通すると
ともに、その背景となっている専門的な理論等を習得し、より広い観点からの判断
を行うことが要請され、さらに、一種及び二種採用者の指導、育成も求められた。
これらの業務は、質量ともに膨大で労働負荷が非常に高く、深夜や休日に勤務せざ
るを得ないことも多々あった。
② これに対し、二種採用者に求められたのは、三種採用者が検討し確立した業務
遂行方法に則った確実な日常的業務の遂行であった。
イ 採用後の処遇の相違
 二種採用者は、採用された事業所に勤務するものとし、原則として転居を伴う転
勤は予定されなかったが、三種採用者は、全国の事業所に配属されるものとして転
居を伴う配転が予定された。
 採用後の従事職務の相違を反映して、二種採用者は三か月の社員補期間経過後、
職分一級に任用されたのに対し、三種採用者は一年間の社員補期間経過後、職分二
級に任用された。職分任用時の基本給は三種採用者が高額であったほか、その後の
職分昇進、賃金水準においても三種採用者の方が二種採用者より高くなることが予
定されていた。採用後の研修も、二種採用者と三種採用者とでは全く別個に行われ
ていたのであり、その内容や期間も当然異なっていた。
 二種採用者は、後述のとおり、事業所周辺から採用された者であるため、被告の
寮や社宅の貸与もなかった。
ウ 募集及び採用手続の相違
① 二種、三種いずれの採用も一般公募ではなく、被告が指定した高校に推薦を依
頼し、推薦を受けた者の中から、学科試験や面接を実施して採用者を決定してい
た。三種採用の場合、指定校は全国に及んでおり、各県数校の指定校より推薦を受
けた最優秀層の中からさらに少数の合格者を選抜していたのに対し、二種採用の場
合、指定校は事業所周辺の高校であり、地域との関係から縁故採用の者も存した。
② 二種、三種いずれの採用でも、採用者数については本社の決裁が必要であった
が、採用試験の日程や場所、採用試験の内容、合格者の
決定等については、二種採用の場合、全て事業所に決定権があったのに対し、三種
採用の場合、全て本社に決定権があった。
 このため、二種採用の試験は各事業所または同一事業地合同で行なわれたが、三
種採用の試験は本社あるいは被告の特定の事業地で行われていた。入社日、入社式
の場所や内容も異なっていた。
エ 三六年制度の処遇の実情
 三六年制度では、事業所採用者でも職分三級に任用されれば専門職務に従事する
ことができたが、事業所採用者が職分三級に任用されるためには、昭和三九年に設
けられた職分三級登用審査に合格するなど全社採用者と同等の能力を有すると認め
られることが必要であり、職分三級任用は非常に困難であった。
 そのため、三六年制度の実情としては、事業所採用者は職分二級までに対応する
一般職務または監督職務に従事し、全社採用者は専門職務に従事していくことが基
本であった。
(2) 三種採用の募集対象を男子に限定した理由
ア 三種採用は技術者確保を主眼にしていたが、当時、工業高校で化学工学等を専
攻する女子は極めて少なく、女子は必要な人材の安定的な供給源とはなり得なかっ
た。
イ 三種採用者には、労働負荷の高い専門職務への従事や全国転勤が予定されたほ
か、化学工業においては技術の蓄積が容易ではないという事情もあって長期勤続が
期待されていた。
 しかるに、昭和三〇年代ころは、性別による役割分担意識が女子も含めて社会全
体に根強く残っていたため、女子については家事、育児の責任が重く、女子雇用者
の平均勤続年数は極端に短く、一般的に女子に長期継続勤務を期待し得る状況では
なかった。そして、この状況は被告においても同様であり、労働負荷の高さや転居
を伴う配転が予定されていることもあって、女子に対し、三種採用が予定する職務
に従事することや長期勤続を期待することはできず、必要な人材の安定的な供給源
とはなり得なかった。
ウ 操業に関連する専門職務には、連続操業に伴う交替勤務、危険物の取扱い等が
必要になるが、三六年制度当時の労働基準法による女子の危険有害物の取扱いや深
夜業の制限との関係上、かかる業務に女子を活用することは不可能であった。ま
た、業務分野を問わず、女子に対しては、時間外労働や休日労働についての労働基
準法の制限が障害となり、三種採用者が予定する労働負荷の高い職務を男子と同様
に果たすことが期待できなかった。
エ 昭和三〇年代から
昭和四〇年代後半ころまでは、被告が積極的な設備投資による規模拡大等に取り組
み、安定操業体制の確立が大きな課題となっていた時期であり、技術分野以外の専
門職務従事者でも製造現場に足を踏み入れることが頻繁であったが、そうした業務
に女子を活用することには、当時の一般的な社会認識からして極めて困難であっ
た。
オ こうした中で、被告が高卒女子を三種採用で採用するには、社会一般の性的役
割分担意識の解消のためなど種々のコスト負担が予想され、合理的な企業行動であ
るとはいえなかった。
(3) 二種採用の募集対象を昭和四二年まで女子とした理由
 三六年制度当時、高卒男子の需要は高く、一般職務従事要員の応募者は限られて
いたが、他方で、結婚や出産までの一時的就業という職業意識から高卒女子が一般
職務従事要員の供給源となっていたため、二種採用は女子だけを募集対象とした。
 しかるに、進学率の高まりの中で、従来、交替勤務要員として確保していた中卒
の人材不足が顕著になるとともに、技術革新の展開により三種採用の想定する能力
水準に達しない高卒男子が増加したことから、昭和四三年以降高卒男子も二種採用
の募集対象とするようになった。
(4) 三六年制度における採用区分の合理性
 以上のとおり、二種採用と三種採用とでは、その採用目的が明確に異なり、被告
は、全く別個の手続により、それぞれ必要な人材を確保してきたのであって、三種
採用の募集対象を男子に限定したことは、当時の社会常識からすれば何ら不合理な
ところはなく、公序良俗に反するものではなかった。
 また、原告らは、二種採用に自らの意思に基づいて応募し、採用されたのであ
り、原告らが三種採用に応募する機会を持たなかったことと二種採用で採用された
こととは何ら関係がない。仮に、当時女子に対して三種採用に応募する機会が与え
られていたとしても、原告らが、それを希望したか否かは疑問であるうえ、希望し
たとしても、三種採用の合格水準からするとこれに合格し得た可能性は極めて低
い。
(二) その後の制度改定
(1) 四五年制度
 四五年制度は、職務及び職務遂行能力と処遇との関連をより強くすること等を目
的とした改定であった。
 専門事務技術職要員採用の一類、二類は、それぞれ三六年制度の四種採用、三種
採用に対応するもので、いずれも全社採用としての位置付けであり、事務技術職採
用は事業所採用の位置付けであって、制
度的には連続性のある取扱いであった。
 四五年制度では、社員は採用区分に対応する職分系列で職分昇任して行くのが原
則であったが、上位職掌の職務に従事し得る能力と意欲のある者には、その能力を
発揮する機会を与えるという考え方に立って、被告は系列転換審査制度を設置し
た。このうち、専門事務技術職系列転換審査Bは、将来にわたって広く専門事務技
術職掌の職務を遂行していく能力を有しているか否かを審査するものであり、その
ため審査内容には学科試験を課すこととし、人材活用や育成の観点から早期合格が
望ましく、受験資格は一定の職分以下の者とした。
 三種採用者に対して、基礎知識に関する学科試験を免除したのは採用段階ですで
にその能力を審査していたからであり、また、後に専門的知識に関する学科試験を
免除することにしたのも、将来の専門職務に従事し得る人材として選抜した三種採
用者に対する制度運用上の硬直さを解消するためであって、男女差別によるもので
はない。
(2) 五九年制度及び現行制度
 五九年制度及び現行制度は、業績貢献度主義の強化、推進を目的とした改定であ
り、従来の採用試験の名称を変更したが、全社採用、事業所採用の採用区分やその
区分による採用後の処遇の相違は基本的に従前の制度を承継するものであった。
(3) 原告らは、四五年制度以降の職分制度における事務技術職掌や執務職掌の
職務と専門事務技術職掌や企画開発職掌の職務との区別は明確でないとして、これ
が男女別雇用管理を目的としたものであったと主張するが、被告の職務が非常に多
岐に亘っているため、区分が必ずしも明確ではない職務が一部に存在することは否
定できないものの、全体としてみれば明確に区分することができたのであって、原
告らの右主張は理由がない。
(三) 違法な格差の不存在
(1) 現時点における原告ら二種採用者と三種採用者間の賃金、職分等における
格差は、制度上予定されていたものであり、入社後に積み重ねられてきた従事職務
の相違、その結果たる職務遂行能力の程度や業績成果の相違に基づくものにほかな
らず、男女差別の処遇の結果によるものではない。
(2) 二種採用の男女間には、差別というべき賃金格差はないし、別表2からも
明らかなとおり、事業所採用された高卒男女間では系列転換審査の合格比率を除け
ば、職分に差別というべき格差はない。
(四) 債務不履行及び不法行為の主張に対する反論
(1) 原告らが主張する労働者に対する平等取扱義務は、極めて抽象的なもので
ありその具体的内容が不明であって、かかる抽象的な義務の主張をもって債務不履
行を論じること自体失当というべきである。
 仮に、そのような義務が認められるとしても、他方で被告には企業経営の自由が
あり、いかなる者を採用し、いかに処遇するかは被告が自由に決し得るところであ
る。原告らを採用した当時の社会的な背景等に照らすと、採用後の従事職務とその
処遇を想定して、二種採用で採用する者を事実上女子のみとし、三種採用で採用す
る者を男子としたうえ、採用後、予定した職務配置と所定の処遇を行うことには合
理性が存した。
 なお、これに関連して、原告らは採用区分やその後の処遇についての説明がなか
ったと主張するが、入社希望者は、被告が学校に提出した求人票で業務内容や勤務
地を確認できたし、学校から入社条件等の説明を受けることも可能であり、また、
説明を受けたはずである。さらに、被告も、応募者に対しては採用条件等の説明は
していた。
(2) 原告らが確立した公序であると主張する労使関係における男女差別取扱禁
止や不公正処遇の禁止から、被告にいかなる作為、不作為の義務が生じるというの
か、原告らのいかなる具体的権利を侵害したというのか、その具体的な内容は不明
確である。また、被告が原告らを採用した時点で原告らの主張するような公序が確
立していたとは考えられない。
 被告の取扱いに不法行為に該当する違法はない。
(五) 厚生給における男女差別の主張に対する反論
 厚生給のうちの住宅要素及び扶養家族分は、生活の実情に応じた補填を行う趣旨
のものであり、同一の事情に対して、配偶者が支給を受けているものと重複して支
給することが不合理であるため、これを避けるべく、世帯主、すなわち、「一つの
世帯を主宰する者」「主として生計を維持する者」を基準として支給することと
し、運用上は住民票上の世帯主がこれに該当することが多いことから便宜上、住民
票上の世帯主に支給してきた。
 このような取扱いは厚生給の趣旨からして合理性を有するものであり、世帯主が
男子であるか女子であるかを問わないものであるから、男女差別的な要素は一切な
い。
 したがって、厚生給に係る原告らの主張も失当である
(六) 調停開始不同意について
 原告P1及び同P2が申請した調停の開始に被告が同意しなかった事実は認める

、その余は争う。
(七) 原告らの損害について
 すべて争う。
二 争点2(系列転換における男女差別)について
1 原告らの主張
 仮に、三六年制度の三種採用からの女子の排除が差別とはいえないとしても、女
子を女子であることのゆえに三種採用が予定する職務から排除することは、少なく
とも均等法が施行された昭和六一年の時点においては違法であり、被告には右職務
から排除された女子に系列転換の実質的な機会を与えて男女間の異なった取扱いを
是正する義務が生じていた。しかるに、被告は右是正義務に反し、系列転換制度を
男女差別的に運用することによって、原告ら二種採用の高卒女子に系列転換の実質
的な機会を与えることがなかった。その結果、原告らは、五九年制度の下で企画開
発職系列への転換をすることができず、「入社以来一貫して事務系の職務に従事
し、転換審査に合格した二種採用または事務技術職採用の高卒男子」(比較対象男
子)で原告らと入社年度が近い者との間で著しい賃金格差が生じている。被告の系
列転換審査制度の運用は違法な男女差別である。
 なお、右のとおり比較対象男子を事務系に限定するのは、入社以来一貫して事務
系の職務に従事してきた原告らとの比較において、その対象者には類似性が要求さ
れるべきだからである。そして、事務系とは、平成七年七月の人事制度改定におい
てなされた管理職の職務分類であるM職務群(マーケティングアンドセールス専門
職)、S職務群(スタッフ専門職)、E職務群(生産技術専門職)、R職務群(研
究開発専門職)のうち、M職務群及びS職務群をあわせたものであり、管理社員が
事務系である場合にはその管理下に属する社員の職務も事務系に分類できる。
(一) 被告の是正義務の発生根拠及びその内容
 三六年制度の二種、三種の男女別採用が、仮に当時の公序からして違法とはいえ
ないとしても、男女の区別に基づくものであることは明らかである。
 ところで、違法性の評価基準は歴史的に変遷するものであり、わが国でも、女子
の社会進出が進展する中、結婚退職制や若年退職制などで女子を不利益に扱う事業
主の措置を違法とする裁判例が相次いだこと、昭和六〇年に女子差別撤廃条約が批
准され、これを受けて均等法が施行されたことなどによって、遅くとも右均等法が
施行された昭和六一年ころには、女子を特定の職務コースから排除することが公序
違反となることはすでに確立していた

 このような公序の変化に照らすと、遅くとも昭和六一年時点では三六年制度にお
ける男女別採用とこれに基づく処遇が違法な男女差別であることは明らかであるか
ら、その処遇によっで生じていた男女間格差もまた違法というべきである。
 使用者には、労働契約上の信義則に基づき、労働者に対する平等取扱義務がある
ことは前記のとおりであり、使用者がこれに違反し、労働者を男女で不合理に差別
扱いをした結果、男女間に違法な格差が生じている場合、使用者には、平等取扱義
務の具体化としてその格差を是正すべき義務があるというべきである。
 したがって、被告は、昭和六一年ころには、右男女間格差を是正するため、原告
ら高卒女子に対し、その採用区分を理由として排除してきた職務やコースに転換で
きる機会を、男子が与えられてきたと同等に付与すべきであった。被告は、男女別
採用の是正措置という位置付けではないが、系列転換審査制度を設け異なる職分系
列間の系列転換を可能としてきたが、右系列転換審査制度は男女平等に設計される
べきであり、これを原告ら二種採用の高卒女子ないしは類似した採用区分である事
務技術職要員採用試験で採用された女子に適用するに当たっては、その運用を男女
で平等に行うべきであった。
(二) 被告の是正義務違反
(1) 四五年制度と現行制度における系列転換審査の実態(背景事情)
ア 四五年制度の専門事務技術職系列転換審査Bの新設は、全社採用の募集対象か
らはずまれた高卒男子のうちの優秀者に専門事務技術職掌の職務に従事する機会を
与えることを目的としたものであったし、事務技術職系列に移行した三種採用の高
卒男子は学科試験も免除されたが、三六年制度における二種採用高卒女子の位置付
けは四五年制度でも基本的には変わらなかった。
 結局、四五年制度の系列転換審査制度は、四五年制度移行後も事務技術職に残存
していた三種採用の高卒男子、事務技術職要員採用試験で採用した事業所採用の高
卒男子の転換を主眼としたものであって、設計動機が性中立的なものではなかっ
た。
 被告には、事務系の職場(勤労課や査業課)にはより高い意欲と業務遂行能力を
持つ高卒男子を意識的に配置した反面、女子にはそのような配慮をしないなどの男
女間での人材育成方針の違いがあり、また、系列転換審査には業務と関連性のない
不合理な学科試験が課されていることで高卒後長期間経過している二種採用の女子
の不利益は大きかったし、系列転換審査の存在が社内に周知されることはなく、女
子にも受験資格があるとは考えられておらず、上司が受験を進める場合でも男子だ
けであり、受験する男子には職場における組織的な援助、指導がなされた。
 被告は、試験日程を管理職にしか知らせないという措置を通じて、審査対象を高
卒男子とする制度設計の意図を実質的に達成できた。
 右のような運用の結果 別表1のとおり、四五年制度の下で、専門事務技術職転
換審査Bによって系列転換した女子は、二名のみであるのに対し、男子は二四六名
が系列転換した。
イ 現行制度の専門職分系列転換審査では、業務に関連する科目の中から二科目を
受験することとなったが、一科目は高度の国家試験取得をもって代替できるという
ものであり、科目の合格水準は高く設定されていて、原告ら昭和三〇年代後半に高
卒で入社した女子にとっては極めて合格困難なものとなっている。他方、三六年制
度の二種採用男子や四五年制度の事務技術職採用男子で、系列転換の意思のある者
は現行制度前にほとんど転換を終えた。
(2) 五九年制度における監督職・企画開発職系列転換審査の問題点と実態
ア 制度自体の性差別制
 監督職・企画開発職系列転換審査は学科試験が廃止されて受験は推薦制となった
が、これは、早期転換が望ましいとされていたにもかかわらず、四五年制度の下で
学科試験に合格できない者への配慮からというものであった。
 しかし、もともと専門事務技術職転換審査Bが事業所採用のみとなった高卒男子
の人材活用を主たる目的としていたことや四五年制度の下での女子受験者が極めて
少数だったことからして、監督職・企画開発職系列転換審査の対象としては未転換
の高卒男子集団が想定されていたことは明らかであり、五九年制度の系列転換審査
制度も、設計動機において性中立的なものではなかった。
 また、受験が推薦制とされた結果、上司による職務配置や評価が重要な意味を持
つこととなったが、これには次のような問題がある。
① 推薦基準②について
 推薦基準②ⅰは、監督職または企画開発職掌の職務に従事していることを前提と
しているが、企画開発職系列からの高卒女子排除の方針を有する被告が、高卒女子
に企画開発職掌の職務を配置するとは考えられず、現に、被告は、女子には転換に
つながるような職務配置を行ってこなかったし、女子に企画開発職掌に属する職務
を配置し
たとしても、職務区分の曖昧さから被告がその職務を企画開発職掌に属する職務と
評価しないことも十分考えられる。日常業務のなかでの企画開発職要員としての能
力判定基準も不明確であり、結局、上司の主観的な裁量の余地が大きく、高卒女子
がその能力を有すると評価されることはなかった。
 推薦基準②ⅰやⅲは男女とも適用がほとんど考え難い。
 推薦基準②ⅳも、被告は、二種採用の女子をこのような研修に派遣していないの
であるから、女子には適用されようがない。
 推薦基準②ⅴも、「積極的」「顕著」「大いに」等上司の主観的な判断が相当に
反映されうる基準であり、上司に性的偏見がある被告において、女子がこのような
主観条項で推薦を得られる可能性はない。
② 推薦基準①について
 推薦基準①についても、成績優秀者の判断基準は設定されておらず、執務職掌の
職務についての成績評定をさすのか、企画開発職掌の職務についての能力評価をさ
すのかも定かでなく、上司の裁量の幅の広い曖昧な基準というほかない。
 また、被告では、成績評定とは別に、推薦について上司が人事と話し合いを行う
という運用であり、そうすると、成績優秀者か否かは、成績評定制度と切り離され
た総合的な判断ということになり、人事と上司の主観に左右されることになる。
イ 運用実態
 平成一一年一一月現在での、昭和四五年から昭和五〇年に入社した高卒社員の職
分系列区分は別表3のとおりであり、事務系男子は七六名中五三名(約七〇パーセ
ント)が系列転換しているのに対し、同時期入社の事務系女子で系列転換したのは
一四名中わずか一名(約七パーセント)にすぎない。
 また、右同時点での、右同時期入社高卒社員の男女別職分分布は別表2のとおり
であり、男子が、管理社員の参事から基幹職Ⅱ-2級までの幅広く分布しているの
に対して、事務系女子はⅢ-1級に集中しており、男子については、能力等による
評価と職分任用がなされているのに対して、女子については、ほぼ均一な処遇がな
されている。
 昭和六〇年から平成八年までの系列転換審査合格者は、別表1のとおりであり、
男子は二〇八名であるのに対して、女子一四名にとどまったが、これについても被
告から合理的な説明はない。昭和六〇年に八二人、昭和六一年に二五人という多数
の男子合格者が出ているが、これは、上司による男子社員の大量の推薦がなされた
ことによる。その後、男子の転換試験合格
者が減少しているのは、未転換で残存している高卒男子(特に事務系)がごく少数
となったためである。平成五年以降に事務系部門で女子合格者が増加しているの
は、原告らが、女子の処遇の低さを問題にして上司や労働組合に申し入れをした
り、大阪婦人少年室へ調停申請を行ったりしたことの影響である。しかも、女子合
格者の多くは大卒であった。
(3) 原告らの個別事情
ア 原告P1
① 担当業務
 原告P1は、入社以来デリバリー業務担当とされ、昭和四〇年から現在まで一貫
してアクリルシートのデリバリー業務に従事してきた。
 この間、原告P1は、その希望により、昭和六一年から大阪販区の生産担当の仕
事を与えられ、キャストシートの生産調整、在庫管理を担当し、さらに平成七年四
月から代理店の営業担当(ルート販売)等が実現した。しかるに、平成九年早々、
デリバリー担当者二名が退職すると、原告P1は営業担当をはずされて同年二月か
らデリバリー専任に戻された。原告P1は、早期の営業復帰を希望し続けたが、被
告は原告P1の希望をいれず、原告P1が改正均等法(調停開始に相手方の同意を
要しなくなった。)の下で、平成一一年四月一日に調停申請に踏み切ったところ、
同年六月から原告P1を営業担当に復帰させた。
 アクリルシートのデリバリー業務は、取扱品種が約五〇〇〇種あり、顧客からの
受注や問い合わせに迅速かつ正確な判断を求められ、一日の受注件数も多い業務で
あるが、原告P1は豊富な知識で的確に対応しており、上司の指導や判断を仰ぐ必
要は生じていない。また、原告P1は、企画開発職の職務とされるバックセーリン
グを実現させたこともあるし、合理化のために名古屋のデリバリー業務を大阪で対
応することの提案をして採用され、顧客に送付する商品の色見本の入出荷のオンラ
イン化を提案し採用されたこともある。
 キャストシート製品の生産調整、在庫管理の業務では、管理職である各工場の代
表が出席して毎月一回の会議を持っているが、原告P1は、大阪販区代表としてこ
の会議に出席しており、また、大阪販区の製品の生産依頼や納期調整もやり、中継
地への製品の送り込み計画も立てた。
 営業に関しても、原告P1は担当初年度以来販売目標を達成し続け、順調に業績
を伸ばしてきており、担当先からも高評価を得ており、社内会議にも出席するよう
になった。
② 系列転換審査との関わり
 原告P1は、五九年制度の下
で、企画開発職への転換希望を平成四年以後のチャレンジカードに書き続け、平成
六年及び平成八年には上司に推薦を要請したが、上司からは、実績がない、定年ま
で会社の礎になれなどと発言され、推薦を受けることはできなかった。
イ 原告P2
① 担当業務
 原告P2は、入社後当時の計数課に配属され、キーパンチャーとして勤務した
が、昭和四七年に物流管理部(当時は運輸課)に異動となり、以後、物流業務に従
事している。その主要な業務は、倉庫の保管料、運賃等の支払業務と倉庫の品物の
受払管理である。支払業務において、原告P2は、協定以外の運賃や倉庫料が発生
したり、スポット的な輸送が始まる時には料金の試算をして伺いを書くが、工場で
は伺いを書くのは専門職の仕事である。また、受払管理においても、原告P2は実
地棚卸の際、会社代表として公認会計士らに計算方法等の説明をするなどしてき
た。
 そのほかにも、原告P2は、長期滞留品の整理や、平成六年ころからは、企画開
発職ないし専門職の仕事とされている物流予算の作成、平成九年ころからは、従前
男子の企画関発職、専門職が作成していた物流期報等の作成も担当している。
 原告P2は、料金改定のために毎年一回行われる輸送会社との会議への出席を要
請しているが、未だ許されたことはない。
② 系列転換審査との関わり
 五九年制度の下、原告P2は、平成三年ころ、上司に、異動した男子がしていた
仕事をしたいとの希望を述べたが、上司からは、女子は銃後の守りに徹せよなどと
言われて拒否された。その後も、原告P2は、そのころ、導入されたチャレンジ面
談の機会を利用して、仕事の配置や会議への出席、転換審査受験の推薦を受けたい
旨の希望などを出し続けたが、上司の対応は、実績がない、会議に出ずとも男子の
電話を聞いているだけで物流の方向はわかる、男子は実績の出る仕事をしている、
採用区分が違うのだから女子にそのような仕事をしてもらおうとは考えていないな
どといったもので、原告P2の希望が聞き入れられることはなかった。
 上司は、推薦のための実績として、平成五年ころ、物流の実務マニュアル作成
を、平成六年ころ、危険物乙種第四類の消防法の受験を、さらに、平成七年ころ、
物流の通信講座受験を指示した。原告P2は、リーダーとなってほか二名の女子と
ともに物流マニュアルを完成させ、右消防法の試験にも合格し、物流の通信講座も
受講し終えた。
しかるに、系列転換審査受験の推薦は受けられず、推薦できない理由についての上
司の説明も、平成八年ころからは、残業しないとか協働力が足りないなどいういわ
れのない非難に変わった。
ウ 原告P3
① 担当業務
 原告P3は、入社後当時の倉庫課に配属され、掃除、灰皿洗いなどの雑務に従事
させられ、その後配属が変わっても、庶務事務など補助的業務という点では職務に
ほとんど変わりはなかった。
 原告P3は、昭和五八年一〇月から日進運輸に出向し、顧客からの受注、トラブ
ル調整、出荷の手配などの需給業務に従事した。この業務は、正確かつ迅速な判断
や確実性が要求されるもので、三種採用者や専門事務技術職要員採用の男子も従事
している業務であったし、需給業務に従事していた原告P3の後輩男子で、出向期
間中に系列転換した者も存した。その業務を処理する中で、原告P3は、出荷準備
を正確かつ効率的に行うため、品名ごとの顧客名、住所、所要時間、納入条件等を
表にした「需要家一覧表」を完成させ、また、昭和六三年には、衛生管理者受験の
通信教育も受講した。
 平成五年一月、原告P3は、出向を解除されて被告の業務部に配属されたが、再
び、お茶汲み等を含む補助的業務に従事させられた。
 業務部復帰後、原告P3は、汎用運賃実績報告の計上の正誤照合を行う中で出て
きた問題点を自ら抽出し、検討してまとめた汎用運賃実績報告改善提案を行い、会
計事務処理の仕事をする中で、業務内容を処理順序にしたがって整理した債権計上
業務処理マニュアル等の手順書を自発的に作成した。また、平成六年一二月ころ、
上司から企画開発職へのステップとして、操作マニュアルと手順書の作成を命じら
れ、これも自力で完成させた。さらに、原告P3は、四国ヤマト宅急便を利用した
際の社員の費用立替払や輸送料金の一部が総務の費用とされている問題点を指摘し
て、その改善提案を行い、製造課のアルミナサンプルの郵パック費用も総務の費用
として支払われていることに気づき、その改善提案も行った。
 原告P3がしたこれらの改善提案のうち、「汎用運賃計上システムの改善(共同
提案)」、「アルミナサンプルの郵パック輸送費用計上システムの改善」及び「四
国ヤマト運輸宅急便の利用方法および支払方法の改善」は部長賞を受賞した。
② 系列転換審査との関わり
 五九年制度の下で、出向解除後の平成六年一月二〇日、原告P3は、上司に対
し、文
書で、企画的な仕事の配置と系列転換審査受験の希望を申し出たが、応対した上司
は、系列転換については原告P3にその能力がないと述べ、また、仕事については
運賃管理の解析を予定していると述べたが、その後その仕事は与えられなかった。
原告P3が上司から企画開発職へのステップとして命じられた操作マニュアルと手
順書を完成させても推薦は得られなかった。
エ 原告らが推薦を受けられなかった原因
 原告らの従事職務の内容や勤務状況、実績からすると原告らは、いずれも五九年
制度の下で、監督職・企画開発職系列転換審査受験への推薦を受け、企画開発職へ
転換されるにふさわしい状態であったというべきであるが、それにもかかわらず推
薦を受けられなかったのは、被告の一貫した女子差別の方針によるものというほか
ない。
 このことは、原告P2が所属する物流管理部では男子はすべて転換を終えている
ため人事部からの推薦検討依頼すらきていなかったこと、上司の原告P2に対する
成績評定も、原告P2のチャレンジカードの上司記載欄が欠落していたり、原告P
2自身に代行して書かせるなど真摯なものではなかったこと、原告P2が昭和六三
年に住民票上の世帯主を夫から原告P2に変更し世帯主としての厚生給支給を申請
した際、細かく事情を聞くなど女子が世帯主になる場合だけになされる不公平な取
扱いをしたこと、原告P3の、物流業務の基本を学びたいという要望で実現した学
習会でも、他の部から転入してきた男子には物流業務全体がまとめられた「物流管
理の実践」という教本が渡されたが、原告P3ら女子には渡されなかったこと、部
内で回覧する書類にも女子の欄は斜線が引かれ、回覧の対象から外されていたこ
と、さらに、被告では、自己都合退職者には退職金を減額支給するが、結婚退職の
時は減額支給をしないとの扱いをしていること、忌引休暇でも、就業規則上は、実
父母死亡時には七日間、配偶者の父母死亡時には五日間の忌引休暇を取得できると
されているのに、既婚女子の場合は配偶者の父母を実父母とする扱いで、原告P2
が実母を失った平成六年九月、五日間の忌引休暇しか取得できなかったことなどか
らも裏付けられる。
(三) 原告らの損害
 昭和四三年から昭和五〇年までの間に第二種採用試験または事務技術職要員採用
試験で採用された高卒男子で原告らが主張する事務系に属する在職者七六名につい
て、平成一一年一一月時点での基
準内賃金の平均、同年夏期手当及び賞与の平均から、同年の平均年収を推定する
(年末手当及び賞与は夏季同額と仮定)と六五九万五〇一九円となる。そして、こ
れらの者の年収が、昭和六〇年の平均において、原告ら各自とそれぞれ賃金水準に
おいて格差がなく、かつ、毎年均等に昇給してきたと仮定して、昭和六一年から平
成一〇年までの各年収の平均を算出し、これと原告ら各自の年収との差額を算定し
て合計すると、原告ら各自につき別紙請求金一覧表二「過去の差額賃金相当損害
金」欄記載のとおりとなる。
 原告らには右額を下らない賃金格差相当の損害が生じでいるというべきである
(なお、厚生給差別損害を含む。)。
 また、主位的請求同様、原告ら各自が被告の系列転換審査制度の差別的運用によ
って被った精神的苦痛に対する慰藉料は右差額賃金相当損害金と同額とすべきであ
り、さらに原告P1及び同P2については被告が調停開始に同意しなかったことに
よる慰藉料各一○○万円が加算されるべきであり、結局、賠償されるべき原告ら各
自の慰藉料は右一覧表「慰藉料」欄記載の額とするのが相当である。
 さらに、弁護士費用は、原告ら各自につき、右一覧表「弁護士費用」欄記載の額
とするのが相当である。
 よって、原告らは、被告に対し右一覧表「請求金合計」欄記載の金員とこれに対
する支払済みまでの遅延損害金の支払を求める。
2 被告の主張
(一) 原告らが主張する是正義務について
(1) 公序の変化によって是正義務が生じたとはいえないこと
 均等法は、事業主に募集、採用、配置及び昇進について女子を男子と均等に取扱
う努力義務(七条、八条)を課したにすぎないし、昭和六一年ころの社会の意識な
いし認識としても、均等法に反する制度ないし処遇を直ちに違法とするものではな
かった。
 したがって、昭和六一年の時点において原告らの主張するような是正義務を被告
に認めることはできない。
(2) 是正義務の内容
 仮に、昭和六一年の時点で、使用者は女子を特定の職務やコースから排除したり
してはならない等という公序が確立していたとしても、その場合に使用者に生じる
義務は、その時点以降将来に向かって、職場で男女を均等に取り扱わなければなら
ないというものに止まる。採用方法と採用後の人事上の諸取扱いに基づく処遇上の
差異は不可分の関係にあり、ある採用方法がある時点まで適法と評価されるという
ことは、その採用方法が予
定した人事上の諸取扱いに基づいてなされてきた処遇も適法と評価すべきことまで
意味するのであって、これをも違法とすることは法的安定性に欠けることになる。
 また、原告らは、是正義務の内容を機会を与える義務としながら、原告らの系列
転換審査合格という結果を当然のこととしているが、被告の監督職・企画開発職系
列転換審査は、希望すれば合格するようなものではなく、合格を当然の前提とする
ことは相当でない。
(二) 原告らの比較対象者について
 原告らとの比較対象者を、事務系の系列転換審査合格者に限定する理由はなく、
原告らと比較すべきは、事業所採用の男子全体であり、また系列転換をしていない
者でなければならない。
(1) 被告は平成七年七月の人事制度改定において、管理職の職務をM、R、E
及びSの四区分に分類したが、これは職務の目的や機能等の相違により、職務遂行
者を評価する際の着眼点も変えるべきであるとの考えによるのであって、従事職務
の相違によって異なる処遇を行うためではなかった。基幹職要員は、その属する組
織に関わらず同様の職務に従事しており、このため、現行制度実施の際にも被告は
基幹職の職務は基幹職掌として細分化することなく一つのものと定義した。
 系列転換審査の運用においても、従事する職務内容によって取扱いを違える理由
は全くなく、全社的に同一の基準でもって行われていた。
(2) 系列転換を果たした者とそうでない者とでは処遇に大きな格差が生じる。
 原告らが被告に男女差別の処遇があるという以上、その比較は原告ら同様系列転
換していない男子でなければならず、系列転換を果たした者との賃金等の格差を問
題にすることは相当でない。
(三) 系列転換審査の運用
(1) 系列転換審査制度の性差別性に対する反論
ア 四五年制度
 専門事務技術職系列転換審査Bは、学科試験で実施されており試験内容は男女共
通であるから、その運用において男女差別を行うことは不可能であった。
 被告は、男女の差なく十分な周知を行っていたし、男子にのみ指導、援助を行っ
ていたとの事実もない。また、家庭責任の問題はそれぞれの家庭において解決され
るべき問題であり、昭和四五年当時の社会意識等に鑑みた場合、被告に家庭責任を
考慮した制度設計を行う義務が存したとは到底認められない。
イ 五九年制度
① 推薦基準、手続の合理性
 推薦基準自体は、その文言から明らかなとおり、担当業
務について業積達成能力及び業務貢献度が高いことを前提に、企画開発職掌の職務
従事能力の存在を要求するものであって、合理的なものである。推薦の前提となる
成績評定や具体的な推薦者決定の過程では、上司の判断が恣意に流れることがない
よう、また、職場間の公平が保たれるよう人事部門が密接に関与していたのであっ
て、制度の客観性公平性は保たれるものとなっていた。
② 職務配置の点では、社員は、本来、その職分に応じた職務に従事することとさ
れているのであり、監督職・企画開発職系列転換審査への推薦のプロセスとして
も、まず執務職社員が日常の職務遂行の中で着実に成果を上げることにより上司の
評価と信頼を得てより難易度の高い職務が付与されるといったことの積み重ねが必
要であり、そのような積み重ねの後に試みに企画開発職掌の職務に従事させてみて
最終的に推薦の可否が判断されることとなる。したがって、単に執務職要員として
期待されている水準で職務を遂行している限り、企画開発職掌の職務への従事は問
題となりようがない。
 職務の評価の点でも、企画開発職掌の職務と執務職掌の職務とは基本的処理方法
の確立している定型的業務か否かによって、多くの場合明確に区別し得るのであ
り、その区別が困難な場合が存するとしてもそれはごく一部のことである。原告ら
は、同じ職務でも女子が従事する場合は低評価されるなどと主張するが、企画開発
職要員であっても、職場の人員構成等により執務職掌の職務に属する業務に従事す
る場合があるし、企画開発職掌に属する職務でも反復継続されることによって基本
的な処理方法が確立し定型的業務となって、執務職掌の職務に分類されることもあ
る。したがって、企画開発職系列の者が従事していたからといって、その職務のす
べてが企画開発職掌の職務に属するというものではない。
 被告には職務配置や職務評価の点で男女差別はない。
(2) 系列転換合格実績に男女間で差違が生じた理由
 平成一一年度に至るまでの女子の系列転換審査合格者は一八名おり(別表1)、
被告が女子に門戸を閉ざしていなかったことは明らかである。
 男女間での系列転換審査合格実績の差違は結果に過ぎず、以下の諸点が考慮され
るべきであって、被告の男女差別によるものではない。
ア 男女の職業観、人生観の相違や男女の役割分担意識を反映して、執務職女子の
職務遂行振りは、概して、付与された仕事を定型的に
処理することで終わり、担当職務の付加価値を高めようという意識で仕事をする者
が少なく、系列転換審査への推薦に足りるものではなかった。
イ 系列転換後の業務負荷の増大や転居を伴う転勤の負担などから、女子は、概し
て系列転換審査について消極的姿勢であり、現に五九年制度の下で上司の推薦を断
った女子が複数存した。
(三) 原告らが五九年制度で推薦を受けられなかった理由
(1) 原告P1
ア 原告P1が従事していた業務はいずれも主務職掌の職務であった。
 また、原告P1が出席していた生産会議は、東京の業務グループが主催していた
ものであり、原告P1はヒアリングに応じていたにすぎず、他の販区でも執務職要
員であるデリバリー担当者が交代で出席していたのであって、これをもって企画開
発職の職務または管理職務に従事したということにはならない。また、外部からの
問合せに対する回答も、技術データ小ブックを見て対応できるもので、格別高度な
ものではなかった。
イ 右のとおり、原告P1は、執務職掌に属する職務のみに従事していたし、自発
的な合理化提案等を行うこともなく、上司からも標準的な評価を受け、人事部門で
も最優秀との評価はなく、それゆえ、企画開発職掌の職務を付与されることもなか
ったのであって、監督職・企画開発職系列転換審査の推薦対象となるべき者ではな
かった。
 原告P1が推薦を受けることができなかったのは以上の理由による。
(2) 原告P2
ア 原告P2が従事していた業務はいずれも執務職掌の職務であった。
 原告P2は物流予算の作成という企画開発職掌に属する職務に関わったが、その
職務も補助的な範囲においてであって、最も重要な業務部との折衝を主体的に遂行
するものではなく、折衝に同席した際でも有意な発言はなかった。また、原告P2
は物流マニュアルを作成しているが、これも、執務職の典型的な日常業務を文書化
したものにすぎず、しかも、上司の指示によるものであるうえ、他の二名の執務職
女子も従事した。
 原告P2が取得した危険物乙種第四類の資格は、工業高校出身者が在学中に取得
する初歩的な資格であり、物流通信講座の受講も、原告P2が物流についての基本
的知識に欠ける点があったことから上司が受講を勧めたものであって、これらは推
薦に結びつくものではない。
イ 右のとおり、原告P2が従事した業務の多くは執務職掌に属する職務であり、
上司の評価も標準を下回
るというものであって、人事部でも優秀者との評価はなく、それゆえ、主として執
務職掌に属する職務が付与されていたのであって、監督職・企画開発職系列転換審
査の推薦対象となるべき者ではなかった。
 原告P2が推薦を受けることができなかったのは以上の理由による。
(3) 原告P3
ア 原告P3が日新運輸から復帰後業務部で従事していた業務はいずれも執務職掌
の職務であった。
 原告P3が、日新運輸出向中に従事した業務も、いずれも手順や判断基準が定め
られたものであったし、原告P3が主張するトラブル調整という点も、原告P3に
任されていたのは関係部署に事態を連絡すれば足るような軽微な場合であり、執務
職掌の職務と比較して質的に高度というものはなかった。
 原告P3には、上司から、物流操作マニュアルの作成にあたってはシステムの不
備の指摘等の指示が、また、運賃データの解析業務に関しては合理化提案の指示が
なされていたが、原告P3からはこれらに関する報告や提案はなかった。
 原告P3が受賞した改善提案部長賞は執務職を対象とし、しかも、全社的に年間
延べ数万件の受賞者があるものであって、原告P3の受賞から直ちに推薦相当とは
いえない。
イ 右のとおり、原告P3が従事した業務は執務職掌の職務またはこれと同等の職
務のみであり、上司の評価も標準もしくはそれを下回るというものであり、人事部
でも優秀者との評価はなく、それゆえ、実際にも、原告P3には執務職掌に属する
職務のみが付与されていたのであって、監督職・企画開発職系列転換審査の推薦対
象となるべき者ではなかった。
 原告P3が推薦を受けることができなかったのは以上の理由による。
(4) 原告らが主張するその他の事情
 原告P3が「物流管理の実践」なる冊子を渡されず、書類回覧の対象ともされな
かったことなどは、原告P3が執務職であるためその必要がないと判断されたこと
によるのであって、女子であることを理由とするものではなかった。
 被告は、自己都合退職であっても、結婚退職や病気退職の場合は特例として退職
金の減額支給はしていないが、これも男女共通の取扱いである。
 忌引休暇については、家単位で弔事が行われる地方の実情を踏まえたものであっ
たが、既に改定しているし、その時期もたまたま原告P2の実母死亡時と重なった
にすぎない。
(四) 結論
 以上のとおりであり、被告は、五九年制度の下でも系列転換審査
を男女差別的に運用した事実はなく、原告らが系列転換審査受験の推薦を受けられ
なかったのは、原告らの従事職務やその遂行状況からして推薦基準を満たさないと
判断されたことによるものであり、その判断は相当であった。
三 争点3(予備的請求その2-原告らの精神的損害の有無)について
1 原告らの主張
 三六年制度における被告の男女別採用とそれに基づく処遇は、統計的差別の理論
と性的偏見に基づくものであったこと、したがって、当時としてはそれが違法でな
かったとしても、その後、被告にはこれを是正する義務が生じていたこと、それに
もかかわらず、被告は、三種採用から高卒女子を排除した三六年制度の趣旨を四五
年制度、五九年制度を経て現行制度に至るまで承継し、系列転換審査を男女差別的
に運用して是正義務を履行しなかったこと、その中で原告らも、上司の差別的な言
動や教育、研修、職務配置、会議出席等における男子との差別的な処遇にさらされ
てきたこと、被告は、原告P1らの二度にわたる調停申請に対しても、合理的理由
なく調停開始に同意しなかったことは予備的請求その1の請求原因として主張した
とおりである。
 仮に、原告らが五九年制度の下で、推薦を受けて企画開発職への転換を果たすこ
とが可能であったと認定されない場合でも、被告の是正義務の不履行によって、原
告らは平等に取り扱われるべき期待権を侵害され、ひいてはその人格権を著しく侵
害され精神的苦痛を被った。
 原告らの右精神的苦痛を金銭で慰謝するとすれば、原告ら各自につき五〇〇万円
をもって相当とする。
 また、弁護士費用は原告ら各自につき金五〇万円が相当である。
 よって、原告らは、被告に対し、各自五五〇万円とこれに対する遅延損害金の支
払を求める。
2 被告の主張
(一) 原告らの訴えの変更は許されるべきではない。
 変更前の請求原因は、男女差別に起因する賃金格差を損害として、その賠償を求
めるものであったのに、変更後の請求原因は原告らの期待権ないし人格権侵害に基
づく精神的苦痛に対する賠償を求めるものであって、請求の基礎に変更があり、時
機に後れたものでもある。
(二) 請求原因に対する反論
 被告が、女子を女子であるという理由だけで、男子より不利益に処遇したという
事実はない。被告は被告の人事制度に基づき、男女を問わずその能力に応じて公平
に処遇してきた。
 原告らが、男女差別であると主張する取扱いは、
既に主張したとおりいずれも相応の根拠に基づくものであって差別に基づくもので
はない。
 よって、原告らの請求は理由がない。
第四 当裁判所の判断
一 主位的請求-争点1(男女別採用とそれに基づく処遇等の違法性)について
1 男女別採用とそれに基づく処遇の違法性
(一) 格差の存在
(1) 証拠(甲一六、三一、三九、証人P8及び弁論の全趣旨によれば、以下の
事実が認められる。
 三種採用の高卒男子と二種採用の高卒女子との間には、採用後の処遇において、
次のような格差が生じている。
ア 職分昇任等の格差
① 住友化学労働組合の組合員を対象とする昭和四一年における調査では、高卒男
子の場合には勤続五年から職分三級に任用される者(二名)が出てきており、それ
以上の勤続者には職分三級以上から管理職にまで任用されている者が多数存するの
に対し、高卒女子の場合には職分三級に任用されているのは、勤続一六年及び一八
年の者の中に各一名存するのみで、それ以上の職分に任用されている者はいない。
② 二種採用の高卒女子は平成八年四月一日時点で三一名在籍したが、その職分の
内訳は執務職一名、主務職二九名、企画開発職一名であり、管理職はいない。これ
に対し、普通高校または商業高校出身の三種採用の高卒男子は、概ね勤続二一年で
約八割が管理職に昇進しており、その後に管理職になった者も含めると平成八年四
月一日時点における在職者約一四八名のうち、約一四六名が管理職に昇進していた
(なお、この数値はP8の調査結果である甲三一によるものであるが、被告の主張
では、昭和三八年における普通または商業高校出身者の採用数は七名としていると
ころ、右調査結果では同年入社者が八名存するとしており、また、普通及び商業高
校出身者のすべてを網羅できているかにも疑問があってその正確性に問題がなくは
ないが、全体的な傾向を示す概数としては右調査結果どおりと認める。)。
 また、別表2のとおり、昭和四三年以降二種採用で採用された高卒女子は平成一
一年一一月現在六名在職するが、同時点でもその職分は基幹職Ⅲの1級が四名、同
2級が二名である。
イ 賃金格差(平成一一年二月の基準内賃金-別表4)
① 原告P3と同期(昭和三七年)入社の二種採用高卒女子四名の平均は三三万一
三五三円であったのに対し、三種採用高卒卒男子一二八名の平均は五三万一四六一
円であった。
② 原告P1と同期(昭和三八年)入社の
二種採用高卒女子三名の平均は三二万四五三三円であったのに対し、三種採用高卒
男子二五名の平均は五三万二二四四円であった。
③ 原告P2と同期(昭和四三年)入社の二種採用高卒女子二名の平均は三二万七
六二五円であったのに対し、三種採用高卒男子六九名の平均は四八万一六五六円で
あった。
④ 昭和三七年から昭和四五年までに二種採用で採用された高卒女子は右の時点で
二九名在職するが、これらの高卒女子の採用年別の各平均額には大差はなく、概ね
同水準であった。
(2) 以上によれば、二種採用で採用された原告ら高卒女子と三種採用で採用さ
れた高卒男子との間では、職分昇任や管理職昇進及び賃金において著しい格差が生
じているということができる(賃金格差に関しては、各年別の高卒女子の在職者が
極めて少数であるため、その統計的な価値に疑問がないではないが、右(1)イ④
に認定の二種採用高卒女子二九名というある程度の集団と比較しても同様であるか
ら、右の二種採用高卒女子と三種採用高卒男子との間には賃金水準でも著しい格差
があると認められる。)。
(二) 男女間格差の原因
(1) 証拠(甲八ないし一四、乙一の1及び2、二の1及び2、三の1及び2、
四、五、三九、四〇、証人P9、同P10、同P8、原告P1、同P2、同P3)
及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 三六年制度の内容
 被告は、三六年制度実施前から、社員の採用について本社が主管する全社採用と
各事業所が主管する事業所採用の二種類の採用方法をとっており、社員の処遇は、
この採用区分と資格試験制度によって運営することとしていたが、実情は勤続年数
や学歴の相違といった要素が重視される傾向が強かった。
 しかるに、昭和三〇年代になって右のような人事処遇の実情は事業拡大や技術革
新といった時代の要請にあわなくなってきたことから、被告は、職務と職務処理能
力と処遇とを有機的に関連させることを目的として職分制度を導入し、三六年制度
(その概要は前提事実記載のとおり)を実施することとしたが、その際、採用方法
も、採用後に従事させることを予定する職務や任用を予定する職分、それに期待さ
れる能力水準等を前提にして一種ないし四種採用及び特別採用試験による採用に区
分し、全社採用と事業所採用の別や学歴要件等を制度上明確にした。
① 全社採用と事業所採用
 三六年制度では、一種及び二種採用は各事業所にお
いて採用選考を行う事業所採用であり、三種及び四種採用は本社において採用選考
を行う全社採用であった。事業所採用と全社採用との採用方法の主要な差異は次の
とおりであった。
a 採用権限、採用手続、募集対象等
 事業所採用とされた一種及び二種採用でも、採用者数自体は、本社の決済を必要
としたが、募集採用の時期設定、試験問題の作成、合格者決定の権限は各事業所に
委ねられた。このため、実際にも各事業所が独自に募集要領や試験問題を作成し、
各事業所毎に採用試験を実施して採用者を決定した。
 募集対象者も原則として各事業地周辺の居住者とされた。
 これに対し、全社採用とされた三種及び四種採用は、採用者数の決定のみなら
ず、募集採用の時期設定、試験問題の作成、合格者決定の権限はすべて本社が有
し、実際にも本社がこれらを実施した。
 募集対象者も全国の大学、高校が対象となった。
 また、事業所採用者と全社採用者とでは、入社日、入社式の場所、内容も相違し
ていた。
 採用後同じく本社に配属される場合でも、事業所採用で事業所としての本社に配
属される者と全社採用で本社に配属される者とでは、右のとおりの相違があった。
b 二種採用と三種採用
 同じく高卒者を募集対象としていたが、三種採用は新卒者が対象であり、二種採
用者には中途採用者もいた。いずれの採用でも公募ではなく、被告が指定した指定
校に担当者が求人票を持参するなどして募集内容の説明に赴き、成績優秀者の推薦
を依頼して被推薦者を対象に学科試験や採用面接を実施していたが、二種採用が各
事業所周辺の高校を対象としていたのに対し、三種採用は全国各県数校の指定校に
推薦を依頼していた。学科試験や採用面接も、二種採用が各事業所あるいは同一事
業地合同で実施していたのに対し、三種採用は本社または本社の指定する事業地で
行われた。学科試験の内容も三種採用の方が高度であった。また、二種採用では地
域との関係から縁故採用ということもあった。
 三種採用は、製造部門の技術者となるべき者の採用を主眼としていたため指定校
は工業高校が中心で、普通高校や商業高校の出身者で三種採用により採用される者
は概ね三種採用者の一割五分ないし二割程度であった。
 なお、募集対象に関しては、二種は昭和四三年まで女子のみを対象としており、
三種は男子のみを対象とする運用をしていたため、高校への推薦依頼に当たって
は、担当者がその旨各指
定校に口頭で説明していた。
② 各種採用が予定した採用後の処遇の相違
 一種及び二種の採用者は、同じく事業所採用者として社員任用時職分一級に任用
され、各事業所における一般職務に従事することが予定されていた。一種採用男子
の多くは、連続操業の交替勤務要員として製造現場に配属された。また、一種及び
二種の採用者は採用された事業所に勤務することが原則であり、転居を伴う配転は
予定されなかった。
 三種採用者は、社員任用時職分二級に任用され、一般職務(ただし、技能経験を
必要とする複雑困難なもの)、監督職務または専門職務に従事することが予定され
ており、四種採用者は、社員任用時職分三級に任用され、専門職務に従事すること
が予定されていた。三種及び四種の採用者は、同じく全社採用者として全国各地ま
たは海外の事業所に配属されるものとされ、転居を伴う配転が当然に予定された。
 三種採用者のうち、工業高校出身者は、主として製造関係部門に配属されたが、
普通高校または商業高校出身者は、主として総務、人事、会計、システム、物流、
購買及び営業等の分野に配属された。
 このような採用後の従事職務の相違のため、一種及び二種の採用者の社員補期間
は三か月とされたのに対し、三種及び四種の採用者の社員補期間は一年とされ、研
修も別個に行われた。
 また、被告の寮や社宅も、三種及び四種の採用者には貸与されたが、各事業所周
辺居住者である一種及び二種の採用者には貸与されなかった。
 二種採用者と三種採用者とでは、採用時の雇入基本給に差はなかったが、社員任
用時の初任基本給やその後の基本給昇給額では三種採用者の方が二種採用者より高
額に設定された。
③ 職分昇任
 制度上は、下位職分に任用された社員でも、職分昇進することによって上位職分
に昇任し、専門職務等に従事しうるものとされていたが、職分昇任のための能力点
は成績評定によって判定するものとされ、職分任用の適正を期するため毎年一回定
期に実施されていた基礎能力検定試験(受験資格者は職分一級に任用され、一年以
上たった者)の合格者は能力点算定上有利に扱われるものとされていた。基礎能力
検定試験は、専門的知識保有の程度を審査するための学科試験とされ、その審査内
容は高校卒業程度の知識の有無を問う学科試験と面接審査であり、全社統一で実施
された。そして、三種及び四種採用者は基礎能力検定試験の合格者と扱われた。
 昭
和三九年から職分三級登用審査制度が導入され、職分三級に昇任するためにはこの
審査に合格することが必要とされたが、基礎能力検定試験合格者は、職分三級登用
審査を免除された。
 事業所採用者が、これらの審査や試験に合格するなどして職分三級に昇任するこ
とはかなり困難であり、多くの者は職分二級以下で定年を迎えていた。
④ 三種採用の募集対象を男子に限定した理由
 被告が、三種採用の募集対象を男子に限定したのは、概ね以下の理由からであっ
た。
a 当時、工業高校で化学工学等を専攻する女子は極めて少なく、女子は三種採用
が主眼とする技術者確保の安定的な人材供給源とはなりえなかったこと
b 製造関連部門以外でも、当時の女子の勤続年数は極端に短く、女子には、三種
採用が予定する労働負荷が高く、技術や知識の蓄積が必要で、かつ、全国転勤をも
伴う専門職務への従事や長期勤続が期待できなかったこと
c 当時の労働基準法の制限のため、操業関連分野では、女子を交替勤務や危険物
取扱いを伴う業務に活用することは不可能であったし、それ以外の業務分野でも、
時間外労働、休日労働の制限から、三種採用が予定する労働負荷の高い職務におい
て、女子が男子と同様の役割を果すことを期待できなかったこと
d 昭和三〇年代から昭和四〇年代後半ころの被告は、積極的な設備拡大等に取り
組み、安定操業体制の確立が大きな課題となっていた時期であり、技術分野以外の
専門職務従事者でも製造現場において勤務することが頻繁であったが、当時の一般
的な社会認識からして、そうした製造現場に直結する業務に女子を活用すること
は、極めて困難であったこと
⑤ 昭和四三年まで二種採用の募集対象を女子のみとした理由
 被告が二種採用の募集対象を高卒女子に限定したのは、高卒男子の需要の高さか
ら一般職務従事要員への応募が限られていた反面、結婚や出産までの一時的就業と
いう職業意識から高卒女子がその供給源となっていたという理由からであった。し
かるに、その後の進学率の高まりの中で、製造現場等における交替勤務要員として
確保していた中卒の人材不足が顕在化するとともに、技術革新の展開により三種採
用の想定する能力水準に達しない高卒男子が増加したため、被告は、昭和四三年か
ら高卒男子も二種採用で採用するようになった。
イ その後の改定制度
① 四五年制度
 四五年制度(その概要は前提事実記載のとおり)は、三六年制度
の趣旨をより強くすること等を目的としたものであり、職務分類による職掌と職掌
ごとに設定された職分系列が導入され、採用試験の名称変更等とあいまって、社員
は、原則として、採用区分に従い職掌ごとに設定された職分系列の中で職分昇任し
て行くことが制度上明確にされた。また、各職分系列ごとに上位に管理職がおか
れ、社員は各職分系列のなかで管理職へ昇進するものとされた。
 専門事務技術職系列、事務技術職系列、監督指導職系列は、それぞれ三六年制度
の職務分類である専門職務、一般職務、監督職務に対応するものであった。採用の
関係でも、専門事務技術職採用一類、二類は、それぞれ三六年制度の四種採用、三
種採用に対応するものであって、いずれも全社採用であったが、事務技術職採用は
三六年制度の一種、二種採用に対応するもので事業所採用であった。
 各採用試験とも、男女別の採用はなくなり、高卒男子も事務技術職要員として採
用されるようになった。
 右のとおり、三六年制度と四五年制度とは連続性のあるものであったため、四五
年制度への社員の職分移行は、移行基準に基づいて機械的に行われた。その結果、
三種採用者でも職分二級に止まっていた者は事務技術職に任用されたが、事業所採
用の女子の中にはわずかながら専門事務技術職に任用された者もいた。
 ただし、被告は、三種採用者はもともと専門職務従事要員として採用した者であ
るとの観点から、三種採用者に対しては四五年制度実施の当初から、基礎知識の有
無は採用段階で審査済みであるとして専門事務技術職系列転換審査Bの学科試験を
免除し、さらに、昭和四九年からは専門事務技術職系列に下位の職分を設定し、専
門的知識に関する学科試験も免除するなどして、三種採用者の専門事務技術職系列
への転換を促進した。
② 五九年制度
 五九年制度(その概要は前提事実記載のとおり)は、三六年制度の趣旨を踏ま
え、さらに業績貢献度主義の強化を目的としたものであった。
 職掌や職分系列、採用試験は基本的には四五年制度を踏襲した名称変更であった
し、採用の関係でも企画開発職要員採用試験を全社採用、執務職要員採用試験を事
業所採用とする区別が踏襲された。
③ 現行制度
 現行制度は、五九年制度の業績貢献主義の推進を目的として実施されたものであ
り、職種分類が大きく変更されたものの、基本的には基幹職掌が執務職掌及び監督
職掌に、専門職掌が企画開発職掌に対応
するもので、従前の制度とは連続性を有するものであった。
(2) 以上認定の事実によって判断する。
ア 三六年制度の下では、三種採用と二種採用とでは、同じく高卒を募集対象と
し、雇入基本給は同額とされてはいても、全社採用と事業所採用という採用方法の
違いによって区分され、配置される事業所、社員任用時の任用職分、初任基本給、
従事職務、配転の有無など予定された処遇は全く異なっており、このため入社試験
も三種採用ではより高度の学科試験が実施され、三種採用者には能力水準において
も二種採用より高いものが要求されていたのであって、三種採用者と二種採用者と
では、採用後の社内の位置付けが全く異なっていたことは明らかである。
 三種採用者は社員任用時には職分二級に任用されたとはいえ、基礎能力検定試験
合格者とされて、職分昇任において有利に扱われたうえ、職分三級登用審査制度導
入後は、基礎能力検定試験合格者とされることによって同審査を免除されたのであ
り、早期に職分三級に昇任し、大卒同様、専門職務に従事すること、さらには将来
の管理職社員となることが期待されていたものと認められる。
 これに対し、職分一級に任用されて一般職務に従事するものとされた一種、二種
採用の事業所採用者も職分二級または三級に昇任すれば専門職務に専従することが
可能ではあったが、そのためには基礎能力検定試験や職分三級登用審査に合格する
ことなどが要求され、単に配置された一般職務に従事、精励するだけで職分三級に
まで昇任してゆくものとはされていなかった。基礎能力検定試験の学力試験は、高
校卒業程度の知識の有無を問うものであったとはいえ、その合格者には職分三級登
用審査が免除されるというのであるから、その合格水準は少なくとも第三種採用試
験の合格水準より低いものではなく、改めて全社採用者と同水準の能力の有無が審
査されたものと考えられる。そうすると、制度上、明示されてはいなかったが、事
業所採用者は原則として採用された当該事業所において一般職務に従事する者との
位置付けであり、専門職務や監督職務に従事することがあるとしても職分二級どま
りであって、職分三級にまで昇任することは予定されていなかったというべきであ
る。
 以上のとおり、三六年制度では、全社採用の三種採用者と事業所採用の二種採用
者とでは、採用の当初から社内の位置付けが全く異なるものであったのであり、全
社採用
か事業所採用かは、その違いによって採用後の処遇を異にすることを予定した一種
の採用区分であり、職種区分であったと認められる。
 その後の四五年制度では、職分を導入することによって、社員は原則として任用
された職分系列の中で職分昇任してゆくことが明確にされたが、これは、右のとお
りすでに三六年制度が予定していた全社採用と事業所採用という採用区分を承継
し、より明確にしたものというべきであって事業所採用者に予定された処遇を根本
的に変更するものではなかったし、五九年制度及び現行制度もこの四五年制度を基
本的には承継したものであったから、三六年制度の採用区分は現行制度まで承継さ
れてきている。
イ 現時点において、原告ら二種採用者と三種採用者との間に任用職分や賃金にお
いて著しい格差が生じていることは前記のとおりであるが、被告の賃金制度では、
任用職分によって、社員任用時の初任基本給やその後の基本給昇給額が異なるもの
とされたり(三六年制度)、職分系列や任用職分の違いによって職分本給が相違す
るものとされたり(四五年制度、五九年制度)、さらには職分ごとに職分給が定め
られたり(現行制度)してきているから、社員間の賃金格差は、基本的にはいかな
る職分系列のいかなる職分に任用されるかによって生じるものと考えられる。
 しかるに、原告らが比較対象とする三種採用者は、専門職務に従事することを予
定して全社採用された者であり、そのため、三六年制度の下では基礎能力検定試験
合格者とみなされて多くの者が職分三級に職分昇任したうえ、四五年制度の専門事
務技術職系列に移行し、事務技術職に移行した三種採用者も専門事務技術職系列転
換審査Bの学科試験が免除されるなどした結果、その多くが専門事務技術職系列に
系列転換し、その後はこれを承継した企画開発職系列ないし専門職系列で職分昇任
していったものと認められ、これは専門職務従事要員として全社採用された三種採
用者に採用当初から予定されていたことというべきであるし、他方、原告ら二種採
用者は、その多くが現在でも三六年制度の一般職務に対応する基幹職掌の職務に従
事する者として基幹職に任用されているが、このこともまた一般職務従事要員とし
て事業所採用された二種採用者に当初から予定されていたものというべきである。
 右のとおり、三種採用者と二種採用者とでは、全社採用か事業所採用か、したが
って専門職務従事要員
か一般職務従事要員かという社員としての位置付けの違いからくる採用区分が存す
るのであるから、その処遇の結果を同列に比較することは相当とはいえず、したが
って、その間に存する現在の任用職分の格差やこれに起因するとみられる賃金格差
を直ちに男女差別の労務管理の結果ということはできない。
ウ① 以上に関し、原告らは、右のような採用区分については何らの説明を受けて
おらず、そのような差別処遇を受けることを容認して採用されたものではない旨主
張する。
 しかしながら、被告の採用方法は二種採用であっても指定校からの推薦制であ
り、前記認定のとおり、指定校には担当者が求人票を持参して募集内容を説明する
などしていたから、応募者は被告が提出した求人票をみるなり、学校側担当者に尋
ねるなりすれば被告の提示する労働条件を確認することは容易であったし、原告ら
が、その内容を全く知らずに募集に応じたとは考えられない。そして、募集、採用
の際、被告が応募者に説明義務を負うのは、その募集にかかる労働契約の労働条件
であって、他にも募集対象となっていない採用方法があることやその異なる採用方
法により異なる処遇を受ける社員が存することなどまでの説明義務は一般的には存
しない。原告らは、勤務地限定のある事業所採用の二種採用に応募して採用され、
その後現行制度に至るまで二種採用が予定した処遇を受けているのであるから、そ
の処遇には原告らが締結した労働契約との齟齬はない。
② 次に、原告らは、全社採用者でも全員が転居を伴う配転を経験しているわけで
はないことなどを主張して、その採用区分の合理性を問題とする。
 なるほど、全社採用者にも転居を伴う配転を経験しない者が存することや工場の
閉鎖、移転等に伴い事業所採用者に転居を伴う配転をしたことがあることは被告も
認めるところではあるが、全社採用者がある時点で転居を伴う配転を経験していな
いとしても、在職する限り業務上の必要に基づく配転の命令があれば転居を伴う場
合でもこれに応じなければならないとの負担を負っている点では、かかる転勤を予
定していない事業所採用者の労働条件とは質的に異なっているというべきである
し、証拠(乙四〇)によれば、事業所採用者の配転がなされたのは、工場移転の統
廃合等の場合であり、しかも当該労働者の意向を聴取しその意思を尊重してなされ
たと認められるから、これを全社採用者の転勤負担と同列に論
じることはできない。
③ さらに、原告らは、コース別雇用管理には職種や職務内容等の客観的で合理的
な基準に基づくコース設定が必要であるとし、事務技術職掌の職務と専門事務技術
職掌の職務等の職種区分は不明確であるにもかかわらず、被告が敢えてこれを行っ
ているのは男女差別の労務管理を企図したものである旨主張する。
 確かに、被告の職務が多岐にわたることから、一般職務と専門職務との区別が困
難なものが生じることは予想できるし、その限りでは被告もこれを認めているが、
それは境界付近の一部の職務についていえるにすぎず、多くの職務については、基
本的な職務処理方法の確立した定型的業務か否かの基準によってその区別をするこ
とは可能と考えられ、各社員の担当する職務が全体としていずれの職掌に属するか
を判定することもさほど困難を伴うものとは考えられない。
 したがって、原告らの右の主張は職種区分が不明確であるという前提においてす
でに採用できないし、右区分をもって不合理とまでいえず、これをもって違法な雇
用管理ということはできない。
エ 三種採用から女子を排除したことの適否
 原告らが主張する三種採用の高卒男子と二種採用の高卒女子の処遇の格差が、全
社採用の専門職務従事要員、事業所採用の一般職務従事要員という社員の区分に基
づくものと認められることは右のとおりであるが、被告は、三六年制度の下で、三
種採用はすべて男子から募集し、女子を採用することはなかった。被告の三六年制
度のもとにおいては、基礎能力検定試験があり、また、昭和三九年以降は職分三級
登用審査制度があり、これらの試験から女子が排除されていたものではないから、
女子が恒久的に日常定型業務要員と位置付けられていたわけではないが、採用の段
階では日常定型業務要員としてのほか採用されることがなかったのであるから、結
局、高卒女子は、採用については、個々の意向を聴取されたり、能力を審査された
りすることなく、女子であることを理由に日常定型業務である一般職務従事要員と
位置付けられていたものといわざるを得ない。
 企業には、いかなる労働者をいかなる条件で雇用するかについての採用の自由が
あり、その要員確保の目的に応じて、あらかじめ、採用後に従事させる職務等によ
る社員の区分を行い、その区分毎に異なる募集条件や採用後の処遇を設定して社員
の募集、採用を行い、採用後その区分に応じた処遇を行うこ
とは原則として企業が自由になしうることであるが、かかる採用の自由も、法律上
の制限がある場合はもちろん、そうでない場合でも基本的人権の諸原理や公共の福
祉、公序良俗による制約を受けることは当然であり、不合理な採用区分の設定は違
法になることもあるというべきである。
 しかしながら、被告においては、三六年制度実施当時から、事業所採用によって
採用され、原則として一般職務に従事するものとされた社員でも、男女を問わず、
基礎能力検定試験や職分三級登用審査に合格することによって職分二級に任用さ
れ、さらには職分三級に昇任することが可能とされて専門職務に従事する機会は与
えられていたし、その後の制度改定においても、男女差別の是正という位置付けで
はないが系列転換審査制度が設けられ、二種採用者を含む事業所採用の社員でも、
男女を問わず、専門事務技術職掌、企画開発職掌、専門職掌といった専門職的職種
の職系列に転換する機会は保障されていたもので、一般職務従事要員としての女子
社員の位置付けは必ずしも固定的なものではなかった。
 二種採用で採用された原告ら高卒女子も、三種採用者と同等の処遇を求めるので
あれば、これらの試験や審査に合格するなどして三種採用と同等の能力を有するこ
とを自ら示すべきであったのであり、そして、その機会はすでに三六年制度当時か
ら与えられていたのである。
 以上のとおり、三六年制度の二種、三種の採用区分が女子であることを理由とし
ていた点では問題があるとしても、その代わりに高卒女子は、高卒男子ほど高い能
力水準を要求されることなく、場合によっては縁故採用ということで被告に入社す
ることができたし、入社後には職分三級登用審査に合格するなどして専門職務に従
事することもできたのであって、三種採用の予定する処遇から確定的に排除されて
いたのではなく、三種採用の処遇を受ける機会は保障されていたというべきであ
る。
 また、憲法一四条は、これが直接私人に適用されるものではなく、私人に対して
は、その趣旨が民法一条一項の公共の福祉や同法九〇条の公序良俗の判断を通じて
反映されるものであり、雇用の分野においても不合理な男女差別が禁止されるとい
う法理は既に確立しているというべきであるが、他方では、企業にも憲法の経済活
動の自由(憲法二二条)や財産権保障(憲法二九条)に根拠付けられる採用の自由
が認められているのであるから、不合理な
差別に該当するか否かの判断に当たって、これらの諸権利間の調和が図られなけれ
ばならない。
 ところで、証拠(乙七ないし三四)及び弁論の全趣旨によれば、昭和三〇年代か
ら昭和四〇年代ころは、未だ、男子は経済的に家庭を支え、女子は結婚して家庭に
入り、家事育児に専念するという役割分担意識が強かったこと、女子が企業に雇用
されて労働に従事する場合でも、働くのは結婚又は出産までと考えて短期間で退職
する傾向にあったこと、このような役割分担意識や女子の勤務年数の短さなどか
ら、わが国の企業の多くにおいては、男子に対しては定年までの長期雇用を前提
に、雇用後、企業内での訓練などを通じて能力を向上させ、労働生産性を高めよう
とするが、短期間で退職する可能性の高い女子に対しては、コストをかけて訓練の
機会を与えることをせず、女子を定型的補助的な単純労働に従事する要員としての
み雇用することが少なくなかったこと、女子に深夜労働などの制限があることや出
産に伴う休業の可能性があることなども女子を単純労働の要員としてのみ雇用する
一要因となっていたこと、社会一般の意識としても女子を危険有害業務やこれに隣
接する業務に配置することへの抵抗が強かったことなどが認められる。
 原告らは、長期勤続を希望する女子も少なくなかった旨主張するところ、確か
に、昭和三〇年代から昭和四〇年代にかけては、いわゆる高度経済成長期にあっ
て、女子の就業意識やその就業構造も変化した時期であり、長期勤続者も次第に増
加していたとはいいうるが、我が国全体としての意識構造としては前述のとおりで
あって、企業においてもこれを無視できる状況にはなかった。
 むろん、このような男女の役割分担意識等は現在では克服されつつあり、もはや
一般化できなくなってきているし、女子の労働に対する考え方も多様化して女子の
勤続年数も次第に長期化してきているから、現時点では、被告が三六年制度の前提
とした女子労働者一般に対する認識やそれに基づく男女別の採用方法が受け入れら
れる余地はないが、原告らが採用された昭和四〇年前後ころの時点でみると、被告
としては、その当時の社会意識や女子の一般的な勤務年数等を前提にして最も効率
のよい労務管理を行わざるをえないのであるから、前記認定のような判断から高卒
女子を日常定型業務である一般職務にのみ従事する社員として採用したことをもっ
て、当時の公序良俗に違反す
るとまでいうことはできない。
 以上のとおりであるから、被告が原告ら高卒女子を一般職務従事要員と位置付け
て事業所採用による二種採用で採用し、その後、現在までの制度改定の中で右の位
置付けを承継する処遇をしてきたことに違法な点はないというべきである。
2 厚生給について
 被告の厚生給の仕組みは前提事実のとおりであり、扶養家族分及び住宅要素は世
帯主にしか支給されない。証拠(甲一五)によれば、右のような厚生給の支給及び
支給基準は社員賃金規定に定められていることが認められ、被告によれば、この世
帯主とは、「一つの世帯を主催する者」あるいは「主として生計を維持する者」を
いうものであるというのであるが、運用上は、住民票上の世帯主に支給されてきた
ことに争いがない。
 右のとおり、被告の厚生給の扶養家族分及び住宅要素は、社員賃金規定に支給基
準等が定められ、支給要件を備えた社員に一律に支給することが約されているので
あるから、これが労働基準法一一条の賃金に該当することは明らかであり、同法四
条により、被告はその支給において男女を平等に扱わなければならない。
 ところで、被告の厚生給の扶養家族分や住宅要素は社員一律に定額が支給される
ものとされている場合とは異なり、その家族状況や住宅事情に応じて支給額が異な
るものとされていることからすると、労働の対価というよりは生活補助費的性格が
強いというべきである。そして、そのような性格のものである以上、いわゆる共稼
ぎ夫婦の場合、そのいずれにも扶養家族分や住宅要素を支給することとすると、同
一の事情に対し二重の支給をすることになって社員間の公平を失することになるか
ら、実質的な生計の主催者にのみこれを支給するとすることも著しく不合理なもの
とすることはできない。
 原告らは、それが運用上住民票上の世帯主とされることによって、実質的には男
女差別になるというのであるが、確かに原告らが主張するとおり男女が世帯を構成
する場合男子が住民票上の世帯主になる場合が圧倒的に多いであろうが、他方で、
住民票上の世帯主を男子としている場合は、男子が主として一家の生計を維持して
いるとみられる場合が多いと考えられる。そうすると、一般的には住民票上の世帯
主と主としてその家庭の生計を維持している者とは一致している場合が多いと考え
られ、実質的な世帯主認定に要する支給事務の繁雑さ等を併せ考えると、住民票上
の世
帯主をもって厚生給支給の対象たる世帯主とするとの被告の運用にも理由がないこ
とではない。そして、被告の運用において、女子の場合は住民票上の世帯主になっ
たとしても世帯主厚生給が支給されないなどの男女での差別運用があると認めるに
足る証拠はない。
 以上によれば、厚生給のうち扶養家族分及び住宅要素を、便宜上、住民票上の世
帯主に対して支給するという被告の運用が違法な男女差別に該当するものとは認め
られない。
3 調停開始に被告が同意しなかったことについて
 均等法一五条に基づき原告P1及び同P2の申請した二度の調停申請に対し、被
告が同意しなかったことから調停開始に至らなかったことは前提事実のとおりであ
る。
 均等法一五条が、当事者の一方のみからの調停申請の場合に、相手方当事者の同
意を調停開始の要件としたのは、調停がもともと任意の話し合いによる互譲によっ
て紛争解決を図ることを目的とした制度であることによるものと解される。相手方
当事者が調停開始に応じるか否かは全くの任意であって、均等法が相手方当事者に
同意義務を課すものでないことは明らかであるし、原告らがいう調停を受ける利益
なるものも、国が調停制度を設営していることによって事実上生じている反射的利
益に過ぎず、相手方当事者との関係で法的権利性を有するものとは解されない。
 したがって、被告が原告らの申請した調停開始に同意しなかったことがいかなる
理由からであったにせよ、これによって、原告らの何らかの権利が侵害されたと認
めることはできない。
4 結論
 よって、被告に男女別採用に基づく女子差別の処遇があることや厚生給支給にお
ける女子差別があること、被告が調停開始に同意しなかったことをもって債務不履
行及び不法行為に該当すると主張し損害賠償を求める原告らの主位的請求は、その
余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。
二 争点2(被告会社に対する予備的請求その1-是正義務違反)について
1 原告ら主張の是正義務
 原告らは、遅くとも昭和六一年ころには、被告に三六年制度の男女別採用を是正
し、当時の五九年制度の下で、執務職掌の職務にとどめ置かれている二種採用の高
卒女子に開発企画職への系列転換の実質的な機会を与えるべき義務が生じていたと
主張する。
 しかしながら、原告らが主張するような是正義務の履行としてではないけれど
も、被告ではすでに四五年制度以降、系列転換審
査を実施しており、これらの系列転換審査において制度上は女子を排除していなか
ったから、二種採用の女子にも系列転換の機会は付与されていた。被告がかかる系
列転換審査を実施する以上、それが実質的にも男女平等に系列転換の機会を与える
ものでなければならず、またその運用も男女平等になされなければならないことは
是正義務を持ち出すまでもなく当然のことである。
 そうすると、原告らの主張は、結局のところ、これらの制度自体の性差別性とそ
の運用の男女差別(とりわけ、請求原因との関係では五九年制度の下での推薦制の
恣意的運用)を問題にしていることに帰着する。そこで、以下では、これらの制度
が実質的に女子を系列転換から排除するものであったか、また、その運用に男女差
別があったかを検討することとする。
2 被告の系列転換審査制度の男女差別
(一) 四五年制度
 原告らは、四五年制度の専門事務技術職系列転換審査Bについて、業務と関連性
のない学科試験を課したこと、三種採用者には学科試験を免除したこと、男子社員
にのみ組織的な指導、援助をしたこと、系列転換審査の試験日程を周知しなかった
こと等において女子は不利に扱われたと主張する。
(1) しかしながら、専門事務技術職系列転換審査Bが専門事務技術職掌の職務
遂行能力を判定するための審査である以上、その合格に一定の能力水準が要求され
ることは当然であり、その判定方法として基礎知識等に関する学科試験を用いたこ
とが男女平等の観点から直ちに不当であったということはできない。受験資格者は
なにも原告ら二種採用の高卒女子のみに限られているわけではなく、学業を離れて
久しいとの不利益は受験資格を有する男女に共通していえることであり、その際の
家事負担の問題などは各家庭で対処すべきことである。
 原告らは、被告が五九年制度で系列転換審査から学科試験を廃したのは、その不
当性を自認したものであると主張するが、被告が五九年制度実施時に社員に配布し
た社内報(甲一二)によれば、学科試験の廃止理由は、「基礎科目の合格能力と日
常の業務達成能力とは必ずしも一致しない面があると考えられるため、日常の業務
に精励しながら、学科試験に取組むことの困難さもふまえ、業績達成能力や業績貢
献度がより細かく反映できる方向で」学科試験を廃止したというものであって、業
績貢献主義の強化を主たる理由とするものであり、男女平等の問題とは関係
がない。
 また、三種採用者に学科試験が免除されたのも、前記のとおり、全社採用である
三種採用者と事業所採用である一種及び二種採用者との社員としての位置付けの相
違に基づくものであり、三六年制度の一種採用男子はもとより、二種採用の高卒男
子や四五年制度での事務技術職採用の高卒男子(いずれも事業所採用)にも同様に
学科試験が課されたのであるから、これもまた、男女平等に反するものとはいえな
い。
 原告らは、四五年制度の系列転換審査は全社採用から排除されることになった高
卒男子を念頭においたもので設計動機が性中立的でなかったとか、被告には職場へ
の配置に関し男子にのみ意欲ある優秀者を選別するなどの配慮をする男女間での人
材育成方針の違いがあったなどとも主張する。
 確かに、四五年制度の専門事務技術職系列転換審査Bの新設が高卒男子を事業所
採用するようになったことと関連性を有することは認められるものの、前記のとお
り、被告にはすでに三六年制度当時から職分三級登用審査等事業所採用者でも、男
女を問わず職分昇任して専門職務従事者となることができる制度が存したのであ
り、これらの旧制度との連続性をもあわせ考えると、四五年制度の専門事務技術職
系列転換審査Bが男女間での人材育成方針の違いを背景に高卒男子のみを念頭にお
いたものであったと認めることはできないし、制度化された系列転換審査は、右の
とおり、格別男女平等に反するような要素を含むものでもなかった。
 したがって、四五年制度の専門事務技術職系列転換審査Bが、制度上実質的にみ
て女子に系列転換の機会を付与しないものであったとはいえない。
(2) 専門事務技術職系列転換審査Bの運用についてみると、別表1のとおり、
その実施期間(昭和四六年から昭和五九年まで)中の合格者は、男子が合計二四六
名であるのに対し女子は二名であり、その合格実績には著しい格差があると認めら
れる。
 そして、証拠(甲三九、四〇の1、四一の1、四二の1、証人P9、同P8)に
よれば、職場の一部では、勤務時間外に先輩男子社員らによる受験指導が行われて
いたこと、被告からの試験日程の通知は現場の管理職までであり、職場によっては
末端の社員にまで周知されない部署もあったことが認められる。
 しかし、男子社員への職場の受験指導を、被告が組織的に行っていたとか、その
際、女子は受験指導を希望しても受け入れられなかったなどという
事実を認めるに足る証拠はないから、職場での受験指導といっても、それは各職場
における先輩後輩あるいは上司部下といった個人的な関係から、受験を希望してい
た男子社員にそのような受験指導がなされていたと考えられるし、受験日程の周知
が徹底されてはいなかったとしても、それはその職場の男女に共通していえること
であって、むしろ、証拠(甲九ないし一一、四二の1、乙二の1及び2、三九)に
よれば、被告は四五年制度実施に当たって系列転換審査を含む制度の詳細を社内報
によって社員各自に周知したほか、住友化学労働組合も組合ニュースなどで制度化
以前の交渉段階から系列転換審査を含む四五年制度の情報を組合員に周知させてい
たこと、系列転換審査の制度が存することは被告が社員各自に配布する社員手帳に
も記載されていたことが認められ、これらによれば系列転換審査制度の存在自体は
社員間に周知されていたのであって、系列転換に関心のある者は、男女を問わず自
ら上司や所管部署に訪ねるなりすれば、容易に試験日程等を知ることはできたとい
うべきである。
 受験は任意であったから、合格実績の格差については、男女間の受験者総数との
比率も問題とされるべきであるが、この点では原告らも女子受験者が極めて少数で
あったことを認めている。しかも、審査内容は基本的には学科試験であり、恣意的
な運用がなされる余地は少ない。
 以上のとおりであるから、合格実績には著しい男女間格差はあるが、これが系列
転換審査制度の男女差別的運用の結果であるとは認められない。
(二) 現行制度
現行制度に関して、原告らは、専門職分系列転換審査の合格水準が高度化され、昭
和三〇年代に採用された原告ら二種採用の高卒女子には合格困難になっており、他
方、転換意思のある男子はすでに転換を終えているなどとして、同制度も原告ら二
種採用の女子を排除する設計となっている旨主張する。
 しかし、同制度の専門職分系列転換審査では学科試験が復活したとはいえ、原告
らが四五年制度で問題としていた基礎知識に関する学科試験は課されていないし、
業務関連資格の取得によって受験科目を一部免除されるからといって、合格水準が
高度化されているというのも根拠のあることとはいえず、試験内容も男女共通であ
る。また、現行制度で転換対象者として残存しているのはなにも原告ら女子だけで
はなく、四五年制度の事務技術職採用や五九年の執務職採用要
員試験、さらに現行制度での基幹職要員試験で採用されて転換していない男子も多
数存するのであるから、強いて原告ら二種採用者等特定の女子集団を専門職から排
除するための制度設計がなされていると認めることはできない。
(三) 五九年制度
(1) 制度自体の性差別性
 五九年制度の監督職・企画開発職系列転換審査に関して、原告らは、まず、学科
試験を廃止し、受験を上司の推薦制としたのは、四五年制度で学科試験に合格でき
ない高卒男子の意欲に配慮したもので設計動機が性中立的でないと主張するが、被
告はこれを否定しているし、学科試験廃止の理由も、社員には前記のとおり説明さ
れていたのであって、被告の真意が果たして原告らの主張するようなものであった
か否かは制度の運用から推認するしかない。
 また、原告らは推薦基準の恣意性をも問題とするが、推薦性とする以上、いかに
厳密に基準を定めても、主観的要素が混入することは免れず、だからといって推薦
制とすること自体を不当とすることもできない(被告の推薦制は一種の人事考課と
考えられるが、人事考課には考課者の主観的な判断が混入することは避けられない
し、主観的要素が混入するからといってすべて恣意的なものとなるものではな
い。)。被告の推薦基準のうち推薦基準①や同②のⅰ及びⅴには評価的な要素が多
いことは原告ら主張のとおりであるが、少なくともその文言上は格別女子を不利益
に取り扱うものはないし、被告によれば、推薦基準の実際の運用においては、多く
の場合、執務職要員として優秀な成績を上げている者に対し、試しに企画開発職掌
の職務に従事させてみてその過程で発揮される能力や成果を踏まえ推薦の可否を決
することになるというのであり、現実にそのような運用がなされるならば推薦基準
①及び②のⅰの文言にも適合するものであるから、右のような推薦基準を定めて推
薦制としたこと自体を性差別的ということばできない。
(二) そこで、監督職・企画開発職系列転換審査の運用状況について検討する。
ア まず、五九年制度の右系列転換審査が実施されたのは昭和六〇年から平成八年
までであるが、その間の合格者は別表1のとおり、男子が合計二〇八名であるのに
対し、女子は合計一四名に過ぎず、しかも女子から継続的に合格者が出るようにな
ったのは平成五年以降である。
 この合格者数の対比のみからすると、男女間の格差は圧倒的というほかない。
 また、昭
和四三年から昭和五〇年までに二種採用または事務技術職採用試験で被告に入社し
た高卒男女の平成一一年一一月現在の職分分布状況は別表2のとおりであるが、こ
れによれば、高卒男子一三二六名のうち、管理社員及び専門職は合計二七九名であ
り、それが高卒男子全体に占める比率は約二一パーセントである。他方、高卒女子
二一名のうち、専門職は一名であり、それが高卒女子全体に占める比率は約四・七
パーセントでしかない。
 さらに、これを原告らが主張する事務系の社員とそれ以外の社員とに分別して対
比してみると、別表3のとおり、事務系部門に入社以来一貫して所属している者の
うち、管理職または専門職の高卒男子は七六名中五三名(約七〇パーセント)であ
るのに対し、高卒女子は専門職が一六名中一名(約六パーセント)に過ぎない。
イ しかしながら、まず、合格者の対比についてであるが、昭和六〇年及び昭和六
一年に多数の男子合格者が出ているのは、五九年制度実施直後であることからし
て、四五年制度の学科試験に合格できずにいた多数の男子が上司の推薦を受けて監
督職・企画開発職転換審査を受験することになったことによるものと推認され、こ
の両年の合格者の増加はまさに五九年制度が予定していたものというべきところ、
右両年には男子に比べ少数とはいえ女子からも合計三名が同審査に合格しており、
四五年制度の下での専門事務技術職系列転換審査Bの女子合格者がわずか二名に過
ぎなかったことをも併せ考えると、五九年制度の監督職、企画開発職系列転換審査
が専ら男子のみを念頭においていたと推認することはできない。
 また、その後は、男子の同審査合格者も少数となっている。しかも、合格者の学
歴や勤続年数、推薦母体である受験資格者と対比した合格比率も不明であり、右合
格者数の格差から男女差別の推薦運用があると推認するには未だ足りない。
 次に、高卒男女の職分分布状況の対比についてであるが、別表2や別表3では、
管理職や専門職に就いている者の系列転換審査合格時期が考慮されておらず、五九
年制度の監督職・企画開発職系列転換審査の高卒男子合格者がどれほどを占めてい
るかは不明である。前記のとおり、四五年制度や現行制度の系列転換審査は基本的
に学科試験で運用されているからこれに恣意が入る余地は少ないが、四五年制度の
下でも男子は相当数が専門事務技術職転換審査Bに合格していたのに対し、女子合
格者は
極端に少なかった。しかも四五年制度以降の人事制度では、事務技術職系列等に配
置された社員もその職分系列のなかで昇進して行くことによりその職分系列の管理
職に昇進するものとされているから、右の高卒男子の管理職のなかには、系列転換
を経由することなく、管理職に昇進した者も含まれている可能性があり、五九年制
度での高卒男子の合格者やその比率をみるにはこれらの要素も考慮されなければな
らない。
 他方、高卒女子の場合は、専門職任用者がわずか一名であるとはいえ、在職者全
体の数も二一名と極めて少数であり(弁論の全趣旨によれば、もともと採用者数が
少数であったというのではなく、中途退職のため勤続者が少数となったものと認め
られる。)、これをもって統計的に意味のある数字とすることは躊躇されるところ
である。
 また、原告らは、原告らとの比較対象者を、従事職務の類似性から事務系の者に
限定すべきであると主張し、その系列転換審査合格者の比率の高さをもって男女差
別的運用の根拠としているのであるが、被告が、M、S、R、Eの職種分類をした
のは平成七年になってのことであり、それ以前にかかる分類はなされていなかった
し、その分類も管理職の職務遂行評価の着眼点を相違させるべきであるという観点
からであったというのであって、非管理職社員の職務遂行評価や処遇にも意味を持
たせるための分類であったと認めるに足る証拠はない。同じ採用区分で採用した同
学歴の男女である以上、被告が女子差別の処遇を行っているというのであるなら
ば、事務系以外の男子との間にも格差がなければならないはずで、事務系に配置し
た男子社員のみを、女子はもとより事務系以外に配置した男子とも区別して格別の
処遇をしているというのであれば、もはや男女差別の問題ではないというべきであ
る。
 さらに、原告らは、別表2の職分分布状況から、基幹職間でみても男子は広範に
職分が分布しているのに対し、女子は均一な取扱いしか受けていないと主張する
が、男子も全体の約七三パーセントにあたる九六五名が基幹職の女子と同じⅡの3
級ないしⅢの2級に任用されているから、大多数の男子が均一の扱いを受けている
といえばいえるし、もともと、右に述べたとおり、高卒女子はその母数自体が極め
て少数であり、その職分分布状況から有意の結論を引き出すのは困難というべきで
ある。
 結局、右職分分布状況の高卒男女間の比較から被告の五九
年制度における監督職・企画開発職系列転換審査の運用状況を推認するには無理が
あり、これらから男女差別の運用があったと推認できるものではない。
ウ 以上のとおりであり、五九年制度の監督職・企画開発職系列転換審査が性差別
的に設計、運用されていたと認められることはできない。
(四) 五九年制度の下における原告らの企画開発職への転換の可否
(1) 原告P1
ア 証拠(甲四一の1ないし3、四四の3ないし5、六五、証人P11、原告P1
本人)によれば、次の①、②の事実を認めることができる。
① 原告P1は、入社後、合成樹脂部新製品課に配属されデリバリー業務を担当さ
せられ、昭和四〇年から現在まで一貫してアクリルシートのデリバリー業務に従事
してきた。アクリルシートのデリバリー業務は取扱品種が約五〇〇〇種にものぼ
り、一日の受注件数も多いが、原告P1はこれに対処するとともに、顧客からの商
品の問い合わせなどにも自ら文献をみるなどして概ね対応できている。
 五九年制度の下では、原告P1の希望で、昭和六一年から大阪販区の生産担当の
仕事を与えられ、キャストシートの生産調整(生産依頼と納期調整)及び在庫管理
を担当するようになり、これに伴い、東京、大阪、名古屋、愛媛工場の販区代表者
が出席する生産会議にも出張するなどして出席するようになった。同会議の東京及
び名古屋販区の代表者は管理職である。また、原告P1は、自発的に電話会議での
販売会議にも出席するようになった。平成七年四月からは代理店である高田商店の
営業担当としてルート販売(代理店を介在させて営業を進めて行く方式)にも従事
するようになり、担当以来販売目標を達成し、上司や取引先からもその実績を評価
されていた。この間、バックセーリング(末端の需要家と直接交渉して商談をまと
め販売する営業活動)一件を実現させたこともあったし、平成七年ころには名古屋
支店のデリバリー担当者故障に際し同支店の業務を大阪で対応するとの提案をして
採用されたことや手作業でなされていた商品見本の入出荷処理のオンライン化を提
案して採用されたこともあった。また、そのころから輸出関連の書類作成や通関業
者と交渉して日程調整をする業務なども担当するようになった(ただし、平成七年
ころは年三、四回程度)。
 しかるに、現行制度になった平成九年二月、デリバリー担当者二名が退職したた
め、原告P1は、デリバリー専任に戻され
たが、その後も、営業担当を希望し続け、平成一一年六月から再び高田商店の営業
担当となり、平成一二年一月からはさらにもう一軒の代理店のルート販売をも担当
するようになった。
② 他方、平成八年ころに作成されたアクリルシート部の職務分類表(甲四一の
3)に照らすと、原告P1が担当していたアクリルシートのデリバリー業務、キャ
ストシートの生産調整及び在庫管理、ルート販売、輸出関連業務はいずれも基幹職
の職務に分類される。キャストシートに関する生産会議には他の販区からも執務職
社員が出席していた。営業に関しては原告P1以上の顧客を担当し、上司から最優
秀との評価を得ている基幹職(五九年制度時の任用職分は不明だが主務職か執務
職)の男子社員がいたが、同人も監督職・企画開発職系列転換審査の推薦対象とは
なっていなかった。平成五年以来アクリルシート部担当部長であり、原告P1の上
司であったP11の原告P1に対する評価は概ね標準程度というものであり、人事
部でも原告P1を成績優秀者としては把握していなかった。
イ 右認定の事実によって判断するに、原告P1が、五九年制度の下で主として従
事していた業務は、いずれも現行制度の基幹職の職務に相当する職務であるから、
五九年制度では執務職掌の職務に分類されるべき職務であったと認められる。原告
P1は、とりわけアクリルシートのデリバリー業務に関しては熟練者として相当の
職務処理能力を発揮していたし、いくつかの事務合理化等の実績も認められるが、
これらも執務職掌の職務範囲内での熟練ないし改善提案と解される。原告P1に対
する上司の評価は主務職として標準的というものであり、前記(前提事実)のとお
り、五九年制度の下での原告P1の格付も主務職六段階のうち主務職一級ないし三
級であって、右上司の評価と相応しているが、この評価は、原告P1の勤続年数、
従事職務の内容、勤務状況、他の男子社員との比較等に照らすと、適正な評価を大
きく逸脱するものであったとまでは認めがたい。
 そして、五九年制度では、社員は任用された職分系列の職務に従事し、その職分
系列で職分昇任して行くのが原則であったから、右のような原告P1の従事職務や
その勤務内容、上司の評価等からすると原告P1が推薦に結びつくような企画開発
職の職務付与を受けられず、その結果、監督職・企画開発職系列転換審査受験の推
薦を受けることができなかったことも著し
く不当なものであったとは認められず、したがって、それが女子であるが故の処遇
であったと認めることもできない。
(2) 原告P2
ア 証拠(甲四二の1及び6ないし13、四六の1ないし6、六四、乙四四、証人
P6、原告P2本人)によれば、次の①及び②の事実が認められる。
① 原告P2は入社後、当時の計数課でキーパンチャーとして勤務した後、昭和四
七年に現在の物流管理部に異動となり、以後、同部で物流関係業務に従事してい
る。
 原告P2の従事業務の中心は、支払業務と受払管理業務である。原告P2は、右
支払業務においては、倉庫の保管料や運賃等の物流費の日常的な支払業務のみなら
ず、保管中または輸送中に生じた物流事故の弁金処理等の事故処理に当たるほか、
協定外料金や臨時輸送が生じたとき(スポット輸送)の料金試算と伺い作成も行
い、さらに、輸送費及び輸送量の統計表作成や事業部からの物流費の問合せ回答を
もしている。また、右受払管理においては、倉庫の品物の入出庫という日常業務の
他、実地棚卸しの際、公認会計士らに数量計算の方法を説明するなどもしている
し、長期滞留品の整理では自発的に保管料のコスト計算をしたうえで処理方法の指
示を受けるといった工夫もしている。さらに、平成六年ころからは物流予算案の作
成にかかわりその一部については事業部との折衝まで行っている。この間の平成五
年ころには上司の指示で、原告P2が中心となりほか二名の女子社員とともに物流
マニュアル(物流部門における執務職掌の職務の処理手順をまとめたもの)を作成
し、上司から十分活用しうるとの評価を得た。また、平成六年ころには危険物乙種
第四類の消防法の試験に合格し、平成七年ころには物流の通信講座も受講し終え
た。
 現行制度になった平成九年ころからは、従前専門職がしていた物流期報の作成を
も担当している。
② 他方、平成八年五月ころ作成された物流管理部の職務分類表(甲四二の7)に
照らすと、原告P2が担当していた物流費の支払業務、弁金処理等の事故処理、ス
ポット料金の見積や伺い作成、輸送費及び輸送量の統計表作成、倉庫の受払業務、
実地棚卸、物流期報の作成はいずれも基幹職の職務に分類される。物流予算の策定
は専門職掌の職務に分類されているが、原告P2が主として従事していたのは予算
案の作成であり、これは、基幹職の職務に分類されている。危険物乙種四類の資格
は、被告では基幹職要員が
入社後すぐに取得する資格であり、平成一二年ころで社員中約五〇〇〇人が取得し
ている。現行制度になってからではあるが、原告P2に対しては、平成八年ころ以
降のチャレンジ面談で、上司から、努力を要する点やアドバイス等として、書く練
習をすること、ムラのない業務対応(基礎関係への取組)、共通業務への積極的関
与、合理化提案、業務知識の自己啓発等が指摘され、さらに「基幹職としての足元
も固めるように」との指導もなされていた。平成五年一月から平成一〇年七月まで
部長補佐等として原告P2の上司であったP6の原告P12に対する評価は標準を
下回るというものであり、人事部でも原告P2を成績優秀者としては把握していな
かった。
イ 右認定に事実によって判断するに、原告P2が、五九年制度の下で主として従
事していた業務はいずれも現行制度の基幹職の職務に相当する職務であるから、五
九年制度では執務職掌の職務に分類されるべき職務であったと認められる。原告P
2が長期滞留品の処理に関して工夫をしていたこと、一部とはいえ専門職の職務に
分類される予算作成(事業部との折衝等も含む。)にも従事していたこと、消防法
の資格を取得したり物流講座を受講したりして自己啓発に努めたこと、物流マニュ
アルの作成を主導したことなどは評価されるべきではあるが、これらも予算作成に
かかわる部分を除き執務職掌の職務範囲内での工夫や自己啓発に止まると解され
る。原告P2に対する上司の評価は標準を下回るというものであり、前記(前提事
実)のとおり、五九年制度の下での原告P2の格付も主務職六段階のうち主務職一
級ないし二級であって、右上司の評価と相応しているが、この評価は、原告P2の
勤続年数、従事職務の内容、勤務状況、現行制度になっても原告P2が執務の基本
的なことに関して上司の指導を受けていたことなどに照らすと、適正な評価から大
きく逸脱するものであったとまでは認めがたい。
 そして、五九年制度では社員は任用された職分系列の職務に従事し、その職分系
列で職分昇任して行くのが原則であったから、右のような原告P2の従事職務やそ
の勤務内容、上司の評価等からすると原告P2が推薦に結びつくような企画開発職
の職務付与を受けられず、その結果、監督職・企画開発職系列転換審査受験の推薦
を受けることができなかったことも著しく不当なものであったとは認められず、し
たがって、それが女子である
が故の処遇であったと認めることもできない。
(3) 原告P3
ア 証拠(甲四〇の1ないし3、5ないし7、9ないし13及び15、四五の1な
いし9(ただし四五の7はさらに7の1及び2を含む。)、四七の1ないし4、六
二の1ないし12、六三の1ないし4、乙四一、四五ないし四七、証人P7、原告
P3本人)によれば①及び②の事実を認めることができる。
① 原告P3は、入社後当時の倉庫課に配属され庶務事務や会計処理業務等に従事
した後、昭和五八年一〇月から日新運輸に出向となった。
 原告P3は、日新運輸では顧客からの受注、出荷の手配をする受給業務(デリバ
リー)に従事したが、その際、連絡ミスや転記ミスなどによって生じたトラブル等
の調整にも当たった。この間に、原告P3は商品ごとに顧客名、住所、輸送ロッ
ト、輸送の所要時間、納入条件等を表にした「需要家一覧表」を完成させ、また、
昭和六三年には衛生管理者受験の通信語座も受講し終えた。
 平成五年一月、原告P3は、出向を解除され、業務部配属となったが、業務部で
は、お茶汲み等を含む庶務事務のほか主として運賃、委託費支払、債権収納及び債
務支払の業務に従事し、汎用運賃実績報告の計上正誤照合、予算実績管理等にも従
事した。これらの業務に従事する傍ら、原告P3は、汎用運賃実績報告の計上正誤
照合を行う上で出てきた問題点を抽出し、検討してまとめ、「汎用運賃計上システ
ムの改善(共同提案)」という改善提案を行い、会計事務処理の業務内容を処理順
序にしたがって整理した債権計上業務処理マニュアル等の手順書や会計事務処理の
ための操作マニュアル等の手順書の作成を行った。また、臨時に四国ヤマト宅急便
を利用した際の費用を社員が立替払していることやその費用が総務の費用とされて
いることを問題として指摘した改善提案や製造課のアルミナサンプルの郵パック費
用が総務の費用として支払われていることを問題として指摘した改善提案なども行
った。また、平成六年ころには物流管理の通信教育を受講し終えた。
 原告P3がしたこれらの改善提案のうち、「汎用運賃計上システムの改善(共同
提案)」、「アルミナサンプルの郵パック輸送費用計上システムの改善」及び「四
国ヤマト運輸宅急便の利用方法および支払方法の改善」は改善提案部長賞を受賞し
た。
② 他方、原告P3が、日新運輸から被告の業務部へ復帰した当時、業務部内で執
務職掌の職分に任
用されていたのは原告P3のみであり、原告P3に庶務事務が割り当てられたの
は、庶務事務が執務職掌の職務に分類されることによるものであった。業務部で原
告P3が従事していた汎用運賃実績報告の計上正誤照合の職務は資料をつきあわせ
てその誤計上がないかを確認する作業であり、予算実績管理も実績として上がって
きた数字を決められた項目ごとに集計して表にし、予算との差異の有無を確認する
作業であった。また、原告P3が作成した債権計上処理マニュアルは手順の確立し
ていた業務処理を文書化したものであり、操作マニュアル等の手順書もコンピュー
ター画面の処理の流れを文書化したものであった。なお、改善提案部長賞は執務職
掌の職務従事社員を対象とするものであり、年間延べ数万件(平成一一年では五万
六四三四件)の受賞がある。平成六年一月から平成七年六まで愛媛工場業務部部長
として原告P3の上司であったP7の原告P2に対する評価は標準ないしはそれを
下回るというものであり、人事部でも原告P3を成績優秀者としては把握していな
かった。
イ 右認定の事実によって判断するに、原告P3が、五九年制度の下で主として従
事した職務のうち、日新運輸出向時の受給業務は、日々の受注から出荷までの手配
やその間に生じるトラブルの処理というものであるから、日常定型的な範囲内での
業務であり、執務職掌の職務に分類されるべき職務であったと考えられる。業務部
復帰後に従事した職務のうち、庶務事務はもとより、汎用運賃実績報告の計上正誤
照合や予算実績の管理もその業務内容からして定型的業務であることは明らかであ
り、執務職掌の職務に分類されるべき職務であり、また、原告P3が行った需要家
一覧表、債権計上処理マニュアル及び操作マニュアルその他の手順書の作成も比較
的に単純な作業であるから、執務職掌の職務内に分類されるべき実績であると考え
られる。原告P3が、物流管理の通信講座を受講して自己啓発に勤めたこと、いく
つかの改善提案を行い、そのうちの三提案が改善提案部長賞を受賞したことは評価
されるべきではあるが、改善提案部長賞の受賞対象者や年間受賞者数などに照らす
と、これらも執務職掌の水準内での評価をこえるものではないと解される。原告P
3に対する上司の評価は標準ないしこれを下回るというものであり、前記(前提事
実)のとおり、五九年制度の下での原告P3の格付も主務職六段階のうち主務
職一級ないし二級であって、右上司の評価と相応しているが、この評価は、原告P
3の勤続年数、従事職務の内容、勤務状況などに照らすと、適正な評価から大きく
逸脱するものであったとまでは認めがたい。
 そして、五九年制度では社員は任用された職分系列の職務に従事し、その職分系
列で職分昇任して行くのが原則であったから、右のような原告P3の従事職務やそ
の勤務内容、上司の評価等からすると原告P3が推薦に結びつくような企画開発職
の職務付与を受けられず、その結果、監督職・企画開発職系列転換審査受験の推薦
を受けることができなかったことも著しく不当なものであったとは認められず、し
たがって、それが女子であるが故の処遇であったと認めることもできない。
(五) 結論
 以上のとおりであり、五九年制度の監督職・企画開発職転換審査受験の推薦が男
女差別的に運用されたことや、原告らがその推薦を受けられなかったことがそのよ
うな男女差別的運用によるものであったとは認められず、したがって、原告らが右
転換審査の実施されていた平成八年までのいずれかの時点で、企画開発職に転換で
きたと認めることはできないから、原告らの予備的請求その1は、その余の点につ
いて判断するまでもなく、いずれも理由がない。
三 争点3(予備的請求その2-原告らの精神的損害の有無)について
1 請求の趣旨変更の適法性
 被告は、請求の基礎が異なること、時機に後れたものであることを理由に原告ら
の請求の趣旨の変更を不適法と主張するところ、右変更が時機に後れたものである
ことは被告主張のとおりであるが、変更前の予備的請求その2は、原告らと同時期
に同一採用区分で採用された同学歴男子との昇進、昇格、転換における男女差別を
請求原因として賃金格差相当の経済的損失や精神的苦痛に対する損害賠償を請求す
るものであったから、変更後の予備的請求その2とは請求の基礎は異ならないとい
うべきであるし、その損害の発生根拠として主張されている事実は、原告らが予備
的請求その1の請求原因またはそれを裏付ける主要な間接事実として主張してきた
ことと同一であり、その変更によって裁判の完結を遅延させることにはならない。
 よって、右変更は不適法とはいえない。
2(一) そこで、請求の当否について判断するに、原告らの主張する是正義務違
反が認められないことは前述のとおりであり、これを前提とする変更後の予備的請
求その
2も理由がないものというべきである。ただ、原告らは、上司の差別的な言動や原
告らが、教育、研修、職務配置、会議出席等で差別的な処遇をされた等縷々主張し
ており、それら独自の違法性を主張する節もあるので、蛇足ではあるが、以下、こ
れらについて検討する。
(1) まず職務配置の点では、原告らから採用区分の同じ男女間で配置職務が異
なるとの具体的な主張、立証はない。また、すでに述べたとおり、原告ら事業所採
用者と採用区分の異なる三種採用者やこれを承継した専門事務技術職、企画開発
職、専門職等全社採用の社員とは、社内における社員としての位置付けの違いがあ
り、特に四五年制度以降は、社員は原則として任用された職分系列の中で昇任して
行くものであることが制度上も明確にされているのであるから、これらの者との間
で配置される職務が相違するのは当然である。
(2) 数育、研修の点でも、原告らから採用区分の同じ事業所採用の男女間で教
育、研修内容が異なるとの具体的な主張はない。
 これに関して、原告P3は、業務部において希望しても社内教育を受けられず、
ようやく実現した教育の機会にも男子には配布される冊子が女子には配布されない
し、部内の回覧文書も女子は回覧の対象にされないなどと主張し、陳述書(甲四〇
の1)にも同旨を記載しているが、他方、原告P3の本人尋問の結果によれば、原
告P3が配属されていた業務部の執務職社員は原告P3と他一名の女子のみで他は
すべて企画関発職社員か管理職社員であったというのであるから、この職種の相違
を抜きにして、原告P3のいう事情のみから男女差別の処遇があるということはで
きない。
(3) 会議出席の点でも、原告らから採用区分の同じ事業所採用の男女間で取扱
いが異なるとの具体的な主張はない。原告P3は、女子のみ業務連絡会から排除さ
れた旨右陳述書に記載しているが、同時にその業務連絡会は管理職社員及び専門職
社員が召集されていたというのであるから、職種の違いを抜きにして男女差別とい
うことはできないし、事業所採用であっても原告P1のように、生産会議に出張し
て出席したり、販売会議に出席したりしている者もいるのであるから、むしろ、女
子であるという理由のみで被告が一律に会議出席等を制限しているとは認められな
い。
(4) 原告らは一様に、上可の男女差別的言動にさらされたと主張して、それぞ
れその陳述書にも同旨を記載してい
るところ、たしかに、原告らが問題とする上司の発言中には、「女性は銃後の守り
に徹せよ」だとか「男性の電話を聞いているだけでも物流がどういうことになって
いるか判るはずだ」「男性は結果の出る仕事をしてる」(原告P2の陳述書。甲四
二の1)など女子差別的発言と目されるものも含まれていることは認められる(他
は、必ずしも女性であるが故になされたとも女子差別的ともは一概に断定できない
ものである。)が、果たして、右のような文言どおりの発言があったかについては
その裏付けもなく確実性に乏しいし、仮に一部の上司にそのような発言をした者が
いたとしても、それは当該上司の問題であって、それによって当然に被告が男女差
別をしているとの非難を受けなければならないというものではない。
(5) そのほか、
ア 原告P2は、被告が、自己都合退職であっても結婚退職の場合には退職金の減
額支給をしていないことや忌引休暇に関しても既婚女子の場合配偶者の父母を実父
母扱いとしていること、男子はすべて転換を終えている物流管理部に人事部からの
推薦検討依頼が来ていなかったこと、上司がチャレンジカードの記載に真摯ではな
かったこと、住民票上の世帯主を変更して厚生給支給の申請した際、詳細な事情聴
取を受けたことなどを男女差別の問題とする。
 このうち、退職金や忌引休暇の点の点については、被告によれば、結婚退職の場
合のみならず病気退職の場合も特例として男女を問わず退職金の減額支給をしてい
ないし、忌引休暇は地方の実情を踏まえたものであったというのであり、男女差別
の問題ではない(退職金全額支給が、女子の早期退職を促進するとは考えられない
し、忌引休暇の扱いは男女差別の問題というより旧来の家族制度の名残というべき
である。)。
 また、物流管理部に推薦検討依頼が来ていなかったと認めるに足る証拠はなく、
上司の真摯さ不足も女子に対してのみそうであったかは明らかでないうえ、当該上
司個人の問題である。
 さらに、世帯主変更による厚生給支給の申請がなされた場合、被告がある程度詳
細に事情を聴取しようとするのは当然であり、そこに男女間差別があるかは証拠上
明らかでない。
 以上のとおり、原告P2が男女差別と主張するところは、いずれも男女差別の問
題ではないか、証拠上明らかとはいえないものである。
イ 原告P3は、陳述書(甲四〇の1)において、男子の転入者には直ちに名刺が
準備さ
れるのに、女子には名刺の準備はないことを男女差別の問題とするが、原告P3が
名刺の準備がなされたという男子は企画開発職であり、原告P3とは職種も職務も
異なるし、被告が職務遂行上の必要性に関わらず、女子には名刺を用意しない取扱
いをしていると認めるに足る証拠もない。
(二) 結論
 以上のとおりであり、原告らが平等に取り扱われるべき期待権、人格権を侵害さ
れたと認めることはできず、原告らの予備的請求その2は、その余の点について判
断するまでもなくいずれも理由がない。
四 よって、主文のとおり判決する
大阪地方裁判所第五民事部
裁判長裁判官 松本哲泓
裁判官 松尾嘉倫
裁判官 西森みゆき

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