弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人片山義雄主張の控訴趣意は末尾に添附した別紙控訴趣意書と題する書面記
載のとおりで、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 第一点について。刑事訴訟法第三百一条の規定は犯罪事実に関する他の証拠の取
調に先立ち被告人の自白を取調べるときは、裁判官をして被告人に不利益な予断を
抱かせることがあるのでこれを防止する趣旨で設けられたものであるから、他の証
拠の取調請求と同時に自白の取調請求をしても、自白の取調が他の証拠を取調べた
後になされる限り、右の規定に違反しないといわなければならない。されば、原審
検察官が原審における証拠調の冒頭において被告人の自首調書について他の証拠と
共にこれが取調を請求したことは所論のとおりであるけれども、原審は司法警察官
作成のAの始末書その他被告人の自白以外の他の証拠の取調をした後に所論の自首
調書の取調をしたものであることは原審第一回公判調書に照らし明らかであるか
ら、被告人の自首調書の証拠調手続には所論のような違法はなく、従つて所論の如
く証拠手続の規定に違反して取調べられた証拠を断罪の資料に供した違法はない。
論旨は理由がない。
 <要旨>第二点について。被告人の自白を補強すべき証拠は自白にかゝる事実の真
実性を保障するものであれば足りるのであるから、本件の如き殺人事件にお
いては単に被害者の死亡の事実を証明するに過ぎない証拠であつてもそれが被告人
の殺人の自白が真実であることを裏付けるに足るものである以上、補強証拠として
充分であつて更に被害者の死因については必ずしも被告人の自白を補強する何等か
の証拠を必要としないものと解すべきである。原判決が被告人に対する本件尊属殺
人の公訴事実を認定する資料として引用した各証拠を調べてみるに証人Bの尋問調
書は被害者Cの死亡の事実就中死亡の場所、死体の位置などに関し同証人が直接に
実験した事実の供述を主たる内容とするもので、右の供述はこれらの事項に関する
被告人の供述と符号し、結局被告人の自白の真実性を保障するに足りるから、たと
い同証人の右供述が被害者の死因(絞殺死)を証明することができないでも、被告
人の自白の補強証拠となすに充分である。されば、原判決が、本件尊属殺人の公訴
事実を認定する証拠として被告人の自白の外にその補強証拠となすに足る前記証人
Bの尋問調書を引用している以上、所論の如く被告人の自白を唯一の証拠として被
告人を有罪とした違法はなく、論旨は理由がない。
 よつて、刑事訴訟法第三百九十六条第百八十一条第一項に従い、主文のとおり判
決する。
 (裁判長判事 平井林 判事 久利馨 判事 藤間忠顯)

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