弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人高橋禎一の上告趣意第一点、同古田進の上告趣意第一、二点および同遊田
多聞の上告趣意第一点中憲法三八条二項違反をいう点は、記録に徴すると、所論各
供述調書のうちA、Bの検察官に対する供述調書の供述の任意性を疑うべき事跡は
認められず、その余の各供述調書の供述は任意性を疑うべき点はないとした原審の
判断はこれを是認し得る(なお、原判決が証拠としたCの検察官に対する供述調書
中の供述は、「一〇月であつたということ、その程度のことなら申してもよいが、
上旬、中旬、下旬のいずれとも申し上げる訳にはいかない。兎も角一〇月中の或る
日の夜八時四五分東京発急行安芸号一等車指定席に乗つて、朝一一時前後頃笠岡に
着き、下車後父の乗用車トヨペツトに乗つたが、それから先は何処へ行つたか申上
げる訳にいかない。」との供述だけであつて、右供述がCの自由意思により任意に
なされたものであることは右供述自体に徴し明らかである。)。よつて、所論違憲
の主張の前提を欠き上告適法の理由とならない。
 弁護人遊田多聞の上告趣意第三点、同古田進の上告趣意第三点は、公職選挙法一
二九条、二三九条の違憲をいうが、同法における選挙運動の意義が所論の如く不明
確であるとはいえないし、同一二九条はこの選挙運動を一定の期間においてのみな
すことを許し、同二三九条は、これに違反した者を処罰することを規定しているの
であるから、右各法条には、罪の構成要件が規定されていないとかまたは不明確で
あるとかいうことはできない(昭和三八年(あ)第九八四号同年一〇月二二日第三
小法廷決定刑集一七巻九号一七五五頁参照)。従つて、公職選挙法の右各法条が憲
法三一条、三九条、九八条一項に違反するとの主張はその前提を欠き適法な上告理
由とならず、また、いわゆる事前運動禁止の右各法条が憲法二一条に違反するとす
る弁護人古田進の主張の理由がないことは、昭和三七年(あ)第八九九号同三九年
一一月一八日大法廷判決(刑集一八巻九号五六一頁)の趣旨に徴し明らかである。
所論は採るを得ない。
 弁護人松岡一章、同黒田充洽連名の上告趣意第三点は、憲法三八条三項違反をい
うが、共犯者の自白を同条項にいう「本人の自白」と同一視し、またはこれに準ず
るものとすることはできないことは、昭和二九年(あ)第一〇五六号同三三年五月
二八日大法廷判決(刑集一二巻八号一七一八頁)の判示するとおりであるから、原
判決の判断に所論憲法違反はなく、論旨は理由がない。
 弁護人松岡一章、同黒田充洽連名の上告趣意第一点、同古田進、同黒田充洽連名
の上告趣意第一点は、原審は、刑訴法三二八条の解釈を誤り所論引用の高等裁判所
の各判例と相反する判断をした旨主張する。しかし、記録に徴すると、所論D、E、
F各作成にかかる事実証明書三通は、初め原審第八回公判廷で弁護人らから「被告
人が立候補を決意した時期を立証のため」として証拠調の請求がなされたが、検察
官はこれを証拠とすることに同意しなかつたので、第九回公判廷において、弁護人
から改めて、「G、Hの検察官に対する各供述調書中被告人の公認時期に関する供
述部分の証明力を争うため及び証人I、同Jの各証人尋問調書の証明力を増強する
ため刑訴法三二八条の証拠として」証拠調の請求がなされ、裁判所は、次の第一〇
回公判廷において、右請求を却下した事実、これに対し弁護人は、「刑訴法三二八
条は、供述調書に対する反証の場合をも含むものであり、証拠能力を有する書面の
証拠調を却下したのは、法令に違反するので異議がある。」として異議の申立をし
たところ、裁判所は右異議の申立は理由がないとして棄却の決定を言い渡した事実
を認めることができる。してみれば、所論事実証明書三通は、所論の如く、被告人
の供述の証明力を増強するため証拠調を請求されたものではない。しかのみならず、
証拠調の請求についてこれを許すと否とは、原則として裁判所の裁量に委ねられた
ところであつて、請求された書面が刑訴法三二八条により取調を許されるものであ
つたとしても、裁判所がその取調の必要がないと認めた場合には、必ずしもこれが
取調をしなければならないものではない。また記録に徴するも、所論事実証明書の
証拠調請求が例外として必ず取り調べなければならないものであるとする事由も認
められない。してみれば、原審はむしろ右各証拠の取調の必要がないとして、これ
を却下したものとも見得るのであつて、そうすると、右各証拠の採否について原審
が如何なる法的見解をとつたかというが如きことは、原判決に何ら影響のない事項
であるから、原審の判断が所論高等裁判所の判例に相反するか否かを問うまでもな
く、所論は上告適法の理由にあたらない。
 弁護人遊田多聞の上告趣意第二点、同古田進、同黒田充洽連名の上告趣意第三点
の2は、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない
(刑法五四条一項前段のいわゆる観念的競合は、一個の行為が数個の罪名に触れる
場合に、科刑上一罪として取り扱うものであるから、公訴の時効期間算定について
は、各別に論ずることなく、これを一体として観察し、その最も重い罪の刑につき
定めた時効期間によるを相当とする。従つて、所論本件事前運動の罪についても公
訴時効は完成していないとした原判決の判断は正当である。)。
 以上摘記の各弁護人のその余の上告趣意および弁護人岸本静雄の上告趣意は、事
案誤認、単なる法令違反、もしくは量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上
告理由にあたらない。
 よつて、同四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
  昭和四一年四月二一日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   田       誠
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎

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