弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士清瀬一郎、同菅原裕、同山田直大、同弁理士D、同Eの上告理
由は別紙のとおりである。
 上告理由第一点について。
 論旨は、原判決が、本件第一二四五一四号特許の要旨について、車軸と車体との
関係的移動について前後動を除外し、さらに、両弧状面の半径の差異と遊動関係と
の間に因果関係がある旨を判示したのは、物理学上の法則を無視した違法があると
いうのである。
 しかし原判決は、上告人特許の脱線防止装置について、車軸と車体とが前後に移
動しないとしているのではなく、本件特許の明細書の記載等からいつて、右特許の
発明が、特に前後動を許容することを目途として考案されたものではなく、この点
を本件特許発明の要旨として取り上げるべきでない旨を判示しているに止まるもの
と解され、そして右判示は十分に首肯することができる。また、車体支持台の遊動
孔と車軸の弧面の関係については、原判決も説明するように、本件特許明細書の「
発明の詳細なる説明」にも「……遊動孔(5)の上部の大径弧状面を、車軸側に於
ける小径の弧状座面に圧接せしむることにより車軸の左右両側より下部に亘り、車
軸(2)と支持台との関係的移動間隙を充分に存置し……」と記載してあり、原判
決が、両者は因果の関係を有するものと解したのをもつて、所論のように違法とす
べき理由はない。論旨は理由がない。
 同第二点について。
 論旨は、本件発明と再訂正(イ)号図面の差異は、異径弧面接触の大小と両側の
間隙が充分であるかないかの二点につきるのであつて、技術思想又は作用効果の問
題ではなく、ただ設計上の問題に過ぎないというのである。しかし、原判決の説明
によれば、本件特許は車軸と車体支持台の遊動孔との間に十分なる間隙を設けるこ
とにより脱線を防止しようとするのに対し、再訂正(イ)号図面は、左右の間隙は
車軸の上下動をゆるす限度に止め、上下動をゆるすことによつて、脱線を防止しよ
うとするのであつて、右再訂正(イ)号図面は、本件特許発明とは、別の考案を基
礎とするものと解することができる。原判決の趣旨は十分に首肯することができる
のであつて、原判決に所論のような違法はない。
 同第三点について。
 論旨は、原判決が、本件特許明細書の「充分なる遊動間隙」を「相当の大きさの
遊動間隙」の趣旨と解したのを非難するのであるが、所論のように、右の間隙を、
車体と車軸との関係的移動を円滑且つ容易ならしめる程度の「相当の大きさ」の趣
旨と解しても支障はないのであつて、原判決も、特に所論の点について上告人の主
張を否定する趣旨とは解することができない。原判決の趣旨は、再訂正(イ)号図
面との対比において述べているのであつて、再訂正(イ)号図面における左右の間
隙は、本件特許の場合に比して狭く、従つて、再訂正(イ)号図面の場合は、左右
移動を容易円滑ならしめることによつて脱線を防止しようとしているものではない
としているのである。
 論旨は、再訂正(イ)号図面のような左右の間隙では、脱線を防止することがで
きないと論じるようであるが、このことから逆に再訂正(イ)号図面の左右の間隙
を脱線防止に必要な間隙と解することはできない。
 論旨はまた、大審院の判例を援用して、特許請求の範囲に属する事項が公知にか
かるものであるかどうかは、特許無効審判において決すべき問題であつて、権利範
囲に属する事項が公知に属するかどうかは、本件で定める必要はない旨を主張し、
原判決が昭和四年当時の公知事項によつて、本件特許の権利範囲を確定したのを非
難するのである。
 もとより、特許無効審判と違つて、権利範囲確認審判においては、特許権が有効
に成立していることを前提としているのであるから、その審決に関する訴訟におい
ても、特許の内容が公知であるかどうかを論ずることはできない。しかし、いかな
る発明に対して特許権が与えられたかを勘案するに際しては、その当時の技術水準
を考えざるを得ないのである。けだし、特許権が新規な工業的発明に対して与えら
れるものである以上、その当時において公知であつた部分は新規な発明とはいえな
いからである。本件の場合も、原判決の認定するところによれば本件特許の出願当
時、炭車等の脱線防止装置として、車軸を車体の遊動孔に差し入れ、車体と車軸を
固定せしめず、よつて脱線を防止することは公知であつたというのである。しから
ば、本件特許は、原判決のいうように、その特殊な構造に対して与えられたものと
解するよりほかはなく、再訂正(イ)号図面が原判示のような点において本件特許
と異る以上、原判決が、右再訂正(イ)号図面は本件特許権の範囲に属しないとし
たのは相当であつて、原判決に所論のような違法はない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介

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