弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文
1 被告Aは,原告に対し,原告から金250万円の支払いを受けるのと引き換えに,別
紙建物目録記載2の建物部分を明け渡せ。
2 被告B及び被告Cは,被告Aが原告から金250万円の支払いを受けるのと引き換え
に,原告に対し,別紙建物目録記載2の建物部分を明け渡せ。
3 被告らは,原告に対し,平成12年7月23日から上記建物部分明渡し済みに至るま
で,1か月金1万5000円の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,これを3分し,その1を原告の負担とし,その余を被告らの負担とする。
6 この判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告Aは,原告に対し,原告から金150万円又はこれと格段の相違のない範囲で裁
判所が相当と認める金員の支払いを受けるのと引き換えに,別紙建物目録記載2の
建物部分を明け渡せ。
2 被告B及び被告Cは,被告Aが原告から金150万円又はこれと格段の相違のない範
囲で裁判所が相当と認める金員の支払いを受けるのと引き換えに,原告に対し,別
紙建物目録記載2の建物部分を明け渡せ。
3 被告らは,原告に対し,平成12年7月23日から上記建物部分明渡し済みに至るま
で,1か月金2万5000円の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,亡父からの相続により借家として利用されている別紙建物目録記載2
の建物部分(以下「本件区画」という。)及びその敷地部分の土地を取得した原告
が,他の相続人が取得した隣接土地と上記敷地部分の土地を一体的に有効利用
する必要性等の正当事由があり,期間の定めのない賃貸借契約につき解約の申
入れをしたと主張して,立退料の支払いと引き換えに,本件区画において表具師
の仕事を行っている借家人(被告A)に対しては,賃貸借契約の終了に基づき,同
区画の居住者(被告B)及び利用者(被告C)に対しては,本件区画の所有権に基
づき,本件区画の明渡し及び賃貸借契約終了の日の後である平成12年7月23日
から賃料相当損害金の連帯支払いを求めた事案である。
1 前提事実(後掲各証拠で認定するほかは,当事者間に争いがない。)
(1)原告の父D(以下「D」という。)は,別紙土地目録記載1の土地(別紙土地目録記
載2ないし5の分筆前の土地。以下「旧1101番土地」という。)及び同土地上に大
正時代に建てられた別紙建物目録記載1の各建物(以下「本件建物」という。)を所
有し,本件建物のうち主たる建物(以下「本件自宅建物」という。)に家族と共に居
住し,附属建物の一部を借家人に賃貸していた(甲1の1,2,甲2の2ないし4,甲
46,証人E)。
(2)Dは,大正末又は昭和初期に,被告らの父F(以下「F」という。)に対し,本件建物
の附属建物のうち5戸の連棟式借家となっていた符号8の建物(以下「本件符号8
建物」という。なお,同目録記載の他の附属建物についても,同目録記載の符号に
従いこれと同様にいう。)の西側から一番目の本件区画を,賃貸借期間を定めない
で貸し渡した。なお,賃貸借契約当時の賃料等については不明である。
(3)Dは,昭和57年2月16日に死亡し,同人の相続人であるG(以下「G」という。),H
(以下「H」という。),I(以下「I」という。),E(以下「E」という。)及び原告の5名(以
下,上記5名の相続人を「原告ら」という。)が旧1101番土地を共同相続した(甲1
0の1ないし3,甲46)。
(4)Fは,平成3年1月3日に死亡し,本件区画の借主たる地位は,その長男である被
告A(大正15年1月5日生)が相続により承継した。
本件区画の賃貸借契約については,賃貸期間の定めはなく,当事者間で最終
的に合意された賃料は,月額金1万0880円であるが,平成7年ころに原告から賃
料値上げの要求があったことから,被告Aは,平成7年7月以降は月額金1万200
0円を,平成10年10月以降は月額金1万5000円を賃料として供託している(続
柄及び生年月日につき甲13の1)。
(5)被告Aは,昭和34年8月の結婚を機に本件区画を離れ,その後は市営住宅等で
生活したが,昭和59年以降は,肩書住所地にある妻及び長女の共有名義の自宅
で居住している。被告Aは,現在,自宅から本件区画に通って,本件区画の一階に
おいて表具師の仕事を行っているが,本件区画では寝泊まりはしていない(甲12,
甲13の1,2,甲15の1,2,被告A本人)。
(6)Fの四男である被告Bは,昭和8年10月31日に生まれて以降,現在まで本件区
画に居住しているが,結婚歴はない。
同被告は,昭和60年ころに会社勤めを辞めた後は,定職に就かず,現在は年
金の収入により単身で本件区画の2階部分で寝泊まりしている(甲13の1,乙6,2
1,被告A本人)。
(7)Fの五男である被告C(昭和15年1月1日生)は,タクシー会社に勤務して長年タ
クシー運転手の仕事に就いていたが,平成12年ころにタクシー会社を退職した。
同被告は,名古屋市a区内の某所に自宅を購入して生活しており,現在,本件区画を
利用してはいない(甲13の1,被告A本人)。
(8)Dの相続人らは,Dの相続財産につき,長年にわたり遺産分割協議を行ってきた
が,平成6年5月12日,名古屋家庭裁判所の遺産分割,寄与分調停事件におい
て,Dの遺産に関する遺産分割の調停が成立した。
その結果,Dの相続財産のうち,
ア 旧1101番土地は,別紙土地目録記載2ないし5の土地に分筆した上,原告が別
紙土地目録記載2の土地(以下「本件2土地」という。なお,同目録記載の他の土
地についても,同目録記載の番号に従い上記と同様にいう。)を,H及びIが本件3
土地の各2分の1の共有持分を,Eが本件4土地を,Gが本件5土地をそれぞれ単
独所有すること
イ 本件建物については,原告,H,I及びEが各4分の1の持分をもって共有取得す
るが,本件区画を含む附属建物については,上記アにより各人が取得した土地上
に所在する部分につき,当該敷地部分の所有者が単独で所有権を取得し,各借家
については同敷地部分の所有者が賃貸人の地位を引き継ぐことがそれぞれ合意
された(甲10の3,甲46,証人E)。
なお,本件2土地,本件4土地及び本件5土地の北側には,これら土地に隣接し
て,E及びその妻J(以下「J」という。)が平成11年2月26日に共有名義で取得した
本件6土地が所在する(甲2の5,甲4)。
(9)原告は,被告Aに対し,平成12年1月20日付け内容証明郵便をもって,本件区
画に関する賃貸借契約の解約を申入れ,同通知は,同月22日,被告Aに到達した
(以下「本件解約申入れ」という。)。
(10)本件訴訟では,当初,原告,H及びIから,3戸の連棟式借家となっていた本件符
号1建物の東側から1番目の区画(以下「K区画」という。)を賃借していたK(以下
「K」という。)と5戸の連棟式借家となっていた本件符号8建物の西側から2番目の
区画(以下「L区画」という。)を賃借していたL(以下「L」という。)の両名に対して
も,同人らを被告として訴訟が提起されていたが,平成13年11月27日,原告,H
及びIとK及びLとの間で,K及びLがそれぞれ立退料の支払いを受けるのと引き換
えに平成14年10月31日限り各借家部分を明け渡すこと等を内容とする訴訟上
の和解(以下「本件和解」という。)が成立している(顕著事実)。
2 争点
本件において,原告の解約申入れについて正当事由が存在するか。また,原告に
よる立退料の提供により,正当事由は補完されるか。
(原告の主張)
(1)原告が所有し,本件区画の敷地となっている本件2土地は,原告の兄弟姉妹とそ
の配偶者が所有している本件3土地ないし本件6土地と一団の土地を構成してい
る(以下,上記各土地を合わせて「本件各土地」という。)。
本件各土地は,東西が約40メートル,南北に長い西側が約48メートル,南北に
短い東側が約30メートルのL字型の土地であって,商業地域に所在し,建ぺい率
80パーセント,容積率400パーセントであり,その南側は幅員20メートル以上の
東西に走る主要地方道白壁猪高線(以下「本件幹線道路」という。)に面している。
本件幹線道路沿いには,中高層商業ビルやマンション等が多く存在し,本件各
土地周辺は,今後,さらに商業ビル,マンション,その他商業施設が増加していくこ
とが予想される地域である。
(2)本件各土地には,かって,本件自宅建物のほか,借家等になっていた附属建物
が建てられていたが,いずれも老朽化してきたことから,原告らは,平成8年ころ,
主たる建物と空き家となった借家等を順次取り壊した。その結果,本件各土地は,
K区画,L区画及び本件区画を残して更地となったが,これら区画が残ったことによ
り,本件幹線道路に面した約40メートルのうち,合計約14メートルの幅員が上記
区画により塞がれる状態が生じており,本件各土地の有効利用は著しく阻害され,
そのままでは駐車場としてしか利用できない状況となった。
このため,原告らは,上記3区画を残した状態で本件各土地を一括して株式会
社M(以下「M」という。)に対し駐車場として1か月金100万円で賃貸してきたが,
Mは,平成13年2月末日限りで駐車場賃貸借契約を解約する旨を申し入れ,同日
限り本件各土地を明け渡した。
この結果,原告らは,平成13年度において,固定資産税及び都市計画税合計
金315万7420円を負担したが,平成13年3月1日以降,本件各土地からはK,L
及び被告Aから受領する家賃以外に収入がない状態となっている。
(3)原告が,現在,本件土地から得られる収入は,Lからの家賃相当額と被告Aの供
託金額を合計しても年間金30万円に過ぎないのに対し,本件土地に課税される平
成13年度の固定資産税(金56万9987円)及び都市計画税(金13万0229円)
の合計は金70万0216円に達し,原告において約40万円の持ち出しとなってい
る。
(4)本件各土地について,原告らは,平成12年2月の本件訴訟提起の段階では,本
件各土地に1階床面積約160坪程度のローサイド型の物品販売用の賃貸店舗を
建築し,これをNを経営する株式会社Oに賃貸する計画を持っていたが,本件審理
に伴って時間が経過するなかで,同社の営業政策,出店計画に変更があり,平成
13年夏ごろには,同社は上記出店計画を断念した。
しかしながら,平成13年秋ころ,回転寿司チェーンのP株式会社(以下「P」とい
う。)が,本件各土地への出店計画を表明してきたことから,原告らは協議の結果,
本件各土地に賃貸店舗を建築し,これをPに賃貸する旨の有効利用計画を立て
た。
上記有効利用計画によれば,原告らは,本件各土地全体で借入金の返済,所
得税等を控除した手残りとして年間約1300万円の収益を得ることが可能となる。
(5)本件区画は,大正年間に建てられ,築後80年以上経過した建物であり,鑑定の
結果からも,老朽化がかなり進んだ状態にあるところ,被告Aは,名古屋市a区内
の自宅に居住していることから,本件区画に居住する必要は全くなく,また,本件
区画を仕事場に使用する必要もない。
被告Cも,名古屋市a区に住宅を所有しており,同被告はそこで寝泊まりをしてい
ることから,本件区画に居住する必要は全くない。
なお,被告Bは,本件区画で居住しているようであるが,本件区画を明け渡して
も他に居住する移転先物件は昨今の情勢ではいくらでもあるし,また,被告A及び
被告Cが自宅に引き取ることも検討してしかるべきである。
原告は,被告Aに対する適正な立退料として,本件鑑定の結果も考慮して,金2
29万9000円を支払う意思がある。
(被告らの主張)
(1)本件訴訟は,あくまでも建物明渡の裁判であり,土地明渡を求めるものではない
から,原告が主張するように本件区画の敷地を含む本件各土地の利用の必要性
を正当事由として掲げることは許されず,本件区画につき原告が使用を必要とする
事情こそが正当事由として斟酌されなけれなならないのである。
また,本件6土地は,平成11年2月26日に売買により取得した土地であり,Eら
が有意的に取得したものであるから,このような有意的かつ新規購入の土地まで
加えて全体的な土地の利用の必要性を強調することは信義則に反する。
(2)解約申入れについては,正当事由が必要であるが,正当事由の有無の判断にお
いては,主たる要素である建物使用の必要性と他の要素である従たる要素が存在
する。
そして,事業用建物と居住用建物を比較すれば,居住用建物の方が借家人の
利益を保護する必要性が高い。
本件区画は,被告らの生活の場でもあり生計を維持する仕事の場でもあること
からすれば,被告らにとり本件区画も高度の利用価値を有する物件であることは
看過すべきではない。
(3)被告Aは,父親の跡を継ぎ,表具屋をして本件区画で稼働し,固定客も多い。ここ
2,3年を見ても平均の売り上げは年間100万円を下ることはなく,月額5万円程
度の国民年金しか収入のない被告Aにとっては,表具屋としても収入は重要な生
活資金である。
また,被告Aには,長年にわたり同一箇所で営業し続けてきたことで得た信用が
あり,これは表具屋を営むために不可欠な重要性を有する。
被告Aは,本件区画の1階を仕事場として使用しているが,作業スペースとして
も本件区画は良好であり,しかも,家賃が安いことも考慮すると,本件区画で営業
する利益は大であり,代替物件で本件程度の条件を満たすことは不可能である。
(4)被告Bは,ここ9年ほど年金暮らしであり,独身である。同被告は,生来の地であ
る本件区画での居住を強く希望している。また,資金的な余裕もないので,転居費
用の捻出も困難である。仮に転居できたとしても,月額2,3万円程度の家賃が限
界であり,現状での生活が維持できなければ,早晩生活が成り立たなくなる虞れが
濃厚である。
(5)被告Cは,最近までタクシー運転手として稼働し,タクシー勤務以外の日は本件区
画で通常暮らしていた。しかし,平成13年1月15日でタクシー会社を定年退職した
ため,現在では年金生活となっている。今後の生活を考えれば,相当の立退補償
が必要である。
(6)原告らが現在貸店舗を計画している計画平面図によれば,新たに出店する店舗
は本件各土地の東部分にその建築を予定しているし,本件区画の位置は,自動車
の出入りにも全く影響せず,本件区画が残るとしても,駐車スペースのロスは2台
分程度に過ぎない。
したがって,本件区画が残ることにより原告らが被る不利益は最小限度であり,
加えて,被告らの年齢等を考えれば,契約期間20年の出店契約にとって障碍とな
る比重は低い。
これに対し,被告らは,その生活の本拠あるいは生計の場を失うという不利益を
被るのであり,これら両社の被る不利益の度合いを考慮すれば,原告らの主張が
正当事由を具備するものではないことは明らかである。
第3 争点に対する判断
1 上記第2の1の前提事実に証拠(甲1の1,2,甲45の1,2,甲46,甲50の1,甲
53,証人E,鑑定の結果)によれば,次の事実を認定することができる。
(1)旧1101番土地上には,かって,Dが大正時代に建てた本件自宅建物の他に相
当数の借家等が存在したが,このうち借家については老朽化が進んだことなどか
ら,借家人も順次退去するようになり,平成8年ころには,K区画,L区画及び本件
区画を残して全て空き家となった。
このため,原告らは,平成8年ころ,旧1101番土地上の建物のうち,本件自宅
建物を含め,上記3区画以外の全ての建物を取り壊した。
この結果,現在,旧1101番土地上には,本件建物のうち,本件2土地上に本件
区画とL区画が,本件3土地上にK区画がそれぞれ残ったが,このうちK区画とL区
画については,本件和解により,平成14年10月31日限りK及びLが退去し,同年
11月1日以降の比較的早期の段階で取り壊されることが見込まれることから,同
時期以降は,旧1101番土地上には,本件区画と平成8年ころに原告が本件5土
地付近に新築した居宅のみが存在する状態となる。
(2)旧1101番土地は,東西が約40メートル,南北が約30メートルのほぼ整形の土
地であり,その北西部分に隣接する本件6土地を併せると,本件各土地は合計約
1500平方メートルの面積のL字形の土地になる。
本件各土地は,都市計画法上,市街化区域内にあり,用途地域は商業地域(建
ぺい率80パーセント,容積率400パーセント),防火地域又は準防火地域にも指
定されている。本件各土地の南側は幅員30メートル主要地方道白壁猪高線(通称
「出来町通り線」。以下「本件幹線道路」という。)に,その西側は幅員約4ないし6メ
ートルの市道にそれぞれ接している。
本件各土地の近隣地域は,低層の店舗兼住宅,診療所,ガソリンスタンド,中層
の事務所ビルやマンション等が混在する普通商業地域であり,今後,さらに商業ビ
ル,マンション等の建築等に伴い,土地の再開発,高度利用が徐々に進んでいくこ
とが予想される。
(3)本件区画は,大正時代に借家として建てられた5戸の連棟式の木造住宅の一番
西側の区画であり,旧1101番土地の二方が公道に面している南西の角地に所在
している。
本件区画は,建築後80年近く経過しているが,昭和43年ころ,前面道路の拡
張に伴い移設された際に基礎等の補強工事が行われた結果,かなり老朽化が進
んだ状態にあるものの,未だ朽廃には至っていない。
現在,本件区画の2階部分には被告Bが単身居住しているほか,被告Aが,名
古屋市a区の自宅から通い,父親から受け継いだ家業である表具師の仕事場とし
て本件区画の1階部分を使用している。
なお,本件土地は防火地域に該当するため,本件区画は構造上建築基準法の
既存不適格建築物に該当し,増改築や大規模修繕等は困難である。
(4)原告は,現在満66歳であるが,結婚歴はなく,現在,本件5土地付近に建てられ
た建物に単身居住している。原告は,以前から身体が脆弱で,定職に就いた経験
がなく,現在も職を持っておらず,Dの遺産等により生活している。
(5)原告が本件土地により負担する平成13年度の固定資産税及び都市計画税の合
計額は年間約70万円である。
旧1101番土地のうち本件区画,K区画及びL区画の敷地部分と原告の居住す
る建物の敷地部分を除いた土地は,平成8年以降,Mの駐車場に賃貸され,この
間,原告らは,月額金100万円の賃料収入(原告の受領額は月額約16万円)を得
ていたが,Mからの解約申入れにより,平成13年2月末日限りで駐車場賃貸借契
約は終了した。
この結果,現時点において,原告が本件土地により得られる収益は,本件和解
によりLから支払いを受ける月額金1万円の使用損害金と被告Aから支払いを受け
る賃料のみとなっているが,その合計額は,被告Aが供託している月額金1万500
0円の賃料を基準に算定しても年額金30万円に止まるところ,今後,Lが本件和解
条項に従い平成14年10月31日限り退去した場合には,原告の受けられる収益
は被告Aが供託している月額金1万5000円の賃料を基準に年間収益を算出する
と,年額金18万円に過ぎないことから,本件賃貸借契約が継続した場合には,原
告はその収益によっても固定資産税及び都市計画税全額を支払えないことにな
る。
(6)原告ら及びJは,現在,本件各土地を一団の土地として共同利用し,同土地上に
建坪約150坪の鉄骨造2階建の建物を賃貸店舗を建築し,これを回転寿司チェー
ンのPに賃貸する計画(以下「本件利用計画」という。)を有しているが,この計画が
実現した場合,原告らにつき,本件各土地全体で借入金の返済,所得税等を控除
した手残りとして年間約1300万円の安定した収益が予想されるところ,原告ら
は,上記収益を土地の面積に応じて按分して取得することを予定している。
2 上記1で認定した事実によれば,本件土地は社会経済的な観点からは土地の有
効利用が図られているとは到底いえず,本件区画が建築されてから約80年を経
過していること,本件区画の収益性が著しく低いこと及び本件土地の地理的条件
等も併せ考慮すると,定収入のない原告が,安定した生活の基盤を得るために,
本件土地の公道に面する角地にある本件区画を取り壊すことを前提として本件利
用計画を持つことには十分な合理性があるものというべきである。
これに対し,上記認定事実のとおり,被告Aが,Fの跡を継いで本件区画の1階
部分において表具師の仕事を行っていることからすると,被告Aが本件区画を明け
渡した場合には,被告Aの表具師の仕事にも少なからず支障を生ずる結果となる
ことは否定できない。
しかしながら,本件では,被告Aが表具師の仕事により具体的にどれだけの年
収があるか明らかでなく(なお,被告Aは,その本人尋問において,月額2,30万
円の売上げがある旨供述するが,その裏付けとなる具体的な資料に乏しい本件で
は,上記供述は採用できない。),また,本件区画以外に店舗を借りて仕事を行うこ
とが被告Aにとって困難であるとも認められないこと(なお,被告Aの平成13年5月
分の売上げ分の顧客が,いずれも名古屋市a区及び愛知県春日井市に居住して
いることからしても(乙20),名古屋市a区に自宅のある被告Aが本件区画を利用し
なければ表具師の仕事ができないものとは解されない。)からすると,被告Aの受
けることになる上記不利益を考慮しても,原告の本件土地の使用の必要性に関す
る上記合理性は失われるものではない。
さらに,本件区画には,被告Bが年金を受給しながら単身居住しているが(なお,
賃貸借契約の解約申入れの正当事由の判断にあたっては,借家人のみならず,
同居人の事情についても考慮しなければならないものと解される。),
本件区画の周辺や名古屋市a区周辺には民間の借家のみならず,家賃が比較
的低廉な市営住宅を始めとする公営住宅等の賃借物件が相当数あり(公知事
実),一定額の経済負担をしさえすれば被告Bが他に借家を求めることも容易であ
ることに照らして考えると,本件区画からの退去により被告Bが受ける不利益を考
慮しても,原告の本件土地の使用の必要性に関する上記合理性は失われるもの
ではない。
なお,被告らは,本件区画が残ったとしても,自動車の駐車スペースが2台分減
るに過ぎないとも主張するが,本件区画が本件各土地が公道に面した南西の角地
にあることからすると,本件区画が残ることによって全体の土地の有効利用に影響
が出ることは否定できないから,被告らの上記主張は採用できない。
以上によれば,原告の行った本件解約申入れには合理性があるものというべき
であるが,他方,被告A及び被告Bにつき,本件区画の明渡しによって一定の経済
的不利益を被ることもまた否定できず,そうすると,本件区画の明渡しによって受け
る原告の利益と被告Aの不利益を調整するため,原告から借家人である被告Aに
対し,新規店舗及び被告Bの新住居への引越料等の移転実費と新規賃貸借契約
の締結に必要な保証金等の費用について適正な立退料を支払わせることによっ
て,本件解約申入れの正当事由が補完されるものと解される。
ところで,原告が,被告Aに対し,本件訴訟提起にあたって金150万円又はこれ
と格段の相違のない範囲で裁判所が相当と認める立退料の支払いを申し出たこ
と,さらに,平成13年4月20日の本件口頭弁論期日において鑑定により算定され
た立退料金229万9000円の支払いを申し出たことは当裁判所に顕著であるとこ
ろ,これら事実に上記認定の被告A及び被告Bが本件区画の明渡しにより負担す
ることが予想される費用等を考慮すると(なお,被告Cについては立退料の支払い
を行う必要性は認められない。),原告が被告Aに対し,金250万円の立退料を支
払うことによって,本件賃貸借契約の解約申入れについての正当事由を具備する
ものと認めるのが相当である。
なお,本件では,本件解約申入れの時点において借家法1条の2に規定する正
当事由が一応存在していたものと解されるところ,その後,正当事由を補完するた
めに立退料の申し出が行われ,それにより正当事由の補完が認められた場合に
は,当初の解約申入れにより解約の効力が生じたものというべきであるから,本件
でも,本件賃貸借契約は,本件解約申入れから6か月後の平成12年7月22日の
経過によって終了したものということになる。
3 原告は,本件区画の賃料相当損害金につき,月額金2万5000円を主張するが,
本件全証拠によっても,本件区画の賃料相当損害金が月額金2万5000円である
ことを認めることはできないところ,本件において,被告Aが平成10年10月以降,
本件区画の賃料として金1万5000円を供託していることからすると,本件区画の
賃料相当損害金の額は,少なくとも上記供託額と同額の金1万5000円を下回ら
ないものと解される。
4 以上のとおり,原告の本訴請求は,主文の限度で理由があるからこれを認容し,
その余の請求は理由がないからこれを棄却し,仮執行宣言については相当でない
からこれを付さないこととし,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第10部
裁判官    鵜飼祐充

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